森近霖之助×ゆっくり系1 代価

魔法の森の入口には一軒の建物がある。
建物の名は『香霖堂』、外の世界から流れ着いた道具を変わり者の店主が売っている店である。
少ないが常連客は一応居るのだが、その常連客の中で代価を支払い物を買う常識のある者はほんの一握りの為店の売り上げは芳しくない。
そんな香霖堂に一人の少女が訪れた。
代価を支払わない常連客、黒白の魔法使いこと霧雨魔理沙だ。
カラン、カランとベルを鳴らし、魔理沙はいつもの様に香霖堂へ入る。
普段ならそのままズカズカと奥へ行くのだが、今日は入口で立ち止まり一言漏らす。

「なんだ、これ…」

ガラクタばかりの店内だが、常連にだけ分かる点がある。
荷物が増えているわけではない、ガラクタもいつもと同じように埃まみれなのも同じだ。
ただ、何故か散らかっている。
地震があったかのように、棚に置かれていた物も床に積まれていた物も同じように地面に落とされている。
中には壊れてしまった物もあるようだ。

「魔理沙、何時も言っているが黙って入ってこないで一声掛けてくれないか?」

店の奥からぶつぶつ小言を言いながら、透明な箱を抱えた一人の男が出てきた。
香霖堂の店主、『森近 霖之助』である。

「そんなことより香霖、地震でもあったのか? いつにも増して店が散らかっているじゃないか」

霖之助の小言を無視して魔理沙は聞く。
長い付き合いだからか、これ以上言っても無駄だと悟り霖之助は溜息を吐いてから答える。

「それはこいつの仕業だよ」
「こいつって、箱の中の奴か?」

霖之助に近づき、箱を覗き込んで魔理沙は聞く。

「ゲ、こいつは…」

箱の中には黒白の魔法使いの顔と紅白の巫女にそっくりな生物がいた。

「君も知ってるだろ? ゆっくりだよ」
「つまり、この散らかりは…」
「そう、全部こいつらにやられたんだ…」

もう一度溜息を吐き出す霖之助。
魔理沙も同じように溜息を吐く。
自分がやった事ではないにしても、流石に自分と同じ顔がやったのだか申し訳なく感じるのだ。

「で、そいつはどうするんだ?」

魔理沙の視線の先には二匹のゆっくりが飛び跳ねている。
箱の中の音は聞えないが、大方「こっからだしてね!!」だの「いいかげんにしないとおこるよ!!」等と言っているのだろう。

「とりあえず今は片付けを優先するよ。流石にずっとこのままにしておくわけにはいかないしね」
「そっか、手伝ってやろうか?」
「遠慮しておくよ。君に任すと大切な商品が無くなったり壊されたりしそうだからね」
「酷い言われようだぜ」

いつもと似たようなやり取りではあるものの、霖之助の表情は暗い。
一応使い方も分からないガラクタばかりとはいえ、それが壊されてしまったのがショックなのだろう。

「じゃ、今日は帰るぜ」
「分かった。暫く経ってからまた来るといい」
「またな香霖」

箒に跨って飛んで行く少女を見送り、霖之助は店の中へ入っていく。
相変わらず散らかったままの店内を見渡して、また溜息を吐く。
整理する切欠としては十分ではあるものの、やはりこうまで荒らされてしまったのがショックなのだろう。

「さてと…」

一言呟いて、切欠を作り出した元凶の入った箱に近づき蓋を開ける。
箱が開いたと分かった二匹のゆっくりは途端に喚き出す。

「はやくれいむたちをここだしてね!!」
「そうだよ!! まりさたちをとじこめるなんてひどいよ!!」

何でこういう事になったのか分かっていない二匹だが、霖之助は気にせず話し掛ける。

「ちゃんとこの箱から出してあげるさ。ただ、君達からは代価を頂かなければならないんだ」
「ゆ? 『だいか』?」
「『だいか』ってなに?」

代価という言葉がなんなのか分からないのか、ゆっくり達は霖之助に聞き返す。

「君達は僕の店を荒らしたからね、中には壊れてしまったものもある」
「そんなのしらないよ!!」
「ここはまりさたちのおうちだよ!!」
「そう言うのなら君達はずっとここにいなければいけない。それでもいいのかい?」
「「ゆぅ~…」」

ゆっくり達は思った。ここにずっといるのは嫌だと。
昔のように外を跳ね回りたいと。

「その『だいか』っていうのをやれば、れいむたちはここから出れるの?」
「そうだよ、君達から頂ければ僕は君達をその狭い箱から出してあげる事を約束するよ」
「じゃあ、まりさたちはなんでもやるよ!! だからはやくここからだしてね!!」
「本当に何でもやるのかい?」
「しつこいよ!! なんでもやるからはやくだしてね!!」
「じゃあ、後悔しないでくれよ?」

ゆっくり達は気づいていなかった。口元に浮かんだ霖之助の微かな笑みに…

















霧雨魔理沙は箒に乗って香霖堂を目指している。
あれから一週間が経った。流石にそれだけ間を置けば、あの香霖堂の乱雑な店内も片付くと魔理沙は考えたのだ。
いつもの様に香霖堂の前で箒から降り、カラン、カランとベルを鳴らしながら店内へ入る。
以前の荒らされた店内を見たときと比べると、そんなに変わらないようにも見えるがやはり片付いているようにも見える。
元々物が雑多に置かれていたとはいえ、やはり常連にだけそれがいつも通りの香霖堂だと分かるものがあるのだ。

「香霖は…奥か?」

そのまま店の奥へ魔理沙は行くと、よく知る人物がそこにいた。
紅白の巫女、博麗霊夢だ。

「霊夢もきてたのか。香霖は?」
「今お茶菓子を取りに行ってくれてるわ。魔理沙も自分でお茶淹れなさい」

そう言って霊夢はお茶を啜る。
魔理沙は霊夢に言われた通りお茶の準備を始めながら、霊夢に話しかける。

「でも珍しいよな、香霖が自分から茶菓子を用意するだなんて」
「言われてみればそうね。なんか良い事でもあったんじゃない?」

さして興味が無いのか、霊夢は言い終えるとお茶を啜った。
魔理沙もお茶を淹れ終えて隣に座ると、霖之助が布を被せた箱を抱えて戻ってきた。

「なんだ、魔理沙も来てたのか」
「なんだとは酷いんだぜ。それより、早く茶菓子が欲しいぜ」
「そうね、お茶ばかり飲んでたからそろそろ甘いものが欲しいわ」
「はいはい、今渡すよ」

苦笑しながら、霖之助は箱に被せてあった布を退けると、霊夢と魔理沙はお互い時間が止まったかのように動かなくなった。

「ちょうど昨日作らせたばかりだったからね、二人ともいいタイミングで来てくれたよ。霊夢にはれいむを、魔理沙にはまりさをあげよう」

動かなくなった事に気づいていないのか、霖之助は固まってる二人に箱の中から取り出したゆっくりを渡していく。
箱の中には、一週間前に香霖堂を荒らした二匹のゆっくりがいた。
少し違う点は、二匹とも蔓を生やしていることだ。
霖之助は蔓に生えている赤ん坊のゆっくりをもぎ取り、そのまま口へ運ぶ。
その様子を見ているゆっくりは、擦れた声で「もうゆるじでくだざい…」「あかちゃんたべないで…」と呟いていた。

「な、なあ香霖…」
「その、箱の中身はなんなのかしら…」

少しずつ動き始めてきた魔理沙と霊夢はゆっくりを食べている霖之助に聞いた。

「何って… 見ての通り饅頭だよ。中々美味しいから食べてみるといい」
「いや、それってゆっくりでしょ?」
「確かにゆっくりだけど、饅頭である事には違いないよ」
「もしかして、それって店の中荒らして奴か?」
「そうだよ。あそこまで荒らされたのに何も頂かないで返すわけにはいかないだろ? だから今この子達には荒らした分の代金としてお饅頭を貰っているのさ」

そう言ってまたゆっくりの茎に生えている小さいゆっくりをもぎ取る霖之助、もう箱の中のゆっくりは泣いてしかいない。

「しかし二匹で荒らされたから良かったよ。一匹だけだったらこうやって饅頭を作る事はできなかったからね」
「…自分と同じ顔を食べられるのはちょっと複雑なんだぜ」
「魔理沙に同意するわ。それに、生き物は扱わないんじゃなかったの?」
「勿論このゆっくり達を誰かに売るつもりなんて無いさ。それに言ったろ? 荒らされた分の饅頭さえ頂ければちゃんと放してあげるって」
「じゃあ、それまではずっと飼うつもりなのか?」
「当たり前だ。ここは店で、この子達は店の商品を壊したんだ。代価を受け取り終えるまでは放すつもりは無いよ」

霊夢と魔理沙は顔を合わせ、溜息を吐く。

「香霖は私達と同じ顔をしてるこいつらを飼って何にも思わないのか?」
「見てるこっちとしては凄い複雑なんだけど…」

魔理沙は呆れ、霊夢は冷ややかな視線を向ける。

「おいおい、君達とゆっくりは違うだろう?」

その言葉に二人は驚いた。
この変わり者の店主がそういうまともな事をいうとは思わなかったからだ。

「香霖がそう言うとは以外だぜ」
「そうね、霖之助さんなら顔が同じってだけで同一視しそうだもの」

感心する二人に、店主は言葉を放つ。
それも、二人にとってはとても屈辱的な言葉をだ。

「盗んでいく君達と違って、ゆっくりはきちんと代価を払うんだ。一緒にしたらゆっくりに失礼だ」
「……」
「……」

二人の時は再び止まった。
自分と同じ顔をしている頭だけの饅頭以下と言われたのだ。これ程屈辱的な事は無いだろう。

「そう言われるのが嫌だったら、君達も勝手に盗んでいくのはやめるんだね」

霖之助の言葉に、二人は何も言い返せなかった。



箱の中のゆっくり達
草を食わされ生かされて
今日も明日も子供を作り献上す
昔のように跳ね回れる日が来るのはいつか
それを知るのは半人半妖の店主だけ






こんな駄文を最後まで読んでいただきありがとうございます!!
これを書いた切欠は、虐めSS一覧に霖之助の奴ってないんだ…って気づいたからです。
せっかく今年東方香霖堂の単行本が出るんだから、これは書かねばならんだろう!!と思いました。
できたこれは霖之助とゆっくりと言うよりは、ゆっくりを使った霖之助の霊夢・魔理沙虐めな気もします…
本当に御目汚し失礼!!
by大貫さん





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最終更新:2022年06月16日 03:41
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