There's guns across the river aimin' at ya
川 の 向 こ う で も 銃 が 狙 っ て る
Lawman on your trail, he'd like to catch ya
役 人 が 跡 を つ け て い る
Bounty hunters, too, they'd like to get ya
賞 金 稼 ぎ は 殺 し た い
Billy, they don't like you to be so free.
ビリー、君 が 逃 げ た の が 許 せ な い
埃っぽく、黴の臭いが微かにし、寝台は軋み、長らく使っていなかった部屋だと良くわかる。
とろとろと微睡むような眠りから目を覚ました彼は、僅かに瞼を擦った。
ひどく腹が減っていた。喉がひりつくように乾いている。
ここのところの緊張感が、平素以上に彼の精神を責め苛んでいたのだろう。
――まったく、気苦労が絶えないったら。
何しろ連日の人喰い殺人事件で、冬木の街は緊張が高まってきていた。
そこに加えて昨晩は冬木センタービルが何者かによって爆破されたとかで、街中大騒ぎ。
昨今世界は物騒だとはいえ、このタイミング。十中八九は参加者の手によるものだろう。
ウェイバーはふと、以前に見た映画を思い出した。いや、コミックスだったか?
仮面の道化染みたテロリストが、次々と建物を爆破し、国家転覆を謀る物語。
11月5日のお祭りには随分と日が過ぎているが、あの主人公は神出鬼没で謎めいていた。
そんな奴が敵に回っている事を考えると、とても気の休まる暇がない。
ウェイバーはぶつぶつと意味の無い不平を漏らしながら、するりとシーツから滑り出た。
――確か、夕食のローストビーフとか何かが残っていたはずだ。
彼が召喚したサーヴァントである女には、振り回されっぱなしで参る。
朝にステーキを要求したかと思えば、昼に酒を煽り、夜は英国名物の冷えたローストビーフを堪能。
わがまま放題なのにマッケンジー夫妻がニコニコと孫娘を見守るように応対するのは、彼女の魅力からだろうか?
『私の尊敬する男二人のうち、一人は英国紳士だったからね。大英帝国万々歳だ』とか言っていたが、どうだか。
おまけに恋人扱いとか、本当に困る。
『年上の女の子を捕まえるとは、ウェイバーもやるなあ』じゃないよお爺さん。ウィンクとかいらない。
おまけに気を使って同室とか、いやサーヴァントと離れるよりはありがたいが……。
――ッ!?
不意にウェイバーはドキリとした。心臓を鷲掴みにされたようだった。
抜け出た寝台に手をついたら、柔らかく、温かいものに触れたからだ。
女。
未だウェイバーが触れたことのない、それは確かに女の白い尻肉の感触だった。
悩ましげな声を漏らして身じろぎする、美しい稜線の輪郭。ウェイバーは唾を呑む。
――勝手にこっちのベッドに潜り込んでくるとか、悪ふざけにも程がある!
しかも裸だ。くそ。朝になったらこっ酷く叱ってやる。令呪も辞さないぞ。
決意したウェイバーは、怒りをぐっと足元にこめて寝室を抜け出した。
ぎしりぎしりと軋む安普請の床――急ごしらえの――板張りに、ウェイバーは首を傾げる。
さて、こんなにマッケンジー夫妻の家は、安っぽかったろうか?
けれど違和感と疑問は寝起きの脳の中で撹拌され、するりと抜け出てしまった。
ウェイバーは足音を立てないように台所へ向かい、貯蔵庫から瓶を取り出す。
栓を抜いて、一口、二口。アルコールが乾いた喉に心地よい。唇を拭う。
さて、次は食事だ――というところで、ふとウェイバーは何か、物音を聞いた気がした。
「誰だ?」
ふと振り返ったウェイバーの視界に、白い光が膨れ上がった。轟音と共に、胸を熱いものが貫いた。
もんどり打って仰向けに転げたウェイバーは、口から血を溢れさせ、一度か二度、息を吐いた。
そして何も言えぬまま、彼はあっけなく死んだ。
「uh-huh?」
「うわっ!?」
ウェイバー・ベルベットの意識を覚醒させたのは、不意に頭に当たった軽い感触だった。
がばりとベッドから飛び起きた彼は、寝間着のはだけた胸元を押さえ、慌てて周囲を見回す。
薄暗い、けれど近代的な部屋。月光。昨日から降り続けていた雪は、どうやらほんの一時、途切れたらしい。
マッケンジー夫妻の丁寧な掃除によって清潔感の保たれた、彼の寝床。
いつ息子夫婦が遊びに来ても良いようにと、ツインベッドの客間の手入れを二人は欠かさなかったようだ。
枕元の時計は朝の三時。遅くまで地図を見ていたウェイバーの睡眠時間は、約四時間。
そばに転がったのは丸められた紙。
それをひっつかんだウェイバーは犯人を探し求めて窓辺を睨み、はっと息を呑む。
「よぉ、ウェイバー。起きたようだね。――おはよう?」
裸身にシーツを纏っただけの女が、薄い笑みを浮かべ、月明かりに身を晒していた。
身体がそう露出されているわけではないい。だが柔らかな線はわかる。その肉の白さも。
ふと右手に蘇った胸の中の感触が、ウェイバーの頬を通って、その頭に血を昇らせた。
「な、なにすんだよ! 眠らなきゃ魔力も回復しないし、明日にも響くんだぞ!?」
「手配書だよ」
「……手配書?」
うわずった声で叫ぶウェイバーにくすくす笑いながら、女はするりと窓辺から降り立つ。
小さな素足で床を踏み、軽い音を伴って彼女はベッドに尻を座らせる。マットはほとんど沈まない。
この聖杯戦争におけるただ一人のアーチャー、
ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム。
即ちビリー・ザ・キッドは、記録上21人を殺したという白く整った人差し指で、ウェイバーを指差した。
「そ。保安官(シェリフ)から、生死問わず(デッドオアアライブ)、賞金は令呪1画」
「ッ!? ルーラーからの討伐令ってやつか……!」
大慌てでウェイバーは、その丸められた紙を開いた。
そこに書かれているのは、やはりというべきか、昨日の爆弾テロの首謀者、そして人食い殺人の犯人たち。
「……令呪1画」
「どうする、ウェイバー? よぉーく冷静に考えろよ?」
眠気は頭から吹き飛んだ。紙面を睨みつけるウェイバーへ、アーチャーは目を細める。
「こいつは聖杯戦争の予行練習だ。標的を仕留めりゃ終わりってのが簡単なとこさね。
でも勝つのは一組――いや、標的が二つだから二組だな。
聖杯も同じ。残り二組で顕現、手に入れられるのは――――」
「一組だけ。わかってるよ、基本だろ?」
「いいや、一人だ」
ウェイバーは、はっとして紙面から顔をあげ、アーチャーを見つめた。
彼女はちろりと唇の隙間から赤い舌を覗かせて、唇をじっくりと舐めた。
「もし私に願いがあってかち合ったら、ウェイバー、お前は私を殺さにゃならない」
「こ、殺すって……!」
「どうする? 殺るかい? それとも、諦めて見逃すか……」
にやにや笑い、チェシャ猫かなにかのような表情は、ウェイバーをひどく苛立たせる。
暗闇の中で撃たれる夢――撃ったのは誰だったのか。
アーチャーは自分をからかっている――いや、試されているのだろう。
マスターをマスターとも思っていない態度。ウェイバーはちらりと令呪を見た。
これを振りかざしてマスターだと認めさせるのは、ウェイバーのひどく矮小なプライドを傷つける。
実力で教師を見返してやるために聖杯戦争に挑んだのだ。
それに何より、この女を相手に「絶対服従しろ!」と令呪を使うのは、負けた気がしてならない。
――くっそぉ……! 考えろ、考えるんだ、ウェイバー・ベルベット……!
そう、令呪1画。
これは大きい。討伐に成功した者への報酬として、参加者を駆り立てるには十分だ。
けれど報酬が大きいということは、それだけ危険もあるということ。
そもそも管理者が自力で対処できないからこその討伐令ではないか。
少なくとも――人喰いが魂喰いだとすれば、相応に強化されているのは間違いない。
ビルの爆破はどうだ? 狙いはわからない。爆破では魂喰いはできない。
けど、宝具にしろ魔術にしろ、それだけの威力を持つ何かだ。
こんな奴らは放置はできない。おおっぴらに大勢の人を殺している。
――魔術師として、神秘の隠匿は絶対だものな……!
ウェイバーはそう自分の中で理屈を練りながら、ひたすら思考を纏めて――
「あ」
――なんだ、そんな事か。
「別に今決める必要ないじゃないか、そんなの」
「当たりだ」
はたと気づいて呟いたウェイバーに、ぱちぱちとアーチャーが拍手をする。
そう、その通りだ。今この場で伸るか反るかを決める必要は一切無い。
それを決めるには、情報が足りなさ過ぎる――他の参加者も、標的についても。
つまるところ、ウェイバーはあやうくアーチャーのペテンに引っかかりかけたのだ。
「なんなんだよ、お前……!」
「誰と手を組んで、誰を殺すかは慎重に決めなきゃね、って事さ」
じろりと睨みつけても、彼女は気にした風もない。
相手にするだけ意味が無いのはわかっているが、ウェイバーは冷静沈着さが欠けている。
それは成長と共に手にするものであるから、つまり経験が致命的に足りていないのだ。
「…………とりあえず保留して、集まってくる奴らを観察・偵察するぞ、アーチャー!
他の連中の能力もそうだけど、スタンスとか、そういうのも全然わからないしな」
「ま、英霊ってのは清く正しい連中が多そうだし、乗るヤツはいるだろうね。
それで討伐が上手く行きそうなら横から掠め取るも良し。もしダメそうなら…………」
膝の上に頬杖をついてウェイバーを眺めていたアーチャーが、ふと身を乗り出した。
シーツが緩んで露わになりそうになる胸元からウェイバーが慌てて目を反らすと、彼女と視線が交わる。
「……ダメそうなら、どうする?」
「り、臨機応変にやるんだよ!!」
顔を赤くして怒鳴りつけると、ウェイバーはアーチャーから逃れるようにベッドから飛び降りた。
彼女に背を向けて寝間着のボタンに手をかけて、荒っぽく外しにかかる。
もはや曖昧になりつつある自分の死の夢がなくとも、もう、眠れそうにはなかった。
「とにかく、偵察行くぞ。もう動いているヤツがいるかもしれないし、夜明けまでまだ間があるんだ!」
「心当たりは? 無いなら無いで良いけど。そういう名目でデートってのも悪くない」
「あるよ! ……多分だけど。良いから、さっさと支度しろ!」
「アイ、アイ」
ウェイバーの背後で、するすると布が擦れる音がする。
シーツから抜け出した彼女が、着替えを始めているのだろう。
サーヴァントなんてのは自分の装備をすぐに実体化できるはずなのだが、アーチャーはそうしない。
下着もつけずにシャツを着て、下はぴっちりとしたジーンズ。
使い込まれたガンベルトを腰に巻き、足にはごつごつとした拍車付きのブーツ。
アーチャーがコートを羽織って帽子を被るまで、ウェイバーは自制心に厳しいトレーニングを課している。
毎朝のことだ。――もっとも、これまではだいたい、彼女は普通の服を着る事が多かったけれど。
「とはいえ、手配書だけ配って自分で動かない保安官なんざ、ロクなもんじゃないけどね」
「……なんだそれ。無法者としての意見か?」
「いいや。元保安官としての忠告さ」
そう言って、アーチャーは鮫のように嗤った。
『おいおいおいおい、黒き者、枝の破滅、ムスペルの子の長がなんてぇツラだい!』
あれは確か、主人の婚礼が終わった後の事。
主人から諸用を命じられてニヴルヘイムを訪れた時だったはずだ。
門を通り過ぎようとした自分に対して、あの緑の仮面の道化が声をかけてきたのは。
『おっと、失礼! 今は「輝く者」でしたな。なぁに、ちょいと娘の顔を見に来ただけさ!』
巨人の末裔とはいえ仮にも神々の一員、冥府の女王の父、雷神の親友、大神の義兄弟である。
慎み深く彼女が黙って頭を垂れたのを見て、道化はやはり悪びれずに笑ったものだ。
『いや、なに。遠いとはいえ親戚だからね。老婆心ながらご忠告を差し上げようと思ったまで』
神々からの言葉である。従者たる自分はそれを聞き漏らすような事があってはならない。
身を糺して、受け入れようとした事を――後悔するべきかどうか、今でも悩む。
『いやさ。いくらフレイの忠臣、一の部下でござい! なんて凛々しく麗しい従者っぽく格好つけてたってよ?
本性は「あぁん、フレイさまぁっ」ってもじもじ太腿こすり合わせて股ぐら濡らしてるメスガキじゃあねえか。
気づかねえフレイもとんだボンクラ鈍感だって宣伝しているようなわけでね。
だいたい惚れた女を、自分に惚れてる女に迎えさせるあたり、どうしようもねえ。
まったく主従揃って痛々しくて笑え――いや、笑えるか? 良いや、笑っちまえ!!』
下卑た嗤い声が、地の底奥深く、冥府の国に木霊する。
自分は歯を食いしばって、ぎりりと主人より授かった剣の柄を握りしめていたのを覚えている。
生まれたのは怒りか、羞恥か、それとも嫉妬か。
あるいは、理解してもらえた暗い、昏い――悦びだったのか。
いずれにせよ間違いの無い事は、ただひとつ。
世界を燃やし尽くした一振りは。愛する人の命を焼き尽くした魔剣は。
あの日、ニブルヘイムの門の傍、一人の道化によって鍛え上げられたという事だ――……。
「…………」
深い思索から現世へ回帰し、セイバー・スキールニルはゆっくりとその瞳を開いた。
全ては白く、静寂に包まれている。小休止をやめた雪が、再びちらほらと舞い降り始めていた。
ステージの上、つい数時間前までは骨組みだけだったそこに立ったセイバーは、一人観客席を見回した。
――遠い。
誰もいない伽藍の空間。ただ椅子の上に雪が積もるばかりのそこは、あまりにも遠く、広い。
かつて巨人の国へ向かう時、名馬血塗れの蹄に跨って世界を駆けた時も、そんな思いを抱いたものだ。
決して手が届かぬ場所へと思いを届けられるのだから――
――歌い手が戦乙女の魂を宿すのも、無理はないことですか。
古来より詩(エッダ)は魔的なものであった。
神代の頃、世界を紡いできたものは神秘と伝承、そして歌である。
明日、彼女の主人は此処に立つ。立って歌う。
つまりはこの冬木という世界の中心が、このステージに焦点を合わせるという事だ。
で、あるならば。
「ロキのような輩が、何を考え、やらかすつもりでいるのかは、火を見るより明らかですよ、ね」
忌々しい過去の記憶から、セイバーは深々と溜息を吐いた。息が白く煙り、溶けていく。
そう、あのような道化に何もかもを台無しにされてしまうのは、一度だって十分だ。
連中に望みなどない。交渉の余地もない。引っ掻き回す事そのものが目的であり、手段。
自分はそれを知っている。
知っているからこそ、防ぐ義務がある。
その決意のもと、セイバーはステージ上に設置された制御盤を爪先で蹴り上げた。
「この私に隠形は通じませんよ。聖杯を求めて集いし英霊であれば、堂々と姿を現しなさい!」
数刻早い太陽の如き、真白いスポットライト。
眩くステージを、観客席を照らす白、熱灯の光の中。
じゃりん。
伊達に拍車を鳴らす薄ら笑いの女と、強張った表情の少年が、ゆっくりと歩み出てきた。
「ちょ、お、み、見つかったぞ!? どうすんだ!?」
「そう慌てなさんなって。……へぇ、やっぱ他のやつも動いてたか。当たりだな、ウェイバー」
「バッ……おま、お前なあ、アーチャー! マスターって呼べよぉっ!」
「やだよ」
少年――ウェイバーが思わずといった風に女、アーチャーを怒鳴りつける。
セイバーは僅かに眉を顰めた。連携が上手くいっていないのか? そういう主従もいるということか。
鍔広の帽子に、おそらくは乗馬用と思わしき出で立ち。
しかしセイバーの生きた時代からは遠い未来のものであるらしい。
――そう古き英霊という事はないでしょう。
もっとも、英霊というのは時として驚くべき姿かたちを取る。変化の術を会得している者もいる。
断定はできない――セイバーはひとまず判断を保留する事にした。
相手もこちらについては、同様に思考をしているに違いない。
新しい英霊ではないだろうが……と。
「ま、待て! えーっと……こ、こっちとしては戦うつもりはないぞ!?」
「まだ、な」
「余計なこと言うなって!」
必死に虚勢を張っている少年の姿に、セイバーは僅かに頬を緩めた。
得体の知れないアーチャーはともかく、これが演技の類とすれば相当のものだ。
いきなり切り伏せるほどの関係、因縁は――今、この場には存在し得ない。
「……良いでしょう。こちらとしても、即座に切り結ぶつもりはありません」
「た、助かった……」
「私はセイバー、剣の英霊です。
そちらも討伐令に参加し、件の道化を追う心算なのでしょう?
どうでしょうか。此処は協力するというのは――……」
――ミナミの事は明かせない。
彼女は有名人だ。名前を知れば、それだけで居場所を突き止める事も容易。
嘘では無い程度に真実を隠しながら、セイバーは慎重に言葉を選んで口にした。
敵は増やせない。
道化は殺さねばならない。
ミナミは守らねばならない。
見たところ、あの少年、ウェイバーは善性の人間であるらしい。
そうなると、問題は――
「待ちなよ。――――幾ら出す?」
――アーチャーの方だ。
「……なに?」
「お、おい、アーチャー……!」
「協力を持ちかけたのはそっち。なら値段は決められるよな、私たちが」
ふてぶてしく笑うアーチャーの横で、ウェイバーは内心だらだらと冷や汗を流していた。
ライブ会場を偵察しよう。そう言い出したのは、ウェイバーの方である。
人喰いの怪物の狙いも、あのビルの爆破の狙いも、もちろんウェイバーにはわからない。
だけれど――いずれにしても、人目を憚らずに人を殺すという方法を取っているのなら。
――ライブを、狙わないわけがない、と思ったんだけど……!
ウェイバーが最初に思ったことは「ヤバい」であり、そして「死ぬ」だった。
アーチャーと共に立入禁止のロープをくぐってライブ会場に入った後。
ステージ上にいた女性――セイバーを見た瞬間、ウェイバーは全部放り出して帰りたくなった。
その女はただそこに立っているだけなのに。
こちらを見て、声を発しただけなのに。
――ヤバい。
ウェイバーが逃げなかったのは、勇敢だからでも、アーチャーがいたからでもない。
ただただ、怖くて身動きが取れなかったという、それだけの事だ。
目の前に起爆寸前の核弾頭が置かれていたら、誰だってこうなる。
今だってそうだ。
アーチャーがわけのわからない事を言っているから、かろうじて怒鳴って、平静を保てているだけ。
アーチャーがあまりにも馴れ馴れしかったせいで、ついうっかり忘れていた。
英霊とはこういうものだ。
ウェイバー・ベルベットという少年と、セイバーは、生物としての格がまるっきり違うのだ。
「…………一時的な不戦では不服なのですか?」
「バカいっちゃいけないよ。それは大前提だろ」
アーチャーはそう言って、鍔広帽の下から鋭くセイバーを見やりつつ、ポケットの中を探した。
いつの間に――本当にいつの間に、だ!――か彼女の口元には紙巻きのタバコが咥えられている。
しばらくして舌打ちをした彼女は、ウェイバーに「ん」と唇を突き出した。
「え?」
「ん!」
「えぇと……」
「だから、ほら、ウェイバー、火だ。火!」
「あ、お、う……うん。 Incendium(燃)」
一節の呪文を口にして、ウェイバーは親指の先に炎を灯した。それを煙草に近づけてやる。
火のついた煙草を美味そうに深々と吸ったアーチャーは、すぐに怪訝な顔をした。
そして舌打ち混じりにフィルターを噛み千切って吐き捨て、今度こそ満足そうに一服。
セイバーが、わずかに顔をしかめるのにも気にした様子がまるで無い。
「……ちッ どっかの誰かみたいなツラをしていやがる」
「ア、アーチャー……?」
不意に漏らした苦々しげな言葉も、どうやらウェイバーにだけ聞かせたものらしい。
アーチャーはセイバーを他所に煙草を吸い、煙を悩ましげに吐いた。白煙が雪と混じる。
「令呪が1画。山分けは不可能。協力しろってんなら、相応の代金が必要だろ。常識だ」
「数日で消える運命のサーヴァントが、金銭を欲しがる、と?」
「は」
アーチャーは唇の端を釣り上げた。ウェイバーは身を強張らせた。
金も払えない。善意で人を殺すのに手を貸せ。そんなやつは信用できない。
そううそぶく、アーチャーの笑顔は。
「私たちに明日は無いから金も酒も欲しいのさ? そのために人だって殺してきた」
「成程、反英霊でしたか……」
それは先日の酒場で見たのと、まったく同じ笑顔で。
「いえ、すみません。謝罪します。今の発言は冗談として下さい。
報酬――ええ、多少の金銭であれば、私のマスターが用意できます。
……しかし、本当にそのためだけに…………人を?」
「……いいや」
躊躇なく酔漢相手に銃を抜いた時と、まるで同じ――…………。
「そいつが冗談を言ったからさ」
次の瞬間、"魔法のように"現れた銃が火を噴き、轟音が響き渡った。
愛して欲しかった。
認めて欲しかった。
褒めて欲しかった。
どれももらえなかった。
だから殺した。
あのヒトよりも優れていると示すために。
あのヒトに愛してもらうために。
一人の男の話をしよう。
名前は知られていない。
我々が、ウェカピポの妹の夫と認識している男の話だ。
彼について語られていることは三つ。
ウェカピポの妹の夫であること。
ネアポリス王国、財務官僚の息子であること。
妻に暴力を奮ったことで離婚を求められたこと。
それが逆に逆鱗に触れ、汚名を雪ぐために決闘に挑んだこと。
四つだ。
暴力的ではあれど、教育を受け、名誉を重んじ、正々堂々と決闘を行った男である。
仮にも王族護衛官である武官との対決に、互いの伝統ある鉄球で挑んだ男である。
つまり何が言いたいかというと、彼は決して短絡的な男ではないという事だ。
死からの復活、聖杯戦争、負傷しつつも蘇った自身の肉体、そしてサーヴァント。
様々な異常事態と現状について、ウェカピポの妹の夫は冷静に分析し、状況把握に努めていた。
自分の技量がどれほど怪我に影響されているか、確かめる必要があるとも考えていた。
それにはせめて、雪が止むか小康状態になるまでは待とう、とも。
しかしサーヴァントの運用については天候など問題とならない。
むしろ鉄球の技に不安が残る以上、サーヴァントの状態を正しく認識する事は急務でさえあった。
討伐令に参加するかどうかなどということは、その後の事だ。
故にこれは、ウェカピポの妹の夫にとって想定内の、想定外。
彼は偵察に出した自身のサーヴァントが、紛れもない狂戦士なのだと、正しく認識する事になる。
「Faaaaatthhhhhheeeeeeeherrrrrrrrrrr!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
獣の咆哮が轟き渡り、六基あったスポットライトが"全て同時に"砕け散る。
一瞬にして白い闇に閉ざされた会場に、魔力の炎が煌めいて踊る。
セイバーが自身の肉体に、燃えたぎる甲冑を身に纏ったのだ。
「アーチャー、貴女……!」
「知らないよ! ほら、ウェイバー頭下げな!」
「う、うわぁっ!?」
帽子を手で押さえてニィッと笑いながら、アーチャーはウェイバーを横抱きに椅子の海へ身を躍らせる。
遅れて衝撃波が走り、ドンッと椅子の群れを宙空へと巻き上げた。
雪煙を撒き散らし、全身から放出する魔力でそれを蒸発させながら君臨するは、赤い騎士甲冑のサーヴァント。
「ば、バーサーカー!?」
悲鳴のようにその正体を看破したウェイバーの手元に、ぽいと熱く焼けた鉄が放り込まれる。
連射で銃身を赤くした拳銃をお手玉しながら慌てるウェイバーへ、弾薬を放ったアーチャーは、片膝立ちに身構える。
「あ、つっ!? お、おい、アーチャー!?」
「弾込めくらいできるだろ? いつもやってるみたいに、ロッドしごいてやりゃあ良い!」
「してない!」
わめきながらもウェイバーは、シリンダを回しながらロッドを前後させ、排莢を繰り返す。
直感と早撃ちあっての緊急回避。一瞬で灯りを打ち砕いて暗闇に踊る。
さもなくば死んでから百年少し程度の英霊で、今の一撃躱し切れたかどうか。
だというのにアーチャーの顔には笑みが浮かぶ。
――やっぱり、こうでなくっちゃ。
「アーチャー! 会場を破壊するわけには行きません、引き離しましょう!」
「報酬は?」
――この女はッ!
セイバーはぎりっと歯を食い縛った。人の気も知らないで。
突然の乱入。会場の破壊。もしもライブができなくなれば、ミナミはどれほど悲しむだろう。
何故ならばミナミにとって、歌うということは愛を伝えることでもある。
自分にはそれさえもできなかった。それさえもできないという事が、どれほど辛い事か。
「払います! 私の名にかけて!」
「ようし、乗った!」
「Faaaaatthhhhhheeeeeeeherrrrrrrrrrr!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
剣士が魔剣を構えて身を躍らせ、弓兵が銃を片手に狙い定め、狂戦士が狂乱のままに暴威を振るう。
12月23日、夜明け前の空、溺れるように降り注ぐ雪の下。
友に殺された女。想い人を殺した女。父を殺した女が集い。
聖杯戦争の戦端は、かくあれかしというように開かれたのだった。
【442プロダクション前特設ステージ/1日目 未明(4:00)】
【ウェイバー・ベルベット@Fate/ZERO】
[状態] 健康
[装備] 無し
[道具] 魔術的実験器具類一式
[令呪] 残り三画
[所持金] それなり(旅費+マッケンジー夫妻からの小遣い+アーチャーの稼ぎ)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜いて自分の実力を認めさせる
[備考]
1.討伐令については保留し、状況判断を優先するようです。
2.セイバー(スキールニル)、バーサーカー(
モードレッド)を認識しました。
3.セイバー(スキールニル)と共同でバーサーカー(モードレッド)の撃退を開始します。
【ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム@アーチャー】
[状態] 健康
[装備] コルト・サンダラーx2
[道具] ガンベルト 予備弾多数 現代衣装多数
[所持金] それなり(ウェイバーからの小遣い+マッケンジー夫妻からの小遣い+自分の稼ぎ)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を楽しむ。
[備考]
1.セイバー(スキールニル)、バーサーカー(モードレッド)を認識しました。
2.セイバー(スキールニル)に報酬を要求し、同意を得ました。
3.セイバー(スキールニル)と共同でバーサーカー(モードレッド)の撃退を開始します。
【スルト(スキールニル)@セイバー】
[状態] 健康
[装備] 万象焼却せし栄光の灰燼 焔の鎧
[道具] 無し
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:ミナミを守る
[備考]
1.ロキとの経験から、
ジョーカーがライブ会場を襲撃するだろうと判断しました。
2.アーチャー(ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム)、バーサーカー(モードレッド)を認識しました。
3.アーチャー(ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム)に報酬を要求され、支払いを同意しました。
4.アーチャー(ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム)と共同でバーサーカー(モードレッド)の撃退を開始します。
【ウェカピポの妹の夫@ジョジョの奇妙な冒険第七部】
[状態] 健康?
[装備] 剣・鉄球
[道具] 無し
[令呪] 残り三画
[所持金] 不明
[思考・状況]
基本行動方針:自陣営の戦力を把握する
[備考]
1.討伐令についての参加は保留し、状況の把握を優先します。
2.バーサーカー(モードレッド)を偵察に派遣しました。
【モードレッド@バーサーカー】
[状態] 健康
[装備] 王剣 不貞隠しの兜 騎士甲冑
[道具] 無し
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:Faaaaatthhhhhheeeeeeeherrrrrrrrrrr!!!!
[備考]
1.ウェカピポの妹の夫の指示で偵察に向かいました。
2.アーチャー(ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム)、セイバー(スキールニル)を認識しました。
3.アーチャー(ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム)、セイバー(スキールニル)と交戦を開始します。
時系列順
投下順
最終更新:2017年03月03日 07:49