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■エピローグ

 ラザム裁判が終わり、大陸が一つの統一国家となると、予定通り代表の選出が行われた……。
 代表にはニースルーが選ばれ、彼女は大陸の復興と魔法の発展に奔走した。
 しかし、ラザムが解体された事を受け、一部の過激な者達より寺院の襲撃や信者狩りが行われる。それにより余計な混乱を生んだ元凶とされ、支持を失い、次の代表に選ばれる事はなく、2代目の代表はチルクが選ばれる事となった。
 チルクは教育に力を入れ、大陸各地に教育機関を設立し、貧しい者でも一定の知識を得られるように義務教育を実現した。
 この義務教育の犠牲者となったのが、バルバッタ、ツヌモ、ケニタルの3名だった。
 3代目の代表はアルジュナが選ばれる。
 貧しい人を救ったりする根本の救いの概念に間違いはないとして、ラザム神殿を建て直し、新しいラザムを設立した……。
 しかし、旧ラザムの様に、武僧といった信者を修行させ武力を持つような事を厳しく禁じた。
 このためラザムは、新派と旧派に分かれる事になる。
 それからしばらくは、人間による代表が引き続き選出される事になるが7代目の代表はチョルチョが選ばれた……。
 ゲルニードは戦乱時代とはうって変わって実質名君となり、代表となったチョルチョを大きく支えた……。


イオナ平原にあるクレーター

 ゾーマ、ニースルー、ヨネアの3人はルーゼルとムクガイヤが果てたクレーターの中心部に花束を置いた……。
ニースルー「我が君、サルステーネ様、申し訳ございません」
 ニースルーは黙祷を捧げた後、ムクガイヤの理想を受け継がなかった事を深く詫びた……。
ヨネア「かったいんだから、気にしなくていいのよそんなこと」
ニースルー「……………」
ヨネア「そういやゾーマはこれからどうするの? 元死刑囚だし居場所なんか、ないんじゃない?
    あんたって確か、自分の研究が原因で吸血鬼になりつつあるんでしょ?」
ゾーマ「その事だが、私も考えが変わってな、何とか吸血魔道が世のためにならないかと考えたのだ」
ヨネア「なるわけないでしょうが、あのくだらないのが」
ゾーマ「果たしてそうかな? 私は考えた、吸う事ができるなら与える事もできるのではないかと」
ヨネア「は? 何いってんの?」
ゾーマ「光の魔法で傷を治しても、血を多く失っていれば死ぬケースはある」
ヨネア「…………」
ゾーマ「そこで血を失った者に血を与える治療法があるのではないかと考えたのだ。これを輸血魔道と名付けようと……」
ヨネア「それこそどうでもいいわそんな研究、でもまあ頑張んなさいよ」
 めんどくさくなったのか、途中で話を切るヨネア、しかし、ゾーマの新たな研究は医療の発展に大きく貢献した……。


―リュッセル

セレン「本当に行かれるのですか?」
リジャースド「ああ、俺は元々、地方を治める器じゃねーしな」
セレン「決してそんな事は……」
リジャースド「お前なら、あいつら達ともうまくやれんだろ、俺は正直、気まずくて無理……。
       その内、地方領主も投票で決めるようになる。そうなったら、直参からも郷士からも嫌われる俺はそれこそただの人だ……」
 郷士と直参の差別は無くなったが、元直参により、元郷士への偏見は無くならなかった……。
 リジャースドはその双方から嫌われており、リュッセルに未練は無く、リジャースドは最後まで自分につき従ったアーシャを連れ、外界へと飛び立った。
 後を任されたセレンは、落ち延び潜伏していたリューネ騎士団を迎え入れる。
 これを快く思わない元直参騎士の反発は凄まじいものがあったが、元直参騎士の長であったアルティナが矢面に立つことで少しずつではあるが事態を収束させていった。


―フェリル島

 設立されたフェリル大学で教鞭を振るうアスターゼ……。
アスターゼ「そこ!」
 鞭で引っぱたかれるバルバッタ、
バルバッタ「いてーな、何で俺が学校に通わなくちゃならねーんだよ」
アスターゼ「馬鹿は教育だ~、お主いつも言っていたではないか」
バルバッタ「いってねーよ」
アスターゼ「では、お主この問題を解けるのか?」
バルバッタ「うっ……。生きていくにあたって、こんなもん必要ねーだろ」
アスターゼ「掛け算九九など、もはや小学生のゴブリンでもできるのじゃぞ?」
バルバッタ「うるせーな、やりゃあいいんだろ、やりゃあ」
 バルバッタ、ツヌモ、ケニタルの3名は、学校に通わされ1から教育を叩き込まれた……。

…………………

男「竜王にして、大陸の勇者ルルニーガ殿とお見受けする。私と手合わせ願いたい」
ルルニーガ(またか……)
 ルルニーガのその名は大陸の誰もが知っている。
 そのため、戦乱が集束してからは、腕に自信あるものが勝負を挑みに来る事が多くなっていた。
 殆どの者が、まともな勝負にならなかったのはいうまでもない。

ルルニーガ「チルク、あ~いうのをどうにかできないのか?」
チルク「う~ん、既に法で禁止はしているけど、あ~いうのは法とかどうでもいいからね」
 チルクは特に対策は立てず、ほったらかしにする……。
 ルルニーガは連勝を続け、前人未到の記録を打ち立てた……。


―ハルト

 人が全く住まなくなったハルトは、悪魔の住む国となる。
 バルコニーで景色を眺めながら、悪魔の令嬢と闇魔術師の少女がテーブルを囲って、紅茶を飲んでいる。
ドラスティーナ「現世で飲む、お茶も悪くないわね」
ヨネア「でしょう」
   (紅茶なんて砂糖を沢山入れれば何でもいいけど……)
 部屋ではレドザイトポポイロイトの相手をシャルロットがしている、その光景を眺めながら……。
ヨネア「シャルロットっていう純情悪魔、本当にいたのね……」
ドラスティーナ「どういう意味よ」
ヨネア「いや、別にでもまあ、よかったわ、子守の適任者も見つかって……」
ラングトス「おい、俺のメンバーはいつになるんだってヴぁ?」
 唐突に、バルコニーに降り立った、ギターを持った悪魔が先延ばしにされ続けている事について確認した。
ヨネア「ねえ、ラングトス、あたし練習するからあたし達でやりましょう。キオスドールからはOKを貰っているわ」
ドラスティーナ「私達って、私も入っているわけ?」
ヨネア「ダメ?」
ドラスティーナ「まあ、付き合うだけよ……」
 この後、3人は誰がボーカルをするかで激しく揉める事になる。


―外界へ向かう船

オルジン「本当にいいのか? 貴方も選ばれれば代表になれるんだぞ?」
ゴート「いいんだ、大陸に私の居場所は無い、ムクガイヤが悪政をすればどんな状況でも立ち上がるつもりでいたが……」
   「そうなりそうもないしな、今はイオナと外界を見て回りたい」
 ゴートはイオナの肩を抱き寄せると、まるでこれから新婚旅行でもするかのように言った。
イオナ「ゴート様ったら」
 少し頬を赤らめるイオナ、ゴートはイオナを連れて、外界に旅立つ事になる。
オルジン「そうか」
 そのゴート、オルジン、イオナの3人を眺めている一向がいる。
ホルス「へ~、イオナと同じ名前の人が……」
   (性格が全然違う、尽くすタイプって奴だな、羨ましい……。こっちのイオナもああいう性格だったらな……)
   「それにこの時期外界を見て回りたいなんて奇遇だな……」
 ラザムが解体された事で自由になったホルスは大陸の外に興味を持っていた。
ホルス「ところでイオナ、何でついてくるんだ?」
イオナ「ホルス様、私がついてきては不満ですか?」
ホルス「え? いや、そういうわけじゃ、でもラザムはいいのか?」
イオナ「ラザムは解体されました、よって、今の私は自由です。」
ホルス(俺が自由になっていないような……)
ホルス「それに君もどうしてついてきたんだ? ローニトーク、パーサの森には居たくないのか?」
ローニトーク「ホルス様、イオナ様、その、私……」
ホルス「ん?」
ローニトーク「ゴブリンだったんです」
イオナ「は?」
ローニトーク「エルフに育てられましたけど、私はゴブリンで、どうして皆と違ってダメな子なのかがわかりました。パーサの森に居場所はないんです」
 突然のカミングアウトに唖然とするホルス、しかしイオナの反応はホルスと違っていた
イオナ「ローニトーク様、自分が無能なのをゴブリンのせいにするのは、ゴブリンに対して失礼では?」
ローニトーク「はわっ!?」
ホルス「イオナ、何も止めを刺す必要はないだろ」
イオナ「私は単に、自分が努力をしないでダメなのを理由をつけて言い訳しているのにイラッときただけですわ」
ホルス「気にするなローニトーク、君は君だ……。種族が何かなんてどうだっていいじゃないか……。
    君の心は光の賢者の光よりも輝いている、それに誰ナとは言わないけど何処ぞの性格の悪い女みたいにだけはならないでくれ」
ローニトーク「うるうる。ホ…ホルス様、私、やっぱりホルス様の側にいたいです。」
ホルス「ローニトーク、僕とその想いは同じようだね」
 見つめ合う二人……。
イオナ「ホルス様」
ホルス「な……なんだよイオナ、誰とは言ってないだろ?」
イオナ「では、誰の事を言っているんですか?」
ホルス「えーと……」
イオナ「10」
ホルス「え?」
イオナ「9」
ホルス「それってまさか……」
イオナ「8、7、6、5、3、1」
 イオナが数え終わると、ホルスはいつもの如くお仕置きされたのであった。


―海辺の城館

 戦乱が終結し、大した戦果を挙げられなかったデッドライトはかつて自分が使っていた城館に戻っていた……。
デッドライト(人間は思ったよりも強い、今度はもっと周到に事をなさなくては……)
 この家は鍵は掛けていないが、デッドライトの魔法により部外者は立ち入る事ができない。
 しかし、応接間から気配を感じた。
デッドライト「何者!?」
「ククク、ここにいれば貴様に会えると思っていたぞ……」
 灰色のローブを着て、フードを目深に被る男の顔は見えないが、デッドライトはそれが誰か直ぐにわかった。
デッドライト「生きて? いや、自我を保って転生したの?」
ムクガイヤ「そういう事だ、マクラヌスを研究した事で、死霊の理解が深まったことが幸いだった
      まあ、お前からすれば異界のゲートが開かないから不満だろうがな」
デッドライト「そう、それでどういうご用件かしら?」
ムクガイヤ「……私が転生した時、ほんの短い間だが、お前の主に謁見したよ」
デッドライト「なっ!?」
ムクガイヤ「察しはついていると思うがようするに御前はクビだ……。」
 デッドライトが反応するよりも速く、デッドライトは背後から剣で貫かれた……。
デッドライト「くふ……。もう一人いたのね」
ムクガイヤ「そういう事だ……」
 ムクガイヤの放った、ジェノサイドはデッドライトの首を切断した……。
ムクガイヤ「こうして生きて……というより存在していられるのも、お前のお陰だな、お前がマクラヌスを解明してくれて助かった……」
ラクタイナ「私はお前と違って、人の体を捨てたくはなかったのだがな……」
 ノスフェラトゥと化したラクタイナは人間の体に未練があった……。
ムクガイヤ「さて、私は既にお前の力を凌駕し、滅ぼすだけの力がある」
 転がったデッドライトの首を足で踏みつけながら見下ろし喋る魔道師の骸……。
デッドライト「そう、好きにすれば……」
ムクガイヤ「私が魔道士でよかったな……。
      御前は色々と研究のしがいがありそうだ『屍姫』、お前の正体を解き明かすのがちょっとしたブームになった時もあってな……
      ククク……死体の癖に中々良い体をしているじゃないか」
デッドライト「ゲスめ……」
ラクタイナ「大陸はどうする? 再び戦乱を起こすのか?」
ムクガイヤ「いや、しばらくは様子を見る……」
     「それに死霊の軍勢は強いが頭が無い、ただ魂を貪るだけだ、飢えた獣以下の存在よ……事を起こすなら人材・手駒がいる」
     「こいつと同じ轍は踏みたくない」
ラクタイナ「確かに、ナイアーラトテップヨグ・ソトースは兵器として見たら凶悪だが、人材の代わりにはなりえないな……」
     「神聖・光の魔法の対策も必要だ……」
 ムクガイヤはデッドライトが上手くいかなかったのは、死霊の軍勢にはブレーンとなるべき存在がいないためと推測していた。
ムクガイヤ「ラクタイナよ、ナイアーラトテップやヨグソトースに自我を与える事はできまいか?」
ラクタイナ「無理を仰る、だが10年後は無理でも100年後ならわからんな……」
ムクガイヤ「そうだ、我らには半永久の時がある……」
ラクタイナ「ふむ、久々に研究に没頭するのも悪くない……。寿命を気にしなくていいしな……」
 二人の骸は、再び起きる戦についていつまでもいつまでも語り合った……。


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最終更新:2024年03月10日 18:32