ゆっくりは草食である。
「幻想郷甘味事情の救世主」「ストレス解消の的」などと呼ばれるゆっくりが
農家に害獣扱いされるのはこの時点で決まったようなものだった。
とはいえ実際のところ農民がゆっくりを毛嫌いしていると言う事実は無く、他の人間同様に
甘い物を安価に手に入れられて良かったと思っている者の方が多かった。
畑にわざわざ侵入して野菜を盗み食いするよりは、野原で昆虫をゆっくり追いかけるほうを好む
ゆっくりの習性がどちらかというと無害である事をを人々に意識させたのだ。

その筈だった。
外から迷い込んで農業の真似事をしていた筈の私が、今ここでこうして畑を荒らすゆっくりたちの
進入を待ち伏せしているのは、連中が有害という事実を示していた。


事のそもそもの発端は一月前にさかのぼる。
ここへ迷い込んだ後、とにかく食料を得るため借りた貧相な畑でサツマイモがそろそろ収穫という時期だった。
その日の朝、畑へ行った私は、三匹のゆっくりが芋を掘り返してかじっているのを見た。
最初に思い浮かんだのが、手塩にかけて育てた芋を台無しにされた怒りよりも、
生で食べると腹(?)を壊すんじゃないかと言う心配だったのは我ながら間抜けであったと思う。
ともかく現在進行形でかじられてる芋は諦めるとして、これ以上被害を増やさないために私は考えた。
なまじ甘い態度を取るといつまでも居座るとはベテランの農夫の談、直ちに追い出さなければならない。
さらに、頭が妖精よりも弱いと評判のゆっくりは、生半可な恐ろしさで怒鳴って追い出しても
明日には忘れて再び現れるというのが考えられる。
これを満たす手段を考えていた私は、「外」に住んでいたとき農家がカラスの死骸をつるしていたのを思い出した。
(幻想郷では見られなかった。鴉天狗に血祭りにされかねないからだろう。)
この手段を採用した私はゆっくりの死体を3つ生産すべくゆっくりと背後に近づき、
奇襲効果を得られるうちに攻撃するためクワを振りかぶった。
「ゆっくり?」
振りかぶった瞬間、ゆっくりが一斉にこちらを向いた。
ゆっくりが太陽とは逆を向いていたのを失念していたのである。
ここで止められる訳が無い、全力でクワを振り下ろした。
「ゆ゛っ!」などと断末魔をあげて真ん中の紅白饅頭が絶命する。
直ちに第二撃を繰り出すため、刺さった歯を抜き構える。
「や゛め゛て!ゆ゛っく゛りし゛ようよ!!」
もう一匹の紅白饅頭が命乞いのセリフを吐き出した。
黒大福は薄情なことに「ゆっくりしんでね!」などと言って逃走した。ひどい大福だ。
とりあえず死体は一つ手に入ったので、生きている方の紅白饅頭を捕縛して自宅に戻った。

紅白饅頭を押入れの布団の下に放り込んだあと必要な材料を持って畑へ行き、
近くの木の枝に死骸を入れた袋を「私は悪いゆっくりです」と書かれた板と一緒にぶら下げた。
黒大福を逃したのが心残りだったが、私は一仕事終えた充実感を胸に帰宅した。


それから1週間後、どうやったかは知らないが
あの逃走した黒大福が仲間を大勢引き連れて(2ダースはいたと思う)畑を荒らしていた。
「おいしいね!」「ゆっくりたべようね!」
早すぎでも収穫すべきだったと後悔しつつ、私は鍬を振り上げ突進した。
「ゆっくりしていってね!!」「さっさとかえってね!」
などと腹の立つ言動をしながら大福と饅頭が向かってくる。
だが所詮ゆっくり、金属製の鍬を受けるとあっさり昏倒、あるいはバラバラになり、それをみた
他のゆっくりは蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。
結局、饅頭四個分の餡子と皮を生産し、捕虜(めんどくさいので木に吊るした)を2匹手に入れただけだった。


それからは毎日ゆっくりの襲撃を受けるようになった。
毎回毎回追い回すのも面倒なので、5回目の時点で進入方向を限定するための柵を設置した。
進入経路で待ち伏せて5回目は畑に入ることすら許さなかったが、6回目は大量に引き連れて数で突破された。
(後で適当な大福を尋問したところ、黒大福がこの畑に「メッチャうめえ」物があると吹いているようだった)
ゆっくりどもにこちらの恐ろしさを教育してやるため、襲撃後ただちに里へ香霖堂へ装備の調達に走った。
陣地を構成する障害物は鉄条網・トゲつきの柵・斜めにつきたてた槍などがその後の何回かで増えた。


そして現在、21回目の襲撃後の畑は様変わりしすぎて畑と呼ぶことが難しくなりつつある。

時計からそろそろ襲撃時刻(午前6:00ごろに来る)になりつつあることを見た私は、
香霖堂で調達した双眼鏡を森の方へ構える。
木々の緑の中に紅白・黒の丸い物体がポツポツと見え始めた。
「総員戦闘配置!」
10回目頃から事態に気づき、加勢してくれたヒマな農夫や
天然のゆっくりがノコノコやってくるということで協力しに来た加工所職員へ
大声でゆっくりが来たことを伝える。

最近は畑よりも捕虜の救助が目的でゆっくりが襲撃してきているようなので、
紅白饅頭をガラスケースに閉じ込めたものを数個、進入経路に設置してある。
「いまだしてあげるね!」「いっしょにゆっくりしようね!」「がんばってこわすよ!」
案の定、その地点で群れが停止した。
そこまでを確認した私は、地面に斜めに突き立っている筒の所へ行き、その筒へ何物かを入れた。
その物体が筒の一番下まで到達すると、瓶の栓を抜いたような音があたりに響いた。
「5、4、3、2、だんちゃーく、今!」
言い終えると同時にガラスケースの所で爆発が起きる。宙を舞うゆっくりが確認できた。
下ろして欲しいという意図の悲鳴がここまで聞こえてきた。
その意図は直ちにかなえられ、地面にたたきつけられたゆっくりはずっとそこでゆっくりすることになった。
「毎回掛かるのはやはり脳が足りないんですかね?」
加工所職員に話をふると「そもそもあるのかどうか…」と気の抜けた返事が返ってきた、同感だ。
香霖堂で調達した迫撃砲は数に限りがあるので一発で射撃を終了する。
いつものようにゆっくりの群れがこちらに向かってきたが、前面の鉄条網で押しとどめられる。
「い゛た゛い゛!い゛た゛い゛ぃ゛ぃぃ゛!」「ゆ゛っく゛り゛おさ゛な゛いでぇ!」
鉄条網に引っかかった仲間の上を通るという共産軍さながらの方法で、第一線は通られた。
本来ならばさらに第二、第三と鉄条網を張るつもりであったが、流石の香霖堂でも鉄条網が
そう簡単には手に入らず、第一線の後は射的タイムである。
おのおの、弓やボウガンや猟銃を構えて号令を待つ。

第一線を乗り越えたゆっくりは150匹であった。
最初の迫のダメージで7匹力尽き、そこへ最初の射撃が到達し12匹が倒れる。
この射撃音で怖気づいた22匹が逃走し、さらに第ニ射で16匹が倒れた。
「もうやだ!おうちかえる!」「おうちかえっぶげぇ!」
地面に刺しておいた槍の障害物で、遮二無二突進した9匹が串刺しになった。
柵と組み合わせたその障害物でまごまごしてるあいだに第三射が全弾命中し18匹が死体となった。
さらに15匹逃走して、残りが何とか射撃線へと到達する。
加工所職員が柵を乗り越え、慣れた手つきでゆっくりを8匹捕縛し、31匹逃走させた。
1ダースとなったあの黒大福を含むゆっくりの精鋭は農夫には目もくれず私のところへ突進してきた。
手近にあった陣地構築用の洋ノコをとっさに構え、まず飛び掛ってきた一匹を切り裂いた。
「ゆ゛っ゛く゛りぶぇ゛!?」
雑な切断面から餡を撒き散らしながら落ちる物体には目もくれず、二匹目を足で蹴り飛ばした。
蹴った瞬間破裂した物体は飛翔しながら餡と皮に分解していった。
さらに突進してきた三匹目は一番悲惨で、フルスイングされたノコの直撃を受けたあと、
バラバラになりつつ飛翔して障害物の槍に刺さった。
残りの9匹のうち4匹が農夫に捕縛され、散り散りになって逃げ出した最後の5匹は背中に射撃を受け
「もうゆるじで!!」「やめて!ゆ゛っく゛りし゛ようよ!!」
2匹にまで数を減らしつつ逃走に成功した。
この2匹が命からがら森へ入ったのが6:58であった。


以上が22回目の襲撃とそれまでの経過の概要である。


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最終更新:2025年04月03日 08:36