Spell card rule/命名決闘法 ◆TDCMnlpzcc
「それでは、こちらから行きますよ!!」
東風谷早苗は叫び、右手を高く上げた。小野塚小町は少し離れたところから、早苗の手を見つめる。
「奇跡「白昼の客星」」
宣言と同時に、その手から青色の弾とレーザーが放たれた。対する小町は足に力を入れた。
夜の人里、その屋根の上で二つの人影が踊っている。
普段なら自由に空を飛びまわり、速さと華麗さを競う弾幕ごっこだが、制限のかかった現状、二人は滅多に飛ぶことはなく、ほとんど平面での弾幕ごっこを余儀なくされていた。
それでも、弾幕ごっこをするには十分だ。民家、寺小屋、木、使える物は何でも使い、弾幕を張り、避ける。
大小二つの弾とレーザーを屋根から屋根へと飛び移り、小町はかわした。
顔のすぐ横を抜けたレーザーが、通りの軒にぶつかり、軽い音を立てて消滅する。
見た目は派手だが、威力は普段より控えめ、この殺し合いの空間で、幾度も見た弾幕とは比べ物にならないくらい平和な攻撃。
でも、それが本来の日常だったはずだ。今でこそ違和感を覚える平和な争いも、もともとはいつものやり取り。
たった一日で変わってしまった周囲の常識に驚きながら、小町は腕に力を集中させた。
「さて、反撃をしないとね」
死神の手元で弾が作られ、勢いよく放たれる。
こちらも、いつもとおなじ、人間に当たってもケガをしない程度に抑えた緩い弾幕だ。
相手への配慮と同時に、妖力の減りも抑えてくれる、一石二鳥な弾幕。青と白の奔流の中、目標に当たったかは分からない。確かめる暇もない。
次の弾とレーザーが小町を貫こうと、舌を伸ばす。
また、小町は高く飛び、別の屋根へと飛び移る。カリカリと音を立て、弾をかすめた服の裾が、はじけ飛ぶ。
応戦して、再び攻撃を仕掛ける。弾きだした攻撃は、また、弾幕の海へと潜っていく。
「どっちも派手だなあ」
少し離れた通りの中央、どちらの動向もよく見えるその場所で、
フランドール・スカーレットが二人の荷物を守りつつ、見守っていた。
どちらが勝っているかはよく分からない。流れ弾を手で弾きながら、フランドールは目を細めて、戦いの行方を探る。
小町が屈んだ瞬間、その上を弾幕が通過した。一瞬できた余裕を使い、遠くにいる吸血鬼を見て、目を細める。
たとえば、だ。もしもあの吸血鬼が裏切り、銃を向けてきたらどうなる。
彼女の手元にはここにいる二人を殺しても余るだけの武器がある。弾幕ごっこに興じる二人など、格好の的だろう。
もし、自分なら、撃つ。躊躇はするかもしれないけれど、撃つ。
ついさっき、早苗たちに牙を向こうとしていた自分が、本当にこんなことをしていていいのかと、ふと疑問が頭に浮かぶ。
こんなことをしている間にも、時間は過ぎていく。八雲紫についていくのか、いかないのか、選択するとすれば今しかない。
弾幕をよけるふりをしてフランドールに近づき、銃を奪えば、後は丸腰の二人を撃つだけだ。
「開海「海が割れる日」」
早苗が新たなスペルカードを宣言し、先ほどとは別のパターンで、弾幕が押し寄せる。
包むように現れたレーザーを紙一重でよけながら、小町は遠くをうかがう。
視線の先には、眼を見開き、こちらを睨みつける早苗の姿があった。
見たくない。そんな恨みがましい顔など見たくない。
自分は、幻想郷のためという理由をつけて、たくさんの妖怪を屠ってきたのに、まるで今そのおこがましさ、非道さに気付いたかのように体が震える。
あたいを責めるな。あたいは正しいと思って、全体のために頑張ってきた。
八雲紫と出会い、その周りの面子と触れ合ったせいか?
映姫様と出会い、その死を見てしまったためか?
生じた迷い。それにメスを入れるように、早苗は小町を睨み続ける。
空虚な怒りが、切り開かれた心の隙間から小町に流れ込む。
腕をかすめるように赤い弾が連なって通り過ぎた。小町は慌てて後ろへ飛びのく。
続けて襲ってくる弾幕をうまく切り返すのは難しい。気付けば小町はレーザーの海に押し付けられていた。生ぬるい熱が背中に伝わる。
「まずい、みたいだねぇ」
ボムを使うしかないか?眉をしかめて、懐に手を入れる。
突如、ピタリと弾とレーザーの嵐が止んだ。タイムオーバーか?いや、それには早い。
気付かないうちに、地道な攻撃が効いていたらしい。
元通りの暗さを取り戻した民家の屋根で、早苗が手持ち無沙汰に空を見上げていた。挑発するかのように、その力の抜けた手が揺れる。
「なら、次はあたいの番だね」
気分を高揚させるため、わざと大声で叫ぶ。
小町は手元のカードを見て、うなずいた。
「死歌「八重霧の渡し」」
宣言とともに、手元から金銀の弾幕が生成される。
今日は銭の持ち合わせがないため、不完全なものとなっているが、今の自分はそのくらいの方がいい。
こちらに寄ろうとする早苗をレーザーでけん制しつつ、弾幕で薙ぎ払う。
避けにくいだろうに、早苗は地面、屋根と飛び移り、的確にかわしてゆく。センスのある子だと、小町は素直に感心した。
反撃のショットに顔をゆがませつつ、弾幕の威力を調整する。
「小町さん」
弾のカーテンの向こう、思っていたよりも近い位置から早苗の声が響いた。
小町は無視して、弾幕に集中する。
「どうしてあなたが皆を、諏訪子様を殺したのかは聞きません」
「・・・!?」
声と同時に、カーテンを突き破って、早苗が小町の前に姿を見せた。
手を伸ばせば届きそうな距離に現れた早苗に、驚き、弾幕が乱れる。慌ててレーザーで迎撃すると、その姿は再び掻き消える。
「でも、あなたがこれからどうすべきなのかは、問わせてもらいます」
タイムオーバーだ。
「古雨「黄泉中有の旅の雨」」
次のスペルカードを宣言して、目を細める。開いた隙間から、遠くで飛び跳ねる早苗の姿が見えた。
撃ちだされた弾幕が、早苗の足元を打ち据え、瓦を打ち壊す。
苛立ちで、威力の調整がおろそかになっていたことに気付き、小町は急いで、雑念を払う。
「小町さん!!聞いてください!!」
いや、違う。無視しているのは雑念ではなく、早苗の訴える声だ。
ひたすらに、早苗の叫ぶ声が聞きたくなかった。聞いてはいけないと思った。
不快な、情に訴えてこれからの計画を滅茶苦茶にするような言葉が飛び出すと思ったから。
「あなたはいまさら引き返すのが嫌で、もう後戻りなんてできないと思って、同じ道を進みたがっているだけです。
無責任です。責任を取りたくないから、今の道を選んでいるのです!!」
もうわかっていたはずなのだ。もう手遅れだった。八雲紫は集団を作り、脱出へと手を進めている。
それ以前に、古明地さとりも集団を束ね、仲間を助けようと動いていた。
賢者を助けると嘯きつつ、その賢者の意に沿わぬことをしてきたのは誰だったか。はじめから、誰にも歓迎されなかったのだ。
たった一人だけの生き残りを目指して、行動したところで、賢者はその行為を無駄だと判断しただろう。小野塚小町の殺人の先に、未来なんてなかった。
そして、この終盤でこのような集団ができる、その時点で、自身の計画すら崩れ始めているのにも目を背けていた。
「じゃあ、どうすればいい。あたいはこれからどうすればいい!!」
本当は、小野塚小町にはもう打つ手がないのかもしれない。
あきらめるのはいやだ。あきらめたくない。その思いの結果、導き出した打開策が、優秀で重要な一人を生き残らせるという考え。
それを打ち砕かれたら、次にどう動けばいいのか分からなくなる。
本当に怖いのは、自分が何をすればいいのか分からなくなること。
ただの死神として、川渡しをしていた時は感じなかった恐怖。
「小町さん」
気付けば、小町のスペルカードは破られていた。カラカラと崩れる瓦が、小さな音色を奏でている。
「私たちと一緒に、行動しましょう」
なぜか、泣きそうな顔をして、早苗がこちらを見つめていた。
だが、よく見ればその表情は悲しみではなく辛い何かを押さえる、苦しみの表情だった。
ああ、早苗は、自分のことをまだ許していない。そして、その感情を押さえて、説得しようとしている。小町には簡単に分かった。
このような魂は、今までに何度も見てきている。何か不幸にあって亡くなった三途の川の乗客は、たいていこういう顔をしている。
何を怨めばいいのか分からず、困惑しているのだ。
一瞬生まれた“逃げ”の感情で、思わず後ろに一歩下がる。だが、その先には、あるはずの足場がなかった。
「え?」
スッ、空ぶった右足が宙に浮く。足場を失った体が宙に投げ出される。
ドサッ
「・・・・ッ!?」
大した高さで無かったのが幸いして、足で着地することに成功した。
だが、改めて立ち上がろうとして、小町は足の痛みに気付いた。無理な着地で、どこか痛めたらしい。
「大丈夫?」
戦いが終わったことに気付いたフランドールが駆け寄って、不安そうな目で見つめる。
忌々しげに首を振り、小町はもう一度足に力を込めた。
「・・・・・・ッ!!」
今度は、先ほど以上の痛みが、右足を襲い、バランスを崩して再びしりもちをつく。
気が付くと、目の前に早苗が立っていた。どこか複雑に感情が混じった視線が、無遠慮に突き刺さる。
もう、逃げられない。
「小町さん」
早苗は、静かに言った。
「私たちと一緒に、戦ってくれませんか?」
小町は何も言わず、押し黙っていた。まず、答えるべき言葉が思い浮かばなかった。
自分のこれから進む道を、選択することすら、したくなかった。
結局、正しい道を選ぶことができないことだけは理解できていたからだ。
しばらく沈黙した後、小町は顔を上げた。心配そうに見つめる吸血鬼と、こちらの発言を待ち、表情を硬くする巫女もどき。
辛気臭くていけない。自分が作った空気であることを無視して、苛立つ。
いつまでもこちらの返事を待つつもりらしい早苗にため息をつき、小町は口を開いた。
「早苗。あたいが保護しようとしている面子の中で生き残っているのは、博麗の巫女と八雲紫の二人だけだ。
もし、この二人が結託するようなら、あたいは喜んで力を貸すよ」
まあ、そんなことはないだろうけれど。吐き捨てるようにつぶやき、小町は続けた。
「もし、最後に二人のうちどちらかが生き残ったのなら、残った方に従う。
幻想郷のキーパーソンに従うあたいの方針は変わらない」
それから、と気まずそうに顔を背けて続けた。これはある意味“逃げ”の答え。選択を後回しにしたに過ぎない。
たとえそれがよくない判断であったにしろ、ここまで行動してきた小町には、急に方向転換することができなかった。
だから、判断を保留にするということは、小町にできる最大限の譲歩だった。
「今回の弾幕戦は引き分け。ただお前さんの頑張りに免じて、次に霊夢と会うまでは、皆に手を出さないことを保証する。
神に準ずる死神の言葉だ。嘘偽りはしない。もっとも、結局何もかもを後回しにしたあたいをお前さんは笑うかもしれないがね」
「そんなことはありません。ダメだったらあきらめるつもりの説得でしたし」
小町に早苗は笑いかけ、腰から機械を抜き出して見せた。
制限解除装置、確かにこれなら小町を圧倒することもできただろう。
準備のいいことだ、と頭の中で拍手する。
銃器や強力な武器にばかりに頭を回し、その“武器”のことを失念していた。
「なるほど、少し甘く見ていたようだな」
顔をしかめて、小町がため息をついた。
「霊夢さんと会うまでの安全を約束してもらっただけでも十分です。でも、ゆっくり考えてどうするのか決めてください。
きっと、小町さんと私は……仲間になれると思うからです」
「甘いねえ。もう少し非情にならないと、妖怪たちの間でやっていけないよ」
「小町さんを許したわけじゃありませんよ。だから、もし小町さんが敵になり、何かの機会で死ぬことがあっても、私は笑顔で見送れます」
凄味をきかせて睨む早苗に、小町は思わず噴き出した。
「あんたにそんな顔は似合わない。あたいは足をやっちゃったみたいだからさ。仲間の間だけでも優しくしてほしいな」
手を当てると骨は折れていないらしいことがわかる。
ただ、足首が燃えるように熱い。しばらくは歩くこともできなそうだ。
「わかった。じゃあ、魔理沙の所に運ぶから、安静にしていてね」
吸血鬼の馬鹿力のおかげか、フランドールは幾つも銃火器と一緒に小町を担ぎ上げると、本拠地に向けて歩き始めた。
はあ、変な約束しちゃったなあ。後悔後先立たず。
約束は守るつもりだが、下手な約束はすればするほど不利になる。
巫女もどきに押されて、口を開けてしまったのが運のつき。
「私に手伝えることはありますか?」
「疲れているでしょ?早苗はゆっくり着いてきて」
よく見れば後ろをついてくる早苗の息は荒れ、足にも力が入っていない。
さっきの弾幕ごっこは人間にとって少しきつすぎる運動だったのかもしれない。
ま、あたいを説得しようなんて本当に物好きな人間だねえ。
自分よりも小さな吸血鬼の背中で、小町はくすくすと笑った。
【D-4 人里 二日目・黎明】
【フランドール・スカーレット】
[状態]右掌の裂傷(治癒)、右肩に銃創(治療済み)、スターサファイアの能力取得
[装備]てゐの首飾り、機動隊の盾、白楼剣、銀のナイフ(3)、破片手榴弾(2)
[道具]支給品一式 レミリアの日傘、大きな木の実 、紫の考察を記した紙
ブローニング・ハイパワーマガジン(1個)
[思考・状況]基本方針:まともになってみる。このゲームを破壊する。
1.スターと魔理沙と共にありたい。
2.反逆する事を決意。レミリアのことを止めようと思う。
3.スキマ妖怪の考察はあっているのかな?
【東風谷早苗】
[状態]:銃弾による打撲 それなりの疲労(ふらつく程度)
[装備]:防弾チョッキ、ブローニング改(13/13)、64式小銃改(16/20)、短槍、博麗霊夢の衣服、包丁
[道具]:基本支給品×2、制限解除装置、
魔理沙の家の布団とタオル、東風谷早苗の衣服(びしょ濡れ)
諏訪子の帽子、輝夜宛の手紙、紫の考察を記した紙
64式小銃弾(20*10)
[思考・状況] 基本行動方針:理想を信じて、生き残ってみせる
1.負けません
2.人間と妖怪の中に潜む悪を退治してみせる
3.紫さんの考察が気になります
【小野塚小町】
[状態]右髪留め破損、右頭部、手、肩裂傷、左手銃創(治療済み)、右足捻挫 それなりの疲労
[装備]トンプソンM1A1改(23/50)
[道具]支給品一式、M1A1用ドラムマガジン×3、
銃器カスタムセット
[基本行動方針]生き残るべきでない人妖を排除する。脱出は頭の片隅に考える程度
[思考・状況]
1.紫と霊夢、生き残った方を助け、幻想郷のために尽くす
2.霊夢と再会し、話し合うまでは早苗たちに手を出さない
3.最後の手段として、主催者の褒美も利用する
最終更新:2012年08月20日 16:53