作者名:天海


「ゆんゆゆーんゆーんゆ、ゆんゆんゆー♪」
とてもゆっくりできる歌(おとなりのまりさ 談)を歌いながら、野原を跳ね進んでいる不思議なお饅頭……その名は ゆっくりれいむ。

れいむは初めてのソロ冬籠りから見事生還し、群れのみんなから大人のゆっくりとして認められたばかりである。
前途ゆんゆんでバラ色のゆん生を歩むれいむは、春の陽気につられたこともあり、ゆんゆん気分で野原を闊歩しているのである。

このれいむ、別段力が強いわけでもなく、知識が豊富なわけでもない。しかし、何故か頭の回転は早かったのである。
餌を探しに行くにも、捕食種のいそうな場所は極力避け、必要な分だけを確保し無駄に食糧を食い付くすこともなかった。
巣を探すにしても、他のゆっくりの目が届かないような、それでいて積雪にも負けないであろう、頑丈な巣を見つけ出した。
人里に侵入するにしても、人間の仕掛けた罠を次々と見破り、畑の野菜を確保して戻っていった。
れいむは ゆっくりとしてはサバイバビリティが高いゆっくりだったのである。
れいむはこれから続いていくであろう、とてもゆっくりできる日々を夢見ながら、ゆっくりと野原を跳ねて行くのであった。


あてもなく散歩を続けていると、れいむの視界には不思議な光景が入ってきた。
ゆっくり達が畑の前にずらっと並んでいるのである。それはまるで畑のバリケードのように。
ゆっくり達が集まっている=何か良いことがありそうだと考えたれいむは、ゆんゆんと畑の方向へ進んでいった。

「ゆっくりしていってね」まずはれいむがご挨拶を済ませる。
「「「ゆ? ゆっくりしていってね。」」」 それまで目を閉じていたゆっくり達が反応し挨拶する。
「ゆゆ? はたけさんのまえでなにしてるの?」 れいむが訊ねると答えは一斉に返ってきた。
「「「ゆ……ゆっくりしてるんだよ。」」」

れいむは考える。
畑の前でずらっと並んで動かずにいるゆっくり達。これのどこがゆっくりしているのだろう。
これはゆっくりしているのではなく、どちらかといえば何もせずにそこにいるだけである。
このゆっくり達は嘘をついている。

何故嘘をつくのか。
ゆっくりが嘘をつく時、それは自らの利益を守るためであることが多い。
きっとこの畑には美味しいお野菜が生えてくるに違いない。
実際に大根の葉と思われる物が畑から生えてきているではないか。
れいむにはその考えに自信を持っていた。今まで自分が間違っていたことなど無いのだ。
だからソロ冬籠りも危なげなく成功したし、群れのみんなに認められるようにもなったのだ。

「ゆゆ! うそつかないでね! れいむにおやさいさんたべさせないきでしょ!?」 れいむは畑のゆっくり達を糾弾する。
畑に生えている野菜は極上の味だし、食べると元気になる。
畑のゆっくり達はそれを独占しようとしているのだ。
人間が独占しようとするのは仕方ないが、同じゆっくりに食べさせないとは何たる事か。

「「「ゆ!? ちがうよ、ゆっくりしてるだけだよ? あと、はたけさんにははいらないでね!」」」
不自然なほどに声をそろえてそう返すゆっくり達。
れいむは更に確信した。このゆっくり達は畑を見張っているのだ。

それからしばらく同じような問答を続けたが、帰ってくる言葉は同じような物ばかり。
曰く、畑にはいるな。曰く、野菜なんて生えてこない。
これに業を煮やしたれいむは畑のゆっくり達を論破してやろうと考えた。
それには畑に生えてる野菜を目の前に証拠品としてつきつけてやるのが一番である。


「ゆぅ~、じゃあかえるよ。ゆっくりしていってね!」
そう言ったれいむに、畑のゆっくり達は安堵した表情を浮かべる。
しかし次の瞬間、れいむは素早く畑の方に振りかえり、短い助走からジャンプして畑のゆっくり達を飛び越えた。
先ほどの言葉はフェイクだったのだ。
畑のゆっくり達は意表をつかれ、れいむの侵入を許してしまったのである。

「「「ゆげぇ!?」」」 悲鳴を上げる畑のゆっくり達。
しかしそれを尻目に、れいむは野菜に向かってダッシュした。
「「「やめてね! ゆっくりしてね!」」」 あきらめの悪い畑のゆっくり達に構うこともなく、
れいむは野菜の生えている場所にたどり着き、葉を引っ張った。

「「「ゆぎぎぃ!? やめてね! とらないでね!」」」 懇願する畑のゆっくり達。
しかしもうれいむは止まらない。
そして無情にも野菜は引き抜かれた。

「「「ゆぎゃああぁぁぁあああぁぁぁあああああ!!!」」」
瞬間、畑のゆっくり達全員から断末魔とも思えるような悲鳴が発せられた。
前後左右から響く大音量サラウンドに、れいむは思わず怯んでしまう。「ゆびぃ!? な、なに?」
しかしれいむはすぐに落ち付き、引きぬいた大根を……大……根……

引き抜いた葉の先に白くて太くて美味しそうな大根などはついていなかった。
代わりに引き抜いたのは、丸い餡子の塊のような物であった。
そしてその瞬間、れいむは後方からの衝撃に襲われ気を失った。



れいむが目覚めると、そこは畑の前だった。
左右には畑のゆっくり達が並んでいる。
そして目の前には……1人の人間が座っていた。
「お、起きたか。ゆっくりしていってね!」 れいむに語りかける人間。
「「「「ゆっくりしていってね!」」」」 答えるれいむと畑のゆっくり達。

れいむには異変が起きていた。
ゆっくりしていってねの言葉と共に飛び跳ねようとしたのに、体が動かないのだ。
「「「「ゆ? なんだかうごけないよ!?」」」」
なぜ体が動かないのか。
その理由もわからぬまま、れいむはさらなる謎に包まれる。
なぜ畑のゆっくり達はれいむの真似をするのか。
「「「「ゆゆ? まねしないでね!?」」」」
その言葉をも真似され、困惑するれいむ。

「さて……と、畑を耕さないとな。」
そういって鍬を手に立ち上がる人間。その足が畑に踏み入った瞬間……
体の内側からくるような痛みがれいむを襲い、思わず悲鳴をあげる。
「「「「ゆげぇ!?」」」」
再び、畑では一斉にゆっくり達の悲鳴があがった。


畑のゆっくり達は同じ言葉、同じ感覚、同じ意識、そして同じ餡子を共有していた。
ゆっくり達は背面下部が切り取られ、その餡子は畑に繋がっている。
土のように見えていたのは、糖度の低い餡子であり、大根の葉についていたのはその中枢餡にあたる物であった。
そうなるように人間に改造されてしまったのだ。

人間の進歩とともにゆっくり達にも頭の良い種がでてくるようになった。
トラバサミ等の罠はおろか、餌でつってとりもちに捕まえるゆっくりホイホイ、
餌に似せた毒だんごであるゆっくりコロリ等をも見破り、回避するようになっていた。
結局、ゆっくりの被害はいつまでも続いてきたのである。

しかし、その状況にも対応するのが人間の素晴らしさであり恐ろしさでもある。
今度はゆっくり達が完全に気を許すように、生きているゆっくりその物をトラップとして使用したのだ。
他のゆっくりがいる=ゆっくりにとって安全な場所と考えるのはゆっくりならずとも仕方のないことであり、
この畑型トラップを村の周りに敷くことで、ゆっくり達の侵入を未然に防ぐのである。

畑型トラップに繋がれたゆっくり達には本能でわかっていた。
もう畑から離れることはできないことを。
離れれば中枢餡を失って死んでしまうことを。
新入りであるれいむにも その知識が共有されており、体を動かすことを無意識のうちに拒否していたのである。


そんなゆっくり達の都合も構わず、いや知っているからこそ、人間は鍬で餡子畑を耕し始める。
薪を割るかのように力強く、漁網を引くように力強く。

「「「「ゆぎゃああああ!」」」」
「「「「はたけさんかきまぜないでえええええ」」」」
「「「「あんこいたんじゃううううう!!!」」」」
「「「「まりさだけはたすけてえええ」」」」
「「「「どぼぢでそんなこというのおおおお」」」」
「「「「なんででいぶがこんなめにあうのおおお!?」」」」
「「「「もっとゆっぐりじだがったあああぁぁぁ」」」」

畑型トラップで描かれる、阿鼻叫喚の図。
この後、オレンジジュースと偽り畑に水をやることで、ゆっくり達は死なない程度に回復する。
人間にとって、これはトラップの保持のために必要な作業なのだ。
無論、耕している本人は面白くてやってる風もあるのだが。



れいむは後悔した。
たしかにゆっくり達の言う通り、畑に入ってはいけなかった。
たしかにゆっくり達の言う通り、葉を引きぬいてはいけなかった。
れいむと仲間達はこれから続いていくだろう、とてもゆっくりできない日々を案じながらゆっくりと目を閉じていくのであった。

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最終更新:2022年05月22日 10:53