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アマギャル★113~ - (2010/06/21 (月) 17:21:14) のソース
★その113 「この状況下で最適と思われるルートを示してください。制限時間、5秒です。」 端末のディスプレイに映し出された情報を睨みつける。 地形、天候、時刻、風向き、敵の配置、その他諸々から判断すると――― 「ここの渓谷を通って、ここに出て…こう。」 自分の意図したルートを指でなぞった。 「48点です。渓谷を通るのであればルート526の方がよりベターでしょう。」 「48点か、手厳しいな…」 「甘く評価してもヨウヘイさんの為にはなりません。」 「そうだな。」 「更に戦況を有利に運べるルートがあります。分かりますか?」 「う~ん……………こうか?」 もう一度ディスプレイを指でなぞった。 「正解です。」 「ふぅ…、一歩前進かな?」 強くなろうと決めたあの日から3ヶ月経った。 俺の目指す理想はまだ遠い。進めば進むほど目標の遠さを思い知らされた。 止めてしまおうと思った事も何度かあったが アイビスが付き合ってくれるおかげもあって今日まで続いている。 初めのうちは血ヘドを吐くぐらいシミュレーターにこもったが そんなにポンポンと操作技術が向上する筈もなく、体力的にも限界があった。 そこで過去にイレギュラー、ドミナントと呼ばれた傭兵たちから学ぶ事にした。 彼らは純粋に強い。操作技術は勿論、汎用性が高く、思考は柔軟で 状況判断の早さもズバ抜けている。 そして何より、戦場で自分に有利な流れを作るのが上手い。 迂闊な行動をして毎回追い込まれている俺とは正反対。 苦手科目は伸ばしやすいって言うし、こっち方面を猛特訓中だ。 今やっているのも、その1つ。 他にも色々と思いつく限りの事を試している。 大昔のミッションレポートを分析、考察してみたりとかね。 アイビスはそういった過去の記録をネット上から集めてくるのが得意らしく 資料には事欠かなかった。 「そろそろ時間です。今朝はこれくらいにしましょう。」 「そうだな。」 「続きは帰ってからです。」 「うん。」 「朝食の準備をしてきます。」 アイビスは俺の部屋を出て台所に向かった。 最近は彼女の世話になりっぱなしだ。 「アイビスって何をしてあげれば喜ぶんだろう…」 こうも世話になりっぱなしだと、何だかな~ 前にそれとなく欲しい物がないか訊いたら、料理に使う調味料が欲しいって言われたし 物欲が無さそうなんだよな。う~ん…もう1回訊いてみるか。 学校に行く支度を済ませて1階に降りた。 ★その114 「おおっ、良い匂いだな。」 「今日のお魚は紅鮭です。」 テーブルには脂ののった鮭の切り身や味噌汁が並べられている。 「いただきまーす!」 平日の朝食は1人でする事が多くなった。 姉さんたちが起きてくる前に済ませて、早めに家を出るんだ。 グローランサーの整備を自分でする為にね。 もぐ、もぐ、もぐ、もぐ… 「なあ、アイビス。」 「はい。」 「今欲しい物って何かある?」 「お醤油が欲しいです。そろそろストックが切れそうです。」 また調味料ですか… 「財布預かってるんだから醤油は好きに買ってくれ。そうゆうのじゃなくてさ。」 「?」 「こう…洋服とか、アイビスが個人的に欲しい物はない?」 「ないですね。」 即答されてしまった。だが簡単に引き下がる訳にはいかない。 「どっか行きたいとか、何か俺にしてほしいって事もない?」 「どうしたのですか?」 「いや、その、なんだ…」 「?」 そんなに不思議そうな顔しなくてもいいだろ。 「日頃のお礼がしたいんだよ!」 言わせんな、恥ずかしい。 「その気持ちだけで十分です。」 「そう言わずに考えるだけ考えてみてくれないか?」 「……………」 何事も即時即決のアイビスが悩んでいた。初めて見る姿だった。 「急ぐもんじゃないし、見つかったら教えてよ。」 「分かりました。」 粘ってみるものだな、ミッションコンプリート。 アイビスが何を言ってくるかちょっと楽しみだ。 「おはよう、今日も早いな。」 「セレン様、おはようございます。」 「おはよう。」 姉さんが起きてきたという事は結構な時間だ、急がなきゃな。 残りの朝食を平らげて家を出た。 ★その115 学園に着いて直ぐ、格納庫に足を向ける。 「一番乗りかな…」 早朝の格納庫はひと気がない。これでもかというぐらい静まり返っている。 朝一でここに寄るのは以前と同じだが、目的が変わったんだ。 グローランサーを眺めて無為に時間を過ごすのを止め ACの整備点検の勉強をするようになった。 色々考えた結果、ある程度は自分で整備点検が出来ないと困るという結論に至った。 僻地で不良動作を起こしたり、故障したらどうするよ? そこには優秀なメカニックやオートメーションのハンガーなんかも無い。 あるのは自分の腕だけだ。応急処置ぐらいは出来るようになっておかないとな。 というわけで、クラフツさんに無理を言って基礎を叩き込んでもらった。 最初の方はそりゃもう酷かった、笑えないぐらい… でも徐々にコツを掴み、3ヶ月でメカニック科1年の基礎過程を済ませた。 実用的な所を掻い摘んだとはいえ、人間やろうと思えば結構やれるもんだ。 クラフツさんもよく様子を見に来てくれるが、最近は仕様書を片手に1人でやっている。 整備点検なんて地味な作業は正直好きじゃなかったけど、分かってくると中々楽しい。 昨日は脚回りの途中までだったかな? 折り目だらけでヨレヨレになった仕様書を開いて、俺は没頭した。 ・ ・ ・ 格納庫の扉が開く音で我に返った。誰か来たみたいだ…もう授業時間か? 腕時計に目をやると授業開始の15分前、そろそろ片付け始めないと遅刻してしまう。 「おはよう。今日も頑張っているじゃないか。」 「あっ、先輩、おはようございます。」 ジノーヴィー先輩だったか。それにしても先輩は朝から爽やかである。 「聞いたよ、槍杉君。ダイ=アモンのデータに勝ったらしいね。」 「何十回やって、やっとの1回ですけど。」 「それでも大したものじゃないか。」 先輩に大したものとか言われると照れる… 「私もうかうかしていられないな。」 「フッフッフッ、油断してると追い抜いちゃいますよ。」 「これは火星のアリーナに挑戦するのが楽しみだ。」 SPアリーナの時にした約束を先輩は本気で楽しみにしていた。 あの時はその場のノリ、軽い感じで行くって言っちゃったけど先輩は大マジだった。 約束を違えるのは申し訳ないし、卒業後に声を掛けられたら行かざるを得ない… まあいいさ、ザルトホック相手に腕試しと洒落込もうじゃないか。 「話は変わるんだが、槍杉君はパイロットスーツにこだわりはあるかい?」 「特にないですね。学園で売ってるやつの一番安いの使ってます。 前に高いのを買った事もあるんですけど、イマイチ違いが分からなくて…」 「最新モデルは着ているだけで生存率が5%上がるらしい。」 「へぇ~」 インパクトの瞬間に全身からエアバッグでも出るんだろうか? どんな計算してるのか分からないが、5%って結構凄いぞ。 「知り合いのツテで安く買えそうなんだが行ってみないか? 無論、気に入らなければ買う必要はない。」 まあ、見るだけならタダだし…行ってみようかな。 「じゃあ、お願いします。」 「決まりだな、後で予定が空いている日を言ってくれ。」 「はい。」 「ああ、片付けている途中だったか。手伝うよ。」 「す、すみません。」 ★その116 ジノーヴィー先輩が手伝ってくれたおかげで、俺は余裕を持って教室に到着した。 「エクレールさん、おはよう。」 「おはよう、槍杉君。あっ、ちょっと動かないで。」 「な、なに?」 「制服に油付いてるわよ。」 「あ、ほんとだ。」 「また着替えずにAC弄ってたんでしょ。」 「めんどくさくてつい…」 「ハンカチだけじゃ、あんまり取れないわね。」 「いいよいいよ、後で洗うからさ。」 「最近ちょっと落ち着いてきたのに、こういう所は子供っぽいままなのよね。」 「俺様のような大人の男にはまだまだ遠いんだぜ、ヒャッハー!」 「神威よりは落ち着いてる自信があ―――」 ガシッ 「グエッ…」 突然、制服の襟首を何者かに引っ張られて変な声が出た。 「ちょ、苦しい…」 俺が悲鳴を上げているにも関わらず、そのまま昇降口まで引きずられてしまった。 「ゴホッ…ゴホッ…何するんだよ、ジナ…授業始まるぞ…」 「落ち着いて聞け、槍杉。」 お前が落ち着け。人の話を全く聞いてないし… 「ジ、ジノーヴィー先輩にデデデ、デートに誘われた!」 「おおお、やったじゃないか!」 こいつは予想外の展開だ。ジナが動揺しているのも頷ける。 「着て行く服が無いぞ、槍杉。デートには何を着て行けばいい? あまり気合いを入れすぎるのも可笑しいか?先輩の趣味が分からない、助けてくれ。」 「グエェェ…とりあえず…俺の首を絞めるの…止めてくれ…」 「ああ、すまない。」 「ゴホッ…ゴホッ…」 危うく落とされるところだった。 でも先輩がジナをデートにねぇ…今日は晴れときどき特攻兵器かもな。 「で、デートはどこに行くんだ?」 「ショッピングだ。」 「なに買いに行くの?」 「パイロットスーツ。」 「……………」 喉元まで出掛かった言葉をなんとか呑み込んだ。 あちゃぁ…それ俺も誘われてるぞ。 ジノーヴィー先輩に声を掛けられて舞い上がっちゃったんだな。 デートに誘われたと勘違いしてる… 「どうした、槍杉?」 「いや、なんでもないよ。」 俺が取るべき行動はもう決まっていた。 「あんまり気張らずにカジュアルな感じでいいんじゃない?」