※オリ設定の垂れ流し
※ぬるいじめ


「おい!虐待野郎いるか!?」

それがその日一番に聞いた自分以外の人間の声だった。
しかし、俺が引きこもっているとか、外界の情報を遮断していると言うわけではない。
ただ単に今俺の家のドアをぶち壊して入ってきたこの男が非常識なだけだ。

「なんだよ、愛で太郎・・・こんな時間に?」
「ゆっきゅちちちぇいっちぇね!」
「うっせぇよ、てめえの主人に言え!」

現在の時刻、6時12分。もちろん、朝の。
そして今日は日曜日であり、普通はまだ布団ときゃっきゃうふふしている時間である。
にもかかわらず数ヶ月ぶりにやってきたこの男と肩に乗っているペットの赤れいむは元気を持て余していた。

「で、今日は何なんだよ?」
「何なんだよ、じゃないだろ!俺たちを見て何か気付かないのか!?」
「いや、特に何も・・・・・・あれ?」

そこでようやく俺はある異変に気付いた。
こいつが俺の部屋にやってきたのは数ヶ月前。
その時はミニマムゆっくりなるわけのわからない小型ゆっくりを連れてきやがった。

「あれ?そっちのれいむ、世代交代したのか?」
「いや、紛れもなくあの時のれいむだぞ」
「嘘つけよ。いくらなんでもこのサイズは・・・」

なるほど、つまりはそういうことか。
こいつは自宅でゆっくりに関するおかしな研究を日々繰り返している。
そして、俺の部屋にやってくるときは大体いつも何らかの研究成果の披露が目的。
つまり今回の研究の成果がこの成長していないれいむということなのだ。

「ほぅ・・・今回は中々面白そうなことをしてるじゃないか?」
「はっはっは、俺はいつも面白いことしかしないさ!!」
「黙れ。で、何したんだよ?」

俺がにんまりとたくらみ系の笑みを浮かべてそう問いかけると、愛で太郎はポケットからお菓子を取り出した。
話を聞く限りでは、そのお菓子は正確には栄養補助食品のようなものらしく、形状やサイズは乾パンとほぼ同じ程度。
しかし、これ一つで赤ゆっくりの1日に必要な栄養を全てまかなうことが出来るそうだ。

「おいおい、本当にそれだけで成長しないのかよ?」
「ああ、こいつが証拠さ!見ての通りずっと小さいままだ!」
「ゆゆっ!れーみゅ、はやきゅおおきくなりちゃいよ!」

ふむ、成長を抑制することが愛好家として正しいことなのかは甚だ疑問だが、この食品は興味深い。
愛で太郎の発明をちょっと試してみたくなったので、頼み込んで半年分ほどその食品を分けてもらった。
それから俺は愛で太郎を追い返すと適当な公園で見かけたゆっくりれいむとゆっくりまりさの一家から赤れいむを2匹ほど拝借した。



そして、3ヵ月後。

「おい、れいむ。餌の時間だぞ」
「ゆゆっ!ゆっくりしたごはんさんだよ!ゆっくりちょうだいね!」
「れーみゅも!れーみゅもゆっくちちたごひゃんたべちゃいよ!」

俺の部屋には狭い飼育ケージに閉じ込めたれた2匹のゆっくりれいむの姿があった。
1匹には死なない程度に普通の食事を与え、もう1匹には例の補助食品だけを与え続けた。
その結果が、これだ。

「おねーちゃんはあかちゃんなんだからそんなのいらないでしょ!おお、おろかおろか」
「ゆゆっ!いもーちょのくちぇににゃまいきだょ!」
「にゃまいき・・・だって、げらげらげら!おねーちゃんならちゃんとなまいきっていってね!」
「ゆぴぇえええええええん!どほぢちぇしょんなこちょいうにょおおおおお!?」

どうやらこいつらの体内に入った食物は生存は栄養、成長は質量と見事に機能が分担されるらしい。
その結果、十分な量の餌を与えられず、取り込んだものを餡子に変換する余裕がなかった姉れいむは成長することが出来なかったのだ。
代わりに十分すぎる栄養の恩恵で皮や髪のツヤや目の輝きが非常に美しくなるという現象が生じていたりはするのだが。

「ちびでなきむしなあかちゃんおねーちゃんはゆっくりだまってね!」
「ゆぴぇーん!ゆぴぇーん!おにゃかしゅいたよー!」

話の流れを無視しての空腹宣言。これもまたこの補助食品の恩恵と言えるだろう。
どうやらゆっくりに満足感を与えるものは栄養価よりも味や量らしい。
だから、量が少ないこの食品を1日1つ食べるだけの姉れいむは慢性的な、それも日を追うごとに増してゆく空腹感に苛まれていた。
にもかかわらず、高い栄養価のおかげで動く体力だけは十分すぎるほどに余っている。
そして、餌を催促するために暴れまわったり泣き叫んだりして疲労感を覚えると同時に余計にお腹が空いてしまう。

「ゆぴぇーん!ゆぴぇーん!」
「うるさいよ!ゆっくりしずかにしてね!」

延々と続く、ケース越しの姉妹喧嘩の名を借りた妹による一方的な言葉の暴力。
普段ならばそれを見ながらにやにやしている所なのだが、今日は客人がもう玄関まで来ているのでそんな時間はない。
そんなわけで、俺は妹れいむを一喝して黙らせると、玄関で待っている客人の女性を部屋に招き入れる。

「この2匹のどっちかを貰っていいのよね?」
「ええ、そうですよ。どちらでもお好きなほうを」

そう、俺は彼女にゆっくりを分けてあげる約束をしていたのだ。
そして、そのやり取りに即座に反応したのはずいぶんしっかりと成長した妹れいむだった。
ケースの中でぴょんぴょんと跳躍して、彼女に自分の姿をアピールしている。

「おねーさん、れいむのほうがいいよ!おねーちゃんはちびのまんまのゆっくりできないこだだよ!」
「ゆゆっ!?どうひちぇこんにゃこちょいうにょおおおおお!?」
「ほんとうのことをいっただけだよ!ゆっくりりかいしてね!」
「ゆぴぇーん!」

妹れいむよ、お前の言うことは正しい。
野生のゆっくりであれば、3ヶ月も成長しないというのは秘密裏に殺してしまうに値するだけの理由である。
餌の浪費にしかならないし、今後成長する見込みもないのだから。
もっとも、今回の場合は俺が与える餌が原因なのだが、流石にゆっくりにそれを理解しろというのは酷な話だ。
そして、彼女にゆっくりにとっての正しいことと人間にとっての正しいことが決定的に異なることを理解しろと言うのも酷な話だろう。

「ん〜・・・なんかこの子可愛くない。こっちの小さい子にするね」
「はいは〜い、赤れいむ一匹お持ち帰り〜♪」
「どほぢでえええええええええええええええ!?」

まあ、そりゃそうだろうな。
小さいものが大きくなる可能性はゼロではないが、大きいものが小さくなる可能性はほぼゼロである。
加えて、量は多くても栄養価の低いものを食べていた妹れいむの皮や髪はぱさぱさだし、目も何処か濁っている。
つまるところ、彼女が言っていた通り可愛くないのだ。
ちなみに、口内もずいぶん荒れているし、歯も貧弱でちょっと硬いものを噛ませればすぐに折れてしまうだろう。

「可愛い赤ちゃん、ありがとね♪」
「いえいえ、大家さんの頼みとあらば。んじゃ、さよなら〜」
「やっちゃー!こりぇでゆっきゅちできりゅよ〜」

俺はにこやかに微笑み、手を振りながら去ってゆく女性を玄関まで見送る。
その間、部屋から漏れ出したBGM代わりの負け犬の遠吠えが、アパートの廊下に響き渡っていた。



−−−あとがき−−−
某氏の作品で餌の量を調整して成長を抑える描写があったなぁ・・・と思いつつ書いてみた。

byゆっくりボールマン

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最終更新:2022年05月21日 23:15