いままで書いたもの
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  • 魔理沙とゆっくり~邂逅篇~
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道を歩いていると、目の前にいきなり一匹のゆっくりれいむが飛び出
してきた。

「ゆっくりしていってね!」
「断る」

俺は迷わずそいつを蹴り飛ばし、そそくさと家に帰った。
れいむはゆっくりしていってねと言ったのにゆっくりしてもらえない
どころか蹴り飛ばされて自分がゆっくりできなくなったので草葉の陰
で泣いた。








それから一週間。
俺はまたあの時の道を歩いていた。
すると、目の前に一匹のゆっくりれいむが飛び出してきた。

「ゆっくりまっ」
「断る」

喋っている途中のれいむの口目掛けて爪先をねじ込み、そのまま何度
か爪先を持ち上げたり勢い良く地面に振り下ろしたりしてから適当な
方向へ投げ捨てる。
れいむはゆべっとかゆ゛っゆ゛っとか呻きながら白目で口から泡など
吐いて痙攣していた。俺はそれを見届けると、れいむが通行の邪魔に
ならないよう道の脇にそっとどけてそのまま家に帰ろうとする。が、
やけに足首が重いような気がして(気のせいかと思ってしばらくその
まま歩いてたが、やはり重い)見てみると、まるで地面を引き摺られ
てきたような哀れな姿になったれいむが靴紐に必死にしがみついてい
た。

「ゆ゛……ゆ゛っぐり……ま゛っでね……」
「あ、あぁ……」

その地獄から響き渡るような声に俺はつい返事をしてしまう。
すると、れいむは急に元気に立ち上がった。

「ゆふふ……れいむはこのまえゆっくりしてくれなかったおにいさん
をゆっくりさせるためにきびしいしゅぎょーをつんできたんだよ! 
ちからづくでゆっくりさせてあげるからかくごしてね!」

れいむはそう言って、きっとこちらを睨みつけてきた。
そして、俺は……

「……………………………………………………………………この前?」
「どぼじでおぼえでないのー?!」

全く身に覚えがないのでとりあえず困っておいた。




れいむは泣いた。自分はずっとお兄さんの事を考えて過ごしてきたの
に、お兄さんはれいむの事などどうでもよかったのだ。
お兄さんはそんなれいむを見かねて、若干申し訳なさそうな表情を浮
かべる。

「いやぁなんかスマン。全く覚えてないけど。今日は別に急いでない
からゆっくりしてやってもいいぞ」

お兄さんからの提案。
ゆっくりしてないお兄さんからの完全降伏。これを受けてれいむは。

「どぼじでぞんなごどいうのー?!」

泣いた。
そしてそのまま続ける。

「それじゃせっかうのしゅぎょーがむだになっぢゃうでじょー?!」
「俺にどうしろと」

若干目的を見失っている感のあるれいむにお兄さんは言う。れいむは
器用にもみあげを動かして涙を拭うと、お兄さんを見上げて告げた。

「れいむとせいせいどーどーしょうぶしてね! れいむがかったらゆ
っくりしてもらうよ!」
「……まぁ別にいいけど死んでも恨むなよ?」

所詮はただの饅頭であるれいむを労わりそう言ってきた。しかし、そ
のような言葉に恐れるれいむではない。

「ゆふふ、りょうてりょうあしへしおってでもゆっくりしてもらうっ
てばよ!」
「そんな状態じゃゆっくりできねーよ」
「うるさいよ! じゃあいくよ!」

そして闘いが始まった。





「ゆふふ、これがれいむのひっさつわざだよ! ぶんしんのじゅつ!」

れいむが叫ぶと、突如れいむの姿がゆっくりしてない速度で動き始め
やがて残像が見えるほどになる。しかも、その残像は少しずつはっき
りとした輪郭を持ち始め、とうとう元のれいむと同じ姿を持って地面
に立ったではないか。
4つに増えたれいむ達は揃って声を上げた。

「「「「これじゃどれがれいむかわからないでしょ! ゆっくりこう
さんしてね!」」」」
「じゃあとりあえず一番右端から」

俺はなんとなく選んだそいつに軽くケリを入れてみる。

「ゆびぇっ?!」

そいつは潰れた饅頭のような悲鳴を上げると勢いよく後方に吹っ飛び
ボールのようにぽよんぽよんと弾むと太い木にぶつかり、また潰れた
饅頭のような悲鳴を上げて止まった。
その様子を見て、残った三匹のれいむは薄笑いを浮かべて叫ぶ。

「「「ひっかかったね! そっちはほんたいだよ!」」」
「本体がやられちゃ……駄目なんじゃないか?」

そう聞くと、三匹の分身は揃って小首をかしげ、「何を言ってるんだ
こいつ」みたいな顔をする。

「おにいさんのいうとおりだよ! ぶんしんははやくたたかってね!」

と、その間にずりずりと元の位置まで這ってきた本体が声を上げた。
三匹の分身は無様な本体の姿を一度見下ろし、お互いの顔を見合わせ
て相談を始めた。

「だれからいく?」
「どうしよう」
「じゃあれいむがいくよ」
「いやいやここはれいむが」
「でもあえてれいむがいくよ」
「れいむがいくって」
「ぎゃくにれいむが」
「やっぱりれいむが」

誰かが声を上げると他の誰かが志願し、それを見たほかの誰かがさら
に立候補する。
いつまでも終わらない議論。それを見ていた本体は憤り声を上げた。

「なにしてるの! ぷんぷん! こうなったられいむがいくよ!」
「「「どうぞどうぞ」」」

分身たちはこれ以上ないほど息のあった声を上げた。
そして本体のれいむは不敵な笑みを浮かべながらこちらに向かって飛
びかかってきた。

「おにいさんはゆっくりしたれいむにゆっくりやられてね!」

思い切り跳ね上がるれいむ。その位置は丁度俺の右拳の延長線上。
俺は躊躇わず拳を打ち込んだ。
打ち下ろし気味の右拳は容赦なくれいむを地面に叩きつけ、スーパー
ボールよろしくれいむを上空へと跳ね上げた。
およそ3メートルほど。その高さから落ちながられいむは叫ぶ。

「どぼじでごうなるのーーーぉんぶ?!」

そして顔面から地面にぶつかり、再度潰れた饅頭のような声を上げた。
戦場がしーんと静まり返る。この隙に攻撃すればもう終わりなのだが、
そういうのはオサレではないしなんだか悪い事をしてるみたいな気分
になってきたので控えておく。
しばらくして、れいむが起き上がって言った。涙を滝のように流しな
がら。

「でいぶいだいのもうやだ! づぎごぞぶんじんがいっでね!」

そしてぽよんぽよんと分身たちの後ろに隠れようとする。
集まっていた分身たちはサッと別れ、三方から本体れいむを取り囲む。

「だいじょうぶ! つぎこそかてるよ!」
「もーいっかい! もーいっかい!」
「ほんたいさんのちょっといいとこみてみたーい!」

そして、見事なコンビネーションで本体れいむをおだて始めた。

「ゆ~、じゃあもういっかいだけだからね!」
「「「ゆわーい」」」

普段褒められ慣れていないれいむは棒読みくさいその言葉にあっさり
と乗せられ、まだ涙の跡が残る顔をこちらに向けて跳ねてきた。

「れいむにぶんしんたちのまえでいいかっこさせてね!」

そう言って渾身の体当たりを繰り出してくる。
その姿が余りに痛々しくて、俺は右拳を入れてやらなくちゃいけない
所をつい平手でべちんと頬を引っぱたいてしまう。

「ゆべしっ!!」

横から衝撃を受けたれいむは、綺麗なきりもみ回転を疲労しつつ頭か
ら地面に突き刺さった。
まさか平手でもそこまでのダメージを負うとは思わなかった俺は、上
下逆さで地面に横たわるれいむにそっと手を伸ばす。

「ごべんなざいーー! もうでいぶのまげだがらいだいごどじないで
ねーーー?!」

と、それを追撃だと思い込んだれいむは大声で泣きながら降参の意を
示した。
大声で泣き続けるれいむを前に、すっかり困った俺は残っている分身
たちに目を向けた。
分身たちはにたにたと笑っていた。

「ゆふふ、ほんたいがやられたようだね」
「ほんたいはれいむたちのなかでもいちばんのこもの」
「にんげんさんごときにやられるとはれいむのつらよごしだよ」
「「「おぉよわいよわい」」」

先ほどまでの嫌らしい笑みから一点、大声で笑い始める分身たち。本
体のれいむはその場で(上下逆さで動けないため)声を上げた。

「どぼじでぞんなひどいごどいうのー?!」
「うるさいよ!」
「うごけないほんたいなどひつようないよ!」
「ゆっくりしね!」

そう言って分身たちは揃って上下逆さの本体の上に飛び乗り、本体れ
いむを押し潰した。

「ゆぴぃっ!」
「「「きたないはなびだね!」」」

三匹が縦に重なりまるでトーテムポールのような形になってそう言う
分身たち。こいつらどこの戦闘民族なのだろうか。
俺は、いい顔でそこに佇むトーテムポールに向かってささいな疑問を
投げかけてみた。

「お前ら、分身なのに本体なしで存在できるのか?」
「「「…………」」」

それを聞いた分身たちは、目を白黒させる。
そして、揃ってこう叫んだ。

「「「うっかりー!」」」

分身たちが叫ぶと同時に、一番下の分身の体が潰れた本体れいむの餡
子の中へずるずると引きずり込まれだした。きっと母なる海へと帰る
のだろう。
涙目になった分身達は、引きずり込まれながらも俺に向かって言葉を
投げかける。

「これでかったとおもわないでね」

一匹目が完全に飲まれる。

「たとえれいむがきえてもひとのこころにゆっくりしてないこころが
あるかぎり」

二匹目中ほどまでが飲まれる。

「だいにだいさんのれいむがおにいさんのまえにあらわれるよ」

三匹目の足が飲まれ始める。

「そのときまでせいぜい」

そして、三匹目の頭が完全に飲まれるかどうか、という所で。

「「「ゆっくりしていってね!」」」

声を揃えてそう言うと完全に分身達はこの世から消え、後には一匹分
のれいむの死体だけが残った。
俺は、あの分身たちの言葉を思い出す。

『ひとのこころにゆっくりしてないこころがあるかぎり――』

人がゆっくりするまで、ゆっくりという哀しい存在は生まれ続ける。
人はもっとゆっくりするべきだ。それを教えるため、ゆっくりは生ま
れ、そして死んでいくのだろう。
俺は、もうれいむのような哀しい存在が生まれないよう願いながら、
言った。

「さて、余計な時間を食ったし急いで帰るか」


おわり

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最終更新:2022年05月19日 14:26