虐待いじめ成分なし





明日は年に一度の博麗神社例大祭。
博霊神社の前には多くの出店が並び、人々が明日の祭りに向けて精力的に動き回っている。
この博霊神社例大祭、来る者は人間だけではない。
人間に混ざって妖精、妖怪、果てには神までもが参加する、幻想郷最大のイベントだ。
妖精や妖怪が来るのに人間が集まるのかと思う人もいるだろう。
確かに、軽いけが人は毎年出ているが、死人が出たことは、長い例大祭の歴史を振り返っても、一度としてなかった。
博霊の巫女が(人間から賽銭欲しさに)妖精や妖怪に睨みを利かせているのもあるが、基本的に幻想郷の連中は種族問わず、皆祭りが好きなのだ。
こんな日まで、血生臭い話題で祭りを汚したくないのだろう。
そのため、妖精や妖怪の妨害などもなく、準備は滞りなく進んでいった。



男は出店の前で煙草を吸っていた。自分の出店の準備が終わり、一息付いていたところだった。
男は祭りの定番である、風船屋の出店を出している。
店を出し、カラフルな風船を準備しガスを用意すれば、それで準備は終わりだ。
といっても、自分のところが終わったからさあ帰ろう!! とは、そうは問屋がおろさない。
人々が助け合い協力して生活している幻想郷では、一人は皆のために、皆は一人のためにが当たり前。
これから他の出店の準備の手伝いもしなければならないから、今夜は徹夜になるだろう。
これは忙しくなる前の最後の一服だ。
男は時計を見て、もう少し時間は大丈夫だろうと、もう一本煙草を取り出そうとした時、店の後ろに茂みで、ゴソゴソと何かが動いていた。
どうせ祭の定番動物、猫か狸だろうと考えながらも、商品が駄目にされることもあるので、さっさと追い出そうと店の裏に回った。
しかし、そこにいたのは猫でも犬でも狸でも狐でもなかった。

「ゆ!? やっとついたよ!!」

茂みから出てきたのはゆっくりだった。
初めはれいむ種一匹だけかと思ったが、その後ろには、子れいむや子まりさが数匹親の後について出てきた。
子まりさがいるということは、れいむとまりさの番なのだろう。
しかし、親まりさが居ないというのは、何かしらゆっくり出来ない事態に巻き込まれたということか。
ゆっくりの世界では、特別珍しいことではない。
農家の連中からは、害獣の一種と思われ駆除の対象となっているが、男は里で小さな個人店を営んでいるので、あまりそういった酷いゆっくりは見たことがなかった。
そのため、ゆっくりに対し嫌悪感は持っていない。
大方、人間たちが忙しく何をしているのか気になって見物に来たのだろう。
男は暇つぶしにちょうどいいと、ゆっくりの一家に声をかけた。

「おい、お前ら。ここに何しに来たんだ?」
「ゆゆっ!! おじさん、ゆっくりしていってね!!」
「今はゆっくりしてるが、もうすぐそれも終わりだな。後少ししたら、また仕事をしなくちゃならん」
「おじさんたちはなにをやってるの? ゆっくりれいむたちにおしえてね!!」
「祭りの準備をしてるのさ」
「まつり? まつりってなあに?」
「祭りってのは、みんなで集まってうまいものを食べたり遊んだり歌ったり踊ったりすることだ。まあ、お前らふうにいえば、いっぱいゆっくり出来る行事ってところか」
「ゆゆっ!! いっぱいゆっくりできるの? れいむたちも、まつりをやりたいよ!!」
「そうはいってもなあ……」

男は口を濁すが、れいむたち一家は男の態度に気付かず、もう自分たちも参加する気でいた。
「まりしゃもおいちいものたべりゅよ!!」とか「りぇいむたちもおうたをうたおうね!!」とか、大いにはしゃいでいる。
そんなゆっくり一家を見て、男は少し憐れそうな顔をしていた。
どこぞの飼いゆっくりならともかく、金も持ってない野良ゆっくりなどが祭りに参加できるはずもない。よくて追い返され、悪ければ屋台を狙う害獣として殺されるか、出店の商品にされるだろう。
今回の例大祭は、仮に名前を付けるなら、ゆっくり例大祭といっても過言ではない。
ゆっくりの丸焼き、ゆっくり飴、ゆっくり釣り、ゆっくりクジ、カラーゆっくりなど、ゆっくりを商品として並べる店が勢ぞろいしている。
例え無事祭に参加できても、そんな大量のゆっくりの死体に囲まれては、こいつらもゆっくり出来ないだろう。
そんなところに何の悪さもしていないこいつらを行かせるのも気が引ける。
そこで、男はこのゆっくり連中を少し遊ばせて、森に帰らせることにした。

「残念だがお前らは祭りには参加出来ないんだ」
「ゆゆっ!? どうして? ゆっくりせつめいしてね!!」
「実はな、この祭りにはゆっくりれみりゃがやってくるんだ。お前たちがいたら、れみりゃに食べられるぞ」
「ゆ――――!!! れみりゃ!! ゆっくりにげるよ!!!」

一家はれみりゃの単語を聞いたとたん、男に背を向けて、逃げようとした。
しかし、男はそんな一家に、「まあ待て!!」と、この場に留まらせる。

「おじさん、ゆっくりてをはなしてね!!」
「待てって言ってるだろ。話は最後まで聞け。確かにれみりゃが来るとは言ったが、来るのは明日だ。今日はいないよ」
「ゆっ? ほんとうに?」
「本当だ!! そんなわけだから、明日の祭りにはお前たちは参加出来んが、それもかわいそうだからな。特別に今おじさんが面白いことをしてやろう」
「おもしろいこと? ゆっくりやってみせてね!!」

男は出店から一個の風船と、足もとに置いてあるガスボンベのホースを掴むと、風船に空気を入れた。

「ゆゆ―――――!!!!」

子ゆっくりより小さな風船が、いきなり親より大きくなって驚く一家。
男は器用に風船の口を縛り、紐で結ぶと、手近の重い石に結び重しにした。
それを一家の前に置いてやる。

「お、おじさん!! いきなりおおきくなったよ!! ゆっくりせつめいしてね?」
「これは風船というものだ。空気を入れると膨らむんだ。触ってみな」

触ってと言われるも、一家は今まで見たことのない怪しげな物体に尻込みしている。
仕方がないなと、男はその風船を軽く叩き、左右に揺らしてみた。
ボクシングのサンドバッグのように、左右にゆっくり揺れてはゆっくり戻る風船が気になったのか、親れいむが恐る恐る風船に触ってみた。
するとどうだろう。れいむの力で風船が簡単に動くではないか!!
これにはれいむもビックリした。
自分より大きくて動かせるような物体は自然界にはそうそう存在しない。
岩にしても、石にしても、木にしても、自分と同等かそれ以上の物体は、どんなに力を入れても動かせないものばかりだった。
しかし、目の前の風船は、自分よりはるかに大きいにも関わらず、れいむが軽く触っただけで動かせるような物体なのだ。
これなら力の弱い子供たちでも簡単に動かすことが出来るに違いない。
れいむは興奮を抑えることができず、子供達も触ってみなと場所を譲る。
最愛の親が言うならと、まず一匹の子まりさが風船に触ってみた。
すると、れいむ同様軽く触っただけで動かせる風船に驚き、何度も風船に触っては、風船の面白さの虜になっていった。
そんな子まりさの姿を見て、自分たちもと他の子ゆっくりたちが一斉に風船に群がっていく。
自分の体の何十倍も大きい風船が、自分一匹の力で動かせる興奮は親以上で、子ゆっくりたちはそんな風船に体当たりをしたり、舐めたりして、風船の魅力にどっぷりハマっていた。
一家はしばらく風船で遊んでいたのだが、一匹の子ゆっくりが風船に体当たりをすると、勢いが良すぎたのか、風船が近くの鋭い石にぶつかり、「パーン!!」と乾いた音をたてて破裂した。

「ゆぎゃっ!!!!」

いきなりの破裂音に驚き、腰を抜かす一家。
体当たりした子ゆっくりなど、衝撃で泡を吹いて倒れている。

「お、おじさんっ!! ふうせんがなくなったよ!!」

しばらく風船の破裂に驚いていた一家も、ようやく立ち直ったのか、親れいむが男に尋ねる。

「割れて無くなったのさ。風船はな、こういうトゲトゲしたものに当たると、簡単に割れて無くなってしまうんだよ」

風船を割った石を持って、一家に説明する。
しかし、一家は案の定というか、意味が分かっていないようだ。自然界にない風船に、どうしても理解が及ばないのだろう。
男は仕方がないなと、二度三度かけてゆっくり説明してやった。
ビニール袋を息で膨らまし、それを実際に割ってみせることで、原理はともかく、尖った物を当てれば割れるということはなんとか理解できたようだ。

「おじさん!! もっとふうせんをつくってね!!」

親れいむは男にお願いをする。
別に風船の値段などたかが知れてるので、もう一つ膨らましてやっても構わないのだが、同じことを繰り返してもつまらない。
そこで男は面白いことを思いついた。

「もう一個風船を作るより、もっと面白いことをしてやるよ」
「もっとおもしろいこと? ゆっくりやってみせてね!!」

そういうと、男は適当な子ゆっくりを掴みあげる。
大切な子供をいきなり取られ、親れいむは「なにするの!?」と男に詰め寄るが、男は「大丈夫だよ」と、ゆっくりれいむを制した。
そういわれてもれいむは不安顔を崩さないが、風船を見せてくれた男を多少信用しているのか、口を出さなくなった。
おそらく今まで森から出たことがなく、人間の恐怖を味わったことが無いのだろう。
何にも悪いことをしていない自分たちに、酷いことをするはずがないと、認識しているに違いない。
まあ、男もいじめや虐待をするつもりはさらさらないので、れいむの心配は杞憂に終わるのだが。
男は、子ゆっくりを大きめの透明なビニール風船に入れると、その中にボンベのホースを差し込み、空気を入れた。

「ゆっ!? かじぇがはいってくりゅよ!!」

袋に入れられた子ゆっくりが、ヘリウムガスの風に驚き、袋の中で逃げまどう。
男は少し風船に余裕を持たせガスを注入すると、さっきと同じように、口を長めの紐で縛って、飛ばないよう重い石に括り付けた。

「ゆゆっ!!!」

子れいむが、ビニール風船の中で、アヒル声で驚きの声を上げる。
ヘリウムで声が変わったせいだ。
ミニトマトより少し大きいくらいの子れいむなら、風船一個でも余裕で浮かぶことが出来るだろうとの考えだったが、案の定、浮くことが出来たようだ。
子れいむは、初めこそ自分がどういう状況に置かれているのか理解できていなかったが、次第に自分が親や姉妹、男より高い位置にいると分かると、楽しさが込み上げてきたようだ。
男は紐を伸ばして、凧上げのように、子ゆっくりの風船を高く舞い上げる。
木よりも高い場所で止まると、出店ばかりか、自分の巣のある森まで丸見えだ。

「ゆゆ――――!! りぇいむ、ほんちょうにおしょりゃをとんでりゅよ―――!!!」

子れいむは、ビニール風船の中で、飛ぶ興奮を抑えきれず飛び跳ねている。
それに合わせてビニール風船も軽く上下しているが、少なめにガスを入れているし、子ゆっくり程度の重さなら、まず割れることがないだろう。
それを見て羨ましくなったのか、他の子ゆっくりたちも男の前に来ては、「おじしゃん!! りぇいむ(まりしゃ)もおしょらをとびたいよ!!」と、おねだりをしている。
果てには、親れいむまでもが羨ましそうに、「れいむも、あかちゃんたちのあとにゆっくりふうせんのなかにいれてね!!」と言ってくる始末。

これには男も困った。
風船はともかく、ガスはそう安くない。たくさんガスを使えば、明日風船をたくさん売っても、採算割れする可能性がある。
しかし、この男は子供や動物に弱い。それはゆっくりも同じで、元々自分から進んで始めたことだ。
1匹にやれば全員にというのは容易に予測できたし、苦笑いしながら採算度外視覚悟で他の家族もやってやることにした。
まず子ゆっくりから、透明なビニールに入れて浮かせてやった。
数は全部で8匹。
子ゆっくりたちの無邪気で嬉しそうなアヒル声が、風船の中から響いてくる。
ここまで喜ばれれば、冥利に尽きるというものだ。

「おじさん!! れいむもゆっくりはやく、おそらをとびたいよ!!」

すべての子ゆっくりが浮かぶのを待って、親れいむが次は自分たちの番だと、男にせっついてくる。
自分がゆっくりすることが一番と考えるゆっくりだが、ちゃんと子供に先を譲るあたり、野生のゆっくりにしては、中々出来た親のようだ。
しかし、ここで問題なのは、親れいむをどうやって飛ばすかだ。
このれいむは、成体ゆっくりと比べ、少し小さく小ぢんまりとしている。おそらく、成体になるかならないかというところで、子供を作ったのだろう。
もしかしたら、親まりさが居ないのはそのせいかもしれない。母体が若すぎると、子供に栄養を取られ死んでしまうからだ。
それにしても、この若さで子を作り、よく未熟児や奇形児が出来なかったものだ。運が良かったとしか言えない。

まあそれはともかく、完全には成体になっていなくても、親れいむはバレーボール大の大きさがあるので、さすがに風船の中に入れることは出来ない。
祭りのゴミを入れる大きなビニール袋もあるが、透明なものがなく、中に入れても外が見れなくなってしまう。
自分が本当に浮いているのか分からなければ、楽しさも半減だろう。
そこで、男はれいむを風船の中に入れるのではなく、外から風船で釣り上げることにした。
これならばれいむも外が見れるし、れいむを浮かせるのに子ゆっくりたちの入った風船を使えば、ガスも多少温存できる。

男は、他の出店を出している仲間から小さな網を貰ってきた。
網といっても、漁で使うような細い糸ではなく、糸が5mm程度の太さのあるものだ。
この小さなハンモックにれいむを乗せて、浮かせるのだ。釣り糸のような細い網でやると、れいむの体重で、ところてんのように体が切れてしまうだろう。
まずハンモックにれいむを乗せて、ハンモックの四つ角に2匹ずづ、子ゆっくりたちの風船を縛りつけた。
しかし、これだけでは親れいむを浮かせるには不十分だったようで、男は大きな風船を計16個膨らませると、それを四つ角に四つずつ結び付けていった。

「ゆゆっ!! れいむもおそらをとんだよ!!!」

子ゆっくりの風船も合わせて、合計24個の風船で、親れいむの体が空に舞いだした。
というか、少々風船の量が多かったようだ。おそらく16~18個でも、十分に飛べただろう。
ガスを無駄にしてしまったことを、男は悔いた。
ハンモックから延びた紐を、出店の柱に括りつける。
さすがに、そこらの石では重石にもならないだろう。石といっしょに一家が飛んでいくのが目に浮かぶ。

「おじさん!! れいむたちをゆっくりたかくあげていってね!!」

親れいむが、ハンモックの中から男に頼み込む。
男はそんなれいむの言葉に応えるべく、紐を手に持った。
しかし、一家を高く上げようとした時、遠くから男を呼ぶ声が聞こえてきた。

「おおい!! 休憩中すまないが、手を貸してくれ!! 屋台を運びこむから、たくさん男手がいるんだ!!」

出店仲間が男に応援要請をしてきた。
間が悪いなあと愚痴るも、さすがに手伝いに行かないわけにはいくまい。
どうせ屋台の運び込みなんて、大の大人が集まれば、数分とかからず終わるのだ。
その後、存分に一家を凧揚げしてあげたらいい。
れいむに向き直り、ゆっくりわけを説明した。

「悪いんだが、俺は今から仲間を助けに行かなきゃならん。少しの間、そのまま待ててくれ。帰ってきたら、高く上げてやるからな」
「ゆー……わかったよ。れいむたち、ゆっくりまってるよ!! おしごとがんばってね!! ゆっくりはやくかえってきてね!!」
「分かった分かった!!」

れいむは、残念そうな顔をするも、しっかりと男の言い分を聞いてくれた。
野生のゆっくりにしては、本当に出来たゆっくりだ。以前、どこかで人間に飼われていたのだろうか?
男はそんなことを考えながらも、仲間の元へ駆け足で向かった。



「ゆー。おじさん、いっちゃったね。でも、ゆっくりおじさんをまってようね!!」

親れいむが上を向き、風船の中の子ゆっくり達に声を掛ける。
子ゆっくりはそろってアヒル声で「ゆっくりまってようね!!」とハモる。
れいむは男が帰ってくるのを、地上1mほどの高さでゆっくり待っていた。
初めは子ゆっくり達も親れいむの言葉に従って、ゆっくり男を待っていた。
しかし、子供ゆえの忍耐力の無さがしだいに現れ、初めこそ風船の中でトランポリンのように飛び跳ねたり、隣の風船の子ゆっくりと体当たりごっこをしたりして遊んでいたが、それもすぐに飽きてしまった。
それでも何とか男が帰ってくるのを我慢して待ってたが、いくら待っても帰ってこない男に、ついに忍耐の緒が切れ、我がままを言い始めた。

「おかあしゃん!! ゆっきゅりはやきゅ、おしょらをとびたいよ!!」
「しょうだよ!! おじしゃんがじぇんじぇんもどってきてくりぇないから、ちゅまらないよ!!」

子供の我儘に、親れいむが渋い顔をする。

「もうすこし、おじさんがかえってくるのを、ゆっくりまってようね!!」

親れいむも子ゆっくり同様、この状況に飽き始めているが、男との約束を破るわけにはいかないと、じっと我慢していた。
野生のゆっくりとしては、破格の賢さといっても過言ではない。

実はこの親れいむ、野生には違いないのだが、相方で母体となった親まりさが、以前人間に飼われていたことがあったのだ。
一人暮らしの老人に厳しくも愛情持って育てられた親まりさは、老人が老衰で亡くなると、離れて暮らしていた息子夫婦がその家に住むといって、家を追い出された。
人間に飼われていたため、狩りの仕方や巣の作り方を知らず、途方に暮れていたところを、このれいむと知り合ったのである。
その頃のれいむはまだ幼く、それこそ野生の傲慢なゆっくりそのもので、まりさを助けたのは、人間に飼われていたとても美しいまりさに一目ぼれしたからという打算があったからだ。
最初は一緒に暮らし、人間に迷惑を掛けちゃいけないと、常日頃言うまりさを鬱陶しいと思っていた。
まりさが美しくなければ、すぐに自分の巣から追い出していただろう。
しかし、長く一緒に生活していれば相手を理解できるようになるのは人間もゆっくりも同じことで、れいむも次第にまりさに感化され、何時しかまだ見ぬ人間を信頼するようになっていた。
粗暴で野生的な物の考えも少しずつ鳴りを潜め、自分のことだけでなく、他人も気遣わなくてはならないと考えるようになっていった。
まりさも、次第にそんなれいむに心惹かれるようになり、何時しか夫婦のような関係になっていった2匹は、どちらからともなく互いを求めた。
しかし、ここで不運だったのは、成体でないゆっくりが交尾をすると、朽ちてしまうということを、どちらも知らなかったことだ。
母体となったまりさは、頭に蔓を付けると、その日からどんどん栄養を子供たちに吸収されていった。
れいむはなんとかまりさを助けようと、精一杯食べ物を集めてきたが、まりさの衰弱は目に見えて速くなり、れいむの苦労も空しく、8匹の子供を残し、まりさは朽ちていった。
未熟児や奇形児を一匹も生まなかったのは、まりさの最後の置き土産といったところだろう。
まりさの遺志を継いで、この子供たちを、ゆっくりと賢い子に育てよう。れいむはがんばって子育てに励んでいた。
数日後、子供たちも少し大きくなり、初めて巣の外に出してやると、何やらうるさい音が聞こえてきだした。
遠目から様子を見ていると、人間が忙しそうに動きまわっている。

「おかあしゃん!! あのひとたち、ゆっきゅりちてないね!!」
「なにをやっちぇるにょ?」

れいむも子供たちの疑問に答えられず、自身も何をしているのかが気になり、一度人間に会ってみるのもいいだろうと、家族全員で祭りの準備場所に行ってみることにした。
歩きの遅い子供たちをゆっくり引き連れ、ようやく昼ごろに祭り会場に着く一家。
そこで初めて会った男は、今は亡きまりさが常々言っていた通り、ゆっくりさには少々欠けるが、やさしく穏やかな人間だった。
そんないい人間の期待を裏切るわけにはいかない。れいむは、そう自分に言い聞かせる。
しかし、れいむと違い、生まれてまだ数日しかたっていない子ゆっくりたちに、れいむと同じ考えを持てと言われても、無理があるだろう。
子ゆっくりが飽きてわがままを言うのも、ある意味仕方がない。

れいむは退屈で死んじゃうといった子ゆっくりたちを、何とか宥め、落ち着かせようとしていたが、子供というものは親が言ってどうなるものではない。
むしろ、れいむの言葉に逆らうように、風船の中でぎゃあぎゃあ喚いている。
一体どうすれば子供たちが落ち着いてくれるだろう?
れいむが餡子を捻り考えていると、何を思いついたのか、一匹の子まりさが、「いいことおもいちゅいた!!」と、れいむに提案してきた。

「おかあしゃんが、まりしゃたちをおしょらにあげちぇくりぇりぇばいいんだよ!!」

子まりさは名案を言ったとばかりに、目を輝かせている。
おじさんが空に上げてくれないなら、代わりにお母さんが上げてくれればいい。
他の子ゆっくりたちもそれがいいと、れいむに「おかあしゃん、がばっちぇね!!」と、エールを送っている。
もはや、れいむが空に上げてやるのは、子ゆっくりの中で規定事項になっているらしい。

れいむは考えた。
ここで自分が空に上げてしまっては、おじさんとの約束を違えることになる。
しかし、子供たちを宥めるにはそれしかないのも事実だ。
れいむの餡子脳は、どちらの方法がいいのか、こっちに来たりあっちに来たりと忙しなく揺れているが、れいむは少し考えた後、おもむろに決心した。
子供たちの言い分を聞くことにしたのである。

例え甘やかすことになろうと、親としては子供たちの笑顔を見たいものだし、あのおじさんはやさしい人間だから、後で謝れば、きっと許してくれるだろう。
そう決めると、れいむはハンモックから垂れた紐を口に咥えた。そして、その紐を辿り、少しずつ出店の柱に近づいていく。
今、れいむたちが飛べないのは、この紐が出店の柱にくっ付いているからだ。
これを外せば、自分たちは、あの大空へと舞い上がることが出来るだろう。
れいむは、なんとか柱に辿り着くと、結び目を口に咥え、力いっぱい紐を引いた。
ゆっくりであるれいむは分からないが、男は固結びではなく、すぐに外せるように縛っていたので、力を入れなくても簡単に外れるようになっていた。
柱から外れた長い紐が、スルスルと地面を擦っていく。れいむは紐を離すまいと、今だ硬く紐を噛んでいた。
先ほど子れいむを凧揚げするとき、男はこの紐で上手に操縦していた。
だから、この紐さえしっかり持っていれば自分たちはいつでも帰れる。れいむはそう考えていた。
片や紐の端はハンモックに、片や逆の端はれいむの口に咥えられた30mも有ろうかという長い紐。それは大空で、ハイジのブランコのように、風船から垂れ下がっていた。

「ゆゆー!! おしょらをとんでりゅよー!!」

子ゆっくりたちの嬉しそうな声を聞いて、また自身も憧れた大空を飛び、れいむも大満足だった。
約束を破ってしまったおじさんには、帰ったらいっぱい謝ろう。
れいむは心の中で男に謝罪しつつ、子ゆっくりたちと、二度と戻らぬ死出の旅路へと、大空を飛び立っていった。



「まったく、ずいぶん掛っちまったな。あいつら、待ってるだろうな……」

男は一仕事を終えて、自分の出店へと走っていた。
本来なら簡単に終わる仕事だった。
しかし、一人の男性がバランスを崩し、屋台が転倒して半壊してしまったのだ。
さすがに祭りを明日に控え、ゆっくり直している時間はない。
ちょうどたくさんの男手もあるしと、その場で急いで屋台を直すことになってしまった。
好都合にも、屋台骨は無事だったので、必要最低限の修理で終わらせることが出来た。
しかし、おかげでずいぶんと時間を取られてしまった。
男は、一家はさぞお冠だろうなと苦笑いしながら、先を急いだ。

「いやあ、悪かったな。ちょっと仕事が長引いてなって……あれ? どこ行ったんだ?」

男は自分の出店に着くや、一家の乗った風船が無いことに気がついた。
一体どうしたのだろう?
もしかしたら、ゆっくりで商売をしようと考えてる連中に連れて行かれたのだろうか?
いや、まさかな。他人の店に繋がってる物を、取っていきはしないだろう。
それじゃあ、犬や猫にでも襲われたか?
しかし、それにしては暴れたり荒らされたりした形跡がないな。
これもたぶん違うな。
まさか、自分たちで勝手に飛んでいったのか? いや、それこそあり得ないだろう。
紐で縛っていなければ、どこまでも飛んで行くなんて、猫の赤ちゃんですら分かることだ。
結構賢そうな親だったし、そんな馬鹿なことをするはずがないだろう。
となると、待ち切れずに帰ったのか。
これが一番有り得るな。大方、近くを通り過ぎた人間に風船から下ろしてもらい、そのまま森に帰ってしまったのだろう。

男は悪いことをしたなと同時に、ガスがもったいなかったなと、苦笑いしながら、懐から煙草を取り出し、火をつけた。
煙草を吹かしながら、ふと大空を眺める。
奇しくも、その方向は一家が旅立った方向と同じだった。
















今まで書いたもの
  • ゆっくりいじめ系435 とかいは(笑)ありす
  • ゆっくりいじめ系452 表札
  • ゆっくりいじめ系478 ゆっくりいじり(視姦)
  • ゆっくりいじめ系551 チェンジリング前
  • ゆっくりいじめ系552 チェンジリング中
  • ゆっくりいじめ系614 チェンジリング後①
  • ゆっくりいじめ系615 チェンジリング後②
           いい夢みれただろ?前編
           いい夢みれただろ?後編
           ゆっくりですれ違った男女の悲しい愛の物語





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最終更新:2022年05月03日 09:43