※夏休みだから三本立て
それぞれ風味がバラバラです。三本目は愛で成分多いです
※パロディです悪意なんてありませんごめんなさい
1、元祖
全身に泥を被った男性が突然、職場に駆け込んできた。
「ちょっとこれ! これ配送ミスですよね!? こんなんじゃ仕事にならないですよ!
どうするんですか!?」
自動ドアを破らんばかりの勢いに、開口一番の罵声。腰が抜けるかというほど
驚いたのだが、彼の名前と職務を思い出し、私は事の重大さを認識した。
私の職場、クール便配送センターがにわかに活気づき、慌ただしくなる。一刻も早く、
膨大な量の貨物から“あれ”を探し出さなくては。職員の間を指示と報告が飛び交う。
とはいえ私はただの受付係なので、ここに立っていることしかできない。いや、
ここに立っていなくてはならない。…彼のために。
「自分で言うのもなんですけどね、治安に直結してますから、僕の仕事。
こういうの困りますよ」
彼はカウンターによりかかり、私の前に“それ”を置いた。間違えて渡された
“それ”では、確かに仕事にならないだろう。命さえ危ういかもしれない。
ため息をつくその姿からは、重い疲労が滲み出ている。
よく見ると服のあちこちが破けていた。彼の体は傷だらけだった。
「まあ、うっかりこれで出てしまったのは僕ですけどね…はは…」
私は何も言えなかった。
気まずい沈黙の後、奥から彼の荷物が運ばれてきた。ひたすら頭を下げる所長を前に、
彼はバリバリと乱暴に包みを開いた。
「こちらこそすみませんでした! ともかく急いでるんで、現場戻らないと!
まあ今度飲みにでも行きましょう!」
先ほどまでとは一転、明るい声と笑顔。彼の首の上で輝く、それは。
「元気、100倍!」
彼は本来の頭を接続すると、マントをなびかせて空高く飛んで行った。
私たちのヒーローはいわゆる単身赴任。だが故郷で作られた本物のパンでないと
力が出ないのだそうだ。今回の配送ミス、責任は誰がどう取るのやら。
そりゃあ、濡れたら力が出ないし、中身が餡子だけれど。
「…気付けよなあ、いくらなんでも」
「ゆ゛ゆ゛ゆ゛…」
後には傷だらけの
ゆっくりれいむが残された。
※ ※ ※
2、帰ってこないウルトラみょん
幾何学模様を乱された海岸線。おもちゃのブロックのように蹴散らされたコンテナ。
薙ぎ倒された何本ものクレーン。転覆した貨物船。石油化学製品の黒煙が刺激臭を
放ち、辺り一面を覆う。
ここは太平洋に面した貨物港。その只中に青白い未知の巨獣が屍を晒し、
ペンキのように青く濁った血を流していた。そして長い影を落とす白銀の柱と、
歪んだ黒い塊―――ウルトラみょんの成れの果て。
突如として地球に接近、侵略し始めんとする異星の怪物たち。
混乱を極めた人類に対し、また別の怪物からメッセージが届いた。
それは“ウルトラドス”と名乗った。
全てのゆっくりの母であり、また地球にゆっくりを送り込んだ存在であると。
ゆっくりは来たるべき日に備え、地球を調査し、侵略者を排除し、原住生物を
ゆっくりさせる使命を帯びているのだと。
『それにしては脆弱ではないか?』
『使命など忘れているのではないか?』
『正直迷惑なんですけど?』
人類の疑問に、ウルトラドスはこう答えた。
ウルトラゆっくり姉妹―――ウルトラれいむ、まりさ、ありす、ぱちゅりー、
ちぇん、みょん―――選ばれし戦闘ゆっくりが必ずや異星の獣を倒すと。
そして第一の獣が襲来した。
地球近傍に出現したダチョウの卵ほどの物体は、燃え尽きることなく大気圏を突破、
静かに太平洋へと着水した。人工衛星によって撮影された“それ”は隕石などではなく、
明かに人工的な、それでいて奇妙な物体だった。
黒くいびつな形状、血で描いたかのように赤く輝く線模様。
海底でひび割れた“それ”から、軟体質の何かが這い出した。
それは急激に成長しながら深みを泳ぎ、陸へと向かう。
言い知れぬ不安を抱えたまま、人類は運命の日を迎えた。
そして獣が水面を脱した今、その全貌が明らかになった。半魚人の体に
蛸でできた頭を乗せたような、人類を馬鹿にしたフォルム。不快な深緑色の体表は
ヌラヌラとした粘液をまとっていた。
ごぼり、と醜悪な音を立ててゼリー状の体液が吐き出される。
『ぐぼぼげおぉ…ふんぐるいぃ! ふんぐるいぃぃぃぃぃ!』
天を仰ぎ、口の周りに垂れ下がる無数の触手を波立たせながらの咆哮。
上陸―――この星を凌辱するとの宣言だった。
迎え打つはウルトラみょん。鋭い眼差しは常なるゆっくりのものではない。
「えれくちおーん!」
みょんの叫びに呼応して、ウルトラ楼観剣がまばゆい光を放つ。ウルトラみょんは
巨獣に対抗しうるサイズ、体高およそ100メートルに巨大化し、
不敵な笑みを浮かべた次の瞬間―――ぶつんと音を立てて、頭の皮が裂けた。
『ま゛らっ!?』
誰もが目を疑った。巨獣も、人類も、ゆっくりも、異なる銀河から地球を観ていた
ウルトラドスも。
『ぶべにっ…?』
皮は千々に裂け、体がみるみる崩れていく。
『るろれろ゛…ぞぐ…びょう…』
やがて裾広がりの山、物言わぬ餡子の塊となった。
誰も彼も沈黙。巨獣も振り上げた触手のやり場をなくし、固まっている。
『い゛あ゛っ!?』
静寂を破ったのはミサイルの雨。艦船から、戦闘機から、地上から、ミサイルの
バーゲンセール。“実戦で使ってみたくてウズウズしてたのよね”とばかりに
容赦なく巨獣の体を爆撃、爆撃、爆撃。人道的配慮など宇宙怪獣には必要ない。
人類がウルトラドスに懐疑的であり、戦力を配備していたのが幸いした。
『い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…!』
『ぱぱぱぱっぴぷっぺぽぉぉぉ!?』
巨獣の断末魔と、遥か彼方から発信されたウルトラドスの叫びが重なる。
なぜウルトラみょんが崩壊したのか。その原因は巨大化したみょんの自重だった。
形を保ったままで身長が100倍になれば、体重は単純計算で100の3乗倍、
つまり10万倍になる。
そのため組成の変更や構造の強化は不可欠。ゾウや巨大恐竜の脚は驚くほど太い。
クジラが巨体を誇れるのは、海水の浮力が負担を軽減するからだ。
ウルトラみょんは饅頭のままだった。他の星では問題なかったのかもしれないが、
地球の重力はそれを許さなかった。それを調査するのが先行したゆっくりの
使命だったのではないか…。その問いに答える者はいなかった。
ウルトラゆっくりがまったく当てにならないことが判明した今、人類は初めて
“地球人”としての結束をみせている。まずは首脳陣がウルトラドスを詰問している
ところだ。初の共同作業が銀河規模の言葉責めとは恐ろしい。
自分の居場所は自分で守るものである。
ところで、あの餡の山は誰が片付けるのだろうか?
※ ※ ※
3、スィーライダーまりさ
「おにいざぁーん! スィーがほしいのぜ! スィー!」
「お前、のび太以下だな…」
日曜朝8時半、テレビの前で下手なブレイクダンスのようにじたばたしてるのは
うちの飼いまりさ。ちゃんとしつけたはずだが、どうも子供っぽくていけない。
「スィーならもう持ってるだろ?」
「ちがうのお! これとこれとこれがほしいのぉぉぉ!」
これ、と指すのは家電量販店のチラシ…しまった! おもちゃコーナーなんてもんが
ありやがる! 玩具店のチラシは隠しておいたのに、こんな落とし穴があるとは…。
スィーライダーまりさ、毎週日曜朝8時放送。正義の改造まりさがスィーを
乗り回して怪人をボコる、よいこの人気番組だ。
当然一年ごとに代替わりするし、劇中のアイテムに似せた玩具が販売される。
しかも子供用とゆっくり用がある。儲けるにも程があるわよ、なんてセリフを
どっかのアニメ映画で聞いた気がする。
今期スィーライダーは十代目記念だなんだで、歴代まりさが登場する特別編に
なっている。スィーも変身アイテムもジェノサイドな武器も大発売。
うちのまりさはバリエーション豊かなスィーに心奪われているようだが、
実はどのスィーも中身は一緒。悲しいけれどそれが本物とおもちゃの格の違いだ。
ネットに上がっている検証映像を見せたのだが、全く効果がなかったようだ。
商売が上手いっていうか、もはや外道の域じゃねえか。
「おみぜいぐぅぅぅ! おにーざんがいがないならびどりでいぐぅぅぅ!」
じたばたじたばた。じたばたじたばた。
「おにーざんはドケチなのぜ…かわいいまりざにズィーかってくれないのぜ…」
あ、動き疲れていじけモードになった。まりさ種のくせに体力ないなあ…。
アレを出すしかないか。
「まりさ、まりさ」
じゃじゃーん、と取り出したはまりさの好物、マッシュルームの水煮缶詰。
ぱああ、と擬音付きでまりさの表情が明るくなる。
「ケチャップ! マッシュルームさんにはケチャップのぜ!」
「はいはい」
こんなんだから甘いとか言われるのかね?
さて、スィーを欲しがるまりさの要望は叶えてやりたい。だが出費は抑えたい。
一人+一匹暮らしの家計は厳しいのだ。ここでちょっとしたアイデアが浮かんだので、
実現できるか挑戦してみよう。
数日後、俺とまりさは飼いゆっくり仲間と公園に集まった。ゆっくりがスィーで
遊べる舗装エリアがあるのだ。相川さんちのれいむ、加藤さんちのありす、
佐山さんちのぱちゅりー、田宮さんちのちぇん。
どうやら皆さんもおねだりに困っていたらしく、この話に乗ってくれた。
なに、単なるおもちゃの取り換えっこだ。それでも自分の以外、四種類のスィーに
乗れるわけで、ゆっくりたちもわくわくしている。
加藤さんはビデオカメラまでスタンバイしている。“スィーシェア”しました、
ということでブログのネタにするらしい。
彼のブログはありすの日記(を口述筆記している)という形式になっていて、
そこそこ人気がある。アフィうめえとか言ってるのが目に浮かぶ。
ついジェラシーでパルパルしてしまったが、今日の目的はスィー。
さあゆっくりたちよ、思う存分疾走(はし)るがいい!
「むきゅん、けっこうはやいわね…」と、れいむ号のぱちゅりー。
「れいむのよりはやーい」と、ありす号のれいむ。
「まりさの…まりさの…まりさの…」と、まりさ号のありす。
「おそいよーぜんぜんきもちよくないよー」と、ぱちぇ号のちぇん。
…ん? 何かがおかしい。れいむ号とありす号は普通。まりさ号は置いといて…。
ぱちぇ号は他に比べて明らかに遅い。ならばまりさの乗ったちぇん号は…?
「のぜえええええ!?」
振り返った時にはもう手遅れ。偶然にも柵がジャンプ台となり、まりさを乗せた
高速ちぇん号は見事な軌道を描いて飛び立った。プロもびっくりのスィースタント。
まりさ、輝いてるよまりさ。そしてまりさは砂場の砂山に顔面から突っ込んだ。
スィーはゆっくりの思考で動く不思議アイテム。どうやら持ち主の癖を記憶するらしい。
スピード狂・走り屋ちぇんのスィーは、まりさには乗りこなせなかったのだ。
こうして“スィーシェア”は失敗に終わった。加藤さんにブログのネタを提供して。
日曜朝8時、テレビの前であぐらをかき、まりさをがっちりホールドする。
「今週も楽しみだな、まりさ」
「もうやだぁぁぁ! ズィーライダーなんでもうみなぃぃぃ!」
作 大和田だごん
ヒーローネタで三本立て。だって夏休みだから!
やっとクトゥ描写を(無理矢理)入れられた…ごちゃまぜだけど…
最終更新:2011年07月29日 02:59