SHADOWS DIE TWICE ◆7ediZa7/Ag
この会場にいる参加者のうち、武蔵と呼ばれる者──の内、女性である彼女は、こう呟いた。
「間に合わない」
と。
基地。
軍用らしい色あせた装飾の建物。
その屋根に立つ彼女は、目を凝らしつつ、遥かな彼方に見える街を見据えながら言うのだった。
基地。
軍用らしい色あせた装飾の建物。
その屋根に立つ彼女は、目を凝らしつつ、遥かな彼方に見える街を見据えながら言うのだった。
間に合わない、と。
それは放送への──主催者ではなく、石上優という少年が上げた放送への反応である。
夜明け前、ここより離れたどこかにて少年が声を上げていた。
その声は武蔵の耳にも入っていたし、自衛隊入間基地にてひとまず休息を取っていた彼女が身を乗り出すのも自然なことであった。
夜明け前、ここより離れたどこかにて少年が声を上げていた。
その声は武蔵の耳にも入っていたし、自衛隊入間基地にてひとまず休息を取っていた彼女が身を乗り出すのも自然なことであった。
その放送は少年が絶体絶命の状況にいることを明確に示していたし、そして──彼がすでに生き残ることを断念していることも、武蔵には伝わってきた。
それでも、というべきか、彼は戦い、そして──死んだようだった。
それでも、というべきか、彼は戦い、そして──死んだようだった。
「……なる、ほど」
その放送が途絶え、再び世界が静寂に包まれていく。
そんな夜明け前の光景を眺めながら、彼女はほんの少しだけ瞳を揺らした。
そんな夜明け前の光景を眺めながら、彼女はほんの少しだけ瞳を揺らした。
──間に合わない。
突如起こった放送を聞き、事態を確認するために上に昇った彼女であるが、
場所が特定などできないこと、そして放送の内容から──そのことを冷静に判断してしまった。
あるいは、できてしまった。
今から何をしようとも、この少年を助けることは叶うまい、と。
場所が特定などできないこと、そして放送の内容から──そのことを冷静に判断してしまった。
あるいは、できてしまった。
今から何をしようとも、この少年を助けることは叶うまい、と。
そしてそれは実際、その通りになってしまった。
武蔵は何をする余裕もなく、どこかで誰かが命を散らした。
おそらくは、それをなした殺人者は野放しであろう。
武蔵は何をする余裕もなく、どこかで誰かが命を散らした。
おそらくは、それをなした殺人者は野放しであろう。
なんともまぁ──よくある話だった。
どの時代においても、こんなことは日常茶飯事だ。
見えていないだけで、影では多くの命が塵のように踏みにじられている。
どの時代においても、こんなことは日常茶飯事だ。
見えていないだけで、影では多くの命が塵のように踏みにじられている。
そんなことに今更衝撃を受ける彼女ではなかった──筈だったが、
「…………」
それでも、彼女の心は普段よりも揺れていた。
おそらくはここに来る直前まで共に戦っていた彼や、相対してきた数々の敵の存在があるがゆえ、だろう。
おそらくはここに来る直前まで共に戦っていた彼や、相対してきた数々の敵の存在があるがゆえ、だろう。
そう、藤丸立香ならば、たとえ間に合わないと思っても足を止めなかったのでは、と。
◇
石上優の放送こそが武蔵にとっての一つ目の放送であり、
それからさほど間を置かずして、その次──ある意味で本番とも呼べる、悪意の放送が始まった。
それからさほど間を置かずして、その次──ある意味で本番とも呼べる、悪意の放送が始まった。
『おはようございまーす!!』
と、例のごとくふざけた口調で語られる内容に、彼女はどうしようもない気分になり、軽く息を吐いた。
とはいえ貴重な情報源を無視する訳にも行かず、慎重に耳を傾ける。
同時に武蔵は、目の前に寝転がる青年に「貴方も聞いた方がいいわよ」と忠告してやった。
とはいえ貴重な情報源を無視する訳にも行かず、慎重に耳を傾ける。
同時に武蔵は、目の前に寝転がる青年に「貴方も聞いた方がいいわよ」と忠告してやった。
「…………」
青年は反応しなかった。
青年──スモーキーは、明確な殺意を持って武蔵を襲撃した人間だ。
彼を正面から打破した武蔵は、ひとまず彼を拘束していた。
縛られた彼は戦闘機が並んだ基地内部に転がしており、妙なことをしないか、武蔵が監視している。
あの妙ちきりんな装甲服はもちろん、その他の物品も没収し、武蔵の身の近くに置いている。
彼を正面から打破した武蔵は、ひとまず彼を拘束していた。
縛られた彼は戦闘機が並んだ基地内部に転がしており、妙なことをしないか、武蔵が監視している。
あの妙ちきりんな装甲服はもちろん、その他の物品も没収し、武蔵の身の近くに置いている。
──やっぱ甘すぎる、かなぁ。
その処置に対して、武蔵は内心でそう自虐する。
襲われておきながら、その命を奪わないどころか、ちゃんと放送を聞けるように忠告までしてやる。
以前の自分だったのなら、まずあり得ない行いだ。
襲われておきながら、その命を奪わないどころか、ちゃんと放送を聞けるように忠告までしてやる。
以前の自分だったのなら、まずあり得ない行いだ。
──思いの外、影響が強いのかもね。
先ほどの戦いにて、スモーキーに対して刃を止めた、止めてしまったことに対して、武蔵は未だに戸惑いに近い想いを抱いていた。
それを善しと思うか、悪しと見るかは判然としなかったが、こうも思っていた。
それを善しと思うか、悪しと見るかは判然としなかったが、こうも思っていた。
──でも今度は間に合わない、なんてことはない筈。
と。
先ほどの少年の放送と違い、彼に対して、少なくとも武蔵は言葉をかけることができる。
先ほどの少年の放送と違い、彼に対して、少なくとも武蔵は言葉をかけることができる。
“俺は、帰らなくちゃならないんだ……、俺の家族の下に”
先の戦いにて、彼が告げた言葉が脳裏をよぎる。
その切迫した口調に対して、果たして自分は何を思ったのだろうか。
一つ、間違いのないことを言うならば、そんなことを襲撃者から聞かされたところで──以前の武蔵ならば間違いなく斬り捨てていたであろうことだ。
その切迫した口調に対して、果たして自分は何を思ったのだろうか。
一つ、間違いのないことを言うならば、そんなことを襲撃者から聞かされたところで──以前の武蔵ならば間違いなく斬り捨てていたであろうことだ。
しかしあそこで手は止まってしまった。
「…………」
その身を縛られたスモーキーが、放送に耳を傾けているのか、いないのか、顔をこちらに向けていないためわからない。
だが戦闘からすでに時間はだいぶ経っている。そろそろ意識も回復する頃だろう。
だが戦闘からすでに時間はだいぶ経っている。そろそろ意識も回復する頃だろう。
己の行いが正しかったかはわからないが──助けてしまった以上は、話を聞くべきだろうとも思う。
とりあえずこの放送が終わったら、本格的に説得にいくとしよう。
そのあとのことは、話の内容次第で決めてしまうとして。
とりあえずこの放送が終わったら、本格的に説得にいくとしよう。
そのあとのことは、話の内容次第で決めてしまうとして。
そう考えつつ、武蔵は背負った長刀のことを意識する。
だが最悪の場合、彼がこちらの言葉に耳を傾けなかった場合は、きっと──
だが最悪の場合、彼がこちらの言葉に耳を傾けなかった場合は、きっと──
◇
スモーキーの意識はすでに回復していた。
この身を守るインペラーを破壊され、その身に受けたダメージはまだ色濃く、肺に患った病は治る見込みもない。
だが──意識だけはどこまでも明瞭に醒めていた。
この身を守るインペラーを破壊され、その身に受けたダメージはまだ色濃く、肺に患った病は治る見込みもない。
だが──意識だけはどこまでも明瞭に醒めていた。
“人を殺しましたか?”
どこかより聞こえてくる放送も当然耳には入っている。
“あるいは誰かから殺されそうになりましたか?”
だが──その言葉はただの不快な雑音に過ぎなかった。
スモーキーにしてみれば、すでにこの場に“家族”がいないことはわかっている。
彼にとって意味のある名は、この島にいない。
スモーキーにしてみれば、すでにこの場に“家族”がいないことはわかっている。
彼にとって意味のある名は、この島にいない。
“読み上げられる名前の中に、大切なあの人や、憎い宿敵があるかどうか──”
ならば、この放送はスモーキーにとって、ただの不快な雑音に過ぎなかった。
だからこそ、スモーキーの意識は研ぎ澄まされ、その感覚は、背後に立つ一人の剣士に向けられていた。
“愛月しの”
“吾妻善逸”
“秋山蓮”
“吾妻善逸”
“秋山蓮”
武蔵は放送が告げる名前を聴き漏らさぬよう集中している。
スモーキーとは違うのだろう。この島に、彼女が守るべき者か、あるいは討たねばならない敵か、意味のある者が招かれているに違いない。
だからこそ放送を聞かざるを得ない。
集中して、この島で死んでいった者たちの名前に、耳を傾けている。
スモーキーとは違うのだろう。この島に、彼女が守るべき者か、あるいは討たねばならない敵か、意味のある者が招かれているに違いない。
だからこそ放送を聞かざるを得ない。
集中して、この島で死んでいった者たちの名前に、耳を傾けている。
“石上優”
“犬養幻之介”
“イユ”
“犬養幻之介”
“イユ”
インペラーを正面から打破して見せた彼女の力はすでに身を以って知っていた。
対して自分は今は力を奪われ、手を縛られ、無様にも地に這いつくばっている。
対して自分は今は力を奪われ、手を縛られ、無様にも地に這いつくばっている。
“円城周兎”
“清姫”
“清姫”
圧倒的に不利な状況──だが、その時、スモーキーの瞳には明確な意思が灯っていた。
たとえ、武蔵が如何に強くとも──彼女を打破しないことには、決して前には進めない。
であるならば──他に選択肢はないのだった。
たとえ、武蔵が如何に強くとも──彼女を打破しないことには、決して前には進めない。
であるならば──他に選択肢はないのだった。
“──コブラ”
その名が呼び上げられた瞬間──彼は飛んだ。
全身をバネにして、薄汚れたコンクリートを蹴り上げ、絶体絶命の最中、彼は──空へと舞っていた。
高く、高く──
全身をバネにして、薄汚れたコンクリートを蹴り上げ、絶体絶命の最中、彼は──空へと舞っていた。
高く、高く──
◇
──その瞬間、武蔵の意識は鋭く切り替わった。
元より、その動きを予期していなかった訳ではない。
先ほどの切迫した言葉、あの揺るぎない意志を滲ませた瞳から、彼がそう簡単に折れるとも思えなかったからだ。
先ほどの切迫した言葉、あの揺るぎない意志を滲ませた瞳から、彼がそう簡単に折れるとも思えなかったからだ。
そして、仮に武蔵とスモーキーの立場が逆だった場合、どこを狙うかを考えれば──放送のタイミングだろう。
その性質上、放送を無視するということは中々できない。
その内容に耳を傾ける必要が出るため、必然的に監視の目が緩むタイミングだ。
その性質上、放送を無視するということは中々できない。
その内容に耳を傾ける必要が出るため、必然的に監視の目が緩むタイミングだ。
だからこそ、武蔵もまた反応することができた。
だが──予想外だったのは、スモーキーの速度であり、高さである。
だが──予想外だったのは、スモーキーの速度であり、高さである。
拘束されロクに動けなかったはずの彼が、身を捩り、空を舞っている。
距離を詰め、その勢いのまま彼は武蔵の下へと、ざざっ、と音を立てて滑っていく。
距離を詰め、その勢いのまま彼は武蔵の下へと、ざざっ、と音を立てて滑っていく。
「曲芸じみた──」
コンクリートの匂いがする。
土煙が立ち上る中、その視線の先には自身のデイパッグを奪還し、同時の基地内に転がる金属片で自身の拘束を解くスモーキーの姿であった。
土煙が立ち上る中、その視線の先には自身のデイパッグを奪還し、同時の基地内に転がる金属片で自身の拘束を解くスモーキーの姿であった。
「──真似をするのね。さっきは鹿か羊かと思ったけど、お猿さんだったんだ」
どっちにしても面妖だけど、と。
武蔵はスモーキーに対し、感情を滲ませない冷たい言葉を投げかける。
確かに虚は突かれた。先ほどの戦闘においてあの装甲服を破壊した以上、青年がそこまでの動きはできないと踏んでいたからだ。
が、今の動きを見る、あの三次元的な動きは装甲服によるものでなく、彼自身の技術だったようだ。
武蔵はスモーキーに対し、感情を滲ませない冷たい言葉を投げかける。
確かに虚は突かれた。先ほどの戦闘においてあの装甲服を破壊した以上、青年がそこまでの動きはできないと踏んでいたからだ。
が、今の動きを見る、あの三次元的な動きは装甲服によるものでなく、彼自身の技術だったようだ。
そのことは誤算であった。
誤算であったが──それだけだ。
誤算であったが──それだけだ。
──今だって斬ろうと思えば、斬れた。
武蔵は長刀、物干し竿に手をかけながら、どこか醒めた心地で思う。
驚きはしたが、タイミングとしては十分に反応できる域であった。
意識を超える直感に従い剣を抜いていれば、病人一人斬りふせることなど容易だった。
驚きはしたが、タイミングとしては十分に反応できる域であった。
意識を超える直感に従い剣を抜いていれば、病人一人斬りふせることなど容易だった。
だが、あえて彼女はそれを選ばなかった。
その直感に従えば──問答無用で彼を死を与えていたに違いなかった。
その直感に従えば──問答無用で彼を死を与えていたに違いなかった。
──今度は、まだ間に合うでしょう。
助けることができなかった、あの少年の放送が脳裏に過る。それに続いて浮かび上がる藤丸立香の顔。
このまま殺さず──なんてやる気はないが。
このまま殺さず──なんてやる気はないが。
──最低限、言葉ぐらいは交わしてやるか。
そう、考えると同時に武蔵は口を開いていた。
「ねえ、一応聞くけど、こういう邪なこと、止めにしない?」
「…………」
「家族のためだとか何とか言ってるけど、そんなツラしてやることがみみっちい暗殺まがいなんて、ちょっと情けないでしょう。
今なら私、貴方の言い分とか聞いてやっても良い気分なんだけど」
「……俺たちは決して諦めない」
「…………」
「家族のためだとか何とか言ってるけど、そんなツラしてやることがみみっちい暗殺まがいなんて、ちょっと情けないでしょう。
今なら私、貴方の言い分とか聞いてやっても良い気分なんだけど」
「……俺たちは決して諦めない」
慣れないとわかりつつ吐いた説得の言葉を、スモーキーは端的に切り捨てる。
──ま、そうでしょうね。
満身創痍とさえ言える身でありながら、衰えることないその眼光が、何よりもその意志の強さを雄弁に語っていた。
「お前は、今、俺には決して敗けないと考えているだろう」
「あ、わかる? うん、私、貴方には多分絶対敗けないから、だから一応、説得してみたんだけど」
「あ、わかる? うん、私、貴方には多分絶対敗けないから、だから一応、説得してみたんだけど」
奪還したデイバッグに手をやるスモーキーを前に、武蔵はそう突き放すように言う。
あの装甲服を再び纏ったところでもはや脅威ではない。すでに格付けは済んでいる。
そしてあのデイバッグの中身だって武蔵は知っている。何を使おうとも、彼がこちらを超える手段はない。
あの装甲服を再び纏ったところでもはや脅威ではない。すでに格付けは済んでいる。
そしてあのデイバッグの中身だって武蔵は知っている。何を使おうとも、彼がこちらを超える手段はない。
「俺は──」
その言葉と共にスモーキーが取り出したのは、あの装甲服ではなかった。
武蔵は思わず──笑ってしまいそうになってしまった。
最後の最後に彼が取り出した武器、それは刀であった。
物干し竿に加えてあったもう一振りの剣。
武蔵も、その存在はデイバッグを見たときから知っていたが──よりにもよって、という想いが出てしまう。
武蔵は思わず──笑ってしまいそうになってしまった。
最後の最後に彼が取り出した武器、それは刀であった。
物干し竿に加えてあったもう一振りの剣。
武蔵も、その存在はデイバッグを見たときから知っていたが──よりにもよって、という想いが出てしまう。
スモーキーは別に剣に精通している訳ではないのか、彼女からしたら素人としか言いようがない構えで、刀をこちらに向けていた。
他の武器ならばいざ知らず、武蔵に刀を向けるとは。
他の武器ならばいざ知らず、武蔵に刀を向けるとは。
──だからまぁ。
殺すしかないのだろう。
そこに至って、武蔵はそう判断していた。
他の武器ならば、まだどうにか説得できないか、多少は考えたかもしれない。
だが、こと刀を向けられらたとあっては、どうしようもないではないか。
ここで彼を斬り捨てる──当然の帰結だった。
そこに至って、武蔵はそう判断していた。
他の武器ならば、まだどうにか説得できないか、多少は考えたかもしれない。
だが、こと刀を向けられらたとあっては、どうしようもないではないか。
ここで彼を斬り捨てる──当然の帰結だった。
──うまくいかないものね、やっぱ。あの子と私は違う、か。
「──飛ぶ」
その言葉通り、スモーキーは空を飛んで見せた。
コンクリートを蹴り上げ、壁を駆け上り、三次元的な動きで武蔵へと迫っていく。
その瞳は明確な殺意と、揺るぎない決意が同居している。
決して無謀な特攻ではないだろう。
先ほどまで地に這いつくばっていた彼は、己が敵を超えるべく──飛んでいるのだ。
コンクリートを蹴り上げ、壁を駆け上り、三次元的な動きで武蔵へと迫っていく。
その瞳は明確な殺意と、揺るぎない決意が同居している。
決して無謀な特攻ではないだろう。
先ほどまで地に這いつくばっていた彼は、己が敵を超えるべく──飛んでいるのだ。
それを待ち構えるは、長刀、物干し竿を構えた剣士、武蔵である。
慣れない獲物であえることには違いなかったが、この敵を迎え撃つには十分過ぎる刃である。
慣れない獲物であえることには違いなかったが、この敵を迎え撃つには十分過ぎる刃である。
──猿とかってさっきは私は言ったけど。
その一瞬、まるで風の流れのままに空を舞うスモーキーを前に、武蔵はこんなことを考えてしまった。
──まるで燕ね。
そして武蔵自身はというと──燕を斬ったことはなかった。
◇
……その刀は、言ってしまえばただの刀なのだ。
とある刀鍛冶が作った完成形変体刀と呼ばれる12本の刀のうち、もっとも平凡な一振りを挙げろと言われたら、十人が十人それを上げるだろう。
何しろ、その刀の特性といえば──「斬れる」こと、それだけだからだ。
頑丈な訳でもなく、数が多い訳でもなく、刀の形状を捨てている訳でもなく、心を見定める訳でもない。
何しろ、その刀の特性といえば──「斬れる」こと、それだけだからだ。
頑丈な訳でもなく、数が多い訳でもなく、刀の形状を捨てている訳でもなく、心を見定める訳でもない。
それは、刀であれば当たり前の性質であり、「ただただ斬れること」を主張するその刀は、平凡としかいいようがないだろう。
だからこの刀を見た武蔵は見るべきところのないナマクラと判断したし、「ただ斬れる」というその説明を読んでも、よくある売り文句に過ぎないと思ってしまった。
だからこの刀を見た武蔵は見るべきところのないナマクラと判断したし、「ただ斬れる」というその説明を読んでも、よくある売り文句に過ぎないと思ってしまった。
──斬刀<鈍>。
それが持て囃された時代においても、その刀の本当の力に気づいた者が果たしてどれだけいただろうか──
◇
「────」
次の瞬間、刀は振り払われ、赤い血が基地の中に舞った。
一方の刃が、もう一方の刃を斬り伏せ、肉を両断してみせた。
一方の刃が、もう一方の刃を斬り伏せ、肉を両断してみせた。
「──くっ、このっ……!」
長刀の刀身は半ばで斬られ、コンクリートの地面に転がっている。
加えて──猛然と血を吹き出す己の右腕を前に、武蔵は苦悶の声を上げた。
加えて──猛然と血を吹き出す己の右腕を前に、武蔵は苦悶の声を上げた。
斬られたのは──彼女の方であった。
あり得ない斬れ味としかいいようがなかった。
角度、技量、力、どこを取っても剣士である武蔵が遅れをとるハズがなかった。
あり得ない斬れ味としかいいようがなかった。
角度、技量、力、どこを取っても剣士である武蔵が遅れをとるハズがなかった。
──だが、スモーキーが握っていたのは、剣士殺しの剣なのだ。
斬刀・鈍。
その特性は「ただ斬れる」こと。
刀の造形そのものは平凡ながら、いくら人を斬っても切れ味が全く落ちず、文字通りの一騎当千をも可能にした一振り。
その特性は「ただ斬れる」こと。
刀の造形そのものは平凡ながら、いくら人を斬っても切れ味が全く落ちず、文字通りの一騎当千をも可能にした一振り。
それは本当の意味では斬っているではなかった。
遥かな未来の技術を用いたその刀身は、物質の分子結合を破壊し、あたかも溶かすように物を斬る。
結果として現れるのはもっとも平凡な特性であったが──そこに使われた技術は変体刀の中において、もっとも未来のものだったと言っても過言ではない。
遥かな未来の技術を用いたその刀身は、物質の分子結合を破壊し、あたかも溶かすように物を斬る。
結果として現れるのはもっとも平凡な特性であったが──そこに使われた技術は変体刀の中において、もっとも未来のものだったと言っても過言ではない。
かつて虚刀流がこの刀を攻略した時、この特性は意味をなさなかった。
刀を使わない虚刀流にしてみれば、普通の刀も、斬刀も、差はないからだ。
刀を使わない虚刀流にしてみれば、普通の刀も、斬刀も、差はないからだ。
だが本来この刀は──剣士にこそ有効に作用する。
鎧など意味はない、鍔迫り合いなど起こりようがない。
斬刀を弾こうなどと考えた時には、すでにこちらの刀が斬られている。
平凡であるがゆえに──剣士に対して、もっとも痛烈に作用する。
斬刀を弾こうなどと考えた時には、すでにこちらの刀が斬られている。
平凡であるがゆえに──剣士に対して、もっとも痛烈に作用する。
「待て、このっ……!」
腕を抑え、激烈な痛みにさらされながら、武蔵は叫ぶように言った。
おびただしい血液がその身を汚している。常人ならショックで死んでもおかしくない量。
だが武蔵はむしろ──阿修羅のごとく強い意志で叫びを上げる。
おびただしい血液がその身を汚している。常人ならショックで死んでもおかしくない量。
だが武蔵はむしろ──阿修羅のごとく強い意志で叫びを上げる。
だが──燕はすでに逃げていた。
武蔵の刃を逃れたスモーキーは、舞うように飛び、基地を後にしていく。
それを追うほどの力は今の武蔵にはいない。
気力はあれど、その流れ続ける血がそれを許さない。
それを追うほどの力は今の武蔵にはいない。
気力はあれど、その流れ続ける血がそれを許さない。
──このままじゃ、死ぬのは、私の方か。
あらゆる意味で常人ではない彼女だったが、しかし血を流せば死ぬ。
腕を斬られ、このまま何もできずにいれば、死が来ることは明白だった。
腕を斬られ、このまま何もできずにいれば、死が来ることは明白だった。
──馬鹿。こんな半端な心地で、私は……っ!
何故自分が腕を失ったか。
その理由を武蔵は直感的に理解していた。
その理由を武蔵は直感的に理解していた。
ここにきて、あまりにも自分は半端な想いだった。
先の戦いでスモーキーを殺せず、それでいてあの放送の少年を助けに走ることもできなかった。
今の戦いにおいても、迷わずスモーキーを殺す気であれば、こんなことにはならなかった。
あるいは最後まで説得を続けるつもりであったのなら、きっとまた別の結末があった。
先の戦いでスモーキーを殺せず、それでいてあの放送の少年を助けに走ることもできなかった。
今の戦いにおいても、迷わずスモーキーを殺す気であれば、こんなことにはならなかった。
あるいは最後まで説得を続けるつもりであったのなら、きっとまた別の結末があった。
剣を、強さを求める訳でもなく、さりとて人道を邁進する訳でもない。
どっちつかずの──半端な者。
どっちつかずの──半端な者。
そんな甘えた性根で戦えば、こうして現実に痛みが帰ってくる。
その事実を噛み締めながら、武蔵は屈辱に顔を歪める。
ただただ己の不甲斐なさが憎かった。
その事実を噛み締めながら、武蔵は屈辱に顔を歪める。
ただただ己の不甲斐なさが憎かった。
「剣を……剣を握る!」
あるいは柳生但馬守宗矩と剣を交えることができていれば、このような半端な自分は死んでいたかもしれない。
そんな女々しい想いさえ過る中、武蔵は残った左腕で剣を握りしめる。
そんな女々しい想いさえ過る中、武蔵は残った左腕で剣を握りしめる。
──強く、強くあらねば。
おびただしい血を撒き散らす中、異様な眼光と共に彼女は立ち上がり、そして──
【B-5・自衛隊入間基地/1日目・朝】
【新免武蔵守藤原玄信@Fate/Grand Order】
[状態]:健康、疲労(小)、右腕が斬られた・隻腕、血まみれ
[道具]:物干し竿@Fate/Grand Order(半分斬れてる)
[思考・状況]
基本方針:無空の高みに至る。藤丸立香と合流する。
1:----------
2:強者との戦いで、あと一歩の剣の『なにか』を掴む
[備考]
※参戦時期、セイバー・エンピレオ戦の最中。空位に至る前。
※彼女が知っている藤丸立香は、というより何故かこの宮本武蔵は、『男の藤丸立香』を知る宮本武蔵である。
※放っておくとあと数時間で死にます
[状態]:健康、疲労(小)、右腕が斬られた・隻腕、血まみれ
[道具]:物干し竿@Fate/Grand Order(半分斬れてる)
[思考・状況]
基本方針:無空の高みに至る。藤丸立香と合流する。
1:----------
2:強者との戦いで、あと一歩の剣の『なにか』を掴む
[備考]
※参戦時期、セイバー・エンピレオ戦の最中。空位に至る前。
※彼女が知っている藤丸立香は、というより何故かこの宮本武蔵は、『男の藤丸立香』を知る宮本武蔵である。
※放っておくとあと数時間で死にます
【スモーキー@HiGH & LOW】
[状態]:体力消耗(大)、気絶、病気、返り血
[道具]:基本支給品一式、斬刀・鈍@刀語、仮面ライダーインペラー(ブランク体)のデッキ、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:全員を殺して、無名街へと、家族の下へと帰る。
1:??????
2:MAP上の無名街に向かう
[備考]
※契約していたギガゼールが死亡したことにより仮面ライダーインペラーに変身するとブランク体になります。コントラクトカードでミラーモンスターの再契約しない限りはこの状態が継続します。
[状態]:体力消耗(大)、気絶、病気、返り血
[道具]:基本支給品一式、斬刀・鈍@刀語、仮面ライダーインペラー(ブランク体)のデッキ、不明支給品0~2
[思考・状況]
基本方針:全員を殺して、無名街へと、家族の下へと帰る。
1:??????
2:MAP上の無名街に向かう
[備考]
※契約していたギガゼールが死亡したことにより仮面ライダーインペラーに変身するとブランク体になります。コントラクトカードでミラーモンスターの再契約しない限りはこの状態が継続します。
【斬刀・鈍@刀語】
「切れ味」に主眼が置かれた完成形変体刀。
刀身によって物質の分子結合を破壊しているため、文字通りあらゆるものは斬れる。
ただし、もとより武器も鎧も使わない七花相手にはあまり意味がなかった。
「切れ味」に主眼が置かれた完成形変体刀。
刀身によって物質の分子結合を破壊しているため、文字通りあらゆるものは斬れる。
ただし、もとより武器も鎧も使わない七花相手にはあまり意味がなかった。
| 前話 | お名前 | 次話 |
| もがき続けてCrazy,Crazy,Crazy | 新免武蔵守藤原玄信 | |
| スモーキー | 出口のないメビウスの輪の中で |