バレンタイン哀愁
作者:隆
時は二月十四日。この日は、恋する男女にとっては切っても切り離されぬ縁のあるもの。そう、「バレンタインデー」である。
「フフフ……遂に来たぞ、この時が!」
ある一人の男が、レストラン・ミュークトの扉を開け放ち、意気揚々と叫び声を上げた。
そう、この男とはアリオスト=シューレン、ミュークトきっての超絶イケメンにして超絶ネタキャラである。
「ネタキャラ言うなボケ!」
アリオストの毎度ながらのアホいツッコミが聞こえてきたような気がするが、ここは無視させて頂く。
「……ん?」
アリオストは、ミュークトに入るや否や、少し唸った。どうやら先客がいたようだ。
「お、何だ、エーガじゃないか」
「ん? あー、その声はアリオストか。こんばんやー」
イケメン同士で――エーガの創造主曰く「エーガは非イケメン」との事だが、ここはイケメンと通させて頂く――何だかんだで気の合う二人。そして、今日は二月十四日という運命の日。話題は一つしかない。
「今日はバレンタインデーだなー」
「……だからどうしたよ?」
「あぁ? エーガは楽しみじゃないのか? 俺もお前もイケメン同士、貰ったチョコを勘定するのは一種の愉悦だぞ?」
「ハン、楽しみでも何でもねーな。俺は、お前と違って、色恋沙汰にはまるで興味ねーんだよ」
エーガは半眼でアリオストを睨み、こう言い放った。
「……その割にはしょっちゅう女口説いているじゃないか」
「ありゃ口説きでも何でもねー。ていうかな、あっちから構ってくる以上、無視する訳にもいかねーだろ?」
「嘘つくな」
ああだこうだと男二人の会話の最中、ミュークトに客が訪れた。
「エクレール様、いらっしゃいませ~!」
ミュークトのウェイターの声が響いた。どうやら客人はエクレールのようだ。
「こんばんはだ、エクレール」
「ん、こんばんやー」
アリオストとエーガは、入ってきたエクレールに挨拶をした。しかし、エクレールの様子がどうも変である。妙にそわそわしているようで、後ろに何かを隠しているようにも見える。
「む、こ、こんばんはだ……」
くどいようだが、今日は二月十四日である。そんなとき、一人の恋する乙女がする事と言ったら、一つしかない。
「エクレール、様子が変だぞ? ……はっはーん、さては、俺とエーガにチョコを渡すって寸法だな? フッ、モテる男は辛い」
「何を言っている貴様? 取り敢えず、これは今宵の土産だ」
エクレールはそう言うと、茶化してきたアリオストへチロルチョコを一個、無造作に投げ放った。
「……へ?」
きょとんとするアリオストを尻目に、エクレールはエーガの前へと移動した。そして、アリオストの視界には、豪華なデコレーションを施してある箱を背中に隠しているエクレールの姿があった。
「お、エクレール? どうしたんだお前? 顔、真っ赤だぞ?」
「エ、エ、エーガ……我はその、貴様に……その……」
「もっとはっきり言えよ。どもっていちゃ、分からないぜ?」
ククッ、とエーガはニヒルな笑みを浮かべ、エクレールの顔をまじまじと見つめた。そうすると、エクレールはますます照れのために顔が赤くなっていき、喋りもどもっていく。
「お、俺が、俺のような超絶イケメンに……義理とはいえ……チロルチョコ一個!?」
落胆し、項垂れているアリオスト。彼のプライドはズタボロである。よもや、アリオスト如きが本命チョコを貰えるとでも思っていたのだろうか。
「何が『如き』だってぇ!?」
またクソウザい声が聞こえてきたが、気にしないでおく。
相変わらず、エーガに本命チョコを手渡せず、しどろもどろしているエクレール。
その時、
「ジーニア様、いらっしゃいませ~!」
「サクリファイス様、いらっしゃいませ~!」
「サリシェラ様、いらっしゃいませ~!」
「シフォン様、いらっしゃいませ~!」
というウェイター&ウェイトレスの声が聞こえ、次々と客がやってきた。
「こ、こんばんはだ、何か大勢」
「お、こんばんやー。一気に来たなー」
アリオストは項垂れたままで、エーガは至って平静な面持ちで客人を迎えた。
全ての人がチョコを持っている。そう、またまたくどいようだが、今日は何の日かを忘れてはならない。
そして――オール面子はアリオストスルーで、エーガの方へと向かっていった。
「何々、エクレールだけずるいじゃん、あたしもエーガにチョコ渡したいのよー?」
「サ、サクリファイス……」
「え? アリオストもいたの? どーせ来ると思って、あんたにも一応チョコ持ってきてやったわよー」
サクリファイスはそう言うと、市販の板チョコ1枚をアリオストへ向けて放り投げた。
「そ、そんな……。……ジ、ジーニア!」
「アリオストさんですか。生憎、私はアリオストさんに本命チョコを渡す気など皆無なのです。私の本命はエーガなのです」
「……サリシェラ!」
「エーガに………渡すチョコだもの…あなたの分は……用意していない……」
ことごとくフラれ続ける、フラレマン・フォーエヴァー・アリオスト。
「ったく、こんな日にミュークトなんか来るんじゃなかったぜ、やれやれ」
贅沢な悩みを口にし、一人一人を律儀に応対しているエーガは、本日の完全な勝者である。
「……」
「ん、シフォンもいるのか。ってか、お前、今日は家にいるんじゃなかったのかよ」
先程やって来たシフォンの様子が変だ。というか、明らかに怒っているかのような面持ち。
「エ、エーガ……コイツ等なんかのチョコを貰って食べるの?」
「食べるっつーか……こんなにチョコを貰っても困る訳だが。というか、俺はいいから、あそこでウジウジしているアリオストにやってやってくれや」
完全に辺りから忘れ去られていたアリオストだが、エーガのフォローでようやくオールシカト状態から解放された。
だが、
「テメェの慈悲なんぞ受けん!」
この期に及んで意地を張る、バカもいいところなアリオスト。
「エ、エーガ! 我は貴様に渡す為に慣れぬチョコ作りをしたのだ! アリオストには既に義理チョコをやった!」
「あたしもエーガに渡す為にわざわざ高級チョコ買ってきたのに~」
「アリオストに本命チョコ渡すぐらいなら死んだ方がマシなのです」
「…エーガ……私の…………私のチョコ………」
「エ、エ、エーガのバカぁ!」
アリオストは、彼女等の言葉によって次々と心が抉られていった。
「うぅ……イケメン度ならエーガより上のはずの俺が、何故……」
それは、アリオストがミュークトでは屈指のネタキャラだからに他ならない。
「うーん……参ったなこりゃ」
辺りは、「エーガにチョコを渡すのは我だ!」だの「いい気になンじゃないわよ~」だの「エーガは渡さないのです」だの「エーガは…………私の事……」だの「みんな死んじゃえー!」だの、と、完全にエーガ争奪戦へと及んでいた。
そして、それにとどめを刺すかのように、ある来訪者が現れた。
「サッチー様、いらっしゃいませ~!」
このウェイターの言葉に、辺りは一気に沈黙した。
「ダァーーーリィーーーン!!! アタシはこの日をどんなに待ち望んでいた事か!」
「げ……一番厄介な奴が現れやがった」
あのエーガも流石に冷や汗をかいている。こういうケダモノが現れたときの、最も手っ取り早い対処法。それは……。
「おーい、アリオスト、アイツをちゃっちゃと追い払ってくれ。それが出来るのは、お前だけだからよ」
「ハ、ハァ!?」
そう、サイボーグ改造を経て超人と化した、人造兵器アリオストの利用である。
「んー、何だ蟻じゃない。ダーリンの足元にも及ばない矮小な存在ね」
「……ざけんなテメェ!」
アリオストの咆哮と斬撃と共に、サッチーは海王星までホームランされた。
「あ、蟻如きにこのアタシがぁ!? ダァーリィーン、死んでも愛だけは不滅よー!」
「ハイハイ、勝手に言ってろ……フゥ」
厄介者が現れたと思ったらすぐに消えた、ミュークトのカオスっぷりに、エーガはやれやれとばかりに嘆息した。
しかし、サッチーを追い払った功労者に待っていた運命は。
「……まぁ、チロルチョコをもう一つ追加してやる」
「頑張ったわね~アリオスト、エライじゃん」
「なかなかやるのです。少しは認めてやってもいいのです」
「……ちょっとだけ凄い……かも…」
「ぶっちゃけ、アリオストが一番ウザいじゃん」
この程度である。シフォンに至っては罵倒している。
「……。……ウワァンオレモウカエル!」
アリオストは情けない声を上げ、ミュークトから足のブーストで彼方へと飛んでいった。レストラン入店直後の自信は完全に失われて。
「アイツはああだからこういう扱いって分からんのかな。つーかアリオストは所帯持ちだってのに、何考えていたんだか」
サッチー来訪により中断していたエーガ争奪戦がいつの間にか再開され、それをエーガは冷ややかな目で見つめていた。
イケメンなのにモテないネタキャラアリオストに乾杯。
「フフフ……遂に来たぞ、この時が!」
ある一人の男が、レストラン・ミュークトの扉を開け放ち、意気揚々と叫び声を上げた。
そう、この男とはアリオスト=シューレン、ミュークトきっての超絶イケメンにして超絶ネタキャラである。
「ネタキャラ言うなボケ!」
アリオストの毎度ながらのアホいツッコミが聞こえてきたような気がするが、ここは無視させて頂く。
「……ん?」
アリオストは、ミュークトに入るや否や、少し唸った。どうやら先客がいたようだ。
「お、何だ、エーガじゃないか」
「ん? あー、その声はアリオストか。こんばんやー」
イケメン同士で――エーガの創造主曰く「エーガは非イケメン」との事だが、ここはイケメンと通させて頂く――何だかんだで気の合う二人。そして、今日は二月十四日という運命の日。話題は一つしかない。
「今日はバレンタインデーだなー」
「……だからどうしたよ?」
「あぁ? エーガは楽しみじゃないのか? 俺もお前もイケメン同士、貰ったチョコを勘定するのは一種の愉悦だぞ?」
「ハン、楽しみでも何でもねーな。俺は、お前と違って、色恋沙汰にはまるで興味ねーんだよ」
エーガは半眼でアリオストを睨み、こう言い放った。
「……その割にはしょっちゅう女口説いているじゃないか」
「ありゃ口説きでも何でもねー。ていうかな、あっちから構ってくる以上、無視する訳にもいかねーだろ?」
「嘘つくな」
ああだこうだと男二人の会話の最中、ミュークトに客が訪れた。
「エクレール様、いらっしゃいませ~!」
ミュークトのウェイターの声が響いた。どうやら客人はエクレールのようだ。
「こんばんはだ、エクレール」
「ん、こんばんやー」
アリオストとエーガは、入ってきたエクレールに挨拶をした。しかし、エクレールの様子がどうも変である。妙にそわそわしているようで、後ろに何かを隠しているようにも見える。
「む、こ、こんばんはだ……」
くどいようだが、今日は二月十四日である。そんなとき、一人の恋する乙女がする事と言ったら、一つしかない。
「エクレール、様子が変だぞ? ……はっはーん、さては、俺とエーガにチョコを渡すって寸法だな? フッ、モテる男は辛い」
「何を言っている貴様? 取り敢えず、これは今宵の土産だ」
エクレールはそう言うと、茶化してきたアリオストへチロルチョコを一個、無造作に投げ放った。
「……へ?」
きょとんとするアリオストを尻目に、エクレールはエーガの前へと移動した。そして、アリオストの視界には、豪華なデコレーションを施してある箱を背中に隠しているエクレールの姿があった。
「お、エクレール? どうしたんだお前? 顔、真っ赤だぞ?」
「エ、エ、エーガ……我はその、貴様に……その……」
「もっとはっきり言えよ。どもっていちゃ、分からないぜ?」
ククッ、とエーガはニヒルな笑みを浮かべ、エクレールの顔をまじまじと見つめた。そうすると、エクレールはますます照れのために顔が赤くなっていき、喋りもどもっていく。
「お、俺が、俺のような超絶イケメンに……義理とはいえ……チロルチョコ一個!?」
落胆し、項垂れているアリオスト。彼のプライドはズタボロである。よもや、アリオスト如きが本命チョコを貰えるとでも思っていたのだろうか。
「何が『如き』だってぇ!?」
またクソウザい声が聞こえてきたが、気にしないでおく。
相変わらず、エーガに本命チョコを手渡せず、しどろもどろしているエクレール。
その時、
「ジーニア様、いらっしゃいませ~!」
「サクリファイス様、いらっしゃいませ~!」
「サリシェラ様、いらっしゃいませ~!」
「シフォン様、いらっしゃいませ~!」
というウェイター&ウェイトレスの声が聞こえ、次々と客がやってきた。
「こ、こんばんはだ、何か大勢」
「お、こんばんやー。一気に来たなー」
アリオストは項垂れたままで、エーガは至って平静な面持ちで客人を迎えた。
全ての人がチョコを持っている。そう、またまたくどいようだが、今日は何の日かを忘れてはならない。
そして――オール面子はアリオストスルーで、エーガの方へと向かっていった。
「何々、エクレールだけずるいじゃん、あたしもエーガにチョコ渡したいのよー?」
「サ、サクリファイス……」
「え? アリオストもいたの? どーせ来ると思って、あんたにも一応チョコ持ってきてやったわよー」
サクリファイスはそう言うと、市販の板チョコ1枚をアリオストへ向けて放り投げた。
「そ、そんな……。……ジ、ジーニア!」
「アリオストさんですか。生憎、私はアリオストさんに本命チョコを渡す気など皆無なのです。私の本命はエーガなのです」
「……サリシェラ!」
「エーガに………渡すチョコだもの…あなたの分は……用意していない……」
ことごとくフラれ続ける、フラレマン・フォーエヴァー・アリオスト。
「ったく、こんな日にミュークトなんか来るんじゃなかったぜ、やれやれ」
贅沢な悩みを口にし、一人一人を律儀に応対しているエーガは、本日の完全な勝者である。
「……」
「ん、シフォンもいるのか。ってか、お前、今日は家にいるんじゃなかったのかよ」
先程やって来たシフォンの様子が変だ。というか、明らかに怒っているかのような面持ち。
「エ、エーガ……コイツ等なんかのチョコを貰って食べるの?」
「食べるっつーか……こんなにチョコを貰っても困る訳だが。というか、俺はいいから、あそこでウジウジしているアリオストにやってやってくれや」
完全に辺りから忘れ去られていたアリオストだが、エーガのフォローでようやくオールシカト状態から解放された。
だが、
「テメェの慈悲なんぞ受けん!」
この期に及んで意地を張る、バカもいいところなアリオスト。
「エ、エーガ! 我は貴様に渡す為に慣れぬチョコ作りをしたのだ! アリオストには既に義理チョコをやった!」
「あたしもエーガに渡す為にわざわざ高級チョコ買ってきたのに~」
「アリオストに本命チョコ渡すぐらいなら死んだ方がマシなのです」
「…エーガ……私の…………私のチョコ………」
「エ、エ、エーガのバカぁ!」
アリオストは、彼女等の言葉によって次々と心が抉られていった。
「うぅ……イケメン度ならエーガより上のはずの俺が、何故……」
それは、アリオストがミュークトでは屈指のネタキャラだからに他ならない。
「うーん……参ったなこりゃ」
辺りは、「エーガにチョコを渡すのは我だ!」だの「いい気になンじゃないわよ~」だの「エーガは渡さないのです」だの「エーガは…………私の事……」だの「みんな死んじゃえー!」だの、と、完全にエーガ争奪戦へと及んでいた。
そして、それにとどめを刺すかのように、ある来訪者が現れた。
「サッチー様、いらっしゃいませ~!」
このウェイターの言葉に、辺りは一気に沈黙した。
「ダァーーーリィーーーン!!! アタシはこの日をどんなに待ち望んでいた事か!」
「げ……一番厄介な奴が現れやがった」
あのエーガも流石に冷や汗をかいている。こういうケダモノが現れたときの、最も手っ取り早い対処法。それは……。
「おーい、アリオスト、アイツをちゃっちゃと追い払ってくれ。それが出来るのは、お前だけだからよ」
「ハ、ハァ!?」
そう、サイボーグ改造を経て超人と化した、人造兵器アリオストの利用である。
「んー、何だ蟻じゃない。ダーリンの足元にも及ばない矮小な存在ね」
「……ざけんなテメェ!」
アリオストの咆哮と斬撃と共に、サッチーは海王星までホームランされた。
「あ、蟻如きにこのアタシがぁ!? ダァーリィーン、死んでも愛だけは不滅よー!」
「ハイハイ、勝手に言ってろ……フゥ」
厄介者が現れたと思ったらすぐに消えた、ミュークトのカオスっぷりに、エーガはやれやれとばかりに嘆息した。
しかし、サッチーを追い払った功労者に待っていた運命は。
「……まぁ、チロルチョコをもう一つ追加してやる」
「頑張ったわね~アリオスト、エライじゃん」
「なかなかやるのです。少しは認めてやってもいいのです」
「……ちょっとだけ凄い……かも…」
「ぶっちゃけ、アリオストが一番ウザいじゃん」
この程度である。シフォンに至っては罵倒している。
「……。……ウワァンオレモウカエル!」
アリオストは情けない声を上げ、ミュークトから足のブーストで彼方へと飛んでいった。レストラン入店直後の自信は完全に失われて。
「アイツはああだからこういう扱いって分からんのかな。つーかアリオストは所帯持ちだってのに、何考えていたんだか」
サッチー来訪により中断していたエーガ争奪戦がいつの間にか再開され、それをエーガは冷ややかな目で見つめていた。
イケメンなのにモテないネタキャラアリオストに乾杯。