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月光症候群

*月光症候群




―月に抱かれる―


「……。」

割り当てられた部屋の扉を開け、当然中に居るだろうと思っていた人間が居ない事に日向小次郎は多少ではあるが驚いた。

『多少』と言ったのは、すぐに推測が出来たからだ。
日向の唇から微かな溜息が洩れた。

"いつもの事だ。気にする程でもない"
己の僅かにざわつく気持ちを無視して、解いていない荷物に手をかけた。
同じ部屋を割り当てられた彼は、夕食前のミーティングには戻ってくるだろう。

"今夜は満月なのだろうか……。"
頭をチラリと掠めた考えに、日向は皮肉めいた笑みを浮かべた。


サッカー全日本ユース。
合宿一日目。
昨今のブームでサッカー協会にも大きなスポンサーが付く様になった。
この合宿所も、そうしたスポンサーが作ったものだ。
練習用ピッチとジム、設備の整った宿泊施設。
選手が練習に集中できる様に配慮された施設は快適で、マスコミへの対応も申し分なかった。

合宿所の一室。
コーチ用に資料やPCを利用できる部屋。

PC画面に映る待機画像の発する青白い光。
機械音が低くうねる。
それとは違う音が混じっていた。

ピチャピチャと猫がミルクを飲む様な音。
荒くなる息を押し殺して、尚漏らされる熱い溜め息。
時折喘ぎにも似た、くぐもった声がする。

それ等が、ごく事務的で無機質な部屋を淫靡な色に染めていた。

「はぁっ……もっ……もうっ……。」
鼻にかかった甘えた声で、彼は自分の腹の上に屈み込んでいる男に訴えた。
ついでに男の柔らかく、軽くウェーブがかかった髪を両手で掻き回してやった。

「……堪え性がないね。君は。」
男が顔をあげて、酷薄そうな唇を微笑みの形に吊り上げた。
今まで施していた愛技に濡れた唇と端正な容貌とのアンバランスな取り合わせが、かえって男を色っぽく見せている。

「……みすぎが悪いんだよ。きもち良すぎるんだもん。」
男の唇を指でなぞりながら、乱れた息を整えつつ彼が答える。

「感じやすい君の方が悪いと思うけど?。」
『みすぎ』と呼ばれた男は笑いを含んだ声で言いながら、目の前にある白く滑らかな肌に手を這わせた。

男の名前は三杉淳。
この合宿に参加している選手の一人だ。
ポジションはMF。
更に優秀な頭脳から導き出される分析と戦略を買われて、コーチも兼任している。

その三杉と資料室で、秘密の遊戯に熱中しているのは同じく合宿に参加している若島津健。
華奢ながら、身軽さと俊敏な動きが得意でGKをしている。

二人とも17歳。
高校二年生だ。

三杉の悪戯な手に、くすくすと笑いながら健が身を捩る。
健が身につけているのは既にワイシャツ一枚きりで、残りは後ろのソファに乱れたまま置かれていた。

PCや資料ファイルを乗せた机の上に腰掛け、椅子に座っている三杉の前に脚を軽く開いている。
奔放な素肌を見せつける様にしている。

白く柔らかい肌はPCの光を映し、今は青白く輝いている。
明るい場所で見たら身体の所々、耳や肘、膝、指先などが薄く紅を掃いているのが判るはずだ。
華奢な割に全身にしなやかな筋肉を纏っているので、のびのびとした印象がある。
青年というよりは少年の、少年というよりは清らかな乙女の様な、それでいて快楽に素直な身体。
三杉が毎回眩しく見惚れてしまう、美しい蠱惑的な姿だ。

いつもは幼く可愛らしい健の顔が、今は淫らな色に染まり快楽を貪る獣めいた表情をしているのが、たまらなく魅力的だった。
"あと数年したら、どんなにか美しくなるのだろう……。"
愛しい身体に愛撫を与えながら、三杉は今更に目を奪われていた。

長い指をした繊細な三杉の手が、健の滑らかな肌を味わう。
「はぁっ……きもちいい……。」
健は目を閉じて、うっとりと感覚を追っている。
太股や脇腹を這う手が胸にあがり、健の感じるところを確かめていく。
薄く筋肉のついた胸に一対の桜色をした乳首がある。
三杉の指先が軽く触れただけなのに、健の身体は震えてしまう。
「あっんっ。……いやっっ。」
眉根を寄せ紅く染まった唇から嬌声が洩れる。
「いや?。」
手の動きを止めて三杉が聞く。
目を細め、少々意地の悪い表情をしている。
当然、健が嫌がっている訳ではないと解っているのだ。
「いじわるっっ。」
目元を紅くした健が甘えた声で言い返す。
そのまま三杉の頭を引き寄せ唇を重ねた。

ついばむ様な口づけが、すぐに深くなるのは二人が欲情している証拠だ。
舌を絡ませる濃厚な口づけの後、三杉の唇は健の上気した頬から耳へと移り、ひとしきり健の官能を高める耳を弄び、綺麗なラインを描く首筋へと落とされた。
健の息は荒く、熱く、我慢していても喘ぎ声が洩れてしまう。
「ねっ……ねぇっ跡つけて……。」
三杉の背に腕を回しながら、熱い息の合間に健が強請った。
「駄目だよ。試合があるだろう?」
冷静さを装った三杉の声にも欲情が滲んでいる。
「いやだっ……今日ずっと、いじわるっっ。」
嫌々をしながら、しがみついてくる健をそのままに三杉は愛撫の手を休めない。
「誰が、いじわるだって?。」
健の乱れる様を熱い視線で追いながら、彼の下腹で先刻から震えて立ち上がり蜜を零している、欲望の証を手に捕らえた。
「あっ!……あっっ!!。」
直接的な快感に健の体が大きく震える。

三杉は手に捕らえた熱い高ぶりを揉みしだきながら、健の胸に唇を寄せる。
愛らしい尖りを見せる桜色をした乳首に舌を這わせた。
「うっんっっ……そこっ……だめぇっっ。」
健の喘ぎに泣き声が混じりはじめる。
きつく閉じた目元に涙が滲んだ。
長い睫毛を震わせ、健は三杉が与える快楽の囚われ人になっている。
三杉の背に回された手が、上等な仕立てのシャツをきつく掴んだ。

「……おねがっ……い……おねがいだからっっ……。」
性急な声に三杉は顔をあげ、かぶりを振って感じている健の顔を覗き込む。
閉じていた瞼を開け、涙の膜が張った瞳で健は三杉を見た。
与えられる快楽に視線が揺れ、胸が締め付けられるくらい幼気で、その癖、雄を誘ってやまない健の表情に、三杉は胸の奥から何かが沸き起こり自分を支配してしまいそうな感覚に陥る。

「……ねっ……もう……ほしいのっ……みすぎの……。」
恥じらいを含んだ健の強烈な誘いに、三杉の身体の温度もあがる。
熱くなった頭の奥で、更なる情欲が膨らんでいくのが解る。

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最終更新:2011年10月23日 00:38