突如、
ベンディゲイドブランの頭は爆散した。
ある暗殺教団の歴史を紐解くと、相手の頭を爆弾に作り変える能力を持つ翁がいたとされるが、今現在ベンディゲイドブランの身に起きたのは、その再現であるかのような、不可思議な現象であった。
これを引き起こしたのは、ベンディゲイドブランの足元で倒れ伏しているバーサーカー、ジェヴォーダンの獣である。
『赤血の捕食者(ベッ・ドゥ・ジェヴォーダン)』――『対象の頭を噛み千切ったり噛み砕いたりする』という、バーサーカーの人喰いの手段が、神秘を以て昇華された宝具。
彼女はこの力を用い、ベンディゲイドブランを首なし騎士へと変貌させたのだ。
この宝具の効果は『相手の頭部の破壊』という、シンプル極まるものだ。
本来『襲撃』してから『捕食』し、その末に『殺人』するという食人の過程が、『殺人』してから『捕食』し、『襲撃』するというまるっきり逆の流れになるのである。
つまるところ、因果逆転――その攻撃から逃れることは、困難どころか、完全なる不可能だ。
もし、並外れた幸運を持っていれば、例外中の例外、奇跡の中の奇跡として、この攻撃を躱すことができよう。
しかし、ベンディゲイドブランは幸運値は、最低ランクのE。
故に、彼女は為すすべなく首から上を失うこととなった――。
敵対者の絶命を確信したバーサーカーは、宝具発動から次の瞬間、まず全身の筋肉を使って、身体をバイブレーションさせた。
地獄の最下層にあるコキュートスからの断罪めいて突き出て、バーサーカーの体を貫いていた氷柱は、たったその動きだけで粉砕される。
その行為自体は、シールダーの首から上があった時もしており、そしてすぐさま行われる氷柱の修復で無為に帰されていたが、氷柱を操作する主の首が破壊された今となっては、そんな事は起こらない。
破壊された氷柱は、破壊されたままだ。
ようやく自由となった獣の体は、至る所に五百円玉サイズ以上の傷跡があり、アメリカンコミックに出てくるチーズの様になっていた。
霊核が貫かれて消滅していないのが不思議なくらいの重傷である。
とはいえ、このまま傷を放っておけば、遅かれ早かれ絶命するのは明白だ。
バーサーカー自身も、獣の生存本能という機能で、自身の傷の深刻さを把握。早急に回復する必要があることを理解した。
バーサーカーは、人を喰うことで魔力が回復し、傷の回復速度が速まるスキル『人喰いの獣』を持つ。
加えて、喰らうべき人肉は目の前にある。
それも魔力の塊――サーヴァントだ。
これを利用しない手はあるまい。
『食事』をすることをすぐさま決めた獣は、亡骸と化したシールダーへと再び迫ろうとする――。
が、その時、獣はある事に気が付いた。
ベンディゲイドブランが、頭部を失った今なお、二本の足でしっかりと立っている事に。
どころか、つい数秒前まで首から上が完全に消滅していたというのに、今となっては下顎がある事に。
よく見てみれば、周囲に飛び散ったシールダーの頭部――肉や脳漿、髪や血――が、霧と化し、元々それがあった位置へと集まっているではないか。
まるで、一度バラバラになったジグソーパズルを組み合わせるかのように、ベンディゲイドブランの頭部は再構成しつつあった。
この不気味な光景から何らかの危険を察知した獣は、飛び退いた。
その判断は正しかったと言えよう――バーサーカーの退避とほぼ同じタイミングで、ベンディゲイドブランの右目部分に霧が集まり、肉感を持った実体へと変化した。
『海王結界(インビンジブル・スウィンダン)』 ――海神リル、あるいはマナナーン・マクリールの子であるシールダーが持つ、常時発動宝具の効果により、彼女の体は水の属性を持っている。
水を砕けるものがいるだろうか?
居ない。
水を噛み殺せるものはいるだろうか?
いいや、居ない。
体が水の三態変化を可能とするベンディゲイドブランにとって、『頭部の破壊』という単純な物理攻撃は、HPを1たりとも削らない、完全無意味な攻撃なのだ。
何せ、頭部が爆散したとしても、すぐさまそれは霧と化し、ものの数秒で元に戻るのだから。
けれども、何の前触れもない突然の頭部喪失には、流石の巨人王も驚いたはずだ。
ほんの短い間であったが、氷柱の操作を出来ず、獣のバーサーカーの脱出を許してしまったのが、彼女の驚愕の何よりの証左である。
しかしそう驚いていたのも、僅か一瞬の事。
バーサーカーの姿を再び認めた途端、ベンディゲイドブランの目は冷静にして激情な戦士の目に変化する。
彼女の双眸からは、黒色の戦意が溢れていた。
今や両目は勿論、気品を感じさせる美しい金髪の三つ編みすら寸分違わず元通りになったベンディゲイドブランは、国剣『イニス・プリダイン』を両手で握りしめる。
自分の頭部が何の前触れもなしに爆散した理由を、ベンディゲイドブランは完全に理解できていなかったが、少なくともそれが獣のバーサーカーによって齎された以上であることは推察できていた。
そもそも、自分の命を奪うまでに至らなかった攻撃の詳細を知るより、目の前の獣を倒す方が、優先すべき事項である。
次こそは、一瞬の隙なく仕留めてみせる――そう考えて、ベンディゲイドブランは柄を固く握ったイニス・プリダインを構えた。
一方、獣は焦っていた。
自分が持つ、絶対的な牙が効かない相手が現れたのだから、それは無理なからぬ話である。
一切の物理攻撃を無効化できるシールダーに対し、極限まで高まった物理攻撃を使うバーサーカーは、相性が最悪だ。
攻撃が一切効かない相手に対し、どうすればよいか?――答えは、闘争ならぬ、逃走だ。
そう判断を改めた獣は、跳び退いた勢いを利用し、そのまま後方へと走り、屋上の外へと向かう。
人が大勢いる地上へ飛び降りれば、自分の身代わりを生み出すスキル――『スケープゴート』を持つ彼女の逃走は、成功を約束されたも同然だ。
加えて、そこには山ほどの『食料』がある。それらを喰らって魔力を回復すれば、傷の回復も問題ない。
「逃げる気か……ならば――!」
離れ行く獣の背中を目にしたベンディゲイドブランは、目にも止まらぬ高速で巨剣を振った。
それは、剣を振った余波の風圧だけでも巨漢を吹き飛ばすほどの力を持った一撃であるが、剣の間合いからしてその直撃がバーサーカーに届かないのはどう見ても明らかであった。
だが――おお、見よ! もはや一種の芸術品と見てもおかしくない程に美しい銀色を放つイニス・プリダインから、雨季の川宛らの激流が現れたではないか!
ベンディゲイドブランのスキルの一つ――『魔力放出(水)』によって発生した激流は、一メートル程の幅を持ち、霧と化した彼女が先ほど見せた以上の速度で空中を走りながら、バーサーカーの背中へと接近する。
しかし、それを獣の勘で察知したバーサーカーは、気狂いじみたスピードで真横に跳躍し、雪崩から避難するのと同じような方法で、激流の一撃を回避した。
獣を呑み込めなかった奔流は、そのまま突き進み、屋上の外へと続くフェンスを破壊。奇しくも、バーサーカーを仕留めるために放たれた攻撃で、バーサーカーの逃走経路を開いてしまう事となった。
ジェヴォーダンの獣は、これ幸いとばかりに、フェンスにぽっかりと開いた穴へと駆ける。
二度目の攻撃を振るおうとするジールダーだが、それが届くかどうかは微妙な所だろう。
このまま獣は逃亡し、下界を歩く哀れな一般市民たちは、彼女の餌となってしまうのだろうか?
そう思われた瞬間。
フェンスの外――すなわち地上から高度十数メートルの空中に、獣の行く手を阻むようにして、下界から影が飛び上がって来た。
影の正体は、右目に眼帯を嵌めた男――化生殺しのセイバー、源頼政こと猪隼太であった。
▲▼▲▼▲▼▲
シールダーとバーサーカーとセイバー。
三騎の英雄が集った戦場を、遠く離れた建物の屋上から双眼鏡越しに見ていたウェカピポの妹の夫は、喉の奥から込み上げる笑いを抑えきれずにいた。
「獣のバーサーカーに加えて、シールダーとセイバーまで現れるとは……やはり、あの時タクシーの進行方向を変えたのは正解だったな」
ウェカピポの妹の夫は、乱戦に巻き込まれる事態を避ける事が出来た。
どころか、これから、その乱戦を遠く離れた安全圏から観戦――一切のリスクを背負わずに、一度に三騎のサーヴァントの情報を手に入れられるのだ。
これを幸運と呼ばずに何と言えよう。
自分の幸運と判断を誇らしく思いながら、ウェカピポの妹の夫は双眼鏡を覗く。
「ここで出来るだけ奴らの情報と弱点を識り、後日、回復したバーサーカーと俺で、覆しようの無い有利を取りながら奴らを潰す。何なら、今から奴らが勝手に殺しあってくれるかもしれねぇなぁ――完璧だ。最小の労力で、最大の利益を得る。まさに、高貴な俺にこれ以上なく合う戦略だぜ……ぷっ、くふふ――」
はははははッ!――と。
喜びのあまり大声で笑いそうになったウェカピポの妹の夫だが、彼の声は、隣に佇むバーサーカー――
モードレッドが突如上げた叫びに掻き消された。
「████!!」
「!? どうしたバーサーカー」
「F」
「ふ?」
「F……f! F! Faaaaa!!!!! tthhhhhhheeeeErrrrrrrRrrrrrrrr!!!!!!!!」
「ふあああああああァァァーーーッ!???」
シールダー、ベンディゲイドブランは、ブリテンの騎士王――アーサー王の原型の一つとも言える巨人王である。
そんな彼女が戦っている姿を見て、かつてアーサー王に反旗を翻したモードレッドが取る行動は何か?
答えはこの通りだ。
「 █████ ███ ██ーッ!」
自分が愛した(憎んだ)父上と似た魂を持つ戦士を認識し、モードレッドの狂化は更に高まる。
彼女の叫び声に呼応するかのように、牡丹ほどの大きさの赤雷の火花がいくつも花開き、禍々しい鎧を飾り始めた。
「バーサーカー、何をするつもりだッ!? まさか――おい、やめろッ! それだけはやめろォーッ!!」
興奮した状態のバーサーカーから、彼女がこれから何をしでかすかを悟ったウェカピポの妹の夫は、元々血色があまり良くなかった顔を更に蒼ざめさせ、制止の言葉を必死に叫ぶ。
だが、狂戦士(バーサーカー)は、止めろと言われて止めるような存在ではない。
「FfffffffffffFFFffff――thッ!!」
そう叫んで、バーサーカーは足元から赤雷を噴出させ、サーキットを走るF1マシンめいた速度で、空中を走って行った。
彼女が向かう先がベンディゲイドブランの元――つまり、大乱戦の場であるのは、言うまでもあるまい。
魔力を消費し、今朝の戦闘で負った傷がまだ完全には癒えていない彼女が、あの乱戦へ飛び込んでどうなるか?――敗北の二文字が待っている事は、火を見るよりも明らかだ。
「クソッタレの駄犬め! わざわざ自分から戦場に突っ込んで行くだなんて、ヤツには自殺願望でもあるのか?」
一人その場に残されたウェカピポの妹の夫は、ストレスで胃に痛みが走るのを感じながら、そう言った。
今の彼の状況は、安全圏にいた筈が、ほんの一瞬で崖っ淵に追い詰められたようなものである。
これでは、奈落の底に落ちるのも時間の問題だ。
「ふざけるなよ……飼い犬の暴走で敗北するだなんてゴメンだ。そうだ、ここは考えろ……何か良いアイデアがないか考えるんだ。これまで俺は、とっさの機転で死地を乗り越えて来たじゃあないか。きっと今回も上手くいく。そうだ、そうに違いない……」
もはや自己暗示に近い言葉をブツブツと呟きながら、この窮地を脱する案を見つけるべく、脳をフル回転させるウェカピポの妹の夫。
その時、彼は視線を、サーヴァントたちがいる屋上から、病院の方へと外した。
それは、『自分の思い通りに行かないバーサーカーが起こす事態から目を逸らしたい』という一種の現実逃避に近い考えが起こした行動だったのかもしれない。
視線を外した先に、ある人物が居る事を、彼は視認する。
「あれは――!?」
ウェカピポの妹の夫の視線の先に居たのは、彼にとって、予想外の人物であった。
▲▼▲▼▲▼▲
病院付近のある建物の屋上から、濃密な赤色の殺意とそれに対抗するサーヴァントの気配を感じ取った時。
セイバーが取った行動は迅速であった。
実体化した彼は、殺意の発生源に向かってまっすぐ跳躍。探知からこれに至るまで、五秒もかからなかった。
主である少女、
神谷奈緒を先に友人の所へと向かわせたのは、数刻前の対人喰い戦での反省を踏まえた選択である。
人喰い二人相手でも、危うく死にかけた少女を、サーヴァント三体を交えた乱戦に連れて行ける訳がない。
そして今――空中にて、化生殺しは獣の前に立ちはだかる。
「今回は、間に合ったか――」
倒すべき怨敵を目の前に、セイバーは何処か満足気な声でそのように呟いた。
しかし、それもたった一言だけ。
『あ』と言う間に、彼は空中に魔力を練り固めた足場を生成し、それを踏みつける事で、獣の方向へと向かって走り出す。
弓から放たれた矢もかくやという高速で駆けるセイバー。
彼の掌に、刀が現れた。
それは『骨喰』――主人がその都度観測する事で様々な刃物に姿を変える武器。
此度の『骨喰』は、本来の姿である短刀の形を取った。
その短さにそぐわぬ膨大な死の気配を刀身から放つそれは、バーサーカーの首に迫る。
獣は、短刀の軌道上に爪を配置する事で、相手の命を刈り取る為だけに放たれた攻撃を上に弾いた。
――が、無論、セイバーの攻撃はこれだけでは終わらない。
彼は短刀を、弾かれた方向の真逆――真下へと振り下ろす。
稲妻の如き速度の攻撃は、獣の頭頂目掛けて放たれた――否、刀身に電撃を纏った短刀は、最早比喩抜きの稲妻である。
だが獣は、横に転がり、落雷を寸での所で回避する。
短刀の一撃は空を裂き、血の池地獄のように赤い獣の毛先を焦がすだけに終わった。
回避してから流れるような動作で起き上がった獣は、自分の背後から迫る気配――黒のシールダーの存在に気が付く。
セイバーという突然の来訪者に驚いたベンディゲイドブランだが、彼女は来訪者が自分と同じく獣を倒す為にこの場に居るものだとすぐさま理解し、助太刀に入らんとしていた。
「そこのセイバー! 貴殿が何者かは知らないが、どうやら私と同じ志を持つ者であると見た! ここは私と貴殿で、獣狩りの共同戦線を張らないか?」
「応!」
剣を携えて駆けてくるシールダーが言い放った提案に、セイバーは短くそう応えた。彼も、シールダーの瞳に灯る戦意の光に、自分と同じ目的を感じたのだ。
返事はそれだけで十分だった。
次の瞬間、彼らの周囲――屋上一帯は、乳白色の霧に包まれる。
『安心しろ、セイバー。これは私の宝具の霧だ。獣を逃さぬ檻となる』
十センチ先も見えないほど濃い霧で視界が真っ白に塗り潰されたセイバーの耳元に、シールダーの声が響いた。
この霧は、ベンディゲイドブランの体そのものなのだから、その一部から彼女の声が発生するのは、何らおかしな事ではない。
『海王結界(インビンジブル・スウィンダン)』 ――ベンディゲイドブランの身体が変化した霧は、内部に居る自軍に『気配遮断』スキルを授け、逆に、内部に居る敵の気配は、彼女の知る所になる。
まさに、バーサーカーを倒すべく、セイバーと共同戦線を張る今この状況の為にあるかのような宝具だ。
『視界が真白く覆われるが、それはあの獣も同じ事。貴殿に対しては、普段と変わらない動きが出来るよう、私が感覚の補助をしよう』
「いいや、その心配には及ばん。あらゆる可能性を『視る』事が出来る俺にとって、この霧は透明であるも同然よ」
尻尾に『偽』が付くものの、『直感』スキルを保有して居るセイバーにとって、霧という視覚への妨害は、殆ど意味をなさないのだ。
『そうか……了解した。それと、あともう一つ伝えておかねばならない事がある』
「なんだ?」
『あの獣のバーサーカーは――』
先程バーサーカーが見せた頭部破壊の技の情報を伝えようとした言葉は、其処で途切れた。
と言うよりも、霧の中からセイバー目掛けて突進して来た獣の左手の爪により、ベンディゲイドブランの言葉とそれを発している霧は、文字通り掻き消されたのである。
人外の聴覚を以ってベンディゲイドブランたちの会話を聞き付けたのだろうが、それにしても、まさに化物としか言いようがない、並外れた探知感覚であった。
爪は、霧を切り裂いた勢いそのままに、セイバーの顔面を食い破らんと、弧を描きながら迫り来る。
獣は、狩人たちを屠殺す事で、自分を覆う包囲網を破ろうとしているのだ。
ならば、バーサーカーが『赤血の捕食者(ベッ・ドゥ・ジェヴォーダン)』すら効かなかったシールダーではなく、濃厚な『死』の気配を放っているとはいえ、今朝の交戦で互角に競ったセイバーを狙うのは、本能的行動論理として、当然の結論であった。
だが、そこで易々と屠られるのであれば、セイバーは英雄として座に登録されていない。
彼は上半身を後方に傾ける事で凶爪を回避。その後、間を置かずに、靴底で獣の腹を踏み付けるようにして、蹴りを放った。
これまで数えきれないほどの人間の命を詰め込んで来た腹部に蹴りを受けた獣は、後方に吹っ飛ぶ。
面白いくらいに――不自然な程に勢いの良い飛びっぷりであった。
「なるほど、彼の蹴りが完全に極まる直前に、自ら後方に飛ぶ事で衝撃を殺したか――」
潮の香りと共に、空を飛ぶ獣の背後から、凛とした声が響いた。
「――ならば、これはどうかな?」
それと同時に、霧の奥――獣の背後からベンディゲイドブランが出現し、獣の背中目掛けて、イニス・プリダインを閃かせた。
剣は水平のまま、高速で空を走り、飛んで来る獣を腰の位置から真っ二つにせんとする。
逃げ場も踏み場もない空中で、ベンディゲイドブランの攻撃を察知したバーサーカーは、身体中の穴から血を零しつつ無理矢理に身を捻り、後方に在る大質量の銀色の側面に、斜め上から裏拳を落とした。
拳を剣にぶつけた反作用で、バーサーカーの身体は、直角の軌道を描いて高く上昇。見事、剣の一撃から逃れる事が出来た。
とはいえ、彼女が空中に無防備な状態にいるのは依然同じである。そこをシールダーとセイバーが狙うのは、当然の道理だった。
ベンディゲイドブランは空中に漂う霧(じぶんのからだ)を凍結させ、いくつもの氷杭を生成。
作られた氷杭は、隼の嘴のように鋭利であった。
それらは、空中のバーサーカーめがけて放たれる。
獣は四肢を駆使する事で、氷杭を弾き、或いは掴んで放り、または爪で掻き砕く。
両腕両足が霞と消えたのかと見紛う程の高速で行われた防御は、氷杭の殆どを無力化させていた。
だが、氷杭のミサイルの内の何本かは、防御を潜り抜け、彼女の四肢や腹に突き刺さる。
何せ、霧の向こうから突如現れる攻撃なのだ。獣の反射神経を以ってしても、完全に防げるわけがない。
寧ろ、手負いの状態で、急所に迫る氷杭だけは確実に防御していた獣は、賞賛に値するだろう。
氷杭を受け、獣の動きは一瞬弱まる。
その瞬間だった――氷杭の後を追うようにして、眩い紫電が空中を疾走り、獣の体を貫いたのは。
轟音を上げながら霧を突く光――それは、『魔力放出(雷)』スキルを持つセイバーによる攻撃である。
剣に纏わせた雷撃を、光線(ビーム)のようにして撃ったのだ。
シールダーの氷杭攻撃に合わせるようにしてこれを放つとは、流石、かつて主の源頼政と共に鵺を退治した英雄と言ったところか。
誰かと連携を取っての共闘(たたかい)は、お手の物である。
剣士の雷撃を食らった狂戦士は、体中に開いた穴から、血の代わりに黒煙を上げる。
空中から落ちる彼女の体は、ズタボロになっていた。
セイバーは眼帯を外し、獣の落下予測地点へと駆ける。
露わになった彼の右目は、淡い蒼色の光を放っていた。
それは、あらゆる物の『死』を視る、最上位の魔眼――直死の魔眼。
セイバーがこれを用いて観測した『死』の線や点を骨喰でなぞれば、相手に与えられるのは不可逆な死だ。
今朝の戦いでは、獣の抜群の回避能力によって、この確殺の手段を無効化されていたが、襤褸雑巾もかくやな状態で落下している現在の獣は、これを避けられまい。
数多の悲劇を生み出し、そしてこれから新たな惨劇を生み出そうとしていた獣の命を終わらせんと、セイバーは地を走る。疾る。奔る。
必死に――駆(はし)る。
ああ、だがセイバーよ。
源頼政――猪隼太よ。
お前は覚えているだろうか。
真に恐れるべきなのは、生命力に満ちた元気な獣ではなく、追い詰められた瀕死の獣であるという事を。
そして――お前は知るまい。
お前が殺そうとしているバーサーカーも、お前と同じく、一撃必殺の武器を有しているという事を。
▲▼▲▼▲▼▲
『主殿。サーヴァントの気配を探知した。それも二つ。片方は今朝の狂戦士、もう片方は――知らない気配だな。だが、状況や魔力の流れからして、おそらく狂戦士と敵対しているのだろうよ。俺は今から狂戦士の元へ向かい、知らぬ英霊の加勢に入る。主殿は先に、友人の元へと向かっておれ。……んん? かっかっか、なんだその声は。何も俺は今から戦場に向かうだけであって、死地に向かう訳ではないのだ。そんな、今生の別れを見送るような、不安気な声をするでない。今朝は逃してしまった狂戦士だが、あやつの他にあの場所から感じられるもう一つの気配――もう一騎のサーヴァントと協力すれば、次こそ奴を確実に止める事が出来るだろうよ。だから、主殿は、先に友人の元へ行け――病で苦しい時に側に居てあげるのが、友というものだろう? 俺も狂戦士を止め次第、すぐに向かう。主殿の友人を蝕む病の正体を明かし、治さねばならんからな――』
病院へと向かうタクシーの車内に座る神谷奈緒は、先程セイバーが言った言葉を思い出していた。
今現在の彼女の心中を表す言葉は、『不安』の二文字に他ならない。
それは、突如病に倒れたという北条加蓮が不安でもあるのだが、付近にいるという獣のバーサーカーの元へと向かったセイバーが心配でもあるからだった。
だが、神谷奈緒は、その心配と同じくらい、セイバーを信頼してもいた。
彼はきっと、狂戦士を止め、奈緒と加蓮の元へとやってくる。
そして、加蓮を蝕む病の原因を突き止め、見事解決してくれるだろう。
そんな風に必死にポジティブな思考を行う奈緒。
しかしながら――残念ながら。
彼女の信頼と期待は、叶わない。
▲▼▲▼▲▼▲
セイバーの必殺の刃がバーサーカーに届くまであと僅かとなった時。
遥か向こうから飛んでくる『それ』の存在を。
シールダーは、周囲に広げた霧の能力で探知した。
セイバーは、宝具の影響で獲得したスキルによって、『直感』的に察知した。
バーサーカーは、度重なる攻撃を受けた事で、意識が朦朧となっており、知る事が出来なかった。
「FaaaaaaaaathhhhhheeeeeRRrrrrrrrrrr!!!」
三騎の英霊が集う戦場へ向かい、赤雷の尾を引きながら飛んでくるものの正体は、騎士のバーサーカー――モードレッド。
獣のバーサーカーと同じく身体中が真っ赤な彼女は、意味不明な叫び声を上げながら、マッハを優に越えた速度で霧の結界に突入――同時に、邪剣と化した王剣(クラレント)から、紅の雷を放った。
それは憎い(愛しい)父と似た魂を持つサーヴァント――ベンディゲイドブランを狙った攻撃であったが、モードレッドの生来の粗っぽさと、バーサーカー化による攻撃の正確性の低下、そして霧の視覚妨害が相まった結果、雷撃は広範囲を襲う。
霧を吹き飛ばしながら突き進む、膨大な破壊エネルギーを孕んだ赤雷。
ベンディゲイドブランは、イニス・プリダインを、シールダーらしく盾にする事で、その攻撃を防いだ。
源頼政(猪隼太)は、獣へと向かうのを一旦中止し、自身の紫電をぶつける事で、赤雷を打ち消した。
まだ完全に落下していなかったジェヴォーダンの獣は、奇跡的に雷撃の破壊範囲から逃れる事が出来た。
それぞれがそれぞれの技能・状況を元に、光速の攻撃から逃れられた形である。
だがしかし。
雷撃を防ぐ事が出来ても、それから二次的に発生する現象――屋上一帯にばら撒かれた霧や水に電流が流れる事で起きる、水の爆発的な体積膨張の衝撃までは防げなかった。
生じた爆風は、一瞬にして三騎を巻き込み、吹き飛ばす。
爆風を受けた彼らが飛んで行った先には、白亜の建造物――病院が在った。
▲▼▲▼▲▼▲
実に脳ミソが軽そうな同僚を何とか強引に言いくるめ、病院の正面玄関外へと向かい、其処に到着した
ウェカピポを迎えたのは、遠くから響いてきた爆発音と、こちらに向かいつつある、三体の人型の飛来物であった。
シールダーが戦闘に赴いてから数分で、爆発で三騎のサーヴァントが飛んで来るという事態を、どうすれば予測出来ようか。
そもそも、最初にベンディゲイドブランが探知した気配は、一体だけだったはずだ。
それが今やもう一つ増えて――否。
そこまで考えた時、ウェカピポは、ベンディゲイドブランと他二騎のサーヴァントたちの更に向こうから、赤い甲冑を身に纏ったサーヴァントが、赤雷のジェット噴射を放ちながらこちらへ飛んできているのを視認した。
つまる所、此方へ飛んできているサーヴァントは計四体。
二体ならまだしも、その倍の数のサーヴァントの到来を前にし、ウェカピポは焦った。
これは流石に防げない――一般人たちを保護する事が出来ないのでは? と。
そもそも、サーヴァントが病院に向かって来ているという状況で、ウェカピポはスティーブに連絡を入れるべきだったのだが、これまで何かと一人で解決しようと突っ走る生き方をしていたウェカピポが、突然の事態にそんなクレバーな選択が出来るはずなど無かったのだ。
サーヴァントたちの飛来以上の速度で、爆発音が先に病院前に届いたのが、せめてもの救いだった。
これを聞いた周辺の一般人たちが、慌てて避難行動を取ったからである。
とは言え、まだ逃げ遅れている人が少なからずいるのも事実だ。
彼らを助けるべく、ウェカピポは既に懐から取り出していた鉄球に回転を与えようとする。
と、その時。
「オイオイオイ。このままじゃあ、一般人の皆サマにも、決して浅くはない被害が出ちゃうじゃあないか。流石のボクも、それは見過ごせねぇぜ」
遥か上空から、甲高い少女の声が響いたかと思った瞬間。
路上で狼狽え、腰を抜かし、或いは立ち尽くしてた民衆たちは、見えない手で摘まみ上げられたようにして宙に浮かび、クレーンゲームで掴まれた商品のようにして宙を移動。開いてるドアや窓から、近くの建物――主に病院――へと放り込まれて行った。
自分の目の前で起きた不可解な現象に驚くウェカピポであったが、守るべき対象も居なくなったこの状況で、この場に残るのは拙いと思ったのか、取り出した鉄球を用いて自分の身体を硬質化させながら、後方へと退がる。
ものの数秒で無人となった病院前に、サーヴァントたちは落下する。
シールダーは、自分の背中から水のジェット噴射を出し、落下の勢いを弱める。
彼女の背中から噴出されるジェット水流は、まるで、まっすぐ広げた烏の羽のように見えた。
落下の勢いを完全に殺したシールダーは、水を止め、鳥のようにふわりと着地する。
セイバーは、爆風で煽られたとは思えない程の軽やかさで着地。
それは、落雷の様に素早く、かつ、降雪のように柔らかな動作であった。
獣のバーサーカーは、意識が朦朧としている中、辛うじて着地に成功する。
が、その瞬間、彼女の体中に開いた穴から、決して少なくない量の血がこぼれた。
空中に居た事で爆発の直撃を避けられていなければ、今頃絶命していてもおかしくないほどの、満身創痍である。
そして、それから数瞬遅れて、騎士のバーサーカーが着地。
受け身もへったくれもない、着地というよりは着弾と言った方が正しい程に、荒々しく暴力的な落下であった。
事実、彼女の落下地点には深いクレーターが出来ている。ミサイルの爆撃を食らったかのようだ。
「 █████ ! Faaatheerrrrrrrrrrrrrrrr!!」
着地したバーサーカーは、シールダーを発見するやいなや、他の二騎のサーヴァントには目もくれず、彼女へと飛び掛る。
雷で赤く染め上げられた邪剣を、シールダーは国剣で受け止めた。
「貴様は誰だ! 何故私を狙う!?」
至極真っ当な文句を言い放つベンディゲイドブラン。
だが、その言葉はモードレッドには届いていないらしい――尤も、モードレッドの言葉もベンディゲイドブランには届いていないのだが。
「Faaaaaaaaa!!!!」
猛り狂う狼のような絶叫と共に、騎士のバーサーカーは体中から放電した。
剣を交えさせ、接近した状態でのそれである。
これはシールダーにとって拙い。
非常に拙い攻撃だ。
宝具『海王結界(インビンジブル・スウィンダン)』 の効果により、体が水の属性を持ち、大抵の物理攻撃は無効化出来るベンディゲイドブランだが、雷撃や熱のような特殊攻撃はその限りではない。
故に、雷撃を食らったシールダーは、苦痛に顔を歪めた。
だが次の瞬間、彼女は電流に悲鳴を上げる己の筋肉に鞭を打って、巨剣でバーサーカーを押し飛ばし、距離を取るようにして、後ろへ退がる。
しかし、そこでベンディゲイドブランに隙を与えるモードレッドではない。
シールダーに押し飛ばされた彼女は、着地の瞬間に、赤い残像が描かれる程のスピードで剣を四度振るう。
その軌道をなぞるようにして赤雷が出現し、それらはベンディゲイドブランめがけて空間を走った。
ベンディゲイドブランは、珊瑚のような形をした禍々しい赤雷の群を、巨剣を横に振るう事でまとめて打ち消そうとするが、三百六十度周囲から回り込むようにして全く同時に迫る光速の攻撃を完全に防ぐ事など、出来るはずがない。
けれども、防ぎ切らなかった雷撃が、ベンディゲイドブランの体を焼き貫く事はなかった。
突如別方向から飛んできた紫電が、赤雷と衝突し、相殺したからである。
紫電の射手が化生殺しのセイバーであった事は、言うまでもあるまい。
獣のバーサーカーが瀕死である事を知っている彼は、獣がこの場から逃げる事は不可能であると判断。あの状態では、闘争や逃走どころか一歩歩く事さえままなるまい。
最早、獣のバーサーカーは完全に無力化されていた――かのように『視』えた。
それに、騎士のバーサーカーの狂気と電撃に満ちた攻撃を相手にしているシールダーは、一刻も早い援護が必要であるように思われた。
故に、セイバーは、シールダーへの助太刀を優先したのだ。
自分と赤雷の間に割り込んだ電流の色が見慣れた紫色であった事から、自分を助けたのがセイバーであると悟ったシールダーは、首から上を紫電の発生源へと振り向かせる。
セイバーの方を振り向いた瞬間、シールダーの口は、言葉を発する事が出来なくなった。
ベンディゲイドブランは――絶句したのだ。
振り向いた彼女の視線の先に立っている源頼政(猪隼太)の肩から上は、平らになっていて。
上半身が、やけに寂しくなっていて。
淡い蒼色の光を浮かべる魔眼が、消え失せていて――。
つまり。
何の前触れもなければ、いかなる前兆もなく。
刹那の余裕もなければ、微塵の予感もなく。
セイバーの首は、一瞬にして破壊されていた。
【セイバー(源頼政(猪隼太)) 消滅】
▲▼▲▼▲▼▲
あともう少しでタクシーが病院に着くという時。
病院前から、まるで隕石が落下したかのような轟音が鳴り響いた。
その瞬間、タクシーの運転手は慌ててブレーキを踏んだ。
車は止まる。それとタイミングを同じくして、祈るようにして顔を俯かせていた神谷奈緒は、バッと顔を上げる。
フロントガラス越しに見る病院前の景色は、何かの落下の際に生じた土煙で薄ぼんやりとしているが、眩く輝く赤い雷と競うようにして空に流れる紫電は、其処に神谷奈緒のセイバーがいる事のなによりの証明であった。
セイバーの存命を知って、一先ず落ち着く神谷奈緒。
「に、逃げますよお客さん! ここに居たら、あれに巻き込まれてしまいます! ――クソッ! 何なんだあれは!?」
タクシーの運転手はそう言って、奈緒の返事も待たずに、反対車線へとUターンし、来た道を戻ろうとする。
客の目的地の目の前で真逆の方向に走る事になるが、命に関わる危機に対し、運転手がそのような行動を選択するのは仕方のない事であった。
「あっ」と奈緒が言おうとした時はもう遅い。タクシーはみるみる、病院から離れて行く。
仕方なく、彼女はリアガラス越しに病院の景色へと目を向ける。
水を加えた色水のように、薄くなっていく土煙。
露わになったセイバーの姿には、首から上が存在していなかった。
▲▼▲▼▲▼▲
ここまでの重傷を負わされた獣にとって、病院付近は超A級危険区域となっていた。
病院から臭いが香るアイドルを喰らおうとやって来たら、三騎のサーヴァントが現れたのだ。其処を危険だと判断するのも、無理のない話である。
最早獣の目的から、『病院に居るアイドルの殺害』は消え失せていた。
彼女の中の優先事項は、令呪で命じられた『アイドル殺し』から、『危険からの逃走』という、生物にとって最も原始的で最上位の行動へと変わったのである。
だが、逃げようにも、今の彼女には、脚を一歩動かす体力もない。
とにかく傷を負いすぎたのだ。
だから、獣は求めた。体力を――人肉を。
『赤血の捕食者(ベッ・ドゥ・ジェヴォーダン)』を食らわせ、喰らう相手を求めたのだ。
そして、それは短刀を持った剣士――セイバー、源頼政(猪隼太)の姿で、彼女の目の前にあった。
セイバーは『直死の魔眼』の効果で、常に強い死の気配を放ち、それ故にこれまでバーサーカーの必殺の首狩り宝具を封印出来ていたが、ここまで追い詰められ、今や死の淵にある彼女にとっては、セイバーを喰わずに死ぬのも、セイバーを喰おうとして失敗し死ぬのも、同じであった。
いや――まだ成功する可能性がある分、彼女が死のセイバーの捕食を試みるのは、当然である。
やらずに後悔するよりやって後悔、だ。
だから、獣は最後の力を振り絞って煌めかせた――血濡れた牙を。
元々絶対予測不能にして完全回避不能である攻撃を、獣ではなくモードレッドへ意識を向けていたセイバーが対処出来るわけがなかった。
何の前触れもなく突如現れる死の牙は、直感による回避も許さない。
こうして、セイバーの頭は距離と因果を無視して噛み砕かれ、バーサーカーの腹の中にしまわれたのである。
猪隼太の生前の主である源頼政は、死後、隼太によって、首を余人の手の届かぬ場所に運ばれたらしい。
奇しくも、セイバーの最期は、それと真逆の形――首無しで齎される事となった。
「――――!」
首無し武者と化したセイバーの姿に絶句するベンディゲイドブラン。
まさか、あの獣がまだ動け、人の頭を噛み砕く技を使えるとは、思ってもいなかったのだろう。
それと同時に、彼女は後悔した。
あの時獣の爪で言葉を遮られたとはいえ、セイバーに忠告を最後まで伝えられなかった事を。
その後の二転三転する戦況の中で、忠告の続きを言えなかった事を。
だが、その直後、ベンディゲイドブランは耳に届いた気狂いじみた叫びに反応し、防御の構えを取りながら、視線をモードレッドの方へと戻す。
其処には、剣を持った騎士のバーサーカーが立っていた。
彼女の鎧は赤雷で眩く輝いており、その光はまるで『オレを見ろ』と主張しているかのようであった。
邪剣が纏う赤い魔力は先ほどよりも増しており、その長さは剣長のおよそ二倍にまで達していた。
これが宝具の展開ではなく、単なる魔力の塊であるというのだと言っても、信じられる者は殆ど居まい。
それは、誰の目から見ても、必殺に限りなく近い剣であった。
これを食らえば、シールダーは少なくないダメージを負うだろう。
すぐ側の病院に与えられるダメージは言わずもがなだ。
「ならば――!」
セイバーの死という衝撃が未だ心に残っているも、シールダーは剣を構え、そこに普段以上の魔力を流し込んだ
宝具と見紛う程の一撃に対しては、宝具をぶつけるしかあるまい。
ベンディゲイドブランは、自分の切り札――『祝福された勝利の剣(エクスカリバー・マクリール)』 を明かしてでも、騎士のバーサーカーの一撃を相殺し、周囲への被害を抑えようと考えたのだ。
これ以上周りから死者を出すわけには行かない――それが、守る者(シールダー)の意思であった。
「█████ █!」
「束ねるは海の息吹!」
世界が赤色の光に犯される中、降り積もった雪(水分)が、吸い込まれるようにしてイニス・プリダインへと集って行く。
周囲の水分を取り込む事で、発動に要する魔力量が軽減する、『祝福された勝利の剣(エクスカリバー・マクリール)』 の効果の現れであった。
宝具を展開しつつ、ベンディゲイドブランは獣の気配を探る。
この状況で頭部破壊の技を喰らうわけには行かないからだ。ダメージを一切負わないとはいえ、それで生じる一瞬の隙を騎士のバーサーカーに狙われるのは拙い。
しかし、獣のバーサーカーの気配は消え失せていた。
重傷の末消滅した――とは考え難い。
命辛々この場から逃げ出した、と見るべきか。
折角セイバーと共に追い詰めた獣を逃してしまった事に悔しさと不甲斐なさを感じ、ベンディゲイドブランは唇を噛んだ。
「faaaaaaaaa――」
「荒々しき命の奔流!」
空間の魔力濃度が、更に上昇する。
CG技術に優れた某国の映画業界であっても、病院前に広がっているこの現実を再現するのは、困難極まるであろう。
そして――
「thhhhhh!」
「『祝福された――』!」
ほぼ同じタイミングで、両者は剣を振り上げた。
今まさに、異なる時代の英雄の攻撃が交差する――そう思われた瞬間だった。
「………え?」
つい一瞬前まで、叫び声と共に剣を振り上げていたモードレッドが、突如、空間に消しゴムでもかけられたかのように、消え失せたのは。
敵対者を喪ったベンディゲイドブランは、イニス・プリダインに集った魔力を霧散させ、下に下ろす。
もしや、あの獣がまた何かしたのか?――と思ったベンディゲイドブランだが、その考えはすぐさま撤回された。
獣の気配はこの場から去っているし、そもそもあれが消滅させるのは首から上であり、体全体ではない。
ならば、考えられるのは――
「マスターの令呪による、空間転移か……」
宝具の展開では無かったとはいえ、あれほどまでの魔力を一気に放出しようとしていたのだ。
ウェカピポとベンディゲイドブランのように、サーヴァント側の魔力が豊富で、尚且つ宝具の展開に必要な魔力を軽減する手段でも持っていない限り、魔力を吸われるマスターが受ける苦しみは、筆舌に尽くし難いはずだ。
だから、あの赤い騎士のバーサーカーのマスターは、彼女に転移を用いた強制帰還を命じたのだろう。
そう考える彼女の元に、念話が届いた。ウェカピポからの念話である。
『シールダー、無事か?』
『……私は無事だ。突然乱入してきた鎧のバーサーカーと攻撃を交える事になりそうだったが、その直前に奴が空間転移で何処かへと消えた為、電撃を一度受けた以外は殆どダメージを負っていない』
『そうか……それは良かった』
安心したように呟くウェカピポ。
それに対し、ベンディゲイドブランは嘆きの混ざった口調で、
『とはいえ、私以外に全く被害が出なかった訳ではない。私を援護したセイバー――共同戦線を組んだ相手だった――は、その隙を狙われ、獣のバーサーカーに殺された』
『獣のバーサーカーと言うと……あの討伐令に載っていたあの……?』
ウェカピポは、今朝読んだ聖杯戦争の主催者からの手紙の内容を思い出した。
『ああ。最初に私が探知した気配は獣だったんだ――』
それから、ベンディゲイドブランは、これまでの戦闘の経緯をウェカピポに伝えた。
それを終えると、ウェカピポは先ほどの戦闘を彼の視点から見て気づいた事――特に途中で起きた、あの不思議な出来事について、ベンディゲイドブランに伝えた。
一時的とはいえパートナーを組んでいた相手である名も知らぬセイバーの消滅を心中で悼むベンディゲイドブラン。
だが、それでも彼女は止まらずに、聖杯戦争をどうしようもなく進めなくてはならないのであった。
ほら、その証拠に――。
ベンディゲイドブランは、視界の端に此方へと走り向かってくる聖杯戦争のマスター――元マスターの少女、神谷奈緒の姿を見付けた。
▲▼▲▼▲▼▲
【新都 病院/12月23日 午後】
【バーサーカー@ジェヴォーダンの獣】
[状態] 瀕死の重傷→捕食による回復
[装備] 特になし
[道具] 特に無し
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:■■■
1.(狂化により現時点では判別不可)
[備考]
※『アイドルを殺せ』との令呪を受けました。
※冬木市の中で、血の臭いの強い方に牽かれます。
※北条加蓮の『臭い』を察知し、彼女が搬送された病院へと向かっていましたが、三騎のサーヴァントを目にし、病院を危険だと判断。以後、ここに近づく事はないと思われます。
※シールダー(ベンディゲイドブラン)、セイバー(源頼政(猪隼太))と交戦しました。
※バーサーカー(モードレッド)と接触。直接交戦はしていませんが、モードレッドの電撃が生み出した爆発によって吹き飛ばされました。
※シールダーとセイバーの攻撃で、瀕死の重傷を負いましたが、セイバーを食った事で回復し、何処かへと消えました。何処に行ったかは後の書き手さんに任せます。
【ウェカピポ@ジョジョの奇妙な冒険 Steel Ball Run】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]鉄球×2(衛星は回収した)
[道具]日用品、携帯電話
[所持金]そこそこ
[思考・状況]
基本行動方針:国へ帰り、妹を幸せにする。
1.スティーブと組んで、バーサーカーたちを討伐する。
2勤務を終えた後、再びスティーブと接触する。
3:
スティーブ・ロジャースの在り方を警戒。
[備考]
1.冬木市では警備員の役割を与えられています。
2.今日(23日)の現場は新都の病院。
3.スティーブと連絡先を交換しました。
※ウェカピポの妹の夫の遺品として、彼のスカーフを持っています。
※シールダー、セイバー、獣のバーサーカー、鎧のバーサーカーの戦闘をほんの少しではあるが目にしました。その直前に、少女の声と共に起きた不思議な現象も目撃しています。
※シールダーから戦闘の経緯を聞きました。
【シールダー(ベンディゲイドブラン)】
[状態] 健康
[装備] 国剣イニス・プリダイン
[道具] 無し
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:今度こそ、誰かを救う
[備考]
1.討伐令の参加については保留。しかし、対象者たちは許しがたいと考えている。
2.使い魔のワタリガラスである『ブランウェン』と『ブラン』を召喚し、空から冬木市を探索させています。
3.ワタリガラスのどちらかが負傷したため、休ませています。
※セイバー(源頼政(猪隼太)と共に、バーサーカー(████(ジェヴォーダンの獣))と交戦しましたが、途中でモードレッドの妨害に遭い、獣を完全に倒す事は出来ませんでした。
※ウェカピポから情報を受け取りました。
▲▼▲▼▲▼▲
首無しのセイバーを目にした直後、慌ててタクシーから降りた神谷奈緒は、運転手の警告を背中で聞きながら、必死に駆(はし)った。
雪道ゆえ転びそうになっても、彼女は駆(はし)る。
駆(はし)る。
駆(はし)る。
途中、何度もセイバーに念話を送ろうとするが、返事はない。送れない。
それが意味する事は、つまり――。
首を喪ったセイバーの姿と共に、そんなネガティヴな結論が頭に浮かんだ彼女は、挫けそうになる。
しかし、それでも。
見間違いであった事を祈りながら、何かの間違いであった事を願いながら――彼女は病院の方角へと向かって行った。
だが、病院に到着した奈緒を、あの快活な笑い声と眼帯が特徴的なセイバーが迎える事は無かった。
そこに彼の姿は痕跡たりとも残っていない。
今更のように、奈緒はセイバーとの魔力のパスの繋がりが消滅した事を認識した。
▲▼▲▼▲▼▲
【神谷奈緒@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]絶望的
[装備] 無し
[道具] 無し
[令呪] 残り三画
[所持金] 学生並み
[思考・状況]
基本行動方針:セイバーを勝たせてあげたい。
0.間に合え。
1.加蓮がいる新都の病院へ向かう。
2.滝澤を止める。
3.討伐令はなんとかしなければと思う(殺しはしない)
4.ライブを成功させたかったけど、今はそれどころじゃない。
[備考]
※衛宮邸周辺に自宅があるようです。
※気絶中に何かの夢を見ました。
※セイバー(源頼政(猪隼太))が消滅した事を認識しました。
▲▼▲▼▲▼▲
「いやー、もう初めての脱落者かー!」
「ええっと、この聖杯戦争が本格的に始まったのが、討伐令の手紙を出した日だとすると、それから数えて……まだ一日も経ってないじゃん! 」
「あっはっはっはっ!」
「ボクが出た時より早いじゃん、魂消たぜ」
「いや、あの聖杯戦争とこの聖杯戦争は色々と規模が違うから、比べるべきじゃあないのかな?」
「それにしても……あのモフモフ頭の女の子――ええっと、神谷奈緒ちゃんだっけ?」
「あの子はこれからどうなってしまうんだろうねぇ」
「サーヴァントという武器も持たぬまま、戦場に取り残された無力な女の子!」
「しかも、病に苦しむ友達がいるなんて!」
「あぁ〜〜……」
「傷付けたいなあ」
「癒したいなあ」
「悲しませたいなあ」
「救いたいなあ」
「絶望させたいなあ!」
「助けたいなあ!」
「あはははははははははは!!」
「……ハッ! いやいやダメダメ。ボクが手を出していいのは――ちょっかいをかけて良いのは、スノーホワイトだけだからね!」
「いくらカワイイアイドルだからって、元参加者の彼女に何かするのは、天が許してもボクが許せないぜ」
「――そうか」
場所は病院の屋上。
白亜の建造物の上から、下界で起きた戦闘の一部始終を眺めていた少女の一人語りに、突如、成人男性の声が割り込んだ。
声の主は、医療用眼帯を掛けた男――我々が『ウェカピポの妹の夫』と認識している男であった。
屋上と階段の間にあるドアから現れた彼は、顔がほぼ真白に近い状態であり、息の調子も明らかに普通ではない。
今すぐにでも階段を下り、病院で診察を受け、入院するべきだ。
少女は、ウェカピポの妹の夫の姿を認めると、目を丸く見開いて、『ひゅう』と口笛を吹き、
「おやおや、セイバークン。いつの間に復活していたんだい? キミに復活系のスキルや宝具ってあったっけ? ともあれ、あの獣ちゃんの一撃を食らって無事生還出来て良かったね! ほら、あそこにいる神谷奈緒ちゃんの元に向かってあげなよ! キミが居なくなって悲しんでたんだぜ? 男の子は女の子を泣かせるもんじゃあない――って、あっ! キミはマスターの……ええっと、誰だっけ? まあ、良いや。ともかくキミは、あのセイバークンじゃなかったね。いやあ、勘違いしちゃってゴメンゴメン。『眼帯を付けてる』って特徴が同じだから、うっかり間違えちゃったよ」
「戯言は、結構だ……」
息を吸う間もない早口で喋る少女に対し、ウェカピポの妹の夫の台詞は途切れ途切れのものである。
いかにも辛そうだ。
それもそのはず――つい先ほどまで、ウェカピポの妹の夫は、自分が従えるバーサーカーが原因である急激な魔力消費に苦しめられていたのだから。
祖先から受け継いだ鉄球の技術によって体調をギリギリの状態で保っていなければ、今この場で急に倒れてもおかしくないのである。
「さっきまで、俺はここから離れた建物に居た……。そこで、ふと双眼鏡で病院の方を見た時、意外な人物を見つけたんだ……それも二人、な……」
壁に寄り掛かりながら、ウェカピポの妹の夫は語る。
「一人は……お前だ」
ウェカピポの妹の夫は、震える右手人差し指で少女の可愛らしい顔を指差した。
「病院の屋上に、円柱に乗った派手な服装のガキが、居たんだ……明らかな異常……嫌でも、目に入る。お前を見つけた時、俺は最初『また新しいサーヴァントが現れたのか』と思い、頭を抱えた。だが、双眼鏡でよくお前の顔を――お前の、目を見た時、それは違う事に気付いた。お前の目は、『戦いを見届ける者』の目だ。お前みたいな目をした奴らを、故郷で……見た事がある。そいつらは、『決闘の付添人』だった……」
そこまで言って、ウェカピポの妹の夫は、呼吸を整える為に深呼吸を何度かした。
「このフユキの街の聖杯戦争で、『戦いを見届ける者』の目をしているのは……何者か? 問うまでもないだろう……聖杯戦争の主催者だ。そう確信した俺は、すぐさまタクシーに乗り、病院に……到着。サーヴァントたちが暴れている正面玄関を避けて……そして……裏口から院内に入った」
「で、ここまで昇ってきたと?」
ウェカピポの妹の夫の台詞の続きを先読みし、少女は言った。
ウェカピポの妹の夫は、それを首肯する。
「見覚えのある目だったとは言え、遠くから見ただけでボクが聖杯戦争の主催者だと見抜くなんて、やるねぇ!」
正確に言えば、聖杯戦争の主催者側にいるのは、少女の他にスノーホワイトとルーラーも居るのだが、わざわざそんな事を付け加えて言わず、彼女はウェカピポの妹の夫に賞賛の言葉を投げかけた。
「そんなキミの観察眼の高さに賞品をあげたい気分だぜ。聖杯とかどう? あっ、嘘嘘! 冗談だよ冗談! あっはっはっはー!」
「いいや、そんなものは必要ない……今はな」
少女の巫山戯た言葉を無視し、ウェカピポの妹の夫は語る。
「だが、何か賞品をやるという言葉が本当ならば、俺は……お前に、こう言うぜ――『俺の右目と左腕を治せ』とな」
「……………いやあ、『右目と左腕を治せ』なんてさー。こんな可愛くか弱い見た目をしているボクが、そんな事できるとでも――」
「思うさ。可愛くか弱い『見た目』をしているだけだろう? いくら片目になったとしても、俺の目は誤魔化せねェー。お前は常識から外れた異常だ」
『鉄球』とはすなわち、『回転』の技術だ。
そして、人体とは血液や空気を始めとする多数の物が、回り、巡る物だ。
つまり、人という存在は、それだけで一種の回転である。
故に、『鉄球』の技術を習得したウェカピポの妹の夫から見れば、目の前に存在する少女が人から外れた存在である事は、一目瞭然なのであった。
もしくは、ウェカピポに負ける程度の『回転』の技術しか持っていなかったウェカピポの妹の夫でも一目で分かるほどに、少女の異常性は凄まじいのだとも言える。
「…………」
ウェカピポの妹の夫から『異常だ』と言われた少女は、ここで初めて黙る。
だが、ウェカピポの妹の夫は、そんな事に構わず、台詞を続けて言った。
「何せ、一度死んだ俺をご丁寧に右目が傷付いた状態で復活させたんだ、右目と左腕の修復なんて……余裕だろう?」
「一度死んだキミを蘇らせたのは、聖杯なんだけどね――ん? いや考えようによっては、ボクがキミを蘇らせたとも言えるのかな?」
少女は、そんな意味不明な事を呟いた。
「んー、嘘つくのもめんどくせーし、この際正直に言うよ。ボクはキミの目と腕を治す事が出来る。完全な目と腕をプレゼントする事なんて、余裕だぜ。だけどさぁ、もし『主催者側のボクがキミにそんな事をするのは、他の参加者とフェアじゃないからやれない』っつー、監督役の鑑のような発言をボクがしたら、キミはどうする?」
諦めて帰るの?――と。
少女が小馬鹿にした口調でそう続けて言おうとした瞬間。
彼女の首に、冷たい金属の感覚が伝わった。
それは剣――突然、少女の背後に出現したバーサーカーが、少女の首に近づけた邪剣である。
バーサーカーがあともう少しでも手を動かせば、少女の白い首の皮膚は切り裂かれ、鮮やかな血を流すだろう。
「首を刎ねる」
遅れて、ウェカピポの妹の夫はこう言った。
「いいか……俺は、俺を聖杯戦争という戦いに放り込んだお前ら主催者が憎くて憎くてたまらないんだ。殺してやりたい、くらいにな」
その台詞に偽りなく、ウェカピポの妹の夫の双眸には、殺意が疲労の色よりも濃く現れていた。
「だが、ここで俺の言う事を聞けば、怒りを鎮めてやっても良い……さあ、どうする?」
「ここでボクが死んだら、聖杯戦争にすっげー支障が出ちゃうんだけど、それで良いのかい? たとえ、これから勝ち抜けても、聖杯が手に入らなくなっちゃうかもしれないんだよ?」
「こんな体じゃ……どっち道、勝ち抜けられるわけねーだろうが……。それに――」
「それに?」
「俺には、今すぐにでも戦ってブチ殺したい奴が――殺さなくてはならない奴がいる。さっき言った、意外な人物の二人目――ウェカピポだ」
その名を口にするだけで内臓が憤怒に疼くのだ、と言わんばかりの怒りに満ちた形相を、ウェカピポの妹の夫の表情筋は描いた。
「あの特徴的な髪型とシケたツラは、一瞬見ただけでも分かる……この病院の警備員の一人は、アイツだ……間違いねー……。アイツが俺と同じく参加者として此処に呼ばれているのは、何ら不思議じゃあない……そうなんだろう?」
「さあ、どうかな? 彼は参加者かもしれないし、参加者じゃないNPCなのかもしれない」
「いいや、参加者だ。鉄球を持っているのを見たからな。ただの無力な一般人が、そんな物を持っている筈がない。アイツは、作られた人形(NPC)じゃあなく、俺をぶっ殺しやがったウェカピポ本人だ」
そこまで言って、ウェカピポの妹の夫は、少女のそばに近づき、彼女の胸倉を掴んだ。
大人の握力で握られた魔法少女風の可愛らしい衣服の繊維は、ブチブチと悲鳴を上げながら切れてゆく。
先ほど異常だと判断した相手に此処まで近付けるのは、ウェカピポの妹の夫が怨敵・ウェカピポを認識した事で興奮しているという、何よりの証左であった。
「俺はここでウェカピポと再び戦い、次こそは勝って、この手でブチ殺さなくちゃあならない」
ウェカピポの妹の夫は、自らの手による復讐を望んでいた。
そういう理由があり、先ほど彼は、周囲を巻き込む威力――シールダーだけでなくウェカピポまで殺しかねない威力の攻撃を放とうとしたバーサーカーを、令呪を持って強制転移させたのだ。
そいつを殺すのは俺だ。お前じゃあない――と。
貴重な令呪を消費してまでそうした事から、如何にウェカピポの妹の夫が自分の手によるウェカピポへの復讐を強く望んでいるかが分かるだろう。
『ベンディゲイドブランを目の前にしての強制転移』という自分の意に反する命令を受けた後でも、モードレッドが今もなお大人しくウェカピポの妹の夫の言う事を聞いているのは、『ウェカピポへの復讐』という、憎悪に満ちた彼の思いに協調したからに他ならない。
憎悪に狂う狂戦士が憎悪に狂うマスターとリンクするのは、当然なのだ。
「だが、奴と戦い、奴を殺そうとしているのに、目と腕が怪我を負っているのは致命的だ。だからなあ……おい、ガキ。俺の腕と目を治せ。今すぐにだ」
鼻息が当たる程に顔を近づけ、そう言うウェカピポの妹の夫。
ウェカピポの妹の夫が今している行為を、少女の正体を知る者が見れば、彼を勇敢な男だと褒め称えるか、並外れた馬鹿だと嘲るだろう。
彼の要求に対し、少女が返した言葉は――
「んもぅ、痛いなあ〜。服が破けちゃったじゃん。キミってもしかして、女の子に暴力的になれちゃうタイプ?」
それがウェカピポの妹の夫の逆鱗に触れた!
「あの世でもそうやって巫山戯てろクソガキ! やれッ! バーサーカー!」
理性の九割が吹き飛んだウェカピポの妹の夫の言葉に従い、バーサーカーが剣を動かす。
しかし、邪剣が細い首を刎ねる事は無かった。
いつの間にか、少女は姿を消していたのである。
まるでその場に元々居なかったかのように。
彼女の胸倉を掴んでいた筈のウェカピポの妹の夫の右腕は、今では空を掴んでいた。
少女の消失を理解し、ウェカピポの妹の夫は辺りを見回す。
しかし、どれだけ探しても、彼の半分の視界の中にあの特徴的なシルエットが現れる事は無かった。
「〜〜〜〜〜〜っ! クソッ! クソッ! クソッ! クソォーーーッ!」
右手で、屋上の柵を何度も殴りつけるウェカピポの妹の夫。
そんな事をしては、怪我をしていない方の右腕までが折れてしまうかもしれないが、彼はそんな事に構わない。
ただ、己のストレスを発散する為に殴る。殴る。殴りまくる。
しばらく経って、ようやく落ち着いたのか、しかしそれでも息が荒いままのウェカピポの妹の夫は、バーサーカーの方を向いた。
「腕と目が治らなかったのは残念だが……此処にウェカピポがいる事が知れたのは有益な情報だ……そうだろう?」
自分に言い聞かせるようにそう言うも、彼の口調は苛々を音で表しているかのようであった。
「ここはまず、回復に専念し、いつか、時が来たらウェカピポを倒す。この手でだ。バーサーカー、お前の手でじゃあない。俺は、この手で鉄球を放り、奴のクソッタレな顔面を潰してやる……!」
グッ、と固く握り締められた彼の拳は、最早一つの鉄球のようであった。
「まずは左腕を医者に診てもらいたいが、ウェカピポが警備員を勤めるここを使うのは拙いだろう。他の、小さな病院をあたるとするか……」
ウェカピポの妹の夫は、自分を担ぐよう、バーサーカーに頼む。
バーサーカーは承諾し、成人男性を担いでいるとは思えない程に軽やかな動きで、病院の屋上から飛び出し、屋上から屋上へと渡るようにして、他の病院がある方角へと向かって行った。
降っている雪で上空に目を向ける人が少ないとはいえ、随分と大胆な移動法である。
彼らが去った病院の屋上には、笑い声一つ残されなかった。
こうして、聖杯戦争一日目の午後は過ぎて行くのであった。
▲▼▲▼▲▼▲
【ウェカピポの妹の夫@ジョジョの奇妙な冒険第七部】
[状態] 疲労(中)、精神的疲労(大)、左頬強打、左腕骨折
[装備] 剣・鉄球
[道具] 無し
[令呪] 残り1画
[所持金] 5万円(財布の中身)
[思考・状況]
基本行動方針:自陣営の戦力を把握する
1.別の小さな病院に向かう。
2.バーサーカーに二度と理不尽な命令はしない
3.ウェカピポと聖杯戦争の開催者に強い(逆)恨み
4.いつかウェカピポと再戦し、この手で殺す。
[備考]
1.討伐令についての参加は保留し、状況の把握を優先します。
2.バーサーカー(モードレッド)による『調教』の結果、サーヴァントに鉄球は効果がない事を分からされました。
3.冬木の街に参加者としてウェカピポがいる事を把握・確信しました。
4.魔女ちゃんと会い、自分の怪我を治すよう要求しましたが、逃げられました。
【バーサーカー(モードレッド)】
[状態] 軽傷
[装備] 王剣 不貞隠しの兜 騎士甲冑
[道具] 無し
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:Faaaaatthhhhhheeeeeeeerrrrrrrrrrr!!!!
[備考]
1.ウェカピポの妹の夫の指示で病院に行くウェカピポの妹の夫に同行します。
2.アーチャー(
ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム)、セイバー(スキールニル)を認識しました。
3.アーチャー(ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム)、セイバー(スキールニル)と交戦し、撤収しました。
4.シールダー(ベンディゲイドブラン)の使い魔であるワタリガラス『ブラン』を認識しました。しかし、それの捕獲や殺害にまでは至れませんでした
5.シールダー(ベンディゲイドブラン)、セイバー(源頼政(猪隼太))、バーサーカー(████(ジェヴォーダンの獣))と接触。シールダー(ベンディゲイドブラン)と交戦しました。自分の父上のアルトリアと似た魂を持つシールダー(ベンディゲイドブラン)に強い執着を見せています。
6.マスターが、ウェカピポに対し強い憎悪を抱いている事を理解しました。
最終更新:2017年06月05日 10:46