#1
スケニウの農民
ネステル・アルパから船で数時間行くと、スケニウというところにつく。その昔、ここにはこの「ハタ王国」を統治する万世一系の皇族「
スカルムレイ一族」がアルパという屋敷を構えて王国を統治していた。しかし、突如王国を襲った地震によってハタ王国の中心都市は最近発見された一つの島に移った。スカルムレイ一族の去ったこの町では活気も半分くらいにまで落ちてしまったようだ。
私は、ここスケニウより少し南で農作業をしている農家に一つ質問をした。
「そこの生産者、ケンスケウ・イルキスのケンソディスナル家の場所を知らないかな?」
その問いを聞いた農家の男は笑い出し、
「あんた、商人なのにスケニウと南スケニウの地理関係も知らないのか?」
と逆に尋ねた。
私はすこし怒り、
「私は南スケニウへの行き方を問うておるのだ。私の無知さなぞ聞いていない。道を教えるんだ。」
「それが人に何かものを聞くときの態度か?まあいい、教えてやろう。まずあんたの知りたい南スケニウとここスケニウはかなり土地が違う。」
「そりゃ名前が違うんだ。距離は1以上あって当然だろう。」
「1なんてもんじゃない。ここから歩けば・・・そうだな、二週間はかかるかもしれんな」
耳を疑った。
「な、二週間!?」
「あんたまさかそれも知らないというのかい?これはアッタクテイさんとクントイタクテイさんくらい違うんだが」
「なんと、馬鹿にしていた。スケニウに対しての南スケニウなのだからもう少し近いものだと・・・」
私はかなり唸っていた。
「ところで違っていたら失礼だが・・・」
「なんだ?」
「さっきからあんたの話すユーゴック語がおかしい。もしかしてうわさに聞く『ファイクレオネ』という別世界から移動奇術を使ってきた者か?」
しばし時間が止まったように思えた。私は戸惑っていた。
「く、もしそうだと答えたら?」
「うむ・・・私はべつに何もしない・・・が、気を付けたほうがいいよ。ここから南の方へ行けばよくわかるさ。南の奴らはあんたのようなリパラオネの人種は警戒する。」
「それはつまりどういうことだ?我々の人種はいったいどういう疑いを掛けられている?」
「・・・ここだけの話なんだが、王国では最近庶民が消えるっていう珍事件が頻発していてね・・・・。そういった一連の事件の主犯がすべてあんたらなんじゃないかって噂されているんだよ。」
「え、私は何も知らないぞ?」
「ああ、でも南のほうではそうされている。正直あんたがあそこに行くのはあまり勧めない。」
「そうか・・・ありがとうな、王国民」
「いいさ、まさかあんたがファイクレオネのもんだとは思わなかった。この土地は初めてなんだな。悪いこと言ってしまった。」
「いや、もう大丈夫だ。」
そうしてその農家をあとに再び出発していった。ちょっと道草食ってしまった。私は少し考えたことがあった。彼はそんなことどうどうと喋ってよかったのだろうか。
しかし、よくよく思い出せば、結構周りをちらちら見ていた。誰かいたのだろうか?だとすれば私のせいであの農家を社会的に殺してしまうことになる。
そんなことをおもいながら私は足を運んで行った。この道は南スケニウに通じており、さっきの農家の言った通り二週間は歩く必要があるらしい。これは想像以上に長旅になりそうだ。
彼に見破られた通り、私は根はリパラオネ人だ。ここで移住するにあたって、なるべくハタ人の外見に合うように、黒いカラコンを入れたり、髪をあえて黒く染めたりと、今にもばれそうな変装をしている。
また、ユーゴック語も学んできた。過去の移住者がネステルで作り上げてきた「ファイクレオネ人向けユーゴック語教室」にも通ったのだ。ここは連邦にとっていまだ未開拓の地である。調査を終えれば連邦へなにか報告するのも悪くない・・・
なんてことを考えて歩いていたらいつの間にか夜だ。そろそろ宿に入るか、テントでも建てるか。
その時、はっと思い出す。私はリパラオネ人だ。もし王国の宿にそれがばれたらさっきのようには見のがしてはくれないかもしれない。なにかあれば、手元にある
ウェールフープ可能化剤で一掃・・・といったこともできるがさすがにそれをするとパニックになりかねない。しかたなくテントを建てようと鞄の中を出す。
すると、後ろから女性の声が聞こえてきた。
#2
宿を営む女将
「そこのあなた、すぐ近くに宿があるというのになぜそこで店広げようとしているの?」
「え・・・あなたは?」
「私はこの宿を営んでいるの。あなたは旅人でしょ?遠慮せずに泊っていけばいいわ。」
これは助かった。向こうから話しかけてくれるとは。それにしてもこの国の宿は分かりにくい。というのもおそらくすべて有字だからであろう・・・。それにしても話しかけられてしまった。これは応じてもいいのだろうか?なにより、この宿に泊まれるほどの金を私は持っているのだろうか・・・
「あ、今私は宿に泊まるほどの金がないのだが・・・」
「料金なんて後から払えばなんとでもなるわ」
「おお、なんとありがたい。」
「ふん、なんて調子のいいのかしらね」
「いや、私の故郷ではそんなことはありえない。あなたは非常に慈悲深き人だ」
「あら、よほどつらいのね、あなたの故郷は。まあいいわ、とりあえずあがりなさい。」
「どうもありがとう」
その女性に招かれるがままに建物の中に入る。普通の木造であった。
「えーっと、ここがあなたの部屋ね。はい鍵」
その女性が部屋の名前が書かれた地図のようなものを持って言う。
「あ、どうも」
「夕飯はどうする?」
「あ、是非。」
「そこは遠慮しないのね。」
「駄目だったか?」
「いや、別にいいけれども。7時ごろにはできているからそのころに呼ぶわ。部屋でゆっくりしてて。」
食事は女将の手作りか・・・古風な雰囲気が漂っているな。とりあえず部屋へ行こう。
部屋へは階段で二階に上がる必要があった。ぎしぎしと独特の木がこすれあう音がする。こんなのもあそこではまず聞かない。
部屋に入り、地べたに座る。そのまま寝てしまいそうだったが何とか起きた。
そして女将が言っていた時間に近づく。そろそろ食堂に行ってみようかな。
「あら、来たわね。」
「いや、もうそろそろかと思って」
「食事に関しては妥協しないのね。」
「ああ、まあ・・・」
「まあいいわ、食べて。」
メニューは魚を中心としたもののようだ。それに米、スープもある。ラネーメ人が食いそうなメニューであった。
しばらく食べていると女将が尋ねてきた。
「そういえば、あなた名前は?」
少々驚いた。どうしよう、ここでアロアイェーレームを名乗ればかなり怪しまれる。ここはユーゴック語教室時代に付けてもらったユーゴック名を名乗るか・・・
「ガルタ=ツラエルトゥロムだ。」
ガルタ(Garta)は「炎」の意味。男性名では使われやすい単語の一つ。ツラエルトゥロム(Tsuraertrom)は直訳すると「四万本の道」になり、ネステルに多い庶民的な名字。庶民的とはいえ珍しい部類に入る。いずれもそんなに突飛した名前ではない。系統的にはファイクレオネ人との混血であるSazasyimi姓やその分家と言われるRantein姓がいいんだろうが、それは自分が異邦人であると断言したようなものである。かといって王国人であることを主張してIzartaSyiinaria姓とかKariiphaTeriin姓とかにするとそれはそれで怪しまれる。なのでその中間ともいえるTsuraertrom姓は自分みたいな立場の人間が名乗るのにちょうどいいかと考えた。
やはり、予想通りの反応を得られた。
「へー、向こうの出身なのね。めずらしいわ。この辺ではあまり見ないわね。」
「そうなのか・・・あなたは?」
「私は
タースマング=スカスラルカスっていうの。」
「タースマングか・・・」
「あら下の名前で呼ぶなんて、ずいぶんと馴れ馴れしいじゃない。」
「そうなのか?」
文化が違うのだろうか?まあいい。
スカスラルカスといえば南スケニウにはよくいる名字だ。直訳すると「南西」。ようするに南西さんということになる。
氏はともかく、、なんとすばらしい名であろうか。タースマングときたもんだ。つまり美しい子というかなんというか、そういう直訳になる。
「タースマング、美しい女性なんだな。」
「ふふ、あのあたりにはそういう親バカな名前が多いわよ?」
「なるほど、面白い」
「ごちそうさまでした。」
「はい、お粗末さまでした。」
「すみませんね、迷惑かけて。」
「なに、仕事よ。」
「では部屋に戻りますね。」
「ええ、どうぞ。ちなみにそこの廊下真っ直ぐ行けばお風呂あるから、よければどうぞ。」
「ありがとう」
とりあえず部屋に戻る。
ちょっと興奮に駆られた私はその辺のタンスを開けてみた。布団が一式収納されていた。やはりか。
ふと、風呂の話を思い出す。連邦では水につかるなんてことしないのにな、と文化の違いを感じつつ着替えを持って風呂場へ行く。
途中でタースマングが通りかかった。
「お風呂入る気になったかしら?」
「ああ、不潔はよくないからね。」
服を脱ぎ、浴槽につかる。風呂に入るなんてネステルにいた時以来だ。
そして上がって体を洗う。普通のせっけんだ。
そしてあがる。服を着て廊下に出るとタースマングが立っていた。
「ん?タースマング、どうしたんだ?」
「あ、ガルタ・・・」
タースマングが少々焦っているように見える。するとすぐに持ち直していつも通りの笑顔で。
「なんでもないわ、最近風呂場の火の調子が悪くて心配だったのよ。」
そうか、今でこそウェールフープの渡来によってガス技術が伝わったとはいえやはりこういう辺境にはまだ行き届いていないのか。普及させるにはまだまだ時間がかかるな。だからこういうところでは水を温めるのに火を起こしているのか。
と、自己解釈をする。
かるくあいさつを交わして部屋に戻る。時計を見ると9時であった。まだ寝るには早い。しかたないので、暇つぶし用に持ってきた小説でも読み進める。もちろん布団の上で・・・
気が付くと朝になっており、本が私の顔の上に乗っかっていた。
「寝てしまったか。」
布団を片づけて荷物を整理して、部屋を出る。そしてタースマングに礼を言う。
「あなたとはなにか縁があったみたいね。じゃあ、さようなら。もしかしたらどこかで会えるかもしれないわ。」
「また会えるといいね。それじゃあ、ありがとう。」
#3
商店街で
先日の農家曰く、南スケニウの中心につくまで二週間はかかるとのこと。これではさすがにきつい。もう宿を出てから3日立ったが、さすがにずっと歩きっぱなしだと足も限界が来る。
なにか楽できそうなものはないだろうか。この国はまだ鉄道技術が発達していないし行き届いていない。遠くへ行こうとすると時間がかかる。
――いっそウェールフープで移動するか・・・
ウェールフープを使えばおそらく数秒で着くが、着く場所によってはやばいかもしれない。いきなり町のど真ん中に現れたらそれはそれで困る。そのせいで攻撃をされたらどうしよう。もっと厄介なことになる。
やはり地道に歩いていくしかないのか・・・。せめて馬とかでも使えたらいいのだが。
そんなことを考えていると少し開けたところについた。ここはなんていう町なのだろう。近くには屋台があったり、家があったり、結構盛り上がっているところのようだ。もしかして、もう南スケニウに着いたのか?ためしに、近くで焼き鳥を打っている屋台の人に聞いてみた。
「あの、旅のものなんだが、ここはなんというところだ?」
「ここはワストゥルだが?」
「ワストゥルか・・・どうもありがとう。」
「ちょっと待ちなアンタ」
「え?」
「ほれ、食え!」
「んぶ」
屋台の人は私の口に焼き鳥をブチ込んだ。そして私は口をもぐもぐした。
おいしい。しかし、何のつもりだろうか。
「うまいだろう?」
「え、あ、うん」
「よし、40ケテな」
「なん・・・だと?」
く、なんか知らんけれど金とられてしまった・・・。まあまだあるけれど。
さてここはなにかの祭りでもやっているのだろうか。まあ、細かいことは後から調べよう。そこでワストゥルという場所を調べるために地図を広げる。見てみると、目標としている南スケニウの「ディスナル」との中間地点であった。どうやらここはもともとディスナルという集落から都へ向かう途中みたいだからそこに宿とか市場とかが集まって栄えたみたいだ。海も近い。漁業とかもしてそうだ。
「折角だからすこし立ち寄っていくか。かるく観光する程度に。」
街道のわきにあった商店街らしき通りに入っていく。すると先ほどよりもより多くの屋台が並んでいた。見ると、焼肉とかかれた看板さえもある。ほかには、麺類などを売っているところが多い。商売は自由なのだろうか?聞いてみることにした。
「まあ、自由っちゃあ自由かな。でも今日出ている屋台は多分年末祭とかトイタネイン前期祭とかがほとんどだと思うよ」
どうやら祭りの時期らしい。そういえばハタ王国の暦では今はもう晩年なんだった。そりゃ盛り上がるわけだ。
あの農家の言うように、今まで歩いてきて異邦人だと絡まれることはあまりない。あの人が思っているよりも南の地域は寛容なのだろうか?はたまた風のウワサってやつか?
そんな疑問を後に、とりあえず、うどんのようなものを売っている屋台で食事を済ませてから再び旅立つことにした。
「ごちそうさま」
「はい毎度あり。ところであんた、この辺ではあまり見ない顔なんだが、お客さんかなんかか?」
「私は旅のものだ。ネステルから来た」
「はぁー、ネステルからか!そりゃずいぶんな都会から来たな!」
「そうか?」
「そりゃそうだ!こんな田舎からしたらあんなところねえ」
と、屋台のおばさんが横で作業していたおじさんに話を振った。
「んえ?ああ、そりゃそうだ。特にこんな時期は冷えが激しいからなあ。体の中まで凍りそうだ」
「ネステルってあれだろう?その辺の建物に入れば普通に暖かいって話だよなぁ、坊や?」
屋台で同じように食事をしていた少年に話しかける。
「え!?そうなの?すごいなー」
どうやらここではあの辺はかなりあこがれの地のようだ。
「そんなにあこがれるのか。私の財政力があれば、今この屋台にいる人全員くらいはネステルへ連れて行くことができるが」
「え?本当かい?どんな金持ちなんだよ」
おばさんが少々驚く。
「さっすが、都会もんは言うことが違いやすねー」
と、横のおじさんが言う。
「ほらほら、客がつっかえている。あんたも今日はこれでお帰り」
「わかった」
商店街を後にしてふたたび街道にもどる。来た方向を確かめて左向きに歩き出す。
まだ太陽は沈んでいない。どうやら3時とかそのあたりのようだ。
#4
再会
あれからさらに三日たった。ずっと歩いているがディスナルはまだ見当たらない。来る道を間違えたか?半分不安な気持ちで歩いていく。もう一週間も歩いているため、足が痛い。むかしのファイクレオネ人もこうやって移動していたのか。
目の前に坂がある。その坂はジキンディス・アケイリといい、坂に潜む吸血鬼アケイリ・チェクセルが誕生した魔の上り坂と伝承されている。そのため「食べられる橋」と呼ばれる。いつかの
トイター教の伝承集で見た。本当にそんなことがあるのだろうか。いや、それは古代の人々の迷信。古風な王国とはいえ少しくらいは近代的なものが入ってきているだろう。そう思いながらしっかりとした脚で坂を上る。上る。
――すると、
「!!」
なんとこけてしまった。やはり、なんだか呪われている。昔の人々もこういう体験をしてそういう迷信が伝わったのかなとしみじみ思う。多分ないなと思い立ち上がって歩きすすむ。チェクセル恐ろしやと思い坂を上りきると、それはまた下り坂になっていた。すると、その先には、何やら町が見えてきた。あれはディスナルだろうか?と思い、下り坂を下る。
やがて町へ着いた。看板を見てみる。なんとディスナルと書いてある!
「やっとついた・・・」
と、思いホッとする。
しかし、思い返してみると、かかった日数は6日くらいしかない。農家の話によれば二週間であったが実際は一週間もかからなかった。・・・と思い今日の日付を確認するためカレンダーを見る。すると、あることに気付いた。
「そうだ、トイター暦だと一週間が4日なんだった。それで考えても二週間とまではいかないけれど、おそらく彼と私の間では一週間の感覚がずれていたようだ。」
自分の間違いにやっと気づく。気が付けばもう夕方だった。町まで来たのだからそろそろ宿を探そうかな。これくらい大きな町ならば宿くらいあるだろう。
- と踏んでいたが、なんと、宿らしき建物が見当たらない。というかまず人がかなり少ない。町に活気と言うものが感じられない・・・
すると、ある広場に出た。広場には井戸らしきものが存在しており覗いてみると水が張ってあった。すると、ある一人の女性が井戸の近くにやってきた。しかし、その女性には前にも感じたことのあるような、少し違うような雰囲気が漂っていた。
「・・・!?」
「あら?」
「た、タースマング?」
「え?」
「いや、人違いみたいだ。悪かった。」
「いえいえ、全然。タースマングってあのエルデルからワストゥルの間あたりで旅館を経営しているタースマング=スカスラルカスのことでしょう?」
「え、」
「私は
ツァピウル=ケンソディスナル(Tsafiur=Kensodisnar)。彼女の姉です。」
「え、そうだったのか!」
なんと、やっとケンソディスナル家の者を見つけることができた。聞けば、ツァピウルはやはり巫女をやっているらしい。なるほど、たしかにそれっぽい服を着ている。しかし、疑問に思ったことがある。
「ならば、なぜ姉と妹で名字が違うんだ?」
「うーん・・・」
彼女はすこし黙り込んでしまった。
「それは、いわゆるケンソディスナル家の秘密ってやつですわ。」
「そうか」
喋りたくない事情でもあるのだろうか。とりあえず、だいぶ打ち解けてきたのでいろいろ訊いてみることにした。
「私は今この町に来たばかりだ。この町は、かなり建物が建っていて商店街らしきものも多い。しかし、人が全く見当たらないんだ。何か知っているか?」
すると彼女は突然無表情になってしまった。・・・まずいこと聞いちゃったかな?
「ああ、すまない。なにかまずいことを聞いてしまったかな?」
「・・・いえ、教えてあげますわ。あなたはかなりいい人だと見込みます。」
どうやら信用されたようだ。いいだろう、こんなかわいい子のためなら・・・っといけないいけない
#5
新興独裁勢力
「実は、このあたりでは人が突然閃光に包まれて消えるという事件が多発しているんです。」
「え・・・?」
私はどこかに余裕があるような顔で驚いた。
「ハフリスンターリブを知っていますか?」
「ああ、前に誰かから聞いた。」
- すると何かを思い出した。そういえば、あの時の農家が言っていた。「人が突然消えるという事態が頻発している」と。もしかしたらそのことかもしれない。
「この町では人が突然消えるのは完全にハフリスンターリブの仕業だとされています。しかも、最近は、ハフリスンターリブの影響力がここまで来てしまいました。」
そういえば、ここはハタ王国の中でも端っこの方に存在する町である。しかも、ハフリスンターリブはちょうど真反対のハフルに拠点を置いていると聞いている。
「ハフリスンターリブには王国でも勝てないような不思議な魔法を使って王国を乗っ取ろうとしているのです。
人が突然消えるのもそういう不思議な魔法に関連して言われているものだと思われます。」
おそろしいな。その辺の町を歩いていたら突然自分が消える。それよりも周りの人間が驚くであろう。突然目の前にいた人間がいなくなる。こんな恐ろしいことはない。
「人々は完全に怖がってしまって、外にも出られないというわけです。」
「ふむ、なるほどな・・・これは悲しいことを聞いてしまった。」
「ふふ、気前がよろしいのですね。」
「こちらの事情も教えたほうがよいか?」
「ええ、是非。あなたが何者なのか。何故この町に来たのか。」
「私は、表向きはただの旅人だ。」
「あら、そうなんですの。ようこそケンソディスナルの統治するディスナル地方へ。歓迎いたします。」
「ああ、どうも。それでだ、私はずっと都会暮らしをしていたわけだ。」
「都会と言うと・・・イザルタとかネステルですか?」
「ああ、ネステルだ」
「あらま、ずいぶんなところから来られましたね。いったいどんな目的で?」
「知りたいか?」
「ええ。」
「実は私はハフリスンターリブの一人だ。」
#6
反逆ののろし
すると、ツァピウルの驚く様子がうかがわれた。
「・・・え?・・・え??」
無理もない、さっきまで本当に親密にお話をしていた相手だ。
「では、この町へはテロを起こしに・・・?」
「そりゃ、出発した時は、そういう目的であったが・・・」
私は、迷いを感じていた。こんな平和な町を制圧して何になるのか。彼女らもまた反逆者としてハフリスンターリブの裁きにかけるというのか。
それは人道に反している。ならば私が今できることは、この危機から救うことだ。
「もう君たちを殺す気はないよ。友達じゃないか。」
「・・・!」
「だから私がこの場でやるべきことは一つ。君にいち早く会って、民たちをまとめてもらってハフリスンターリブへの抵抗の意思を示すことだ。」
「あなたは・・・本当の救世主なの?」
「そうだ。」
「実は謀っているのではなく?」
「どんなに疑うんだ。本心からそう思っている。」
「あ、ありがとう・・・」
まだ何もしていないというのに。そうだ、念のため、こちらの名前も紹介しておこう。
「私の自己紹介が遅れたね。私はガルタ=ツラエルトゥロムという。」
「あら?普通のユーゴック名なのですね?」
ツァピウルが首をかしげる。
「だが、こちらで身を隠すための名前だ。」
「え?あのファイクレオネで命名された名前があると?」
「そうだ。ファフス・ラヴヌトラート(FAFS.lavnutlart)という。」
「ファフス・・・ラブヌトラート?」
「ラ"ヴ"ヌトラートだ。」
「ラ・・・ヴ・・・?」
そうだ、ユーゴック語にはこの音はないんだった。これは転写に困る。
「ラヴヌトラート。まあラブヌトラートでもいいよ」
「そう、よろしくね!ラブヌトラートさん!」
なんと素晴らしい笑顔であろうか。
「あ、一応言っておくけれどリパライン名ではFAFSが姓だからな?ラヴヌトラートは名だ。」
「え!じゃあ今私、下の名前で男性を呼んじゃったのね・・・」
ツァピウルが落ち込む。ハタ王国では男性よりも女性のほうが立場は上だ。レディーファーストがさらに強くなった感じ。
「ごめんな。ユーゴック名では逆だったんだよな。ケンソディスナルが名字だろ?」
「そうです。ケンソディスナル家ですから」
しばらく彼女と冗談を交えて雑談をした。彼女の笑う顔は非常に愛らしく、もう自分の本来の目的が目の前にいる女性たちを殺すことなのだという自覚が薄れてしまうほどであった。しかも、まわりに出歩いている人はいない。この広場には二人しかいない。私たちはのめり込むようにお話をしていた。そして、私はついに、王国民に決して言ってはいけないことを言ってしまいそうになった。
――
「!!!」
気が付くと彼女はもう目の前から姿を消していた。360°どの方向を見ても彼女の姿が見当たらない。すると、靴のみがその場に残されていた。
「・・・!!まさか」
すると体全体に謎の痛みが生じた。全身が軽くなったような気がした。すると、目の前が闇に包まれた。さきほどまでの水たまりも広場もすべて見えなくなった。
#7
ようこそ、デュインへ
一人の男が話しかける。
"そういえばまた新しい奴らを拉致ったみたいだな。"
それに対してもう一人の男が応答する。
“ああ、そうだ。これでまた古リパラインの存続が可能となる。”
“またxelkenケートニアーの拉致係がやったのか。どれくらいの規模だ?”
“今回の拉致は大体1万人の規模で行った。狙ったのは座標で言うと135.67.3221.45くらいかな。ハフリスンターリブのやつらが支配している小さな国の南あたりだよ。”
“もはやハフリスンターリブはxelken.valtoalによって重要な収入源になっちまったな。もしあそこが落とされたらやばいんじゃないの?”
“いや、ハフリスンターリブのところは大丈夫だろう。俺らの総統はそれを見込んであいつらと契約をしたんだ。”
なにやら自分の後ろから会話をしている声が聞こえる。久々に聞く
リパライン語だ。しかも古リパライン。
“ところで、こんなところで堂々と話して大丈夫なのか?目の前にいる奴らは拉致の対象者だぞ?”
“大丈夫だ、問題ない。こいつらはまだ古リパライン語を教わっていない。俺らの話しだって理解されねえさ”
私はものすごく驚いた。私は立場的にはハフリスンターリブの幹部、つまりこいつらに拉致されるような対象ではない・・・。ずいぶんとお粗末な管理だ。
“さて、そろそろ拉致られた奴らの顔色をうかがおうかな。”
“ご機嫌麗しゅう!弱小なネートニアーどもよ!”
「あ、あいつはいったい・・・」
「ここはどこ!?」
なんと、耳に入る言葉のうちほとんどがユーゴック語だ。そりゃそうか。あの辺りを中心に狙ったらしいからな。
- それにしても驚いた。ハフリスンターリブが自ら国民を支配し、拉致しているといううわさは聞いたことはあるが、まさか契約を結んでいる団体がほかにもいたとは。xelken.valtoalと言ったかな?その団体も聞いたことがある。何百年ぶりに聞いただろうか。まさかハフリスンターリブとxelken.valtoalが共謀しているとでもいうのか・・・?
「ラブヌトラートさんは・・・どこ?」
!?・・・ツァピウルだ。やはり一緒に拉致をされたようだ。く、この私の体の上に乗っかった奴らを全員退かさないと動けない・・・。
と思ったその時、
“よし!今日からお前たちは古リパライン語の伝統を引き継ぐための階段となってもらおう!”
なにやらリパライン語で呼びかけている。しかし、分かるはずがない。拉致られた人々のほとんどがおそらくユーゴック語を母語としている。
“おい、聞こえねえのか!ついて来いっていっているんだ!”
なんと無慈悲な。xelken.valtoalは表向きではずいぶんと言い奴らかのようなふるまいをしていたが・・・やはり裏ではこんなことが為されていたか。
#8
xelkenの再教育
だめだ。ツァピウルを見失ってしまった。冗談じゃない。このまま死ぬまでこいつらに服役しないといけないのか?
しかし、なぜ私が拉致られなければならないのか。私はもうリパライン語を話せる。というかファイクレオネでは中理派だ。私はウェールフープを使えるケートニアーなので脱走を図った。
“おうおう古理派のみなさんよぉ!”
“何!?”
“なんだお前は、神聖な古リパライン語の授業に口出しを・・・!?”
“お前・・・よく見るとリパラオネ人だ!なんかカラコンとか入れていて最初分からなかったが・・・なぜ拉致られている!”
“は!まさか・・・NCF(連邦
特別警察)のやつか!?”
周りにいた王国民の顔をちらりと見てみる。完全に言葉を失っている。いや、元からだ。
“私をここから逃がしてほしい。私はもうリパライン語を話せるし、見てのとおりリパラオネ人だ。”
“ほう?そうか。では、アロエイェーレームを名乗ってみろ”
“FAFS.lavnutlartだ”
“・・・は?”
“ふぁ、FAFS氏?”
“そんな・・・まさか・・・”
しばらく前に立っていたxelken.valtoalのやつらが戸惑う。そして考え終わるとさらに睨みつけるような表情で、
“ほう、旦那さん。嘘はいけんよ。”
“な、なに?”
“ADLPから追放され、裏で学会を操って、3代目リパライン語というリパライン語を逸脱した言語を作られたが、今でも一部の人間は皇族として崇めるFAFS.sashimi氏と貴様が同じ血族だというのか?FAFS氏は貴様のようにあんな時代遅れな国をのほほんと歩くほど馬鹿ではない!”
“その私が歩いていたんだ。私を解放しろ!”
“それは駄目だ。貴様は怪しすぎる。いいか?貴様が生きたままこの
Xelken.valtoalの
デュイン秘密留置所から逃げ、このことを外部に漏らされると今ここで貴様に仕込む予定のこと以上のものを仕込むことになる。貴様のみのため、古リパライン語に命をささげろ。”
“どうせ、お前は逃げられないさ。”
”なんだと!?じゃあこの場で試してみるか!?”
“あ?”
「ツァピウル!この場にいるんだろう!?立ち上がってくれ!こいつらもハフリスンターリブのグルだ!お前の敵だ!殺すんだ!」
ツァピウルの様子は見られない。
「く・・・おいお前ら!ハタ王国の者だろ!?」
私は近くにいる者達に鼓舞をする。
しかし、誰も応じない。
「クソッ、しかたねえ。iska lut xelkener!」
手からウェールフープを放とうと力を込める。
「!?」
しかし、うまく発動できない。
“ふん、ここに連れて行く前に念のため拉致った者全員にウェールフープが打てないように人体改造を施した。もと連邦民だというのにそんな技術も知らないのか?”
“ほれ、反逆者だ。さっさと特別再教育所で連れていけ。”
“御意”
“・・・?おい!”
“じゃあな、ラヴヌトラート。いい思想を持ってまた来いよ。”
“うわあああああああああああああああ・・・」
――
私は目が覚めた。すると私の頭の中にはある意識があった。それはxelken.valtoalへの限りない尊敬。古リパラインを神聖だと思う心。今までそれらを否定してきた自分の考えが馬鹿らしくなってきた。
#9
内部から見たxelkenの風景
テロ組織xelken.valtoalの朝は早い。6時には全員が起きて、朝礼をする。そして全員が集まって古リパラインを神の言語とする祈りをささげる。あとは各自で朝食を済ませて、各々が作戦に入る。なかでも古リパライン語の相続者の教育には力が入っている。
子子孫孫、孫の代、その孫の代まで古リパライン語を残す。一方で新理派や反理派の駆逐を行う。今は新大陸デュインの植民地化を進めている。
私は今xelken.valtoalの古リパライン語の教育を王国より拉致られたものと共に受けていた。今周りにいる反理派も早く古リパラインについていけばいいというのに。
“そうだ。お前はアロアイェーレームをもっているのか?”
“持っているけれど、もう禁じ名です。本当は新しいアロアイェーレームを求めているところです。”
“ふむそうか。では、名付けてもらう必要がありそうだな。”
何かの打ち合わせの結果。Tarf.lavnutlartという名がついたようだ。
“よし、lavnutlart、十分はお前は立派なxelken.valtoalの一兵になった。”
“本当ですか!?ありがとうございます!”
なんとうれしい限りであろうか。xelken.valtoalの一兵にまでなれた。夢を見ているようだ。
“まずは、君の身体能力を計って戦闘員向きかを判断する。それまでは古リパライン語の存続の為に教育係に移ってもらおう。”
“はい!光栄です!”
xelken.valtoalの人たちはいい人ばかりだ。皆自分の通すべき筋を通している。しかもそれが正しい。xelkenにいてよかった。リパライン語をやっててよかった。
そうして私は古リパライン語を後世に語り継ぐために教員となった。
#10
白昼の騒ぎ
もう教員をしてから2週間になる。意外と早い。おかげで生徒たちの扱いもわかってきた。どうしても生徒が従わないというときは再教育を行使してもよいらしい。当然であろう。古リパラインに従わないものなんて人生を損している。ならばいっそそうしたほうがその子の人生のためにもなる。
そして、古リパラインを通しての労働。xelkenの軍備は日々進化している。それをこなせるということがいかに素晴らしきことか、生徒たちに理解させるのだ。もちろん軍備だけでなく、xelkenを運営していくうえで重要な雑務もすべて任せている。
そして今日も異世界から拉致ってきた者達をxelkenとするため、授業を始める。
“さあ、リパライン語の授業をはじめるぞ!”
“椅子なんて贅沢なモンはねえ!地べたでやれ!”
今日は何人かの者がはむかってきた。
「こんなところでやっていけるか!」
どうやらハフリスンターリブのところから来たやつらのようだ。こんなものなんてことはない。ウェールフープの発動をしようとする。と、そこで横にいたAles先輩に制止される。
“やめろ。こいつもまた貴重な人材だ。再教育にかけたりとか、他にもやりようはある。”
それもそうだった。なんということだ。xelkenとして恥ずかしい。
“そうですね。Ales先輩の言う通りです。”
“わかればいいのさ。新人よ。こういう輩はちゃんとリパライン語の神聖さというものを身に染みて感じて初めて治るもんだ。”
“なるほど。すばらしい”
私は感心した。さすが、xelken歴50年にもなる人は違う。今日は古リパラインの歴史の一部を教えた。FAFS.sashimiがADLPを作った時の話だ。私もこの話をするのは好きだ。リパライン語の歴史の中では。
そしてxelkenの一軍人としての訓練を受ける。xelkenの基地内では基本的なウェールフープの制御の練習。ウェールフープライフルの取り扱い。幹部に関しては
NZWPの取り扱いまでも練習ができる。
今日の任務を済ませたのでxelken基地の休憩所に入ってきた。xelkenデュイン指令室のロビーにはコーヒーサーバーがついており、組織の一員であればただで飲める。また、xelkenは一般企業としての事業展開もしており、xelkenの資金の一つともなっている。主に牛乳の生産を行っているらしい。
と思いつつ椅子に座ってコーヒーを飲んで一服していた。
刹那、基地の正面玄関で謎の警告音が聞こえた。
“!?”
どうやら外で誰かが暴れているらしい。見てみることにした。
“どうやら、拉致をしてきたハフリスンターリブのところから来た女性が騒いでいるようだ”
同志のXelken tarf eliだ。私と同時期にxelkenに入ってきた同期だ。
“基地内での反逆か?ずいぶんと命知らずだな。”
“まったくだ。ここは我々の巣だぞ。”
早速現場に駆けつけてみる。
中央回廊に出ると、そこにはナイフを数本持ったハタ人女性がいた。
“ラヴヌトラート、前に俺は聞いたことがあるぜ。”
“え?”
“ハタ王国という国にはウドゥ・ミトと言う名の国技があるんだ。おそらく彼女はそれの使い手か何かだろう。”
“へー。ずいぶんと原始的な方法で戦うんだな。”
“まあ、伝統なんだろうな。”
“具体的にウドゥ・ミトはどんな感じなんだ?”
“それは私も見たことはない・・・しかもこれはユーゴック語らしいから全くどんなんなのか想像できないな・・・”
ウドゥ・ミトの使い手であるその女性は再び暴れ始めた。彼女はナイフを投げてガラスをまず割り、破片を拾ってさらにそれを四方八方に投げた。すると彼女を取り押さえようとしたxelkenのネートニアーの兵士が全員駆逐された。
“つ、強い・・・”
私は思わず感心してしまった。
“なるほど、始めてみたが、ようするにナイフ投げなのか・・・!”
中央回廊の奥からさらに三等兵の兵士が女性に向かって攻撃をしてくる。20人くらいはいるだろう。一人の女性相手に何人がかりでやっているのだろう。
それを見た女性はどこからか棒を取り出した。その棒は直径5mmくらいであり長さが30cmくらいだった。女性はジャンプをしてその一人の兵士の頭の上に着地した。乗っかられた兵は首を折ってその場で倒れてしまった。兵士たちが同心円状に引きさがり、彼女から距離を置く。女性はある兵士がいる方向へ棒を向けた。
「死ね!」
すると、その方向へ何かが飛び、そこが吹っ飛んだ。兵士たちが倒れる。
“!?”
“WPライフルかなにかか!?”
私も驚いていた。ウェールフープ技術が王国にも伝わっていることは知っていたがまさかこれほどとは・・・
「王国の伝統工芸品と最新技術の融合、その名も『光るメシェーラ』。見るがいいわ!」
あっという間に数十人いたネートニアーの三等兵たちが倒されてしまった。私も驚いた。そしてその女性がこちらに気付く。そして、女性は持っているナイフを私たちの方向に向けてきた。しかし、しばらくたつとその手を下した。
「あなた、生きてたのね」
とつぜんその女性が私に向かって話しかけた。その顔には若干の安心するようなところがあった。彼女が私に近づく。
「あの時xelkenのやつに拉致られて拷問にでもかけられたのかと思ったわ。」
彼女は私の知らない言葉で何かを話しかけている。それはどこかで聞いたことがあるような、ないような言語であった。でも意味は分からない。
“な、なんだお前は。誰だ!”
“エリ、とりあえず落ち着け。”
“だがラヴヌトラート、こいつはおそらくxelkenがとらえているハタ王国出身の奴。容赦してはいけん!”
“・・・”
「どうしたの?ラブヌトラート、早く王国に帰りましょう?」
“・・・何を言っているんだ貴様は?”
“むかし王国にハマってユーゴック語勉強したことあったけれど、忘れたな・・・ヒヤリングすらできん”
エリは昔王国にしょっちゅう旅行に行ってたらしい。それが今では古リパライン語を教えて傷つけているという立場だ。よくわからない。
「どうしたの?奴らに何かされてユーゴック語も話せなくなったの?」
あ、今ユーゴックって言った。でもそれ以外は全く分からない。これは、攻撃した方がいいかもしれない。
“おい、私から離れ早々に部屋に戻れ。さもなくば殺す。”
「・・・!?」
“ん、通じたのか?さすが毎日古リパラインを押しつけているだけのことはあるな”
「・・・そう、もういいわ」
そして彼女はどこかへ去っていった。彼女の眼には涙があった。エリは
“おい、待て女!どこへ行く!ちゃんと部屋へ戻れ!”
と彼女を追って行った。私はその背中をずっと見て立ち尽くしていた。
なぜ私はエリとともに行かないのか。何を躊躇ってるのか。まわりにはさっきの三等兵の血と鮮やかな血に塗られたガラスの破片が散らばっているだけであった。
私は何事もなかったかのようにロビーへ戻りコーヒーをいただこうとしていた。すると、エリが彼女を連れ戻す雑務を終えてこちらに駆け寄ってきた。
“おい!お前!”
“え?”
“どういうつもりだ!俺はあの女をわざわざ部屋に戻したというのに、なに先にロビーに戻ってやがる!”
私は言葉が出なかった。
“まさか、xelkenとしての自覚が薄れてしまったか?ついにxelkenに対して反抗意識を抱いてしまったか?今まであんなにxelkenにたいして忠誠だったのに?前までのお前ならもっと激しく彼女を追い返していたはずだ”
“・・・”
“どうしたんだ!お前らしくないぞ!?”
“・・・いや”
“!?・・・もしかしてお前・・・あの女のことが...”
“なんでもないといいただろうが!”
私は怒鳴ってしまった。
“この私が!xelkenを慕い、一生をささげたこの私が!今更xelkenに反抗意識を持つか!?まだ二週間とはいえ私の筋はそんなものではない!”
するとエリは黙ってしまった。
“・・・そうか。悪かったな。煽ったりして”
“あ・・・ちょ”
エリは肩を落としながら奥へ引っ込んでしまった。
悪いことしたかな・・・そう思いながら部屋に戻ることにした。
#11
ラメスト遠征
あの事件から一か月。
あの「王国人暴動事件」以来、私についての噂がxelken幹部たちの間で広まるようになった。「古リパラインのよさを見失って拉致してきたものを見逃した」とか、「実は女に弱いのでは」とか、酷いものだと「私が王国人女性に恋をしている」とか。そんなのが多くなった。そのせいでxelken追放、とかそういうのはなかったけれどやはりいい気はしなかった。今までものすごくあこがれていたxelken。それが実はこんなに陰湿な集団だったのかと思ってしまった。私はxelkenに対して忠義を通している。それなのにどうして――
――
あの事件から一年。
さすがにあの時の噂はもう時代遅れであるかのようになくなった。私も普通に同僚たちと会話できるようにまで関係が回復した。あれ以来、女性は私の前に現れていない。本当になんだったのだろうか。
ところで最近はもはやxelkenの幹部ともいえるようにまで上層部に近づいてきた。ケートニアーというものはもともと階級を上げやすいらしい。いまや普通の作戦でも重要な戦力として重宝されるようになってきた。戦うのは嫌いではない。早速今日は一度ファイクレオネの本部へ向かいそこの兵たちと合流した後部隊を率いてラメストというところを攻撃するという任務を授かった。まずこの基地からは15人の幹部、その下には一人の幹部に大体数千の兵がついている。
“皆の者!士気を高めよ!”
総司令官Xelken.lavyrlが前で叫ぶ。
今思う、名字にxelkenが入っているのはあこがれる。私なんてTarf.lavnutlart。まあこれはあとから名づけられたものだけれど。今からにでも総司令官とか頼んでxelken姓をつけてもらおうかな?いや、やめておこう。それだとxelken姓に対するロマンが失われる。
でもやっぱり憧れる。エリもフルネームはXelken tarf eliでxelken姓だ。三ヶ名だけれど。
とはいえ、あと数分でこの巨大な体育館みたいな部屋ごとウェールフープで移動してラメストまで行き各自テロを始めるそうだ。どうやら現地には治安維持隊やら警察気取りのケートニアーとかがいるらしい。すべて蹴散らしてやる。
すると、目の前に閃光が広がる。どうやら間もなくのようだ。
“いざ、ラメストへ!”
あまりにも眩しくて総司令官の姿も見えなくなった。
――
ラメストについた。我々はただ道の真ん中で規則正しく並んでいた。しかし、それは数秒もたつと崩れ、各々さだめられた方向へ進撃していった。我々はラメストの南部を制圧する。私は幹部なので兵士を率いている。また、同じくエリも一緒についてきている。
今回のプランはこうだ。
まずはこの大通りを制圧してラネーメ公営地下鉄の事務ビルを占領する。上層部の人間を人質に取った後、地下鉄をハイジャックしまくって暴れまくる。総司令官の合図があったら殺しまくる。と言った感じらしい。なんとアバウトな。
ちなみに今回のテロで連れてきた兵士の中には強制的に兵士にさせた拉致被害者も交じっている。従わなければ再教育。さもなくば殺してもいいらしい。これは楽しみだ。
早速我らの軍も進撃せねば。
“いくぞ!”
今回のラネーメ公営地下鉄の占領を担当するのは3部隊だがそれら部隊を取り仕切るのはXelken.skarnaだ。彼は私より2年ほど前にxelkenに入ったエリート。あこがれの一人でもある。
まずはその辺に爆弾を置きまくる。いずれもWP爆弾だ。当然あたりは爆破四散する。今ので何人死ぬんだろうな。楽しみだ。
すると数分でラネーメ警察が駆けつけてきた。逮捕しに来たらしい。向こうもNZWPを持っているが数で言えばこちらが断然勝る。
早速警察との交戦を開始した。警察は最初にNZWPを発射してきた。しかし、それは周りのなんかの建物にぶつかった。あーあ、警察が市民の家を吹っ飛ばしちゃった。我々はこれらをいちいち手でWPを発動させて吹き飛ばした。すると警察軍が出てきた。我々は囲まれた。さすがに囲まれていると隙だらけのNZWPでは破壊されて終わりだ。どうしよう。
“おい、お前。あれくらいお前一人でやれるだろう。”
どうやらXelken.skarna指令がエリに指示を出した。
“はい、やってみせましょう。”
エリはやるようだ。
エリは戦車から出て上に立った。警察軍が銃口を彼に向ける。どうせケートニアーだから死なないというのに。そのことをエリは予想したかのように相手に叫んだ。
“あなたたちがいくら俺を私を撃っても弾の無駄だ。私はケートニアーだ。”
すると警察軍が一瞬ひるむ。その隙を見てエリはそこらじゅうにウェールフープを仕掛けようとする。しかし、銃弾のほうが速い。数百にも及ぶ銃弾は彼の体を突き抜けた。案の定、すぐに元に戻る。頭も攻撃されていない。
やがてWP波を放つ。警察軍は4割が吹っ飛んだ。残った警察は怯み、一部は逃げようとした。
“ふふ、観念したか”
エリがニヤリと笑い第二波を放つ。するとそれはすべて防がれてこちらに返ってきた。
“!?”
“お前らXelkenだな?”
煙の中から一人の男が出てきた。警察軍のケートニアーのようだ。
“フン、古リパラインを理解するまで、貴様をたっぷりいたぶってくれる。”
エリは戦車から降りて応戦しようと戦車の上で低い姿勢になる。
“おい!待て!”
指令がエリに注意を促した。
“こんなところでそんな奴相手にしてはいけない。相手もお前と同じ実力を持っているかもしれないぞ。目的を見失うな!”
“・・・はい、分かりました。”
“先輩!Xelkenが逃げます!”
“いいさ。また捕えにかかる。そんなことより負傷者の手当てを。”
そんな警察たちのやり取りが私の耳には入ってきた。
しかし、その直後。あたり一帯は閃光に包まれた。そうだ、私たちが仕掛けたWP爆弾が一気に爆破したのだ。するとさっきまでいた警察の姿もほとんど見えなくなった。あたり一帯にはがれきが散らばっていた。
#12
ラネーメ公営地下鉄
私はxelkenに入って初めて人を殺した。古リパラインを使わないものは死ねばいい。これでいいのだ。
さて、ある程度襲撃したらラネーメ公営地下鉄へ向かい、上から制圧していく。私の部隊は下から攻撃していくことになった。まずは大通りの向かいの茂ったところで待機する。合図があれば私とエリは正面から突撃。スカーナさんは一気にWPで最上階に向かい窓ガラスを割って突撃する。
今は昼の11時ちょっと前なので11時になったら一斉に突撃するらしい。
“緊張するよな!こういうカウントダウンって!”
エリのテンションが上がっている。よくわからない。
“お前ら、気を引き締めろよ。いつだって殺される可能性は十分にあるんだ。”
“え?私たちはケートニアーですよ?そんなのあってたまりませんよ。”
そうこうしているうちにもう40秒前になった。
“おっと、もうそろそろだ。”
“正面入ったら全員捕えてやるぜ。”
“・・・”
あれ?確かタイマーを設定しておいたはず。しかし、ならない。
“なんだ?なぜ11時にならない。誰か時空をゆがめているのか!?”
スカーナさんがわけわからないことを言っている。
時計を見る。
――あ、タイマーのセットを一時間遅らせてセットしてた。
“く・・・アホか!”
なんか閉まらないまま襲撃を開始した。
するとスカーナさんたちはすぐに上方へWPを使って跳んだ。ぼちぼち我々も突撃しよう。
(バリーン)
ビルの正面の自動ドアのガラスが割れる。そして兵士全員で銃を構える。私とエリは後ろから偉そうに現れる。
“ラネーメ地下鉄の奴らよ!我らxelken.valtoalのもとに観念しな!”
すると受付の女性やその周辺にいたスーツ姿の人間も一斉にどよめく。よしよしビビッているな。目的はひっとらえることなんだ。全員古リパを教えて強制労働させればそれでいい。
“降参するならおとなしく降りてもらおう!”
“だが断る。”
“!?・・・だれだ!”
すると奥から一人の男がやってきた。
“私だ。
アレス・ラネーメ・リファン(Ales lanerme lifan)だ”
“な・・・”
事前の調査ではこいつがこのビルの最高権力者でありここの会社のボスである。なぜこんなところをうろついている!?頭がおかしいのかこの企業は!?
“ここ、ラネーメ公営地下鉄のビルを狙ったことを後悔するがよい。”
“さあ、どうかな”
“やるのかい?”
“やってやろうじゃねえか・・・エリ!”
“おう、全員、構えろ!”
兵士たちが一斉に彼に銃を向ける。一方の彼は平気そうな顔をしている。ケートニアーなのか?まあとりあえず撃ってみればわかるだろう。
“撃て!”
エリが叫んだ。一斉に兵士たちが銃の引き金を引く。けたたましい銃声が鳴り響く。一部のビル内の人間は頭を抱えた。しかし、後に奥に引っ込んでいった。
やがて対象の周りの煙が晴れていく。奴は・・・死んだか?
“!!”
エリと私と兵士は目を疑った。なんどラネーメ公営地下鉄の先頭車両が盾に8本くらい並んでバリケートを作っている。
“うちの列車はすべてほぼきれいな直方体であり縦に並べれば見事な壁ができるのさ!”
“なん・・・だと”
そんなジェンガみたいな構造の列車だったのか。あの地下鉄今まで何回も乗っていたけれど地下だったからさすがに全体図までは見たころがなかった。
“さて、このことを知ってしまった君たちには口封じに消えてもらうしかなさそうだ。もしくはウチに入社するか?”
冗談じゃない。ならばそちらが口封じとなれ。そういえばスカーナさんはどうしたんだろう。上から制圧する計画だったか。
“ふふ、このビルの正面玄関にはもっとも列車設備が施されている場所なのさ。”
“あ?どういう意味だ”
すると彼は何かのリモコンのボタンを押した。すると周りの壁が動き出して縦に立てかけ並べられた数十台の列車が現れた。いずれもジェンガのような形をしている。
“な・・・なんだこのビルは”
“さあ、死ぬがよい”
なんと、ジェンガのような列車でできた見事な壁が迫ってくる。く、なんだこのビルは。こんなの情報にないぞ・・・?
すると寸のところで止まった。面積が縮まったため兵士たちの逃げ場が無くなってしまった。すると、さっき社長の前で見事な壁を作っていたジェンガ列車がこちら側に倒れてきた。我々は顔が引きつった。
“!?やばいぞ!”
“ぺちゃんこになる!”
く、こいつらを失うとかなり戦力が奪われる・・・
“ハッ!”
とっさにウェールフープで爆発を起こし倒れてくる列車をはじき返す。
“げっ”
社長が今度は顔が引きつる。すると社長は横に転がった。社長運動神経凄すぎ。ロビーの一部の壁が潰れたが社長は何とかのがれた。
“なんと!君はケートニアーだったのか!”
“今更おせえよ!”
“ふふ、しかしいい情報を得られた。うちの列車の原動力もそろそろ完全にWPに切り替えようと思っていたところだ。”
うわ、ラネーメ地下鉄結構時代遅れだな。
“あ!いま時代遅れって思ったね?甘い甘い!この電気を使うというレトロ感がいいんだろうが!”
うわ、すごい趣味を持っているな。WPを嫌うのか。
“この列車の動きもすべて電気で成っているぞ!”
“そんなこと誰も聞いてねえよ!”
“あれー?君たちの中で誰か一人くらいこれ分かってくれる人いるかなーって思ったんだけれどなー”
“いや、それはないな。だって我らxelkenはWPを使って古リパライン語を伝える集団だ。電気の動力なんて使うわけがない。”
“いやーわかってないねー”
社長がなんか渋い顔をする。
“ま、いいや。このビルにはそういう仕掛けが多いから楽死んで逝ってね!”
“あ!待て社長!”
すると社長は忍者のように去っていった。
“とりあえずロビーにいる奴らを全員ひっとらえるぞ!”
#13
愉快な人質たち
これで捕虜を数人確保できた。全員基地に連れて帰ってxelkenへ勧誘するらしい。
そりゃそうだ。xelken.valtoalなのだから。
まずは一階と二階を制圧できた。このビルは36階建てなのでまだまだ上に行く必要がある。やっと任務をしっかり遂行できそうだ。しかし参った。社長があんなに強かったとは。これは少しスカーナさんの力を借りる必要があるかもしれない。
“そろそろ上の階へ侵略していこうか。”
”xelkenの高層ビル侵略にエレベーターを探すなんて概念はない。今立っている場所がエレベーターになるのだ!”
そういってエリがミサイルを上に向けて一気にぶっ放した。さすがエリ、大胆だ。上に大きく風穴があいた。もたもたしては時間がかかるので一気に30階くらいまで風穴を開けた。上から砂埃が落ちてきたりがれきが落ちてきたり、それを頭にぶつけて倒れた兵士が数人いた。それでは適当に脚立を伸ばして進むか。
“いけー!いけー!”
このxelkenの脚立は幅が2mほどあり、頑張れば一気に4人くらい上に持っていくことができる。当然これでは足りないのでもう一つ風穴を開ける。もうビルが潰れそうだ。
やがて上のほうで猛威を振るう兵士たちの声が聞こえた。頑張って制圧してくれ。もし中にネートニアーがほとんどを占めるのならば君たちのWPライフルで一掃できるであろう。
そして生きている兵士全員あがったのを確認すると我々も上ることにした。正面玄関のすぐ上はどうやら会議室のようだった。椅子がたくさん並べてあり、今まさに会議中であった。
“誰だ貴様らは!?”
前に座っていた重役と思われる人間が叫んでいる。スーツを着た大量の人間が必死に会議室から逃げようとするのでそれはさせまいと銃を持った兵士が扉を閉めて見張る。これでこの会議室にいた人間は全員閉じ込められた。ついで通信機器を、すべてWP波を放って破壊した。ここに捕虜を置くことにしよう。
ついでにさっきの風穴は入れば逃げ道となるため封じることにした。またこうすると我々が侵略をできなくなるためWPを使って壁をすり抜けることにした。
“よし、暴れまくってやる。”
壁を抜けると絨毯の敷いてある廊下であった。ずいぶんと金を持っている会社だなと思った。
ここで私とエリはとりあえず待って兵士たちに行かせることにした。とりあえずさっきの会議室で捕虜たちをいたぶるとしよう。
そして壁を抜ける。
よくよく舞台のほうを見てみると新入社員の研修であった。なるほど、ここにいる若い奴らは全員新入社員か。ふふ、社長の本当の顔も知らずにね。
適当にその辺で壁に倒れ掛かっていた重役に話しかけることにした。
“お前、名前は?”
“ああ?それよりそちらから名乗れ!”
“はっはっは、我々はxelken.valtoalの人間だ。”
“ちっ、やはりxelkenの奴らだったか。こんなことするのは!
私を捕えてもなにもいいことはないぞ?”
“そうか?基地に連れて帰って古リパライン語の講習をすればお前だって十分使える人材になるのだ。”
“ほう・・・貴様にやれるのか?”
“はは、やるのは私ではなくxelken.valtoalという組織の名においてだ。実行は私のほかの誰かだ。”
“フン、そんな貴様らの願望のためだけに私がやっと得たこの地位を譲るわけにいくか。”
“いや、こちらはお前の地位なんて興味もない。”
“へぇ・・・”
重役はずいぶんと余裕な顔をしていた。かなりイラつく面構えだ。捕虜の顔と思えない。
そこで別の重役を見てみる。こちらは明らかに気が弱そうなやつであった。
“おい、あいつが余裕そうな顔をしているんだが”
“あ、え?ああ、あいつはいつもそんなやつなのさ。緊張感が足りない。あいつの余裕そうな顔は信用できない。”
ずいぶんと喋ってくれる。こいつも余裕なんじゃないのか?
ついでに基地から持ってきた食料をいただく。
さて、無線で伝わってきた。ついに兵士がスカーナさんの軍と合流したらしい。12階だそうだ。午後2時の出来事だった。そろそろ前も警察だらけになっているだろう・・・と前を見ると、その通りだった。ずっとこの部屋にこもっていたせいで気づかなかったが警察官が拡声器で勧告をしている。警察も暇人なんだな。警察を無視して部屋の中の人質と遊ぶか・・・と思ったら警察がビルに入ってきた!やばい!
“おい!エリ!警察がビルに侵入してきたぞ!”
“なにっ”
“とりあえずこいつらを人質にとって警察のところまで行くか?”
“いやまて、それは最終手段だ。”
#14
最強の社長
そのうちこの部屋にも入ってきて降参を命じるに決まっている。だが、そこはxelkenらしく、堂々と出てきて皆殺しだ。そう考えていた。
するとさっき私が入ってきた壁からスカーナさんから伝言を預かったという兵士が来た。エリも私も驚いた。
“司令より命令です。このビルの制圧をやめて、ラネーメ地下鉄の本線を狙います。それだけでもかなり奴らにとって損害です。”
“え、今日の遠征で我々三つの部隊はこのビルを中心に襲うと聞いていたが・・・予定が変わったのか?”
“はい、見てのとおり警察がたむろしているので屋上へ突破して空から逃げてやるというようです。もちろん捕虜は全員連れて行きます。”
“ふむ・・・上の命令なら仕方がない。エリ、行くぞ。”
しかしエリは何かを疑うような顔をしていた。
“どうした、エリ?”
“お前、あの誓いの言葉を言ってみろよ。”
“?”
目の前の兵士がすっとぼける。
どうやらエリは目の前の兵士の立場を疑っている様子だった。
“んな・・・!エリ!”
“ラブヌトラート、ここは戦場なんだ。ついさっき現れて自己紹介もしないでやってきたやつがいきなりこの作戦を大幅に変えるような伝言を届けに来たんだぞ!?それならばスカーナさんが直々に無線あるいはこちらまで来て連絡を入れるはずだ!”
“そ、そうなのか?”
兵士の顔は依然、平常である。実は警察か誰かが成りすましているのか?
“おい、どうなんだお前!xelkenのあの誓いの言葉を俺たちに言ってみろ!”
“クックックッ”
兵士が不気味な顔で嘲う。ついに頭がおかしくなったか?
“なるほど、所詮脳筋バカのxelken.valtoalだと思っていたが・・・さすがに引っかからなかったか・・・!”
“な・・・お前!”
“そこの青年の言う通り、私は君たちの仲間でもないし君たちの上司から伝言を授かったわけでもない”
“ちっ、やはり・・・お前はどこの人間だ!所属を言え!”
“ならばこれでわかるだろう。”
なんと、奴はリモコンを取り出して巧みに操作した。
“!?”
“君たちには言った筈だ。このビルにはそういう仕掛けが多いと・・・!”
“なんだと?”
“つまり、普段新入社員の研修に使っているこの部屋は・・・すべてうちの列車によってつくられている!”
“えええええええええええええええええええええええええええええええええええええ”
なんと、こいつはあのキチガイ社長だった。しかしこいつには謎が多すぎる。ケートニアーなのか、なぜこんなにメカが好きなのか。なぜ社長なのか。見た目はたしかにラネーメ人だが。
“そういうわけだ。xelkenの若旦那たちよ!”
“くっ、おのれ!”
“スライスパンのようにぺちゃんこになれ!”
すると左右の壁のコンクリートだと思っていたところは実はただの薄い皮であり、それらがすべて破れるとさっきのきれいな直方体をした列車が現れた。
“!?”
そして迫ってきた。このビルは忍者屋敷か・・・。
“やばい!潰れる!”
エリがあわてる。
“おい、お前ら!お前らの力で頑張って壁を押し返せ!”
“イェッサー!”
私は兵士たちに迫ってくる壁に抵抗しようと全員で押し返すように指示をした。
なんとか壁が迫ってくるのを止めることはできたが止めているのは人力。いつ力が尽きるかわからない。それにしてもなぜこの社長は壁を使って押しつぶすのが好きなんだ・・・
“おのれ、社長!”
すると、社長はすでに姿を消していた。はと後ろを見る。
なんとステージにはガラスが貼ってあり社長と捕虜にしていた新入社員たちが避難していた。
“君たちの死に際はこの私が娶ってあげよう”
“断る!”
咄嗟に私は上下にウェールフープを発動して天井と地面に穴をあけようと試みた。しかし、
“なん・・・だと?”
なんと、上下がいつの間にかあのジェンガのような列車になっていた。
やばい。このままでは本当に潰される!
“いちかばちか、NZWPをぶっ放してみるか・・・?”
“こんなところでやったらさすがに俺らでも吹っ飛んじまう!”
エリはそれをさせない。たしかにケートニアーの私たちでも吹っ飛んでしまうかもしれない。ならば鉄さえも溶かしてしまうほどのWPレーザーを放って丸ごと溶かすしかなさそうだ・・・
“エリ!高圧WPレーザーだ!”
“もはやそれしか方法はないか・・・!”
すると兵士たちの力も尽きてきた。中には壁によって中へと追い込まれる兵士に挟まっているものもいた。
“仕方ない!喰らえ!”
ついに鉄さえも溶かすようなWPレーザーを放った。予定通り、それらのレーザーはジェンガ列車の車体を液体にして見せた。壁がすべて液体となり、うまいこと外に流れる。何とかなったと思いきや、高圧レーザーが社長たちを隔てるガラスに当たって乱反射した。
“!!!”
当たりは爆発した。そのあと私はどこかに吹き飛ばされたと思うのだが、どうも気を失ってしまった・・・
#15
目覚めよ、ガルタ
気が付くといつものデュイン基地のベッドで横になっていた。私は生きていたようだ。そとから声が聞こえる。
“やっぱり入ってから一か月しかない子はケートニアーだとしても遠征には難しかったんじゃないの?”
“んん・・・そうかもしれんな。今は病室で安静にさせている。また回復しxelkenの立派な戦士の一人として活躍してくれることを祈ろう。”
どうやら私は倒れたらしい。しかし、何時間たったのかは覚えていない。はっと起き上がると隣に前にエリがいた。エリはもっと怪我が激しかったようだ。どうやら片目が包帯で巻かれているが・・・
“まさか!”
包帯をとってみて確認してみる。そこには無残にも焼けて溶けてしまった目玉があった、エリはどうやら片目を失ったようだった。そういえば私にはなにか体の害はあったのだろうか?と、全身を触ってみる。見た感じ、異常はないようだ。ちゃんと景色が見えるし周りの声も聞こえた。五体満足である。よかった。
そこで、ウェールフープを試してみる。が、その必要はなかった。体が勝手に修復されていくのが感じられた。未だケートニアーのままだ。
しかしエリはどうなのだろうか。そういえばエリはケートニアーだったのだろうか?そういえば奴がウェールフープを放ったところは見たことがない。
「起きたのね。」
!?
横から女性の声が聞こえた。ふと、反対側を見てみる。やはり女性がベッドの上で横になっていた。しかし、どこかで見たことがある。
「おっと、古リパラインで話さないとね・・・」
“私 会った あなた 廊下 数か月前”
ずいぶんな片言。だが大体意味は分かった。とするともしかしてこの女性はあの時のナイフ投げ・・・?
“中央回廊か?たしかにあのときは大変だった。それがどうした。お前は誰なんだ?”
“私 です ハタ王国から。私 いた あのとき。投げた ナイフ。”
やはり片言だが言いたいことは分かった。やはりあの時のナイフ投げのようだ。
“そうか、あのときの王国民か。そういえばあの時なぜ私に話しかけた?”
“・・・”
女性は黙り込んだ。
“私 名前 です ツァピウル ケンソディスナル。”
ずいぶんと「ピ」に力が入っている。しかし、名字が後に来ている。
“あなた FAFS.labnutlart. ない?”
“え?”
なんと、私の名前っぽいものを出してきた。しかし、私の名前はla”v”nutlartでありla”b”nutlartではない・・・。しかも名字はFAFSではなくTarfなんだが。
“lavnutlartだ。ツァピウルと言ったな。お前はなんなんだ?なぜ私に話しかけてくる?”
“あなた 友達。以前 xelken 入る。”
え?
“ハフリスンターリブ・・・”
女性が私に向かって話した最後の単語である。ハフリスンターリブ?あのウチの組織の同盟国であるあの王国か・・・?
その時私の頭の中に何かが戻ってきた。なぞの言語、宿の女性、祭りの人たち、旧都市の生産者、辺境にある町を総べる女性・・・そして謎の装置!
――
「は!!!!」
となりに寝ていた男が私の叫び声に反応して起きた。
“どうした?ラヴヌトラート”
どうやら古リパライン語を話しているようだった。なぜか私にはわかる。
すると反対側に咳き込む女性がいた・・・ツァピウル!?
「ツァピウル!なぜここにいるんだ!?いや、なぜ私がここにいるんだ・・・??」
「いいえ、あなたは今まで夢を見ていたのです。」
「ふむ、そうか?」
「そんな詳しい事情は私があとでいくらでも暇なときに喋ってあげますから早急に外へ出ましょう!」
「え?うん、たしかあのとき私たちは拉致をされて・・・今はxelkenのところなのか?」
「ええ、そうです。あのとき私とあなたはディスナルからここにテレポートしてきました。」
「な、そんなことが・・・」
「い、いまはそんなことはいいのです。早く外へ!」
「しかし、ツァピウル、横になっていたということは怪我をしているのではないのか?」
「いいえ?あなたを戻すために仮病を患ったのです。」
え?戻す?
“んんー・・・”
「え?」
反対側で寝ていた男性が起き上がった。
“んー?・・・あ!!ラヴヌトラート!”
「え?私?」
かなり戸惑った目の前の男性は私の名前を呼んだ。
“よかった。生きていたのか・・・ってそいつはこの前の王国民じゃないか!お前って・・・・”
「なんなんだ?お前は。彼女は私の友人だ。」
“な、おいお前、何語を喋っているんだ!?早く古リパラインに切り替えてくれよ!お前が作った謎言語はいいから!”
「悪い、私たちは急いでいるんだ。私は早くこの牢獄みたいなところから出なければならないんだ。」
“え・・・?今「牢獄(anka)」って言った?おいちょっと待て!”
「あ、牢獄ってリパライン語でも通じるんだ。ユーゴック語はリパライン語の借用がいくつかあるのは知っていたけれど。ま、いいや。じゃあな!」
“え?ちょ!”
私はウェールフープを使ってこの基地から抜け出して元いたあの井戸の前に現れるようにWPを発動しようとした。
すると扉から誰かがやってきた。
“ラヴヌトラートさん!どうしたんですか!?おちついて!ていうかウェールフープ発動しないでください!それと・・・あ、王国民!なにしようとしているんだ!”
「く、これではウェールフープできないな・・・」
「任せてください。こんな奴ら私一人で掃除できます。」
「え?ツァピウルって戦えるのか?」
「戦えない巫女なんてただの巫女ですわ!」
するとどこからか数十本のナイフを取り出した。なんと、ツァピウルがナイフ投げだったとは。
それらのナイフはすべて命中し、駆けつけてきたxelkenを全滅させた。
「助かるよ!それでは、戻ろうか!」
「はい!」
ツァピウルが私の腕をつかんだ。よし、移動しよう・・・
「iska lut xelkener! じゃあな、古リパオタクどもよ!」
“な・・・この・・・裏切り者、”
まだ息の合ったxelkenのやつが私に対して何かを言っていたがすべての言葉を聞く前に転送が始まった。
#16
ようこそ王国へ
まわりの閃光が晴れた。目の前には懐かしい井戸があった。
「やりました!戻れました!」
「ふぅ~よかった」
風景はあまり変わっていなかった。が、以前と明らかに変わっているのは人がいたということ。突然二人の人間が現れて驚いている庶民がいた。
「な・・・ケンソディスナル氏・・・?」
「今までどこへ・・・?」
「あ、みなさん。迷惑かけました?」
「かけましたよ!ケンソディスナル氏!3年も前に行方をくらましてからわれらディスナルの民はいったいどうすればよいのかと・・・!」
「ああ、よかった。我らが美しき主たちは生きていた!」
「これもアルムレイ殿のご加護か・・・!」
「しかし、ケンソディスナル氏!貴女の横にいるその男は何者ですか?」
「ああ、彼は私の友人です。」
「な・・・チェクセルか何かでしょうか!?あの世からやってきた・・・?」
「馬鹿な!我らがケンソディスナル氏が死滅界なんぞに送られるわけがない!」
まわりが騒ぎ始めた。これは面倒だ。ツァピウルよ、早くしてくれ。
「皆の者、静粛に!」
ツァピウルがなにやら怒鳴った。すると周りにいた民衆は一気にしずまった。さすが、トイタクテイ家の子孫とされる一族の一つ、ケンソディスナル家。なんとも威厳がある。
「いいですかみなさん、これよりあの忌々しきハフリスンターリブへ反旗を掲げます!」
「な、なに?」
「あんな奇術使ってくる奴らに勝てるのか?」
「それにどんどん人が消えていくせいで人民の数だって余裕がありません!勝てるはずが!」
「そのための彼なのです。」
民衆は驚きあたりはしずまった。
「私はあの人が消えていく事件に巻き込まれてしまい、ここから姿を消してしまいました。しかし、そのおかげで、これらの事件は拉致であることが分かったのです!」
「な、拉致?やはりハフリスンターリブか?」
「いえ、ハフリスンターリブが直接やっているというわけではありませんでした。」
「な・・・じゃあ誰だ!」
「ハフリスンターリブの先祖にSazasyimi一族がありますね?そのSazasyimi一族の出身はファイクレオネでした。そしてそのファイクレオネには過去の伝統を保持しようとする過激派がいます。まるでかつてハタ王国に存在したクン・シーナリアの一派のようです。」
「な・・・」
「その過激派はxelken.valtoal。私たちを『拉致』したのはそこの人間であるというわけです!」
「・・・」
「だから、ハフリスンターリブを討伐すれば、ついでにxelken.valtoalもやってきて同時に対処することができるというわけです!」
「ケンソディスナル氏・・・」
一人の民衆が手を挙げて発言をした。
「あなたは・・・この町・・・いや、この『村』が今どんな状況かわかっていっているんですか?」
「分かっていますよ。拉致被害のせいで景気は不安定、当然人が減っており作物も少ない状態。スカルムレイ一族からは完全に見放されてしまい、町を出歩けばすぐに拉致をされるという始末。」
「おうおう、分かっているではありませんか。」
「当然です。」
「ならば、もうこのディスナル市があの集団に立ち向かうというのは無理なんじゃないかと言うことです。」
「そうですよ、ケンソディスナル氏!ハフリスンターリブに屈するしかありません!」
「・・・そうですか。」
え、諦めた!?ツァピウルが?
「ならばあなたたちを戦火に放り込むことはやめておきます。」
「おお、なんと」
「ただし、私一人で行けばかならず、あなたたちにも・・・」
そういってツァピウルはケンスケウ・イルキスの方向へ歩いて行った。
#17
スカルムレイ家
ついにケンスケウ・イルキスにたどり着いた。私もツァピウルについていった。そういえば私がケンスケウに入るのは初めてだ。
「ああ、ラブヌトラートさん、こっちよ。」
私は案内された。なるほど、これがイルキスか。本堂に入ると座席がいくつかあってその中心には道があり、おくにはなにやらテントがある。あれがジルケタだろうか。
「あなたって、
ウィトイターなのですか?」
「そうだな。ハフリスンターリブだったころからイルキスに赴くなんてことやったことはない。トイター教を排他する戒律もあったからな。」
「ですよね。」
「悪いな。だがいずれは入信しようと思う。」
「それは有難いですね。あ、客間はこちらです。」
するとジルケタの横の扉を開けて中へ案内した。木材を基調としている家。古風な感じがする。
そしてなにやら古い感じの部屋に案内された。
「さて・・・まずあなたに言っておきたい話が二つあります。」
「え?」
「まず一つ目です。私は50年(トイター暦で50年。西暦で言うと25歳くらい)ハフリスンターリブの時代に生きてきましたがようやく謎が解けたのです。」
「そうだな。これは王国にとって大きな事実だ。」
「そこで私がこのことを広報して皆さんに知っていただこうと思います。そのためにスカルムレイ陛下のところまで行き告げなければなりません。」
「ん、それによって王国部隊を動かすのか?だがそれをやるにしてももうスカルムレイも力を失っているんじゃあ・・・」
「いえ、スカルムレイ陛下が力を失ったとしても影響力は健在です。あの方がこのことを、私のことを信頼し、スカルムレイ陛下が呼び掛けてくれればよい宣伝になります。」
「なるほど・・・!そういうことか!」
「なので、明日には身を整えてディスナルを出発する必要があります。あなたにお供してほしいのです。」
「うーん、そうか」
「かなりの長旅になるとは思います。船が通っており港からアルパまでは鉄道がとおっているらしいので楽なのですが・・・スケニウまで行くのが難しいのです。」
たしかに、スケニウへはかなりの距離がある。私も痛感した。ならば・・・
「じゃあ、あの方法を使うか?」
「え?どういうことですか?」
「私がデュインからここに来る時、どうやったと思う?」
「まさか、ウェールフープですか?」
「そうだ、それを使えば鉄道よりも早いぞ!」
「な、なるほど!」
彼女は喜んだ。
「あ、しかし、それでも今から行くわけにはいきません。スカルムレイ陛下に会うのです。身支度は十分にしないと」
「じゃ、いずれにしても出発は明日以降だな。」
「そういうことになりますね。」
そうか、とりあえず今日はディスナルで一晩を過ごすことになりそうだ。しかし、前も見たんだがこの町には宿が見当たらない。
「ああ、あなたの寝床なら安心してください。私の隣で寝かせますんで。」
「ファッ?あ、はい、お気遣いなさらずに・・・」
「あ、そういえば、この家ってツァピウル意外に人はいるのか?」
「あー・・・」
ツァピウルは黙り込んでしまった。まずい、また悲しいことを聞いてしまったか。
「実は、両親はすでに他界していて、妹のタースマングは以前言った通り宿を経営する女将になったので・・・ここには私が独り暮らしをしているのです。」
なるほど。そういうことか。じゃあ、昔住んでいたご両親の布団が少なくとも一つくらいは残っているだろう。
「そうか、ならよかった。じゃあ私は少し外を散策してくる。」
「え、もう夜ですよ?危険です」
「私はケートニアー。死にはしない。そんなことよりこちらが君自身の心配をするよ」
「そうですか・・・行ってらっしゃいませ」
#18ケンスケウ
これがケンスケウ・イルキスの境内か。
実は「ケンスケウ・イルキス」と呼ぶのは中心にある最も大きな建物のことであり、この敷地全体は「キス」と呼ぶ。また、ケンスケウなので「ケンスケウ・キス」と呼ぶ。以前のツァピウルとの雑談で聞いた。トイター教はまだ知らないことが多いな。ちなみにこのキスの敷地面積によってもイルキスの価値は当然のように変化する。スケニウ・イルキスはなかなかの大きさらしい。なんせクントイタクテイ家のイルキスだからな。ここ、ケンスケウ・イルキスは中の上という当たりらしい。
さて、私が散策と言う名目で外に出たのは警備目的だ。このイルキスには見張り番が雇われていないし、私があそこに残したWP波をたどってxelkenのやつらがこちらに追跡に来るかもしれない。そうしたらツァピウルも強いとはいえやはり男である私が戦わなければならない。そのためになるべく遅くまで見張りをする。
なのでイルキスの頂上、「ペルニウ」という避雷針の様なものにて見張りを行うことにした。
ここならどこから敵が来ても飛び道具などを出せば撃退できる。しかし、ケートニアーとはいえ寝なければならない。数時間たったら私も床に入るとしよう。
30分後。
向こうになにやら松明のような光が見える。その光は少しずつこちらに近づいているようだった。目を凝らしてよく見てみる。
「あ・・・あれは・・・!」
xelkenの旗が見える。ここまで追ってきたのか?これは確実にこちらに来たようだ。どうする、ツァピウルを起こすか?
松明は急に走り出してこちらへ向かってきた。明らかにこちらを狙っている。
「!!」
突然こちらに銃弾が飛んできた。間一髪のところで私は銃弾を素手でキャッチする。しかし、なぜWPライフルなどではなく普通の拳銃なのだろう。私は飛んできた銃弾を飛ばそうとも考えた。しかし、そうすると相手への宣戦布告になる。穏便にせねば。
そこで銃弾はその辺に捨てることにした。
そして双眼鏡をとってきて向こうのほうを見てみる。確かあちらは井戸の方角だ。
こちらへ近づいている。
そしてついにケンスケウ・イルキスのエンネ(鳥居)の前に来た。もうこれは応戦するしかない。私はペルニウから飛び降りて奴らの目の前に現れた。
“誰だ!”
古リパライン語だ。どうしよう、古リパラインで話すか。
“私はこのイルキスの見張りをしている。そちらこそ何者だ。即刻立ち去れ。”
“な、ならば貴様も押し倒してやる。”
一人の男が拳銃を向けた。私は嘲笑いながらその拳銃をWPで一瞬で破壊した。
“は・・・?”
“あんまり派手なことをしない方がいいぜ。私はケートニアー。”
“ち、なんでケートニアーなんかが見張りをやってんだ!王国の分際で!”
“おい、今王国を侮辱したな?”
“な、お前は王国派の人間なのか?”
“当然だ。ここから出ていってもらおう。”
私はWPを発動する。前にいる3人の男を全員海の方向へ吹き飛ばした。
“うわああああああああ・・・・”
おそらく奴らはそのまま飛ばされて海に落ちたか、場所が悪くて地面に激突したか、どちらかだろう。どのみち奴らは数百km吹き飛んだ。命はないな。
そう思いながらもう誰もいないことを確認して私はイルキスに入り寝ることにした。
「え・・・」
さっきの客間から寝室に入ると、なんと大きな一つの布団が真ん中にドンと敷いてあり、その右側にツァピウルが寝ているという様子だった。
「あれ、布団ってこれしかないのか?」
失礼と思いながらタンスを見る。布団は見当たらない。
どうしよう、布団用意し忘れて寝ちゃったのかな・・・と、ふと思い出す。
「ああ、ハタ王国では基本的に一つの大きな布団に寝るのが基本だったな。」
そんな習慣もあったかと思いつつ仕方なくツァピウルの横で寝ることにした。
最終更新:2014年10月11日 18:43