【リビング】
俺はリビング床に横になった。
単純に疲れた。
今日は朝から同人誌を買うために遠くまで出掛け、帰ったら
ゆっくりの始末。
普段動かしてない俺の身体はどこかのダディのようにボロボロだった。
久しぶりに身体を動かした時に出る汗が滲む…悪くはないかな。
時刻は午後6時46分。
晩飯…何にしよう…
饅頭…何匹か捕まえておけばよかったな…
あの糞饅頭の事を思い出していたら自然とある言葉を無意識に口ずさんだ。
今日何回もしつこいぐらい聞いた、聞かされた言葉。
頭に焼き付いてはなれない言葉。
「ゆっくりしていってね!」
「「「ゆっくりしていってね!!」」」
聞こえてはいけないはずの声が聞こえた。
どこからだ!どこからきこえた…!!
俺は疲れ果てた身体に鞭を打ち、体勢を立て直した。
まだだ…戦いはまだ終わりじゃない…!!
【玄関】
「ゆゆっ!あとはまりさがこれにしがみつけばとびらがあくんだね!!」
「まりさー!
ゆっくりがんばってね!!」
「むきゅー!うえはまりさにまかせるわ!ぱちゅりーたちはしたからがんばっておすよ!!」
「とかいはのちからをみせてあげるわ!!」
「これでここからにげられるんだねー!わかるよー!」
「ちんぽー!!」
れいむ、まりさ、ありす、ぱちゅりー、みょん、ちぇんの仲良し6匹は脱出まであと少しというところに来ていた。
お兄さんが部屋に逃げ込んだ
ゆっくりたちを虐待している間に少しずつ足場を作り鍵を開けた。
あとはまりさがドアノブを降ろし下の
ゆっくりで力を合わせてドアをあけ充分開いたらまりさは自慢の運動神経で先に外に、その後他の
ゆっくりたちも急いで外に出る。
確かにドアは重いがそこそこの大きさの
ゆっくり5匹もいれば開けることは何とかできる。
お兄さんが玄関を調べていなかったというミスにも助けられたが
ゆっくりたちにしては完璧な作戦だった。
そして当のお兄さんはスタミナ切れでリビングに倒れている。
これは絶対に成功する、その確信が
ゆっくりたちの心にあった。
「ゆゆっ!なかなかしがみつけないよ!」
「まりさ!がんばって!!」
「もうすこしよ!!」
「がんばれー!!」
「わかるよー!まりさならできるよー!」
「ちんぽっぽ!ボイン」
ゆっくりたちがみんなそれぞれまりさを応援している。
その思いはまりさの力となる。
「ゆゆゆのゆっ!はむ!」
まりさはドアノブに噛み付く。
そして自重でドアノブが降りる。
―カチリ―
希望は
「いまよ!みんなぜんりょくでおして!!」
「せーの!ゆーえす!ゆーえす!」
「みて!そとのひかりよ!」
「きれいだねー!わかるよー!」
「ぺにす!」
絶望とともに
…やってきた
『ゆっくりしていってね!』
体に刻み込まれた悲しい習性が後一歩のところで未来を切り離す。
「ゆゆっ!ゆっくりしていってね!」
「ゆ!ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」
ドアノブに噛み付いていたまりさも下でドアを押していた
ゆっくりたちも全員が反応した。
扉は閉まり
ゆっくりたちは玄関に押し戻された。
「むきゅん!まずいわ!おにいさんにきづかれたわ!!」
「ゆゆ!まりさもういっかいがんばるからみんなきょうりょくして!!」
「みんながんばるよ!!」
「とかいはにはじないかつやくをやくそくするわ!」
「さいしゅうけっせんだねー!わかるよー!」
「ちいいぃぃぃんぽ!!」
くそっ、俺とした事が玄関を調べ忘れるとは!
だが
ゆっくりたちの力では扉は
ゆっくりしか開かない。
この家から1匹たりとも生きて逃がしてなるものか。
急いで玄関に行こうとした時、悲劇か…それとも今まで
ゆっくりを虐殺した
ゆっくりの怨念だろうか?
俺の足が攣った
「ぐううあああぁぁぁぁぁ!!!あ、あしがあぁぁぁ!!よりによってこんな時にいいぃぃぃ!!!」
俺は最終話の新世界の神のように醜く地べたで足掻いている。
今日のこの瞬間ほど己の運動不足を怨んだ瞬間はないだろう。
もう扉は
ゆっくり1匹が通れるくらいは開いている。
いつもの自分なら簡単に捕まえられる。だが今の自分にはそれが出来ない。
「ちくしょううぅ!なにか、なにかあいつ等を殺す方法はないのかぁぁぁ!!!」
周りを見渡し目に入ったのは食器棚。
そろりそろりと攣った足をかばいながらなんとか膝たち状態に持っていき一番下の棚の中身を漁る。
入ってたのはちょうど6本。
ナイフ3本フォーク2本スプーン1本だ。
標的は6体。
1本ずつ投げると気付かれてしまうしそんな時間はもう残ってない。
投げるなら一気に6投。
ターゲットは夕日でよく見えない。
ふと、あの人を思い浮かべる。
…やってみるしかない!
この6本に俺の全てを賭ける!
「PAD長!オラに力を分けてくれえええええええぇぇぇぇ!!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「くしゅん!」
「あら咲夜、風邪でもひいたのかしら?」
「ずずっ、いえ失礼しました。風邪ではないと思いますが…」
「熱い日が続いているから咲夜のような人間は気をつけたほうがいいわね」
「お心遣いありがとうございます、お嬢様」
「それにしても何か今日の咲夜はおかしいわねえ………もしかして!」
「?……きゃっ、お、お嬢様いきなり何をなさるんですか!?」
「咲夜…下着穿いてないわね?」
「そ!、そそそれはお嬢様が昨日…」
「いやねぇ咲夜、ちょっとした冗談のつもりだったのに……真に受けちゃったの?」
「お、お、お嬢様あぁぁぁぁ!!!」
「ふふっ、顔を真っ赤にする咲夜も可愛いわよ。さてご主人様は忠実で純情な子犬ちゃんにはご褒美をあげないといけないわねぇ…」
「ちょ、ちょ、ちょ…ちょっと待ってくださいお嬢様、もうすぐエサに中国を与えないといけない時間でして…」
「あら、私は朝飯前よ。このくらいの運動はちょうどいいんじゃないかしら?ついでにエサは放置しても死なないわ」
「お、お嬢様…あっ……そんなぁ…んっ…」
―ぎゅうううくるるぅぅぅ―
「お、お腹減ったです…咲夜さん、今日は遅いなあ…」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ゆーえす!ゆーえす!」
「みんなー!あと0.5
ゆっくりひらいたらだっしゅつするわよ!」
「ちんぽー!」
「やっとじゆうだねー!わかるよー!」
0.5
ゆっくり…恐らく
ゆっくり界の長さの単位だろう。
勝利を確信していた
ゆっくりたちにお兄さんの最後の攻撃が降りかかる。
銀色の光6つが
ゆっくりを襲う。
ぱちゅりーにスプーンが刺さる。
「ゆっぐぅぅ!!!」
ありすにナイフが刺さる。
「ゆがぁぁぁ!!」
れいむにフォークが刺さる。
「ゆぎゃぅ!!!!」
みょんにナイフが刺さる。
「ぢぢんぼおおお!!!!」
ちぇんにフォークが刺さる。
「わがらない!…なにがおごっだのがわがらないよぉぉぉ!!」
「み゛、み゛ん゛な゛ああああぁぁぁ!!!!!」
まりさはみんなの叫びを聞き、ドアノブから口を離した。
同時にまりさがいたドアノブにナイフが当たる。
標的を失った刃は虚空に跳ね返され無人の床に聳え立った。
「み゛みんなぁああああ!!まりざがいまだずげるよ!!」
「むきゅん…むりよまりさ…わたしたちは…もうたすからないわ」
「あんこいっぱいでてるからねぇ…たすからないよ…わかるよ…」
「ぺ…ぺにす…」
「…まりさ、とびらがしまるわ…はやく…はやくにげてね…」
仲良し6匹の
ゆっくりたちで開けた扉が徐々に閉まろうとしている。
もう時間がない。
「ぞ、ぞんなあああああああああああぁぁ!!どぼじでえええぇぇぇ!!??みんなでゆっぐりずるんでじょおおおおお!!!!」
「もう…むり…よ…」
「まりさだけでもにげるんだよ…わかってよ…」
「ち…ちんこぉぉ…」
「おわかれよ…まりさ…」
「みんなのぶんも…」
「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」
まりさに送る最後の言葉。
5匹の思いの詰まった言葉。
それはいつも口ずさんでいたあの言葉。
だが今のまりさにはその言葉がとても重かった。
まりさは鉄の扉の前にいた。
扉に照り返された夕日がとても眩しい。
扉の向こうにいるみんなを思い出す…
ちぇんとは駆けっこでよく競い合ったっけ…
結局一回も勝てなかったなぁ…
みょんは恥ずかしがり屋さんだったなあ…
いつも「ちんぽー」しか言わなかったっけ…
ぱちゅりーはすごく物知りで頼りになった…
何かあるとすぐにぱちゅりーに相談したっけ…
ありすはすぐ私と張り合おうとしてた…
そのくせにいつも負けて「まだぜんりょくじゃないわ!」って強がってたな…
れいむはいつもみんなのムードメーカーだったな…
落ち込んだ時とか励ましてくれたりして…ちょっと好きだった…かも
だけどみんなはもういない。
ここは幻想郷ではない。
2008年8月17日の東京だ。
ゆっくりは…このまりさを除いてこの世界には存在しない。
まりさは世界でたった1匹の
ゆっくりになってしまった。
もし、1回目で脱出に成功していたら?
もし、あそこでみんなお兄さんの投げたものを避けてたら?
もし、あの時お兄さんを怒らせなかったら?
もし、興味本位で結界を越えなかったら?
もし、今日博麗神社にみんなを誘わなかったら?
まりさにはもうどれに後悔していいか解らなかった。
唯一つ言える事は…
「もっどみ゛んなどい゛っじょにゆ゛っぐり゛じだがっだよお゛おおおぉぉぉぉ!!!!!」
まりさは人目も憚らず大声で泣いた。
その姿はゴミクズというには美しすぎた。
泣く事をやめ、歩いて、歩いてどれくらいたっただろう…
まりさは川岸にきていた。
どことなくあの懐かしい風景に似ていた。
ふと、幻想郷での仲間と過ごした楽しい日々を思い出してしまった。
もう枯れたはずの涙がまた出てきた。
…やっぱりみんながいなきゃ
ゆっくりできない…
まりさの隣にいつの間にか1人の女性が立っていた。
青と白の変な服にに変な形の白い帽子…具体的に言えばフタコブラクダのような帽子を被っている。
それに人というには語弊があるかもしれない。
なにせ尻尾が生えていたからだ。しかも9本も。
だが幻想郷にいた
ゆっくりにはさほど驚く光景ではなかった。
「やっと見つけたよ…隣いいかな?」
「ゆゆ、いいよ…」
女は
ゆっくりの隣に腰掛けた。
「…解っているんだろう、君は逃げないのか?私は君を殺しに来たんだぞ」
「ゆ…つかれたんだよ…もうげんそうきょうでもこのせかいでも
ゆっくりできないんだ」
「…
ゆっくりすることだけが撮り得の君が?」
「そうだよ、もうつかれたんだよ。まりさわかったんだ。どんだけおいしいたべものがあっても、
どんだけ
ゆっくりできるぷれいすがあってもひとりだと
ゆっくりできないんだって」
「…幻想郷にはまだ
ゆっくりはいっぱいいるぞ?」
「ゆ、だめなんだ。もうまりさはふつうの
ゆっくりとなかよくできないよ。あのおにいさんのおうちできいただけなんだけど
おいつめられると
ゆっくりはなかまをうらぎるんだ。
ゆっくりはみんなそうできてるみたい。まりさはもううらぎりものにはなりたくないよ!!」
「そうか…まりさ、お前は生まれ変わったら何になりたい?」
「もういちど
ゆっくりになってこんどはふつうに
ゆっくりくらすよ!」
「…人間になりたいとか妖怪になりたいとか思わないのか?」
「まりさはまだみんなと
ゆっくりしたりないんだ。もういちど
ゆっくりにうまれかわってうしなったじかんをとりもどしたいんだ!」
「…あの閻魔さまならお前のそれくらいの願いは聞いてくれそうだな」
「ゆゆゆ……さぁ、おねえさん。まりさをころしてね」
「…死に方ぐらい選ばせてやろう。何がいい?こう見えて式を持つ程度の力はある。大抵のリクエストには応じよう」
「ゆっ!それならおねえさんわたしをやいてたべて!」
「…本当にそれでいいのか?」
「うん!
ゆっくりあじわってね!かんそうもきかせてね!!」
「さて、あとは紫様のほうか…まあ心配はしないけど…」
男はまだリビングに倒れていた。
しかも投擲直後のポーズのままだ。
足の痛みは引いてきたが心に開いた穴が痛い。
どうしてこんなことになったんだっけ?
俺は
ゆっくりをかわいがるはずではなかったのか?
考えてもよく思い出せない。胸が痛む。
さすがにこのポーズも疲れてきたので男は
ゆっくりと床に寝転んだ。
その時何もないはずの床の何かに頭をぶつけた。
ぶつけたと思ったらそのまま逆方向に跳ね返される形になった。
逆さまになった男の視界にある人が写る。
「いったたた!やっぱり下から出るのはやめたほうがよかったかしら…」
傘を持ち、白と紫の変な服に変な帽子、それはまさしく…
「か、加齢臭!」
「…自己紹介はいらないわね。それと貴方少しは考えてから発言をしたほうがいいと思うわ」
女は持っていた傘で容赦なく男を殴った。
「ぐぼっ…で、なんでゆかりんが俺の部屋に…」
「わかるでしょう?
ゆっくりたちの始末に来たのよ…それにしても派手にやったわねぇ」
「どうせ結界組みなら腋巫女が来てくれた方が…」
ゆかりんと呼ばれた女は男を見ると指をパチンと鳴らした。
その瞬間に光弾が男目掛けて飛んでいった。
「ぶぼっ……」
「そのゆかりんって言うのやめなさい。キモイ人を思い出すからあまり聞きたくないわ…私の言う事はよく聞いてくれるけどね。あと霊夢は私の嫁よ」
「さりげなく嫁宣言っすか…自分としては霊×紫より…」
「話がずれちゃったわね、単刀直入に聞くわ。貴方、
ゆっくりを全部殺した?」
話が進まないと考えたのか紫は男の話を遮った。
「えっと…1匹だけ逃げました」
「1匹ね…まあそれくらいなら藍がすぐに見つけてるでしょうし問題ないわね」
「俺をどうするんですか…?」
「安心して、貴方を食べたりはしないから。ちょっとここまでの出来事を忘れてもらうだけよ。外の人間がこの出来事を知っているのはあまりよくないことなの」
「くくくっ…出来事をなかったことにする…つまり慧音の能力!ここに慧音ちゃんが来てるということかあああああ!!!」
「ブー、はずれ。私も少々限定されるけど似たような事ができるわ」
「なん、だと………はっ!『夢』と『現』の境界を操るのか!!」
「御名答。さっ準備はいいかしら?」
紫が何かを始めようと手を振りかざす。
男はまだ記憶を消されるわけにはいかなかった。
「紫さん…1つ聞いてもいいですか?」
「聞くには聞くけど答えるかは私次第ね」
「ははっ、紫さんらしいな。……俺の…この…
ゆっくりを好きだった心は戻りますか?」
「……それは無理ね。私はあくまで境界を弄るだけ。それこそ慧音の力を使わないと駄目ね」
「ですよね……俺は何を信じて生きていけばいいんでしょう?夢に破れ、更につかの間の夢にさえ裏切られました…もう生きてても希望なんてありません」
「真夜中の鏡に自分を写したら真実が見えるって聞いたことがあるわ」
「…紫さん、できれば真面目に答えてください」
「……まぁいいわ。特別に答えてあげましょう。貴方は全てを諦めるにはまだ早すぎるわ」
「まだ早い…ですか?」
「そうよ。貴方の目指す人は貴方よりももっともっと失敗を繰り返しているわ。そしてその失敗を全て乗り越えてあの位置にいるの」
「……」
「恥をかきたくない気持ちは分からないでもないわ。でも動かなければ未来はやってこないのよ」
「…つまり俺にもっと挑戦しろと?」
「そういうことになるわね。失敗したっていいじゃない、貴方のやろうとしていることは失敗して死ぬわけじゃないんだから」
「はははっ、そういやそうですね…」
「…大分いい笑顔になってきたわね」
「ええ、紫さんに話したおかげで結構楽になりました、ありがとうございます。紫さん、もう思い残す事はありません。私の記憶を消してください」
男は目を閉じ姿勢を正した。
「……これはサービスよ」
「え!?」
その瞬間ふわっと自分の周りがいい匂いで包まれているのがわかった。
男は紫に抱きしめられる格好になっていた。
「ちょ、ゆ、紫さん!?」
「あとさっきのアドバイスにもう1つ付け足しておくわ」
「ななな、何ですか!?」
「努力は報われないという事もあるってことよ」
「…ははっ、流石境界の妖怪ですね。まさかアドバイスまであやふやだとは」
「あら?でも本当の事よ?でももし…もし、何度も挑戦して夢破れて立ち上がれなくなったその時には…」
「その時には?」
「貴方を神隠ししてあげるわ」
「そうならないように頑張るのが俺の恩の返しですね」
「そうね、精々頑張りなさい」
紫の腕の先から光が生まれる。
境界を操る力だ。
「あ、俺からも最後に一言」
「何かしら?」
「加齢臭って言ってごめんなさい。とってもいい匂いでした」
「……分かって頂けたならそれで結構」
男が最後に見た紫の顔はどこか素直な少女のような可愛さを秘めていた。
「紫様ー!こっちの仕事は終わりました。そっちはどうですか?」
「こっちも片付いたわ…けど…」
紫が部屋を見渡す。
全てが餡子これ以上の単語が見当たらない程餡子だった。
「うわぁ…この部屋片付けなきゃいけないんですか?餡子塗れじゃないですか!!」
「そういうこと。じゃあ藍、片付けお願いね」
「って紫様手伝ってくださいよおおぉ!!早く帰らないと橙が心配なんですから!!あああ今頃家でお腹すかしてるだろうなぁぁぁ…」
「早く帰って橙を安心させたかったらお掃除を頑張ればいいじゃない。ほら、あのこの前うちでやってたしっぽの使えば余裕でしょ?」
「ちょっ!駄目ですよ!この部屋を尻尾で掃除したら尻尾が餡子臭くなっちゃうじゃないですか!!!」
「別にいいじゃない」
「私はちっともよくないですよ!この尻尾は毎日寝る前に椿油をつけて1時間かけてブラッシングを…って紫様聞いてるんですかー!!??」
「あら?これは何かしら?」
紫は藍の言い訳など全く聞く気もなく部屋においてあった同人誌に目をつけた。
「へぇ…外の世界ではこんな本が流行りなのかしらねぇ…」
「…だいたい私の尻尾はですねぇ、橙の『もふもふ~♪』が聞きたいがためにこうやって日々の弛まぬ努力を…」
そこまで喋ると藍の背後にスキマが現れた。
スキマから伸びる謎の手が藍を床に押さえつける。
「藍…このままモップになって強制掃除されるのとその他の方法で今すぐ掃除を始めるのはどっちがいい?」
最強妖怪の眼で藍を睨む。
あああ、本気だ…この人は本気で私をモップにしようとしている…。
こうなれば私に選択権はない。
「今すぐ雑巾とバケツとってきます!!」
こうして餡子部屋の大掃除(参加者は藍のみ)が始まったのだった。
紫にも仕事がないわけではなかった。
ここに現れた時にすぐ感じ取ったがこの家にはあちこちに結界の歪みが生じているのだ。
「博麗神社といいこの家といい今日は結界がよく歪む日ねぇ…」
今日は博麗神社でも結界の歪みが発生した。
その歪みを治すドタバタに乗じて神社付近にいた大量の
ゆっくりたちが外の世界に飛び出してしまったのだ。
境界の妖怪としては外と内を行き来する勝手な行動を見逃すわけにはいかない。
この
ゆっくりに外の世界で暴れられるとまた新たな結界の歪みを生じてしまうからだ。
もっとも、その大量の
ゆっくりはほとんど1人のお兄さんによって始末されてしまった。
紫から見れば1人の人間をどうにかするだけで仕事が終わるので大助かりだった。
「…それにしてもこの歪みの変わってるわね」
この歪みは意識をすれば幻想郷の一部が垣間見えるというものであった。
普通結界は長い年月をかけて弱まるか邪悪な意思を持って強引に弱らせるかのどちらかだがこの歪みはそのどちらでもなかった。
「…貴方は幻想郷入りするにはまだ早いわよ」
境界の妖怪は結界から何か想いを感じ取ったようだった。
「藍、そっちの仕事はあとどのくらいかかるのかしら?」
「ぜぇぜぇ…あと、この部屋だけです…ってここはさっきよりひどいいいいぃぃぃ!!!!」
ここは毒殺作戦が行われた寝室だ。
一面が餡子の海だった。
「…頑張るのよ、藍」
呆然とする藍の肩をぽん、と叩き紫は早々と避難した。
藍の仕事はまだかかりそうだったので紫は書斎を漁っていた。
紫にはこの出来事の整合性をとるためにやることがあと一つだけあった。
それは男が買ってきた同人誌だ。
ゆっくりによって破られていたため新しいものを用意する必要があった。
その同人誌を買ってきた事実を夢と現実の境界で捻じ曲げてしまえばいいのだろうが無理な境界の力は新たな歪みを生む。
境界の妖怪は男が同人誌にかける強烈な想いを感じ取っていたのだ。
「……それにしてもこれだけ本があって私の本が一冊もないのは少し癪ね」
ゆっくりに破られた本、書斎の同人誌、どこをさがしても紫メインの本がないのである。
永夜抄、翠夢想、緋想天、と自機になりそれなりの自負があった。
いつもなら見逃すところだが元々気まぐれな性分もあって今日はやけに気になった。
「これもサービスの一つね」
スキマから本の束が取り出された。
男は目を覚ました。
説明できないほどの大事件が起きた夢を見ていた気がする。
目の前にはパソコンがある。
寝る前までの出来事を高速思考を展開させ思い出す。
朝から同人誌を買いに出かけて…帰ってきて虐殺スレを見て…荒らして…寝て…そして今に至るのか…。
時計を見ると時刻は午後8時を過ぎていた。
男はカップラーメンを用意しいつものようにまたパソコンの前に座る。
ブラウザには
ゆっくり虐待スレが映っている。
寝る前に荒らしたが今は次スレになって平穏を取り戻していた。
何故だろう…虐殺スレを見ても不思議と嫌な気分が起こらない。
それよりももっと
ゆっくりを虐めたいという気持ちになる。
男はこの気持ちを表現したいと思った。
文章…小説など勉強したことがないがそんなことより何かを表現したいという熱い気持ちが勝っていた。
自分でも笑っちゃう話だが夢の中で女の人に…自分がよく知ってる誰かに励まされた…そんな気がする。
もう一度頑張ってみよう
まだ終わっちゃいない
この夏も始まったばかりだ
ふとテーブルに広げられた今日の収穫物に目をやる。
「それにしても俺…こんなに紫本買ったっけ?」
新しい虐待お兄さん兼罪袋の完成の瞬間である。
(チラ裏)
この度はこんなクソ長い文章を読んでいただき誠にありがとうございます。
あまりにも長くそして容量も重くなりすぎて申し訳ない気持ち(ロダの負荷と読む人への配慮とか)でいっぱいです。
これが私の人生初SSです。素人が書きたい虐待内容を全部突っ込んだ結果がこれだよ!…反省してます。
最初はお兄さんが
ゆっくりを大量虐殺する「
ゆっくり無双」とかいう路線で考えてたんですが
現代生活を舞台にしたかったので今回のようにお兄さんのお部屋で無双する感じになりました。
結局無双というより各部屋で虐待って話になってしまいました。これも反省してます。
題名が何故『フルフォース』なのかというのは「愛でるお兄さんが虐待お兄さんへ変身する」という意味で付けました。
個人的に『FULL FORCE』が好きって言うのもあります。もちろん『覚醒』も大好きです。
文章の中に『FULL FORCE』『覚醒』『rebirth』の歌詞の一部が入ってます。暇だったら歌いながら探してみて下さいw
最後のまりさの死に方が納得いかないという方。俺も綺麗に死にすぎだと思いました。
今度はもっと醜く死なせたいです。精進します。
この虐待お兄さんのモデルは俺を含めた創作活動しようとしてどこかまだ迷いのあるみんなです。
一応それを鼓舞するための作品…のつもりです。どんどんSSが投稿されて欲しいと思ってます。
最後に自分で書いておきながらこのお兄さんは羨ましすぎます。俺と代われ!俺も加齢臭が嗅ぎた(ぴちゅーん)
スペシャルサンクス:読んでくれたみんな&虐待スレのみんな
友情出演:変態D(虐待選手権から勝手に使わせていただきました。ごめんなさい&ありがとうございます)
最終更新:2021年04月30日 10:43