眩しく光る四つの太陽(後編)

眩しく光る四つの太陽(前編) ◆TDCMnlpzcc



   *            *            *


「さて、と。色々あったようですね」

 道具であふれかえった床の中、座る場所を失くして、文は壁にもたれかかる。
 支給品に混じって、同じく支給品であるサニーミルクは、疲れ切って眠っているようだ。
 早く日が昇れば回復できるのだろうが、外はまだまだ暗い状態だった。
 文は、壁の反対側で、困ったように床を見つめるお空を眺めながら、考える。

 ずいぶんとため込んでいたものだ。
 中には随分と有用そうな道具も含まれている。
 ゆっくり調べる時間がなかったのか、それとも調べるという発想に至らなかったのか、おそらく後者だろうと文は踏んでいた。
 もっとも、これだけの支給品、遺物を集める苦しさと辛さを考えると、あまり馬鹿にする気は起きなかった。

「まあ、これは使えそうだ」

 妹紅が箒を手に取って、言った。何処かで見たことのある箒が手の中で揺れる。
 主催者の手で飛行機能が付け加えてある、とのことらしい。
 飛ぶことにも制限が課せられているため、移動に際して重宝するであろうことは間違いない。
 なにより足を使わずに済むのは、足を怪我している妹紅にとって、渡りに船なはず。


 さて、意識を手元に戻そう。
 やっかいなレーザーを撃ち続けていた宝塔。役に立ちそうな武器だったが、一つ問題があった。
 手を叩いて二人の注意を引き、手元の宝塔をかざす。

「一つ分かったことがあるのですが、この宝塔は、私には使えないようです」

 光を失い、沈黙したその姿は、十六夜咲夜が使っていた時とは全く違う。
 二人の視線がこちらへ向けられ、困惑の表情に変わった。

「えっ?私は使えるわよ」

 お空が驚いたように言う。
 試しに手渡すと、その手元はたちまち光に包まれた。
 不思議なこともあるものですね。私は驚きつつ、妹紅にも渡すように頼んだ。

「私も使えないみたいね」
「そういえば、チルノも使えなかったわ」

 私と同じく、宝塔は何の反応も示さない。
 妹紅は手を当てながら、不思議そうにそれを眺める。続いてお空が、チルノも使えなかったことを伝えた。
 さて、いったいどういうことか。好奇心が頭をもたげる。
 しばし、目をつむって考える。


 私には使えない宝塔。確かに、マジックアイテムには使用者を制限するものがある。
 この宝塔からは途方もない“格”を感じる。さぞ素晴らしい力、感性を持った者が使っていたのだろう。
 そのようなものを扱う資格が自分にはない、そう判断するのは天狗として悔しいものがある。
 特にあの十六夜咲夜が使っていたのだから、悔しさも倍増というもの。

 十六夜咲夜、霊烏路空、その共通点はなんなのだろう。
 分かれば、自分にも使えるようになるのかもしれない。

 とはいえ、宝塔がもっている力の大きさを考えれば、あれを使うことにためらいを感じるべきかもしれない。
 お空に宿る八咫烏の力には及ばないものの、あの宝塔は十分大きな力を持っている。
 それを使いこなせるのか、体が耐えられるのか、私には自信がない。
 お空の身に変化は見られないようだが、何かあったときは宝塔を彼女と引き離す必要があるかもしれない。
 いや、それは杞憂だろうか?

 あの八咫烏を体に取り込んでいるのだから。宝塔ぐらいでどうにかなるようなことはないはず。
 不安の芽を無視して、心の引き出しへと仕舞い込む。 

「まあ、それはお空さんが持っていてください」

 一つの物品を検証するのに、あまり時間をかけるわけにはいかない。
 出来るだけ早く忘れましょう。使えない道具に興味を持つ余裕はないのですから。
 自分で言い聞かせて、先の考察を記憶の片隅に追いやった。そして、床に散らばる道具へと意識を向ける。


 近くに寄せてある、スキマ発生装置。しばらく使えないらしいが、いざ使えるとなれば、切り札にすることができる。
 気質発現装置は地味だが、うまく使えば環境を自分に適した状況へと変えられる。
 使いこなせば、吸血鬼を雨で倒すことができるはずだ。もっとも、先だっての異変と違い、変わる天候はランダムらしい。
 少しギャンブルになるのは良くないが、一度試してみるのも手だろうか?

 そして、ノートパソコン。中身はまだ見ていないが、外の世界の演算機らしい。
 残念ながら自分には使えない。ただ、使える者に手渡せば、何らかの役には立つだろう。
 十六夜咲夜からの戦利品、片眼の暗視装置もまた、床に転がっていた。夜が明けるまで、または暗闇を見るときに利用できる。

 そして、面白そうな支給品が一つ。いや、有用的な支給品と言い換えたほうがいいかもしれない。
 首輪探知機。三妖精の一匹、スターサファイアの能力を首輪限定にした程度の物らしい。
 だが、この環境下ではどんな武器よりも役に立つはずだ。これと光学迷彩を合わせれば、どんな敵からも逃げられる。


「この武器も、まだしばらく使えそうだ。予備の弾がある」

 妹紅が話しながら、弾を込めている。
 銃火器は武器として、とても優秀だ。卑怯とさえ言える、人の手から産み出された、速く強力な弾幕。
 一部の河童などは面白い、などとも言うが、とんでもない。
 汚らしい人間の欲望の産物。まあ、身を守るためなら、心強い味方となるのは確かだろう。

「ねえ、文」
「なんですか?」
「その機械、何ができるの?」

 お空が不思議そうな顔でこちらに尋ねた。
 見つめる先にある携帯電話を眺め、私は顔をしかめた。
 あまり見たくない、使いたくない道具だったからだ。


 情報を手に入れる手段として、私個人としては受け入れられる。
 だが、今頃はお空の主人、古明地さとりの遺体も、ほかの写真と一緒に記載されているだろう。
 それを見たときに、お空がどういった反応をするかが不安だった。

 正直言って、お空は不安定だ。古明地さとりから始まり、今ではチルノの後を追いかけている。
 妖怪としても成熟しきっておらず、常日頃から、行動が迷走することも多い。
 もっとも、あまり頭がよすぎても、それはそれで不安要素になるのだが…

 難しい、私は少し怯えすぎているのだろう。もう少し、信頼すべきなのかもしれない。
 だが、背負うものは昔と比べて大きくなりすぎた。
 仲間をできれば全員、生かして帰したいのは、お空も一緒のはずだ。
 それでも、慎重に慎重を期して。

「携帯電話です。遠くの方と連絡がとれます」

 嘘をついた。実際、あまり使いたくなかったのも真実なのだ。
 さとり妖怪の死体が、また、ほかの死体が与える影響を考えると、少し憂鬱であり、文自身も死体を嬉々としてみる趣味はない。
 また、この念写を使えば、先ほど埋葬した二人の姿も見ることとなるのだろう。
 やはり、気乗りはしない。
 もうすぐ放送で死者の名前が分かるということも、この判断を後押しした。

「使えないのかな?」
「電話やメールには送る側と受け取る側が必要なのだそうです」

 他人の受け売りだが、そう説明する。
 電話機能を使ってみようとしたことはあったが、掛ける先が分からなければ意味がない。
 こういった道具は、一つだけでは無価値なのだ。

「なるほどね。分かったよ」

 嘘を言ったのは心苦しかったが、真実を言ったところで大したメリットはない。
 これは裏切りではなく、ただの配慮です。
 私は心の中で、そうつぶやいた。


「さてと、色々出揃ったところで、先ほどの話に戻るわよ」
『首輪をどうにかするのに、役立ちそうな道具は新たに見つからなかった』

 妹紅が残念そうな顔をして、そう書いた。
 いや、実際には首輪という、解体のための必須アイテムは見つかったのだが、今すぐ役に立つことはなさそうだ。死者の首から回収する手間が省けたのは助かる。
 この首輪と、三妖精についている首輪の違いを調べてみれば何かわかるかもしれない。

 話には出していないが、私たちの首輪以外に、サニーミルクの首輪も外してやらなければならないのだ。
 ぱっと見ただけでも、機能や構造に違いがある。少しかわいそうだが、声を封じる機能などには、面白い仕掛けがありそうだ。
 一度、色々と確認しなければならないだろう。それがこちらの首輪解析にもつながるかもしれない。
 そんな私の考えも知らずに、当の本人は寝息も立てず、静かにしている。


「これから、どうするかという話だったね」
『首輪は、合流した後でもいいわよ。それより、早く出発しよう』

 お空が、少し急いた感じで書きなぐる。
 それにしても、元気が有り余っている雰囲気だ。精神的にも疲れているだろうに、霊力が尽きる気配がない。
 私は怪しみを含んだ目で、彼女の抱える宝塔を見つめた。

 とはいえ、雑音は少なくしよう。
 一つ、私はアイデアを持っていた。

「妹紅さん。調子はどうですか?」
「私は、だいぶ回復してきたよ。移動には箒を使えば大丈夫だから、問題はない」

 とはいえ、と続ける。

「それでも文とサニー、二人が移動できる状態ではないことなんて簡単にわかる」

 確かにそうだ。もっとも、しばらく安静にしていたおかげで体調はずいぶんとよくなった。
 だから、一つ思いついたのだ。

「ええ、そこで一つ提案です」
「提案?」
「ええ、私とサニーはここで待機します。皆さんはスキマ妖怪たちと合流しだい、こちらへ誘導してきてください」
「それはいいのだが……」

 私の発言に、妹紅が顔をしかめた。

「お前たち二人はどうする気だ?」
「回復を待ちます。今お二人と一緒にいたところで、足手まといにしかなりませんから」
「私たちにお前らを見捨てろと?」

『どうせ、首輪をばらすため、皆で集合となれば、エリアの中央であるここが一番です』

 あきれたようにつぶやく妹紅に、紙を見せる。
 だが、この程度で納得してもらえるとは思えない。

「本当はお空さんだけで行ってもらってもいいのですが、さとりさんは最期に、お空さんをあなたへと任せたはずです」
「最初から、みんなで回復を待っていればいいじゃない」

 ぬっと口を曲げて、反論する。
 だが、こっちにも返す言葉がある。

「まず、私にはサニーがいます。他にいくつかの支給品を預からせてもらえれば、身の安全は確保できます」

 さらに、勢いよく言う。

「そして一番に、足手まといになりたくない。これ以上迷惑をかけたくないのです。
 多くの危険人物を見過ごし、今まで悲劇に関して、私には責任があります。そして、今ここで皆さんが動いてくれなければ、新たな犠牲が出るかもしれない。
 生存者は残り少ない。できるだけ早く、互いに意思疎通を行うべきです」

 これが本心だ。もう、面倒をかけたくない。
 それは天狗としてのプライドにも関わるものでもあり、
 私個人の心としての問題でもあった。

 しばらく前の情報交換。聞いていて思ったのは、自分の逃した危険人物がこうも多かったのだということ。
 見逃した博麗霊夢は、多くの人妖を屠り、今も敵として立ちふさがる。
 会って話した比那名居天子は、その後にお空とチルノの仲間を殺した。
 あの廃洋館で目にした、リリカ・プリズムリバーへの拷問、
 それを行っていた十六夜咲夜はチルノを殺した。
 そして、その場に居合わせたレミリア・スカーレットに、無残な目にあわされ、仲間も殺されたのは私だ。

 浮ついていたとはいえ、最初から正義感を働かせていた目の前の二人と自分は違う。
 だから、これ以上邪魔をしたくなかったのだ。

 そう、私は彼女たちに先へと進んでほしかった。
 こんな悪夢、いち早く終わってほしかったから。



「そんなわけには、いかないよ」

 お空が、口を開いた。
 その眼は、少し怒っていた。

「傷ついた仲間を放りだして、どこかに行けるわけがないでしょう!!」

 彼女なら、そういうだろうと思っていた。お空に不安を抱いた自分が、馬鹿みたいだ。
 この娘は信念を貫き通し、その時こそ真価を発揮する。そう言った妖怪だ。

「それでも、行ってください」

 説得できるのだろうか。ふと不安になった。
 そこで、なぜ自分がこうも二人と離れたいのかが、少しわかった。

 二人は、まぶしすぎるのだ。
 射命丸文にとって、二人はまぶしい太陽のようだった。
 私には信念が足りていないのかもしれない。でも、長年の積み重ねを、こう簡単に変えられるわけがないのだ。
 あまり付き合いのなかった者達を、いきなり信頼できるようになれるわけがない。仕方がないことだ。
 休むことで、かえって増した疲れが、私を悪い方向へと引きずり込む。

「思うところがあっての発言なら、私は従ってもいいよ……」

 まず、妹紅が折れた。
 しかし、何も条件を付けずに引くはずがない。

「サニーミルクの意見を聞かせてもらえないかな?サニーも立派な当事者だから」

 三人の目が、床に寝転がるサニーミルクへと向けられる。妹紅の発言の直後、その体がピクリと動いたことをだれも見逃していなかった。
 もっと言えば、度々薄目を開けて、こちらを覗き見ていたことも皆把握していたはずだ。
 いつから起きていたかは知らないが、ここまでの話は聞いているのだろう。

「わ…わたしの意見?」

 サニーは飛び起きて、眼をしばたいた。眉間にしわを寄せ、知恵を絞りだす。
 とはいえ、彼女は私と同じ、回復を目指したい立場のはず。

「ここに残りたいかな。何となく、あまり歩きたくないから」

 帰ってきたのは子供っぽい感情論。
 だが、立派な意見であることには変わらない。

「私とサニーも回復次第、人里の中を確認します。必要な道具などを確保できるかもしれませんから」
「ぬぬぬ」

 押し切られる形で、お空も折れた。
 地底の地獄烏に身を守られる烏天狗。そんな役回りはごめんですから。

「それでは、この床に散らばる品々を分配しましょうか」

 いち早く携帯電話を回収して、私が言った。

   *            *            *


「あ、ちょっと待ってください」

 箒を出して、蔵の扉を開け放ち、さあ、出ようという時になって、文が急に呼び止めた。
 お空と妹紅は、足を止め、振り返る。

「写真、撮りませんか?」
「カメラなんてなかったよね」

 妹紅がすかさず、言い返す。
 ふっふっふ、と笑いながら、文は携帯電話を取り出した。

「どうやら同業者が使っている携帯らしく、写真撮影機能もあるのです。せっかくだから、使いましょう」
「いや、写真はちょっと……」
「私はいいけれど。あまり撮られる機会もないものね」

 お空は喜んで提案に乗った。

「かっこいい私の姿を収めるいい機会よ。派手に撮りなさい、ブン屋」

 ちょっとポーズを決めてみたりする。
 地底には最新式のカメラなんて滅多にこないのだから、こんな風に撮られるのは、初めての機会である。
 興奮もしてくるものだ。

 一方の妹紅は少し乗り気じゃない。まあ、状況ゆえに、正しい対応かもしれない。

「私も撮ってもらいたい。私もきちんと撮りなさい!!」

 しかし、サニーミルクの一声で妹紅もあきらめたのか、肩を落とした。

「ま、変な気を起こさないこと。それだけは守ってね」
「起こしませんよ。ただ、帰ったら記事に使うだけです」
「それを変なことって言うと思うけれど…まあ、いいわ。早く撮って頂戴」

 文は都合のいい塀を見つけて、その上に携帯電話型カメラを置いた。
 お空はどういう顔をすればいいのか迷い、固まった。写真にとられる機会なんて、ついぞなかったからだ。
 いざ撮るとなると、緊張する。

「笑顔、笑顔。あと、真ん中空けといてください。私が滑り込みますので」

 うーん、うまく笑えているか分からないけれど、笑ってみる。
 チルノだったら、どんな風に撮られるのか。一度聞いておきたかったな、最強をアピールする写真術。

「10、9、8―――」

 気構えする前に、文がカウントを始めた。
 あわてる私たちとは裏腹に、文は冷静に滑り込む。

「―――3、2、1、笑って」

パチリ、

 想像していたよりも、軽い音を鳴らして、カメラが光った。
 一気に気が抜けて、へたり込む。
 カメラって、こんなに緊張するものだったのね。


「んー、使い慣れないカメラだとこんなものか。私のカメラはいったいどこにいったのでしょう」

 文が画面を見ながら愚痴る。緊張をほぐすかのように、妹紅が箒をもてあそぶ。
 文の後ろに寄ると、私は頼みごとをした。

「その写真、あとでもらえるかな?」
「ええ、分かりました。にと……山の河童たちに頼んでみます」
「ありがとう」

 いい経験だった。結果的には、皆の緊張もほぐれた気がする。感謝の言葉を、躊躇なく口にすると、文が照れたように頭をさすった。
 本当は物品で返したいが、写真を撮ってくれたお礼に、渡せるものなんて考え付かない。

「文、無事帰ったら、私にも現像してくれないか?」
「いいですよ。そうだ、帰ってきたら伝えたい話があります。覚えておいてください」
「ああ、今は話せないのか?まあ、期待しておく」

 向こうで二人が何か話している。
 何の気なしに左手をさすり、私はあるものを思い出した。ずっと肌身離さなかったもの、これは贈り物になるだろうか?

「ちょっと待って、良いものあげるわ」

 文の困惑した顔に、私はそれを突きつけた。




「じゃあ、行ってくるから。絶対に死ぬな」
「それ、絶対に無くさないでよ」

 箒にまたがり、宙に浮く。
 おっとっと。バランスを取るのは大変ね。
 普段は羽で飛んでいることもあって、こういった乗り物は得意じゃない。


「そちらこそ、放送で呼ばれでもしたら怒りますよ」
「戻ってきてきなさいよ。絶対に」

 蔵の外まで見送りに来ていた、文とサニーミルクが手を振っている。
 文の手に、リボンを確認して、お空は微笑んだ。風に揺れ、顔にかかる髪を払いのけ、視界を確保する。
 東の空、少し明らみはじめた地平線へと向き直った。

「さて、安全運転で頼むわね」

 後ろで妹紅が身を震わせた。
 先ほどから揺れに揺れている、箒の乗り心地は最悪だ。

「では、出発!!」

 たん、と軽く足で地面を蹴り、前に進めと念じた。
 一瞬で体が後ろに持って行かれる。
 速い、とっても速い!!
 箒はとんでもない速度で空を飛ぶ。髪がばらばらに散り、さっと後ろで収束するのを感じた。


「おい、馬鹿。曲がれ、高度を上げろ!!」

 速い分、制御は大変だ。蛇行飛行をしながら、時々軒並みをかすめて妹紅の心臓へ負担をかける。
 まず、慣れていない人間は、箒にまたがり、バランスを取るだけでも大変なのだ。
 そして、それを高速で行うということは……

「なんか、気持ち悪くなってきた」

 度重なる遠心力の波に、妹紅の胃が悲鳴を上げる。
 後ろで吐かないでよ。と思いながらも、私も少し気分が悪くなってくる。
 最後の仕上げに急カーブ、急停止をして、人里上空で箒を止めた。

「いい眺めね」
「それには同意するが、もう少し優しく止まってくれ」

 速く飛ぶのは気持ちがいい。少し妹紅には悪いが、これくらい早い方が、いい気がする。
 ここからは全てが見下ろせる。
 あちこちに残された戦いの跡、そして―――そびえたつ城、主催者の本拠地。

「絶対にあんたにぎゃふんと言わせてやる!!その首洗って待っておきなさい!!」

 ここから届くとは思えないが、大声で叫ぶ。
 ふー、満足した。
 肩にかかる髪を、かっこよく振り払う。


「ねえ、お空」
「なーに?」
「この速さだと、博麗神社までならすぐに着ける。ちょっと寄り道してもいいかしら」
「いいわよ。最強の移動兵器『クリーンスイープ五号』がどこにでも連れて行ってあげるわ!!」

 あきれる妹紅を無視して、私は箒を急転換させた。
 後ろで、妹紅が胸を押さえる。

「目的地に着くまでは、吐いちゃだめよ」

 私は慌てて言った。
 無理言うなよ、後ろで妹紅がつぶやくのが聞こえた。


【D-3 人里上空 二日目早朝】

【霊烏路空】
[状態] 全身に火傷。深い傷ではない
[装備] 宝塔、魔理沙の箒(二人乗り)、左腕にチルノ・メディスン・お燐のリボン 
[道具] 支給品一式(水残り1/4)、チルノの支給品一式(水残り1と3/4)、洩矢の鉄の輪×1、ワルサーP38型ガスライター(ガス残量99%)、
    萃香の分銅●、燐のすきま袋、支給品一式*4 不明支給品*4
[思考・状況]基本方針:『最強』になる。悪意を振りまく連中は許さない
1.必ず帰る。
2.チルノの意志を継ぐ
3.巫女、吸血鬼、さとり様を殺した奴(小町)をブッ飛ばす。

※チルノの能力を身につけています。『弾幕を凍らせる程度の能力』くらいになります。
※第四放送を聞き逃しました(放送内容に関しては把握)
※髪のリボンを文に移譲

【藤原妹紅】
[状態]腕に切り傷(治癒中)、左足に貫通射創2ヶ所(治癒中) 、少し乗り物酔い
[装備] ウェルロッド(1/5)、フランベルジェ、
[道具] 基本支給品×3、光学迷彩、萃香の瓢箪、ダーツ(24本)、
    ノートパソコン(換えのバッテリーあり)、にとりの工具箱、気質発現装置、橙の首輪、スキマ発生装置(二日目9時に再使用可)
[基本行動方針]ゲームの破壊、及び主催者を懲らしめる。「生きて」みる。
[思考・状況]
1.閻魔の論理は気に入らないが、誰かや自分の身を守るには殺しも厭わない。
2.さとりを殺した奴、にとり・レティを殺した奴を許さない。
3.博麗神社で早苗たちとの合流を目指す。

[二人共通]
※文、妹紅、空、サニーミルクで情報交換しました。
※基本、博麗神社へと向かいますが、それ以前にどこかへ寄るかもしれません。
※はたてのカメラの念写機能については把握していません




「さて、行きましたか」

 後に残された文とサニーミルクは、手を振りながら、明るくなってきた空を見守る。

「んー、良い太陽ね。体が生き返るわ」

 サニーは体を器用にひねりながら、その身を太陽にさらした。
 日が当たったところの傷が、徐々に回復していく。

「うらやましい体ですね」

 考えてみれば、支給品がそう簡単に壊れては仕方ないのだろう。
 高い回復力が制限されずに残っているのは当たり前だ。

「あ、ちょっと待って」

 光のカーテンが二人を覆う。見つからないように、サニーが光を屈折させたのだろう。
 とはいえ、本調子というわけではなさそうで、また、光を取り込まないわけにはいかないため、きちんと隠れているとは限らない。
 安心するにはまだ早い。

 この戦場では、休める場所なんてどこにもない。
 家でゆっくり休みたい。妖怪の山の自宅が、どうしてか恋しくなった。
 柄にもなく、ホームシックですか。
 私は左手のリボンを押さえて、ため息をついた。

 そう、このリボン。出かける直前、お空が自分の頭から外して渡したものだ。
 いったい何のまじないなのか?
 疑問を口にしたが、お空はなにも返さなかった。

 だが、着けてから時間が経つと、この左手を締め付ける感触が心地よい。
 常に、仲間がそばにいる気分。
 私は少し、お空に感謝していた。
 張りつめた精神を、安心させてくれるこのリボンは、今の自分に合った最高のプレゼントだった。
 改めて、死体念写の情報を伝えなかったことを少し後悔する。
 帰ってきたら、きちんと伝えよう。そのころには皆、落ち着いているはずだ。


「絶対戻ってきなさいよー!!」

 サニーは遠くに見える二人へ、まだ手を振り続けていた。
 もう聞こえないだろうに、しかし、その大声を出す姿が気持ちよさそうで、私も思わず真似したくなった。

 一体これからどうなるのかは分からない。
 でも、自分も周りの皆のように、力を合わせて突き進もう。もう、後悔なんてしたくない。
 そして、主催者の男を叩きのめしてやるのだ。


「私を敵に回したこと、絶対後悔させてやる!!」

 私も、出てきたばかりの太陽に向かって、そう叫んだ。


【D-3 人里 二日目早朝】

【射命丸文】
[状態]重症 (骨折複数、内臓損傷) 、疲労小
[装備]サニーミルク(S15缶のサクマ式ドロップス所有・満身創痍・回復中) 、左腕にお空のリボン
[道具]支給品一式、胸ポケットに小銭をいくつか、はたてのカメラ、朱塗りの杖(仕込み刀)、首輪探知機、個人用暗視装置JGVS-V8、
    アサルトライフルFN SCAR(20/20)、FN SCARの予備マガジン×1、小銭たくさん、さまざまな本、水鉄砲、包丁、折れた短刀、ヴァイオリン、博麗神社の箒
[思考・状況]基本方針:自分勝手なだけの妖怪にはならない
1.体を回復させた後、人里の探索を行う
2.無事に帰ってきたら、はたてのカメラについて話す
3.皆が楽しくいられる幻想郷に帰る
4.お空の宝塔に少し興味あり

※文、妹紅、空、サニーミルクで情報交換しました。
※はたてのカメラに文、妹紅、空、サニーミルクの四人が映った写真が保存してあります。

※チルノ・十六夜咲夜の死体が人里のどこかに埋められています(チルノの墓に手錠の残骸と手錠の鍵が入っています)



179:眩しく光る四つの太陽(前編) 時系列順 182:流星雨のU.N.オーエン
179:眩しく光る四つの太陽(前編) 投下順 180:赤より紅い夢、紅より儚い永遠
179:眩しく光る四つの太陽(前編) 霊烏路空 183:……and they lived happily ever after.(序章)
179:眩しく光る四つの太陽(前編) 藤原妹紅 183:……and they lived happily ever after.(序章)
179:眩しく光る四つの太陽(前編) 射命丸文 :[[]]


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最終更新:2012年08月20日 16:57
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