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<唯SIDE>
夜逃げ同然で逃げ出した私は、以前に旅行で行った、ある温泉町へ降り立った。
とりあえず寝泊りできるところを探さないといけないので、適当に不動産屋を見つけて
中に入った。
ボロくてもいいので、安い物件を紹介してもらい、そこに決めた。
途中、携帯を新たに購入。
布団と枕、毛布と、電機ストーブを買った。
お金を稼がないといけないので、バイトを探す。
スーパーのバイトと、まかない付きの飲食店のバイトに決めた。
昼近くに起きて、スーパーでお昼を買って食べ、夕方までバイト。
その後は飲食店のバイト。ゴハンはそこでもらい、午後9時まで働いて、
銭湯によってから帰る。
ふとしたことであずにゃんを思い出さないよう、なるべく何かしていたかった。
でも、どんなに働いても、寝る時には必ずあずにゃんを思ってしまう。
彼氏と仲良くしているあずにゃん…
彼氏とキスをするあずにゃん…
彼氏に抱かれるあずにゃん…
毎晩涙でぐちょぐちょになって、それでも無理やり寝った。
町を逃げ出しても、あずにゃんの幻影からは逃げられなかった。
でもなんとか踏ん張り、私はここで生きていこうと決めた。
この町にきて、二ヶ月くらい経ち、季節は冬真っ只中。
いつもの様にみっちりバイトを終え、疲れた足で家路に着く。
アパートの階段をカンカンカンと音を立て上っていく。
自分の部屋のほうを見やると、扉の前になにか大きな荷物が置いてあるのが見えた。
「…お隣さんの荷物かな?」
そう思い近づくと、それが人だということがわかった。
誰かがうずくまって寝ていたのだ。
こんな寒空の下で何を考えているんだろう…
私は驚きながらも、ここでどうにかなってもらっても困るので、
恐る恐る声をかけることにした。
「あ、あの~…だいじょうぶですか?生きて…ます…よね?」
声をかけるとその人は身じろいだ。
よかった…ちゃんと生きてた。
「だ、だいじょうぶですか?」
その人がゆっくりと私を見上げてくる。
「っ!!」
その顔を見た瞬間、私は凍りついた。
「や…やっと見つけましたよ…唯…先輩…」
あずにゃんだった。あずにゃんがここにいたのだ。
なぜあずにゃんが?どうしてここに私がいるってわかった?
うれしさと切なさが同時に襲い掛かる。
「唯先輩…帰りましょ?…ね?」
目に一杯涙をため、それでも優しく微笑んで私に声をかけてくれる。
「やっ!」
私はいたたまれなくなり、きびすを返し駆け出す。
こんな所まで追いかけて来てくれたあずにゃんには申し訳ないけど、
もう放っておいて欲しかった。
「ゆ、唯先輩っ!!待って!!」
少し遅れてあずにゃんが追いかけてくる。
けど、ここで立ち止まるわけには行かない!つかまる訳にはいかない!
全力で…もっと全力で逃げろと、私の脳は足の筋肉に命令を送る。
しかし…
ズシャァッッッ!!
バイト上がりの疲れた体だったからだろうか、足をもつらせて盛大に転んでしまったのだ。
アスファルトに擦られ、結構大きい擦り傷を作ったみたい。
「っったぁぁっっ…」
ジンジンと傷がうずく。まるで私の心と同じだ。
「ゆ、唯先輩!大丈夫ですか!!」
心配そうに叫び、あずにゃんが私に近づいてくる。
あずにゃんを求め、現実を見せつけられ、逃げた結果がこのざま。
すでに私には、逃げる気力なんて微塵にも残っていなかった…
あずにゃんは私の傍らに駆け寄ると、傷の具合を確かめたのち、
ゆっくり身を抱え起こしてくれた。
「だ、だいじょう…ぶだよ、あずにゃん……っ!」
「…唯先輩、色々聞きたいこともありますけど…
今は傷の手当てが先です
お部屋、行きます…いいですよね?」
「…うん…」
どこまでも優しいあずにゃんの声色に私はうなずくしかなかった。
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<梓SIDE>
足にケガをしてしまった唯先輩を抱え、今さっき走ってきた道を戻る。
久しぶりに感じる唯先輩の温もりに、体中が熱を持ち、喜びに打ち震えた。
「唯先輩…あったかいです…」
「…」
部屋につき、カギを開けてもらい中へと入る。
電気をつけて部屋中が光に満たされると、私は息をのんだ。
「…な…なんですかこの部屋は……な、何もないじゃないですか…」
目に付いたのはお布団とストーブ。それに唯先輩の逃走用の鞄。
普通はあるであろう、テレビも冷蔵庫もレンジも、カーテンすらない。
およそ、華の女子大生が生活しているとは思えない有り様だった。
「…しょ、食事とか、どうしてるんですか…」
「…バイト先のスーパーでお昼は買って…
夕ご飯は、その…まかない付きだから…」
「テレビは…」
「特に必要はない…かな…」
「…」
「…お部屋は…寝れればいいから…」
「そ、そんな…」
可愛いもの、美味しいものが大好きで、寒さや暑さが大嫌いな唯先輩が
二か月もこんな生活を続けていたのかと思うと、胸が締め付けられる。
目の奥から涙が溢れた。
でも、滲む視界の端に、この部屋には似つかわしくないものを見つけ、
ちょっとだけ笑みがこぼれた。
だって、本質は変わってないんだなと、安心出来たから。
「…ギー太はしっかり持ってきたんですね」
「うん…」
かろうじて置いてあった消毒液とガーゼで、応急手当をはじめる。
結構擦ったみたいだけど、あまり深い傷じゃなくて良かった。
「痛くないですか?」
「ん…だいじょうぶだよ…ありがとう…」
「いいえ、どいうたしまして」
手当を済ませた私は、元気のないままの唯先輩の隣へ腰を下ろす。
一瞬ビクッと震える先輩を見て切なくなるが、ここで臆しちゃダメなんだ。
「唯先輩…あの…理由、聞いて…いいですよね?」
「…」
唯先輩の無言を、私は肯定として受け取る事にした。
「唯先輩…どうして居なくなったりしたんですか?」
「…あずにゃん……澪ちゃん、何か言ってた?」
質問を質問で返されてしまったが、ここは唯先輩の質問に答えるべきだろう。
「えと…澪先輩が、律先輩とお付き合いを始めた って報告してくれました
……唯先輩はしってますよね?」
「…うん…」
「澪先輩、唯先輩のおかげだって感謝してました」
「…私、そんな大したことはしてないよ…
ただ澪ちゃんが放って置けなかっただけ…
ううん…私が口出ししちゃったから、みんなギクシャクさせちゃったんだよ…」
「そ、そんなことないです!
確かに一時期は、その…あれでしたけど…
でも結果的に、元通りにしてくれたじゃないですか!?
…あとは、唯先輩だけなんです…」
「ありがとね…
…澪ちゃんね…同性愛の事で悩んでたの」
「え?」
「りっちゃんを…同じ女の子を好きになっちゃって、澪ちゃん苦しんでた…
私も最初、二人は
ずっと一緒で、そうゆうことは気にしていないと思ってたけど、
そうじゃなかったんだよね…」
「そう…ですか…」
「この感情は女同士で許されていいのか… 律っちゃんはどう思うのか…
仲のいい親友として長年歩んできた分、恋愛感情に戸惑っちゃたんだ
それに、りっちゃん人付き合い上手だから、いつか彼氏が出来るんじゃないかって
ずっと不安だったって…」
「…」
「気持ちを伝える事も、諦める事も出来なくて…そんな澪ちゃんが痛々しくて…
だから私…」
「…唯先輩だけは澪先輩の悩みに気づいたんですね…」
「うん…私には分かった…
…だって、私も同じだったからね…」
「…同じ?」
「うん…私もね、澪ちゃんとおなじで、女の子を好きになっちゃったんだ」
「え…?」
心臓がドクンと跳ねた。
唯先輩には好きな人がいる…それも女の子…
…それって、もしかして…もしかして…
「だからね、澪ちゃんがりっちゃんに告白して、受け入れてもらったら
私も気持ちを伝えようって…そう決めたんだ…」
「…」
「でもね……伝え…られなかった…」
唯先輩の表情が苦痛に歪むのが分かる。
「ど、どうしてですか?」
「だって……だって!」
すると唯先輩は突然頭をふって叫びだした。
「私の好きな人にはもう、大切な人が……彼氏がいたんだよぉっ……!」
「っ!」
「私ぃっ!あずにゃんがぁっ!好き…大好きだったんだよぉっ!!」
「っ!!!」
「でもっ!あずにゃんにはっ!!彼氏がいたんだっ!!」
う・・・ううっ・・・うわあぁぁぁぁぁっっっっっっっっっ!!!
そう叫ぶと、唯先輩は頭を抱えてうずくまり、泣き出したのだ。
それはいわば告白だった。
夢にまでみた唯先輩からの告白…
でもそれは、絶望感に満ち溢れた哀しい告白だった。
大体私には彼氏なんていない。いたことも無い。
でも唯先輩は確かにそう言った。
唯先輩が何を言ってるのか分からないが、いえる事はただ一つ。
唯先輩は、何か
勘違いをしてるんだ。
そう理解し、私は泣きじゃくる唯先輩に縋りついて言った。
「唯先輩!何を勘違いしてのか知りませんけど!
私には、彼氏なんていません!」
「ウソだっ!!…ウソだウソだウソだぁっっ!!」
「ウソじゃないですっ!!」
「だって見たんだもん!!あずにゃん!キスしてたんだもん!!」
「っ!?」
キス…って?ひょっとしてあのキスの事?
もしかして、唯先輩にあれを見られたって事?
ということは、唯先輩はあの日、私に気持ちを伝えに来てくれたんだ…
私はバカだ…大バカだ!
どうしてあの時、唯先輩に気が付かなかったんだろう。
気づいていれば、すぐに追いかけてでも誤解を解けたのに…
唯先輩をここまで追い込んだのは、他の誰でもない、私だったんだ!
でも今は後悔している場合じゃない。
唯先輩は誤解しているだけなんだ、ならちゃんと話して誤解を解いてもらえばいいだけ!
私は唯先輩を包むように背中から抱きしめて可能な限り優しく声をかけた。
「唯…先輩…」
「やっ!!優しくしないで!!放っておいてよぉっ!」
唯先輩が私の抱擁を拒もうとする。でもそうはさせまいと、私も力を込める。
「唯先輩は誤解してるんです」
「してない!ハッキリと見たもん!!キスしてたもん!!」
「はい…確かにキスしました」
「…っ! う、ううっ……ううっ…うっ…うわぁぁぁっっっ!!」
私を振りほどこうと唯先輩は体を捩ったけど、私は絶対離すわけには行かなかった。
「…キス…されたんです……無理やりに…」
「…え…?」
唯先輩の動きが止まった。
「あの男は…彼氏なんかじゃありません
無理やりキスされたので、その後思いっきりビンタしてやりました…
警察にも電話したんですよ?男に襲われたって」
「う…そ…」
「本当です……唯先輩…話を聞いてください…おねがいですから…」
「あずにゃん…」
「お、おね、がい…ですっ…」
いつの間にか泣いていたのは私のほうだった。
「うん…」
「あ、ありがと…ござ…ますっ…」
私は少し落ち着かせてもらってからゆっくり話し出した。
唯先輩が告白に来た日はバイトが入っていたんだけど、朝から熱っぽかったので
大事をとって休ませてもらった。
でもバイトで使う書類を持ってきてしまった事に気づいて、電話を入れたら、
バイト仲間の女の子が取りに来てくれることになった。
でも実際来たのは例の男の人。
「あの男の人は、バイトの仲間なんですけど、顔を見たことある程度なんです」
その男の人もバイト仲間だが、シフトは一緒になったことは無い。
でもあちらは私を知っていて、私に気が有ったらしいのだ。
そこで、女の子に頼み込んで、変わりに私に会いに来たと言うわけだ。
一応バイト仲間だったし、書類を渡すだけだったから、
特に何も考えないで対応に出た。
「いきなり”付き合ってくれ”って告白されたんです…
当然断断りました…わたし、その人のこと何とも思って無かったですから…
でもしつこく食い下がってきて…」
「うん…」
「そしたら…その…いきなり肩をつかまれて…キスされて…」
「あずにゃん…」
「ものすっごく腹がたったから、思いっきりビンタして、突き飛ばしてやりましたよ…えへへ…」
「…」
「すぐさま部屋に戻ってカギをかけて、警察に電話して…
男は部屋を叩いてなにやら謝罪してたみたいなんですけど、そこに警官が来てくれて…」
その男の人は当然クビ。私もそこのバイトは辞めた。
これが唯先輩が見た私のキス騒動の顛末だ。
「…唯先輩…わかって…もらえましたか?
まだ信じてもらえないのなら、警察に聞いてくださってもかまいません…
信じてください…おねがい…」
「…全部…誤解だったんだ…」
先輩、信じてくれたんですね。
「…そうですよ…誤解です…
もうちょっとだけあの場にいてくれれば…」
「…っ…ご、ごめん…ごめんなさい…」
誤解だと分かり、唯先輩の体から力が抜けていくのを感じる。
そして謝りだす先輩を、私はぎゅっと抱きしめた。
「いいんです…私が油断しててキスをされてしまったのがいけないんですから…」
「ううん…あずにゃんだって、無理やりキスされて、嫌な思いしたのに……それなのに私…」
「確かに嫌だったけど…ファーストキスじゃないですから…
…犬に噛まれた事にしておきます」
「え…それって…///」
唯先輩は真っ赤になってちょっとあせったようだ。
「私、覚えてますからね!私のファーストキスのお相手は唯先輩ですから!」
以前に二人で行った旅行先…この温泉町で、旅の雰囲気のせいだったのだろうか、
私と唯先輩はもんのちょっとだけ、いいムードになった。
その時、半分は興味本位って感じだったけど、紛れも無く”キス”をしたのだ。
二度三度と唇を交わらせたのを今でも鮮明に覚えている。
それが私のファーストキス。
あの後、唯先輩と私は謝罪合戦。お互いに照れくさかった。
結局は女の子同士のちょっとしたじゃれ合いって事になってしまったけど、
私はあのキスを生涯忘れるつもりは無かった。だって、本当に嬉しかったから。
出来ればそのまま想いを伝え、恋人になりたかったんだけど、
唯先輩が私をどう思っているかハッキリとはわからなかったし、
その時はまだ、
先輩後輩の関係で充分だったから。
唯先輩と一緒に居ることが、この上なく幸せだったから。
でも今思うと、あの時想いを伝えていれば、こんな事にならなかったのでは…
「ねぇ唯先輩…もう一度言ってくれませんか?」
「え?」
「もう一度、告白…してください…
あんなやけくそな哀しい告白だと、辛い…です…」
そう言うと、私は唯先輩からゆっくり体を離す。
唯先輩もゆっくり起き上がり、私のほうへ向き直ってくれた。
目元を擦って涙をふき、ぐしゃぐしゃになった髪の毛を手で梳いた。
そして、真剣な表情で私の目を見つめて…
「あずにゃ…ううん…梓ちゃん…」
いつもと違う呼び方に胸が高鳴る。顔が熱い。
「は、はい…」
どんなに小さい声も聞き逃さないように、唯先輩の言葉に全意識を集中させる。
「わ、私…私ね……あ、梓ちゃんの事が…」
「…はい」
「好き…大好きだよ!」
好きだと言ってくれた…私の事を 「大好き」 だと言ってくれた!
全身が喜びで満ち溢れる。一気に涙が溢れる。止まらない。
唯先輩が物凄くいとおしい…
気づいたら私は唯先輩に思い切り抱きついて、泣いていた。
「うっ…ぐすっ…ぐすっ……ふえぇぇぇぇ~~~~…」
「あずにゃん…ぎゅっ」
唯先輩は優しく私を抱きしめて、頭をなでてくれた。
二ヶ月ぶりの唯先輩の抱擁。
「私も…好きです! 唯先輩のことが、大好きです!!」
「あ、あずにゃん…」
「私を…こ…恋人にしてください!」
「うん…うん…もう、恋人だよ、私たち…」
二人で抱き締めあって、ただただ、泣きあった。
だけど、その涙は、幸せで満ち溢れた涙だった。
おかえりなさい…唯先輩…
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<唯SIDE>
結局は私の勘違い。
誤解が解けてしまえば、あとは想いを伝えるだけ。
そしてその
きっかけをあずにゃんは作ってくれた。
『告白してほしい』と、ハッキリそう言った。
想いを伝え合い、お互い受け入れて…
私とあずにゃんは恋人として新たな一歩を踏した。
以前
思い出を作ったこの土地で、一生忘れる事の出来ない新しい思い出を築いたのだ。
「みんなにも迷惑かけちゃったなぁ~」
「そうですね…
律先輩、ものすごく怒ってましたよ?」
「あぅぅ…どうしよう~」
「でも、唯先輩の元気な姿をみたら、きっと許して貰えますよ」
「そ…かな?」
「そうですよ
じゃなかったら、私も一緒に謝りますから」
「え? あずにゃんは謝る必要ないじゃん?」
「何言ってるんですか 今回の事は元々、私が原因じゃないですか」
「ちがう!ちがうよ!
私が勝手に勘違いしたのがいけないんだよ?」
「その勘違いさせたのは私なんですから、私の責任なんです!」
「ううん!そもそも私があずにゃんを好きだったから!」
「なんですかそれ!私も唯先輩のこと、ずっと好きだったんだから!」
「むむむ…」
「う~~~…」
「ぷっ! あはははは!」
「ぷっ…ふふっ」
いつの間にか言い合いになったと思ったら、おかしくて噴出してしまった。
いいな、こうゆう雰囲気。以前と何も変わらない優しい空気。
「私とあずにゃん…ずっと両想いだったんだね~」
「そ、そうでうね……私、高校生の頃から…その…好きでした…よ?」
「え?そんな前から?
そりゃ、嫌われているとは思わなかったけどさ~
なんでだろ?全然気づかなかったよぉ~」
「ふふっ…だって唯先輩って、自分の事には鈍感なんですもん!」
「そ、そなの?」
「そうですよ?知らなかったんですか?」
「うん…」
「二人だけで旅行までいったのに、気づいてくれなかったんですか?」
「ご、ご、ごめんね…」
「いいんです
だって今、すごく幸せなんですから///」
「うん、私もだよ、あずにゃん///」
あずにゃんと色々お話をして、結局私は帰ることになった。
でもバイト先にも連絡をしなきゃいけないし、アパートの解約手続きもある。
だから帰るにしても今日、明日って訳にもいかない。
それまで、あずにゃんも一緒に居てくれるって言ってくれたけど、
さすがにこれ以上迷惑をかけることは出来ないと思い、先に帰ってと伝えたのだが、
あずにゃんは「嫌です!絶対一緒に帰るんです!」といって聞かなかった。
とりあえず今夜はあずにゃんを泊めるないといけない。
私の部屋には布団は一組しかないから、必然と一緒に寝る事になる。
お布団に一緒に入り、向き合ってお互い抱きしめあう。
少し大きめの布団を買っておいてよかった~。
でも、ドキドキして寝れません…
「唯…せんぱい…」
あずにゃんも寝れないのか、私の名前を呼んでくれた。
「なぁに?」
「…寒い…です…」
小さい電機ストーブはずっと付けているけど、これ以上の暖を取るこのは難しい。
寒がるあずにゃんに何もしてやれないと思い、落胆すると、あずにゃんは真っ赤になってた。
「もぅっ…バカ…///」
ちゅっ
「え…///」
あずにゃんからキスされて、思わずびっくりしてしまった。
でもあずにゃんの気持ち伝わったから、私からもキスのお返しをした。
「あずにゃん…///」
ちゅっ んちゅっ ちゅっ
互いの唇をついばむ様にはみ、想いを伝え合う。
今まで会えなかった分を取り戻すように、キスを続ける私たち。
唇を離しても顔は近いまま、あずにゃんを見つめ、聞いた。
「あ、ずにゃ…ん…まだ、さむい?」
「は…い……まだです…まだ寒いです…もっと…もっと温めてください…」
「あずにゃん…」
「ゆい…せんぱい…」
瞳を潤ませ、蕩けるような上気した表情であずにゃんが私を見つめる。
きっと私も同じ表情をしてるんだろうな。
「あずにゃんが……私…あずにゃんが欲しい…」
「…うれしいです…ぐすっ…
抱いて下さい…唯…先輩…」
「うん…いっぱい、愛してあげるね…」
****
**
*
*
*
この町に来て初めてなんじゃないかな?こんなにゆっくりと眠れたのは。
腕の中にある確かな温もりが、こんなにも心を満たしてくれる。
「あずにゃん…」
ゆっくりとその艶やかな黒髪をなでる。
「ありがとね…」
少し身を捩り、私にしがみついて来るあずにゃん。寒いのかな?
風邪引かないようにお布団をしっかり掛けなおしてあげる。
ふふっ。
私の夢でもみてるのかな?
「唯先輩はここですよ~」
あずにゃんを想う気持ちを全て込め、その頬に優しく口付ける。
ちゅっ…
もう私は大丈夫。
あとはあずにゃんと一緒に、みんなの元に戻るだけ。
りっちゃん怒ってるかな?
澪ちゃんはしあわせかな??
ムギちゃんは泣いてないかな?
憂も和ちゃんも純ちゃんもさわちゃんも、心配かけてごめんね?
みんなでお茶してケーキ食べて…演奏して…
ずっとずっと、ずーっと、みんなで楽しんでいけるよね?きっと。
あずにゃんと一緒に未来に向かって進んでいくんだから、
楽しくないはずはいよね?
ね、あずにゃん…
ずっとずっと一緒だからね!
FIN.
- 感動した! -- (名無しさん) 2012-02-20 08:51:19
- これはいい話だなー -- (名無しさん) 2012-02-21 00:16:26
- 久々に集中してしまった -- (名無しさん) 2012-02-21 21:34:28
- 久々の良長編にコメントせざるをえない。きゅんきゅんしますた。 -- (名無しさん) 2012-02-27 00:44:57
- よかった -- (名無しさん) 2012-09-19 20:47:15
- かなり良かったです。 -- (名無しさん) 2013-08-28 19:52:54
- すばらしい!! -- (名無しさん) 2014-04-23 06:30:04
最終更新:2012年02月19日 16:01