※いじめの対象はありすメイン他おまけ程度です
※肉体的虐待より精神的虐待を目指しました
※俺設定を含みます
※その他あれこれとあるかもしれません



幻想郷のとある人里、その近くにある里山にゆっくり達の声が響いた。

「ゆっ!にんげんさんがいるよ!」
「ゆぅ~。れいむのおかあさんはにんげんさんはゆっくりできないっていってたよ」
「むきゅ!れいむのいうとおりだわ。ぱちゅりーもおかあさんからそうきいたもの」
「れいむ、ぱちゅりー、おちついて!かんたんにとりみだすなんてとかいはじゃないわ!」

まりさが発見した人間にれいむとぱちゅりーが怯え、ありすがそれを宥めている。
四匹は成体に成り立てのまだ若いゆっくりだが、親の躾が良かったのか人間の恐ろしさを十分に理解していた。

普段は里山のこの辺りにゆっくりが出没することはない。人里に比較的近く、人間が山菜などの山の恵みを採りに来る
ここはこの山の奥の方に住むゆっくり達にとってはゆっくり出来ない場所だからだ。
ゆっくりは成体になると育った巣と親元を離れて一人暮らしを始める巣立ちを行う。
この四匹は徐々に近づいてくる巣立ちの日に備えて、
仲良し四匹組で自分の巣を作る新天地の下見をしているうちに張り切って進みすぎていたのだった。

「ん?ここいらへんでゆっくりを見るなんて珍しいな」

人間の男の方もゆっくりに気付いたようだ。

「ゆ、ゆっくりしていってね!」

まりさが意を決して人間に声を掛ける。本当なら一目散に逃げ出したかった。
しかし、もしゆっくりより遥かに強いという人間が襲いかかってきたら、まず犠牲になるのは運動の苦手なぱちゅりーだろう。
友達を見捨てるようなことは出来ない。いや、仮に出来たとしても絶対にやっちゃいけない。

「ああ、ゆっくりしていってね」

返ってきたのは四匹にとっては予想外の返事だった。
緊張状態にあった四匹の体が男の一言で弛緩する。特に、いざという時は自分が男に立ち向かってその隙にみんなを逃がそうと、
内心で死をも覚悟していたまりさは安堵のため息を吐いた。

「ゆ、ゆふぅぅ~」

そんな風になにやら固まったり弛緩したりしている四匹を不思議そうに見ながら、男が質問する。

「お前達、何でこんなところにいるんだ?」

「れいむたちは、もうすぐすだちをするんだよ!」
「むきゅ!むれでしごとをするいちにんまえのゆっくりになるの!」
「だから、いちにんまえにふさわしい、とかいはなおうちをさがしてここまできたのよ!」

挨拶を返してくれたことで、この人間は言われていた程ゆっくりできない訳ではないらしいと判断した三匹が次々に質問に答える。

「へー、そりゃおめでとう。でもこの辺は人間のテリトリーだから巣を作るには危ないぞ。
それにここからだと群れが遠いから、仕事とやらもちゃんとできなくなっちゃうぞ」

男のその言葉に、まりさが慌てて反応する。

「ゆゆ!しごとができないのはだめだよ!いちにんまえになれなくなっちゃうよ!
いちにんまえになれないとけっこんもすっきりーもできないよ!
まりさは、けっこんしてあかちゃんをつくって、おかあさんみたいなりっぱなゆっくりになりたいよ!」

どうやらこの四匹がいる群れでは、成体となって巣立ちをし、群れのために仕事をすることでようやく一人前と認められるようだ。
そして、一人前としての義務を果たすことでようやく結婚や出産の権利が認められるらしい。
義務と権利の相関。ゆっくりの群れにしては随分立派なことだと思いながら更に男は尋ねた。

「仕事ってのはどんなことをするんだ?」

「まりさはかりをして、ゆっくりできるごはんさんをあつめるよ!」
「れいむはほぼさんになるよ!おかあさんのいないこどもたちのめんどうをみて、ゆっくりさせてあげるんだよ!」
「ぱちゅりーはじむのしごとをするの。ごはんのりょうやおうちやこづくりのもんだいをかいけつするのよ」
「ありすは、とかいはなこーでぃねーたーになるわ!おうちやひろばをかざって、とかいはなえんしゅつをするの!」

なるほど、男は納得して頷いた。どうやら四匹ともそれぞれの特長を生かした仕事に就くようだ。
食料集めは絶対必須の仕事だ。食べなければ何もできない。
保母さんも分かる。もろい生き物であるゆっくりの子育ての過程ではどうしても親を失った子が多く出るだろう。
その世話をして一匹でも多く一人前にすることは群れの繁栄に繋がる。
事務も群れのためになる仕事だろう。食料を集めたら集めただけ食べてしまって、ちょっとした怪我や雨ですぐ飢えるといった事態を避けるため備蓄の指示をだす。
また、家造りや子作りは特に越冬時に問題になりやすいため、事前に入念な準備と指導が必要だろう。

いや、しかし、コーディネーターというのは何だろうか?家や広場を飾ると言っていたがそんなことが必要なことなのだろうか?
生活に余裕を持てる強い生き物、例えば人間や妖怪が余暇を利用してそういった楽しみを追求するのは分かる。
しかし、ゆっくりは弱い生き物だ。そう、無い知恵を振り絞り、必死に頑張って働いても他の生物にあっさりとその命を踏みにじられるほどに弱い。
そんな生き物に必要なのはまずは生きるために働くことではないだろうか?

男はその疑問を四匹にぶつけてみた。

「まりさとれいむとぱちゅりーの仕事は分かった。でもありすのコーディネーターは本当に必要な仕事のか?」

「ゆ?」
「ゆぅ~?」
「むきゅきゅ?」
「どぼじでぞんなごどいうのぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!どっでも゛どがいはなじごどでしょおぉぉぉぉぉぉ!!!」

ありすを除く三匹の疑問の声とありすの絶叫が里山に木霊した。男はありすを無視して平然としたまま続ける。

「だって、そうじゃないか。なあ、まりさ。ありすは飾り付けをするよりご飯集めをした方が
いっぱいご飯が集められて良いと思わないか?」
「ゆ?ゆぅ~、でも……」
「飾り付けは生きるために絶対必要って訳じゃないんだろ?なら、ありすには狩りに参加してもらって
美味しいものをいっぱい集めてもらう方が食べるものがたくさんになってゆっくりできるじゃないか?」
「ま、まりさにはわからないよ……」

「れいむはどうだ?ありすは飾り付けをするより、たくさんのこどもを育てて一人前にする方が群れに貢献できると思わないか?」
「ゆゆっ!」

「ぱちゅりーは?運動が苦手なぱちゅりーはありすが手伝ってくれれば、より効率的に働けるんじゃないか?」
「むきゅう……」

男が三人に声を掛けるのを聞きながら、ありすは焦っていた。まさか自分の仕事をこんなところで人間に完全否定されるなんて思ってもいなかった。
今の今まで都会派な自信に満ち溢れていた心が急速に萎えていく。もしも、群れで自分の仕事が認められなければ、仲良し組で自分だけ子供のままということになる。

嫌だ。絶対に嫌だ。
子供の頃からずっと一緒で仲良しだったみんなが一人前になるのを尻目に一人だけ子供のままでいる。
やがては結婚し、子供を作り、立派な親になるみんなに置いていかれて一人だけ結婚もすっきりもできないままでいる。
そんなの全然都会派じゃない。田舎者だ。とびきりの田舎者だ。

「ぞんなのい゛や゛だあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」

「ありす、おちついてね!ゆっくりしてね!」
「むきゅ!とりみだしちゃだめよ、ありす!そんなのとかいはじゃないわ!」
「どがいはじゃないのはい゛や゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」

れいむとぱちゅりーが何とかありすを落ち着けようとしている。その様子を横目にまりさは男に食って掛かった。

「おにいさんやめてね!ありすをいじめないでね!」
「別に虐めてるつもりはないんだけどなあ。ただ本当のことを言っただけであって」

男には反省の色は全く無い。いや、男はそもそも間違ったことを言ったとも思っていない。
普段ゆっくりと触れ合う機会の殆どない男には、ありすの都会派へのこだわりとそれを自分が踏みにじったことなど分かるはずがなかった。

「なにがぼんどうのごどだあ!ゆ゛っぐり゛でぎないじじい゛はゆ゛っぐり゛ぜずにじねぇ!!」

先ほどの男の言葉を聞き咎めたありすがとうとう暴発した。
れいむ、ぱちゅりー、まりさを置き去りにして男の足に向かって体当たりを繰り返す。

「おいおい、なんて事するんだ。せっかく群れのためになるよう忠告してやったのに。まったくありすは悪いゆっくりだな」

男のその言葉に、まりさは自身のあんこが急激に冷えていくのを感じた。代わりに忘れていた人間への恐れが急激に浮上してくる。
ありすの気持ちは分かるが人間を怒らせるのだけはまずい。

ふと横を見る。するとれいむとぱちゅりーは既に恐怖にぶるぶると震えていた。とても動けそうな状態ではない。
自分がやらなければならない。ありすを落ち着かせ、人間さんに謝って、みんなを連れて一刻も早くここを立ち去らなければならない。

「お、おにいさん!ゆっくりごめんなさい!ありすもわるぎがあるわけじゃないんです!」
「ジジイ呼ばわりした挙げ句に体当たりまでしといて悪気はないって言われてもなあ」
「ゆ、ゆぅ……。ありす、そんなことしちゃだめだよ!ゆっくりできなくなるよ!」

男とまりさの会話の間も体当たりを続けていたありすをまりさが制止する。

「ゆっくりまっててね、まりさ!もうちょっとでこのじじいをたおせるわ!」

しかし、ありすは従わなかった。いや、むしろ攻撃が効いていると確信して勢いを強めている。
あまりの怒りに人間への恐怖も親の教えもあんこの遙か彼方へ飛んで行ってしまったようだ。

「にんげんざんをだおぜるわけないでしょおおおお!!おねがいだがらやべてよおおお!!」
「う~ん、もういいや。最初は礼儀正しいゆっくり達かと思ったけどやっぱり害獣なんだな。
放っとくと里に迷惑を掛けるかもしれないしお仕置きしとくか!」

男の口から死刑宣告にも等しい言葉が発せられた。
恐怖のあまり硬直していたれいむとぱちゅりーがその言葉に弾かれたように動き出した。二匹揃ってゆっくり式の土下座を繰り返す。

「おねがいだがらびゅるじでぐだざいぃぃぃ!あやばりばずがらあ゛ぁ゛ぁ゛!」
「むきゅう!むきゅきゅう、むきゅう!」

懸命に命乞いをする二匹、ぱちゅりーに至っては余りの必死さに言語を失っている程だ。
しかし男はそんなゆっくり達の懇願を全く意に介さない。

「い~や、ダメだ。お前達はクズだ。害獣だ。一匹残らずお仕置きする」

そう言うと、男はゆっくりからすると信じがたい程の速さでいまだに体当たりを続けるありすとそれを止めようとするまりさから
それぞれカチューシャと帽子を奪い、それでも土下座を繰り返すれいむとぱちゅりーからも飾りを取り上げた。

そのままの勢いで宣言する。
「お前達はまだ悪いことをしたわけじゃないから命だけは助けてやる。だが、ゆっくりにとって一番大事だという飾りは破壊させてもらう」
そして間髪入れずに全ての飾りを力尽くで引きちぎり、たたき割った。

「「「「ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」」」」

四匹の悲鳴が里山に響き渡る。飾りのないゆっくりは仲間はおろか親姉妹からさえ排斥される。
これでもう四匹がゆっきりできる可能性は一切無くなったと言っても過言ではない。

「じゃあな!ゆっくりども!これに懲りたら少しは良いゆっくりになれよ!」

そして男は、悲鳴を上げた体勢のまま茫然自失の四匹を置いて意気揚々と里山を下っていった。
その顔には自分が悪いことをしたという罪悪感など微塵も感じられない。
逆に、里を害獣から守ったという達成感とその害獣にさえ更生の道を与えてやったという満足感に輝いていた。

















おまけ

どうしてこんなことになったんだろう。
男が去ってから数十分、ようやく思考を取り戻したまりさは自問自答した

大切な大切なお帽子さんを失ってしまった。
もうすぐ一人前になれるはずだったのに。お母さんや妹たちから祝福されて巣立ち、立派に仕事をこなし、
そしてやがてはれいむにプロポーズするはずだったのに。

全ては失われてしまった。
お母さんも妹たちも群れでの立場もれいむとの幸福な生活も生まれてくるはずだった子供達も、全て。

ほんのついさっきまで輝くような未来があったはずなのに。
今や残された未来は、飾りのない、ゆっくりできない日陰者ゆっくりとしてのくすんだ未来だけ。

どうしてこんなことになったんだろう。

「……ありすのせいだよ」

まりさと同じように沈痛な面持ちで何事かを考え込んでいたれいむがぽつりと言った。
そうか、ありすのせいだったのか。

「ありすがおかあさんたちのことばをわすれて、にんげんさんにさからったからこうなったんだよ……」

風の音に紛れてしまいそうなくらい小さな声だったその言葉は、しかし、今の四匹にはどんな音よりも大きく聞こえた。
そうだ、自分は必死で止めようとしたのにありすは……。

「むきゅ。それにありすはむれのためにならないしごとをしようとしてたわ。さいしょからゆっくりできないゆっくりだったのよ」

ぱちゅりーが更に付け加えた。
そうだよ、今考えればお兄さんが言ってたことが正しいじゃないか。

「ま、まって!ありすはそんなつもりじゃ「ばりずのぜいだよおおおおおおおおおおお!!!」

反論しようとしたありすの言葉を遮ってれいむが叫んだ。あんこの奥底から絞り出したような怨嗟に満ちた叫びだった。

「むきゅう。ありすにはしつぼうしたわ」

ぱちゅりーもありすを見限ろうとしている。
ありすは二匹の責めに耐えられなくなりまりさを見た。大好きなまりさ。とっても都会派で、格好良くて可愛いまりさ。
一人前になって、自分に自信が持てたその時には、ずっといっしょにゆっくりしようとプロポーズするつもりだったまりさ。
まりさならきっとありすを助けてくれる。

「……ま、まりさ」

まりさは何も言わなかった。ただその目だけが、怒り・憎しみ・絶望といった様々な負の感情が混じり合い爛々と輝いている。
まりさは何も言わなかった。何も言わないまま、ありすに渾身の体当たりを仕掛けた。

「ゆげぇっ!」

ありすは予想外の展開にまともな抵抗も出来ずにふっとんだ。全身に痛みが走る。
そして制裁はそれで終わらなかった。まりさと、感情を爆発させたれいむがありすに突っ込んでいく。

「……」
「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」
「ごみくずありすはしにさない!しんでぱちゅりーたちにおわびしなさい」

無言で襲いかかるまりさの攻撃と怨嗟の言葉と共に襲いかかるれいむの攻撃。ぱちゅりーの罵声。
ありすは身も心も既に虫の息だ

「も、もっとゆっく――ゆべぇっ」

とうとうありすはお決まりのセリフすら言えずに息絶えた。

三匹はそれでも決して攻撃を止めようとしない。
攻撃を止めれば現実と向き合わなければならなくなる。これから死ぬまで全くゆっくり出来ないであろうという現実と。
それが何より恐ろしかった。先にあっさりと死んだありすはまだ幸せなのかもしれない。

これから先、この三匹に決して幸福は訪れない。

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最終更新:2022年05月19日 12:34