テレ東経済ニュースアカデミー:ANA苦闘の千日 - 航空業界の再生と戦略
オープニング:ANA苦闘の千日
テレ東経済ニュースアカデミーでは、日々変動する経済ニュースを、アカデミックな視点から分かりやすく解説している。今回は、国内最大手の航空会社であるANA(全日本空輸)の苦境と再生、そして今後の戦略について、ライバルであるJAL(日本航空)を含めた航空業界全体の動きを掘り下げる。
番組では、最近発売された書籍「ANA苦闘の千日」の著者、高尾康明氏をゲストに迎え、ANAの経営危機からの脱却、リストラ、年収カットなど、様々な取り組みについて議論を交わす。
ANA、未曽有の危機に直面
コロナ禍は多くの企業に打撃を与えたが、ANAはその中でも特に大きな影響を受けた企業の一つだ。高尾氏によれば、ANAは大手上場企業の中で、コロナ禍で消えてしまった売上規模が最も大きい企業だったという。
2019年4〜6月期と2020年4〜6月期の上場を比較すると、ANAは約5000億円もの売上を失った。これは、JALの約3500億円、オリエンタルランドの約1000億円超、JR東海の約4500億円、三越伊勢丹の約3000億円を大きく上回る。
この未曽有の危機は、リーマンショックよりも遥かに深刻であり、減収幅はリーマンショック時の約3000億円を大きく上回った。
苦境からの脱却:リストラと再生
経営危機に直面したANAは、リストラ、年収3割カットなど、様々な改革に取り組んだ。しかし、これは単なるコスト削減ではなく、企業が経営危機に陥った際に、いかに立ち直れるのかという物語でもある。
また、ANAは、大企業でありながら、官僚的で硬直的な体質を変革できるのかという問いにも答える必要があった。企業の改革と再生、そして新しいビジネスをどう作っていくのかという点が、今回の議論の重要なポイントとなる。
異例の要求:政府保証を求める
危機的状況を脱するため、ANAを含む航空業界団体である定期航空協会は、政府に支援を要請した。その際、政府系金融機関による融資や政府保証など、総額2兆円規模の支援を求めたが、この政府保証という文言が、政府・与党を怒らせてしまった。
背景には、他の業界も苦しんでいる中で、なぜ航空業界だけが政府保証を受けるのかという批判や、まずは金融機関に相談すべきではないかという意見があった。自己政権側としては、ある程度の支援はやむを得ないという意見があったものの、政府側や金融機関側からの反発が大きかった。
JALの破綻:ANAの教訓
ANAは、過去にJALが経営破綻し、公的資金による支援を受けた際の状況を教訓としていた。公的支援を受けたJALは、国からの干渉を受け、経営の自由を奪われてしまった。
ANAは、JALの二の舞になることを恐れ、可能な限り自力で経営を立て直すことを目指した。政府保証という言葉を避けたのも、国からの干渉を最小限に抑えたいという意図があったからだ。
ライバル関係:ANAとJAL
ANAとJALは、長年にわたり激しい競争を繰り広げてきた。かつてJALは、ほぼ国営企業という位置づけだったが、ANAは純民間企業として成長してきたという自負がある。
JALが経営破綻し、公的支援を受けたことで、ANAは競争において有利な立場に立った。例えば、羽田空港の発着枠などが、ANAに多く配分されるようになった。
しかし、ANAは、JALが再建を遂げ、再び競争力を取り戻すことを警戒していた。JALに再びリードを許してしまうのではないかという危機感が、ANAの経営判断に影響を与えた。
資本市場での暗闘:ANA vs JAL
2020年11月、JALは公募増資に踏み切った。これは、コロナ禍で業績が悪化したため、株式を発行して資金を調達する必要があったからだ。
実は、その2ヶ月前の2012年9月、ANAも公募増資を行っていた。これは、JALが経営破綻から立ち直り、再上場する直前のタイミングだった。
市場関係者の間では、ANAがJALの再上場を妨害するために、先手を打ったのではないかという見方もあった。ANAが先に資金を調達することで、JALの資金調達を困難にしようとしたというのだ。
JALは、ANAの動きに苦い思いを抱いたものの、その後、無事に再上場を果たした。両社の競争は、資本市場でも繰り広げられていた。
航空業界の課題:LCCとの共存
ANAは、LCC(ローコストキャリア)であるPeach Aviation(ピーチ・アビエーション)を傘下に収めている。LCCは、低価格を武器に顧客を獲得する一方で、フルサービスキャリアであるANAの顧客を奪ってしまう可能性もある。
ANAは、LCCとの共存を図るため、新たな顧客層を開拓することを目指した。Peach Aviationは、これまで飛行機に乗ったことのない人や、年に数回しか利用しない人など、新たな顧客層を取り込むことで、ANAの収益拡大に貢献した。
世界的には、フルサービスキャリアがLCCを運営しても、成功するケースは少ない。LCCは、フルサービスキャリアとは異なるビジネスモデルを採用する必要があるからだ。
今後の課題:ANAの成長戦略
ANAは、苦境を乗り越え、再び成長軌道に乗るために、様々な課題に取り組む必要がある。具体的には、以下の点が挙げられる。
- コスト削減の徹底
- 新たな収益源の確保
- LCCとの共存
- 海外展開の強化
- 顧客満足度の向上
ANAは、これらの課題を克服し、持続的な成長を実現することができるのか。今後の動向に注目が集まる。
ANA、日ペリから最大手へ。
ANAの歴史を紐解くと、日本ヘリコプターという会社が母体になっている。日本ヘリコプターは、JALに負けないという気概を持って成長してきた。そのJALが破綻し、ANAは業界最大手に躍り出た。
しかし、大手になったことで大企業病のようなものが出てきたのか、大企業的なものが出来上がってしまっている部分もある。
ANAとJALの違い:現場からの声
ANAとJAL、双方に搭乗した乗客からの声としてJALの方がサービス品質が良いという意見が多く聞かれる。背景には、ANAに元々あった野武士のようなむき出しのハングリー精神が薄れてしまったことにあるかもしれない。
ANAがトップに君臨し、追うものがいなくなってしまった今、両社の差は開いてしまっている。
大韓航空の戦略:貨物輸送へのシフト
コロナ禍で旅客需要が激減する中、大韓航空は、航空機を貨物輸送に特化させることで収益を確保した。客席を取り外し貨物スペースを確保し、貨物輸送会社のような戦略で利益を上げた。
日本航空・全日空は、大韓航空のように貨物輸送に全振りできなかった背景には、国内線の存在がある。日本は国内線の需要が高く、航空機を貨物専用に転換することが難しかった。
日本航空・全日空は、旅客輸送を維持しつつ、貨物輸送も行うという戦略をとらざるを得なかった。
航空業界の未来:新たな競争軸
航空業界は、今後、新たな競争軸が生まれる可能性がある。例えば、以下のような点が挙げられる。
- 環境対策
- デジタル化
- 地域活性化
- 顧客体験の向上
これらの要素は、航空会社の競争力を左右する重要な要素となるだろう。
締めくくり
今回のテレ東経済ニュースアカデミーでは、ANAの苦境と再生、そして今後の戦略について、高尾康明氏とともに深く掘り下げた。航空業界は、コロナ禍という未曽有の危機を乗り越え、新たな時代に向けて変化を遂げようとしている。今後の動向に注目していきたい。