ひとりごと
―ある日の若島津健―3
めんどくさい勉強から解放されて、島野が紅茶を煎れてくれるのをワクワクして待った。
「ぷ・り・ん♪ぷ・り・ん♪」
プリンコールをする俺の前に、紅茶とプリンが置かれた。
「あ。食べたことないやつ。」
さっそくスプーンを持って掬おうとして気がついた。
「新作らしいよ。」
島野は紅茶を入れたマグカップを手にしながら、言った。
甘い物を好まない島野は紅茶だけ。
えーっ。うれしいー。
「島野。ありがと。うれしい。」
素直にお礼を言うと、島野は口の端をあげて笑った。
今日ほんと良く笑うね。
機嫌良いのかな?
「何味かな?」
「南瓜みたいだよ。」
ふぅん。南瓜かぁ。
なんでかな。
「ハロウィンだからだろ。いい加減食べれば?」
愛しのプリンをためつすがめつする俺に、少々呆れて島野が言った。
「いただきます♪」
プリンにきちんと手を合わす。
スプーンで掬って、ひとくち。
南瓜って苦手なんだけど。
こっくりとした甘さと、クリーミーな感じが美味しい。
これなら食べれるかも。
「おいしいよ。これ。」
プリンに夢中になりながら言うと、島野はまた笑った。
「それは良かった。」
何だか優しい笑顔。
それを見ていたら少しだけ、胸のあたりがトクトクして。
俺は島野から急いで目を逸らすと、目の前のプリンに集中した。
「もうひとつ、いつもの味の方は冷蔵庫にあるから後で食べれば。」
のんびり紅茶を飲んでいる島野が言った。
「えーっ。良いの?出血大サービスじゃん。」
俺の軽口に、島野が怒ると思ったんだけど。
「サービスだよ。お前、最近落ち込んでるから。」
さらりと島野が言った。
俺、何にも言ってないんだけどな。
鋭いなぁ。
流石、軍師。
俺の顔を見て、島野はまた言った。
「お前、解りやすいから。」
「そんなことない。」
言われたのが悔しくて、スプーンを銜えたまま島野を軽く睨んだ。
「……で、何を悩んでる?」
マグカップを置いて島野が聞いた。
「言わなくちゃ、だめ?」
「そうだね。」
そんなぁ。尋問じゃん。
恨みがましい俺の視線を、島野はものともしない。
「チームのメンタルサポートも大事だからね。」
そんな風に真面目に言われたら、言わなくちゃいけない様な気持ちになる。
溜め息を、ひとつ。
「たいした悩みじゃないのだけど……。ちょっと将来のことで。」
「日向さんの事だろ。」
曖昧に言ったのに、間髪入れず図星を指され、俺は驚いて焦った。
そ、そんなにバレバレ?
焦って何も言えない俺に、島野は言葉を続けた。
「お前の事なら、いつも見ているから解る。」
えっっ。なに。
どうゆうこと?
「お前が望むとおり、日向さんのゴールはちゃんと護れる様に俺がするから、安心して良いよ。」
「……何で島野が……。」
島野の言葉に何を返して良いのかわからない。
俺の望むとおりって……。
「お前の翼が折れそうな時は、俺が治すから。」
今まで見たこともない様な真剣な瞳で、島野が言う。
俺は見ていられなくて目を逸らした。
急に頬や耳が熱くなる。
「……なっなんでっっ。」
言葉が探せない。
「……教えてほしい?」
その声は囁く様な、どこか甘い響きで……。
こんな島野しらない。
島野の長い指が俺の肩にかかる。
「若島津……。」
恥ずかしくて顔をあげられない。
でも振り払うことも出来ない。
蛇に睨まれた蛙って、こんな感じ?
そんなことを必死に考える。
「俺が、何で東邦に来たか解る?」
ぶんぶんと頭を振る。
そんなの知るわけない。
「それは、お前が……。」
島野の囁きが近くなる。
息がかかりそう……。
最終更新:2011年10月07日 23:11