「うう……ん。ここ…は……?」
ティルは見知らぬ部屋で目を覚ました。
「なんでこんなところに?」
たしかティルはナープたちと一緒にいたはずだった。ステイブルの近くの遺跡へ薬草を探しに行ってそのあとは……覚えていない。
部屋には木箱が詰まれており、何かのパイプのようなものも見える。近くで水の流れる音が聞こえる。あとは扉がひとつあるだけだ。鍵はかかっていない。
「よくわからないけど……。とりあえず脱出だね!」
扉の向こうはどこかの水路のようだった。
ティルは見知らぬ部屋で目を覚ました。
「なんでこんなところに?」
たしかティルはナープたちと一緒にいたはずだった。ステイブルの近くの遺跡へ薬草を探しに行ってそのあとは……覚えていない。
部屋には木箱が詰まれており、何かのパイプのようなものも見える。近くで水の流れる音が聞こえる。あとは扉がひとつあるだけだ。鍵はかかっていない。
「よくわからないけど……。とりあえず脱出だね!」
扉の向こうはどこかの水路のようだった。
Chapter2「狙われたティル」
もちろん、ナープたちはティルがそんな見知らぬ場所で目を覚ましたことなど知らない。
「ティルが消えた? まさか遺跡が崩れたときに巻き込まれたんじゃ…」
「いや、たしかにさっきまではそこにいたんだ!」
「よし、この『ティル君はこっちかな? レーダー』を使うがいいのだ!」
タネはかせがまた奇妙な機械を取り出した。一同はそれを華麗にスルーした。
「でも、なんで急にいなくなっちゃんだろうね?」
不思議に思っていると、突然ウィルオンに向かって何かが飛んできた。
「や、や、や…矢ァーーーーーっ!!」
それはウィルオンの頭に命中した。
「なんだ、オモチャの矢じゃないか」
矢には手紙が括りつけられている。いわゆる矢文というやつだ。
「なになに?『ティルは預かった。返してほしくば、水門の城へ来い。ただし、そこにいる全員で来ること』……ってこれ!!」
「誘拐!? 水門の城ってどこだよ!」
水門の城はここから海を東に行ったところにあった。海のど真ん中に塔のようなものが立っている。これもかつての文明の遺産であり、太古の昔にはまだそこに陸地があり水門の役割を果たしていたらしい。その位置をウクツが地図で示してくれた。
「そんなところ、どうやって行けば…」
「フフフ…。困ったときの天才、それが私タネはかせなのだ!」
「ただの困ったやつだろ」
「いいからこれを見るのだ。かつて存在したという機械の国には鯨という船があったらしい。それを参考にして私が発明した、これぞ『さかな号(Ver.0.6)』なのだ!」
タネはかせはどこからともなく、魚をモチーフにした船? のような何かを取り出した。
「0.6って未完成じゃないか!」
「これからテストするのだ」
「なんか、船には見えない形なんだけど」
「鯨はどうやら潜水艦だったらしいのだ。だから私もそれに倣った。さらにもっとすごい機能があるのだ。それはなんと…」
「そんなのはあとだ! ティルが心配だ。早くその水門の城へ行こう!」
「……まぁ、いいのだ。それじゃあ、さっそくさかな号を海まで押して行くのだ」
「押していく…!? だったらこんな陸地で取り出すなよ!」
「ここで造っちゃったのだ。しかたないだろう」
色々と問題を抱えながらもようやくさかな号をフリー川まで運んだ一行は、そこから川を下って海に出て水門の城を目指す。
「さて、目的につくまでどうせ暇だろう。存分にさかな号の素晴らしさを教えてやるのだ!」
「どうでもいい…」
「まぁ聞くのだ。海は陸地と違って目印になるものが少ないから迷いやすいのだ。そこで私は考えた。その名も『サブマリン・ナビゲートシステム』……略して『サブナビ』!」
「そのダサい名前どうにかならないの」
「ものの良し悪しは名前じゃないのだ。さぁ、見るがいい! サブナビ機動なのだ!!」
さかな号が無機質な声でアナウンスする。
『ソコノ角ヲ右ニ曲ガッテクダサイ』
「おお、しゃべった!」
「海に角ってどこにあるんだろう…」
『ソコノ角、角、角ド、カ、カ、カ、カカカカカカ…』
さかな号の様子がおかしい。
「な、なんだ!?」
急に船体がガクンと揺れたかと思うと、さかな号は物凄いスピードで暴走し始めた。
『角角角角角角角角角角角角角角角角角角角魚角角角角』
「うわゎゎわわわゎ、ゆ、ゆ、揺れる! なんとかしろ、タネはかせ!」
「聞いたか! 今、さりげなく魚って言ったのだ。さすが私のさかな号、ユーモアセンスも持ち合わせているとは」
「言ってる場合か! 早く直せぇぇぇええぇぇええ!!」
そうこうしている間にもさかな号はどんどん進み、とうとう目的地の水門の城に見事に衝突、激突、大爆発した。
「も、もう……二度と乗らない…」
頭をアフロにしながら大破した船から脱出するナープたち。なぜかタネはかせだけ無傷だった。
「まぁ、いいじゃないか。早く目的地に着いたんだから。私はここでさかな号を直してやらないといけないから、今のうちにティル君を捜してくるといいのだ」
「言われなくてもそうするよ! ウィルオンの言ってたことがよーくわかったよ」
「おまえに任せておくと帰りが心配だ。ワシも修理に立ち会わせてもらうぞ」
ウクツもタネはかせと共に残るようだ。
ナープたちは手分けをしてティルを捜索することにした。さかな号が激突して壊れた壁から水門の城の中に入る。内部にはいくつもの水路があちこちに張り巡らされている。向かって正面に壁がありそこを水路が横断している。そこからナープとウィザは右に、リクとウィルオンは左に向かう。
「しかし…。おまえ、タネはかせと言ったか?」
ウクツがタネはかせに話しかける。
「”天才”タネはかせなのだ。何か私に用かな、えーっと。たしかウクツ君。ああ、サインならちゃんとマネージャーを通してもらわないと…」
「そんなものはいらん。しかし、さかな号……か。これはおまえ一人で造ったのか? たしかにちょっと変だが、なかなかの発明家だな」
「おお、わかってくれるか同志よ! そうなのだ、ゆえに私は天才なのだ。よし、さかな号を協力してもっとすごくしようではないか!」
同じ研究者として何か通じるところがあるのだろうか、タネはかせとウクツはまさかの意気投合を果たしてしまった。
「うーん、しかしさかな号を見てると…。あー、トロが食べたくなってきたのだ。あートロ食べたい、あートロ…。そうだ、これから魚号をアットロー君と呼ぼう」
「……やっぱりおまえは変だ」
「ティルが消えた? まさか遺跡が崩れたときに巻き込まれたんじゃ…」
「いや、たしかにさっきまではそこにいたんだ!」
「よし、この『ティル君はこっちかな? レーダー』を使うがいいのだ!」
タネはかせがまた奇妙な機械を取り出した。一同はそれを華麗にスルーした。
「でも、なんで急にいなくなっちゃんだろうね?」
不思議に思っていると、突然ウィルオンに向かって何かが飛んできた。
「や、や、や…矢ァーーーーーっ!!」
それはウィルオンの頭に命中した。
「なんだ、オモチャの矢じゃないか」
矢には手紙が括りつけられている。いわゆる矢文というやつだ。
「なになに?『ティルは預かった。返してほしくば、水門の城へ来い。ただし、そこにいる全員で来ること』……ってこれ!!」
「誘拐!? 水門の城ってどこだよ!」
水門の城はここから海を東に行ったところにあった。海のど真ん中に塔のようなものが立っている。これもかつての文明の遺産であり、太古の昔にはまだそこに陸地があり水門の役割を果たしていたらしい。その位置をウクツが地図で示してくれた。
「そんなところ、どうやって行けば…」
「フフフ…。困ったときの天才、それが私タネはかせなのだ!」
「ただの困ったやつだろ」
「いいからこれを見るのだ。かつて存在したという機械の国には鯨という船があったらしい。それを参考にして私が発明した、これぞ『さかな号(Ver.0.6)』なのだ!」
タネはかせはどこからともなく、魚をモチーフにした船? のような何かを取り出した。
「0.6って未完成じゃないか!」
「これからテストするのだ」
「なんか、船には見えない形なんだけど」
「鯨はどうやら潜水艦だったらしいのだ。だから私もそれに倣った。さらにもっとすごい機能があるのだ。それはなんと…」
「そんなのはあとだ! ティルが心配だ。早くその水門の城へ行こう!」
「……まぁ、いいのだ。それじゃあ、さっそくさかな号を海まで押して行くのだ」
「押していく…!? だったらこんな陸地で取り出すなよ!」
「ここで造っちゃったのだ。しかたないだろう」
色々と問題を抱えながらもようやくさかな号をフリー川まで運んだ一行は、そこから川を下って海に出て水門の城を目指す。
「さて、目的につくまでどうせ暇だろう。存分にさかな号の素晴らしさを教えてやるのだ!」
「どうでもいい…」
「まぁ聞くのだ。海は陸地と違って目印になるものが少ないから迷いやすいのだ。そこで私は考えた。その名も『サブマリン・ナビゲートシステム』……略して『サブナビ』!」
「そのダサい名前どうにかならないの」
「ものの良し悪しは名前じゃないのだ。さぁ、見るがいい! サブナビ機動なのだ!!」
さかな号が無機質な声でアナウンスする。
『ソコノ角ヲ右ニ曲ガッテクダサイ』
「おお、しゃべった!」
「海に角ってどこにあるんだろう…」
『ソコノ角、角、角ド、カ、カ、カ、カカカカカカ…』
さかな号の様子がおかしい。
「な、なんだ!?」
急に船体がガクンと揺れたかと思うと、さかな号は物凄いスピードで暴走し始めた。
『角角角角角角角角角角角角角角角角角角角魚角角角角』
「うわゎゎわわわゎ、ゆ、ゆ、揺れる! なんとかしろ、タネはかせ!」
「聞いたか! 今、さりげなく魚って言ったのだ。さすが私のさかな号、ユーモアセンスも持ち合わせているとは」
「言ってる場合か! 早く直せぇぇぇええぇぇええ!!」
そうこうしている間にもさかな号はどんどん進み、とうとう目的地の水門の城に見事に衝突、激突、大爆発した。
「も、もう……二度と乗らない…」
頭をアフロにしながら大破した船から脱出するナープたち。なぜかタネはかせだけ無傷だった。
「まぁ、いいじゃないか。早く目的地に着いたんだから。私はここでさかな号を直してやらないといけないから、今のうちにティル君を捜してくるといいのだ」
「言われなくてもそうするよ! ウィルオンの言ってたことがよーくわかったよ」
「おまえに任せておくと帰りが心配だ。ワシも修理に立ち会わせてもらうぞ」
ウクツもタネはかせと共に残るようだ。
ナープたちは手分けをしてティルを捜索することにした。さかな号が激突して壊れた壁から水門の城の中に入る。内部にはいくつもの水路があちこちに張り巡らされている。向かって正面に壁がありそこを水路が横断している。そこからナープとウィザは右に、リクとウィルオンは左に向かう。
「しかし…。おまえ、タネはかせと言ったか?」
ウクツがタネはかせに話しかける。
「”天才”タネはかせなのだ。何か私に用かな、えーっと。たしかウクツ君。ああ、サインならちゃんとマネージャーを通してもらわないと…」
「そんなものはいらん。しかし、さかな号……か。これはおまえ一人で造ったのか? たしかにちょっと変だが、なかなかの発明家だな」
「おお、わかってくれるか同志よ! そうなのだ、ゆえに私は天才なのだ。よし、さかな号を協力してもっとすごくしようではないか!」
同じ研究者として何か通じるところがあるのだろうか、タネはかせとウクツはまさかの意気投合を果たしてしまった。
「うーん、しかしさかな号を見てると…。あー、トロが食べたくなってきたのだ。あートロ食べたい、あートロ…。そうだ、これから魚号をアットロー君と呼ぼう」
「……やっぱりおまえは変だ」
一方そのころ、目を覚ました部屋を脱出して水路に沿って歩いていたティルは変わったものを発見していた。
「なにこれ、鏡?」
ティルの目の前にはティルと瓜二つの存在が立っていた。
ティルが右手を上げると、向こうのティルも同じ方向の手を上げる。反対側の手でも同じだ。
「でも、すごく……立体的だ……」
そう、それは普通の鏡ではない。なぜなら、その鏡のティルの向こうにもまだ通路は続いているし、鏡に映る像のように平面的ではなく、さらに触れると体温まで感じるからだ。まさに、そこにはもう一人のティルがいた。
「最近の鏡はすごいんだねぇ」
そのとき、後ろからティルを呼ぶ声が聞こえてきた。あれはウィルオンとリクの声だ。
「あっ、ウィルオン、リクっち。ねぇ見てみて! 面白いものがあるよ!」
ティルは声のするほうに振り返る。すると、ティルの背後で鏡のティルは怪しくにやりと笑うのだった。
「なにこれ、鏡?」
ティルの目の前にはティルと瓜二つの存在が立っていた。
ティルが右手を上げると、向こうのティルも同じ方向の手を上げる。反対側の手でも同じだ。
「でも、すごく……立体的だ……」
そう、それは普通の鏡ではない。なぜなら、その鏡のティルの向こうにもまだ通路は続いているし、鏡に映る像のように平面的ではなく、さらに触れると体温まで感じるからだ。まさに、そこにはもう一人のティルがいた。
「最近の鏡はすごいんだねぇ」
そのとき、後ろからティルを呼ぶ声が聞こえてきた。あれはウィルオンとリクの声だ。
「あっ、ウィルオン、リクっち。ねぇ見てみて! 面白いものがあるよ!」
ティルは声のするほうに振り返る。すると、ティルの背後で鏡のティルは怪しくにやりと笑うのだった。
「『ファイア』!」
唐突に火の玉がナープとウィザを襲う。
「な、なんだ!?」
「気をつけて! ……魔法だ。誰だ!?」
「おまえたち、ここに何をしに来た。ここがおれたち魔導師の修行の場と知ってのことか!?」
柱の陰からウィザと良く似た黒い鳥人族が姿を現した。
「ディサ!」
ウィザはどうやら相手のことを知っているらしい。
「おまえは……ウィザ!? この裏切り者め! ここで会ったが100年目、決着をつけてやる!」
「あれは裏切ったんじゃないよ!」
「問答無用!」
ディサはウィザに向かって炎を飛ばす。
「あっ、やったな!」
仕返しにウィザはディサに向かって電撃を飛ばす。
「お、おいおい。二人とも…」
話が見えないナープをよそに二人は喧嘩を初めてしまった。
唐突に火の玉がナープとウィザを襲う。
「な、なんだ!?」
「気をつけて! ……魔法だ。誰だ!?」
「おまえたち、ここに何をしに来た。ここがおれたち魔導師の修行の場と知ってのことか!?」
柱の陰からウィザと良く似た黒い鳥人族が姿を現した。
「ディサ!」
ウィザはどうやら相手のことを知っているらしい。
「おまえは……ウィザ!? この裏切り者め! ここで会ったが100年目、決着をつけてやる!」
「あれは裏切ったんじゃないよ!」
「問答無用!」
ディサはウィザに向かって炎を飛ばす。
「あっ、やったな!」
仕返しにウィザはディサに向かって電撃を飛ばす。
「お、おいおい。二人とも…」
話が見えないナープをよそに二人は喧嘩を初めてしまった。
「見てみて! ほら、すごいんだよ。立体的な鏡だよ」
ティルはもう一人のティルをリクとウィルオンに見せた。
「へぇー、こんな鏡があるのか……。あれ、俺が映らない! リクさんもしかして死んでる!?」
「そんなわけあるか。その”鏡”何かおかしいぞ…? というか、こんな鏡があるわけがない。おまえは何だ!? 正体を現せ!!」
ウィルオンがもう一人のティルに向かって叫ぶ。
「ほう。わしの魔法を見破るとはなかなか大したものじゃな。なるほど、おまえは魔法耐性が高い体質のようだ」
もう一人のティルの姿が溶けていく。そして、それは紫色の鳥人族に変わった。
「何者だ!? ……まさか、ティルをさらったのはおまえか!」
「こやつの知り合いか…! 見つからないようにさらったはずなのじゃが…」
「手紙が送られてきたぜ。おまえが送ったんじゃないのか?」
「手紙? 何のことだ…。まぁいい。知られたからには消えてもらうぞ!」
紫のトリが翼を振るうとそこに杖が現れた。杖からは凄まじい冷気が放たれる。
「こ、こいつウィザと同じ魔法使いか!?」
「怯むなウィルオン! 男にはたとえどんな強敵が相手でも戦わなくちゃならないときがあるんだ!」
「リク…」
「覚えておけ。それは……相手がムカつくときだ!!」
「いや、それはおかしいだろ!」
するとそのとき、どこかから炎の塊が飛んできて相手の杖を焼き尽くしてしまった。
「な、なんだ? 援軍か? もしかしてウィザか!」
炎の飛んできたほうをみるとたしかにそこにはウィザがいた。しかし、ウィザだけではなく別の黒いトリもいる。よく見ると、さらに向こうには黒コゲになったナープも。
「こら、ディサ! 何をするんじゃ!」
「あっ、お師匠様!」
ディサはその紫のトリを師匠と呼んだ。
「む、おまえはウィザではないか。久しいな」
「お師匠様! ディサがいるってことはもしかしてと思ったけど……やっぱりいましたか」
ウィザにとってもその紫のトリは師匠であるらしい。
「なんだなんだ。知り合いか? おい、ウィザ。こいつがティルをさらった犯人らしいぞ! なんとか言ってやれ!」
「お、お師匠様…。どうして!?」
「む……。そ、それは……言えん」
「イーグル様! 裏切り者なんかに教えてやることはありませんよね!」
そのお師匠様は鷲には見えなかったがイーグルと呼ばれた。
「と、とにかく。もうわしの下を去ったおまえには関係のないことじゃ! まさか、おまえもこやつの知り合いだったとは……世界とは狭いものじゃな。だが、おまえには悪いがこの仔竜は預からせてもらう!!」
イーグルが呪文を唱えると、ティルがふわりと宙に浮かんだ。
「すごいすごい! ボク飛んでる!」
「喜ぶな!」
そしてそのまま、イーグルと共にティルの姿は消えてしまった。
「しまった。ティル!!」
「ああっ、お師匠様ぁ! おれを置いてかないでくださいよ~」
「お師匠様、どうして……」
イーグルの消えた先をウィザとディサはただ眺めていた。
ようやく黒コゲから回復したナープがウィザに尋ねた。
「そういえば”裏切り者”ってどういう意味なんだ?」
それにはディサが答えた。
「おれはイーグル様の一番の弟子だったんだ。ウィザのやつはおれよりあとに弟子になった」
ウィザはイーグルの下で魔法を修行し、あっという間にディサもイーグルも追い越してしまいすぐに出て行ってしまったのだそうだ。それをディサは師匠に対しての裏切りと呼んだ。
「あれからお師匠様も自信をなくされてしまって…。ああ、かわいそうなお師匠様! ウィザ、おまえのせいだ!」
「だから、それはただの逆恨みじゃないか!」
「うるさい! これでも食らえ!」
「やったな、このカラスめ!」
「カラスって言うな!」
またウィザたちの喧嘩が始ってしまった。
ティルはもう一人のティルをリクとウィルオンに見せた。
「へぇー、こんな鏡があるのか……。あれ、俺が映らない! リクさんもしかして死んでる!?」
「そんなわけあるか。その”鏡”何かおかしいぞ…? というか、こんな鏡があるわけがない。おまえは何だ!? 正体を現せ!!」
ウィルオンがもう一人のティルに向かって叫ぶ。
「ほう。わしの魔法を見破るとはなかなか大したものじゃな。なるほど、おまえは魔法耐性が高い体質のようだ」
もう一人のティルの姿が溶けていく。そして、それは紫色の鳥人族に変わった。
「何者だ!? ……まさか、ティルをさらったのはおまえか!」
「こやつの知り合いか…! 見つからないようにさらったはずなのじゃが…」
「手紙が送られてきたぜ。おまえが送ったんじゃないのか?」
「手紙? 何のことだ…。まぁいい。知られたからには消えてもらうぞ!」
紫のトリが翼を振るうとそこに杖が現れた。杖からは凄まじい冷気が放たれる。
「こ、こいつウィザと同じ魔法使いか!?」
「怯むなウィルオン! 男にはたとえどんな強敵が相手でも戦わなくちゃならないときがあるんだ!」
「リク…」
「覚えておけ。それは……相手がムカつくときだ!!」
「いや、それはおかしいだろ!」
するとそのとき、どこかから炎の塊が飛んできて相手の杖を焼き尽くしてしまった。
「な、なんだ? 援軍か? もしかしてウィザか!」
炎の飛んできたほうをみるとたしかにそこにはウィザがいた。しかし、ウィザだけではなく別の黒いトリもいる。よく見ると、さらに向こうには黒コゲになったナープも。
「こら、ディサ! 何をするんじゃ!」
「あっ、お師匠様!」
ディサはその紫のトリを師匠と呼んだ。
「む、おまえはウィザではないか。久しいな」
「お師匠様! ディサがいるってことはもしかしてと思ったけど……やっぱりいましたか」
ウィザにとってもその紫のトリは師匠であるらしい。
「なんだなんだ。知り合いか? おい、ウィザ。こいつがティルをさらった犯人らしいぞ! なんとか言ってやれ!」
「お、お師匠様…。どうして!?」
「む……。そ、それは……言えん」
「イーグル様! 裏切り者なんかに教えてやることはありませんよね!」
そのお師匠様は鷲には見えなかったがイーグルと呼ばれた。
「と、とにかく。もうわしの下を去ったおまえには関係のないことじゃ! まさか、おまえもこやつの知り合いだったとは……世界とは狭いものじゃな。だが、おまえには悪いがこの仔竜は預からせてもらう!!」
イーグルが呪文を唱えると、ティルがふわりと宙に浮かんだ。
「すごいすごい! ボク飛んでる!」
「喜ぶな!」
そしてそのまま、イーグルと共にティルの姿は消えてしまった。
「しまった。ティル!!」
「ああっ、お師匠様ぁ! おれを置いてかないでくださいよ~」
「お師匠様、どうして……」
イーグルの消えた先をウィザとディサはただ眺めていた。
ようやく黒コゲから回復したナープがウィザに尋ねた。
「そういえば”裏切り者”ってどういう意味なんだ?」
それにはディサが答えた。
「おれはイーグル様の一番の弟子だったんだ。ウィザのやつはおれよりあとに弟子になった」
ウィザはイーグルの下で魔法を修行し、あっという間にディサもイーグルも追い越してしまいすぐに出て行ってしまったのだそうだ。それをディサは師匠に対しての裏切りと呼んだ。
「あれからお師匠様も自信をなくされてしまって…。ああ、かわいそうなお師匠様! ウィザ、おまえのせいだ!」
「だから、それはただの逆恨みじゃないか!」
「うるさい! これでも食らえ!」
「やったな、このカラスめ!」
「カラスって言うな!」
またウィザたちの喧嘩が始ってしまった。
そのころ、イーグルは水門の城の屋上にいた。
ティルはどうやら魔法で眠らされているらしい。眠ったままで宙に浮かんでいる。
「約束通り連れてきたぞ」
イーグルの向かいには巨大な竜がいた。ナープやウィルオンなんかよりもずっと大きい竜族原種だ。
現在は第4世界だと言われているが、世界が第3世界と呼ばれていた頃には天空の国々で竜と人が魔法を操り戦いを繰り広げていた。その当時の魔法は今のものとは比べ物にならないほど強力だった。
今では竜族も混血が進み、その魔力は見る見るうちに衰えていったが、当時の竜たちの直系の子孫たちは今もなお、その強大な魔力を不完全な形ではあるがその身に宿らせている。それが竜族原種であり、そのうちの一体がイーグルの前にはいた。
「よろしい。約束通り、私の魔力を少し分け与えてさしあげましょう」
「すまんな。わしももう年じゃ…。年にはかなわん。しかし、おまえ。この仔竜をどうするつもりじゃ? まさか殺すわけじゃあるまいな! もしそうであれば、渡すわけにはいかぬ」
「そのつもりはないのでご安心を。私が用があるのは本当はティルではなく、ウィルオンのほうなのですから。ですが、あいつはどうにも高い魔法耐性を持っている様子。だから私にも迂闊に手が出せなかった。そのため、ウィルオンを呼びよせるためにティルをさらってもらったのです」
「ふむ…? 事情はよくわからないが、そういうことならティルを引き渡そう」
「ええ、ありがたく」
竜はティルを受け取った。
「……む? この仔竜……。ただの仔竜ではないようですね。こいつは…………なっ! ま、まさか!!」
「どうした?」
「い、いえ。こちらの話です。しかし、これは……なるほど、役に立つかもしれない。そうなると作戦は変更だな。ウィルオンはまだ幼く大したことはない。ならば先に2代目のほうを…。くっくっく…」
竜はティルを鷲掴みにするとその場を飛び去ろうとする。
「待て! そうはさせるか!!」
するとその時、床が吹き飛ばされてウィザとディサがそこから飛び出した。どうやら魔法で天井をぶち抜いてきたらしい。次にリクが姿を現す。続けて、ナープとウィルオンが。
「お師匠様ぁ! 置いてくなんてひどいですー!」
「お師匠様! 説明してください!」
イーグルに飛びかかる二羽のトリ。
「……ライバルにしては仲いいよな、あいつら」
「喧嘩するほどなんとかってやつでしょ」
リクは竜に向かって叫ぶ。
「おい、おまえは何だ? ティルをどうするつもりだ!」
「ちっ、邪魔が入りましたか…。ならば仕方ない。予定通り、この場で始末させてもらいましょうか!!」
「な、なんだと!?」
竜は飛びあがると、上空から水門の城の屋上に向かって魔法を放つ。屋上に竜巻が現れて、リクたちはたちまち吹き飛ばされてしまう。
「くっくっく…。他愛もありませんな。さて、ウィルオンはどこへ? 国の再興のためにもウィルオンの死亡だけは確認しなくては」
竜巻が消え、竜は屋上へと舞い降りる。ティルはその場に浮かばせたままだ。
「『ファイア』!!」
小さな火の玉が竜にぶつかる。竜はびくともしない。
「おまえは何者だ! ……少なくとも敵ってことだよね!?」
ファイアを放ったのはウィザだった。
見ると、ウィザの周りにリクやウィルオンも浮かんでいる。その隣で飛んでいるのはナープとイーグル、ディサだ。
「ふむ。地上の魔法でもその程度のことはできますか。しかし……あまりにも他愛のない」
イーグルが竜に向かって叫ぶ。
「話が違うぞ、ラルガ! 危害は加えないという約束じゃろう!?」
ラルガと呼ばれた竜は可笑しそうに笑いながらそれに答える。
「何も違ってはいませんよ。たしかに私は”ティルには”危害は加えませんから。どうやらティルは思っていた以上に重要な存在のようなので、下手に傷つけたりなどしませんとも。くっくっく…」
「何がなんだかよくわからないが……ティルを返せ!!」
こんどはリクがラルガに向かって叫ぶ。
「あなたに用などありません。あと私が用があるのは……ウィルオン! おまえだけです!」
「えっ……お、俺!? 俺はおまえなんかしらないぞ!」
「知らないほうが幸せですよ…。さぁ、死んでいただきましょうか!!」
海から水が蛇のように昇ってくると、それは凍りつき巨大な氷の槍になった。氷の槍はウィルオン目がけて直進する。
「う、うわっ!!」
炎の壁が現れて氷の槍を防いだ。ウィザとディサが協力して張った炎のシールドだ。
「ほう、少しはやりますね」
「わけがわからないが……。どうやらやるしかないようだな。いくぞ、ウィザ!」
「任せといて!」
ディサが炎の塊を宙に出現させる。そこにウィザは小さな火の玉をいくつもぶつけていく。すると、それは巨大な火球となってラルガへと向かっていく。それをウィザたちはいくつも作り出しては飛ばしていく。炎の雨が次々とラルガに降り注ぐ。
「必死ですね。若者の頑張りを無駄にしてしまうのは気が進みませんが……しかし、甘い!」
海から水柱が上がると、それは水の壁を形成して炎の雨をすべて呑み込んでしまう。さらに水の壁は瞬時に凍りつき、氷の壁となる。氷の壁からは無数の氷の矢が放たれウィザたちを襲う。それだけではない。ウィザたちの背後からも左右からも水柱が上がり、同様に氷の壁が現れるとそこからも氷の矢が降り注ぐ。さらに上からは雷が、下からは水が大蛇の姿となって襲いかかる。
「だ、だめだ! 防ぎきれない!!」
そのとき、ウィザたちを守るように水のドームが現れる。水のドームは電気を逃がし、水の大蛇を吸収する。さらに水のドームが凍りつくとそれは氷の盾となって氷の矢を受け止める。
「お、お師匠様! さすがです!」
「やれやれ、あまり年寄りに無理をさせるもんじゃないぞ。せっかくやつに分けてもらった魔力をほとんど使い果たしてしまったわ」
「次はない……ってことか」
ラルガはまだまだ余裕たっぷりの様子だ。第3世界より後に生まれた魔法と、かつての魔法とはこれほどまでに力の差が明らかなのだ。
「さぁ、どうします? 大人しくウィルオンを渡しなさい。そうすれば見逃してやりましょう。先ほども言いましたが、私はティルとウィルオンに用があるだけなのです」
「くそっ、守ってばかりじゃどうにもならない。それに下手に攻撃したらティルに当たるかもしれないぞ」
「あいつすごく強いよ! 魔法じゃとても適わない…」
「俺にも何かできることはないのか!? こうやって浮かんでるだけで何もできないってのは歯がゆいぞ!」
「ウィルオンも狙われてるんだ! 下手に動かないほうがいい」
「手も足も出ないのか……!」
このままでは防戦一方ジリ貧だ。それにこの力の差では負けはもうすぐそこに見えている。
「降参しないのであれば仕方ありませんね。全員散るがいい!」
「くっ……!」
もうだめか、と思われたその時だった。
「ふははは! 困ったときの天才タネはかせ、なのだ! 行くのだ、アットロー君!」
修理を終えたさかな号……アットローが海上から飛びあがってきた。
「魔法に対抗するもの。それは機械なのだ!」
「な、なんですか。このふざけた魚は!」
「さかな号…!? 飛んでるぞ!!」
「なんとこのアットロー君、フライングシステム付きなのだ! 潜水艦が飛ぶなんて! 信じられない! さすが天才の私だ、わっはっはっは!」
そしてアットロー号は勢い良くウィザたちの前を通り過ぎるとそのまま空高く舞い上がり……星になった。
「何しに出てきたんだよ!」
「な、なんだったのでしょう…。まぁいい、さぁ…食らうがいい!!」
ラルガが飛びあがると、地鳴りとともに水門の城が浮上し空中に浮かびあがる。
「げげっ、あいつあんなでかい建物を…!」
「物理的なものは魔法じゃ防げないぞ!」
水門の城はとうとうラルガの頭上にまで持ちあがる。
「さぁ、これでオシマイです。食らえ!!」
「そうはさせないのだ! たっだいまぁー!」
ちょうどそのとき、どこかへ飛んで行ってしまっていたアットロー号が降ってきた。アットロー号は持ちあげられた水門の城に激突した。
「な、なんだと!!」
そのまま水門の城は墜落しラルガを巻き込んで海の底に沈んでしまった。その場にはあとから潜水艦であるアットロー号だけが浮上してきた。
「や、やったのか…!」
「どうだ、すべて私の作戦通りなのだ!」
「嘘をつけ、ただの偶然ではないか! ワシもアットローに乗っておるというのに無茶しおって…。まったく無謀だ」
どうやらタネはかせとウクツも無事らしい。
「だが、これでなんとかティルを助けられたんだな! よかった…」
「結局あいつはなんだったんだ…?」
ようやく眠りの魔法が解けたティルは何が起こっていたのか知るはずもなく、ただ呑気に「おはよう」と答えるだけだった。
こうして何とかティルを取り戻すことができた。結局、ティルをさらったラルガの目的はなんだったのか。ウィルオンを狙った理由とは。そして、国の復興とは一体何のことなのか。
その後、ナープは父親捜しを再開。ティルはどうやらリクのことが気に入ったようで、ティルのことはリクが引き継ぐことになった。ウィザやウィルオンたちもそれぞれ自分の目的に従って別れて行った。
後に再びティルを巡って一同は顔をそろえることになるのだが、今はもちろんそれを知る由はない。
そして数年の時が流れる……。
ティルはどうやら魔法で眠らされているらしい。眠ったままで宙に浮かんでいる。
「約束通り連れてきたぞ」
イーグルの向かいには巨大な竜がいた。ナープやウィルオンなんかよりもずっと大きい竜族原種だ。
現在は第4世界だと言われているが、世界が第3世界と呼ばれていた頃には天空の国々で竜と人が魔法を操り戦いを繰り広げていた。その当時の魔法は今のものとは比べ物にならないほど強力だった。
今では竜族も混血が進み、その魔力は見る見るうちに衰えていったが、当時の竜たちの直系の子孫たちは今もなお、その強大な魔力を不完全な形ではあるがその身に宿らせている。それが竜族原種であり、そのうちの一体がイーグルの前にはいた。
「よろしい。約束通り、私の魔力を少し分け与えてさしあげましょう」
「すまんな。わしももう年じゃ…。年にはかなわん。しかし、おまえ。この仔竜をどうするつもりじゃ? まさか殺すわけじゃあるまいな! もしそうであれば、渡すわけにはいかぬ」
「そのつもりはないのでご安心を。私が用があるのは本当はティルではなく、ウィルオンのほうなのですから。ですが、あいつはどうにも高い魔法耐性を持っている様子。だから私にも迂闊に手が出せなかった。そのため、ウィルオンを呼びよせるためにティルをさらってもらったのです」
「ふむ…? 事情はよくわからないが、そういうことならティルを引き渡そう」
「ええ、ありがたく」
竜はティルを受け取った。
「……む? この仔竜……。ただの仔竜ではないようですね。こいつは…………なっ! ま、まさか!!」
「どうした?」
「い、いえ。こちらの話です。しかし、これは……なるほど、役に立つかもしれない。そうなると作戦は変更だな。ウィルオンはまだ幼く大したことはない。ならば先に2代目のほうを…。くっくっく…」
竜はティルを鷲掴みにするとその場を飛び去ろうとする。
「待て! そうはさせるか!!」
するとその時、床が吹き飛ばされてウィザとディサがそこから飛び出した。どうやら魔法で天井をぶち抜いてきたらしい。次にリクが姿を現す。続けて、ナープとウィルオンが。
「お師匠様ぁ! 置いてくなんてひどいですー!」
「お師匠様! 説明してください!」
イーグルに飛びかかる二羽のトリ。
「……ライバルにしては仲いいよな、あいつら」
「喧嘩するほどなんとかってやつでしょ」
リクは竜に向かって叫ぶ。
「おい、おまえは何だ? ティルをどうするつもりだ!」
「ちっ、邪魔が入りましたか…。ならば仕方ない。予定通り、この場で始末させてもらいましょうか!!」
「な、なんだと!?」
竜は飛びあがると、上空から水門の城の屋上に向かって魔法を放つ。屋上に竜巻が現れて、リクたちはたちまち吹き飛ばされてしまう。
「くっくっく…。他愛もありませんな。さて、ウィルオンはどこへ? 国の再興のためにもウィルオンの死亡だけは確認しなくては」
竜巻が消え、竜は屋上へと舞い降りる。ティルはその場に浮かばせたままだ。
「『ファイア』!!」
小さな火の玉が竜にぶつかる。竜はびくともしない。
「おまえは何者だ! ……少なくとも敵ってことだよね!?」
ファイアを放ったのはウィザだった。
見ると、ウィザの周りにリクやウィルオンも浮かんでいる。その隣で飛んでいるのはナープとイーグル、ディサだ。
「ふむ。地上の魔法でもその程度のことはできますか。しかし……あまりにも他愛のない」
イーグルが竜に向かって叫ぶ。
「話が違うぞ、ラルガ! 危害は加えないという約束じゃろう!?」
ラルガと呼ばれた竜は可笑しそうに笑いながらそれに答える。
「何も違ってはいませんよ。たしかに私は”ティルには”危害は加えませんから。どうやらティルは思っていた以上に重要な存在のようなので、下手に傷つけたりなどしませんとも。くっくっく…」
「何がなんだかよくわからないが……ティルを返せ!!」
こんどはリクがラルガに向かって叫ぶ。
「あなたに用などありません。あと私が用があるのは……ウィルオン! おまえだけです!」
「えっ……お、俺!? 俺はおまえなんかしらないぞ!」
「知らないほうが幸せですよ…。さぁ、死んでいただきましょうか!!」
海から水が蛇のように昇ってくると、それは凍りつき巨大な氷の槍になった。氷の槍はウィルオン目がけて直進する。
「う、うわっ!!」
炎の壁が現れて氷の槍を防いだ。ウィザとディサが協力して張った炎のシールドだ。
「ほう、少しはやりますね」
「わけがわからないが……。どうやらやるしかないようだな。いくぞ、ウィザ!」
「任せといて!」
ディサが炎の塊を宙に出現させる。そこにウィザは小さな火の玉をいくつもぶつけていく。すると、それは巨大な火球となってラルガへと向かっていく。それをウィザたちはいくつも作り出しては飛ばしていく。炎の雨が次々とラルガに降り注ぐ。
「必死ですね。若者の頑張りを無駄にしてしまうのは気が進みませんが……しかし、甘い!」
海から水柱が上がると、それは水の壁を形成して炎の雨をすべて呑み込んでしまう。さらに水の壁は瞬時に凍りつき、氷の壁となる。氷の壁からは無数の氷の矢が放たれウィザたちを襲う。それだけではない。ウィザたちの背後からも左右からも水柱が上がり、同様に氷の壁が現れるとそこからも氷の矢が降り注ぐ。さらに上からは雷が、下からは水が大蛇の姿となって襲いかかる。
「だ、だめだ! 防ぎきれない!!」
そのとき、ウィザたちを守るように水のドームが現れる。水のドームは電気を逃がし、水の大蛇を吸収する。さらに水のドームが凍りつくとそれは氷の盾となって氷の矢を受け止める。
「お、お師匠様! さすがです!」
「やれやれ、あまり年寄りに無理をさせるもんじゃないぞ。せっかくやつに分けてもらった魔力をほとんど使い果たしてしまったわ」
「次はない……ってことか」
ラルガはまだまだ余裕たっぷりの様子だ。第3世界より後に生まれた魔法と、かつての魔法とはこれほどまでに力の差が明らかなのだ。
「さぁ、どうします? 大人しくウィルオンを渡しなさい。そうすれば見逃してやりましょう。先ほども言いましたが、私はティルとウィルオンに用があるだけなのです」
「くそっ、守ってばかりじゃどうにもならない。それに下手に攻撃したらティルに当たるかもしれないぞ」
「あいつすごく強いよ! 魔法じゃとても適わない…」
「俺にも何かできることはないのか!? こうやって浮かんでるだけで何もできないってのは歯がゆいぞ!」
「ウィルオンも狙われてるんだ! 下手に動かないほうがいい」
「手も足も出ないのか……!」
このままでは防戦一方ジリ貧だ。それにこの力の差では負けはもうすぐそこに見えている。
「降参しないのであれば仕方ありませんね。全員散るがいい!」
「くっ……!」
もうだめか、と思われたその時だった。
「ふははは! 困ったときの天才タネはかせ、なのだ! 行くのだ、アットロー君!」
修理を終えたさかな号……アットローが海上から飛びあがってきた。
「魔法に対抗するもの。それは機械なのだ!」
「な、なんですか。このふざけた魚は!」
「さかな号…!? 飛んでるぞ!!」
「なんとこのアットロー君、フライングシステム付きなのだ! 潜水艦が飛ぶなんて! 信じられない! さすが天才の私だ、わっはっはっは!」
そしてアットロー号は勢い良くウィザたちの前を通り過ぎるとそのまま空高く舞い上がり……星になった。
「何しに出てきたんだよ!」
「な、なんだったのでしょう…。まぁいい、さぁ…食らうがいい!!」
ラルガが飛びあがると、地鳴りとともに水門の城が浮上し空中に浮かびあがる。
「げげっ、あいつあんなでかい建物を…!」
「物理的なものは魔法じゃ防げないぞ!」
水門の城はとうとうラルガの頭上にまで持ちあがる。
「さぁ、これでオシマイです。食らえ!!」
「そうはさせないのだ! たっだいまぁー!」
ちょうどそのとき、どこかへ飛んで行ってしまっていたアットロー号が降ってきた。アットロー号は持ちあげられた水門の城に激突した。
「な、なんだと!!」
そのまま水門の城は墜落しラルガを巻き込んで海の底に沈んでしまった。その場にはあとから潜水艦であるアットロー号だけが浮上してきた。
「や、やったのか…!」
「どうだ、すべて私の作戦通りなのだ!」
「嘘をつけ、ただの偶然ではないか! ワシもアットローに乗っておるというのに無茶しおって…。まったく無謀だ」
どうやらタネはかせとウクツも無事らしい。
「だが、これでなんとかティルを助けられたんだな! よかった…」
「結局あいつはなんだったんだ…?」
ようやく眠りの魔法が解けたティルは何が起こっていたのか知るはずもなく、ただ呑気に「おはよう」と答えるだけだった。
こうして何とかティルを取り戻すことができた。結局、ティルをさらったラルガの目的はなんだったのか。ウィルオンを狙った理由とは。そして、国の復興とは一体何のことなのか。
その後、ナープは父親捜しを再開。ティルはどうやらリクのことが気に入ったようで、ティルのことはリクが引き継ぐことになった。ウィザやウィルオンたちもそれぞれ自分の目的に従って別れて行った。
後に再びティルを巡って一同は顔をそろえることになるのだが、今はもちろんそれを知る由はない。
そして数年の時が流れる……。