―198X年 神奈川県某所
『―この船舶火災による死傷者は幸いにも確認されていませんが、火災の発生したレディ・リタ号の艤装は完全に焼損したため、廃船が予定されて―』
「……………」
「どったのヴォーパルちゃん、そんな神妙な目でテレビ見つめてサ」
「……このフネ、古い知り合いなんです」
「はーん、そうすると、ちょっとおつらいニュースだねぇ」
「樹雨さん、こういう話をそんなふうに茶化した言い方は」
「や、別に茶化してるつもりは無いのよ六華ちん。こういうニュースはね、真面目に受け取ると余計につらく――」
「やっぱり茶化してるじゃないですか!」
「あーもう六華ちんはこれだから……」
「……すみません。私、ちょっと出てきます」
「え、突然どうしたの」
「私も行ってきますわ~~~♪」
「ハピハピも!?」
「と、いうことは。私と樹雨さんで留守番ですね」
「まぁ手は足りるけどさぁ……」
.
..
...
....
「あーあ、これからどうしよ」
私はもう船ではない。焼損した艤装は廃棄され、私の扱いは解体処分後の元・艦船となった。
正直、あのまま焼け死んだって構わないと思っていたのだけど、幸か不幸か、私の身体にまで火が回ることはなかった。
戦争中はあんなにあちこちに弾を食らったというのに。……いや、起きていることは同じ。
どれだけひどい目に遭っても、私は死ねないみたいだ。
ともあれ、船籍を失ったことで、人と同じような籍を取り直す必要があった私は、半ばヤケクソで日本の戸籍を取ることにした。
手続きが終わるまでは外を出歩くこともままならない。少なくとも日本では、籍のない者にウロウロされては困るみたいだし。
そういうことで、私は港湾事務所の一角の空き部屋を借りて、何をするでもなく、待機していた。
どうしよう。日本国籍をとったとして、やりたいことも無い。貨客船としての私の艦生(?)は終わったのだ。
客船としての制服―と、私は決め込んでいた―の黒いワンピースドレスと、帽子をダンボールに仕舞い込む。
もう二度と着ることは無いでしょう。決別しないと。
「おぉい、レディ・リタさん、あんたを訪ねてきたって人が居るんだけど、来てくれるかい」
事務所の人の声だ。こんなときに、私に来客……?
「……………」
「どったのヴォーパルちゃん、そんな神妙な目でテレビ見つめてサ」
「……このフネ、古い知り合いなんです」
「はーん、そうすると、ちょっとおつらいニュースだねぇ」
「樹雨さん、こういう話をそんなふうに茶化した言い方は」
「や、別に茶化してるつもりは無いのよ六華ちん。こういうニュースはね、真面目に受け取ると余計につらく――」
「やっぱり茶化してるじゃないですか!」
「あーもう六華ちんはこれだから……」
「……すみません。私、ちょっと出てきます」
「え、突然どうしたの」
「私も行ってきますわ~~~♪」
「ハピハピも!?」
「と、いうことは。私と樹雨さんで留守番ですね」
「まぁ手は足りるけどさぁ……」
.
..
...
....
「あーあ、これからどうしよ」
私はもう船ではない。焼損した艤装は廃棄され、私の扱いは解体処分後の元・艦船となった。
正直、あのまま焼け死んだって構わないと思っていたのだけど、幸か不幸か、私の身体にまで火が回ることはなかった。
戦争中はあんなにあちこちに弾を食らったというのに。……いや、起きていることは同じ。
どれだけひどい目に遭っても、私は死ねないみたいだ。
ともあれ、船籍を失ったことで、人と同じような籍を取り直す必要があった私は、半ばヤケクソで日本の戸籍を取ることにした。
手続きが終わるまでは外を出歩くこともままならない。少なくとも日本では、籍のない者にウロウロされては困るみたいだし。
そういうことで、私は港湾事務所の一角の空き部屋を借りて、何をするでもなく、待機していた。
どうしよう。日本国籍をとったとして、やりたいことも無い。貨客船としての私の艦生(?)は終わったのだ。
客船としての制服―と、私は決め込んでいた―の黒いワンピースドレスと、帽子をダンボールに仕舞い込む。
もう二度と着ることは無いでしょう。決別しないと。
「おぉい、レディ・リタさん、あんたを訪ねてきたって人が居るんだけど、来てくれるかい」
事務所の人の声だ。こんなときに、私に来客……?
「お久しぶりです、レディ・リタ……いえ、リターナー」
「えっと……どちら様……でしたかしら……?」
「ヴォーパルです。元英国海軍、巡洋艦の」
「あぁ…………」
名前を聞いて思い出した。
戦争中に、太平洋の辺鄙な拠点で会ったことがある。
確か、それ以前にも、一緒に戦ったこともあったような。
たどたどしい言葉遣いの、妙に大きな、フリルドレスの………。
「……え?」
「思い出しました?」
「いや、私の知ってるヴォーパルは、もっとフリフリで、カタコト気味で……」
そういうと彼女?は、ムスッとする。
「あ、貴女だって!傷だらけで!少ししか喋れない人でしたよ!」
……そういえばそうだった。
あの頃の私はあまりにも被弾するので、雑な修復で済まされて、その影響で言語能力にも影響があって。
「……お互い変わったね」
「……そうですね」
「で、後ろの方は?」
「元米海軍掃海艇、ハーピィですわ~~~↑↑♪」
「ヴォーパルとはどういう関係?」
「同僚ですわ~~~↑♪」
「そ、そうですか……」
「ちょっとうるさくてごめんなさいね……」
「それは構わないけど……どうして私を訪ねてきたの?」
本題。
「ニュースを見て……居ても立っても居られなくなっちゃって」
「気持ちはありがたいけど……そんなふうに思われる仲だったかなって」
「それは、そうなんですけど……あの頃の事思い出したら、貴女の元へ行かなきゃ、と思って」
「あの頃……」
「えっと……どちら様……でしたかしら……?」
「ヴォーパルです。元英国海軍、巡洋艦の」
「あぁ…………」
名前を聞いて思い出した。
戦争中に、太平洋の辺鄙な拠点で会ったことがある。
確か、それ以前にも、一緒に戦ったこともあったような。
たどたどしい言葉遣いの、妙に大きな、フリルドレスの………。
「……え?」
「思い出しました?」
「いや、私の知ってるヴォーパルは、もっとフリフリで、カタコト気味で……」
そういうと彼女?は、ムスッとする。
「あ、貴女だって!傷だらけで!少ししか喋れない人でしたよ!」
……そういえばそうだった。
あの頃の私はあまりにも被弾するので、雑な修復で済まされて、その影響で言語能力にも影響があって。
「……お互い変わったね」
「……そうですね」
「で、後ろの方は?」
「元米海軍掃海艇、ハーピィですわ~~~↑↑♪」
「ヴォーパルとはどういう関係?」
「同僚ですわ~~~↑♪」
「そ、そうですか……」
「ちょっとうるさくてごめんなさいね……」
「それは構わないけど……どうして私を訪ねてきたの?」
本題。
「ニュースを見て……居ても立っても居られなくなっちゃって」
「気持ちはありがたいけど……そんなふうに思われる仲だったかなって」
「それは、そうなんですけど……あの頃の事思い出したら、貴女の元へ行かなきゃ、と思って」
「あの頃……」
あの辺鄙な拠点で過ごした短い期間の事を思い出す。
あそこに居たのは、英海軍の"ルルイエ級"と称される二人と、米海軍の潜水戦艦。
そして……日本海軍の、雨氷型駆逐艦が二隻。いや、厳密には、ヴォーパルの生み出したという、複製が二人。
そこで私は、その複製の二人といくらか交流があった。
その中で、二人は一度沈み、ヴォーパルによって"産み直され"たことを話してくれた。
彼女の奇妙な能力……紫色の半透明な物体を使って、色々なものを生成できる。
二人は、私の傷だらけの体を見て、その能力を使って修復してもらったらどうか、と提案してくれた。
ヴォーパルも、望まれれば喜んでする、と言っていた。
……だけど、私は断った。
どれだけ傷つこうとも、身体が自分のものでなくなったとしても、私は私。
"産み直して"もらう必要は無い、そう伝えた。
正直に言えば、少し怖かったのかもしれない。でも、嘘をついたつもりもなかった。
あそこに居たのは、英海軍の"ルルイエ級"と称される二人と、米海軍の潜水戦艦。
そして……日本海軍の、雨氷型駆逐艦が二隻。いや、厳密には、ヴォーパルの生み出したという、複製が二人。
そこで私は、その複製の二人といくらか交流があった。
その中で、二人は一度沈み、ヴォーパルによって"産み直され"たことを話してくれた。
彼女の奇妙な能力……紫色の半透明な物体を使って、色々なものを生成できる。
二人は、私の傷だらけの体を見て、その能力を使って修復してもらったらどうか、と提案してくれた。
ヴォーパルも、望まれれば喜んでする、と言っていた。
……だけど、私は断った。
どれだけ傷つこうとも、身体が自分のものでなくなったとしても、私は私。
"産み直して"もらう必要は無い、そう伝えた。
正直に言えば、少し怖かったのかもしれない。でも、嘘をついたつもりもなかった。
「……傷だらけでも戦い続ける貴女、そして戦争が終わってから、客船としての夢を叶えた貴女を、遠くから見守っていました」
「そうなの?」
「はい。それで……」
「なるほどね」
「でも、私がこう伝えたとしてもきっと貴女は、私に頼ることはしないと思うんです」
それはそうだ。だって、もう、やりたいことがないのだから。
いつか来る魂の死を、ただ待つ以外に何があると……。
「ですから、私のワガママに付き合ってほしいんです」
「ヴォーパルの……ワガママ……?」
「そうです。私のワガママです」
「ヴォーパルさぁん↑許可降りましたわよ~♪↑↑」
いつの間にか席を外していたハーピィが戻ってきた。
「許可って?」
「貴女の外出許可です」
「はぁ?」
「そうなの?」
「はい。それで……」
「なるほどね」
「でも、私がこう伝えたとしてもきっと貴女は、私に頼ることはしないと思うんです」
それはそうだ。だって、もう、やりたいことがないのだから。
いつか来る魂の死を、ただ待つ以外に何があると……。
「ですから、私のワガママに付き合ってほしいんです」
「ヴォーパルの……ワガママ……?」
「そうです。私のワガママです」
「ヴォーパルさぁん↑許可降りましたわよ~♪↑↑」
いつの間にか席を外していたハーピィが戻ってきた。
「許可って?」
「貴女の外出許可です」
「はぁ?」
「……ということで社長、いかがですか?」
「そうだな。この頃は海外からのツアー客も増えてきて増車をしようと思っていたところだ」
「ということは……」
「どうだね、リタくん、キミさえ良ければウチでバスガイド、やってみないかね、ン?」
二人に連れられて来たのはルルイエ観光、二人の職場だ。
そして、ヴォーパルの社長への直談判でこんな話になってしまった。
「……まぁ、私でよかったら、お引き受けします」
「そうか、頼まれてくれるか!そしたらだね……手続きが終わり次第、この書類を書いて出しに来てくれれば良い」
「面接とか、無いんですか?」
「それはキミの貨客船としての経験を信用するから免除だ。即採用だよ」
「あ、ありがとうございます……?」
「やったー!おそろいのバスガイド制服ですよ!」
「う、うん……?」
「そうだな。この頃は海外からのツアー客も増えてきて増車をしようと思っていたところだ」
「ということは……」
「どうだね、リタくん、キミさえ良ければウチでバスガイド、やってみないかね、ン?」
二人に連れられて来たのはルルイエ観光、二人の職場だ。
そして、ヴォーパルの社長への直談判でこんな話になってしまった。
「……まぁ、私でよかったら、お引き受けします」
「そうか、頼まれてくれるか!そしたらだね……手続きが終わり次第、この書類を書いて出しに来てくれれば良い」
「面接とか、無いんですか?」
「それはキミの貨客船としての経験を信用するから免除だ。即採用だよ」
「あ、ありがとうございます……?」
「やったー!おそろいのバスガイド制服ですよ!」
「う、うん……?」
ピンポーン
ヴォーパルがインターホンを押すと、がちゃりとドアが開く。
「なんだ、ヴォーパルじゃない。どうしたの、雨漏りでもあった?」
「いいえ、今日は私のお部屋の相談ではなくって……」
アパートの大家らしき女性が出てきた。
私はヴォーパルに連れられ、彼女が住んでいるというアパートに案内されていた。
ちなみに、ハーピィは別のところに旦那さんと一緒に住んでいるらしい。
「あ~……ニュースで見た顔」
なんだか察されてしまった。
「これから日本に住んで、私と同じ職場で働くことになるので、ここが良いかなと思って」
「ははーん。同棲するの?」
「どっ……!?」
「ははっ、冗談よ冗談。新しい入居希望者さんのご紹介ね、ありがと」
なかなかとんでもないことを言う大家だ……。
「空いてるお部屋、見ていく?」
「えーと…お願いします」
「あ、そうだ、私は夢見、ここの大家。以後、よろしくね」
夢見……ユメミ……どこかで聞き覚えがあるような……。
思い出そうとしながら、部屋の方へ歩いていく。
「はい、こんな感じの部屋。いわゆる2K。頑張れば二人住めるかな~」
シンプルな内装だが、収納もベランダもついている。一人で住むには充分過ぎる部屋だ。
「ウチは元艦船だと安くしてるから……あなたも対象よ、どう?」
「そうですね。支障なければここでお願いしてもいいですか?」
「よっし、そうと決まったら……ヴォーパル経由で必要な書類送るから、また出しに来てね」
「わかりました」
何も考えてなかった分、あれよあれよという間に決まっていく。
そうだ。したいことがないからって、空虚な時間を過ごす必要は無いんだ。
今まで夢とか目標とかを追いかけ続けていたから、それ以外の生き方を知らなかった。
そっか。受け身でも、良いんだ。
何か、大きな肩の荷が、下りた気がした。
ヴォーパルがインターホンを押すと、がちゃりとドアが開く。
「なんだ、ヴォーパルじゃない。どうしたの、雨漏りでもあった?」
「いいえ、今日は私のお部屋の相談ではなくって……」
アパートの大家らしき女性が出てきた。
私はヴォーパルに連れられ、彼女が住んでいるというアパートに案内されていた。
ちなみに、ハーピィは別のところに旦那さんと一緒に住んでいるらしい。
「あ~……ニュースで見た顔」
なんだか察されてしまった。
「これから日本に住んで、私と同じ職場で働くことになるので、ここが良いかなと思って」
「ははーん。同棲するの?」
「どっ……!?」
「ははっ、冗談よ冗談。新しい入居希望者さんのご紹介ね、ありがと」
なかなかとんでもないことを言う大家だ……。
「空いてるお部屋、見ていく?」
「えーと…お願いします」
「あ、そうだ、私は夢見、ここの大家。以後、よろしくね」
夢見……ユメミ……どこかで聞き覚えがあるような……。
思い出そうとしながら、部屋の方へ歩いていく。
「はい、こんな感じの部屋。いわゆる2K。頑張れば二人住めるかな~」
シンプルな内装だが、収納もベランダもついている。一人で住むには充分過ぎる部屋だ。
「ウチは元艦船だと安くしてるから……あなたも対象よ、どう?」
「そうですね。支障なければここでお願いしてもいいですか?」
「よっし、そうと決まったら……ヴォーパル経由で必要な書類送るから、また出しに来てね」
「わかりました」
何も考えてなかった分、あれよあれよという間に決まっていく。
そうだ。したいことがないからって、空虚な時間を過ごす必要は無いんだ。
今まで夢とか目標とかを追いかけ続けていたから、それ以外の生き方を知らなかった。
そっか。受け身でも、良いんだ。
何か、大きな肩の荷が、下りた気がした。
ルルイエ観光、終業時間も近い頃。
ヴォーパルとハーピィは戸締まり確認をしていた。
「ねぇ、ヴォーパルさん。貴女には彼女の何が見えてましたの?」
「秘密です」
「隠し事はよくありませんわよ~♪」
「隠す必要はありませんけど、でも、もう言う必要も無いことですから」
「うふふ、貴女っていつもそう」
ヴォーパルは何も答えない。
「でも、貴女と居ると退屈しませんわ♪」
「褒めてますよね?」
「もちろんですわ~↑♪さ、戸締まり完了、電気を消して帰りましょう~♪」
「ええ」
非常口の緑色の電灯が、二人の背中を照らしていた。
(おわり)
ヴォーパルとハーピィは戸締まり確認をしていた。
「ねぇ、ヴォーパルさん。貴女には彼女の何が見えてましたの?」
「秘密です」
「隠し事はよくありませんわよ~♪」
「隠す必要はありませんけど、でも、もう言う必要も無いことですから」
「うふふ、貴女っていつもそう」
ヴォーパルは何も答えない。
「でも、貴女と居ると退屈しませんわ♪」
「褒めてますよね?」
「もちろんですわ~↑♪さ、戸締まり完了、電気を消して帰りましょう~♪」
「ええ」
非常口の緑色の電灯が、二人の背中を照らしていた。
(おわり)