「ゆっくりしていってね!」

「ゆっくりしていくね」

子供らしい素直さで男を迎える子まりさだが、持ち抱えられるときょとんとした顔で男を見る。

「ゆー? おじさん、なにするの?」

「ごめんね。お母さんはまだ赤ちゃんを産まなくちゃいけないんだ。だから、おじさんとゆっくりしようね」

「ゆっくりするね!」

またしても、男は母れいむの前に座ると子まりさに床に落ちているものを拾って、目の前に差し出す。

「ほ~ら、おいしい食べ物だよ。餡子って言うんだ」

二度目のやりとりを繰り返す。今度の場合は餡子の外側の部分が違うだけである。先ほどの子れいむの中身を食べさせているのだ。
子まりさ側からは餡子しか見えないが、母れいむ側からでは死んだ子れいむの顔がよく見えることだろう。
子まりさはそんなこととは露知らず、「おいしーい!」などと言いながら、姉の中身を食べ尽くそうとしている。

「ぎい゛ぃぃぃぃ!!?? だべな゛いでぇ! だべぢゃだべぇぇっ!!」
「ゆゆ? どーしたの!? ゆっくりなかないでね!?」

「お母さんはね、君だけおいしいものを食べているのが許せないのさ。全部、自分にくれって言いたいんだ」

「ゆーっ!? だめだよ! このおいしいあんこはまりさのものなんだから! プンプン!」

母れいむがいくら制止しようとしても、子まりさは止まらない。
逆に止めようとしているからこそ、『おかーさんにあんこをとられる』と思って、さらに食べようとしているのかもしれない。
やがて最後は吸うようにして、子まりさは餡子を食べ終えた。

「ごっくん! しあわせー! ……ゆ?」

餡子が乗せてあったものに三つほど穴が開いている気がつく子まりさ。
男はそれを察して、無言で皮を裏返した。
子まりさは一度「ゆ゛!?」と鳴き、必死で目の前のものが何なのか理解しようとする。
しかし、頭が餡子では思考が現実に追いつかない。いや、現実を否定しようとする。そうでなければいけない。
解ってはいけない。何故なら、それは自分の仲間であるからだ。
突然、皮がべちょりと子まりさの顔に張り付いた。男が手で押したのだ。

「い゛、い゛や゛あ あああ! やべでやべでぇっ! ぐっづがないでぇ!! はな゛……ぎっ!?」

男がここぞとばかりに噛み付く。右手で皮ごと子まりさを抱え込みながら、咀嚼を繰り返す。
子れいむと比べると、種類のせいなのか状況のせいなのか子まりさの餡子はいくらか違う。
子まりさの餡子はさっぱりとして口の中に甘さが残らず、何度でも食べられるような甘味だった。

「あ゛がぢゃあ゛あ゛あん! だべる゛の゛やべでぇぇぇっ!! い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃっ゛っ!!!」

母れいむが叫びながら、激しく震え始める。歯を食いしばりながら、涙もぼたぼたと流れていた。
まさか、と男は驚愕した。これほどの短時間で次の子供を生もうとするとは見上げた精神力である。
おそらく、男が子まりさを食べている間に次の子供を生んで、その子だけはどこかへ逃がそうという魂胆だろう。
顎の穴が徐々に広がり始めたのを見て、男はある決断をする。

「見えるかい? お母さんは君を見捨てて、次の子供を生もうとしている。君は食べられちゃってもいいんだってさ」

「お゛があ゛ざん!? だずげで! ま゛り゛ざをだじゅ!? ぱぴぃ! ぺぽぉ! ぱぴぺてぽぉ!!」

助けを呼ぼうとする合間にも食べられているため、言語がおかしくなってきている。
最早、子まりさ何を言おうとしているのかは誰にも分からない。その意図は伝わっていたとしてもだ。
母れいむは半狂乱の装いを見せながらも、、必死で最後の子供を生もうとしていた。
既に母れいむの中では、子まりさは死んだものとして扱われている。

「ゆっぐりうまれでね!? はやぐうまれでね!?」

自らの身体を揺さぶりながら、矛盾する言葉を吐く母れいむ。
その振動で中にいる子ゆっくりは幾らかの恐怖を感じたが、母の胎内にいる限りは大丈夫だ、という根拠の無い自信があった。
やがて、めりめりと出てくる子ゆっくり。れいむ種である。
男はそれを確認すると、食いかけの子まりさを手に持ったまま、母れいむへと近づいていく。

「ゆっ!? ゆっぐりごないでね! ゆっぐりあがぢゃんをたべででね!?」

「ゆっくり……していってね!」

「ゆ゛っ、ぶぐぉ!?」

顎の穴に目掛けて思い切り、子まりさを捻じり込む。中の子れいむと手の子まりさの顔が触れ合うような形で押し込む。
中からはくぐもった悲鳴が聞こえたような気がするが、男はまったく気にしない。

「いい゛いい゛いい゛い!!?? な゛に゛ずるのぉ!? う゛、う゛まざぜで! あがぢゃんだざぜでぇっ!」

母れいむは出産を中断させられた痛みで絶叫する。口からは泡のようなよだれを振りまいていた。
男は持ってきていた籠の中から、縄を取り出して母れいむの周りを囲むように置く。
次に母れいむの頬の皮を寄せてあげるようにして、顎の穴を無理やり塞ぐ。

「あがっ!? やべで! あがぢゃんでるどご、うめないべぇ!?」

「よいしょっと」

当然、このままでは元に戻ってしまうので、先ほどの縄で母れいむを思い切り縛り上げた。
皮に食い込むほどに力を入れているが、縄が皮を破ることはなかった。男の熟練した技の賜物である。
中から子れいむが出ようとする圧力と、外から縛り上げられる力で母れいむの身体からぎちぎちという音が鳴る。
子供が生めない、子供が死んでしまう、縄が擦れて痛い、人間が怖い、まりさがいない。
それら様々な感情が母れいむの中で渦巻く。やがて、ぷつん、と何かの糸が切れてしまった。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!
 ま゛り゛じゃぁぁぁっ!! だずげでま゛り゛じゃ゛ぁ゛ぁぁぁっ!!」

狂ったようにゆっくりまりさの名を呼ぶ母れいむ。本当に狂ってしまったのかもしれない。
男はそん母れいむの様子を見て尋ねた。

「そんなに、ゆっくりまりさに会いたいかい?」

「あ゛い゛だい゛! ま゛り゛じゃに゛あばぜでぇ゛ぇ゛ぇっ!!」

その言葉を聞くと男はよし、と頷いて、持ってきた籠の中に手を入れる。
その中から何かを取り出して母れいむに見せてやる。

「ま゛り゛じゃ゛ああ゛あ゛あ゛ぁぁぁっ!!?? な゛ん゛で、そ゛ん゛な゛どごろ゛にい゛るの゛ぉぉぉぉっ!!??」

それは餡子が抜けて、半分潰れたような状態になっているゆっくりまりさであった。




ゆっくり魔理沙は傷ついていた。体中に穴が開いており、そこから餡子がはみ出していた。
なんでこんなことになったのだろう、とぼやけた頭で振り返る。

今日はゆっくり霊夢が子供を生みそうなので、簡単に食べ物を探してすぐに帰ろうと思っていた。
子供が生まれる時は一緒にいてあげたいからだ。
その途中で、いつも食べ物をくれるおじさんに出会った。

「おじさん、こんにちは! あのね、そろそろあかちゃんがうまれそうなんだよ! だから、たべものちょうだい!」

ゆっくり魔理沙は嬉しいのと、いつものお礼の気持ちを込めて子供のことを話していた。
おじさんならゆっくりできいてくれて、たべものもくれる、と思っていたのだろう。
そもそも、このゆっくり魔理沙は一度、この男の家に食べ物を探しに入って捕まったことがあるのだ。
その時、ゆっくり魔理沙は泣きながら事情を話した。

「れ゛いむ゛がぁ! あ゛かぢゃんうむがら、い゛っばい゛だべものがぼじがっだんでずぅ!」

そうすると、男は納得して助けてくれた。そしてこんなことを言ったのだ。

「いいかい? もう、人間の家に入っちゃ駄目だよ。食べ物なら私があげるからね」

そう言われて、最初は疑っていたがちゃんと食べ物をもらえたので、ゆっくりできるひとだ、と安心できた。
これ以降、男は基本的には野菜の葉っぱや皮だったが、毎日食べ物をくれた。
そんな食べ物でも、ゆっくり霊夢とずっと一緒にいたいゆっくり魔理沙には、食べ物を探す時間を減らせるのでとてもありがたかった。
そして、たまに貰える餡子が一番楽しみだった。自分一人で食べてしまいたい誘惑を堪えるのに必死なぐらいである。
ゆっくり霊夢も餡子が大好きで、二匹でいつもおいしく食べていた。
出産のためには住む場所を変えた方がいい、と教えてくれたのも男であった。
ゆっくり霊夢には内緒だったが、住むのに適した場所を見つけ、穴を掘るように指示と手伝いもしてくれた。
新しい家にゆっくり霊夢を招待した時は、見栄を張って自分一人で掘った、と言ってしまっている。
それを悪いことだ、と思っていたゆっくり魔理沙は恩返しと罪滅ぼしの意味を込めて、子供のことを話していた。
男はそれは良かった、と頷くと、持っていた籠のようなものを地面に下ろした。

「赤ちゃんが生まれるなら、お祝いをしてあげないとね」

「ゆっゆっ! おいわい! なにをしてくれるの!?」

男が籠の中から何かを取り出そうとしているのを、興奮気味に見ているゆっくり魔理沙。
またおいしいあんこをもらえるかもしれない、などということを思っていた。

「はい、お祝いだよ」

「ゆ、ぐりぃ!?」

勢いよく取り出されたバールのようなものが、ゆっくり魔理沙に振り下ろされた。
どずん! という鈍い音を立てて、ゆっくり魔理沙の穴が開けられる。

「ぎぃい゛いい゛い゛いっ!!?? い゛だい゛ぃ! な゛に゛ずる゛の゛ぉ!?」

突然の凶行に泣き叫ぶゆっくり魔理沙。男はさらに凶器を振るう。

「ほら、ほら、ほら、ほら、お祝いだよ」
「ゆぶっ!? ゆげ!? ゆぎゅ!? ゆあ!? ぶぎ!?」

言葉を発する度に凶器は振るわれる。それは的確にゆっくり魔理沙の身体に穴を穿ち、そこから命の源である餡子が漏れていく。
しかし、完全に死ぬ所まではいかない。男がそう調整しているのだ。
身体にいくつもの穴が開き、餡子が流れ出して段々と平らになっていくゆっくり魔理沙。
これ以上餡子が出ると死んでしまう、という所でようやく暴力は止められた。

「ふう……君たちみたいに言うと、すっきりー! という所かな?」

「どぼっ……じでぇ……なんで、ごんなごどずるのぉ……」

「なんでどうして、ときたか。月並みな言葉だけどね、君たちはもう少し他人を疑った方がいいよ」

心にも無い言葉をかけながら、背負った籠のようなものにゆっくり魔理沙を入れる。
それ以上、餡子が出ないように薄皮一枚分の手当てだけはしたが、そんなものはすぐにでも破れてしまいそうだった。
動けない身体だけどゆっくりしていればだいじょうぶ、と真っ暗な中で耐えるしかなかった。
しかし、それでも自分が長くはないことを、悪い人間に捕まってしまったことも悟っていた。
おじさんが何故こんなことをしたのか、ゆっくりまりさには分からない。
暗闇の中でただひたすらに、れいむがげんきなあかちゃんをうめますように、とまりさは願っていた。

どのくらい経ったのだろうか。ゆっくりまりさには判断がつかなかったが、何度か上の方が明るくなったりしていた。
ゆっくりれいむの声が聞こえたような気もしたが、ゆっくりまりさにはよく分からない。
周りにあるものが色々と上の方に持っていかれていたが、それを追う気力も体力も無かった。
そうやってじっとしていると、ようやくとでも言うべきだろうか、ゆっくりまりさの身体が持ち上げられていた。
急に暗い所から出されたため、眩しくて目を細めていると、聞き覚えのある懐かしい声が聞こえた。



「まりじゃあぁぁぁっ!! あいだがっだよ! まりじゃぁぁぁぁ!!」

母れいむは大好きなゆっくりまりさを見て、歓喜の声をあげる。その言葉だけ聞くと、ほとんどゆっくりありすのようでもある。
ゆっくりまりさの方は餡子が抜けてしまっているため、大きな反応は出来なかったが、それでも力無く笑ってみせていた。
それは、消えかけの蝋燭が最後に精一杯燃え上がろうとしている様に似ていなくもなかった。

「ようやく、お友達に会えて嬉しいかい?」

「ゆ゛っ! まりざからてをはなしてね! ごごはれいむとまりざのおうぢだよ! ゆっくりでていってね!!」

いくらか持ち直したのか、言葉から濁りが少なくなる母れいむ。ゆっくりまりさと出会えたことで色々と記憶が吹っ飛んだのだろう。
もちろん、子供のことすら半分以上忘れてしまっている。
今、母れいむが考えているのはまりさとゆっくりしたいということだけだった。
身重の体を無理やり動かしてでも、ゆっくりまりさに近寄ろうとしている。
男はそれを見て、母れいむの前にゆっくりまりさを置き、それと同時に手早く母れいむの縄も解いておく。

「ゆゆ? おじさんもようやくわかってきたね。さっさとれいむたちのまえからゆっくりきえてね!」

母れいむはケタケタと身を揺らして笑っている。男の行動から、自分が優位に立っていると感じているのだろう。
男は何も言わずにただ笑顔でいる。母れいむの言葉にも怒りを表さず、何かを楽しみに待っているようだ。
母れいむが忘れている存在を、男は覚えているのだ。

「まりさ、はやくふたりでゆっくりしようね! ふたりでゆ゛っ! ぐ、り……!?」

母れいむが大きく震える。震えは止まらず、「ゆ゛っゆ゛っゆ゛っゆ゛っ!?」という声と一緒にめりめりという音が聞こえてくる。
縄で閉じられていた顎の穴が再び開き始めているのだ。
ゆっくりまりさは何が起こっているのかよく分かっていない。既に理解できる程度の理性も失いかけている。

「い゛だいいぃぃぃ! ひぎぃ! なに゛!? な゛に゛がでる゛ぅぅぅっ!!??」

「なにって、決まってるだろう? 君の子供さ」

男が親切に説明してあげる。母れいむはその言葉で目を見開きながら絶句する。この瞬間まで、子供の存在は忘却の彼方にあったのだ。
楽しいことは覚えていても嫌なことや痛いことはすぐに忘れてしまうという、ゆっくりの独自の脳構造故だろうか。
一方、ゆっくりまりさは子供と聞いて、弱った身体にわずかばかりの力が戻った。

「ゆっ……? あかちゃん、まりさたちのあかちゃん……」

最早、目も虚ろでかなり弱っていたが子供のことは覚えていた。
母れいむと違って、子供によって痛い目にあっていないからである。
「あかちゃんあかちゃん……」と呟きながら、母れいむの方へ這いずって行く。
ちょうど、顎の穴に向かって進んでいっている

「い゛ぎぃ! い゛だい゛い゛だい゛! はやぐお゛わ゛っでぇっ! ゆ゛う゛っ!!!」

ぐちゃ、っと顎の穴から餡子の塊が吐き出される。男が突っ込んだ子まりさの死骸であった。
その死骸は穴の近くにいたゆっくりまりさに当たった。

「ゅぎゅ! ぶえぇっ!」

子まりさは既に半分以上が食べられており、ゆっくりまりさと比べても四分の一程度の大きさしかなかった。
しかし、その程度であっても勢い良く吐き出されると、ゆっくりまりさには耐えられない衝撃だった。
顔の正面に当たった結果、身体の各所から餡子がはみ出る。
ゆっくりまりさはわずかに呻く程度で、もうその場から動こうとはしない。動けないのだ。
母れいむはその様子を見て、子供を生むとどうなるかを思い知る。
あのぐらいの大きさでもゆっくりまりさが動けなくなってしまうのであれば、子供が当たったらどうなるのか。

「どいで! まりじゃ、そごどいでぇ! ゆぎぎぎぎぃ!! でぢゃう゛! あがざんでぢゃう゛!」

自分が動こうとしても、出産の痛みで動くことができない。無理に動けば、身体が裂けてしまうかもしれない。
完全に行き詰っている。この状態で何とか出来るものがいるとすれば、一人しかいなかった。

「おじざん! たずげで! まりじゃどがぢで! はやぐぅ! ゆっぐぅ!」

出産の痛みに必死で耐えながら、現在助けを求められる唯一の相手に何度も助けを請う。
それでも、男は動こうとせずに見守っている。

「出て行って欲しいんじゃないのかな? 消えて欲しいんじゃないのかな?」

笑いながら、母れいむの言葉を繰り返す。勿論、ゆっくりの頭ではそんなことは覚えていない。

「なんでもじまずぅぅぅ!! なんじぇもじまずがら! ま゛り゛じゃをどがじであげでぇぇっ!!」

「一生のお願いっていうのなら、どかしてあげてもいいよ」

「いっじょうのおねがいでずぅ! いっじょうのおねがいだぎゃりゃ!? ゆぉほう! なががらでりゅ!?」

そこまで言った所で顎の穴から再びめりめりという音が鳴る。
奥の方から徐々に顔をみせつつある子れいむ。母れいむからしてみたら、それは死の予兆以外の何者でもない。
母れいむの思考は「ゆっくりまりさ>あかちゃん」という図式であった。優先するべきはゆっくりまりさである。
あと一人生めばこの痛みから解放される、という抗いがたい誘惑に負けそうになりながらも必死の形相で耐える。

「んほおおおおおお!? お゛ね゛がい゛ぃぃ!? じま゛じゅうぅぅ!! ま゛り゛じゃを゛おごおぉぉ!?」

間断無く襲い来る傷みに耐えながら、出来うる限りの懇願を繰り返す。
本来ならば、ゆっくりは母性によって出産の痛みに耐えるのだが、既に母れいむは子供に対する愛情がなくなっていた。
そうなると、痛みもただ辛いだけのものに過ぎない。

「一生のお願いなら仕方ないね。よいしょっと」

母れいむの必死さと比べると、はるかに軽い様子で男が動く。
ゆっくりまりさの所まで行き、両手で持ち上げる。

「あ゛り゛がどぅ゛! ゆ゛っぐりどがじでぐれで、あ゛り゛がどね゛え゛えぇぇぇ!?」

礼を言おうとした母れいむの顔が一気に引き攣る。男はゆっくりまりさを母れいむの前に置いただけだった。
それも顎の穴の真正面、子れいむが出てくる場所に向かって置き直しただけである。

「あぎいいいいい!! な゛、ん゛、で!? ど、い゛、で! ぞご、ど、が、じ、で!!!」

「このゆっくりまりさを『どかして』あげただろう? 『どこ』かまでは言われなかったから、君の目の前に置いてみたよ」

男は笑顔で言う。母れいむは一度気を抜いてしまったせいか、完全に限界が来ていた。
言葉を喋ることが困難になってきている。呼吸すらも難しくなっているだろう。
やがて、それは決壊した。

「ゆ゛ぶっ!! う゛びゅ!! でりゅ……! ぎぶう゛う゛う゛ううう゛ぅ゛ぅぅっ!!!」

ぽーん、と子れいむが排出される。子れいむには穴の奥から外の状況は見えていた。
見えていたが、皆が何を言っているのかはよく分かっていない。
きっと、どうやってゆっくりするのかきめているんだ、などと夢想していた。
めのまえににいるゆっくりまりさはきっとおとーさんで、れいむがうまれるところをみててくれているんだ、と勘違いもしている。
だから、真っ直ぐに親の胸へ飛び込むように、ゆっくりまりさの所へ向かっていった。

「だべえ゛え゛え゛え゛え゛ぇ゛ぇぇぇっ!!!

母れいむは一瞬だけ歓喜の表情を浮かべていたが、すぐにそれも消え去って、思い切り叫ぶ。
だが、その叫びを聞いても子れいむは止まらないし、止まれない。
そして、ゆっくりまりさも目の前に迫り来る自分の子供に対して、回避する手段を持たなかった。
状況もろくに判断出来ていないが、その顔は生まれてくる子供を祝福するように微笑んでいる。
ゆっくりまりさの顔に子れいむが直撃する。何か言葉を出すことすらなく、餡子が辺りに飛び散った。

「………………」
「ゆゆゆ……ゆっくりしていってね!」

母れいむは呆然としていた。愛しいゆっくりまりさがいれば、他には何もいらなかったのに。
出産に伴う痛みも無くなったため、母れいむは何も感じなくなっていた。
逆に子れいむは初めて外の世界に出れて、思う存分ゆっくりしていた。
先ほどぶつかった「おとーさん」がなんだか平べったくなっているのが気になったが、大丈夫だろうと思っていた。

「ゆっゆっ♪ おかーさん。おかーさん♪ ゆっくりしようね!」

ニコニコしながら、母れいむに身体をすり寄せる子れいむ。母れいむは呆然としたまま、そちらを見る。
子まりさとゆっくりまりさから、餡子を浴びたゆっくりがそこにはいた。

「!? あっぢにいっでね! まりじゃのあんこをたべぢゃっだわるいこはじね゛!!」

身体を思い切り揺らして、子れいむを引き剥がす。
事実はそうではないが、母れいむにはゆっくりまりさを食べてしまったようにしか思えなかった。
もしくは、子れいむがいたからゆっくりまりさは死んでしまったとまで感じている。

「ゆにっ!? どーしたの、おかーさん? ねぇねぇ、どうしたの?」
「ゆっぐりぃ!!」

再び寄って来る子れいむを思い切り吹き飛ばす。
餡子まみれになりながら、純真とすら言える笑顔で迫ってくる様子は母れいむにとって恐怖以外の何者でもなかった。
吹き飛ばされた子れいむは、まさかそんなことをされるとはまるで思っていなかったらしく、びぃびぃと泣き始める。

「おがーざーん!! どうぢでこんなことするのぉ! いっじょにゆっくりしようよぅ!」

母れいむの周りを飛び跳ねながら訴える。その姿は愛らしくもないのかもしれない。
それに対して、怒号をもって母れいむは応えた。

「あっぢにいげぇ!! まりじゃをごろじだやづは、ゆっぐりじね!!」
「ゆっっぶ! ゆぐぅ……」

弾き飛ばされた子れいむが家の内壁に当たった。そのまま、気絶してしまったようである。
母れいむはそれを見て、泡を吹きながら喜ぶ。

「ふへっ、ゆへへへへへへへ! まりぴゃのかちきはとったよ~。みんな、み~んなやっつけてやったじょう!」

「今、吹き飛ばしたのって君の子供、赤ちゃんだよ」

間髪入れずに男が口出しをする。狂ってしまった母れいむにも分かるよう、赤ちゃんという言葉を使う。

「ゆぎっ? こんなのれーむのあかちゃんじゃ、ないよー? なに、いってるんだろーね、おかしーよ」

母れいむは呂律が回らないという状態ですらなく、言葉の発し方が不自然になっていく。
それほどに可笑しいのか、身体全体を激しく震わせるようにして耳障りな音を発しながら笑っている。

「その赤ちゃんを生んだのは君で、生んだせいで君のお友達のゆっくりまりさも死んじゃったんだよ」

「ゆぴきききき! ぞんな、ごど、あるわげないびょ? ゆふぇふぇふぇ!」

最早、笑い声なのかどうかすら良く分からなくなっている。それでも、男はさらに続ける。

「君のせいで、ゆっくりまりさは、死んじゃった」

「ゆ゛いいいぃぃぃい゛っぃぃい゛い!! うるざい! も゛う゛い゛い゛! ざっざどでべっでね゛!」

「駄目だ……完全に壊れちゃったか。ま、しょうがないかな」

やりすぎたなぁ、と独り言を呟きながら、母れいむの口に大きい針のようなもので穴を開ける。

「ぶぎっ! な゛に゛ずるびゅ!」

痛みを訴えるが、無視してその穴に縄を通していく。勿論、煩いので喋らせないようにするためである。

「餡子の量も減ってるみたいだし、これなら持って帰れるかな……」

軽く持ち上げたりして、重さを量る。無理だったら引きずればいいだけのことでもある。
これだけ成熟したゆっくりならば、胎内出産にも蔦出産にも耐えられるだろう、と男は判断している。
先ほど食べた餡子の味を再び味わうためにも、この母れいむを持ち帰る気なのだ。
気が狂っていても餡子を生むことは出来る。このまま、男専用の饅頭生産機にする気であった。

「おっと、こっちも忘れないように……」

壁にぶつかって気絶している子れいむも籠の中に放り込んでおく。
明日、食べるために取っておくか、それとも種馬として躾けてもいいかもしれない。
親と子供を交配させるとどうなるのだろう、と素朴な疑問を試すのも手である。

「それじゃ、ゆっくり一緒に帰ろうか」

「…ゅ……ゅっ! ……ゅ……っ!」

何か喋ろうとしているがよく分からない。狂ってしまった者の言葉など聞いても意味がないだろう。
男が話しかけたとしても、それはほとんど独り言に近い。一方的に用件を伝えているだけだった。
これからはおいしい餡子が食べられる、と思うと男の足取りは自然と軽いものになっていた。


狂った母れいむは何がどうなったのか、良く分かっていない。分かろうともしない。
男の家に連れてこられても、鎖で繋がれても、どこにいようと意味が無かった。
母れいむはゆっくりまりさがいる幸せな幻想の中で、いつまでも過ごしていたからだ。
子供を生んでも、子供に交尾されても、幻想の中でゆっくりしていた。
子供が生めなくなったために捨てられても、ずっとずっと変わらずにゆっくりしている。
口の縄を外されたので、喋れるようにはなっているが、それもまったく意味が無い。
捨てられた場所はゴミが集められている所で、とても汚くて臭いが、それも母れいむに変化をもたらすことはない。

「ゆび……ゆぎいひひひ……まりじゃ、まりじゃぁ……」

今日も今日とて、母れいむは汚濁の中で『幸せ』に浸っているのであった。
餡子が尽きるその日まで。

めでたし、めでたし






後書き

AAの「出産しているゆっくり」があまりにもウザかったので書いてみました。
けっこうすっきりできたよ!
後半、というかオチの付け方にはかなり迷った結果、完成にかなり時間がかかったなぁ……
そして、色々な出産系のSSが多くて投下するタイミングを見失ってました。
というか、書こうとしてたことがAAでも再現されてたのはビックリ。職人すげえ。


一応、書いたSSをまとめておきます。


名前はゆっくりまんじゅうの人でお願いします。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2022年05月03日 18:09