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ひとりごと-ある日の若島津5-

ひとりごと



―ある日の若島津健―5


冷めた紅茶を煎れなおし、俺は炬燵に座った。

なんか疲れた。
サッカーより。

心の知らない部分が動くと疲れるんだ。

炬燵の天板の上に額を、こつんと乗せる。

あったかい炬燵。
紅茶のいい匂い。

疲れた俺は、眠くなってきた。
少しだけ体が熱っぽくて怠い。
やっぱり風邪引いてる。

日向さん……。
まだ帰って来ないのかな。


………………………………。


「……しまづ……若島津……。」

声がする。

呼んでるの?
だれ?

「……若島津。」
深くて優しい声。
大きな暖かい手が頭を撫でてる。

「日向さん……?」

ふやけた頭で、ようやく目を開けると軽くデコピンをされた。

「いたっ。」

さすがに目が覚めて起きた俺の前に、少しだけ悪戯っ子の様に笑った日向さんの顔があった。

「もう。痛いでしょっ。」
額が少しヒリヒリする。
日向さんのデコピン結構痛いんだからねっ。

「炬燵で寝ると風邪が悪化する。寝るならベッド行け。」

文句を言う俺に日向さんは、ベッドを指差した。

「だって日向さん遅いし。」

むくれる俺を見て日向さんは喉の奥で笑ってる。
いつの間に大人みたいに笑う。

かっこいいよね。
みんな騒ぐわけだ。

何だか、どんどん先を行ってる気がする。

俺、置いていかれちゃうかな。

「ほら土産。」

暇でネガティブモードな俺の前に、日向さんは手にしていたものを置いた。

それは、咲き初めの桜がついた一枝だった。

「……こんな時期に、桜?どうして……。」
驚く俺を見て日向さんは満足そうに笑った。

そろそろ秋も終わりなのに。
古い旧寮は寒くて炬燵を早々と出してるっていうのに。

「裏山に行って採ってきた。」

事もなげに日向さんが言う。

「裏山って……旧寮の?」
「そう。一本だけ咲いてる。」

旧寮の裏には山と言っても小さなものなのだけど、手入れをしていない木々が伸び放題の場所がある。

ちなみに日向さんのお気に入りの昼寝スポット。

俺は日向さんを探しに、数える程しか行ってないのだけれど。

「手折ってきたらダメだよ……?」

俺は桜が大好きで、それで日向さんも桜が好きで。
お土産は嬉しいけど。

「大丈夫だ。ちゃんと断ってきたから。」

また日向さんは事もなげに言った。
小学生からの長い付き合いの俺には解る。
桜の木に断ってきたのだ。

この人はこう言う少し普通でない事を、昔から当たり前に言う。
でもそれが、ちっとも奇異に映らない。

『寮で待っている友人に土産にしたいから、一本分けてくれ。』

多分、きちんと木に向かって言ってる。
もしかしたら桜の木は、それに応えて一枝を日向さんの足元に落としたかも知れない。

その証拠に炬燵の天板の上に置いてある桜の枝には、手折った跡がない。

根本でぽろりと取れた感じだ。

そんな事をごく当たり前に、やってのけるところが日向さんにはある。

「どうした。気にいらないか?」

黙っていると日向さんが顔を覗きこんできた。
もうっ近いよっっ。
その低い声も反則なんだからね。

「あ、ありがとっっ。」

恥ずかしくなって急いで礼を言うと、俺は立ち上がり桜の枝を持って備え付けのキッチンに向かった。

「お水あげなくちゃ。」

照れたのをごまかして、俺は購買に返し忘れの牛乳瓶を出した。
サッカー馬鹿の男子高校生の寮に、花瓶なんてあるわけないし。

「誰か来たのか?」

瓶を洗っている俺に日向さんの声がかかる。

「うん。島野に古典教わってた。そしたら反町乱入でさー。」

桜を瓶に指して炬燵に置いた。
うん。桜やっぱり好き。

「……島野に何かされたか?」

えっっ。
ドキッと心臓が鳴った。

少し眉間に皺を寄せた日向さんと視線が合う。
ううん。
合ってしまった。






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最終更新:2011年10月10日 03:20