「まだ諦めるのは早い。きっと何か方法があるはずなんだ!」
僕にはできなかった。ゲンダー諸とも大精神体を精神波動砲で吹き飛ばすなんて。
たしかに精神波動砲は大精神体を吹き飛ばすことはできるだろう。強力すぎるその波動は生きた人間の精神をも破壊してしまうため、フィーティン軍の兵士たちには後退してもらってある。
精神の破壊とはすなわち死を意味する。機械のゲンダーならば精神波動砲を受けても死んでしまうことはないだろう。
しかしゲンダーはただの機械ではない。機械でありながら自らの意思を持つ特殊な存在だ。もしかすると、精神波動砲はゲンダーのその意思までをも吹き飛ばしてしまうかもしれない。
機械のゲンダーはたしかに死なない。身体は壊れてもまた修理してやることができる。
しかしゲンダーが意思を持つに至ったメカニズムはガイストにはわからなかった。ゲンダーを生み出したヘイヴ博士にしかそれはわからない。だがヘイヴはここにはいない。
意思の喪失はすなわちゲンダーの死を意味するのではないか。
ただ使用者の命令に忠実に動くゲンダーなんて、ゲンダーに似た機械ではあってもそんなのゲンダーじゃない。
ときに愚痴はこぼすけど、喧嘩もするけれど、でもそれでこそゲンダーなのだ。そんなゲンダーを僕は失いたくはない。
――やっぱりできない!
「頼む。もう少しだけ時間をくれないか。僕はゲンダーを犠牲になんかしたくはない。必ずもっといい方法を見つけてみせる! だからそれまで少しだけでいい。メイヴ、飛んで来る瓦礫を全て迎撃できるか?」
『わかりました。ゲンダーを犠牲にしたくないという点では私も同意です。できるだけのことはやってみましょう!』
僕にはできなかった。ゲンダー諸とも大精神体を精神波動砲で吹き飛ばすなんて。
たしかに精神波動砲は大精神体を吹き飛ばすことはできるだろう。強力すぎるその波動は生きた人間の精神をも破壊してしまうため、フィーティン軍の兵士たちには後退してもらってある。
精神の破壊とはすなわち死を意味する。機械のゲンダーならば精神波動砲を受けても死んでしまうことはないだろう。
しかしゲンダーはただの機械ではない。機械でありながら自らの意思を持つ特殊な存在だ。もしかすると、精神波動砲はゲンダーのその意思までをも吹き飛ばしてしまうかもしれない。
機械のゲンダーはたしかに死なない。身体は壊れてもまた修理してやることができる。
しかしゲンダーが意思を持つに至ったメカニズムはガイストにはわからなかった。ゲンダーを生み出したヘイヴ博士にしかそれはわからない。だがヘイヴはここにはいない。
意思の喪失はすなわちゲンダーの死を意味するのではないか。
ただ使用者の命令に忠実に動くゲンダーなんて、ゲンダーに似た機械ではあってもそんなのゲンダーじゃない。
ときに愚痴はこぼすけど、喧嘩もするけれど、でもそれでこそゲンダーなのだ。そんなゲンダーを僕は失いたくはない。
――やっぱりできない!
「頼む。もう少しだけ時間をくれないか。僕はゲンダーを犠牲になんかしたくはない。必ずもっといい方法を見つけてみせる! だからそれまで少しだけでいい。メイヴ、飛んで来る瓦礫を全て迎撃できるか?」
『わかりました。ゲンダーを犠牲にしたくないという点では私も同意です。できるだけのことはやってみましょう!』
第十章B(ガイスト編)「ガイストの覚悟」
自分を信じろ、決して諦めるな。ゲンダーを救う方法は必ずあるはずだ。考えろ、どうすればゲンダーを犠牲にすることなく大精神体を倒すことができるのかを――それが彼らの選んだ答えだった。
フィーティン軍の指揮官は無駄な被害を出すまいとゲンダー諸とも敵を倒すべきだと言った。その意見を蹴ってまでこの決断を選んだ以上、後退しているフィーティン軍に被害を出すわけにはいかない。それが選択に伴う責任だ。
メイヴは飛行艇『鮫』を操り、機銃で瓦礫の弾丸をひとつも漏らさず撃ち落としていく。防衛戦はまるで終わりが見えないほどに長く続いた。
揺れる飛行艇の中で、ガイストは必死に考えを巡らせていた。
フィーティン軍の指揮官は無駄な被害を出すまいとゲンダー諸とも敵を倒すべきだと言った。その意見を蹴ってまでこの決断を選んだ以上、後退しているフィーティン軍に被害を出すわけにはいかない。それが選択に伴う責任だ。
メイヴは飛行艇『鮫』を操り、機銃で瓦礫の弾丸をひとつも漏らさず撃ち落としていく。防衛戦はまるで終わりが見えないほどに長く続いた。
揺れる飛行艇の中で、ガイストは必死に考えを巡らせていた。
――考えろ!
たとえどんなに大きくてもあれは精神体。弱点が音と射影機であることには変わりない。
思い出せ。かつての戦争……鯰との戦いのときだってそうだったじゃないか。敵は精神体、瓦礫を使っての攻防一体の戦法、規模こそ違うが状況は同じだ。そしてそれを打ち倒したのはメイヴの波動砲だった。あのときメイヴは精神体とどう戦っていた?
そうだ。メイヴはまず音響手榴弾をばら撒き、敵の注意を引こうとしたのだ。だがそれは予期しない結果を生んだ。そう、精神体の弱点とは音だったのだ。そこで初めて僕たちは精神体の弱点を知ることになったのだ。
そして身動きが取れなくなった隙を突いて、メイヴは波動砲を使って自らを犠牲に精神体を撃ち抜いた。それは精神体を守る瓦礫を一気に吹き飛ばすための策だったが、これも良い意味で予想外の結果を生んだ。波動砲……つまり衝撃波は空気との摩擦で強烈なパルス波を生じさせる。パルス波とは音の振動の一種、すなわちこれも精神体には有効打だったのだ。そしてそこに射影機がトドメを刺してかつての戦いは幕を閉じた。
射影機や波動砲と同じ効果は精神波動砲で与えられる。あの大精神体をなんとかゲンダーから引き剥がすことさえできれば、ためらうことなく精神波動砲でやつを撃ち抜くことができる。
あと残るのはパルス波、音だ。音による攻撃でなんとかゲンダーを助けられないだろうか。
「精神波動砲は強力な衝撃波だ。音で精神体の動きを止めることはできても、精神体を動かしてゲンダーから追い出すことはできない…」
こうして考えている間にも、飛行艇に向かって巨大な瓦礫がいくつも飛んでくる。メイヴはそれを頼まれた通りにひとつ残らず撃ち落としていく。
飛んでくる弾が大きいのでかわすのは一苦労だが、それを見落として予期しない一撃をもらう心配はない。また的が大きいのでそれを撃ち落とすことはそう難しくない。だが、それをすべて撃ち落とすとなれば話は変わってくる。
後方には避難してもらったフィーティン軍、そしてヘルツがいる。戦車隊は大部分がやられてしまっており、飛んでくる瓦礫を迎撃するには厳しい状況だ。それにゲンダーごと撃つべきだという戦いのベテランの意見を退けさせてまで別の方法を考えるという決断をしたのだ。これ以上の迷惑はかけられない。敵の攻撃を一発も後ろへ通すわけにはいかない。
そのとき艦体ががくんと大きく揺れた。飛行艇内に緊急事態を知らせる警告音が鳴り響く。
『くっ。左舷後方被弾しました!』
「大丈夫か!?」
『ご安心を、かすっただけです。しかし…』
瓦礫をかすめたことで飛行艇は大きくバランスを崩し、後方へいくつかの瓦礫を通してしまった。瓦礫は後方のフィーティン軍を襲い、戦車の一台をいとも簡単にスクラップにしてしまった。
飛行艇は迎撃を続けつつなんとか体勢を持ち直したようだが、後衛に被害を出してしまった。それにかすっただけでこの威力。もう一発もらえば次も無事とはとても言い切れない。
あまり悩んでいる暇はない。すぐにでも妙案を出さなければ。しかしどうすればゲンダーを救えるのか。焦りは精神を揺さぶり正常な思考を困難にする。急げ、でも落ち付け。こんなときに落ち着いていられるか。
「ああぁぁあぁっ!! くそっ、どうすれば…!!」
頭の中で思考が堂々と巡り空回りする。とうとうガイストは頭を抱え込んでしまった。
『ガイスト、落ち着いてください!』
気遣うメイヴの言葉が遠隔モニタに表示される。が、それはガイストの視界に入っていない。
『これは困りましたね…。どうやらガイストの頭脳がクラッシュしてしまった様子。こういう場合は再起動してやるのが手っ取り早いのですが、人間を再起動することはできませんからね。……仕方ない、ならばショック療法です』
次の瞬間、再び艦体が大きく揺れた。
「わっ、また被弾か!?」
飛行艇のすぐ脇を巨大な瓦礫が通過していった。だが撃ち漏らしたのでも被弾したのでもない。
メイヴはすぐに艦体をひるがえすと、通行を許した瓦礫を撃ち落としさらに反転。神業が如き制御で迫り来る瓦礫をひとつ残らず撃墜。少々バランスを崩してしまったがこんどもなんとかもち直すことができた。
『損害がでない程度に見切り、かすり、グレイズしてやっただけですよ。目が覚めましたか、ガイスト』
「一体何を…。無茶をするんだな、君は」
『でもこれでようやく私の話を聞いてくれますね? まだ諦めるのは早いですよ、ガイスト』
「何を言う、僕は諦めてなんか…! 必死に考えてる! すぐにでも方法を見つけないと…」
『だから落ち着いてください! 焦りは禁物です。必ず方法はあります。たとえ万にひとつでも、億にひとつだろうと、諦めない限り可能性はあります! ゲンダーを救える可能性は0%ではありません!』
「わ、わかってる。でもどうやってもゲンダーから精神体を追い出す手段が思い付かないんだ!」
ガイストは再び両手で頭を押さえている。このままではまたクラッシュしてしまうだろう。だがそう何度も危険を顧みずにショック療法を用いることはできない。順調に瓦礫を撃墜しているように見えたが、その反応速度は徐々に鈍ってきているのをメイヴは感じていた。さっきの被弾が思った以上に影響しているらしく、これ以上戦いを長引かせると後方を守り切ることができないだろうことは目に見えている。
(悔しいですが精神体に関しての知識はガイストのほうが上です。私はデータ上に記されている以上のことについて精神体を知らない。ここはなんとしても彼に解決策を見出してもらわなければ。メイヴ、ガイストを信じてください!)
そこでメイヴはこう伝えた。
『それでは発想を逆転させるのはどうですか』
「発想の……逆転?」
『そうです。つまり”どうやってゲンダーから精神体を追い出すか”ではなく、”どうやって精神体からゲンダーを引き離すか”! さぁ、そこから見えてくるムジュンを運命の裁判長に突き付けてやるのです! ゲンダーが犠牲になる結末なんて「異議あり!」と腹の底から、しかも人差し指まで突き付けて!!』
「矛盾だとか裁判長だとか、何の事だか僕にはよくわからないが……なるほど。ゲンダーを精神体から引き離す方法か…!」
ガイストの瞳に光が戻った。それを確認するとメイヴは安心して迎撃に意識を集中させるのだった。
(これでもう大丈夫、きっとガイストならやってくれます。彼は信頼するに値する仲間なのですから!)
しばらく防戦が続いた。だがこの男はメイヴが信じた通り、その信頼を裏切るようなことはしなかった。
そしておもむろに、しかし唐突に、弾かれたように叫んだ。
「そうだ…!!」
彼の脳内にインパルスが発生し鋭く電流が走る。頭上に電球があったなら、それは激しく輝いただろう。
そして小さな声で独りごちた。「これならきっと……だがうまくいくかどうか……いや、ゼロでない限り可能性はある…か」
思わず声をかけたくなる衝動を抑えつつメイヴはガイストの次の言葉を待った。ここで不用意に話しかけて彼の意識をそらしてしまってはいけない。せっかくの閃きを無駄にしてしまってはいけない。
信じて待とう。余計なことをして邪魔をしたりはしない。彼が最良の方法を見つけることを祈ろう。
ガイストは難しそうな顔をして考え込んでいた。それはもう方法が見つからずに悩んでいる顔ではなかったが、どうやらその方法には何か問題があるらしかった。
だがあまり悩んでいる時間がないこともよくわかっている。少しして、ガイストは何かを決意した様子で静かに口を開いた。
「メイヴ、お願いがある」
それはさっきまでの焦りを見せていたガイストとは打って変わって、とても落ち着いた様子だった。
『おや、今回はあなたのほうからお願いですか。なんですか? 私はいつでも覚悟はできていますよ』
「理解してくれるなら話が早い。実は……」
なんとしてでもゲンダーを犠牲にしたりはしない。たとえ何と引き換えであっても。
ガイストはゲンダーを救いだし、かつ精神体を倒す秘策を説明した。その間、彼の顔色は晴れない様子だった。
「……ということなんだが」
『なるほど。それならきっとゲンダーを救えるでしょう。ですが、あなたも無事ではすみませんよ。それでも……よろしいのですね?』
「僕も覚悟はできてる」
『……それがあなたの選択なのですね。わかりました、救いましょう。ゲンダーを、そしてこの世界を!』
たとえどんなに大きくてもあれは精神体。弱点が音と射影機であることには変わりない。
思い出せ。かつての戦争……鯰との戦いのときだってそうだったじゃないか。敵は精神体、瓦礫を使っての攻防一体の戦法、規模こそ違うが状況は同じだ。そしてそれを打ち倒したのはメイヴの波動砲だった。あのときメイヴは精神体とどう戦っていた?
そうだ。メイヴはまず音響手榴弾をばら撒き、敵の注意を引こうとしたのだ。だがそれは予期しない結果を生んだ。そう、精神体の弱点とは音だったのだ。そこで初めて僕たちは精神体の弱点を知ることになったのだ。
そして身動きが取れなくなった隙を突いて、メイヴは波動砲を使って自らを犠牲に精神体を撃ち抜いた。それは精神体を守る瓦礫を一気に吹き飛ばすための策だったが、これも良い意味で予想外の結果を生んだ。波動砲……つまり衝撃波は空気との摩擦で強烈なパルス波を生じさせる。パルス波とは音の振動の一種、すなわちこれも精神体には有効打だったのだ。そしてそこに射影機がトドメを刺してかつての戦いは幕を閉じた。
射影機や波動砲と同じ効果は精神波動砲で与えられる。あの大精神体をなんとかゲンダーから引き剥がすことさえできれば、ためらうことなく精神波動砲でやつを撃ち抜くことができる。
あと残るのはパルス波、音だ。音による攻撃でなんとかゲンダーを助けられないだろうか。
「精神波動砲は強力な衝撃波だ。音で精神体の動きを止めることはできても、精神体を動かしてゲンダーから追い出すことはできない…」
こうして考えている間にも、飛行艇に向かって巨大な瓦礫がいくつも飛んでくる。メイヴはそれを頼まれた通りにひとつ残らず撃ち落としていく。
飛んでくる弾が大きいのでかわすのは一苦労だが、それを見落として予期しない一撃をもらう心配はない。また的が大きいのでそれを撃ち落とすことはそう難しくない。だが、それをすべて撃ち落とすとなれば話は変わってくる。
後方には避難してもらったフィーティン軍、そしてヘルツがいる。戦車隊は大部分がやられてしまっており、飛んでくる瓦礫を迎撃するには厳しい状況だ。それにゲンダーごと撃つべきだという戦いのベテランの意見を退けさせてまで別の方法を考えるという決断をしたのだ。これ以上の迷惑はかけられない。敵の攻撃を一発も後ろへ通すわけにはいかない。
そのとき艦体ががくんと大きく揺れた。飛行艇内に緊急事態を知らせる警告音が鳴り響く。
『くっ。左舷後方被弾しました!』
「大丈夫か!?」
『ご安心を、かすっただけです。しかし…』
瓦礫をかすめたことで飛行艇は大きくバランスを崩し、後方へいくつかの瓦礫を通してしまった。瓦礫は後方のフィーティン軍を襲い、戦車の一台をいとも簡単にスクラップにしてしまった。
飛行艇は迎撃を続けつつなんとか体勢を持ち直したようだが、後衛に被害を出してしまった。それにかすっただけでこの威力。もう一発もらえば次も無事とはとても言い切れない。
あまり悩んでいる暇はない。すぐにでも妙案を出さなければ。しかしどうすればゲンダーを救えるのか。焦りは精神を揺さぶり正常な思考を困難にする。急げ、でも落ち付け。こんなときに落ち着いていられるか。
「ああぁぁあぁっ!! くそっ、どうすれば…!!」
頭の中で思考が堂々と巡り空回りする。とうとうガイストは頭を抱え込んでしまった。
『ガイスト、落ち着いてください!』
気遣うメイヴの言葉が遠隔モニタに表示される。が、それはガイストの視界に入っていない。
『これは困りましたね…。どうやらガイストの頭脳がクラッシュしてしまった様子。こういう場合は再起動してやるのが手っ取り早いのですが、人間を再起動することはできませんからね。……仕方ない、ならばショック療法です』
次の瞬間、再び艦体が大きく揺れた。
「わっ、また被弾か!?」
飛行艇のすぐ脇を巨大な瓦礫が通過していった。だが撃ち漏らしたのでも被弾したのでもない。
メイヴはすぐに艦体をひるがえすと、通行を許した瓦礫を撃ち落としさらに反転。神業が如き制御で迫り来る瓦礫をひとつ残らず撃墜。少々バランスを崩してしまったがこんどもなんとかもち直すことができた。
『損害がでない程度に見切り、かすり、グレイズしてやっただけですよ。目が覚めましたか、ガイスト』
「一体何を…。無茶をするんだな、君は」
『でもこれでようやく私の話を聞いてくれますね? まだ諦めるのは早いですよ、ガイスト』
「何を言う、僕は諦めてなんか…! 必死に考えてる! すぐにでも方法を見つけないと…」
『だから落ち着いてください! 焦りは禁物です。必ず方法はあります。たとえ万にひとつでも、億にひとつだろうと、諦めない限り可能性はあります! ゲンダーを救える可能性は0%ではありません!』
「わ、わかってる。でもどうやってもゲンダーから精神体を追い出す手段が思い付かないんだ!」
ガイストは再び両手で頭を押さえている。このままではまたクラッシュしてしまうだろう。だがそう何度も危険を顧みずにショック療法を用いることはできない。順調に瓦礫を撃墜しているように見えたが、その反応速度は徐々に鈍ってきているのをメイヴは感じていた。さっきの被弾が思った以上に影響しているらしく、これ以上戦いを長引かせると後方を守り切ることができないだろうことは目に見えている。
(悔しいですが精神体に関しての知識はガイストのほうが上です。私はデータ上に記されている以上のことについて精神体を知らない。ここはなんとしても彼に解決策を見出してもらわなければ。メイヴ、ガイストを信じてください!)
そこでメイヴはこう伝えた。
『それでは発想を逆転させるのはどうですか』
「発想の……逆転?」
『そうです。つまり”どうやってゲンダーから精神体を追い出すか”ではなく、”どうやって精神体からゲンダーを引き離すか”! さぁ、そこから見えてくるムジュンを運命の裁判長に突き付けてやるのです! ゲンダーが犠牲になる結末なんて「異議あり!」と腹の底から、しかも人差し指まで突き付けて!!』
「矛盾だとか裁判長だとか、何の事だか僕にはよくわからないが……なるほど。ゲンダーを精神体から引き離す方法か…!」
ガイストの瞳に光が戻った。それを確認するとメイヴは安心して迎撃に意識を集中させるのだった。
(これでもう大丈夫、きっとガイストならやってくれます。彼は信頼するに値する仲間なのですから!)
しばらく防戦が続いた。だがこの男はメイヴが信じた通り、その信頼を裏切るようなことはしなかった。
そしておもむろに、しかし唐突に、弾かれたように叫んだ。
「そうだ…!!」
彼の脳内にインパルスが発生し鋭く電流が走る。頭上に電球があったなら、それは激しく輝いただろう。
そして小さな声で独りごちた。「これならきっと……だがうまくいくかどうか……いや、ゼロでない限り可能性はある…か」
思わず声をかけたくなる衝動を抑えつつメイヴはガイストの次の言葉を待った。ここで不用意に話しかけて彼の意識をそらしてしまってはいけない。せっかくの閃きを無駄にしてしまってはいけない。
信じて待とう。余計なことをして邪魔をしたりはしない。彼が最良の方法を見つけることを祈ろう。
ガイストは難しそうな顔をして考え込んでいた。それはもう方法が見つからずに悩んでいる顔ではなかったが、どうやらその方法には何か問題があるらしかった。
だがあまり悩んでいる時間がないこともよくわかっている。少しして、ガイストは何かを決意した様子で静かに口を開いた。
「メイヴ、お願いがある」
それはさっきまでの焦りを見せていたガイストとは打って変わって、とても落ち着いた様子だった。
『おや、今回はあなたのほうからお願いですか。なんですか? 私はいつでも覚悟はできていますよ』
「理解してくれるなら話が早い。実は……」
なんとしてでもゲンダーを犠牲にしたりはしない。たとえ何と引き換えであっても。
ガイストはゲンダーを救いだし、かつ精神体を倒す秘策を説明した。その間、彼の顔色は晴れない様子だった。
「……ということなんだが」
『なるほど。それならきっとゲンダーを救えるでしょう。ですが、あなたも無事ではすみませんよ。それでも……よろしいのですね?』
「僕も覚悟はできてる」
『……それがあなたの選択なのですね。わかりました、救いましょう。ゲンダーを、そしてこの世界を!』
頭上を見上げる。上空では飛行艇と大精神体との戦いが続いていた。
敵が放った瓦礫の弾丸を飛行艇はほとんど撃ち漏らすこともなく迎撃していく。いくつかはこちらに降り注いだが、それでもあの量の大部分を撃ち落としている。並大抵の操縦及び射撃技術ではないとフィーティン軍の兵士たちは囁き合っている。
ヘルツは終わりの見えない戦いの様子を心配そうに指揮戦車の中から見守っていた。戦況はさっきからまるで防戦一方だ。さらに敵の攻撃を受けて二度も飛行艇が大きく揺れた。このままでは落とされるのも時間の問題だろう。
「ガイスト、大丈夫なのか!? これ以上は無茶だ! 無理はするな、精神波動砲を使え! 何か方法が思い付かなくても俺はおまえを責めたりしない。それよりもおまえの身が心配だ!」
先ほどから何度も連絡は送っている。すでに何度か連絡を送り合っているのだから、こちらの言葉がしっかり届いていることはよくわかっている。しかしガイストからの返事は全くない。そんな状態がますます彼の身を案じさせる。
するとそのとき、飛行艇から黒い煙が立ち上り始めた。
「な、なんだ!? まさかやられたのか! ガイスト、ガイストーッ!!」
敵が放った瓦礫の弾丸を飛行艇はほとんど撃ち漏らすこともなく迎撃していく。いくつかはこちらに降り注いだが、それでもあの量の大部分を撃ち落としている。並大抵の操縦及び射撃技術ではないとフィーティン軍の兵士たちは囁き合っている。
ヘルツは終わりの見えない戦いの様子を心配そうに指揮戦車の中から見守っていた。戦況はさっきからまるで防戦一方だ。さらに敵の攻撃を受けて二度も飛行艇が大きく揺れた。このままでは落とされるのも時間の問題だろう。
「ガイスト、大丈夫なのか!? これ以上は無茶だ! 無理はするな、精神波動砲を使え! 何か方法が思い付かなくても俺はおまえを責めたりしない。それよりもおまえの身が心配だ!」
先ほどから何度も連絡は送っている。すでに何度か連絡を送り合っているのだから、こちらの言葉がしっかり届いていることはよくわかっている。しかしガイストからの返事は全くない。そんな状態がますます彼の身を案じさせる。
するとそのとき、飛行艇から黒い煙が立ち上り始めた。
「な、なんだ!? まさかやられたのか! ガイスト、ガイストーッ!!」
船体は悲鳴を上げている。
計器は振り切れ、警告音が鳴り響き、操縦室は点灯するランプの赤に染まる。
「頼む。もう少し堪えてくれよ…」
『出力30000% 準備完了です』
「よし、やってくれ!」
『300倍インパルス砲発射!』
世界が白と黒の二色に染まる。少し遅れてから轟音が響き渡り大地を揺らす。激しい閃光は全てを呑み込み、その凄まじい衝撃は大地に地割れを起こすほどだった。その反動で飛行艇も無事ではない。外装はほとんどが剥がれおち、艦体を支える骨組みが露わになった。もう飛んでいるのが奇跡とも思えるほどだ。
前方では大きな音を立ててゲンダー後方に構える礫塊が崩れ落ちた。ゲンダーを覆う蒼黒いオーラに白い火花が飛んでいる。ブラックボックスの力により極限まで引き上げられた砲撃は、ついにあの巨大な精神体の動きを止めることに成功したのだ。
だがまだ終わりじゃない。麻痺させることには成功したが、あの精神体はまだゲンダーを呑み込んだままでいる。
「最大出力のインパルス砲でもだめか。ではやはり直接精神体に干渉してゲンダーを切り離すしかないな。メイヴ、手筈はわかっているな」
『もちろんです! もう後悔したって遅いですよ、ガイスト』
「無論承知の上だ。メイヴ、精神波動砲発射用意!」
『了解! セーフティロック解除。ターゲットスコープオープン。電影クロスゲージ明度20。対ショック対閃光シールド展開。最終セーフティ解除』
「精神波動砲発射!!」
再びの閃光と轟音。その衝撃波は地上にまで到達し、指揮戦車を大きく揺らした。
フィーティンの兵士たちは戦車の狭いハッチから誰もが身を乗り出してその戦況を見守っていた。そしてその中にはヘルツの姿も。強烈な風圧に思わず目を閉じそうになるが、それに耐えてこの戦いの結末を見守り続ける。
飛行艇から放たれた精神波動砲はまっすぐにゲンダーのほうへと迫る。
「それでいい…。ガイスト、おまえはよくやった…!」
ゲンダーは機械だ。壊れてもおまえならまた直してやれる。
これは仕方がないことなんだ。決して無駄な犠牲ではない。
だがこれでついに世界は救われる。長かった戦いは終わる。
敵は精神波動砲を受けて掻き消され、ゲンダーの尊い犠牲と引き換えに精神体暴走の脅威は去り世界は救われた――と誰もが思った。その瞬間を誰もが信じて見守った。
だがその目に映ったのは希望ではない。
「そんな!?」
「こんなのって……ないだろ!」
「嘘だろ…。この戦いが終わったら俺、結婚するはずだったのに!」
望みは絶たれた。絶望の声が兵士たちの口から次々に零れた。
大精神体は麻痺して動けないはずだった。そんなことがあるわけがない。ましてやさっきまでの瓦礫の弾丸を迎撃した操縦能力、的中率をもってしてこんな結果になるわけがない。だが……
「外した……だと……」
ヘルツは目を疑った。
精神波動砲は一発限りの最後の切り札。その一撃のみが精神体にトドメを刺し葬り去ることができるのだ。
外すことなど許されない。すべての者の想いと希望を託した極限の一撃だ。それを外すなんて……そんな結末があってたまるものか。
そうだ、あれは残像だ。あまりの激しい閃光に大精神体の映像が視界に焼き付いているだけに違いない。そう信じて強くまぶたを閉じる。目を開けるのが怖い。もしまだあの悪魔がそこにいたらそのときは……。そして恐る恐るまぶたを開く。
だが何度目を閉じても擦っても頭を振っても叩いてもあの悪魔は消えない絶えない失われない。めまいがする汗が止まらない動悸が収まらない。全身から血の気が引いていく。力が抜けていく。
「もう……もうおしまいだ。俺たちはもう終……」
「終わってなんかいない!!!」
この声は。
無事だった。あの男は無事だった。
待ち望んでいた返事だった。
「ガイスト…!!」
「安心しろ。これも作戦のうちだ」
「そ、そうなのか!? 精神波動砲は一発限りの大技だったはずだが……大丈夫なのか!?」
「ヘルツ、僕を信じろ」
「何か策があるんだな? わかった、俺はおまえを信じてるぞ」
「最後にその言葉が聞けてよかった。……ありがとう」
「ガ、ガイスト!?」
それっきりガイストから連絡が来ることはもう二度となかった。
計器は振り切れ、警告音が鳴り響き、操縦室は点灯するランプの赤に染まる。
「頼む。もう少し堪えてくれよ…」
『出力30000% 準備完了です』
「よし、やってくれ!」
『300倍インパルス砲発射!』
世界が白と黒の二色に染まる。少し遅れてから轟音が響き渡り大地を揺らす。激しい閃光は全てを呑み込み、その凄まじい衝撃は大地に地割れを起こすほどだった。その反動で飛行艇も無事ではない。外装はほとんどが剥がれおち、艦体を支える骨組みが露わになった。もう飛んでいるのが奇跡とも思えるほどだ。
前方では大きな音を立ててゲンダー後方に構える礫塊が崩れ落ちた。ゲンダーを覆う蒼黒いオーラに白い火花が飛んでいる。ブラックボックスの力により極限まで引き上げられた砲撃は、ついにあの巨大な精神体の動きを止めることに成功したのだ。
だがまだ終わりじゃない。麻痺させることには成功したが、あの精神体はまだゲンダーを呑み込んだままでいる。
「最大出力のインパルス砲でもだめか。ではやはり直接精神体に干渉してゲンダーを切り離すしかないな。メイヴ、手筈はわかっているな」
『もちろんです! もう後悔したって遅いですよ、ガイスト』
「無論承知の上だ。メイヴ、精神波動砲発射用意!」
『了解! セーフティロック解除。ターゲットスコープオープン。電影クロスゲージ明度20。対ショック対閃光シールド展開。最終セーフティ解除』
「精神波動砲発射!!」
再びの閃光と轟音。その衝撃波は地上にまで到達し、指揮戦車を大きく揺らした。
フィーティンの兵士たちは戦車の狭いハッチから誰もが身を乗り出してその戦況を見守っていた。そしてその中にはヘルツの姿も。強烈な風圧に思わず目を閉じそうになるが、それに耐えてこの戦いの結末を見守り続ける。
飛行艇から放たれた精神波動砲はまっすぐにゲンダーのほうへと迫る。
「それでいい…。ガイスト、おまえはよくやった…!」
ゲンダーは機械だ。壊れてもおまえならまた直してやれる。
これは仕方がないことなんだ。決して無駄な犠牲ではない。
だがこれでついに世界は救われる。長かった戦いは終わる。
敵は精神波動砲を受けて掻き消され、ゲンダーの尊い犠牲と引き換えに精神体暴走の脅威は去り世界は救われた――と誰もが思った。その瞬間を誰もが信じて見守った。
だがその目に映ったのは希望ではない。
「そんな!?」
「こんなのって……ないだろ!」
「嘘だろ…。この戦いが終わったら俺、結婚するはずだったのに!」
望みは絶たれた。絶望の声が兵士たちの口から次々に零れた。
大精神体は麻痺して動けないはずだった。そんなことがあるわけがない。ましてやさっきまでの瓦礫の弾丸を迎撃した操縦能力、的中率をもってしてこんな結果になるわけがない。だが……
「外した……だと……」
ヘルツは目を疑った。
精神波動砲は一発限りの最後の切り札。その一撃のみが精神体にトドメを刺し葬り去ることができるのだ。
外すことなど許されない。すべての者の想いと希望を託した極限の一撃だ。それを外すなんて……そんな結末があってたまるものか。
そうだ、あれは残像だ。あまりの激しい閃光に大精神体の映像が視界に焼き付いているだけに違いない。そう信じて強くまぶたを閉じる。目を開けるのが怖い。もしまだあの悪魔がそこにいたらそのときは……。そして恐る恐るまぶたを開く。
だが何度目を閉じても擦っても頭を振っても叩いてもあの悪魔は消えない絶えない失われない。めまいがする汗が止まらない動悸が収まらない。全身から血の気が引いていく。力が抜けていく。
「もう……もうおしまいだ。俺たちはもう終……」
「終わってなんかいない!!!」
この声は。
無事だった。あの男は無事だった。
待ち望んでいた返事だった。
「ガイスト…!!」
「安心しろ。これも作戦のうちだ」
「そ、そうなのか!? 精神波動砲は一発限りの大技だったはずだが……大丈夫なのか!?」
「ヘルツ、僕を信じろ」
「何か策があるんだな? わかった、俺はおまえを信じてるぞ」
「最後にその言葉が聞けてよかった。……ありがとう」
「ガ、ガイスト!?」
それっきりガイストから連絡が来ることはもう二度となかった。
『成功です! 波動砲の衝撃でゲンダーが精神体から切り離されました!』
「よかった。これでもう何も迷うことはない。メイヴ……行けッ!!」
『合点承知です! うぉぉおおおぉおおおおっ!!』
ブラックボックスが漆黒に輝きエンジンが呻り声を上げる。飛行艇の操作盤から次々と火花が飛び散り、あちこちでガラスが割れ破裂音が聞こえ鮫が最期の咆哮を上げる。
次の瞬間、空には一閃が描かれた。
鮫は一直線に精神体へと突撃。ブラックボックス出力全開。動力、燃料、そして信じる心。全てのエネルギーを力に変えて放つ最後の一撃。
――精神波動砲零距離発射!!
大精神体に鮫が突き刺さる。と同時に機体が爆発。鮫の爆発とともに精神波が辺り一面に響き渡り、空には超弩級の波紋が広がる。漆黒の波紋は大精神体及び世界中全ての精神体、精神兵器をも呑み込みかき消した。
波紋とともに蒼黒く染まっていた雲は消し飛び、ヴェルスタンドの空には希望の明かりが灯った。
戦場は静寂に包み込まれた。
「よかった。これでもう何も迷うことはない。メイヴ……行けッ!!」
『合点承知です! うぉぉおおおぉおおおおっ!!』
ブラックボックスが漆黒に輝きエンジンが呻り声を上げる。飛行艇の操作盤から次々と火花が飛び散り、あちこちでガラスが割れ破裂音が聞こえ鮫が最期の咆哮を上げる。
次の瞬間、空には一閃が描かれた。
鮫は一直線に精神体へと突撃。ブラックボックス出力全開。動力、燃料、そして信じる心。全てのエネルギーを力に変えて放つ最後の一撃。
――精神波動砲零距離発射!!
大精神体に鮫が突き刺さる。と同時に機体が爆発。鮫の爆発とともに精神波が辺り一面に響き渡り、空には超弩級の波紋が広がる。漆黒の波紋は大精神体及び世界中全ての精神体、精神兵器をも呑み込みかき消した。
波紋とともに蒼黒く染まっていた雲は消し飛び、ヴェルスタンドの空には希望の明かりが灯った。
戦場は静寂に包み込まれた。
もう悪魔の姿を見ることはなかった。今度こそ本当に悪夢は終わったのだ。
荒れ果てたヴェルスタンドには避難していた新大統領や住民たちが戻り、フィーティン王の協力の下で復興作業が行われていた。
吹き飛ばされていたゲンダーは戦場から数キロ離れた場所で発見された。
精神波動砲は外れたのではない、わざと外したのだ。この一撃は精神体を葬り去る強力な一撃だが、強力すぎるがゆえに生きる者の精神すらも破壊してしまいかねなかった。それは感情を備える機械であるゲンダーも例外ではなかった。
そこで敢えて直撃を避け大精神体にその一撃をかすらせることで、ゲンダーへの影響を最小限に抑えつつその衝撃波でゲンダーを吹き飛ばして精神体の支配から解放したのだ。
そして艦体がもたないことをわかっていながら危険を承知で二度目の精神波動砲に踏み切ったのだった。
戦いが終わって無事に意識を取り戻したゲンダーはヘルツから事の次第を聞かされた。
「ガイストは?」
「まだ見つかっていない。もしかしたらもう…」
ブラックボックスと共にガイストは消息を絶った。後に残骸となった飛行艇や瓦礫の山の捜索が行われたが、そこからは誰の姿も見つかることはなかった。骨のひと欠片も、指の一本でさえも。
「馬鹿やろう、ガイスト…! 俺たちを守るためとはいえ……何もそこまですることはなかったのに……!」
目に涙を溜めて悔しそうに拳を握りしめるヘルツ。それとは対照的に、ゲンダーの表情は明るかった。
「オレはあいつの気持ちはよくわかるぜ。オレがガイストの立場だったらきっと同じようにしていたダろうからな」
「だがあの爆発に巻き込まれたんだぞ。うまく脱出していたとしてもあの高さだったし、それだと精神波動砲をもろに受けることになる。もし生きていたとしてもガイストの精神が無事かどうか…」
「いや、あいつなら大丈夫ダ。オレはガイストを信じてる。それにメイヴも一緒なんダ。きっと助かってるさ」
ゲンダーは胸を叩いて自信ありげに言った。
「どうしてそこまで言い切れる。根拠はあるのか?」
「このオレが言うんダ。大丈夫に決まってる! それにあいつらのことダ。いつかきっとひょっこり戻ってきてくれるさ」
ガイストもメイヴも信頼できる仲間だ。
だからこそ、きっと大丈夫。ゲンダーはそう信じていた。
「だからヘルツ、オレを信じてくれ」
荒れ果てたヴェルスタンドには避難していた新大統領や住民たちが戻り、フィーティン王の協力の下で復興作業が行われていた。
吹き飛ばされていたゲンダーは戦場から数キロ離れた場所で発見された。
精神波動砲は外れたのではない、わざと外したのだ。この一撃は精神体を葬り去る強力な一撃だが、強力すぎるがゆえに生きる者の精神すらも破壊してしまいかねなかった。それは感情を備える機械であるゲンダーも例外ではなかった。
そこで敢えて直撃を避け大精神体にその一撃をかすらせることで、ゲンダーへの影響を最小限に抑えつつその衝撃波でゲンダーを吹き飛ばして精神体の支配から解放したのだ。
そして艦体がもたないことをわかっていながら危険を承知で二度目の精神波動砲に踏み切ったのだった。
戦いが終わって無事に意識を取り戻したゲンダーはヘルツから事の次第を聞かされた。
「ガイストは?」
「まだ見つかっていない。もしかしたらもう…」
ブラックボックスと共にガイストは消息を絶った。後に残骸となった飛行艇や瓦礫の山の捜索が行われたが、そこからは誰の姿も見つかることはなかった。骨のひと欠片も、指の一本でさえも。
「馬鹿やろう、ガイスト…! 俺たちを守るためとはいえ……何もそこまですることはなかったのに……!」
目に涙を溜めて悔しそうに拳を握りしめるヘルツ。それとは対照的に、ゲンダーの表情は明るかった。
「オレはあいつの気持ちはよくわかるぜ。オレがガイストの立場だったらきっと同じようにしていたダろうからな」
「だがあの爆発に巻き込まれたんだぞ。うまく脱出していたとしてもあの高さだったし、それだと精神波動砲をもろに受けることになる。もし生きていたとしてもガイストの精神が無事かどうか…」
「いや、あいつなら大丈夫ダ。オレはガイストを信じてる。それにメイヴも一緒なんダ。きっと助かってるさ」
ゲンダーは胸を叩いて自信ありげに言った。
「どうしてそこまで言い切れる。根拠はあるのか?」
「このオレが言うんダ。大丈夫に決まってる! それにあいつらのことダ。いつかきっとひょっこり戻ってきてくれるさ」
ガイストもメイヴも信頼できる仲間だ。
だからこそ、きっと大丈夫。ゲンダーはそう信じていた。
「だからヘルツ、オレを信じてくれ」
ガイストのことなら大丈夫です。いつか必ず無事で帰って来ます。
心配は要りませんよ。だって、この私がついているのですからね。
心配は要りませんよ。だって、この私がついているのですからね。