ゆっしょ!
んっしょ!
ゆっくり親子ののんびりした声が雪原に響く。
同時に、ざくっざくっと雪をきる鈍い音。
ゆっくり一家が転がす、母ゆっくりほどもある大きな石だった。
この石を元に再び入り口を囲えば、もうアリスが飛び込んできたようなアクシデントがあっても大丈夫。
後は一家でゆっくりと冬を過ごすだけ。
「ちゅかれたー」
赤ちゃんゆっくりがへこたれたというように足を止める。
懸命に押してきた赤ちゃんゆっくりだが、実際にはほとんど道中の助けとなっていない。ただ、自分たちが冬を越すため、どうやってものを集めたか教えるために真似事をさせていただけだ。
だからこそ、赤ちゃんゆっくりに合わせて他のゆっくり一家も休憩する。
「家に帰ったら、たくさん食べてゆっくりしようね!」
母ゆっくりの言葉。
アリスという予定外の来訪者さえいなければ、食料に不安はない。
うわーいと、盛り上げる家族たちを暖かい眼差しでみつめる母ゆっくり。
一行はそれから一時間後、ようやく巣穴に戻る。
一端、部屋の中央に石を据えて、まずは家族で食卓の団欒を味わおうとする。
が。
「ゆー? ご飯どこー?」
一番に食料庫へ走っていった赤ちゃんゆっくりの、戸惑ったような声が聞こえた瞬間だった。
砂がこぼれるようなサラサラという乾いた音が聞こえてきた。
何事から周囲を見渡すゆっくり一家。
その目の前、巣穴の入り口に雪の一塊が落ちる。
それが発端だった。
重い地鳴りのような音ともに、すさまじい量の雪が入り口に積み重なっていく。
次から次と、止まる気配もない雪崩。
ゆっくり一家はとめる術もなく、呆然と出入り口が密閉されるのを見つめていた。
やがて、雪崩が止んで静寂が巣穴を包むものの、かわってゆっくり一家の絶叫が巣穴に響き始めた。
「なんでええええ!?」
「いやだ、だじでええええ! お゛う゛ち゛、でだいいいいいい!!!」
「ゆっくりできないよおおお!」
だが、最も深刻なのは最後の赤ちゃんゆっくりの悲鳴だった。
「ごはん、どこおおおおおおおおお! おなが、ずいだよおおほおおおおお!!!」
赤ちゃんの言葉にまさかと、慌てて奥の食料庫へ殺到するゆっくり一家。
予想は最悪の形で実る。
食料庫にあれほど溜め込んでいたご飯は、植物の根一本たりと残さず消えうせていた。
「こ゛んな゛の゛、う゛そ゛た゛あああ!」
「どうぢでな゛の゛おおおお!」
ゆっくり姉妹が泣き叫ぶと、母ゆっくりは身を翻して出入り口へ。
積み重なった雪の層へと歯を突き立てるが、脳天まで響くような堅さと冷たさを味わっただけだった。
先ほどの雪崩の中に、氷の板と化した根雪が混じり、しっかりとこの巣穴を閉ざしている。
ここにおいて、母ゆっくりはもう自分にどうしようもない事態になったことを思い知る。
「ゆ、ゆ、ゆ」
呟く声が震えている。
ゆっくりできない。喉がカラカラで、恐怖で焼け付くよう。
心底、恐れていた事態だった。
それだけに万全を期していた冬の備え。
しかしそれも全てこの瞬間に無となった。
後は氷が解けることを願いながら、巣穴でひたすら飢えに耐えるだけ。
冬は後三ヶ月近く続くというのに。
「お゛があ゛ざあん……」
背後からかけられた娘たちの声に振り返る。
みんな、母へ期待を込めた眼差しで見つめていた。お母さんなら、何とかしてくれる。そんな希望の表情。
だが、それも母ゆっくりがそっと目を閉じて涙を一筋こぼすと、目をひんむいて戦慄く絶望の顔へと代わっていった。
そんな悲しみに包まれた巣穴の上、入り口の上で元気に飛び跳ねる一匹のゆっくり姿があった。
「ゆっくりしね!」
高らかに叫ぶのは、雪崩を引き起こす振動を与え続けていたゆっくりアリス。
その血色はつやつやとして実に健康そう。
まりさ一家の巣穴に残った食料を満腹になるまで食べたからだろう。残りもすでに自分の巣穴へ搬送済み。
冬を遊んで暮らしてもあまりある食料。
その余裕が、アリスの心を少し寛大にさせた。
「でも、しぬのはかわいそうだね!」
ゆっくりまりさ一家のことを考えると、少し気の毒になるゆっくりアリス。
自分を慕ってくれたゆっくり赤ちゃん。愛を受け入れてくれた姉ゆっくりと、同じく愛していたがゆえに嫉妬して自分を攻撃した妹ゆっくり。さらには、アリスを愛していながらも、母ということで怒ったふりをしながら娘とアリスの間にわけいった母ゆっくり。
みんな、感情の表現が下手なだけでアリスのことを愛してくれていたのだ。そう、納得するアリス。
「うん、きっとアリスはみんなの愛にこたえる方法を考えるからね!」
頼もしい言葉を残して、アリスは自らの巣へと戻っていった。
一週間。
閉じ込められて、ゆっくり一家が水だけで過ごした日数だった。
巣穴の中は死に絶えたような沈黙。
三日目までは赤ちゃんゆっくりのおなかが空いたという訴え、啜り泣きが常に聞こえていた。
今聞こえるのは、もはや短く張り詰めた呼吸の音だけ。
時折の母ゆっくりによる「ゆっくりしていってね……」という点呼に、かすれた声で「ゆ……」と応じるのが唯一の反応だった。
姉妹ゆっくりも頬がこけ、瞳から力が失われていた。飢えに強い母ゆっくりも朦朧とした意識でずりずりと巣穴を這いずりまわり、子供たちがまだ死んでないことを確認する日々。
すでに限界を踏み越え、破滅に差しかかろうとしている有様だった。
巣を覆う氷は、ここ数日の好天で少しずつ融けはじめてはいる。うっすらと入り口に浮き上がる太陽の輝き。母ゆっくりがアリスを追い出したよな体当たりを見せれば砕け散るかもしれない。
だが、すでに遅すぎた。もはやゆっくりたちに跳ねる体力はない。
明日、このまま氷が融けとしても餌を探しにいけるかどうか。なめくじのように地を這うしかない体で、餌を手に入れられる可能性は限りなくゼロに近い。もし明日の天気が吹雪となれば、もはや可能性を論じるまでもなく終幕。朽ち果てた骸が四つできるだけ。
ここまでくれば、母ゆっくりは最後の決断をするしかなかった。
母ゆっくりは、閉じ込められて幾度流したかしらない涙を壁にこすりつけて拭い、ゆっくり姉妹を呼び寄せる。今にも朽ち果てそうな赤ちゃんゆっくりは、そこに置いたままに。
何かの予感があったのか、神妙な顔つきで集まる姉妹。
母ゆっくりは姉妹たちの様子に微笑を投げると、表情を改めて毅然と告げた。
「明日になったら、お母さんの体をゆっくり食べてね!」
その言葉の内容に、唖然と口をあけるゆっくり姉妹。
だが、理解できないわけではなかった。
ゆっくりの親子は情が深い。ゆっくりまりさであろうがなかろうが、わが子のためなら命を捧げるのが本能。
「ゆっ……っぐ!」
それでも妹ゆっくりはこみあげる悲しみが堪えきれない。
姉ゆっくりは静かな眼差しで母ゆっくりの続きの言葉を待っていた。
「もし、食べ物が見つけられないまま吹雪に閉じ込められてしまったら……」
皆まで言わせず、こくんと頷く。
「まりさが妹と赤ちゃんのごはんになるね!」
母と同じく、悲しみを感じさせない宣言。
母ゆっくりの表情が悲しみを浮かべたまま、愛情の微笑みを形作る。
「そして、もしそれでも食べるものがなくなったら……」
「う゛ん! 赤ちゃんまりざは、絶対に死なせないよ!」
妹ゆっくりは、自分の運命を受け入れて泣いていた。
つられて、堪えていた涙を同じように流すゆっくりたち。
低い嗚咽の声が、薄暗い巣穴に響いていた。
誰もが口にしない疑問。
もし、それでもご飯がなくなったらどうするの?
聞くまでも無い、全滅するだけだ。
そして、例年通りであれば冬の終わりまで後二ヶ月以上。到底、ゆっくり家族の死骸だけで補える期間ではなった。
わかっていたからこそ、ゆっくりたちは全力で無視した。
母ゆっくりは泣きながら、自分に言い聞かすように呼びかける。
「必ず、誰か、い゛き゛の゛こ゛ろ゛う゛ね!!!」
「う゛ん゛っ!」
ゆっくり一家は美しく、それでいて滑稽な結束を誓い合っていた。
その時、入り口から響いたくぐもった重い音。
続いて、にわかに差し込む陽光。
振り向いたゆっくりたちが見たのは、日差しを背にシルエットを浮き上がらせる一匹のゆっくりの姿。
姉ゆっくりは愚かなことを思った。親友で恋人のゆっくりれいむが助けにきてくれたのかと。
だが、姉ゆっくりの夢想はへし折られる。
「ゆっくりしていたよ!」
暢気な挨拶とともに巣穴に入ってきたのは、この地獄の元凶、ゆっくりアリスだった。
「……ごっ、ごのおおおおっ!」
自失から回復し、代わって激昂した姉妹たちがかけよるが、空腹による消耗は気力を根こそぎ削り落としていた。急激な運動についていけず、ふらりとよろめく体。そのまま、無様にアリスの前につっぷす。
母ゆっくりも重い体をひきずって動き出すが、元気ハツラツといったアリスには、今の一家の力を全て合わせても勝てるとは思えなかった。
「焦らないでね! アリスとはいつでもゆっくり愛し合えるから!」
その宣言は、ゆっくり一家にとっては恐怖以外の何者でもない。
ひいひいと、慌てて母の元へ戻ってくるゆっくり姉妹。
だが、アリスは慈悲深い笑顔でそれを見逃す。
「みんなが可哀想だから、少しだけアリスの集めたご飯をわけてあげるね!」
集めた?
ゆっくり一家の目が点になる。
もはや、空腹がひどくて怒りすらこみあげない。
ただ、アリスが何を言い出すのか恐れ、見つめていた。
「でも、そんな優しいアリスに暴力を振るういなかものがいるよね!」
母ゆっくり、妹ゆっくりの順で視線を動かすアリス。
「とかい派のアリスは、そんな野蛮な人には怖くて近づけないよ!」
アリスは、これまで見せたことの無いニヤけた笑みを浮かべていた。
「だから」
言うなり、入り口まで戻るアリス。
そして、あるものを口にくわえ、引きずりながら再び姿をあらわした。
アリスの口からのびるもの。それは数本のロープ。
ゆっくり一家が補強用の資材として集めたものの、その一部だった。巣穴から餌を持ち出したその紛れもない証拠。だが、もはや指弾しても叶わないことだった。
ゆっくりアリスは縄を加えたまま、姉ゆっくりの傍へ。
その傍に縄を落とす。
「いっしょに田舎ものをしばろうね!」
「で、でぎないよお!」
家族を縛れという誘いに応じることなんてできるわけがない。
だが、アリスの知能は普通のゆっくりも若干上だった。
「そうしたら、みんなや赤ちゃんにご飯をあげるからね!」
これは、命を懸けてまもろうとした赤ちゃんが助かる唯一の道。
姉ゆっくりがふりむくと、暗然たる表情の母ゆっくりが、静かに頷いていた。
「ゆ……うぐ……」
泣き声ともうめきともとれない声が洞窟に響いていた。
すでに十字に縛られて身動きのできない母ゆっくりと、同じ運命をたどりつつある妹ゆっくり。
姉ゆっくりはしゃくりあげながら作業を続けて、アリスは姉ゆっくりとまるで戯れるような朗らかさで、その作業を手伝う。
そこに、奥から地を這うささやかな音が聞こえてくる。
「……おねえちゃん……お母さんに……」
赤ちゃんゆっくりが干からびた体を引きずって、異様な雰囲気の立ち込めるこの場にあらわれた。
「ひゃんでもふぁいからふぇ!」
なんでも無いからね。
母ゆっくりが不自然に陽気な声で赤ちゃんの動揺をさけようとするが、口元まで縛られての不明瞭な言葉は逆効果だった。
「ゆぐっ!」
追い討ちは縛られた妹ゆっくりの苦しい吐息。
そして目の前の、申し訳なさそうなのにその締め付け緩めない姉ゆっくり。
「お゛ね゛え゛ち゛ゃんんん! な゛に゛し゛て゛んのおおお!」
赤ちゃんゆっくりの慟哭を向けられて、姉の表情が心の苦痛にゆがむ。
が、締め付けを緩めるとアリスから餌がなくなる。無視して作業を続けるしかなかった。
対して、ゆっくりアリスは作業を止めて赤ちゃんの傍へよる。
「ゆっ♪」
楽しげな挨拶に、戸惑う赤ちゃんゆっくり。
「ゆっ? アリスおねーちゃん?」
どうしてここにいるのと小首を傾げるが、アリスは答えるより早く行動に移っていた。
アリスのにやりと目じりに笑みを残して、大きく口を開く。
そのまま、ゆっくり赤ちゃんにのしかっていった。
「ゆ゛っ、な゛に゛し゛て゛んのおおおお!?」
姉ゆっくりがつかれきった体で精一杯の足取りで近づくと、悪戯っぽい表情で振り返るアリス。
「ゆ゛ぐううう!」
その口のなかに、ゆっくり赤ちゃんが顔だけを外にだして収まっていた。
まるで、成長しきったゆっくりが出産するかのような体勢。
実際、アリスの意図はそのとおりだった。
「ありふぇのあふぁちゃんだよー」
いいながら、赤ちゃんを口から半分だしたり引っ込めたり、出産遊びを開始するアリス。
何かの拍子で飲み込むのではないかと手出しができない姉ゆっくり。
その動けない姉ゆっくりの側に、ぴったりと身を寄せるゆっくりアリス。
「このふぉで……」
そこまで話しかけて、言いづらいのかぺっと赤ちゃんゆっくりを吐き出した。
顔面で地面を擦ってぴくぴくと震える赤ちゃんには目も向けず、アリスは続けた。
「この子で、おままごとしようね! アリスがお母さんだよ!」
もはや、ここはアリスの独り舞台だった。
青ざめる姉ゆっくり。
これ以上、赤ちゃんゆっくりに何かすれば、たやすく死んでしまいかねない。
「だめええ! それより、赤ちゃんにご飯あげてくだざいいいいい!」
這いつくらんばかりの懇願だった。
アリスは地面まで限界近く下がったその頭を、熱の冷めた目で見つめる。
「わかったよ! でも、その前に……」
姉ゆっくりは自分の体に巻きつけられていく縄の感触を感じながら、どんなひどいことになろうとも、赤ちゃんだけは無事であるように願っていた。
「ご飯の時間だよ!」
約束は一応果たされた。
アリスは自分の食べ残しを、思い思いに家族へと口移ししていく。
赤ちゃんゆっくりも含めて、全員が縛られたゆっくり一家。家族全員でもってきた大きな石にくくりつけられ、身動きもできない。
だが、一週間ぶりの食べ物にほっと一息をついた。それが、例え憎い相手からの口移しであろうとも。
それでも、与えられた食料はまったく足りていない。
特に衰弱を始めた赤ちゃんゆっくりにとっては、砂漠に落ちた水一滴。未だ、朦朧とした表情で揺れていた。
母ゆっくりが与えられた餌を舌にのせ、正面につきだす。
「赤ちゃんにあげてね!」
ゆっくり姉妹はその言葉を聞いて、自らも口内に残る食べ物を舌をだして突き出した。
アリスはそんな三匹に向けて、親しげな微笑を向ける。
「ゆっ! みんなアリスの赤ちゃんを心配してくれてありがとう!」
先ほどの未遂のおままごと以来、アリスの認識がどのように変容したのだろうか。
否定の言葉を飲み込んで震えるゆっくりたちの舌。
「大丈夫だよ、みんなは自分のご飯を食べてね!」
アリスは自分用に足元にもってきた食べ物を赤ちゃんゆっくりの元へもっていく。
思わぬ行動。だが、アリスの赤ちゃんという認識のためか、ゆっくり一家はそれを信じてしまった。
言われるがまま自らの餌を飲み込み、「しあわせー」ととろけた表情を浮かべる。
だが、それを確認した赤ちゃんゆっくり手前にご飯を投げ捨てるゆっくりアリス。
「ゆっ!?」
ざわめくゆっくり姉妹の前を向け、母ゆっくりの元へ。
アリスは母ゆっくりの前でにっこりと微笑んだ。
「その代わり、アリスをすっきりさせてね!」
すっきりさせる。
その言葉の指す意味は、交尾。家族の前での恥辱。
「ゆぐうううう!」
怖気が走って身をよじる母ゆっくり。
姉妹ゆっくりは呆然と事の成り行きを見守るしかなかった。
「いやなら、いいよ! とかい派のアリスは無理やり何てしないからね!」
死にかけている赤ちゃんゆっくりを横目に見ての、アリスの問いかけ。
一応、発情期ではないアリスならば言ったとおりなのだが、この場合は相手が断れないのは承知の上だった。
眉間に深い皺を刻んで赤ちゃんゆっくりを見つめる母ゆっくり。
やがて、ぽつりと言った。
「ぜ、ぜったいなの?」
「アリスはとかい派だから、恋のルールは守るの!」
「……うん、わかった……すっきりしてね」
心の大切なものを放り投げるかのような母ゆっくり。
途端に、アリスは踊りかかった。
「ゆぐぐぐぐぐぐぐぐううううう!」
母ゆっくりの堪えがたい悲鳴。
目を閉じ、歯を食いしばるゆっくり姉妹。
アリスは母ゆっくりのふくよかな体を、舌で、唇で、全身で、ひたすらに貪る。
赤ちゃんゆっくりの意識が朦朧としていることだけが唯一の救いだった。
アリスの体が、母ゆっくりの強張る体にあたって、ばちんばちんと餅で硬いものを叩きつけるような音が響く。
その音も次第に小刻みに、情熱的に変わっていった。
「まっ、まりさささささささっんほほおおおおおお、いいよおおおおおおあ゛あ゛あ゛っんっ! すっきりーっ!」
「……ゆー」
心のそこが裂けたかのような、どん底の母ゆっくりの声。
視線を家族からそらし、潤んだ目で遠くを見つめる。
ともかくも、これで終わったんだ。
母ゆっくりが悲嘆のため息をもらそうとしたその時。
「物憂げなまりさっ、どでも素敵いいいいい!」
再び飛び掛ったのはゆっくりアリス。
発情前だというのに、もうアリスは止まらなかった。
「まっ、まりさささあああああまだまだいぐよおおおんんっほおおおおおおおっすっきりー! 泣いでるのが、がっがわいいよおおおほほほほおおおおおあいじでるううううううすっきりー、ずごぐよかったああああああんんんほおおおおおもっとおおおおおおおおすっきりーっ!!! まだまだいげるがらねええええええイグうううううううううんんおおおすっきりー!」
もう、母ゆっくりは声もでない。
発情前なのでにんしんはなかったが、体の芯がもうぼろぼろだった。
娘たちもその只ならぬ激しさに口々に泣き叫ぶ。
「や゛め゛でえええ、おがあざんが、じんじゃうううううう!」
事実、そこで止めなければ母ゆっくりは昇天していただろう。
ゆっくりアリスは興をそがれたような表情で姉妹たちを省み、にたりと笑った。
「じゃあ、代わてあげてね!」
姉ゆっくりの顔が恐怖でゆがむ。
「お母……は、ゆっく……し……よ……」
矛先を子供へ向けないよう声を絞り出す母ゆっくりだが、途切れ途切れの声は逆に姉ゆっくりに覚悟を与えた。
姉ゆっくりの脳裏に浮かぶ、親友のゆっくりれいむの存在。
涙といっしょのその姿を流し去って、姉ゆっくりはアリスに向かい合う。
「うん、ゆっぐりするう。すっぎり゛ざぜるううう!」
「だめええええ」
母の悲痛な声。
だが、姉ゆっくりは気丈に涙を流しながら笑っていた。
「へいきだよ、なんてことないよ! 体も大きくなったしへっちゃらだもん!」
ぷるぷると震える唇で強がった。
だが。
「ようやく素直な気持ちで愛を受け入れてくれるのねええええええ!」
「ゆぎい!!!」
一息の呼吸で目の前に現れた、紅潮したアリスの顔に決意も鈍る悲鳴がもれる。
のけぞる姉ゆっくりの体。
だが、アリスは一度口にした相手を容赦したりはしなかった。
「はあはあはあはあはあはあはあはあ!」
「……っ!」
熱い、湿った息が顔面をじっとり濡らす。
「ひひふう、ひひふう」
「ぐうう……」
笑ったようなアリスの顔が、小刻みに震えながら体重をかけてくる。
ねちょるん。
そのまま、舌がゆっくりまりさの顔をなめあげた。
姉ゆっくりの決意を打ち砕く、生ぬるくべとべとにしたたる感触。
「やっぱりいやだああああ」
生理的な嫌悪に、姉ゆっくりが震えていた。
ぽろぽろとこぼれる涙。
もう一秒たりともアリスが触れることを、心が許さない。
「い゛や゛た゛ああああ! おがーぢゃーん! れいむうううう、れいむうううううう!!!」
ありるの体が姉ゆっくりを貪るたび、姉ゆっくりの絶叫が響くが。
「一度嫌がって見せるのが、慎ましくてかかわいいっ!」
ますますアリスの息を荒くするだけだった。
「かわいいよ、たべちゃいたいよおおおほほほおおお」
ついには噛み付きながら、絶頂へとむかっていく。
「やめで、やめで、だずげで、おがああざああああああん! おがああぢゃああああんぐぐぐごめんねれいむううう、もうれいむうう、れいむうううううううっ!!! ずっぎり゛ーっ!」
涙をぼろぼろとこぼしながら、白目をむいて姉ゆっくりは果てた。
繁殖前ゆえか子供はできなかったが、姉ゆっくりの心の大切な部分が朽ち果てたようなものだ。
その一瞬にゆっくりれいむのことを思えたのは、せめてもの心の慰めだったかもしれない。
しばらくは、「ふうう! ふうう!」と獣のような息を吹き上げていたゆっくりアリス。
だが、息が整うなりゆっくりアリスは行動に移る。
今度は隣で目を塞ぎ、震えていた妹ゆっくりの元へ。
「妹ちゃんも、寂しがらせてごめんねええええ!」
「ゆぐううううう! いやだああああ!!!」
もはや、その凶行は止まる気配を見せない。
行為の終わった巣穴の中、すすりなくゆっくり一家と、赤ちゃんゆっくりの食べ物を咀嚼する音だけが響いている。
アリスはただ一匹、にこにこ顔でゆっくり一家を見渡していた。
「春になるまで、ずっとずっと、すっきりさせてあげるからね!」
それはこれから何ヶ月も続く、新たな地獄の始まりの合図だった。
最終更新:2022年05月03日 16:54