※最初で最後のゆっくり虐待に挑戦中です。
※どくそ長いです。(十回超の予定)
※うんうん、まむまむ描写あり。
※標的は全員ゲスです。
※最初の数回は読者様のストレスをマッハにすることに腐心しています。虐待は次回から。
※虐待レベルはベリーハードを目指します。
※今回は人間が悲惨な目に会う描写があり、気分を深く害される恐れがあります。
一応、今回だけ読み飛ばしてもいいように書いていく予定です。

※以上をご了承頂ける方のみどうぞ。


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『永遠のゆっくり』4


ずっと俺には疑問だった。

突如として現実世界に現れた不可解な存在、ゆっくり。
こいつらは一体なんなんだ。
中身に詰まっているのは餡子のみ。
他のどの生態系にも類を見ない不可思議な機構で動いている。
小麦粉と甘味でほとんどが構成されたその肉体はひどくもろく、衝撃や苦痛でたやすく餡子を漏らして死ぬ。

なにより不可解なのはその知能だ。
言語を話す、という時点で他の動物とは比較にならないほど知能は高い。
ところがその行動は単細胞生物のそれで、
思考力や学習能力にひどく乏しく、目先のゆっくりしか目に入らず、
野生動物なら最低限あってしかるべきはずの危機管理能力が決定的に欠けている。
おそろしく弱いくせに自信に満ち溢れ、無謀なことばかり繰り返す。

こんな生物は、生態系としては下の下で、
とっくの昔に絶滅していておかしくないはずなのだが、
並はずれた性欲に支えられた繁殖力、ただそれだけを武器に、
ゴキブリ以上のしぶとさで地球にしがみついている。

俺にはわからなかった。
大学で少々生物学をかじった身として、
ゆっくりの生物としての整合性が理解できなかったのだ。
性欲以外のほぼすべての特徴が、生物としてマイナス要素しかない。
なぜ、そんな生き物が生まれてきたのだろうか。
生物に意味などあるはずはない。
しかしどの生物も、進化の過程を経て、
思わず感心してしまうほどの適合力を見せて、自らの生活圏とぴったりと結合している。
しかし、ゆっくりは見たところ、どの生活圏にも結合していない。
森に繁殖すれば、たちまちそこの食物を食べつくしてしまう。
町に住めば、人間どもに追われ、迫害されている。

こいつらはなんのために生きているのだろう。
どんなゆっくりプレイスも、例外なく破綻する。
生まれては死に、繁殖しては滅び、流れるようにあちらこちらをさまよう。
こいつらが生物としてぴったりとはまり、安定していられるのはどういう環境なのだろうか。


「何か月かね?」
「は、はい……三ヶ月ちょっとらしいです」

長浜氏はソファに身を沈めたまま、険しい表情をしていた。

「ゆぅ~ん、おじいちゃんどうしたの?なんだかこわいよ?」
「なんでもないよ。あっちへ行っていなさい」
「ゆっくりりかいしたよ!」

絨毯の上を跳ねながら、開け放したドアを出ていくゆっくりれいむ。

長浜氏の邸宅。
広い居間でテーブルをはさんで向かい合い、俺は恐縮しきっていた。
俺の隣には由美。
向かい合ったソファの正面には由美の祖父長浜氏が座り、
その隣に由美の両親が座っていた。

俺の返答を聞いたあと、長浜氏は黙ってこちらを見つめていた。
俺はうつむいて冷や汗をたらしながら、つけ慣れないネクタイの位置を直した。


由美の妊娠を知らされたときには、すでに受胎してから二か月半ばを経過していた。

毎日俺の部屋に通っていたはずの由美が、ある時を境に数日間来なくなった。
心配になった俺は電話で連絡した。
すると、由美は震える声で、産婦人科に行ってきたことを告げてきた。

妊娠を知らされ、俺の喉がひりついた。
ゆっくりの世話に追われてこのところすっかりご無沙汰だったが、
ゆっくりをここに迎える直前、すでにご懐妊なさっていたらしい。

どうする。
俺はしばらく悩み、時間をかけて由美と相談し、結論を出した。


「こういう事柄に関しては、君には忍耐力がなかったようだね」

やっとのことで、長浜氏が仏頂面で言った。
俺は恐縮して頭を下げるしかない。

「大切な孫娘なんだよ。たったひとりの……つい先日、成人式を挙げたばかりだ」
「は。はい」
「君はまだ働いていない学生の身分だろう」
「……はい」
「とんだことをしてくれたよね」
「は」
「嫁入り前の、人の娘に……娘というのは君、宝だよ」
「……」
「おじいちゃん」
「黙っていなさい!」

由美が口を挟もうとしたが、長浜氏がぴしゃりと遮った。
これほど険を含んだ長浜氏は初めてだった。
あの礼儀正しい老紳士が、静かに怒っている。

耐えがたい、重苦しい沈黙。

「どうするのかね」

やがて、ぽつりと長浜氏が聞いてきた。
震える手で膝を握りながら、俺は声を絞り出した。

「……由美さんを、僕にください」
「……今、なんと言ったのかね?」
「僕に由美さんをください!必ず幸せに、幸せにしてみせます!!」

俺は叫びながら顔をあげた。
長浜氏は、顔中をくしゃくしゃにして笑っていた。


「いやいやいやいや、さあさあどうぞどうぞ」
「いや、あの、僕は車なんで」
「いやいやいいじゃないか。帰りは送らせるよ、まあどうぞ」

俺の手に持ったグラスに、高そうな酒がどぼどぼと注がれる。

「いやあうん、懐かしいな。私もそうだったんだよ。
圭一くん、私も君といっしょでね、深窓の令嬢を結婚前に孕ませてしまった。
相手方のオヤジさんにはぶん殴られたよ」
「そうでしたか」

長浜氏は浮かれまくっている。
由美の両親はそれほど浮かれる気にはなれないようだったが、ともかく笑顔を作っていた。

「もしも君が逃げ出すようだったら、ただではおかなかったよ、うん。
しかし、これで全て丸く収まりそうだ。君なら大丈夫だろう、うん、ね。
困ったことがあるならいつでも言ってきたまえよ、我々は家族になるんだからね」
「ありがとうございます!」
「本当に、頼んだからね。由美、いい人を見つけたね」
「うん!」

涙を浮かべ、由美が頷いた。

「ゆっくりしていってね!!ゆっくりしていってね!!」
「ゆっくり!!ゆっくり!!」

場の雰囲気を察知し、長浜氏の飼っているゆっくり共が嬉しげに絨毯の上で飛び跳ねている。
この時ばかりはゆっくりが可愛く見えた。
しかし多いな。大小さまざま、何十匹いるんだ。

「由美から聞いているよ」
「え?」
「例の、ゆっくりの事だよ。君の家で飼っている」
「あ、はい……」

声のトーンがわずかに沈んだ。思い出すことさえ不快だ。

「ものすごく大変らしいね。床のうんうんを舐めたんだって?」
「あ、いや、まあ……」

そんなことまで耳に届いていたとは。
あの姿だけは見られたくなかったなあ。

「君は今、ゆっくりが好きかね?」
「…………」
「嫌いだろうね。無理もないよ」
「はい……」

長浜氏の声は穏やかだった。
彼は由美に向きなおって言った。

「なあ、由美。もういいだろ。解放してあげなさい」
「……うん。圭一、今まで本当にごめんね」
「圭一君。そもそもは私までがぐるになって君に頼んだことだったが、
これまで本当に、よく由美に付き合ってくれたね。心から感謝しているんだよ。ありがとう」

ストレートに「試していた」と言ってくるわけじゃないが、
やはりあの計画で、俺が試されていたのは確かのようだ。
夫として由美と向き合っていく忍耐力を、俺は証明したのだ。

「ともかく、君たちは近いうちに夫婦になるのだろ?」
「はい、そのつもりです。準備は大変だと思いますけど……」
「もちろん手伝うよ。それでだ、そういう準備もあるし、
もうゆっくりに一日中かかずらっているわけにはいくまい」
「は……そうですね」
「あのゆっくりはこちらで引き取ろう。
もちろん最低限の躾は必要だろうが、責任をもってできるかぎりゆっくりさせるよ」
「あの、私が面倒見るから!」
「どうするつもりだい、由美。これまで通り自由奔放にゆっくりさせるのかい?」
「できれば、そうしたいんだけど」

長浜氏はしかしかぶりを振った。

「もうよしなさい。結果は出ているだろう」
「結果……」
「圭一君。君たちはゆっくり達の言うことをすべて聞いてきた。
すべてゆっくり達の思うままにさせた。そうだね?」
「はい」
「では改めて聞くが、あのゆっくり達は、
他のゆっくりに比べてゆっくりできていたと思うかね?」

俺は少し考え、答えた。

「いいえ」
「子供を殺したんだって?」
「えっ」

自分のことを言われてるのかと思い、一瞬どきりとした。

「れいむとありすがいがみ合い、互いに子供を殺し合ったそうじゃないか」
「あ、はい」
「そして結局、増えすぎた子供たちは間引かれていった」
「……はい」
「まりさ達は他のゆっくりを虐げた。
甘味を与えるたびに、その甘味を家族で奪い合った。
互いに憎み合い、相手の隙を窺い、強者の存在に怯え、強者は反発に苛立つ。
いつ子供たちが殺されるか虐められるかわからず、戦々恐々とする生活。
由美。そんなゆっくり達が、ゆっくりしていると思うのかい?」

由美は眼を伏せた。

「ゆっくりしていなかっただろう?」
「……うん」
「今回のことはいい経験だったな、由美。
ゆっくりという生物は、自分にとって一番いい選択をする判断力が足りていないんだ。
ただ目先の欲求だけで行動し、結局はそのつけが回ってきて面倒事を増やし、苦しむことになる。
………もしかしたらそれは人間も同じことかもしれないね。程度は大きく違うが」

俺は頷いた。
まあ、ゆっくりと一緒にされたくはないが。

「お前の計画は、ここで終わりにしよう。
今回のことを糧に、改めてゆっくりが本当にゆっくりできる為にはどうすればいいか考え直してみればいい。
あのゆっくり達はこちらで引き取るよ。
もちろん一旦味をしめさせた責任はあるから、できるかぎりは贅沢をさせてやる。
他のゆっくりに悪影響が出るだろうから、個室で飼おう」
「うん。わかった」

由美は頷いた。

「でも、あたしも面倒見てもいいよね」
「うん。好きにしなさい」

好々爺の笑みで、長浜氏は頷いた。


すべて終わった。
運転手のハイヤーに乗せられて長浜氏の邸宅をあとにした今、俺はようやく肩の荷が下りた。
いや、これから結婚や求職もろもろで本当に忙しくなるのだが、
そんなものはあのゆっくり共の相手をすることに比べれば些細なことに思えた。

本当に大変だった。
しかしそれは報われた。
長浜氏は俺を認めてくれ、俺は由美と結婚できることになった。
こうして結果が出てみれば、自分でも驚いたことに、
あのゆっくり達に感謝の念さえ湧きあがってきた。
なにはともあれ、やつらは俺にチャンスをくれたのだ。

「今まで本当にごめんね。大変だったよね」

隣に座る由美が改めて詫びてきた。

「うん。大変だった。すごく」

強がってみせる余裕もなく、俺は正直に苦笑した。

「あんなゲスゆっくりが、本当に可愛いのか?」

俺はここで初めてゲスという言葉を使ったが、由美は否定しなかった。

「うん。おかしいよね」
「どこが可愛いの、あんなの」
「それは、ええと、ゆっくりと人間と同一視してるから可愛くないんだと思う」
「え?」

いつになく真面目な顔をして、由美は言った。

「礼儀とか思いやりとかは、人間のルールだよね。
そういうのがない人は、私も嫌い。
でも、ゆっくりは、人間とは違うルールで生きてる。
ふつうの人間にとっては不愉快かもしれないけど、私は人間とは別物だと思ってるから、腹が立たない。
私ってゆっくりオタクだから、人間の手垢がついてない純粋な子ほど可愛いと思っちゃうんだね」
「そんなもんか」

共感はできなかったが、素直に受け止めることができた。

「でも、今回の失敗でまたわからなくなっちゃった。
ゆっくりのルールって一体なんだろうね。
人間のルールを押しつけたほうが幸せになれるのかな?
ゆっくりって、ゆっくりするために生きてるんじゃないの?
どうしてなかなか、自分たちでゆっくりできないのかなあ……」

毎日ものすごい数が生まれ、そのほとんどが死んでいくゆっくり。
わざわざ人里に下りてきて、家や畑を荒らしては潰されるゆっくり。
ゲスやレイパーや共食い、同族で殺し合うゆっくり。

ゆっくりとは、一体なんのために生きているのだろうか。


「ゆっ、おそいよ!!ごみくず!!」

由美と一緒に家に戻れば、甲高い挨拶が飛んでくる。

「ぐずぐずしないであまあまをもってきてね!!」
「そのめはなんなの?ばかなの?たちばわかってるの?ばぁーか!!」
「まま、かちくがもどってきたわよ」
「あらそう、どこをほっつきあるいてたのかしら。
そろそろしつけなおしたほうがいいかもしれないわね」
「ゆっくりしないでしね!!げらげらげら!!」
「とっととうんうんをなめるんだぜ!!たっぷりためといてやったんだぜ!!」

子ゆっくり共は成体サイズになり、滑舌もまともになっていた。
改めて眺めると、よくもこんな連中と付き合ってきたものだと思う。

しかし終りが見えた今は、そんな声も耐えて受け流すことができた。
ゆっくり共の罵声を無視し、鞄を放り出して横になる。
無視できることがこんなに有難いとは。

「ゆっ!?ごみくず!!なにゆっくりしてるのぉ!?さっさとおきてせいざしてね!!」
「あまあま!!あまあま!!きいてるのかだぜ!?ゆっくりするんじゃないのぜぇ!!」
「くちをあけるんだぜ!!うんうんをじかにたべさせてやるんだぜ!!」

無視無視。
よじ登ろうとしてきたゆっくり共を適当にあしらって追いやる。
潰してやりたいところだが、こいつらは長浜氏の家に飼われるのだからそうもいかない。

「ぎいでるのがああああああああゆっぐりごろじいいいいいいいいい!!!?」

その言葉にはさすがにどきりとした。
一緒に来ている由美のほうを見る。
しかし由美はそれには触れず、かがみ込んでゆっくり達に言った。

「れいむちゃん、まりさちゃん、ありすちゃん。みんな聞いて。
明日、みんなでお引越ししましょうね」
「ゆっ!?」
「ここではもうゆっくりできないの。
もっとゆっくりできるゆっくりプレイスに連れていってあげる」

ゆっくり共は一瞬きょとんとしてから顔を見合わせ、その後げらげらと笑い合った。

「げらげらげらげら!!ばかがなにかいってるのぜぇ!?」
「ゆっくりプレイスはここなんだぜ!!まりささまがきめたんだぜ!!」
「いいのよ、おねえさん。かちくがむりにあたまをつかわなくてもいいの。
かんがえることはとかいはなありすたちにまかせておきなさいね」
「むのう!!のろま!!ばぁーか!!ろどん!!」

予想できていた反応に、由美は困ったように笑った。

「ね、これからは人間さんの話を聞いて。
今度のゆっくりプレイスでは、人間さんがみんなをゆっくりさせてくれるわ。
でも、人間さんの言うことを聞かなくちゃだめよ」

ぼひゅっ、という音が響く。
ゆっくり共が吹き出したらしい。冗談じゃないという驚き、ちゃんちゃらおかしいという嘲笑の両方だろう。

「ばかなの?しぬの?あたまつかってる?
そんなところでゆっくりできるわけないでしょぉぉ!!」
「いーい?にんげんさんはごみくずでのろまな、かとうなせいぶつなの。
ゆっくりがみちびいてあげなきゃいけないの。いうことをきくのはにんげんさんのほう。
わかるかしら?もういちどいってあげましょうか?」
「かわいがってやっていればつけあがるなだぜ!!
にんげんのいうことをきくぐらいならゆっくりするんだぜぇ!!」

最後の発言は意味がおかしい。

「勝手よね、私たち。今更しつけようなんて」
「そうだな」

由美に頷いてやる。
虐められているうちは、叩き潰してやりたいと渇望していたものだが、
このゆっくり共もある意味では被害者、もとい被害ゆっくりなのだ。
そう思うとなんだかどうでもよくなった。

ただし、あくまで「ある意味で」という前置きつきでの穿った見方だ。
ガラスを割って侵入してきたこのゲス、追い払ったところで別の人間に潰されるか、
群れの中で孤立して自滅するかだろう。
まあifの仮定なんかしたって無意味だが、こいつらが不幸だなどとは言わせない。
最低限のルールは課されることになるが、これから行くところだって、
死ぬまで存分にゆっくりできる夢のようなゆっくりプレイスだ。

とにかく、明日の昼には迎えが来て、
こいつらは長浜氏の邸宅に移されることになる。
その旨を伝えると、ゆっくり共は俄然騒ぎ出した。

「なにいってるのぉおお!?ばかなのぉぉぉぉ!!!」
「まりささまはここにすむんだぜぇぇぇ!!しねぇ!!!しぬんだぜぇぇぇ!!!」
「このかちくはもうだめね!
そこのおすにほかのつがいをさがさせましょう」
「おい、なにゆっくりしてるんだぜぇ!!
このばかをなんとかするんだぜ!!あのことをいわれてもいいんだぜぇ!!?」
「あのことって?」

由美が聞いてきた。

「全部話すよ。それより、もう出よう。
もう一晩だってこいつらといたくないよ」

俺は由美を近くのファミレスへと誘った。

「おいぃ!!にげるなだぜぇ!!ごみくず!!もどれぇぇ!!」
「ゆっくりごろし!!ゆっくりごろし!!あかちゃんごろしいいいい!!」


結局、俺は子殺しに加担した全てを、ショックを与えないように細部は省いて話した。
俺がゆっくり愛好派ではないことはもともと承知の上だし、
計画が失敗に終わったという結論が出た今、取り繕うこともなかった。
由美は悲しんだが、結局は許してくれたようだ。

「全部、私のせいよね」
「よせよ。みんな悪かったんだ、俺もお前もおじいさんも、もちろんゆっくりも。
後悔したって始まらない。みんなでやり直そうぜ」
「そうね」

あのゲスどもに関しては、俺はもう関わらないけど。

その日は、由美を送り返したあと近くのビジネスホテルに泊まった。
問題は山積みだが、それでもあのゲスのいない生活を考えるだけで心は浮き立った。


翌日から、俺はそれまでの鬱憤を晴らすかのように勉学に打ち込んだ。
もともと勉強好きな俺は、遅れを取り戻すべく、大学でも自宅でも猛烈に並び、
一時落ちていた成績を再び大学トップクラスにまで戻した。

同時に、就職活動も行った。
有名大学で優秀な成績を収める俺にとって、そう難しいことではなかった。
だが、結局は長浜氏の強い勧めで、長浜グループ関連の建築会社に内定が決まった。
コネを使うことになってしまったが、実力的にも不足はない。

在学中に結婚までしてしまった。
長浜氏の願いで、俺が婿養子として迎えられることになった。
由美は一人っ子だし、家柄を考えれば無理もないか。

順風満帆だった。
我ながらなんというシンデレラボーイ。
あの地獄に堪えた報酬は、十分見合ったものだった。
だが、そんな地位や収入などよりも、
俺は何より、由美との結婚生活が楽しみだった。
愛する妻、子供、ピクニックやキャッチボール。
陳腐だが愛にあふれた家庭生活を想像するだけで、俺はすでに幸福の絶頂にいた。


俺は長浜氏の邸宅に一時的に住んでいた。
就職するまでは、という長浜氏の強い勧めだった。
あの人はなんだかんだで、いろいろと強引に勧めてくる。

一人ではしゃいでいる祖父に比べ、
由美の両親のほうは少々ぎこちなかったが、おいおい打ち解けていけるだろう。

「おにいさん、ゆっくりしていってね!!」
「ごはんのじかんになったらあまあまをおねがいね!!」

長浜氏の邸宅には、ゆっくりが大量にいた。
れいむ種、まりさ種、ありす種、ぱちゅりー種、ちぇん種やみょん種などレアなものも。
正直うざったかったが、あのゲスどもに比べれば天地の差。
これだけしつけが行き届いていれば問題なく付き合っていけそうだ。

問題のゲス共は、ひどいものだった。
ここに連れてこられてすぐに個室に移されたが、
しつけをしようとしても全く言うことを聞かない。
人間は自分たちの奴隷だ、黙って言うことを聞け、あまあまをもってこいの一点張りで、
そればかりか嬉々として嫌がらせをしてくる。
少々強く言うと、ものすごい剣幕で火がついたように暴れまわった。

長浜氏の知人である有名ゆっくりブリーダーに見てもらったが、これはダメだろうとのことだった。

「ここまでつけ上がったゆっくりは、多分もう無理だと思います。
人間をなめているばかりか、明確な悪意を向けてきている。
しつけるにしても、ものすごく強烈なやり方でないと。
もしかしたら死んでしまうかもしれませんよ」

さすがにそこまですることもない、という長浜氏や由美の意見で、
結局このゆっくり共は、郊外に外出する時以外は個室から出さずに寿命まで勝手にやらせることにした。
といっても、こいつらは外出することはあまりないが。

「しかし、よくもまあここまでつけ上がらせましたね。びっくりしました。
ここまでの個体は初めて見たかもしれません。
逆にゆっくりブリーダー向きかもしれませんよ、あなた」

俺はそう言われたが、勘弁してくださいと首を振った。

そんなゲスどもを、由美は相変わらず面倒を見ている。
長浜邸では、家族だけでなく使用人も大勢のゆっくり共の面倒を見ているが、
あのゲスは使用人でさえ関わりたがらず、結果としてほとんど由美が面倒を見ることになった。
結局相変わらず甘やかしているようだ。

「おねえさんはゆっくりしないでおうたをうたってね!!」
「きたないうたなんだぜ!!ゆっくりできないからとっととやめるんだぜぇ!!」
「げらげらげらげら!!」


しかし、ついに別れのときがやってきた。
俺が就職し、なかなか広いアパートに住むことも決まった。
子供が生まれたら、最初は自分たちの家に迎えたい。
そういう俺の希望で、出産の前に引越しの手続きを済ませることになった。
一応、出産前後は由美の母がアパートに通っていろいろ手伝ってくれる。

由美のお腹の子は五か月になっていた。
お腹の膨らみもはっきりとわかる。
俺の宝だ。

引っ越し前日の夜になって、
由美はあのゲス共に別れの挨拶をしてくると言った。
俺は挨拶などする気も起らず、寝室で由美を見送った。


俺はずっと疑問だった。

身体能力や耐久性はあまりに弱いゆっくり。
しかし、その自意識は身の丈をはるかに超え、
危険な場所やより強大な敵に、自分から飛びこんでいく。
その構造は一体なんなのだろう。
生物として、全く理にかなっていない。
何度考えても、生物学的にまったく説明がつかなかった。

ゆっくりとは一体なんなのか?


由美はいつまでも帰ってこなかった。

十二時時を過ぎて深夜になっても、由美は二人の寝室に戻ってこなかった。
由美がゲス共に会いに行ってからすでに三時間。
いくらなんでも別れを惜しみすぎではないのか。

俺は立ち上がり、ゲス共の部屋に向かった。

「由美。俺だ。いるのか?」

ドアをノックしたが、返答はなかった。
しかし気配はあった。
中でわめき声が聞こえている。ゆっくり共が騒いでいるのだ。
いつもの事だった。
しかし、その声に俺はどこかいつもと違う空気を感じた。
なんだ?
俺はドアを開けた。


「ゆっ!!ゆっ!!ゆっ!!ゆっ!!ゆっ!!」
「んほぉおおおおおおおおすっきりいいーーーーーーーーーっ!!!」
「ゆっくりするなだぜぇ!!さっさとおきるんだぜぇ!!!」

由美と娘はそこにいた。

「ゆっ!!ごみくずがやってきたんだぜ!!」
「ゆゆっ!?いまごろきてもおそいよ!!げらげらげらげら!!」
「んっほぉぉぉぉおおお!!!きもちいいわああああああ!!!」

俺は膝をついた。
言葉が出なかった。
脳が思考を放棄し、体が震えて動かなかった。

「ゆっ!!ゆっ!!ゆっ!!ゆっ!!」

執拗に飛び跳ね、踏みつけていたれいむは、
俺を認めると、そこに乗ったままで罵ってきた。

「くそじじいのあかちゃんはしんだよ!!
れいむだっておちびちゃんをころされたんだからね!!
ゆっくりりかいしてくるしんでね!!ざまぁ!!」

まりさ共が、由美の体に体当たりを繰り返している。

「まりささまのゆっくりベッドでゆっくりするんじゃないんだぜぇ!!
くそどれいにそのふかふかはもったいないのぜ!!おきるんだぜえぇ!!」

由美は動かなかった。
頭をまりさ用の天蓋つきベッドに突っ込んだまま、ぴくりともしなかった。
天蓋は一部の骨組が折れ、由美の頭の下に敷かれている。

「あかちゃんのおはだすべすべよぉぉぉぉぉ!!
なんかいでもいけるわあああああんほおおおぉぉぉすっきりいいいいいーーーーっ!!!」

ありす共が粘液にまみれながら絶叫している。
親子五匹のありす共が、それにまとわりついて蠢いていた。

地獄。
無間地獄。
こいつらは。

俺は泣きながら這いずっていった。
震える喉からやっとのことで絞り出したのは、次の問いかけだった。

「どうして」

それは、このゲス共に向けた質問ではなかった。
俺は何に向かって問いかけたのだろうか。

「ゆっ!!ごみくずはばかすぎてあきれるんだぜぇ!!
ごみくずのたくらみなんてまりささまはすべておみとおしなんだぜ!?
おきのどくなんだぜぇ!!げらげらげらげら!!ふっきんほうかい!!」

まりさが笑っている。

「ゆふぅ~……とかいはなせれぶのありすには、
いなかもののかんがえることなんておみとおしよ」
「ままはおみとおしよ!あてがはずれたわね!!んほっ、んほほぉぉ!!」
「どうしてわかったかおしえてあげましょうか?
ありすがまえにすんであげていたゆっくりぷれいすのにんげんは、
はじめはありすにぞっこんで、かいがいしくありすにほうししていたわ。
ありすがいえば、すっきりようのゆっくりをつぎつぎともってきた。
にんげんがあれこれやってくれというから、
やさしいありすはおのぞみのぷれいをみせてあげもしたわ」

このありすの飼い主が、あの技術を教えたのか。

「でも、そのにんげんは、あれほどかわいがってもらったおんもわすれて、
このありすをうらぎった。
にんっしんっしたのよ。
にんっしんっしてこどもがうまれたたとたんに、
そのにんげんはありすをゆっくりぷれいすからほうりだした。
じぶんのこどもにかまけて、
ほんらいのしごと、ありすのどれいのせきむからにげだしたのよ!」
「んほっ、まったくにんげんはいなかもののかとうどうぶつよね!
ちゃんとみてないとすぐににげだすんだから!!」
「このおねえさんがにんっしんっしたときから、
ありすにはこうなることはわかっていたわ。
あなたたちにんげんは、こどもができると、まわりがみえなくなる……」
「だからまりささまがまびいてやったんだぜ!!」

まりさが引き継いだ。

「こどもをみてしこうていしするまえに、
まりささまがまよいのたねをつみとってやったんだぜ!
ごみくずどもはいままでどおり、つよくてかっこいいまりささまにしんすいして、
まりささまだけにつかえていればいいんだぜ!!」
「あらりょうじだったけど、れいせいになってよくかんがえなさい。
おちついてかんがえればこれがただしいとわかるはずよ。
いなかもののかとうせいぶつでもね!!」
「れいむはおまえにこどもをころされたんだよ!!
こどもをころされるくるしみがわかった!?もっとくるしんでね!!げらげら!!」

ゆっくり共は、悪意の塊のような表情を浮かべてせせら笑っていた。
それはひどく醜く、どれほど憎んでも足りなかった。

「こどもはありすにおかされてしんだよ!!
くやしい?くやしい?ねぇねぇ、いまどんなきぶん?どんなきぶん?ゆっゆっゆ~♪」

震えて泣きながら、俺はゆっくりと疑問が氷解していくのを感じていた。

「ざまぁ!!ざっまぁぁぁぁ!!くやちぃくやちぃ~~~~~♪」

ああ。

「げらげらげら!!そしてこのかお!!ないてるときがいちばんばかみたいなんだぜぇ!!」

そうか。

「ごみくずはむせびなき~♪れいむたちはいいきぶん~♪ゆっゆ~~ゆゆゆ~♪」

お前たちは。

「このおねえさんひっどいかおよねぇ、みっともないったらありゃしない!
とかいはにこーでぃねーとしてあげるわ!んほおおぉぉすっきりいいーーーーーー!!!」

苦しむために生まれてきたんだな。


由美は死んではいなかった。
しかし、病院で医師に宣せられたことは死と同義だった。

頚椎骨折。
あの部屋で倒れたとき、首の部分がちょうどまりさの天蓋つきベッドを下敷きにして、
その骨組をなしていた木材にぶつかり、頚椎を折っていた。

脊髄を損傷して由美は全身不随となり、意識も失ったまま戻らなかった。
病院のベッドで点滴を受け、なにも映さない目で天井を見つめるだけの生活になった。

子供は女の子だった。
発見したときにはすでに手遅れになっており、
その亡骸は、長浜家の墓に埋葬された。
俺が決めてあった名前が、その墓には彫られた。


長浜氏と俺の意向を受け、
その事件は日本中に大々的に報道された。

その主犯であるあのゲス共は事情聴取を受け、
警察やテレビの取材班に喜々として自分の所業を語り、
その様子は日本中に放映された。

「まずまりささまがあしにまりさしゃいにんぐあたっくをくらわしたんだぜ!!」
「そしたらおねえさんがぶざまにたおれたんだぜ!!おとうさんはつよいんだぜ!!」
「たおれたところにれいむがおなかのうえでぴょんぴょんしたんだよ!!
ごみくずのあかちゃんはすぐにでてきたよ!!にんげんさんはもろいね!ぷげら!!」
「あかちゃんのおはだはとってもすべすべもちもちしていてとかいはだったわ。
またもってくるならすっきりしてあげてもいいのよ?」
「おなかすいたあああ!!れいむおうちかえるうううう!!」

それは飼いゆっくりによって人間が殺された日本史上初の事件だった。
日本中がその事実に震撼し、愛護派の多くが認識を改め、虐待派がさらなる気炎をあげた。
その日から、日本中で捨てゆっくりの数が増大し、
同時にむごたらしく殺されたゆっくりの死骸が町に散乱し、市民はその処理に追われた。
だが、殺されるゆっくりに同情する者はいなかった。

日本の法律では、ゆっくりを罰する法は制定されていない。
人を殺し、全身不随に追いやったそのゆっくり共を憎み、処刑を望む声は高かったが、
俺はそのゲス共を手元にとどめた。


長浜氏は憔悴しきってうなだれていた。
俺はあの居間でテーブルをはさんで向かい合い、黙っていた。

居間にゆっくりの姿はない。
長浜氏の邸宅から、ゆっくりの姿は一掃されていた。
すべて加工所に送られていた。
もはやゆっくりの姿を見るのも嫌なのだろう。
先日は、道端で出会った野良ゆっくりにあまあまを要求され、
長浜氏らしからぬ激昂を見せて踵で一息に踏みつぶしていた。
いまではゆっくり愛護会の会長も退いている。

重苦しい沈黙が流れたが、
やがて長浜氏が言った。

「すべて私のせいだ」

孫と同じ事を言う老人が悲しかった。

「ただ一度だけ、一度だけ叱りつけてやればよかった。
強くたしなめれば、あの素直な孫は言うことを聞いてくれ、あんなことはやめたろう。
私がそれをせず甘やかしたために、たった一人の孫娘とひ孫を、君の妻と娘を死なせてしまった」
「お祖父さん」
「私を恨んでくれ」

震える老人はひどく小さく見えた。

「それは僕の言う事です……あなたの孫娘を守れなかったこと、深くお詫びします。
このことは、一生をかけて償うつもりです」
「圭一君」

俺は長浜氏に向かって、毅然として言い放った。

「僕は誰も恨んでいません。
僕の恨みは、あのゲスゆっくり共に全て向けられています」
「君の注文どおり、やつらは元の個室でのうのうと贅沢三昧の日々を送っておるよ」
「そのようですね。ありがとうございます」
「どうするつもりかね?」
「どう、とは」
「やつらをどうするのかね」
「質問で返すことをお許しください。
お祖父さんはどのようにしたいとお思いですか?」
「殺してやりたい!」

テーブルに拳を叩きつけて長浜氏は叫んだ。

「この手で引き裂いてやりたい、踏みつぶしてやりたい!!
やつらは、やつらは……私は今まで………今ごろになって………」

すべては遅すぎた。
長浜氏は自分を責めていた。
あの日から眠れた日がどれだけあったろうか。

「僕に任せてくださいませんか」
「……どうするのかね」
「一息に殺したところで、この恨みは晴れるものではないでしょう」

俺はノートを取り出し、長浜氏の前に置いて言った。

「僕は人をやめます。どうぞ軽蔑してください」

俺の顔を見てから、長浜氏はゆっくりとページをめくった。
彼は眼を見開いた。
ノート一冊分にびっしりと書き込まれたそれは、俺の計画書だった。

「これは……」
「あの日から書き続けていました。まだ未完成ですが」

眉をひそめてそのノートを食い入るように見つめていた長浜氏は、
自分の頬を掴みながら呻いて言った。

「……わたしはかまわない。
しかし君は……それでいいのか」
「はい」
「君にはまだまだ先の人生が残っている。
こんなことに……こんなことで……人間を捨てることはない」
「僕はこれから先の人生を、あのゆっくり共に捧げるつもりです」
「私がやる。これは私がやろう。しかし君は」
「これから先、同じ犠牲者を生まないためです。
そしてこれは、ゆっくり達のためでもあります」
「こんなことが?」

俺は頷いた。
狂人と思われようとかまわなかった。

「ゆっくりは苦しむために生まれてきたんですから」
「……それは」
「あの生物がどういう生き物なのか、ようやくわかったんです。
あいつらは弱い。痛みに弱く、耐久性もなく、ひどく簡単に苦しみ、壊れる。
そのくせ悪意や闘争心が強く、強い外敵に向かって無謀な喧嘩を売り、執拗に挑発する。
どこにも根付くことができないくせに、どこにでも入り込む。
そんなゆっくり共が生物として安定している状態は何か、ずっと考えていました。
そしてそれは、苦しんでいる状態でした」
「それは、君……いくらなんでも」
「そう考えれば、すべてにつじつまがあいました。
やつらの行動はすべて、苦しむというただそのことに向けられている。
生まれては死に続け、憎まれ虐げられつづけるゆっくり共は、
そのことですでに生物としての目的を達しているんですよ」
「………」
「僕は残りの一生を、やつらのために捧げます。
今こそ僕は、苦しむために生まれてきたやつらの奴隷になりましょう。
人間のために、ゆっくりのために、お互いの種の安定を目指そうと思います」
「圭一君」

力なくうなだれ、長浜氏は言った。

「君は変わったな」
「変わりました」

俺は答えた。


計画は実行されることになった。


計画には長浜氏が全面的に尽力してくれることになり、
さらに二か月間が準備期間にあてられた。
都心からそう遠くない、しかし奥まった山奥の廃墟が選ばれ、
目的のために改築された。

その間、ゲスどもはあの個室で贅を尽くしていた。
長浜氏や俺の指示に従い、使用人たちは毎日やつらの面倒を見ていた。


実行の日。

今、俺は改築された建物の中で、
大きなテーブルの前に立っている。
テーブルの上には、睡眠薬を食事にまぜられた十三匹のゆっくりが眠っている。

「ゆぴぃ……ゆぴぃ……ゆぴぃ……ゆぴぃ……」

あの日、俺の部屋に侵入してきたまりさとれいむ。
まりさが外から連れ込んできたありす。
それぞれが50cmのバランスボール大だった。

そしてその子供、子れいむが三匹、子まりさが三匹、子ありすが四匹。
十匹とも30cm大のバスケットボール大。

テーブルを囲むのは、計画の実行に関わる人々。
長浜邸の使用人やゆっくりの研究者たち。

計画のリーダーは俺だ。
俺の計画を、これからこの手で実地に行うことになる。
こいつらのために、持てるすべてを捧げよう。

涎を垂らしながら泥のように眠りこむゆっくり共に向かって、
俺は静かに声をかけてやった。

「ゆっくりしていってね」




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最終更新:2014年12月14日 18:32