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ひとりごと-ある日の若島津4-

*ひとりごと


―ある日の若島津健―4


「あっれー!!何してんのー?。」

ばーんという大きな音がして寮の扉が勢いよく開き、わざとらしさMAXの声が部屋に響いた。

思わず前のめりになった島野が、ものすごい形相で振り返る。
こっこわいっっ。

「……反町。」

島野が地獄の底からの様な声を出した。
ひぇぇぇ。

「島野ちゃんだけ、ずるーいっ。俺も健ちゃんとイチャイチャするーんっっ。」

全く怯まない反町は、そう言うと俺に飛びついてきた。
ついでに何かが撒かれた。
お菓子?

「わわっっ。」
「いやーんっ。健ちゃん。今日もやらかくて、いい匂いじゃーんっっ。白くて、ふあふあだしぃ。」

チームメイトの反町は俺をぎゅっと抱きしめて、すりすりと頬擦りする。
苦しいし、くすぐったいよっ。

いっつも反町は、こうやって懐いてくるのだけど。
今日はやけに腕の力が強くて……。
痛いったら。

「そ……そりまち。くるしいよっ。」

きつく抱きしめてくる腕の中で、じたじたしている俺の体が急に軽くなる。

見ると、島野が反町の首を後ろからがっちりとロックしている。

「ぐっ……ぐるじぃっ……しまのちゃんっ……ぎぶ、ぎぶっっ……。」

瀕死の蛙みたいな声を出して、締まる首が苦しいのか反町の顔が赤くなったり青くなったりしている。

「し……しまのっ。反町離してあげて。」
思わず言うと、島野は腕の力を緩めた。

途端に盛大にゲホゲホと咳込む反町を抱えたまま、島野は恐ろしく冷たい声で言った。

「反町。お前には色々と話がある。」

「いっいやっ。俺にはないし。」
反町の声は完全に怯えている。

「……俺にはあるんだよ。場所を変えて話そう。」
端正な顔に、ものすごい意地悪な笑みが浮かぶ。
下級生なんかが見たら恐くて泣いちゃうよ。

返事を聞かず、島野は反町をそのままズルズルと部屋から引きずって行く。

「いっいやぁ〜っ。健ちゃん助けて〜っっ。」
部屋から遠ざかって行く反町の悲しげな声が響いた。

「こ〜ろ〜さ〜れ〜るぅ〜っっ。」
ビビっていても、流石反町。
まだフザけてる。
それはそれで、すごい根性。
サッカーにも、それくらい根性見せてくれると助かるのだけどなぁ。

「健ちゃんっ。へるぷみ〜っっ。」

ごめん……。反町。
何だか知らないけど、ものすごく怒っている島野に俺かなわない。

一連の大騒ぎに少々脱力して、俺は開けっ放しになっていた寮の扉を閉めた。

ついでに反町が持ってきたらしい駄菓子が散乱していたので、拾って袋に入れる。
明日返せば良いかな。

あ、ブラックサンダーだ。
俺好きなんだ。
後でコンビニ行こうかな。

炬燵から出たついでに空になったプリンの容器、島野が飲んでいた紅茶のマグカップを片付ける。

……島野。
何を言うつもりだったんだろう。

『俺が、何で東邦に来たか解る?。』

わかんないよ。

『それは、お前が……。』

島野の顔が近づいてきた気配がして……。
いつもの冷たい声と口調が、ぜんぜん違くて。

そこまで思い出して、俺はぶんぶんと頭を振った。

知るのが、こわい。

だって島野は頼りになるチームメイトで、優秀な軍師で。

恐いけど、本当は誰よりもチームのこと考えてる。

あんな島野しらない。

わかんない。

わかんないから考えない。

思い出して熱くなる頬に触れて、俺は初めて感じる感覚に戸惑っていた。






[[ひとりごと-ある日の若島津5-]]に続く。

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最終更新:2011年10月18日 02:37