母さんを拉致しよう/姉、ちゃんとしようよ ◆7ediZa7/Ag
マシュと共に駆ける村山は思う。
この殺し合いの島、闇夜に上がった火の手を見て真っ先に駆け出したこの少女は、やはり何かがおかしい。
この殺し合いの島、闇夜に上がった火の手を見て真っ先に駆け出したこの少女は、やはり何かがおかしい。
──いや、やっぱ変でしょ。
と、村山は自分のことを棚に上げて思っていた。
村山としては別にあの場所に向かうことに異論がある訳ではないし、マシュが言い出さずとも向かっていたような気がする。
村山としては別にあの場所に向かうことに異論がある訳ではないし、マシュが言い出さずとも向かっていたような気がする。
まぁ実際、SWORDならこの局面でノータイムで危険地帯に突っ込む奴も結構いるだろう。
だがそれはSWORDの荒くれ者だからであり、こんな華奢な少女とは違う人種だ。
いや、苺美瑠狂<いちごミルク>の連中ならそうでもないのか。
とはいえぱっと見、このマシュという少女と、あの苺美瑠狂もまた違う人種な気がするし、やっぱり変だ。
だがそれはSWORDの荒くれ者だからであり、こんな華奢な少女とは違う人種だ。
いや、苺美瑠狂<いちごミルク>の連中ならそうでもないのか。
とはいえぱっと見、このマシュという少女と、あの苺美瑠狂もまた違う人種な気がするし、やっぱり変だ。
そういえば比喩でなく、本当に顔立ちも外国人っぽくて、人種が違う気がする。
流暢な日本語を話すせいでなんとなく流していたが、村山は今更そんなことに気づいた。
日本に居ついているマイティの奴らでさえ訛りがあるのに、勉強熱心な外人さんだと思う。大学を出ているのかもしれない。
流暢な日本語を話すせいでなんとなく流していたが、村山は今更そんなことに気づいた。
日本に居ついているマイティの奴らでさえ訛りがあるのに、勉強熱心な外人さんだと思う。大学を出ているのかもしれない。
「あの炎、爆弾でしょうか? 見えた炎の規模からしてエリア一つ分ほどの距離があると推定します。
ならここからだと──」
ならここからだと──」
加えてマシュはどっかのメガネかけた転校生と違って、己の力を過信し向こう見ずに突っ込んでいるようにも見えない。
事を冷静に分析する様は苺美瑠狂の三倍はIQがありそうだ。何ならそれでも足らないかもしれない。
事を冷静に分析する様は苺美瑠狂の三倍はIQがありそうだ。何ならそれでも足らないかもしれない。
村山も相当な場数をくぐってきたつもりだが、この少女は少女で村山の知らない世界を知っているのだろう。
こんなゴツい装備をためらいもなく使うくらいだから、戦場に近しい場所にいたことは、村山はなんとなく察することができた。
とすると、やはり近いのはマイティか。あの連中、元傭兵とかいるらしいし。
もしかすると外国では戦場を経験するのは当たり前なんだろうか。銃社会って言うしな。やべえすごい。
こんなゴツい装備をためらいもなく使うくらいだから、戦場に近しい場所にいたことは、村山はなんとなく察することができた。
とすると、やはり近いのはマイティか。あの連中、元傭兵とかいるらしいし。
もしかすると外国では戦場を経験するのは当たり前なんだろうか。銃社会って言うしな。やべえすごい。
──まぁだから、わかるよ。強いんでしょ。
村山はマシュのことを、素直にそう認めていた。
明言こそしていなかったが、要するにマシュはあの“鬼”から村山を助けたのだ。
同僚とか言っていたし、二人の関係はまでは掴めないが、村山が一方的に打ちのめされた相手と対等に付き合える関係らしい。
明言こそしていなかったが、要するにマシュはあの“鬼”から村山を助けたのだ。
同僚とか言っていたし、二人の関係はまでは掴めないが、村山が一方的に打ちのめされた相手と対等に付き合える関係らしい。
少女に守られるような形になってしまったことに情けないと思う気持ちもなくはない。
だが結局、それは負けた自分、弱かった自分が悪いのだ。
だから、マシュを女だからとかそんな理由で止める気はなかった。
だが結局、それは負けた自分、弱かった自分が悪いのだ。
だから、マシュを女だからとかそんな理由で止める気はなかった。
──別に、拳が強けりゃ何かできるって訳でもねーんだけどさ。
◇
マシュと村山がその少年を見つけたのは、それからしばらくしてからだった。
彼はズタボロ、という表現がよく似合う状態であり、身にまとう学生服は裂け、顔には生々しい傷跡が見えた。
自分で応急手当てをしたのか顔には包帯がぐるぐると巻かれているが、あまり意味があるようには見えない。
「う……」と顔はうめき少年はあげ、悲痛に顔をしかめていた。
彼はズタボロ、という表現がよく似合う状態であり、身にまとう学生服は裂け、顔には生々しい傷跡が見えた。
自分で応急手当てをしたのか顔には包帯がぐるぐると巻かれているが、あまり意味があるようには見えない。
「う……」と顔はうめき少年はあげ、悲痛に顔をしかめていた。
「大丈夫ですか!」
マシュがざっと彼に駆け寄り、その身を抱き上げる。
「どうしたんですか? ここで何があったんですか?」
「……ああ、うん。ちょっと、襲われてね」
「襲われた? それはさっきの爆発と何か関係があるのですか?」
「……ああ、うん。ちょっと、襲われてね」
「襲われた? それはさっきの爆発と何か関係があるのですか?」
傷が痛むのか顔を歪めながら、途切れ途切れの口調で少年はマシュの問いかけに答えようとする。
「あれは、そうだな──鬼、だったんじゃ、ないかな」
「それは……」
「それは……」
マシュがはっと息を呑むのがわかった。
同時に村山もまた目を細め、一人で声を漏らしていた。
同時に村山もまた目を細め、一人で声を漏らしていた。
「鬼、ね」
村山はその単語を反芻し、ぐっ、と拳を握り込んでいた。
彼にとって、その名を持つ者は因縁深い存在であった。
彼にとって、その名を持つ者は因縁深い存在であった。
「鬼? もしかして、酒呑さんがまた!? 位置的にはありえますが……」
「見た目は……小さな、子供、だったよ。和服を着てた、かな」
「それは──その鬼は今どこに?」
「あっち、だよ」
「見た目は……小さな、子供、だったよ。和服を着てた、かな」
「それは──その鬼は今どこに?」
「あっち、だよ」
荒い息を吐きながら少年は指を指す。
火の手が上がった方向であった。暗く沈んだ森が、彼の指差した先にはある。
火の手が上がった方向であった。暗く沈んだ森が、彼の指差した先にはある。
「頼む。俺の弟が、あっちにいるんだ。あの森に……」
「弟さんが!?」
「……ああ、うん、ここで会えた、弟が、まだ……」
「なーるほど」
「弟さんが!?」
「……ああ、うん、ここで会えた、弟が、まだ……」
「なーるほど」
村山はそこでかがみこみ、包帯の少年の顔を覗き込んだ。
「いいよ。俺ガキ嫌いだけどさ、お前の弟とやら助けに、いっちょ鬼退治行ってくるわ」
「村山さん?」
「鬼ってのがさっきの奴かまだわかんないけどさ、まぁさっそくリベンジマッチしよっかなって」
「村山さん?」
「鬼ってのがさっきの奴かまだわかんないけどさ、まぁさっそくリベンジマッチしよっかなって」
すっと村山は立ち上がる。
ポケットに手を突っ込み、首をコキコキと鳴らし、おもむろに少年が指をさした方向へと歩き始める。
一見して気だるげな様子であったが、その瞳には明瞭な戦意が宿っていた。
ポケットに手を突っ込み、首をコキコキと鳴らし、おもむろに少年が指をさした方向へと歩き始める。
一見して気だるげな様子であったが、その瞳には明瞭な戦意が宿っていた。
「あ! 村山さん、ちょっと待ってください」
「行かないでくれ」
「行かないでくれ」
歩き出した村山を追おうとしたマシュに、少年の手が絡みつく。
震える手つきで握られた掌をマシュは無下に振りほどくことはできない。
実際彼をこのまま放っておくわけにはいかない。
本来は安全な場所まで彼を移動させたいが、先に行ってしまった村山を援護する必要もある。
震える手つきで握られた掌をマシュは無下に振りほどくことはできない。
実際彼をこのまま放っておくわけにはいかない。
本来は安全な場所まで彼を移動させたいが、先に行ってしまった村山を援護する必要もある。
「立てますか? 肩を貸します」
そう冷静に分析をしたマシュは少年に声をかける。
見たところ彼は傷を負っているが、命に関わるほどの重傷でもないようだった。
そう判断し、マシュは彼を守りながら戦うことを選んでいた。
「ありがとう」と少年は言って、マシュに支えられる形で立ち上がった。
見たところ彼は傷を負っているが、命に関わるほどの重傷でもないようだった。
そう判断し、マシュは彼を守りながら戦うことを選んでいた。
「ありがとう」と少年は言って、マシュに支えられる形で立ち上がった。
「大丈夫ですか? 無理はしないでくださいね。弟さんは、私たちが助けますから」
「────」
「ところでさっきおっしゃっていた鬼について、お聞きしてもいいですか?
ええと、その、角のようなものが生えていたとか、京言葉を使っていたとか──」
「────」
「ところでさっきおっしゃっていた鬼について、お聞きしてもいいですか?
ええと、その、角のようなものが生えていたとか、京言葉を使っていたとか──」
と、少年に問いかける最中はマシュは不意に奇妙な視線を感じた。
少年だった。彼はマシュの問いかけに答えることなく、マシュの顔を──正確に言うならばその耳をじっと見つめている。
少年だった。彼はマシュの問いかけに答えることなく、マシュの顔を──正確に言うならばその耳をじっと見つめている。
吐息が、耳にかかった。
そこに滲んだ異様な欲望を察したマシュは目を見開く。
これまでの経験から彼女の身体が動き出していた。武装を展開し、そして──
これまでの経験から彼女の身体が動き出していた。武装を展開し、そして──
「まぁまぁだね」
淡々と告げられたその言葉に鼓膜が震える。
と、同時にマシュの首筋に何かがブスリと突き立てられていた。そして訪れる鋭い痛みと──
と、同時にマシュの首筋に何かがブスリと突き立てられていた。そして訪れる鋭い痛みと──
◇
ほの暗い森の中は、青白い月光に照らされていた。
時間的にはもう少しで夜が明けるだろう。
湿り気を含んだこの空気が、すでに日の出の予兆を感じさせていた。
時間的にはもう少しで夜が明けるだろう。
湿り気を含んだこの空気が、すでに日の出の予兆を感じさせていた。
だが、まだ夜は明けていない。
夜というものは、夜が明ける直前が一番暗く、恐ろしいものだ。
そう、例えば今この瞬間のような。
夜というものは、夜が明ける直前が一番暗く、恐ろしいものだ。
そう、例えば今この瞬間のような。
「ふうん、なんか出そうじゃん」
そんな場所で、村山は気だるげにぼやいた。
手はポケットに突っ込まれたまま、さして力を入れているようには見えない。
見えないが──その実、村山は相応の緊張感と警戒心をその胸に宿していた。
今まで培っていた喧嘩の経験、修羅場の記憶が、この森に流れる暗く澱んだ殺気を教えてくれた。
手はポケットに突っ込まれたまま、さして力を入れているようには見えない。
見えないが──その実、村山は相応の緊張感と警戒心をその胸に宿していた。
今まで培っていた喧嘩の経験、修羅場の記憶が、この森に流れる暗く澱んだ殺気を教えてくれた。
「出てこいって。ガキは帰る時間だ」
気の抜けた、冗談のような口調で村山はこの森にいるという“弟”に対して呼びかける。
無論、その行為は──鬼を呼び寄せる可能性もある、ということも、村山はわかっていた。
無論、その行為は──鬼を呼び寄せる可能性もある、ということも、村山はわかっていた。
──そして、それは一切の警告なしにやってきた。
暗い森の中、きらり、と何かが光った気がした。
鋭く、一瞬の明滅であったが、村山はある種本能的な直感に従い身をそらした。
鋭く、一瞬の明滅であったが、村山はある種本能的な直感に従い身をそらした。
「へえ、気づいたんだ」
闇の中より平坦な口調で声が響く。
それは存外に高い声で、少年のものに相違になかった。
それは存外に高い声で、少年のものに相違になかった。
「少し意外だ。別にそう訓練している訳でもなさそうなのに」
村山は声を聞きながら己の頬に触れる。
つう、と赤い血が流れていた。鋭利な刃物によって切り裂かれたような感触だった。
そのことが何をするのか、村山は論理でなく直観で判断していた。
よくわからないがナイフみたいなもんが飛んでるらしい。なら、受けて耐えるという手段は取らない方がいい。
つう、と赤い血が流れていた。鋭利な刃物によって切り裂かれたような感触だった。
そのことが何をするのか、村山は論理でなく直観で判断していた。
よくわからないがナイフみたいなもんが飛んでるらしい。なら、受けて耐えるという手段は取らない方がいい。
その判断は正しかったし、実際初撃を躱してみせたことが彼の命を救ったとも言えた。
だが。
だが。
「でも意味ないね。所詮は人間だ」
だが──村山の身体は次の瞬間には、見えない何かの力で、ぐい、と引っ張られた。
足元だった。絡みついた鋭利な何かが、村山を地に這わせられる。
突然の事態に苦悶の声が漏れる。
足元だった。絡みついた鋭利な何かが、村山を地に這わせられる。
突然の事態に苦悶の声が漏れる。
「んだよ……!」
村山は声をあげ、即座に反撃に転じようとするが、強烈な力で押さえつけられ動けなくなっていた。
糸、あるいはロープによって全身が縛られ、拘束されているようだった。
糸、あるいはロープによって全身が縛られ、拘束されているようだった。
「……よかった、生きているみたいだね」
ざ、ざ、と足音がして、その鬼は姿を現した。
和装を身にまとった、線の細い少年であった。森の中だというのに靴も履かず、茫洋とした眼差しで村山を見下ろしている。
和装を身にまとった、線の細い少年であった。森の中だというのに靴も履かず、茫洋とした眼差しで村山を見下ろしている。
──鬼だ。
村山は直観的にそう確信していた。
ゲーム開始当初に出会った女の鬼とは全く装いは違う。
だが纏う雰囲気、殺気に──人から外れた者に共通する何かがあることを、村山は察知していた。
ゲーム開始当初に出会った女の鬼とは全く装いは違う。
だが纏う雰囲気、殺気に──人から外れた者に共通する何かがあることを、村山は察知していた。
「力加減を間違えて殺してしまいたくはなかったんだ。だって君たちはひどく脆い」
月明かりを背景に少年の鬼は淡々と語る。
そんな彼に対して、村山は戦意の滾りを衰えさせることなく睨みつける。
だが当の鬼の方は、村山の方にはさして興味もないのか視線を逸らし、
そんな彼に対して、村山は戦意の滾りを衰えさせることなく睨みつける。
だが当の鬼の方は、村山の方にはさして興味もないのか視線を逸らし、
「あの派手な火に向かって来た人間を誘き寄せて、生け捕りにする。
兄さんの作戦が存外上手く行ったが、あちらはうまくやっているかな」
「問題なかったよ」
兄さんの作戦が存外上手く行ったが、あちらはうまくやっているかな」
「問題なかったよ」
と、そこで別の声が響いた。
「ちょっと想像していたより、大分強そうな娘だったけど。
今の俺はまだ普通の中学生だからね。変に警戒もされなかったんだと思うよ」
「強いのか、その女は」
「ああ、何せこんな分厚い装備を着込んでるんだ。
それに思いのほか良い耳をしていて、マジマジと見ちゃった。危なかった、もう少し良い耳だったらやられてたかも」
「…………」
今の俺はまだ普通の中学生だからね。変に警戒もされなかったんだと思うよ」
「強いのか、その女は」
「ああ、何せこんな分厚い装備を着込んでるんだ。
それに思いのほか良い耳をしていて、マジマジと見ちゃった。危なかった、もう少し良い耳だったらやられてたかも」
「…………」
縛られた村山はわずかにしその身を動かすことができない。
それでもなんとか首の向きを変え──そして、包帯の少年と、ぐったりと項垂れるマシュを見た。
村山は目を見開く。
マシュは意識を失っているのか、指先一つ動かそうともしない。
そんな彼女を抱えているのは、先ほど倒れていた包帯の少年だった。
それでもなんとか首の向きを変え──そして、包帯の少年と、ぐったりと項垂れるマシュを見た。
村山は目を見開く。
マシュは意識を失っているのか、指先一つ動かそうともしない。
そんな彼女を抱えているのは、先ほど倒れていた包帯の少年だった。
「それで、そいつは母か姉に向いているのか? 兄さん」
「うーん、どうだろうね。まぁ頼んだらやってくれるのかな? そっちこそ、そこの彼は?」
「興味がない。人間など同じだろう」
「父さん……にはちょっと若すぎる気もするけど、俺たちよりは年上だね
うーん、そこだけ本当にちょっとわからないんだよね、俺。
この娘に聞いたらなんか教えてくれるかな」
「なんでもいい。顔も、性格も、身体、名前も、変えてしまえば同じだ」
「さて、そういう押し付けはよくないと思うけどね、弟よ」
「うーん、どうだろうね。まぁ頼んだらやってくれるのかな? そっちこそ、そこの彼は?」
「興味がない。人間など同じだろう」
「父さん……にはちょっと若すぎる気もするけど、俺たちよりは年上だね
うーん、そこだけ本当にちょっとわからないんだよね、俺。
この娘に聞いたらなんか教えてくれるかな」
「なんでもいい。顔も、性格も、身体、名前も、変えてしまえば同じだ」
「さて、そういう押し付けはよくないと思うけどね、弟よ」
少年たちは淡々とした口調で会話を続けている。
理解からは程遠い内容の会話だったが、だが包帯の少年が、鬼のことを弟と呼んでいるのはわかった。
それだけで村山は事態を理解する。
先ほど言っていたのは弟というのはつまり──
理解からは程遠い内容の会話だったが、だが包帯の少年が、鬼のことを弟と呼んでいるのはわかった。
それだけで村山は事態を理解する。
先ほど言っていたのは弟というのはつまり──
「さて、起きろ」
ぐい、と再び村山の身体が引っ張り上げられた。
地に這っていた村山は強制的に立ち上がり、二人の少年と向かい合うような形になる。
その間も村山はぐっと力を入れる。腕に血が滲むのも構わず、その腕を動かそうとする。
地に這っていた村山は強制的に立ち上がり、二人の少年と向かい合うような形になる。
その間も村山はぐっと力を入れる。腕に血が滲むのも構わず、その腕を動かそうとする。
「やめろ、殺さないように加減するのも面倒だ」
「……っ、お前ら」
「そうだよ。そんなにカッカしないで。
こっちは殺す気なんてないんだ」
「……っ、お前ら」
「そうだよ。そんなにカッカしないで。
こっちは殺す気なんてないんだ」
包帯の少年は、ニッコリと笑みを浮かべて言う。
「たださ、ちょっと家族になってもらいたいんだ。俺たちとさ、君と、この娘も交えて」
「鬼にもなってもらう」
「そうそう、そうすれば命は取らない。うん、悪くない話じゃない?」
「鬼にもなってもらう」
「そうそう、そうすれば命は取らない。うん、悪くない話じゃない?」
空虚に笑う包帯の少年と、一切の感情を滲ませない和装の少年。
対照的であったが、どちらも空々しいという意味では共通していた。
対照的であったが、どちらも空々しいという意味では共通していた。
その間にもマシュは包帯の少年に抱えられたまま、ピクリとも動かない。
その姿に村山は胸から頭に強烈な苛立ちがこみ上げる。
だがそこで激昂はしなかった。ただ低く戦意を込めた声で、少年たちに言う。
その姿に村山は胸から頭に強烈な苛立ちがこみ上げる。
だがそこで激昂はしなかった。ただ低く戦意を込めた声で、少年たちに言う。
「お断りだよ」
吐き捨てるように村山は言い切った。
そして──カッ、と目を見開いた。
血が飛び散る。それは身を縛る糸を無理やり引きちぎった結果だった。
腕に激烈な痛みが走るが、そんなものはアドレリンが忘れさせてくれた。
血が飛び散る。それは身を縛る糸を無理やり引きちぎった結果だった。
腕に激烈な痛みが走るが、そんなものはアドレリンが忘れさせてくれた。
「……っ」
少年の鬼が目をひそめたのがわかった。
糸を破られたのが意外だったのか、その瞬間に他の糸が緩む。
村山はその瞬間に飛び出し、力任せにその拳を振るってみせた。
糸を破られたのが意外だったのか、その瞬間に他の糸が緩む。
村山はその瞬間に飛び出し、力任せにその拳を振るってみせた。
「────」
鬼の頬に村山の拳がめり込む。
確かな感触。つけていたメリケンサックも敵の顎骨を捉えたのがわかった。
その勢いまま、二発目につなげようとして──
「加減し過ぎたね。
でも糸をあんな風にちぎるなんて、馬鹿みたいだ」
確かな感触。つけていたメリケンサックも敵の顎骨を捉えたのがわかった。
その勢いまま、二発目につなげようとして──
「加減し過ぎたね。
でも糸をあんな風にちぎるなんて、馬鹿みたいだ」
──再び止まった。
村山の身体に強烈な締め付けが走り、その身体が動かなくなる。
鬼は泰然とそんなことを言ってのけた。
頬を抑え、顔をしかめてはいる。
だがその身体が吹き飛ぶこともなく、再び糸を展開しているようだった。
頬を抑え、顔をしかめてはいる。
だがその身体が吹き飛ぶこともなく、再び糸を展開しているようだった。
──ガキの癖に、重さがおかしいだろ。
鬼、と言う言葉が再び脳裏をよぎる。
このゲームで初遭遇した鬼と同じ、自分たちと違う生物であるという直観。
このゲームで初遭遇した鬼と同じ、自分たちと違う生物であるという直観。
「……もういいだろう兄さん。人間を捕らえると言っても、とりあえず一人いれば十分だ」
「そうだね、彼、生かしておくのも危なそうだしね」
「そうだね、彼、生かしておくのも危なそうだしね」
そんな会話をしながら、鬼は村山ににじり寄ってくる。
鬼は殴られた頬を抑えているが、活動にさして問題はないようだった。
どういう理由だかは理解できないが、今までこの鬼はこちらを生け捕りにしようとしてたらしかった。
鬼は殴られた頬を抑えているが、活動にさして問題はないようだった。
どういう理由だかは理解できないが、今までこの鬼はこちらを生け捕りにしようとしてたらしかった。
だからこそ糸も弱められていたが、抵抗したことでそうも行かなったという訳か。
次は間違いなく──致命的な一撃がくる。
次は間違いなく──致命的な一撃がくる。
「ばいばい」
そう言ったのは包帯の少年の方だった。
和装の鬼の方は、表情を変えずないまま村山の命を刈り取ろうと──
和装の鬼の方は、表情を変えずないまま村山の命を刈り取ろうと──
「てめえ──」
──そして村山は次の瞬間、視界を暗転させた。
◇
村山はその時、決して戦意を失った訳ではなかった。
心が折れた訳でもなければ、痛みに屈した訳でもない。
ただ生き残る意思だけは強く抱いていた。だからこそ村山は直観的に動いていた。
心が折れた訳でもなければ、痛みに屈した訳でもない。
ただ生き残る意思だけは強く抱いていた。だからこそ村山は直観的に動いていた。
「あああああああああああああ!」
村山はその時、森の外にいた。
鬼も、少年も、マシュもいない。たった一人で彼は叫びをあげていた。
鬼も、少年も、マシュもいない。たった一人で彼は叫びをあげていた。
「んだよ! んだよ!」
苛立ちと自身への怒りのまま、村山はその拳で地面を叩きつける。
その拳を叩きつける度にさらなる痛みが走ったが、そんなことはもはや些細なことだった。
その拳を叩きつける度にさらなる痛みが走ったが、そんなことはもはや些細なことだった。
──村山の拳には今、ホーリーナックルと呼ばれる武装がついている。
そしてその手首にはもう一つ、別のものが巻き付いていた。
そしてその手首にはもう一つ、別のものが巻き付いていた。
それは転送機であった。
ラブデスター実験において、運営であるラブデスター星人が「餌」として用意していた、ボーナスアイテム。
マシュとの支給品確認を通じて、今は彼がそれを装備していた。
それを本能的に使うことにより、村山はあの絶体絶命の状況から逃げ出すことができた。
ラブデスター実験において、運営であるラブデスター星人が「餌」として用意していた、ボーナスアイテム。
マシュとの支給品確認を通じて、今は彼がそれを装備していた。
それを本能的に使うことにより、村山はあの絶体絶命の状況から逃げ出すことができた。
だがそんな出自などどうでもよかった。
鬼に敗れ、マシュを置いたまま、おめおめと彼は生きている。
その事実こそがすべてであり、村山の知る現実であった。
鬼に敗れ、マシュを置いたまま、おめおめと彼は生きている。
その事実こそがすべてであり、村山の知る現実であった。
村山は叩きつけた拳を握りしめる。
この島に来てから、“鬼”と呼ばれる存在に敗れ続けている。
その事実を噛み締めているうちに、いつしか夜が明けようとしていた。
この島に来てから、“鬼”と呼ばれる存在に敗れ続けている。
その事実を噛み締めているうちに、いつしか夜が明けようとしていた。
この屈辱に満ちた夜明けを、決して忘れることはないだろう。
村山はギラついた瞳でもう一度地面を殴りつけた。
村山はギラついた瞳でもう一度地面を殴りつけた。
【F-2/1日目・黎明】
【村山良樹@HiGH&LOW】
[状態]:全身打撲・切り傷 右腕から失血
[道具]:基本支給品一式、ホーリーナックル@Fate/Grand Order、転送機(3時間使用不可)@ラブデスター、ランダム支給品0~1
[思考・状況]
基本方針:とりあえず帰り方を探す
1:マシュは絶対助け出す
2:鬼共とはいずれケジメをつける
3:コブラや雨宮兄弟は会った方がいいと思うが取り立てて優先はしない
[備考]
※参戦時期は少なくともシーズン2の8話以降です。
[状態]:全身打撲・切り傷 右腕から失血
[道具]:基本支給品一式、ホーリーナックル@Fate/Grand Order、転送機(3時間使用不可)@ラブデスター、ランダム支給品0~1
[思考・状況]
基本方針:とりあえず帰り方を探す
1:マシュは絶対助け出す
2:鬼共とはいずれケジメをつける
3:コブラや雨宮兄弟は会った方がいいと思うが取り立てて優先はしない
[備考]
※参戦時期は少なくともシーズン2の8話以降です。
【転送機@ラブデスター】
敬王にてペア試験の報酬として用意されていた腕輪型のもの。
便利なもののためか最高得点と設定されていた。
さすがにどこでも行き放題という訳ではなく、
このゲームにおいては「3時間に1度」「同じエリア内のみ」という制限付き
敬王にてペア試験の報酬として用意されていた腕輪型のもの。
便利なもののためか最高得点と設定されていた。
さすがにどこでも行き放題という訳ではなく、
このゲームにおいては「3時間に1度」「同じエリア内のみ」という制限付き
マシュはまどろむ視界の中、自分の前で誰かが話していることに気づいた。
「なんだ、あれは」
「逃してしまったみたいだね。俺はあのアイテム、知っているかもしれないよ。
多分前のゲームで見た奴と一緒なら、さっきの彼はどこかに転送された筈だ」
「以前にもあったという、これに酷似した催しのことか」
「逃してしまったみたいだね。俺はあのアイテム、知っているかもしれないよ。
多分前のゲームで見た奴と一緒なら、さっきの彼はどこかに転送された筈だ」
「以前にもあったという、これに酷似した催しのことか」
どうやら二人とも少年のようだった。
ぼんやりした意識の中、マシュはここは一体どこで、彼らは誰なのだろうと思った。
だが声を上げるまではいかなかった。身体は非常に重く、意識もまだ覚醒とは程遠い状態だった。
ぼんやりした意識の中、マシュはここは一体どこで、彼らは誰なのだろうと思った。
だが声を上げるまではいかなかった。身体は非常に重く、意識もまだ覚醒とは程遠い状態だった。
「追うか、兄さん。あれの拳についていた妙な武器も少し気になる」
「いや、どうだろうね? そろそろ夜も明けるだろうし、そうなると君も困るだろう?」
「…………」
「とりあえず陽の光を遮られる場所を探そう。他にもあの火の手を見た参加者が来るかもしれないし」
「しかし、意外だったな。お前がここにいることが」
「あんまり兄を舐めないでくれよ、こう見えて、この手のゲームは経験者なんだ」
「違う」
「いや、どうだろうね? そろそろ夜も明けるだろうし、そうなると君も困るだろう?」
「…………」
「とりあえず陽の光を遮られる場所を探そう。他にもあの火の手を見た参加者が来るかもしれないし」
「しかし、意外だったな。お前がここにいることが」
「あんまり兄を舐めないでくれよ、こう見えて、この手のゲームは経験者なんだ」
「違う」
そこで一人の少年がきっぱりと言った。
「僕はてっきり、お前は逃げ出す気だと考えていた。
お前は人間だ。自分を餌にするなど適当なことを言って、僕から逃げる気なんだと」
「嫌だな、大切な弟を置いてどこかに行くなんて、そんな不届きな兄がいるものか」
「薄っぺらなことを言うな。お前はそのぐらいは気が回るだろう。わかっていたからこそ、お前を追い詰め“恐怖”で繋いでやろうと思ったのに」
「信用がないね、家族なんだよ、俺たちは。互いを信じ、想い合うってことをやっていかないと」
お前は人間だ。自分を餌にするなど適当なことを言って、僕から逃げる気なんだと」
「嫌だな、大切な弟を置いてどこかに行くなんて、そんな不届きな兄がいるものか」
「薄っぺらなことを言うな。お前はそのぐらいは気が回るだろう。わかっていたからこそ、お前を追い詰め“恐怖”で繋いでやろうと思ったのに」
「信用がないね、家族なんだよ、俺たちは。互いを信じ、想い合うってことをやっていかないと」
意味不明な会話であったが、そんなものでも聞き取ろうとして行くうちに徐々に意識がはっきりとしていた。
そして──マシュが己が縛られていることに気がついた。
途端、一気に意識が覚醒する。
薬を盛られ、縛られていた──その事実を認識し、即座に武装を展開しようとするが。
そして──マシュが己が縛られていることに気がついた。
途端、一気に意識が覚醒する。
薬を盛られ、縛られていた──その事実を認識し、即座に武装を展開しようとするが。
「ああ、起きたんだ」
そこで少年──意識を失う直前まであっていた筈の包帯の少年が、表面上はにこやかに声をかけてきた。
状況的に彼が薬を盛ったのだろう。それはわかるが、だが身体は動かなかった。
状況的に彼が薬を盛ったのだろう。それはわかるが、だが身体は動かなかった。
「無駄だよ。流石にさっきみたいなヘマはもうしない」
マシュは今、糸で身体をぴっちりと縛られているようだった。
和装の少年の言う通り、そう簡単には破れそうもない。少なくとも、薬の痺れが残っているうちは。
和装の少年の言う通り、そう簡単には破れそうもない。少なくとも、薬の痺れが残っているうちは。
「貴方たちは私に何を……!」
「さて、と。そういえば名前を聞いてなかったね」
「さて、と。そういえば名前を聞いてなかったね」
と、そこで包帯の少年がマシュに語りかけて来た。
「ねえ、君。お父さんとか、お母さんって、詳しい?」
「は?」
「は?」
少年は至って真面目な顔で言う。
「俺たちのお母さんか、俺たちのお姉さん、どっちかを君にやってもらいたいんだ」
【F-2/1日目・黎明】
【累@鬼滅の刃】
[状態]:殴られた頬が妙に痛い
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
1:父と母と姉と無惨様を探す
2:家族にならなそうな人間は殺害
[備考]
※参戦時期は首を切られたその瞬間ぐらい
[状態]:殴られた頬が妙に痛い
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
1:父と母と姉と無惨様を探す
2:家族にならなそうな人間は殺害
[備考]
※参戦時期は首を切られたその瞬間ぐらい
【神居クロオ@ラブデスター】
[状態]:全身に裂傷、打傷。学生服ズタボロ
[装備]:悪刀『鐚』@刀語、二乃の睡眠薬@五等分の花嫁
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
1:父と母と姉とあの方を探す
2:ミクニに会いたい
[備考]
※参戦時期は死亡後
[状態]:全身に裂傷、打傷。学生服ズタボロ
[装備]:悪刀『鐚』@刀語、二乃の睡眠薬@五等分の花嫁
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:家族を、作ろう
1:父と母と姉とあの方を探す
2:ミクニに会いたい
[備考]
※参戦時期は死亡後
【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
[状態]:健康、縛られている
[道具]:基本支給品一式、霊基外骨格@Fate/Grand Order、トンプソン・コンテンダー@Fate/Grand Order、救急箱@現実、22口径ロングライフル弾(29/30発)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める
1:は?
2:酒呑童子を止めたい
3:先輩(藤丸立香)と合流したい
[備考]
※未定。少なくとも酒呑童子およびBBと面識あり
※円卓が没収されているため、宝具が使用できません。
※霊基外骨格は霊衣として取り込んだため、以降自分の意志で着脱可能です。
[状態]:健康、縛られている
[道具]:基本支給品一式、霊基外骨格@Fate/Grand Order、トンプソン・コンテンダー@Fate/Grand Order、救急箱@現実、22口径ロングライフル弾(29/30発)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める
1:は?
2:酒呑童子を止めたい
3:先輩(藤丸立香)と合流したい
[備考]
※未定。少なくとも酒呑童子およびBBと面識あり
※円卓が没収されているため、宝具が使用できません。
※霊基外骨格は霊衣として取り込んだため、以降自分の意志で着脱可能です。
【二乃の睡眠薬@五等分の花嫁】
二乃が風太郎に盛った睡眠薬
盛られた風太郎は口に含んだ瞬間に昏倒した
二乃が風太郎に盛った睡眠薬
盛られた風太郎は口に含んだ瞬間に昏倒した
| 前話 | お名前 | 次話 |
| 慕う者たち | 村山良樹 | 鬼気怪壊 |
| マシュ・キリエライト | 通常攻撃が円卓でデミサーヴァントの妹は好きですか? | |
| Kでつながる僕ときみ | 累 | |
| 神居クロオ |