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あなたは、ワードナの手記を開いた。
ワシの意識に反応して、魔法の光が浩々と
あたりを照らし出した。
この明るさを得るまで、二十年という長い時を
かけただけあって、しっくりと目に馴染む。
・・・・やれやれ、やっと落ち着いた。
先ほどまで、暴れまくるしもべと戯れた
疲れを忘れて、ニヤリという笑いが漏れる。
後の始末は、朋友のバンパイアロードに任せてある。
今のワシには他にやらねばならぬことがあるのだ。
あのアミュレットの謎を解かねばならない。
ここ数年ワシの頭を悩ませ続けている諸悪の根源。
これ以上、時間をかけるのもワシの名誉に関わると
いうもの・・・
名実ともに世界最高の魔法の品だけはある。
その輝きに見入りながらワシはそれを手に入れる
きっかけとなった出来事をここに記そうと思う。
普段、手を掛けてやっている骨董屋が、興奮気味に
ワシの目の前で広げた巻物・・・
それを残した者について、ワシと同じ道を歩く人間
ならば知らぬものはいまい。
あの「神々の楽園」の門を開き、世界を破滅寸前まで
追い込んだ伝説の魔術師・・・
これこそ天命というものではないか?
翌日から、ワシは全てのことを投げ捨てて、
その巻物の解読に熱中していた。
神々の楽園とは何か?
有史以来、様々な伝説によって彩られてきたが、
人以外が創造したものであるとしかわかっておらぬ。
そのくびきを断ち切ったのが、他でもない例の
魔術師だった。
強力な魔力により神殿を開放し、
--その意味も知ららず--結果、神々を召喚した。
山々は崩れ、海は裂けた。空はいつまでも赤く燃え、
風は狂乱したという。
つまり、世界は滅びる寸前だった。
だが、世界はこのとおり今も時を刻んでいる。
すべてを救ったのはアミュレットだった・・・
確かなことは何一つ分からぬまま、そう伝えられ
ておる。
多くの人間が、強大な力を秘めたアミュレットの
存在に魅かれ、「神々の楽園」に消えていった。
ワシとて一度はアミュレットを欲した身。しかし、
身の保障無しに訪れるなど、正気の沙汰ではない。
しかし、こうして幸運はやってきたのだ。
もっともワシが期待していたのは、アミュレットに
ついての記述だった。
そして・・・解読を終えた時、予想以上の知識が
そこにはあった。
伝説は事実として記され、封印の開放の方法と、
そして神々の楽園における探索の日記。
最後に、ワシはとうとう最大の秘密を知った。
ミスリルグローブ・・・
唯一アミュレットに触れることができる道具!
ワシは早速ミスリルグローブの探索の旅に出かけた。
たかが伝説の品など手に入れることなどたやすい
ことだ。案の定、数日でその存在を知ることが出来た。
ワシはその狭い掘っ立て小屋の中で、怒りのあまり
最大級のティルトウェイトをかましていた。
その持ち主は何を勘違いしたのか、伝説の品を明かり
代わりに使っていたのだ!!
反省が必要と見たワシは、男を塵と変え、新たな
生命の材料にしてやった。
これでアミュレットを入手するための手筈は整った。
あとは「神々の楽園」に降り立つのみ。
場所は調べるまでもなく、また神々の文字についての
解読は終えていたので、アミュレットのありかを
見つけるのはたやすいことだった。
ワシを誘うように目の前で、「神々の楽園」の門が
開いていく!
だがしかし、そこで待ち受けていた運命はより
過酷なものだったのだ!!
ない・・・
驚愕のあまりワシは動きが止まった。
あるべき場所にアミュレットがないのだ!!
ワシは自室に帰った後、原因を探るべく魔法の品を
引っ張り出した。
なんということだ!ワシのアミュレットがあんな
ところに!!
中央の男の手には、銀色に輝くまばゆい篭手!
そして、男たちの行く先を知ったワシは、
顎がはずれんばかりに驚いた
あれは・・・ワシを目の敵にするトレボーの城!!
宮廷主席魔術師になってやった恩を忘れた、狂王!!
面白くなってきたが、楽しむ余裕などありはしない。
ワシは、ありったけのしもべを集めると、トレボーの
城へ文字どおりすっ飛んでいった。
一気に王宮へ押し入ったワシは、周囲のものが殺到
する前に、トレボーの身柄とアミュレットを押さえる
ことにまんまと成功する。
魔法が効いて、一寸たりとも動けぬ奴の前で、
ワシは会心の笑みをもらしてやった。さすがにその後、
やつは怒りのあまり、ワシの首に賞金をかけたという。
そうして、アミュレットはこの世において最初の
所有者--ワシに出会うこととなった。
だが・・・その能力について分かったことは少ない。
ワシにも、トレボーの城の真下に迷宮を構築させた
程度がせいぜいだった。
ただ、忘れてならぬのは、アミュレットを素手で
つかむなということだ。
実験台となって、いずことも知れぬ次元に旅立った
多くのしもべ達には哀悼の意をささぐ(ニヤリ)。
その他に、いくつかわかったことがある。
例えば、あの骨董屋が、くだんの巻物を、ワシにも
分からぬほどの精密な技術で複製し、あちこちの有力な
人物に売りさばいていたことなどが・・・だ。
ふむ・・・今、奴はどうしていることかな?
人間とは自分の器以上の欲をかくとろくなことにならぬ。
ほれ、聞こえるだろう?魂がのた打ち回る音が。
・・・ま、これは大袈裟すぎてつまらぬが。
アミュレットには、まだまだ秘密が残されている。
本意ではないが、生涯をかけて、謎に挑むことに
なろうという予感はあった。
これ以上、バカどもに荒らされることがないように、
ワシは「神々の楽園」を封印するとこにした。
「神々の楽園」から行くことのできる「あの場所」には
まだまだ秘密が隠されているに違いない・・・
・・・ええい、人が良い気分で浸っているのに、
またやつらが騒いでおるのか!
いったいバンパイアロードは何をしているのだ!!
ワシは憤然と席を立った。
ここで、手記は絶筆となっている。
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