ここは、大きな森の中。
 大地に根を走らせた巨木の下に、あるゆっくり霊夢の巣があった。
 大きな根と、たまたま下にあった空洞が絡み合い、完全に洞窟とはなっていないが、大きくてコケがふかふかの素敵な巣であった。

「ゆっくりおきてね!」
 朝。
 他のゆっくりを起こしたのはお母さんゆっくり、その声に反応して子供達も起き出す。
「ゆっくりねむってたよ!」
「きょうもゆっくりしようね!」
「おかあさん、おなかすいたよ!」
 元気な子供達が起きだした事で、静だった巣の中がとたんに騒がしくなる。
 総勢20匹は居るだろうか?
 それだけ居ても、余りあるほどこのこの巣は広かった。
「ゆっくたべてね!!!」
「ゆっくりいただきまーす!!!」
 中央に運んだ食べ物。
 その周りをグルッと囲み、子供達の大合唱をスタートサインに朝食が始まる。
「うめぇ!これめっちゃうめぇ!」
「ゆっくりたべていいからね」
「ゆっくりたべさせるよ!!」
 大きい霊夢が小さい霊夢にエサを与える。
 上手く食べれない赤ちゃんには、口移しで食べさせてあげる。
 そんな微笑ましい光景に、思わず口元を緩めるお母さん霊夢。
 今日の朝ごはんは、昨日人間から貰ったいなり寿司。
 昨日、みんなで夕飯を食べるときに来たお姉さんが、一家に大量のいなり寿司を渡していたのだ。
「ゆゆこんなにいっぱいもらっていいの?」
「もちろんよ。たまにはゆっくりできるゆっくりもいないとね!!!」
「おねーさんありがとうね!! みんなもおれいをいおうね!!」
「「「「おねーさんありがとーー!!」」」」
「おばさんありがとーね!!」
「!!」
 その声を上げたのは、最近一匹のゆっくり魔理沙とよく遊んでいた子供だった。
 だんだんと、その魔理沙と同じ口調になっていったその霊夢は、比例して態度も大きくなっていったのだ。
「だめだよ!! きちんとあやまってね!!」
 どう見てもお姉さんと言う外見の人間に、そんな事を言うのは失礼なことだと考えた母霊夢は、はっきりとした口調で叱りつけた。
「おおこわいこわい」
 が、さして気にした様子もなく、それっきり家の中へ入り込んでしまった霊夢。
 残ったお母さん達は、件の霊夢に代わって謝り、一緒に遊んでいる魔理沙の事等を必死になって説明し始めた。
「そんなに根に持ってないわ。それじゃあゆっくりしてね!!」
 それだけ言い残して忽然と消えてしまった。
 許してもらえた事に安堵した一家は、その光景を不思議とは思えないでいた。
 そして、十分な数があったそれは、一回の食事では食べきることができず、今日の朝食に持ち越しとなった。

 そして今、まさにそのお姉さんから貰った最後のいなり寿司が、おばさんといった霊夢の口に納められた。
「うっめぇ!! これめっちゃうめぇーー!!」
 昨日の今日だが、既にお母さんゆっくりはその事を責めてはいない。
 いなり寿司のことで頭が一杯になり、家に戻った時には既に頭から消えていたのだ。
 それどころか、今は元気に食事をする霊夢を見て、のほほんとしている。
「きょうもいっぱいゆっくりしようね」
 思わずお母さん霊夢の口から漏れた一言。
 満腹で口々にし☆あ☆わ☆せ☆~♪ といっている子供達には聞こえてはいないだろうが、それでも思わず口から漏れてしまったのだ。


 食後の小休止の後、子供達といっしょに巣の外に出る。
 今日も日課のお散歩だ。
「ゆっ♪ ゆっ♪ ゆゆ!!」
 しかし、家の外の景色が何時もと違っていた。
 広い空間、周りは不気味なほど真っ白な壁。
 もし一家が人間の家へ入ったことがあるのなら、瞬時にそこが人工物であることを理解できたかもしれない。

「ゆ~? おかーさんいつもとちがうよ!!」
「きさんや、くささんがおひっこししたのかな?」
「ゆゆ!! まりさだ!! まりさがいるよ!!」
 部屋の奥のほうに、黒い帽子を確認した霊夢は、それが仲良しのゆっくりましさであると分かると、一目散に駆け寄っていった。
「おお、こわいこわい!!」
 対する魔理沙も、見知らぬ景色の為か、一家の中から一匹の霊夢姿を見つけると急いで駆け寄ってきた。
「まりさはどうしてここにいるの?」
「さんぽしてたらここにいたんだっぜ!!」
「じゃあれいむたちといっしょだね!!」
「おお、いっしょいっしょ!!」
 どうやら、この魔理沙も同じようにここに迷い込んできたらしい。
 なんにせよ、人数が増えた事で、心にも少し余裕が出てきたようだ。
「ここはゆっくりできるかな?」
「じめんはかたいけどゆっくりできようだね!!」
「おかーしゃんゆっくりちようね!!!」
 小さな子供達は、不安からか母親の周りに集まっていたが、とうとう好奇心に負けて走り回っている。

「まってね!! おかーさんもゆっくりするよ!!」
 それを見ていたお母さん霊夢も走り回る。
 基本的にのんびりな霊夢。
 こういうときも、子供達が楽しそうにしているのを見て、思わず体が動いてしまったのだろう。
「ゆっくりーおかーさんこっちーー!!」
「つかまえてね!! つかまえてね!!!」
「ゆーー♪ おちびちゃんたちはあしがはやいね!!」
 既にここが何処なのか、そんな事は考えなくなったゆっくり達は思い思いにその場を駆け回った。
 暫くして、人間が入ってきた事にも気付かずに。


「ゆっくりしていってね!!!」
「!!!」
 その声で、漸く人間が入ってきた事に気が付いたゆっくり達。
 見るとそこには一人の男の姿があった。
「おにーさんはゆっくりできるひと?」
 お母さん霊夢が目をクリクリしながら尋ねる。
「もちろん。ところで、昨日美味しいお稲荷さんを貰ったお姉さんは覚えているかい?」
「ゆっくりおぼえてるよ!! あのおにぎりはすっごくおいしかったよ!!!」
「おいちかったよ~~♪」
 子供達が声をそろえて返事をする。
 今まで自然のものしか食べていなかったゆっくりにとって、正にカルチャーショックというような味であったのだろう。
 大きな目をキラキラと輝かせているその表情は、もしかしたらまた貰えるかも知れないという希望がはっきりと見て取れるものであった。
「そうか、良かったね。おいしいものが食べられて」
 その声を聞くと、一家は元気よく跳ね飛び、お約束のゆっくりしていってねという台詞を叫ぶ。
 それから、しきりに男の周囲を回り、ゆっゆっ、と口ずさむ。
「おにーさん♪ れいむおなかすいちゃった♪」
「なにかたべものたべちゃい♪」
 人間の食べ物の味を知ったことで、出来るならこの男から何か食べ物を貰いたいと考えたのだろう。
 しかし、男はその場から一歩も動かずに母霊夢に話しかけた。
「その前にやってもらう事があるんだ」
「ゆぐ? な~n!! ゆぐぐ!!!」
 母親霊夢を掴み上げ、頬を思いっきりつねりながら言葉を続ける。
「食べ物が欲しかったら、子供を育てて人間に渡すんだよ。姉妹のゆっくり餡で作るドス饅頭が馬鹿売れでね、天然モノじゃぜんぜん足りないから、姉妹を養殖することにしたんだよ」
「ゆぐ? それはどういうこと? ゆっくりせつめいsんぐゅあ!!!」
「今説明したとおりだよ。姉妹の餡子が欲しいから、子供育てて渡せって言ったんだよ」
「ゆぐ~~!! でいぶのこどもをたべじゃだめーー!!」
 漸く理解したお母さん霊夢は、必死に体をよじって抵抗しようとするが、人間にがっちりと掴まれてしまってはその様なことも出来ない。
 むしろ、かえって体に食い込み痛みが増していく。
「いいじゃいーー!!! はなじでーーー!!!!」
 程なくして抵抗をあきらめ、めそめそと涙を流すお母さん霊夢を地面に置き、隅でじっとしていた二匹に駆け寄る。
「おおこわいこわい」
「まりさたちはそのいっかとはかんけいないぜ!!」
 それは霊夢と魔理沙の二匹。
 一緒に遊んでいたその二匹であった。
「そうだよ!! れーむはこのまりさのおっくさんになったんだよ!!!」
「だから、まりさたちはかんけいないんだぜ♪」
「そりゃちょうど良い!!」
 自信満々に語る霊夢と魔理沙。
 それを聞いた男はこれ幸いと、二匹を部屋の中央まで投げ飛ばし、その場で体を揺すぶらせ始める。
 もちろん、発情させるためである。
「ゆゆゆゆゆ!!!!!! ゆっぐりぃぃ~~~~!!!!」
「ででっでででいぶーーーー!!!!!!」
 程なくして興奮してきた魔理沙と霊夢は、そのまま交尾へと突入していった。
 もちろん、他の家族が見つめる中でである。
「まっまっまりざ!! まっまっまりざ♪」
「れっいっむれーむ♪ かわいっいよ♪ れっいっむれーむ!! かわいっいよ!!!」
「まりざーー!! まりざーーー!!!」
「でぶーーー!!! でぶでぶでぶーーーーー!!!!!!!」

 そうして、二匹は早々にすっきりし、双方の頭には多数の茎が生え始めた。
 そのに生えているのは霊夢と魔理沙の赤ちゃんゆっくり。
 この二匹の初めての赤ちゃんである。

「ゆゆ~~♪ みてみてまりさーー!! れいむみたいにじゅんすいでかわいいあかちゃんだよー!!!」
「ほんとだね!! まりさみたいにそうめいなあかちゃんたちだね!!!」

「はーいここで皆注目!!!!」
 涙を流しながら、自分達の赤ちゃんを見つめていた二匹にも聞こえるような大声で男が叫ぶ。
 二匹を含む一同は、びっくりしたようで、ばね仕掛けの玩具のように一斉に振り向いた。
「いまから君達にはその赤ちゃんたちをキチンとしたゆっくりに育ててもらいます」
 男が話しているのは、親になるはずの二匹ではなく、霊夢一家であった。

「ゆゆ? このあかちゃんはれいむとまりさのあかちゃんだぜ?!!」
 その事に文句を言う二匹を意に返さず、その二匹をぽんと叩きながら、男はここでの生活を一家に説明する。
「あの二匹には、また新しい赤ちゃんを産ませます、君達はその子供を育ててください。頃合を見て職員が回収しにやってきます。そのときに子供がいなかったら、君達の食べ物は次に回収する時まで無しです」
 それを聞いた霊夢は、頬を大きく膨らませて、男の要求を突っぱねた。
「ゆゆ!! れーむはじぶんたちのこどもでせいいっぱいだよ!! ほかのゆっくりにおねがいしてね!!」
 おちびちゃん達、帰るよ。
 男は、そう言って怒ったまま出て行こうとする母親を蹴り返し、とどめの一言を口にする。
「誰が勝手に出て行って良いって言った? あの霊夢が昨日のお姉さんを馬鹿にしたから、お前達が選ばれたんだよ。子供を用意できなかったら、代わりにお前の子供を持っていくからな」
「ゆゆゆ!! それはめー!!! だよ!!! そんなことしたらだめだよ!!!」
 漸く事の重大さを知ったお母さん霊夢は、一転、必死な形相で男に許しを得る。
 しかし、その要求が聞き入れられることはなかった。

「なら、さっさと作業に取り掛かれ!!」
 それだけ言って、男は扉から出て行った。
 残ったのは、いまいち状況を理解できない子供達、それとお母さんゆっくり。
「れいむ~♪ あかちゃんがいっぱいだよ~♪」
「まりさみたいに、わんぱくにそだってほしいね!!」
「ゆっきゅりりかいちたよぉ!!!」
 それと、完全に状況を理解していない新婚夫婦である。

「ゆふふ~ん♪ れいむのあかちゃ~~ん♪ めんこいよ~~♪」
「もうっ♪ まりさったら~~♪」
「ゆっゆゆきゅ~~♪」
 それから一日が経った。
 時間通りに支給される食事のおかげで栄養が不足することはなく、新婚夫婦の赤ちゃんはすくすくと育っていた。

 大体今日あたり生まれるだろう。

 その場にいいる誰もがなんとなく考えていたときに、一匹の赤ちゃん霊夢がポトリと地面に落下した。
「ゆっきゅりしていっちぇね!!」
 最初に産声をあげたのは、魔理沙種の赤ちゃんであった。
「ゆゆ~~!! みてみて!! まりさにうりふたつのあかちゃんがうまれたよ!!」
「すごいよれいむ!! きっとこのこはまりさみたいにかっぱつなこどもにそだつよ!!!」
 初めてのわが子の誕生に、涙を浮かべながら喜ぶ二匹。
 一匹目が合図になったのか、それからは次々と赤ちゃんが生まれていった。
「ゆっくり~~♪」
「っちて~~~♪」
「っいっちぇね~~~♪」
 全ての赤ちゃんが地面に降りるまでは、数刻のことであったが、親である二匹には何時間にも感じられるような感動の時間であった。

「やっと、生まれたね!! それじゃあふたりはじゃまだからおくへいってね!!」
「ゆご!!」
 二匹が強い衝撃を感じた時には、既に部屋の隅に吹き飛ばされた後であった。
「いたいんだぜ!! なにするんだぜ!!」
「うるさいよ!! きのうのことをもうわすれたの?」
 吹き飛ばした張本人であるお母さん霊夢は、それだけを言うと、痛みで身動きが出来ない二匹を置いて、さっさと赤ちゃん達の所へ戻っていってしまった。
「ゆ~~? おね~ちゃんたちもゆっきゅりしちぇいっちぇね!!」
「ここはゆっきゅりできりゅよ!! みんなでゆっきゅりしよ~~ね♪」
 そこには、既にお母さん霊夢の子供達が集まっており、赤ちゃん達がニコニコと話しかけているところであった。
「ゆ? ゆっきゅりしちぇいっちぇね!!!」
「れいむたちが、これからはおかあさんだよ!! ゆっくりおおきくそだってね!!!」
 嘘偽りのない言葉。
 それを聞いた赤ちゃん達は、元気一杯に跳ね上がり、喜びをあらわにしていた。



 そして、それからは一家の生活は一変した。
「ゆっきゅりしゃせちぇね!!」
「うるさいよ!! きょうもしっかりたべて、おおきくなってね!!」
「れーみゅもうたべりぇにゃいよーー!!」
「いいから、それがおわったら、ゆっくりしないでうごきまわってね!!」

 自分達が食べられないように、必死に二匹から生み出される子供を育て、人間に渡す。
 既に母体である霊夢が家族だったという意識はなく、自分達があのようなゆっくりに代わって食べられることは屈辱だと言わんばかりの必死さである。

「はなしてね!! それはまりさのあかちゃんだよ!!」
「もってかないでね!! それはれいむのあかちゃんだよ!!!」
「ゆっきゅりちゃすけちぇ~~~!!」
 初めのうちこそ目に見えるところで育っていった子供達を見て、余裕に構えていた新婚夫婦であったが、いざ我が子が連れて行かれるときになって、その余裕は消え去った。
「だまってね!! おまえたちのせいでこうなったんだよ!!」
「そうだよ!! ゆっくりりかいしてね!!!!」
 嘗ての姉妹に吹き飛ばされ、ボロボロになりながらも、必死で子供達を追いかける。
「おかーーーさぁーーん!!!!!!」
「ゆゆーーーー!!!!!!」
 しかし、その言葉が、どのゆっくりに向けられているのか。
 既に子供達が運ばれていった今、もはや確かめるすべはない。

「はいはい。お母さんはこっちだよっと」
「ゆゆ? ゆっゆゆゆゆ!!!!」
 そして、子供が連れて行かれると、同時に夫婦ににんっしんっさせる。
 程なくすると、お互いの頭には蔓が伸び、自分達と瓜二つの赤ちゃんゆっくりが出来始めていた。
「ゆゆ~~♪ れいむたちのあかちゃんだよ~~♪」
「ゆゆ~~♪ ゆっくりそだってね!!」
「ゆっくりそだつよ!!」
 しかし、これもまた直ぐに落とされ、強制的に育てられる運命にある。
 いわば、既に決まっていることなのだが、二匹はその様には思っていない。
 過去のことは過去のこと。
 それば、この種のゆっくりの基本的な考えだからである。
「ゆふふ~~♪ かわいくて、りこ~なこどもにそだてそうね!!」
「おお、りこうりこう♪ がんばってそだてようね、れいむ♪」

 その周りでは、霊夢一家が束の間の食事をのんびりと取っていた。
「おいし~~♪」
「ゆっくりできるね~~~♪」
 そんな子供達の姿を見て、お母さん霊夢はクスッと微笑むのだった。


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最終更新:2022年05月18日 21:44