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ひとりごと-ある日の若島津6-

ひとりごと



―ある日の若島津健―6


日向さんの瞳がスッと細くなる。

「何か、されたのか?」

責められてる様な感じ。

『若島津……。』

急に島野の声を思い出してしまった。
いっぺんに頬が熱くなる。

違う。別に。
何も。何もないしっ。
赤くなる必要ない。
必要ないったら。

「……なっ何って。勉強してただけだし。」

本当のことだもの。
なのに言い訳みたいに感じるのは、何故?

日向さんの瞳が元に戻り、ふぅんと呟いた。

そして俺を上から下まで、ゆっくりと眺めた。
……ちょっと……。
視線が変。

「……まぁ良いか。ナンもされてねぇみたいだしな。」

日向さんは一人で納得したみたい。
何それ。

「島野はチームメイトでしょ。変なことするわけないです。」

悔しまぎれに言うと、日向さんが急に近寄ってきた。

「本当にそう思ってんのか?」
「あ、当たり前でしょ。」

ぷいっと背けた俺の顎を、日向さんが掴んだ。
驚いて声をあげようとしたけど何も言えなかった。

顔を近づけた日向さんの瞳が俺を捕らえる。
恐いくらいに真剣な瞳。
目が合うなんて生易しいものじゃない。
瞳で拘束してくる。
まさしく獲物を狙う獣の瞳。

俺の顎を掴んだ指が熱い。
お日様と仲良しな、この人は体温まで高い。

逃げられないっ……。

体が強張る。
震えの前兆の様な感覚がくる。

でも瞳を逸らせない。
逸らすことを許されない。

…………。

ばちん。

「いっ痛いっっ。」
俺は思わず悲鳴をあげた。
だって今度は本格的なデコピンをされたから。

「そんな惚けたツラしてると、喰われっちまうぞ。」
そう言って日向さんはカラカラと笑った。

「何回デコピンしたら気がすむんですかっっ。こっちは痛いのにっっ。」

ヒリヒリした額を擦りつつ恨み言を言う俺を尻目に、日向さんは自分のロッカーからバスタオルを出した。

「お前のデコはデコピン向きなんだよ。」

意地悪く言うデコピン男は、そのまま風呂場に向かった。

もう。最低。
かっこいいなんて思ったの取消し。
馬鹿猛虎。
色黒デコピン男。
巨人族。
だいたい喰うって何?
肉食獣じゃあるまいし。

心の中で幼馴染みであり、チームのエースストライカーであり、頼れる主将でもある日向さんに悪口を言いまくる。

もう。本当。
最低っっ。

むくれながら風呂場の扉を睨んでいても仕方ないけど。

膨れっ面のまま、ふと自分の机の上が気になった。

さっき片付けたはずの古典のノートが開いてる。

島野に教えてもらいながら書いた古典の訳文。

俺の字で半分ほど埋まったノートの余白部分に走り書き。

俺の字じゃない。
島野の字でもない。
癖のある角張った筆圧の高そうな字は。

『つてに見し宿の桜をこの春はかすみへだてず折りてかざさむ』

その和歌は日向さんの字で書かれていた。

あの人らしくない悪戯に、俺は拗ねていたのも忘れて椅子に座った。
興味を引かれて、戯れに辞書を引き訳してみる。

……なにこれ。
ラブレター?

桜を相手になぞらえて、この春は手に折ってって……。
花を折るって、女性を自分のものにする意味があるらしいし……。

『遠くに見た桜の様な君を、この春は抱きしめたい』

超・意訳すると、こんな感じ?

うん。
ただの落書き。
悪戯。

辞書もノートも放り出して俺はベッドに寝転ぶ。

日向さんまで、わけわかんない。
あんな思わせぶりな悪戯するタイプじゃないのに。

島野だって、わけわかんない。
あんな急に近くで囁いたり。
まるで恋人かなんかに囁くみたいに。

言わなくても自分が子供だって、充分わかってる。

だから余計、置いていかれる気がする。

日向さんも島野も俺の知らない感情をちゃんと知ってて、それと向き合ってる。

俺だけ。
子供で臆病で。
わかんないことを考えるのが恐くて。

何故だか鼻の奥がつんとする。
柔らかいカーディガンに包まれた腕を、俺は目を隠す様に置いた。

「もう……わかんないよ……。」

涙声になってしまった俺のひとりごとは、ぽつりとこぼれて部屋の少し冷たい空気に溶けた。


   2011.10.10[了]



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あとがき(あるいは言い訳)


久しぶりに新作二次創作を書きました。
しかも一人称。
お手軽に肩慣らしと言ったところ。

若島津お子様ですねぇ。
相変わらず、迫られてしまうと弱いお馬鹿です。

少々やんちゃ風味になったのは、私にしては珍しいです。
多分日向さんが好きなのも、これまた珍しい。
まさかのエロ無しだし……。

島野は諦める気は毛頭無いでしょうけど。
日向さんも、みすみす奪われる気は無いでしょう。

反町はオマケです。
フザけてるだけ。
でも若島津が『好き』と言ったら、張り切ってしまうと思います。

書いていて、久しぶりに若島津を可愛がれて楽しかったです。

ちなみに。
作中に若島津が勉強している古典文学は『源氏物語』です。
日向さんの思わせぶりな落書きの和歌も、『源氏物語』から引用しました。
(薄々自分宛てと理解してしまうあたりが若島津の乙女回路)
勿論、日向さんは若島津が『源氏物語』を勉強していたと理解して書き込んだのです。
うちの日向さんは読書家ですから。

あの和歌は宇治十帖で匂宮が浮舟に送った情熱的な歌です。
浮舟は誰とも添わない選択をしましたが、若島津はどうでしょうね。

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最終更新:2011年10月11日 20:41