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錆びつく世界を、スキップでかけて

私――――直樹 美紀の自宅に一件の手紙が届いた。
それは裁定者から直々に送られてきたという一通。
そこには聖杯戦争の戦いに関わる内容が記されていた。
この町での私は一人暮らしをしている。
聖杯戦争の話や手紙に関して、家族の目を気にする必要は無い。
リビングの椅子に座り、私はそこに記された内容を見つめる。


―――――これはルーラー及び聖杯戦争を主催する者たちから参加者に宛てた手紙である。
―――――既に知っている者がいるかもしれないが、冬木市の周りに特殊な結界を張っているので、街から抜け出せる事は出来ない。
―――――そして滝澤政道とバーサーカー、及びジョーカーとバーサーカーに討伐令を下す。


目を引いたのは、討伐令の報告。
先に手紙を読んでいたランサーもこの件には警戒をしていた。
警戒だけではない――――静かな憤りもまた、垣間見えた。
そして彼は今日も『偵察』の為に霊体化し、外出していった。
短い間の関わりではあるものの、既にランサーのことは信頼している。
私も『あの世界』で生き抜いてきたとは言え、相手にしてきた『彼ら』は動く屍に過ぎなかった。
古今東西の英雄が集う戦争において通用する能力、戦術は持ち合わせていないのである。
だから私は、戦術や戦略などにおいてはランサーに任せている。
他の主従との戦闘や交渉等に関しても下手なことはしないだろうと信用している。

さて、本題に戻ろう。
討伐令。即ち、特定の主従の排除命令ということ。
何でも彼等は聖杯戦争のセオリーから外れ、民間人の虐殺を繰り返しているのだと言う。
思えば、ニュースでも騒がれていた。
『人食い殺人事件』や『猟奇殺人事件』。
そして先日には、新都のセンタービルが爆破された―――――なんて話も出てきた。
それらの犯人こそが、この二つの主従なのだと言う。


彼等は――――人殺しだ。
私が暮らしている日常の裏で多くの人間を殺している。
そう、人が死んでいる。


正直言って。
自分自身、『死』には慣れていると思っていた。
聖杯戦争は、詰まる所サーヴァントを用いた殺し合い。
未だに実感が湧かないとは言え、他者を蹴落として勝ち残る戦争だ。
元の世界で『彼ら』と何度も対峙してきた自分なら、きっと大丈夫だ。
そう言い聞かせていた、筈だった。


無言のまま手紙を手に取っていた私。
その手が、僅かに震えていた。
小刻みに震え。
僅かに揺れ動き。
自分の恐怖に戦く心を、露にしていた。
そう―――――――恐れていることに、気付いてしまった。
死への恐怖?否、違う。
自分がこれから『生きた人間を殺すことになる』という事実への恐怖だ。
生きる屍だった『彼ら』とは、違う。
正真正銘。
生きている人間。



―――――考えるな。
《人殺しだ》
―――――ランサーがやってくれる。
《ランサーに指示を出すのは私だ》
―――――相手だって覚悟を決めている。
《私は覚悟を決めて此処に来たか?》
―――――私だって、勝たなきゃ日常を取り戻せない。
《その為に誰かを蹴落とすのか?》
―――――相手だって人殺しだ。
《相手がそうだからって免罪符になるのか?》
―――――考えるな!私は、
「ねえミーちゃん!まーだ雪は積もってるの!?」


騒がしい声が耳に入ってきた。
泥沼のような自問自答を繰り返していた私は、呆気に取られた。
そして私はぼんやりと思考を切り替える。
この騒がしい声。やけに馴れ馴れしい口調。
話し掛けてきた相手が誰なのかは、考えるまでもない。

私は椅子に座ったまま、声の方へと視線を向ける。
そこにはテレビの前のソファに腰掛け、テーブルの上に置かれたパック入りの苺を摘む女性――――もとい女神が一人。
彼女はペレさん。ランサーと一緒に現界してきた女神様。
炎とダンスと暴力を司る、凄まじい神様……の筈なのだが。

「……そりゃ当たり前ですよ、つい先日降ったばかりなんですから。
 というか止めて下さいよ、そのミーちゃんって呼び方……」
「別にいいじゃない!カッくんとミーちゃん!お揃いっぽくて可愛らしいもの!」

勝手にお揃いにしないでほしい。
というか先日も「止めて欲しい」って言ったのに、この人(もとい神様)は変なあだ名で呼ぶことを止めようとしない。
そう言えばゆき先輩からもみーくんって呼ばれてたな、と思いつつ軽く頭を抱える。

「というかペレさん、雪嫌いなんですか?まあ炎の神様ですし、何となく解りますけど」
「当たり前じゃない!」

ペレさんがバンッとテーブルを叩いて声を上げる。
テーブルの上に乗ってる苺のパックが揺れちゃってますよ。

「あの雪女を思い出すのよ!ちょーっとキレイだからって調子に乗るアイツ!
 大体カッくんのハワイで雪って何よ!あそこは火と太陽の楽園に決まってるじゃない!
 それなのにマウナ・ケアに居座って雪なんか降らせて……」

―――――急に愚痴が始まった。
どうにも『雪女』とやらに関する苦い思い出があるらしい。
「でも本気になればあんな奴すぐに追い払えたわ!」と適度に自慢を交えつつ、話が続く。
『すぐに追い払えた』筈なのに『追い払えていない』と言うことは、つまり、まあ、そういうことなのだろう。
その後も延々とペレさんが何やら愚痴をこぼし続けている。
そんな彼女に悟られないよう、私は小さく溜め息を零す。

ランサーはこのペレさんを強く信頼している。
偵察に出かけている間にも、こうしてペレさんを私の側に置いてくれる……のだが。
正直言って、現状では『まあ楽しいけど面倒臭い人』以上の評価にはなりそうにもない。
宝具の解放以外でやってることと言えば、勝手に外出に付き合ってくるか、横で五月蝿くはしゃいでいるか。
彼女はそれくらいしかしていないのだ。
ランサーは『困っている時にはペレ様を頼るといい』と言っていたが、そもそもダンスしか出来ない人に何を頼ればいいんだ。
神話のような力を持っていれば頼ることも考えたし、彼女を怒らせまいと機嫌を伺っていたとは思うのだが。
詰まる所、自分はあまりペレさんを信頼する気にならないということだ。

――――――とはいえ、彼女の明るさで少し気が楽になることも、無くはないのだが。
先程の自問自答だって、彼女が話し掛けてこなかったらもっと泥沼に嵌っていたかもしれない。
彼女が気さくに話し掛けてくれたから、気が和らいだ。
そういう意味では、僅かに、ほんの僅かとは言え、好感が持てる。

ただ、やはり愚痴に付き合わされるのが面倒なのも確かである。
このままペレさんに付き合うくらいなら、一人で外の空気でも吸いに行きたい。
そして、少し考えごとがしたい。
……よし、ちょっと気晴らしに散歩に行こうかな。


「あの、ペレさん」
「何よ!」
「ちょっと出かけてきます。ペレさんは家で」
「あっ私も」
「ペレさんは!!家で大人しくしてて下さい!!!」
「ミーちゃんのバカーーーーーーッ!!!!」


◆◆◆◆




――――十数分後。



やれやれ……何とか説得して大人しくさせることが出来た。
ある意味、一番面倒だった。
彼女の顔色を伺わなくてはならないランサーへの同情も覚えた。
ペレ自身、相当不満げな顔をしていたのがやけに印象的だった。
ともかく私は、外出した。

閑静な住宅街の路地を、私は傘を差して歩いていた。
自動車の通った痕が道路に残り、ある程度雪を溶かしてくれている。
しゃり、しゃり、と溶けかけた雪を踏み頻る。
この小気味良い音は嫌いではない。
靴底に踏まれた雪が潰れ、水のように散らばる。
そんな足下の様子を見つめつつ、白い吐息を吐く。
そして、降り続ける雪を眺めるように―――ぼんやりと空を見上げた。

深夜と比べれば、雪の勢いは大分大人しくなっている。
それでも小雨のような白い粒は緩やかに降り続けている。
ここ最近、雪が降ることが多い。
クリスマスも控え、冬も本番と言った所だろうか。
時には豪雪となることもあったが、学校は既に冬休みに入っている。
そのため通学の必要が無いのは幸いだ。
そもそも、今の自分は聖杯戦争の参加者。
生憎、学業と戦争を両立させるような器用さは無い。
そういう意味でも、冬休みには有り難みを感じる。


――――そう、聖杯戦争は既に始まっている。


少し、外の空気を吸って落ち着きたかった。
少し、一人で考え事がしたかった。

聖杯戦争は、英霊を召還するマスター。
そして英霊の写し身であるサーヴァントの二人一組で行われる。
言うなれば、主従だ。
優勝賞品――――とでも言うべきなのだろうか、聖杯は。
この町に存在する数多くの主従が聖杯を手にすべく、戦い合う。
つまり、殺し合うことになる。

戦いを受け持つのはランサーだ。
彼は「戦いは自分が引き受ける」と言ってくれた。
そして、「他者を殺める役目を担うのは自分である」とも言った。
それは恐らく、少しでも私の罪の意識を和らげる為の発言か。
他者を蹴落とさねばならない聖杯戦争において、あくまで汚れ役は自分が引き受けるという意思表示か。
しかし、そのランサーを従えるのは自分自身だ。
自分が殺人を犯しに行くのと――――きっと、変わらない。

底抜けに明るいペレさんとの会話を挟んだことで、少しだけ冷静になれた。
だから改めて、冷静に考えてみようと思える。
私は、殺人者になるのだろうか。
サーヴァントを使って他者を殺すことになるのだろうか。

――――――『彼ら』の時は、どうだったか。
あの時は『彼らは人間ではない』『動いているだけの死体だ』と思い込むことで誤摩化した。
元は人間だった―――――その事実から目を逸らすことで、彼らを傷付けることが出来た。
だが、これから戦うことになるのは紛れもなく人間だ。

他のマスターは、何を考えているのだろうか。
もしかしたら、自分のように迷い続けている者が他にも居るのだろうか。
あるいは、譲れない願いの為に覚悟を決めた者も居るのだろうか。
願い――――――そうだ。
私達は、願いを叶える為に戦うことになる。

私の願いは。
元の平和な日常を取り戻すこと。
『彼ら』の存在を消し飛ばして、何もかも元通りにすること。
―――――――由紀先輩。胡桃先輩。悠里先輩。
あの破滅的な世界で出会った、先輩たち。
学園生活部の部員として共に過ごした、仲間たち。
全てを元通りにしたら、先輩たちとの思い出も消えてしまうのだろうか。
苦しくも楽しかったあの日々は、全部嘘になってしまうのだろうか。

……いや。
だからと言って。
全てを解決する為の手段が目の前に在るというのに。
それから目を逸らして、破滅した世界を受け入れるのは正しいのか。
きっと、違う。
平和な世界の方が、いいに決まっている。
日常を亡くす必要なんて無い。
死と隣り合わせの日々を過ごす必要も無い。
それがいい。いいに決まっている。
全て元通りにすれば、圭だって――――――



「あ」
「あ」


交差点で、右側の道路から現れた誰かとぶつかりそうになった。
私は咄嗟に足を止め、その場で謝ろうとしたが。
『誰か』も私も、きょとんとした顔のまま動きを止めてしまう。
お互いにまじまじと顔を見つめる。
微妙に気まずい空気が流れる。
…………何だろう、これ。
今の状況に我ながら呆れつつ、私は『誰か』に声をかけた。
誰か――――――否。
この人は、私の見知った人物だ。


「……おはようございます、先輩。雪が降ってても走り込みするんですね……」
「あっ……おはよ。まあ、そんなとこかな……あはは……」



彼女は、胡桃先輩。
元の世界では―――――学園生活部の先輩だ。


◆◆◆◆



雪混じりの風が吹きすさぶ。
霊体となった身では、その冷たさを感じ取ることも出来ない。

雪景色に埋もれた街を見下ろしつつ、ランサーは霊体化した状態で跳ぶ。
建物の上から、建物の上へと。
跳躍を繰り返し、空を駆け抜ける。
建物の屋根。道路の端。人々が歩く歩道。
至る所に雪が積もっており、街並を白化粧で飾っている。

――――――白銀に染まったマウナ・ケアの山頂を思い出す。

彼が治める島において、雪とは珍しいものだった。
常に暖かい気候に覆われる『ハワイ』に、このように凍えるような冬は訪れなかった。
思えばペレ様は雪が嫌いであったな、と彼は思い返す。
雪の女神ポリアフとの交戦を繰り返し、その都度敗北してきた苦い経験があるからだろう。
雪が降り始めた先日、ペレ様の雪の女神への愚痴に長々と付き合わされたことを思い出して苦笑する。

しかし、彼の国では滅多に見られなかった気候であることも確かだ。
ましてやこのような光景など、見たことが無かった。
街全体が雪に覆われ、白銀の世界を形作っている。
それはある種、未知の情景と言ってもいい。
彼―――ランサーは、目の前に広がるそんな光景に感嘆を覚えていた。
一種の感動を改めて感じていた。

されど、感慨に耽っているばかりではいられない。
自分にはやるべきことがあるのだから。
そう思い、ランサーは前方の『それ』を見据える。


(魔術師の使い魔、か……)


彼が追いかけていたもの――――それは鳥だ。
否、ただの鳥ではない。
その身に魔力を帯び、『干涸びた肉体』を持つ奇怪な鳥だ。


『……問おう。お前が余のマスターか?』


始まりの夜の出来事が、脳裏を過る。
ランサーは現界を果たした夜、異形の獣に襲われていた美紀を助けた。
あの獣は恐らくどこぞのキャスターが召還した使い魔だろう。

犬のような姿をしたあの獣は、高い身体能力と獰猛な攻撃性――――――それらに不釣り合いな『干涸びた肉体』を持っていた。

まるで防腐処置を施した死体のように、あの獣の肉体は厚みを失っていた。
そして、目の前で羽搏く『鳥の使い魔』もまた、あの獣と同じように。
その肉体が『干涸びていた』。
羽毛の多くが抜け落ち、翼も貧相。とても飛べるとは思えない姿であるが、確かに飛んでいる。
魔術で肉体を操り、擬似的に飛翔しているのか。

魔術的な使い魔であることは明白だろう。
鳥が放つ魔力は極めて微弱であり、通常ならランサーが存在に気付く可能性は低かった。
探知能力に長けるサーヴァントなら兎も角、ランサーにそのような技能は無いのだから。
しかし、鳥は『自ら』ランサーの前に姿を現した。
数分程前、ビルの上で実体化し周囲の様子を見ていたランサーの前に鳥の使い魔は現れた。
その後まるでランサーを誘い込むかのように南の方角へと飛翔を始めたのだ。


(恐らく余を案内しているのだろう)


跳躍を続けながら、ランサーは思う。
罠―――――ではないだろう。
使い魔が堂々と姿を現し、堂々と誘い込んでいる。
余りにも露骨な行動だ。
罠として考えれば軽卒過ぎるし、単純にも程がある。
恐らくは別の目的で案内している。
例えば、自身との接触の為。

そしてランサーは跳躍の末、雪原へと降り立つ。
其処は深い森のすぐ側、人々も余り寄り付かない町外れの地。
近くでは『幽霊屋敷』の存在が噂されるという。
ランサーは尚も飛翔を続ける鳥の姿を見据える。
鳥は霊体化したランサーの気配を感じ取りつつ――――森の中へと飛んでいく。


鬼が出るか、蛇が出るか―――――。
あるいは、それ以外の何かか。
罠の可能性は低いにせよ、ランサーは警戒を怠らずに鳥を追いかける。


深い森が続いていた。
立ち並ぶのは鬱蒼とした木々。
時には木の枝から雪が落下し、地面の白い絨毯と一体化する。
除雪すら行われない森の中で、雪は雑多に積もり続けていた。
白く染まった世界が、延々と広がっている。
そんな森の中、冷えきった風を突き抜けるように鳥は飛び続ける。
ランサーがそれを追い続ける。


そして――――――鳥の動きが、変わった。


森の中での飛翔の最中。
突如としてその場で方向を転換し、近くの木の枝の上に泊まったのだ。
ランサーは疾走を止め、鳥を見上げる。
霊体化を解き、実体となって鳥を見据える。
ランサーは既に感付いていた。
近くに、『何者』かがいる。
あの鳥とは別種の魔力と気配が感じ取れる。
鳥の使い魔の役目は、その『何者』かと自身を引き合わせることだったか。
そして―――――『何者』こそが、鳥の使い魔を飛ばした張本人か。

ざく、ざく、ざく―――――。
一歩一歩、雪で埋もれた地面を踏み頻る音が響く。
ランサーが音の方へと視線を向ける。
『人影』が歩み寄ってきているのが見えた。
その者は森の奥底――――木々の隙間から現れるように、ランサーの前へと姿を見せる。



「――――待っていたぞ、槍兵よ」



現れたのは、奇妙な装いの男だった。
その右手には杖が携えられており。
衣を纏っていない上半身は金色の装飾で着飾られ。
そして、『古びた布で頭部を覆い隠している』。
それ故に素顔は見えず、表情は伺えない。
だが、その身からは明らかに魔力が感じ取れる。
人間とは明らかに異なる気迫を、その身に纏っている。

ランサーにとって確かに解ること。
それは目の前に立つ男が人間ではないということ。
自分と同じ『座』に召し上げられし英霊――――――サーヴァントである、ということだ。
布によって頭部を覆い隠しているのは、『顔を視るだけで真名を看破できる英霊である』ということなのだろうか。


「『魔術師』の使い魔にしては随分と目立ちすぎていると思ったが、やはり余を誘っていたという訳か」
「如何にも。察し通り、我はキャスターのサーヴァント……其方と相見えたいと思っていた。
 我が僕の『目』を介し、其方の存在を知っていたが故に此処まで誘い込んだ」
「僕、か……その件で一つ聞かせて貰いたいのだが、構わぬな?」


キャスターが、静かに頷く。
ランサーには気になることがあった。
それは使い魔のことだ。
先程まで自身を案内していた使い魔へと視線を向ける。
干涸びた肉体を持った鳥が、木の枝の上で静止を続けている。
『ランサーが召還された夜』に美紀を襲った獣もまた、干涸びた肉体を持っていた。
そのことを追憶しつつ、ランサーが口を開いた。



「あの夜、『干涸びた獣共』を差し向けたのはお前であろう」
「……如何にも」



ランサーの一言に、僅かな間を置いてキャスターが頷いた。
そしてキャスターが杖を僅かに動かすと、近くの木の陰から『獣』が姿を現す。
干涸びた貧相な肉体。四足の脚。鋭い牙。飢えた瞳。
その姿は宛ら、犬のミイラ。
狩りの為に生み出された屍獣とでも形容すべき人外の者。
その名はチズム。
古代エジプトにおいて様々な階級の人々に飼い馴らされ、狩猟の為に利用された犬種。
それがミイラの使い魔として召還され、神秘の属性を帯びて現界しているのだ。


ランサーはその獣を知っていた。
彼が聖杯戦争に召還されたあの夜――――美紀を襲い、後に群れをなして姿を現した『獣』。
キャスターの傍で唸り声を上げるミイラ犬は、あの夜の獣そのものだったのだから。


――――――余談であるが、ミイラとは何も人間だけがなるものではない。
紀元前の古代エジプトでは多くの動物が神聖視された。
人々を病気や悪霊から守護する神バステトは猫の頭部を持ち。
知恵を司る神トトは鴇の頭部を持つ。
エジプトの人間にとって、動物とは神の化身だった。
それ故に彼等は動物の死骸をミイラとして保護し、丁重に埋葬していた。
当然、鳥や犬もその対象に含まれる。
キャスターは本来ミイラ作りを司る神であり、サーヴァントとなった今はミイラを模倣した使い魔を召還する術を持つ。
人間のミイラを使い魔として呼び出せるのだから、獣のミイラであっても呼び出せて当然であるのだ。


「成る程……ならばお前が余の存在を知っていたのも頷ける。
 先程の鳥のような偵察の使い魔を用い、『あの夜』の出来事を把握していたという訳か」
「然り。其方の戦いを見させて貰った。
 あの膂力に加え、我が僕達を焼き付くした紅蓮の奔流。相応の力を備えた英霊と見る」


キャスターの発言に、ランサーは僅かに警戒する。
紅蓮の奔流――――火山の怒りを再現する宝具「大地の怒り、加護受けし者の槍を此処に(イヘ・ペレ)」のことだろう。
それについて言及したということは、彼は間違い無く宝具を解放する瞬間を見ているのだ。
つまり、あの一連の戦闘に顛末は間違いなく把握している。
恐らく、マスターである美紀も確認している筈だろう。
警戒せねばならぬとランサーは心中で思う。


「余の主を仕留めんとした者が余を誘い出すとは、随分と大した度胸であるな」
「確かに、あの時は我も其方の主を殺そうとした。
 勝ちに焦る余り、敵を叩くことを急いてしまったのだ。
 然れど我は所詮魔術師、真っ当な英霊と正面から戦える身ではない……」
「だから、手っ取り早くマスターを狙ったという訳か」
「然り。あの夜の一件は我の咎……すまなかった。非礼は詫びさせて頂く」


キャスターが俯き気味に謝罪の言葉を述べる。
マスターを狙ったのは、聖杯戦争の序盤で勝ちに焦ったが故。
そう語るキャスターを暫しの間見つめ、ランサーは答える。


「構わぬ。これは英霊を従えし者達が覇を競い合う聖杯戦争。
 勝つ為の策を講じることは当然であり、お前はサーヴァントとしての使命を果たそうとしただけだ。
 我が主を狙ったことは不届きではあるが、憎みはしない」
「……忝い、ランサー」


これはあくまで戦争であると、ランサーは認識している。
複数の主従が入り乱れ、奇跡の願望器を巡って争うのだ。
その為に様々な手段を講じることは何らおかしくはない。
敵に勝つ為に、あるいはマスターの為に策を練るのは当然だ。
故にキャスターを責めはしなかった。

「して、其方は何の為に余を誘い込んだ。よもや立ち話をする為ではなかろう」
「そうだな……無礼は承知の上であるが、本題を謂わせて貰おう。
 我はキャスターのサーヴァント。小細工こそ得意ではあるが、戦いは不得手の身。
 直接の戦闘に於いては不安要素が残る……故に同盟者を欲している」
「余と同盟を結びたい、ということか」
「左様。とはいえ、常に協力を求めるというつもりは無い」

少し間を空け、キャスターは言葉を紡ぐ。

「守るべき盟約は『我らが主従に手を出さず、不利益となる行動も可能な限り取らないこと』――――――それだけで構わぬ。
 その代わり、我は使い魔によって得た『情報』を与える。其方には先鋒として動いて貰いたい。
 戦闘能力に長ける三騎士と言えど、偵察や監視に於いては其方も不得手であろう?」

故に、偵察の術を持つ自分と組むことは得だ。
そう言いたげにキャスターはランサーを見据える。
確かに彼の言う通りであると、ランサーも半ば認める。
ランサーはこれまで自らの足で各地を偵察してきたが、やはり限界がある。
たった一人では索敵の範囲も限られる上、霊体化では隠密性にも不安が残るのだから。

「しかし、余にキャスターであるお前を見過ごせと言うのか?
 キャスターとは陣地形成を得意とし、長期戦になる程に優位に立てると聞く」
「三騎士である其方には敵わぬ。それに、其方と我はそもそもの相性が悪い。
 幾ら使い魔による軍団を築いても、其方が操る紅蓮の奔流の前には全て焼き尽くされてしまうのだからな」

懸念を指摘するランサーに対し、キャスターはきっぱりと言う。
対魔力を備える三騎士という相性に加え、悪しき軍勢を焼き尽くす宝具。
それらを持つランサーには敵わぬことをキャスターが認めたのだ。
キャスターとしては『自身を見過ごした所でランサーに大きな不利益は無い』とアピールしたかったのだろう。
だが、ランサーはそんな彼の意図を鋭く見抜く。


(――――――やはり、少なからず余を恐れているということか)


ランサーはキャスターの態度から、自身への『警戒』を見出した。
彼は『自身の代わりに動くものが欲しい』と言っていたが、その本心は恐らく違う。
この同盟の目的は、キャスターが警戒の対象であるランサーとの衝突を可能な限り避けることだ。
その為に偵察の使い魔による情報提供と言った材料を使い、ランサーに対する得を提示した。
聖杯戦争序盤から強者と潰し合うことを回避しつつ、『ついで』に同盟者として利用する。
キャスターの意図はそんな所だろうとランサーは推測する。
マスターである美紀の存在を把握しているのに攻撃せず、同盟を持ちかけてきたのもその証拠だ。
あるいは美紀の傍に居るペレが何かしら能力を持っていることを警戒しているのか。


とはいえ、キャスターとて何らかの宝具を持っている筈だ。
戦における真の切り札とは敵に易々と見せるものではないのだから。
故に慢心はせず、警戒は怠らない。ランサーは心中でそう決める。


「それに、我は既に『情報』を得ている。其方にとっても有益であろう」


―――そして、キャスターが同盟の為の『もう一つの札』を切ってきた。


「……何の情報だ?」
「『討伐令』を下された、あの二組の主従についての情報だ」


ランサーが目を見開く。
殺戮を繰り返し、討伐の対象となった二組の主従。
彼等に対する情報を持っているというのだ。
そしてキャスターは、それらについて語り出す。


――――――獣のバーサーカーは、まず人間の『頭部』を喰らう。
――――――時には異様なスピードで捕食を成立させる。
――――――まるで『噛み付く前に』『頭部を噛み砕いた』かのように。

――――――道化師のバーサーカーは、『変化』する。
――――――様々なものを具現化し、殺人に用いる。
――――――具現化されるものに共通されるのは『人々が噂していたもの』。


主催から送られていた手紙にも犯行について記されているものの、『具体的な能力』に関しては余り言及されていない。
しかし、このキャスターはある程度とはいえそれらについて把握していたのだ。
使い魔の類いによって索敵をしたのか。あるいは、別の何かを利用したのか。
どちらかは解らない。出任せの可能性も考えたが―――――この場で嘘を吐くとも思えない。
同盟を結ぶ以上、口八丁の情報で誤摩化すようなことをすれば後々不利になるのだから。
意図的に情報を隠す可能性は否定できないが、同盟を組む為の交渉の段階で嘘の情報を流すのは考えにくい。

まずキャスターは「ランサーが召還された夜」のことを把握していた。
そして微弱な魔力しか感じ取れず、ある程度ならば隠密行動に利用できる鳥の使い魔を操ることが出来ていた。
つまり彼が使い魔を偵察や監視に用いることは間違い無く可能なのだ。
故にキャスターが得として提供する『情報』には、一定の信用が置ける。
更にあの夜に獣を複数放っていたことからして、複数の偵察を街に放つことも可能だろう。
少なくとも、槍兵であり隠密行動に向いていない自身が単独で動き回るよりも遥かに効率的に情報を集めることが出来る。
ランサーはそう考えた。


「成る程、お前の情報網は確かなものであるようだな……」


交渉や戦闘に関して、ある程度はマスターから判断を任されている。
美紀はランサーを信頼し、彼の裁量による事態の対処を許しているのだ。
故にランサーは答える。
キャスターの提案に対し、返事を告げる。



「……いいだろう、お前と組もう。だが、一つだけ確認させてほしい」




◆◆◆◆



「おーい、買ってきたぞー」
「あ、どうも」

戻ってきた先輩を見て、ぺこりと礼を言う。
その両手に握られてるのは二つの暖かい缶コーヒー。
先輩が近くの自販機へと赴いて態々買ってきてくれたのだ。

住宅街の傍らに存在する小さな公園。
屋根付きの簡素な休憩所にて、私は腰を下ろしていた。
胡桃先輩はよいしょ、と言いながらベンチに腰掛ける私の隣にぽすんと座った。

「ほら」
「ありがとうございます。……それじゃ、頂きます」

先輩から缶コーヒーを受け取る。
ほかほかとした温もりが掌に広がる。
ああ、あったかい。
ほっとするなあ。
そんなことを暢気に考えながら、蓋を引っ張って飲み口を開ける。
やはり雪が降るような寒い日には温かいコーヒーが一番である。
両手で挟むように持ったコーヒーをごくごくと飲みながら、しみじみと思う。
――――――はぁ。ついほっとした一息ついてしまう。

「それにしても先輩、まだ走り込みしてるんですか?しかもシャベル背負って」
「あー、まーな」
「変人だと思われますよ」
「いーんだよ。シャベルはこう……相棒みたいなもんだからさ」
「はぁ……」

同じようにコーヒーに口をつけていた先輩に話し掛ける。
この冬木市において、自分と胡桃先輩の関係はよく解らない。
一応学校の先輩後輩の関係であることは確かだ。
しかし、別に部活動で一緒だったとか、共通の趣味があったとか、そういう訳でもない。
ただ何となく知り合って、いつの間にか親しくなっていたらしい。
腑に落ちないかもしれないが、そんな所である。

「えっと、確か陸上部はもう引退したんでしたよね」
「うん、もう三年だしな。だから走り込みはただの日課。
 あんまりダラけてると身体鈍っちまうからなー」

胡桃先輩は既に部活動を引退している。
なので走り込みで体力を付ける必要は無いのだが、どうやら日課として行っていたらしい。
確かに日常的に身体を動かして健康な肉体を保つのはいいことである。
――――――だからと言って、雪の日でも走るのはどうなのかと思うが。

「そういえば、結局OBの先輩とは上手く行ったんですか?」
「あー……いや、全然……」
「先輩、男勝りなのに意気地なし……」
「う、うるさい!ほら、その……色々あんだよ!」

逞しくて男勝り、活力に満ち溢れてる。
でも、密かに女の子らしい一面も持ち合わせている。
この世界の胡桃先輩も、どうやらそんな感じらしい。
それにしても、OBの先輩に想いを寄せているだなんて。
こういう可愛らしいところがあるのが先輩らしいな。
そんなことを思い、自然と口元に微笑が浮かんでしまう。



「ふふっ……」


聖杯戦争について考える筈だったが。
気が付けば、こうして先輩との時間を過ごすことになっていた。

今まで送ってきた毎日と比べれば。
ほんのちっぽけで、短い時間に過ぎない。
それでも、ここには安息があった。
ゾンビとか、死ぬこととか、そういうのとは無縁な日常がある。
裏では戦いがあるとしても。
ここが聖杯戦争の舞台であっても。
それでも、ここには人々が暮らしている。
死の瀬戸際で必死に生きる必要なんて無い。
当然のような日常を、当然のように享受している。
こうして―――――先輩とも、平和に語らえている。
そう思うと、何だか気が安らいだ。

顔を赤くした先輩が、ごくごくとコーヒーを一気に飲み干す。
照れ隠しなのだろうか。
やっぱり可愛らしくて、微笑ましくなる。
というか、ホットコーヒーをそんなにグビグビ飲んで大丈夫なのだろうか。
そんなことを思っているうちに先輩は飲み干し、「ぷはぁっ」と声を上げる。

そして、急に先輩が黙り込んだ。
何か言いたいことがあるかのような。
複雑な心境でいるかのような。
そんな微妙な表情で、少し俯いていた。
まるで何かを思い悩んでいるかのように。
何か深刻なことを考えているかのように。
先輩は、沈黙していた。


――――――――深刻な、こと。


ふと、自分自身の顔が脳裏を過った。
聖杯戦争の手紙を見つめる自分自身の姿が、思い浮かんだ。
まさか――――――いや、考え過ぎだろう。
恐らく、自分が疲れているからそう見えただけなのかもしれない。
そう結論付けようとしたが。


「………なあ」
「何ですか」
「その、変な感じだよな」


急に先輩が話し掛けてきた。
私は、普通に返事をして。
そして、先輩が突然そんなことを言い出した。



「あたし達はこうしてのんびり過ごしてる。
 いつも通りの生活を、当たり前のように送っている」


当たり前のように――――そうだ。
ここには、平穏がある。
ここには、日常がある。
私にとっての日常(ゆめ)がある。
当然だ。この世界に『彼ら』は存在しない。
いつも通りと言う、掛け替えの無い安息が――――――。




「だけど、そこから一歩踏み出した先で……何人も死んでる」




――――――ぞくり。
背筋に悪寒が走るとは、このことだろう。
先輩の一言に、私は一瞬でも震えていた。



「みんなが、このままの日常を過ごしたいって。
 そう思ってても、いつかは『あっち』から来るのかな……ってさ」


何を言ってるんですか、先輩。
それじゃまるで、自分もその『当事者』だって言ってるみたいな者じゃないですか。
そう言おうとしても、声にはならなかった。
当たり前の生活をしみじみと噛み締めていて、このまま日常を過ごしたいと思って。
でも、いつかは訪れるかもしれない『現実』を理解して憂いている。


それじゃ、まるで―――――私と同じじゃないか。


先輩は、何でそんなこと言ってるんですか?
どうして、そんな切なげな顔をしているんですか?
思い悩んでいるみたいじゃないですか。
私の心中で幾つもの疑問が浮かぶ。
まるで先輩が何かを抱え込んでいるかのように見えてしまう。
先輩と私が、『分かたれてしまう』かのような。
そんな恐怖を、感じてしまう。


――――否、違う。
そんな筈は無い。そうだ。
先輩はただ、『人食い事件』のような巷を騒がせる事件についてちょっとぼやいてみただけだろう。
あの事件のせいで日常の隣で死者が出ているのは確かなのだから。
『あっち』から来る、というのも。
平穏に暮らす人々を犯人が脅かしてしまうという事実を、憂いているだけだ。
きっとそうに違いない。
その筈だ。
そうに、決まって……。


だけど。
だけど―――――先輩は。
本当は、何を考えて。


「……あー、悪い。変なこと言っちゃったな。
 あたし、また走り込みに行くわ!じゃあな!」


先輩が唐突に立ち上がり、その場から立ち去ろうとした。
まるでここから逃げるように、彼女は日課に戻ろうとする。
私はハッとして、思わず声を上げてしまった。


「先輩!」


ぴたりと、先輩が動きを止めた。
振り返り、私の顔を見つめる。
あ、と私は声を漏らしてしまう。
少しばかり、言葉を詰まらせてしまった。
だけど、だけど。
それでも一言、言いたかった。



「……どこにも、いかないでくださいね」



何故、この言葉を言おうと思ったのか。
それは元の世界で、先輩に対して言った言葉。
肉体の異変が進んだ先輩と結んだ、「どこにもいかない」という約束。
あの時の先輩はそれに応えてくれた。
可愛い後輩の為だもんな、と言って承諾してくれた。

元の世界での『約束』を、どうして此処で告げてしまったのか。
自分でも、自分が解らない。
だけど、言いたかった。
様子のおかしい先輩に。
何処か遠くへ行ってしまいそうな気がする、胡桃先輩に。


そして、少しだけ沈黙に包まれた後。
胡桃先輩は、答えた。



「いかないよ。あたしは、ここにいる」



そう呟いて、走り去って行く先輩。
その背中を、私は無言で見つめていた。


◆◆◆◆


天から降る雪を払い除けるように、走り続ける。
雪で埋もれた地面を踏み頻りながら、駆け抜ける。
日々の日課の走り込み――――――というのは、名ばかりだ。
誤摩化す為の嘘でしかない。


本当の目的。
それは、戦いになった時の為の体力作り。
殺し合いになった時にいつでも対処できる為の、訓練のようなもの。


その最中に、美紀と会うことになるなんて思わなかった。
でも、良かった。
少しだけでも世間話が出来て、ほっとした。


(心配……されてないよな)


だからこそ、気掛かりだ。
聖杯戦争。
二組の主従による殺戮。
自分の身体のこと。
そしてキャスター。
様々な事態を抱え込み、自分は少しばかり思い悩んでいた。
だから、つい零してしまったのだ。
美紀に対し、『非日常を示唆するような呟き』を。

白状すると、あたしはキャスターを避けていた。
だけど―――――自分は聖杯戦争のマスターだ。
元の平和な日常を取り戻すためにも、戦わなくちゃならない。
汚れ仕事を受け持つのは、あたしだった。
『あいつら』を薙ぎ倒してきたのは、シャベルを握ったあたしだ。
それと一緒。今回も、それと変わらない。


でも。
今度の。
敵は。
おなじ。
人――――――――――――



(――――考えるなッ!考えたって仕方無い!)



走りながら、あたしは頭の中に浮かび上がった言葉を振り払う。
そんなこと、考えてたって仕方無い。
そもそも既に人間は死んでる。
あの人食いやピエロの騒動で解った筈だろ。
聖杯戦争に巻き込まれて、沢山死んでるんだよ。
だから、遅かれ早かれ、この町では誰かが死ぬ。
日常なんてものは、嘘偽りでしかない、
ここは――――――戦場だ。



(くそ、くそ―――――――)



歯を、食いしばった。
そう考えなければやっていけない自分に、嫌気が差した。
はぁ、はぁ、と走りながら息を吐く。
―――――――しかし、その息は無色だ。
震えるような気温であるにも関わらず、吐息が白くならない。
先日、家で体温を測った時も、異常なまでの低温を叩き出した。
自分の身体の異変からは、最早目を逸らせない。


相手は自分と同じ人間だと、先程は思った。
しかし、だけど、されども。
今の自分は本当に、にんげんと言えるのか。


脳裏を過る、キャスターの軍勢。
彼が従える無数の人面鳥―――――死者の魂。
そして、干涸びた死体の従者たち。
お前はあいつらの同類だ。
お前に帰る場所なんか無いぞ。
お前は死者の群れを形成する一匹に過ぎない。
どこからか、そんな囁きが聞こえてくるような気がしてきた。
だけど、あたしはそれを振り払う。
振り払わなくちゃ、立っていられない。
自分は、ここで止まりたくはない。

そうだよ。
どこにもいかないって。
かわいい後輩と、約束してるんだから。

脳裏に刻まれた『元の世界』での記憶を思い起こし、あたしは走り続ける。
この戦いに勝つ為に。勝ち残って、生きて帰る為に。



『……どこにも、いかないでくださいね』



あの公園で、美紀は『元の世界』と同じように。
あたしに、そう言ってきた。



◆◆◆◆




「……いいだろう、お前と組もう。だが、一つだけ確認させてほしい」



ランサーの一言に、キャスターが耳を傾ける。
同盟は成立、だが一つだけ確認したいことがあると言う。
一体何なのかと思った矢先。



「あの夜、お前の使い魔である獣共は我がマスターを襲った」
「ああ……その通りだ」
「お前は敵マスターを狙い、獣共を街に送り込んだ」
「ああ―――――――――」





「―――――――――いいや、違うな」




ランサーの一言。
それが、キャスターの返答を遮った。
彼を見据えるランサーの表情は、険しく。
そして、キャスターを糾弾するかのような眼差しで見据えていた。


「『敵マスターを仕留める為に使い魔を差し向けた』とお前は言っていた。
 成る程、確かにあの獣は我がマスターを狙っていた。それだけならば解らなくもない」


キャスターは先程そう言及していたと、振り返る。
彼は敵を倒すことに焦り、マスターに襲撃を仕掛けてしまったのだと。
そう語っていた。
だが。


「では、あれだけの頭数を揃えていたにも関わらず―――――
 何故『一頭のみ』でマスターに襲撃を仕掛けた?」


ランサーの一言に、キャスターは何も返さない。
無言を貫く彼に対し、更に言葉を続ける。



「マスターを確実に仕留めたいのならば『初めから』群れを成して襲い掛かればいい。
 戦に於いて、数の利とは覆し難い力なのだからな。
 だが、獣共はそうしなかった。何故か一頭がやられてから初めて他の獣共がぞろぞろと姿を現した」


あの夜、美紀は獣に襲撃された。
しかし最初に美紀を襲った獣はたった一匹のみ。
獣の断末魔を聞いて、初めて他の獣も姿を現したのだ。
おかしい。奇妙な話だ。
『敵マスターを始末する為に』大軍で町に送り込まれたというのに、何故最初に一匹だけで襲撃を仕掛けたのか。
あの一匹が美紀を攻撃していた最中、他の群れは何をしていたというのか。
偵察に送り込まれていた個体が獣の死を感知し、一同に集まってきたか?
あるいは一匹の獣が襲撃している間、周囲の警戒に当たっていたのか?
いずれも違う。
偵察や周囲の警戒に用いるのならば、鳥の使い魔のみで十分。
狩猟用の獣の群れを見張りにする必要など無い。
そもそも、あの時現れた群れは『ペレが対軍宝具を使うことを提案する程の大軍』だったのだ。
マスター殺害を目的としているのに、彼らを何故マスターの攻撃に用いない。
敵サーヴァントを警戒して斥候として一匹のみを送り込んだにしても中途半端すぎる。
初めから大軍で押し寄せ、物量で仕留めに掛かる方がまだ理解できるのだ。
そう、あの夜の出来事は不自然な点が多すぎた。

これらのことから、ランサーはある推測を立てた。
キャスターは嘘を吐いている。
本当の目的を話していない、と。


「あの獣共は我がマスターを狙って差し向けられたのではない。
 お前が獣を放った真の狙いは―――――――『無差別な殺戮』であろう」


―――――キャスターが、布に覆われた『仮面』の下で。
目を見開き、驚愕していた。


「あの獣共は殺戮の為に周囲に散らばっていた。
 その内の一頭が『偶然』我がマスターを発見して攻撃し、余に倒された。
 そしてその一頭の断末魔を聞き、他の獣共が異常を察知し……群れを成して戻ってきた。
 大方、そんな所か」


そう考えれば、まだ納得は行く。
彼らは無差別な殺戮の為に町へ送り込まれていた。
その一匹が偶々美紀を発見し、攻撃した。
無論、マスターであることなど知らぬまま。
しかし直後にランサーが現れ、獣を倒した。
それで『獲物』を探していた他の個体が異変に気付き、大挙してきた。
これがランサーの推理だった。
キャスターが吐いた『マスターを狙った正当な戦い』という嘘を見抜くロジックだった。

沈黙が、場を支配する。
暫しの間、二人が睨み合う。
吹き荒ぶ風と雪が、二人の身を撫でる。
そして、キャスターが僅かに俯いた。
くく、と僅かな笑いの声を漏らしながら口を開く。


「随分と饒舌に語るものだな、槍兵よ。
 ならば、何故我は裁定者に目を付けられていない?
 あの二組の主従は殺戮を繰り返し、討伐令を下されていたであろう」
「裁定者に警戒される前に、お前が殺戮を必要としなくなったからだ。
 お前の代わりに『殺戮』を行う主従……つまりあの二組が現れた」


ランサーは即座に答える。
現代にはテレビと言う文明の利器があることは聖杯の知識で知っている。
そしてランサーは先日マスターの自宅で報道番組を視聴し、あることを知った。
『人食い事件』最初の被害者は、ランサーが召還された翌日に殺害されたとされること。
つまりマスターである美紀が獣に襲われた翌日から人食いは始まったのだ。


「獣の使い魔を目にしたのはあの日……余が召還された夜のみだ。
 以降は『何故か』一度たりとも姿を現すことがなかった」


『干涸びた犬の使い魔』が現れたのは、ランサーが召還されたあの夜のみだった。
以後は町の探索を行っても一切目にすることもなく、被害の痕跡が見つかることもなかった。
『道化師』や『人食い』による被害の痕跡は幾度と無く見つかったにも関わらず、だ。
それは何故か。

優れた隠蔽能力を持っていたから―――――――否。
あれだけの数の獣共の痕跡を隠し通すのは不可能に近いだろう。

『人食い』に紛れて襲撃を行っていたから―――――――否。
彼等が目をつけられているのだから、キャスターが目をつけられぬ筈が無い。


では、何故なのか。
恐らく、あの夜だけだったのだ。
キャスターが殺戮を行おうとしたのは、あの一夜だけだったからだ。
ならば、何の為に。


「使い魔を介した魂喰い、あるいはそれに類する行為」といった可能性も考えられたが、それは違う。
魂喰いを行うということは慢性的な魔力不足に陥っているということだ。
ならば以後も魂喰いを続ける必要があるし、そもそも魔力が足りない時に『戦闘能力を持った獣を大勢使役する』というのも可笑しな話だ。
それでは魂喰いをしたところで魔力の消費と回復の差し引きが割に合わないだろう。
ならばキャスターの殺戮の動機は、恐らくスキルや宝具に由来することだと推測できる。

使い魔による殺戮を行う必要があった。
その翌日に他の殺戮者が現れた。
以来、自分で殺戮を行う『必要がなくなった』。
そしてキャスターは擬似的な死者(ミイラ)を使役しており、恐らく『死』と何らかの縁がある英霊である。
これらの仮定から、ランサーはキャスターの思惑を探り当てた。


「お前は『死という事象』あるいは『死者の魂』に干渉し、自らに有利なものを得る能力を持っているのだろう。
 事象か魂に干渉することが能力の本質であるから、他者が殺戮を行えば自ら手を下す必要が無くなる。
 そして十分な利益を得たか、あるいは殺戮者への討伐令をきっかけに彼等への見切りをつけ、他の参加者との同盟構築へと移行した――――――違うか?」


キャスター――――――アヌビスのスキル『死の守人』。
それは会場内の死者の魂を自身の陣地まで引き寄せ、魂の記憶を読み取る能力。
何故キャスターが討伐対象の主従の能力をある程度掴んでいたのか。
彼等の犠牲となった者の魂を陣地まで引き寄せ、記憶を読むことで犯行の瞬間を『見聞き』したからだ。
そして宝具『彼の者は屍守の冥王(テピ・ジュウエフ)』。
それは陣地内に存在する魂の数だけ自身の魔力値にボーナス補正が掛かる効果を発揮する。
この二つこそキャスターが殺戮を行おうとし、そして中止した理由だ。

キャスターは自身の宝具を機能させる為の『魂』を得るべく、殺戮を行おうとしていた。
だが、殺戮者が他にも現れた。それも二組だ。
街に放った鳥のミイラの使い魔による偵察、そして彼等の犠牲となった死者の魂の記憶を読んだことでそれを知ったのだ。
彼等が殺戮を行って死者を増やすたび、自動的にそれら魂はキャスターの陣地へと引き寄せられる。
それによってキャスターは労すること無く宝具による強化補正を得られた。
バーサーカー/ジェヴォーダンの獣は人肉の捕食によって魔力を回復するため魂喰いの必要がなく、更にマスターも殺戮を繰り返している。
バーサーカー/フォークロアは狂気のマスターと共に愉快犯的な凶行を繰り返し、時には魂喰いすらせずに殺人を行うこともあった。
それ故にキャスターは死体に残された魂を陣地へと数多く引き寄せることが可能となり、自らの手で殺戮を行う必要がなくなったのだ。

即ち。
ランサーの『推測』は、ほぼ当たっていたのだ。
彼はごく僅かな情報からキャスターの行動の動機と能力の一片を暴いてみせたのだ。


「――――――、」


キャスターは無言のまま、ランサーを見据える。
内心、僅かとは言えど―――――驚愕していた。

『民間人の虐殺』という行為は、未遂と言えど周囲からの警戒を受ける可能性がある。
聖杯戦争とは魔術師や英霊同士の戦い。
一般人を過剰に巻き込むことは討伐の対象となるのだから。
故に彼は嘘を吐いた。
既に過ぎ去り、目的を果たさずとも問題が無くなった事象を、適当な体面で取り繕った。

だが、目の前の槍兵は己の本来の思惑を見抜いてみせた。
剰え、そのことから自身の能力さえも推理してみせたのだ。
此れは最早、認めざるを得ない。
己の『負け』を。
己の『非』を。
そして、この槍兵の能力を。


「ああ――――――認めよう、其方の知を。
 其方の見込み通り、我は生贄となる民を求めていた。
 その為に我が僕達を一度は街に放ったのだ」


観念したキャスターは、白状した。
無論、キャスターとて討伐令は避けるつもりだった。
ある程度の殺戮を遂行した後、頃合いを見て身を引く手筈だった。
尤も、二組のバーサーカーらによって殺戮の必要すら無くなったのだが。


「して、それを暴いた所でどうする―――――此処で我に裁きでも下すか?」
「否、今はそのつもりではない。我らは仮にも盟を結んだ者同志だ。
 それに、お前と組むことで得られる利も理解している。―――――だが」


瞬間。
一迅の風が吹く。
キャスターの傍にいた犬のミイラが、倒れ伏した。
その身には一閃の傷が生まれていた。
ランサーが右手に握りし槍を振るい―――――ミイラを切り裂いたのだ。
キャスターがそれを理解するのに然程時間はかからなかった。
そして掌で柄を回しながら槍を地面に突き、鋭い眼光で『王』は言い放つ。


「もし、お前が再び民を傷付けんとすることがあれば―――――――
 我が槍は王の怒りを纒いし『誅罰の槍』となる。それだけだ」


それは即ち、死者の守護者に対する警告。
使い魔への攻撃は、言うなれば見せしめ。
『民草を傷付けるようなことがあれば一切の容赦はしない』。
そう印象づける為の、見せしめだ。
罪を憎み、罪に対する罰を下す『冷徹な王』としての威厳を、滲み出す。



「―――――――そうか」


キャスターはただ一言、そう答える。
淡々とした声色。布に包まれて見えぬ表情。
彼がどのような感情を見せているのか伺えない。
唯一つだけ、解ること。
それは目の前の王の威厳に対し、何ら動揺することは無かったということだ。


暫しの沈黙の後、ランサーが背を向ける。
そのまま彼は霊体化し、この場から姿を消した。



◆◆◆◆


キャスターは、ランサーが去っていったことを確認する。
既に気配はない。
森を抜けているか、相当に離れたか。


―――――真の意味で、『焦り』を覚えた。


幸い衝突を避けることは出来たが。
あのランサーは、強敵だ。
単に武勇に優れるだけの者ではない。
僅かな情報から真実を推理し、見抜いてみせる程の洞察力を備えている。
キャスターが吐いた嘘を暴き、『あの夜』の真の目的を見抜いてみせたのだ。
有能な知将か。あるいは、相当の知恵を持つ王か。
恐るべき相手であることには間違いない。
だからこそ、彼と不可侵の同盟を結ぶことが出来たのは上々だ。
ランサーとの交戦を当面の間避けられ、剰え間引きの駒として利用することが出来るのだから。

そのまま彼は、自らの顔を覆っていた布を剥ぎ取る。
黒い犬のような仮面が露となる。
アヌビスが持つジャッカルの頭部は余りにも有名だ。
一度見られただけでも真名を看破される可能性がある。
それ故にランサーとの対面時には顔を覆い隠していたのだ。
―――――仮面を外す、という選択肢は無い。アヌビスに『なりきっている』彼には『思い浮かばない』。


「―――――――、」


ふと、足下に転がる犬の使い魔を見下ろす。
ランサーの槍によって胴体を切り裂かれ、倒れ伏しているのだ。
辛うじて存在を保ってはいるものの、既に消滅寸前だ。
だが、キャスターはそんな彼を見下ろし。
そして―――――杖を構え、奇怪な呪文を唱えた。


次の瞬間。
犬の使い魔の胴体に生まれていた裂傷が、数秒足らずで塞がった。
そして使い魔は四肢を使い、何事も無かったかのように再び立ち上がったのだ。


アヌビスとはミイラ作りを司る神である。
ミイラ作りとは、即ち人体の処置に繋がる。
このことからアヌビスは医学の神としての信仰も備えている。

古代エジプトの医学は、当時としては極めて優れていた。
無論、神秘や呪術的な要素が全く含まれていなかった訳ではない。
しかしそれらを差し引いても、彼らの医療は高度なものであったとされていた。
外科手術の技能。薬局方やカルテの存在。解剖研究や内蔵の仕組みについて記された医学書の存在。
中には近代に通ずる治療法さえも確立していたという。

そんな古代エジプトにおいて、アヌビスは医学を司る神としても崇められていた。
彼は実際に人体の構造や処置についての知識も備えていた。故に、医術にも長ける。
そして彼は医術の知識を魔術に転用し、利用することで――――――他者を癒す術を行使することが出来る。
言うなれば『治癒魔術』だ。


傷を癒した使い魔の頭を撫でた後、キャスターは森の奥へと向かって歩き出す。
同盟を結ぶと言う目的は果たした。
故に再び森の最深部の陣地――――岩窟墓へと戻るのだ。

暴走を続ける二組の主従の存在にはスキルや使い魔を通じて以前から気付いていた。
しかし、敢えて無視し続けてきた。
ランサーが推測した通り、彼らの殺戮を利用していたからだ。
彼らの犠牲となった魂を陣地へと引き寄せ、自らの宝具の糧とする。
その為に彼らを無視してきた。

されど、潮時だ。
討伐令を出された以上、あの二組は集中的に攻撃を受けるか。
あるいはその動向を警戒されるだろう。
最早彼らを利用するよりも、他の主従との接触を行うことを優先するべき時期だ。
とはいえ、陣地には既に多くの魂が集まっている。
夥しい数の魂――――『人面鳥(バー)』が墓場に集っているのだ。
故に問題は無い。
キャスターが自らの能力を最大限発揮するには、十分すぎる収穫だ。


(あの槍兵と関係を結べたのは好事……然れど油断は出来ぬ)


そう、警戒は怠れない。
武力、知力、宝具――――いずれにおいてもランサーは優れた能力を持つ。
まさしく英傑と言ってもいいだろう。
更には彼と共に居た美女の能力も未知数だ。
彼の使い魔か、あるいは宝具の産物か、応えは解らぬ。
しかし警戒に値するのは確かだろう。
勝者は一組のみ。いずれランサーとは対立することになる。
真名の看破か、あるいは頃合いを見てから他の主従と結託するか。
何にせよ、奴への対策を考えるべきだろう。

既に町には複数の偵察用の使い魔を放っている。
魔力を極力まで抑え、擬似的な隠密性を獲得した鳥や鼠のミイラたちだ。
その分肉体の強度は特に低いものの、仕方のない代償だ。
キャスターは使い魔たちの視聴覚を駆使し、現代の魔術の原理で町の監視を行っている。
その存在は鋭い探知能力を持つサーヴァントには見抜かれるだろうが、並のサーヴァントでは気付かないだろう。
これらで掻き集めた情報も当然利用する。
ランサーに対する協力にもなり、そしてランサーを打倒する手段を見つける切っ掛けとなり得るかもしれないのだから。

思考を重ねながら、キャスターは森を進んでいく。
そのまま木々の隙間に紛れるように、奥へ、奥へと消えていった。


◆◆◆◆


ランサーのサーヴァント、その真名はカメハメハ一世
彼は人類史上初めてハワイ諸島を統一した王である。
近代に活躍した英霊に分類され、彼自身の神秘の格は決して高いとは言えない。
しかし、それは彼の能力が低いことを表す訳ではない。
カメハメハ一世は優れた慧眼と人徳を併せ持つ優秀な王だ。

近代的な兵器や戦術を惜しみなく取り入れる柔軟な思考。
先進国と関係を結び、ハワイの独立を保った巧みな外交能力。
彼は武力のみならず、様々な点に於いて王としての資質を備えていたのだ。
ランサーがキャスターの嘘を見抜き、彼の当初の思惑を看破してみせたのも王としての優れた知性と洞察力があったからこそだ。
そして、ランサーが『殺戮』を行わんとしたキャスターへの怒りを見せたのは。
彼が人徳に満ちた、慈悲深き王だったからだ。


ママラホエ・カナヴィ。
其れは彼が生前に打ち立てたハワイの法。
其れは現代の人権法にも繋がる、非戦闘員を保護する為の掟。
他者を思いやり、自らを大切にせよ。
罪無き民を守り、安息を与えよ。
この法は戦闘において、老人や女子供などに危害を加えぬことを明文化した。
他の先進国が成し得ていなかった『戦わぬ民を保護する法律』を、彼は逸早く打ち立てていたのだ。
ランサーは王として、その法に籠められし意志を守り続ける。
誓いの象徴として、彼は護る為の槍を握り続ける。


(此処は彼等の土地だ。彼等の家族が住まう地だ。
 我々はその大地を侵し、戦っている。故に民の命だけは守らねばならない。
 罪無き人々が犠牲になることの無いよう、尽くさねばならぬのだ)


だからこそランサーは、静かな怒りを胸に抱く。
『人食いの主従』と『道化師の主従』。
彼等は聖杯戦争の参加者でありながら、戦争よりも虐殺を優先している。
罪無き人々を殺戮し、蹂躙することを繰り返している。
在ってはならぬことだ。絶対に野放しにしてはならぬ事態だ。
何も知らぬ弱者を、何の関わりもない弱者を巻き込み、踏み躙る――――――それは真に憎むべき罪だ。



(―――――――故に、余はお前達を決して許しはせぬ)



ランサーは、心中で誓う。
殺戮を続ける悪しき者達を裁くことを。
この地に住まう民を死と恐怖から護ることを。

勝つ為に策を練ることは構わぬ。
それは戦争において当然のことだ。
だが、戦争と関わることの無い民間人をその策に巻き込むなど。
ましてや、無差別に民間人を殺戮するなど―――――言語道断。
無論、キャスターから与えられる情報や周囲の状況にも注意は払う。
そして己のマスターの意思も尊重する。
無鉄砲に正義を振り回すつもりはない。

されど、この『怒り』そのものを絶やすことは決して叶わぬだろう。
彼が善性の英雄であり、人徳に満ちた人物であるからこそ。
そして。
何よりも。
――――――――王であるが故に、民の蹂躙に怒るのだ。



見守ろう。
老人、女子供、全ての無辜なる者達が。
死や隷従に怯えることなく、安らかに暮らせるように。


【深山町 住宅街/1日目 早朝】
【直樹 美紀@がっこうぐらし!(原作)】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]財布や携帯電話などの日用品
[所持金]一般的な学生並
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残り、元の平和な世界を取り戻す。
1.胡桃への心配。
2.戦略などの方針はランサー(カメハメハ)に任せるが、必要があれば協力。 
3.他のマスターのことは……
[備考]
※参戦時期は単行本6巻、第33話『ひみつ』終了時点です。
そのため元の世界での胡桃の異変を知っています。

【恵飛須沢 胡桃@がっこうぐらし!(原作)】
[状態]健康?、精神的疲労(小)
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]スコップ(当然のように背負っている)、財布や携帯電話などの日用品
[所持金]一般的な学生並
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残り、元の平和な世界を取り戻す。
1.キャスター(アヌビス)と連絡を取る?
2.他のマスターのことは……なんとか、割り切る。割り切らなくちゃ。
[備考]
※参戦時期は単行本6巻、第33話『ひみつ』終了時点です。


【深山町 町外れ/1日目 早朝】
【ランサー(カメハメハ一世)@史実(19世紀ハワイ)】
[状態]健康
[令呪]
[装備]無銘・槍
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守り抜く。
1.無辜の人々を脅かす『道化師』と『人食い』は倒す。
2.情報を咀嚼し、他の参加者の動きにも注意を払う。
3.キャスター(アヌビス)との契約は守るが、民間人に危害を加えた場合はその限りではない。
[備考]
※キャスター(アヌビス)と不可侵の同盟を結びました。内容は以下の通りです。
1.ランサーはキャスターに手を出さない。不利益となる行動も取らない。
2.その代わりキャスターは偵察の使い魔によって得られた情報をランサーに提供する。
※キャスター(アヌビス)からジョーカー主従、滝澤主従の犯行に関する情報を得ました。


【深山町 町外れの森(最深部・岩窟墓)/1日目 早朝】
【キャスター(アヌビス)@エジプト神話】
[状態]健康、魔力潤沢
[令呪]
[装備]ウアス、
[道具]仮面を覆い隠す為の布
[思考・状況]
基本行動方針:異教の概念を淘汰し、古代エジプトの信仰を蘇らせる。
1.使い魔を用いて偵察。ランサー(カメハメハ)にも定期的に情報を提供する。
2.今後の為にランサー(カメハメハ)への対策も考える。
[備考]
※ランサー(カメハメハ一世)と不可侵の同盟を結びました。内容は以下の通りです。
1.ランサーはキャスターに手を出さない。不利益となる行動も取らない。
2.その代わりキャスターは偵察の使い魔によって得られた情報をランサーに提供する。
※鳥やトガリネズミのミイラを偵察の使い魔として各地に放っています。
※医学の神としての技能を魔術に転用し、治癒魔術を行使することが出来ます。

直樹美紀&ランサー登場話『わたしたちは此処にいます』で登場した獣はキャスター(アヌビス)が宝具で召還したミイラの使い魔でした。

時系列順


投下順


←Back Character name Next→
:WINter soldiers 恵飛須沢 胡桃 :たんぽぽ食べて
キャスター(アヌビス)

←Back Character name Next→
:WINter soldiers 直樹美紀 :Killing Crusaders
ランサー(カメハメハ一世)
:WINter soldiers 女神ペレ :Hurt Voice

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最終更新:2017年05月27日 16:15