「う゛~う゛~!?」
唯一無事な子れみりゃは羽根をパタパタさせて子れみりゃにとっての全力で逃げ
る。
親れみりゃが子れみりゃを潰した時点で唯一無事な子れみりゃは一目散に逃げ出
した。
姉や妹は助からない。
そう判断した子れみりゃは森の中を飛んで行く。
後ろを振り返りもしない。
『いやだどー!
れみりゃはこうまかんのおぜうさまなんだどー!
こんなところでしぬようなきゅうけつきではないんだどー!!』
ただただ子れみりゃは死にたくなかった。
れみりゃ達はこうまかんのおぜうさまだ。
こんな所で死んでいい存在ではない。
だから動けない親を見た時迷いなく逃げた。
ここにいては危険だ。と判断し、梟が親れみりゃに気を取られている隙に逃げ出
した。
家族を見捨てた後ろめたさはない。
むしろ“おぜうさまのためにしねたのはみにあまるこうえいだ”としか思ってい
なかった。
ゲスゆっくり特有の自分本位。
窮地に立たされた子れみりゃがそれに目覚めたのだ。
「うー、れみりゃはみんなのぶんまでゆっくりするんだどー!」
逃げ切ったと安心した子れみりゃはゆっくりと地面に座り休む。
襲われた場所からずっと飛びっ放しだったのだが疲れて当然だ。
しかもそれが今日の初めての狩りまで巣から出た事のなかったのだから尚更だ。
「う゛ー」
逃げ切って安堵するが、今まで夢中で逃げていたから気付かなかった孤独に苛ま
れはじめる。
「うー、さみしいんだど~。
さくやーはやくくるんだどー!」
家族を見捨てた子れみりゃが頼れるのは“さくや”だけだった。
さくやに頼めば大丈夫。
そんな根拠も何もない考えで子れみりゃは楽観していた。
初めて巣から出たばかりの子れみりゃは狩りの仕方もわからない。
『さくやにたのめばだいじょうぶだどー。
そうでなくともれみりゃのかりすまをもってすればじゅうしゃになりたがってみ
んなあまあまをくれるだどぉー』と自信過剰な考えを持っていた。
その上今の子れみりゃには自分のいる場所すらわからないのだ。
巣に戻る事等出来はしない。
だが自信過剰で無意味にプライドの高いれみりゃ種にはそれに気づけもしなかっ
た。
「さくやーおそいんだどー!
じゅうしゃしっかくだどー!」
今まで一度も姿を見せた事のないさくやに対して怒り出す子れみりゃ。
『きたらおきゅうをすえてやるんだどー!!』
現れる事のない従者に対して怒りを募らせる子れみりゃ。
しかしいくら待ってもさくやは来ない。当たり前だ。
「もうさくやなんてしらないんだどー!!
くびにしてやるんだどー!」
長い間(子れみりゃ換算での話で実際は一分しか経過していない)待たされた子
れみりゃは遂に痺れを切らした。
「れみりゃはつよくてこうきだからひとりでもいきていけるんだどー!!」
絶望的な状況なのに子れみりゃは楽観している。
満足に狩りもしてないのに自分は出来ると信じて疑っていない。
それは先程の食されたれいむ達が原因だった。
身動きも出来ずに放置されていたゆっくりれいむとまりさが梟による罠だと未だ
にこの子れみりゃは気付いていない。
だから、あのれいむ達を見つけたのは自身の実力だと子れみりゃは信じていた。
そのため、初めての狩りでにんっしんゆっくりなんて大物を見つけた自分は天才
だと思い込んでしまったのだ。
この子れみりゃは自身が梟の標的に自分達を選ばせた原因であったが子れみりゃ
がそれに気付く事はなかった。
「う~う~」
身体を休めていたら段々と眠くなってきた。
まだ休み始めて二分程度なのにもう眠り始めたのだ。
雨風をしのぐものもない森の中で無防備に眠り続ける子れみりゃ。
全くの考えなし。外の危険を知らない温室育ちだからこそ出来る芸当だ。
今のれみりゃなら通常種でも倒せそうだ。
もっとも、この子れみりゃは自身が招いた死神から逃げ切ってなどいなかったの
だが。
「う゛ッ!!!?」
子れみりゃの身体が突然何かにぶつかり吹き飛ぶ。
目が覚めた眼前にはあの子れみりゃの家族を殺した元凶の鳥がいた。
二つの丸い双眸がこちらを見ている。
首がありえない方向に動く梟の頭と無垢そうな瞳に子れみりゃは恐怖を感じた。
「く、くくくるなだどー!!
れみりゃはしにたくないんだどー!!」
目を見開き、歯をガチガチと震わせながら逃げようとする。
だが逃げられる訳無い。
鈍重な子れみりゃが敏捷な梟から逃げられる筈がない。
梟は瞬く間に子れみりゃを脚で掴んだ。
「やだやだいやだどー!!
れみりゃはこうまかんのおぜうさまなんだどー!!
れみりゃにてをだしたらさくやがだまってないんだどー!!」
恐怖から逃げようとするが羽根以外上手く動かせない子れみりゃでは梟から逃れ
らない。
梟はそのまま他のれみりゃと同じように羽根を毟る。
「うぎゃああああああ!!?」
激痛に子れみりゃは叫び声を上げる。
どうしてこんなめに?
子れみりゃはずっとそう思い続けていた。
自分はこうまかんのおぜうさまだ。
“えれがんとなひびがまっているはずなのだ”と、ずっと信じていた。
初めての狩りで外に出た時は嬉しかった。
初めてあまあまを見つけた時は嬉しかった。美味しかった。
これから色々な美味しいものを食べられる、カリスマをもって従者を率いて栄華
を極めて幸せな生活を送る。そんな未来が来ると信じきっていた。
だが、それはもう叶わない。
元から叶う訳が無いが。
「やだやだざくやだずげでー!!
れみりゃまだぷっでぃんたべてないんだどー!!
かりすま☆だんすもおどってないんだどー!!
おどなになっでえれがんどなあかじゃんづぐりたいんだどー!!」
泣き叫び、必死に欲求を垂れ流す子れみりゃ。
命乞いにもなりはしない。
梟は無言で羽根を毟った後、皮を破く程度に嘴で啄んだり、脚の爪で引っ掻く。
「いだい…いだいんだど…だずげで…ざくや……」
どうしてれみりゃがこんなめに…?
れみりゃはこうまかんのおぜうさまだ。
つよいんだ。えらいんだ。
なのにだれもたすけてくれない。
おかしい。こんなのまちがってるんだど…。
どこにいるんだどざくや…。
皮が破け、肉汁をしたらせながら子れみりゃは逃げようとする。
無論逃げられる筈もなく、梟は子れみりゃを掴んだまま飛び立った。
親れみりゃがいる場所へと。
「な…んで…こないんだど…」
突如現れた来訪者、胴有りのゆっくりふらん達に親れみりゃは戦慄する。
「ふふふふらんだどー!!」
「うー、しね!」
うるさいとばかりにふらんは親れみりゃを殴る。
「いだいどー!!たすけでざくやー!!」
「ゆっくりしね!しね!」
そのままマウントポジションのまま殴打を続ける。
その横で別のふらんが親れみりゃの腹を蹴る。
「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」
「ざぎゅや~ぶげ!」
こういう時はれみりゃ種の高い再生力が災いする。
普通のゆっくりなら殴打されている内に死ぬがれみりゃは高い再生力のせいで致
命傷にならない。
このまま暫くは親れみりゃはふらんにリンチされ続けるだろう。
そして残りの二体は百舌鳥のはやにえのようになった一番下の子れみりゃに襲い
掛かった。
「う゛…う゛ぁ…」
もはやまともに声も出すことも出来ないまでに一番下の子れみりゃは衰弱してい
た。
梟に襲われた子れみりゃの中で唯一無事な羽根をパタパタさせて何とか脱出しよ
うとしたが無駄骨に終わった。
朦朧とした意識の中、中身が肉汁以外漏れていない為高い再生力で未だに死ぬこ
とが出来ないのだ。
『まんまぁ…ざくや…だれがだず…げで…』
もはや目も機能しなくなり真っ白な景色にしか見えない。
もう痛覚以外に子れみりゃの五感は機能しなくなっていた。
それはつまり今残る外界との繋がりは枝に貫かれた痛みのみだ。
今も激痛が走る。だが慣れてしまっていた。
そんな中、
「う゛ぎゃ!!?」
貫かれたのとは別の、強烈な激痛が走る。
何が起きたかわからない。
ただ耐え難い痛みが走っただけだ。
その痛みがもはや機能しなくなった五感を一時的に回復させた。消える前に大き
く燃え上がる蝋燭の火のように。
子れみりゃの眼前には見た事もない胴有りのゆっくりがいた。
どこと無く母親に似た外見に子れみりゃは救いを感じた。
『きっとまんまのおともだちなんだど~♪
かわいいれみりゃをたすけにきてくれたんだど~♪』
初めて狩りに巣から出た子れみりゃはゆっくりふらんを知らなかったのだ。
そこに現れたのが天使ではなく死神である事に…。
「…う゛~…だすげ「ゆっくりしねぇ!!」」
子れみりゃがふらんに助けを求めようとしたその時、ふらんは拳を握り、子れみ
りゃを殴った。
『ぶげぇ!?』
助けに来てくれたと思い込んでいた子れみりゃにはショックだった。
それと同時に子れみりゃが最初に起こった痛みとも合致した。
子れみりゃを攻撃したのはふらんだったのだ。それを子れみりゃは理解した。
子れみりゃが勝手に勘違いしただけだが下手な希望が絶望を倍増させたのだ。
「ゆっくりしねぇ!!」
「ゆっくりしねぇ!!」
『やべっ…で…』
五感が回復しても来るのは容赦無いゆっくりふらん二匹の殴打。
もはや摩耗した精神では絶叫を上げられもしない。
『どう…じで…』
何で自分がこんな目に…?
思い浮かぶのは他の姉妹が同じように浮かべた疑問…。
『ざぐやぁ…だずげでぇ…』
そして同じように行う絶対に成就しない助けを求める嘆願。
『…う?』
突然ふらんの攻撃が止む。
助かった…?
木に固定された子れみりゃは前方にいたふらんが突如消えたために一瞬そう期待
してしまった。
だが違う。
「「ゆっくりしね!!」」
姿を消したふらんの声が響くと子れみりゃの両側から引っ張られる激痛が走った
。
『いだいいだいいだいどー!!!
れみりゃざげぢゃううううう!!!』
子れみりゃに突き刺さって枝の部分からゆっくりと亀裂が走っていく。
今日初めて外に出た子れみりゃには殺意と攻撃とは無縁だった。
故に痛みとも無縁だった。
怪我としても姉妹とじゃれあってする些細なものだけだった。
かつてはそれだけでも泣き叫び、親れみりゃに慰めてもらった。
今それを遥かに凌駕する激痛が子れみりゃの身を包む。
『いだいいぎゃああああああああああああッ!!!』
「しねぇ!」
亀裂が入り、子れみりゃの顔面に縦一本の線が入ったように見える。
子れみりゃの意識が朦朧としてくる。
痛みすら和らいできたその時感じたのは安心ではなく今まで感じたことのない明
確な身近に迫った死への恐怖だった。
『しぬ…れみりゃがしぬ…?』
痛みが薄れた事で朧げにも考える余裕が戻ったのが子れみりゃとっては不幸だっ
た。
自身の最期を否応なしに突き付けられたのだから。
最期まで痛みに狂えていたら恐怖を感じる暇もなく逝けたかもしれなかったのに
…。
子れみりゃの脳裏に浮かぶのはかつて見た姉の残骸。
まるで母から出されたでぃなーを食い散らかした後のようだった。
それは親れみりゃが捕まえてきたゆっくり達だったが、自分達がそんな風になる
なんて考えもしなかった。
自らが最強という自負がそのような思考へと至らせなかったのだ。
自分達が狩っても狩られる事なんてないと思い上がっていた。
だが身近に迫る死に子れみりゃは自らの立場を痛感する羽目になった。
『やだど~!
あんなふうになりだぐないど~!!』
最後の力を振り絞って死の恐怖から逃れようとする。
といっても身をよじるだけだが。
だがそれが逆に自らの亀裂の拡大を早める事になった。
たちどころに広がり、亀裂は口に至る。
「あぎゃぐびゃぇええええええッ!!!?」
消える寸前に強く燃え上がる蝋燭の火のように最後の力を振り絞り何を言ってる
んだかよくわからない奇声を上げる。
白目を向いた目はもはや生物としての機能を放棄したようにも見える。
『いだいじにだぐないいだいじにたくないいだいじにだぐないいだいじにだぐな
いいだいじにだぐないいだいじにだぐないいいいいいいいいッ!!!』
「ざぐゅびゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」
断末魔なのか誰かを呼ぼうとしたのかよくわからない絶叫を上げて子れみりゃは
真っ二つに裂けたのだった。
「うー、しね!」
ふらんは子れみりゃを裂いただけでは飽き足らず真っ二つに裂けた子れみりゃの
残骸を木に叩きつけて遊びだした。
「しね!しね!」
もう一匹もそれに倣う。
これはいつもふらん達がよく行う遊びに過ぎない。
れみりゃ達が他のゆっくりを喰らうのと同じようにふらん達のれみりゃ遊びはい
つもの事…こんな日々がずっと続くと疑い無く思っていた。
だがこの時ふらんは一刻も早くここから脱出すべきだったのだ。
れみりゃ達にとっての死神はふらんにとっても同じだったのだから…。
「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」
梟が戻ってみるとれみりゃが胴ありのゆっくりふらんに虐められていた。
四体いるが珍しく群れるタイプなのか親子なのかそれとも四体に分裂したものな
のか梟にはわからないがどうでもいい。
邪魔なら排除するだけだ。
はやにえとなっていた子れみりゃも真っ二つにされて既に死んでいた。
梟はそれを見て怒りを覚えた。折角の獲物を台なしにされたのだ。
意外と親に依存する傾向だったれみりゃが単身逃げ出すという我が身可愛さの行
動するという考えが至らなかった梟は不本意ながらも獲物から一時離れた。
見つけたものは逃さないと決めていたから。
すぐに戻ってきたし、例え餌を奪われていてもそれは自分のミスだと思っていた
。
残っていれば種類によって新たな獲物にすればいい。
だがこのふらん達は獲物を玩具にした。
それは自身が策を巡らし、作り上げた“作品”を汚されたのだ。
その上ふらんの中身はあんまんだ。
梟の好む肉類ではないため餌にしにくい。
それが梟の怒りは頂点に達しさせた。
自分の食事を台なしにしたのはよりにもよって食えもしない愚図だった…。
親れみりゃはまだ生きているが殴打の末に顔は見る影もなくなっていた。
梟は一旦地面にもう満足に動けない子れみりゃを置いてまずは親れみりゃを殴打
しているふらんの始末に取り掛かった。
無益な殺生はこの梟は好まなかった。
だがこれは食事を台なしにした愚図だと判断した梟の殺す為の行動は速かった。
親れみりゃを殴打していた一匹のふらんを瞬く間にのしかかる。
「ゆっぐりじぎゃあッ!!!?」
のしかかると同時に梟はふらんの頭と身体を引きちぎる。
そして嘴でくわえていた頭を放り投げる。
そのまま口をパクパクさせていたふらんの頭は木にぶつかり、あんまんの飛沫に
なった。
「うー、ゆっくりしねぇッ!!!」
ふらんが梟に殴り掛かる。
だが梟はそれを嘲笑うかのように跳躍して拳を回避し、ふらんの顔面に着地した
。
「ゆっぐりじね!ゆっぐびゃあ!?」
中身があんまんであるふらんの頭は梟の勢いと重量に耐え切れず潰れた。
十秒もかからず四体の内二体が死亡した。
流石に状況を判断した既に死亡している子れみりゃの残骸を虐めていたふらん二
匹もやばいと理解して梟に対して攻撃を開始した。
ゆっくりの中では高い身体能力を持つふらんには退却という手段は思い付かなか
ったのだ。
しかしいくら強くても所詮ゆっくり。
長い年月を生き、妖怪紛いにまでなりかけた梟に勝てる訳がなかった。
襲い掛かってくるふらんを掴み上げ、かつて子れみりゃにやったように枝に突き
刺す。
「ぎゃああああああああ!!!?」
初めての激痛にふらんはみっともない叫び声を上げる。
枝は深く突き刺さっておりふらんの手では抜けない。
「う゛ー、じね!じね!」
ふらんがジタバタと暴れるが抜ける気配はない。
もうこいつは終わりだ。
長い枝の根本深くに胴体が突き刺さったのだ。
放っておけば中身を出し続けて死亡する。
食べるならまだしもただ邪魔をした相手、なおかつ餌としてはあまり上等ではな
いのだからこれ以上手だしする気もない。
それよりも優先するのは最後の一匹だ。
「う゛ー!じね!じね!」
最後のふらんが襲い掛かるがいちいち相手するのが面倒になってきた。
梟は鼻歌でも歌うかのような感じでふらんの羽根を毟る。
「う゛~、じねえ!!」
羽根を毟られた痛みを感じながらもふらんは暴れる。
だが梟はそんな抵抗を嘲笑うかのように空高くふらんを脚に掴み飛ぶ。
そして、
「ゆっぐりじねぇ!ゆっぐぢじね!じね!」
泣き喚くふらんを放した。
そのまま羽根を失ったふらんは自由落下していく。
見慣れた空の景色が今まさに自分に牙を向けようとしている。
「う゛ー!う゛ー!」
事態を理解し、パタパタと手足を振り回していつものように飛ぼうとする。
だが羽根が無いためどうしようもない。
あんな羽根じゃそもそも飛べる訳がない。
ふらんが飛べるのは羽根ではなく飛べるというのに思い込みだ。
だから本来は羽根が無くても飛べるのに思い込みの激しいゆっくりは羽根が無い
から飛べないという結論になってしまった。
「う゛ー!?」
野生のふらんには見られない大粒の涙を流して手足を振り足掻くが意味はない。
「う゛ああああああああああッ!!!?」
そうしてふらんは地面に墜落し、自らの身体を四散させたのだった。
「ゆっ…じ…ねぇ…」
もはや原形も保てずあんまんである中身を飛び散らせ、左目から上が欠損してい
る。
どう考えても助からない。
むしろ今生きている方がおかしい。
ゆっくりという単純な構造のせいで痛みのみが長続きしてなかなか死ねないのだ
。
確かにふらんは強い。
ただしゆっくりにしては…だ。
逃げるという手段を用いないふらんはこうして必要以上の敵意をぶつけて返り討
ちに遭う為数が少ないのだ。
そしてその光景をふらんより弱い親れみりゃは見せ付けられた。
れみりゃが万全な状態でも勝てないふらんを一分もかからず殺戮してみせた梟に
対してどうしようもない絶望を感じたのだった。
「じね…ぇ…」
ふらんの虚ろな目が親れみりゃを見つめている。
「う゛…」
それに親れみりゃが恐怖する。
ふらんの目は何を見ているのか親れみりゃにはわからない。
先程まで捕食する筈だった存在に対して助けを求めようとしているのかそれとも
未だに襲おうとしているのか親れみりゃにはわからなかった。
「ゆっぐじじべぇ…!」
力無く呻き声を漏らしていたふらんの頭が踏み潰される。
「う゛ッ!!?」
ふらんの頭が完全に潰される光景を親れみりゃは見せ付けられる。
「ホー」
そして親れみりゃは見る。
ふらん達を殺し、自分の家族を殺戮した抗いようのない怪物に…。
あの暗闇の中に光る月のように丸い二つの双眸を…。
「う゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ
゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!?」
そのあまりの恐怖に親れみりゃは肉汁のしーしーを漏らしながら発狂したかのよ
うに絶叫し、その意識を手放した。
「う゛…だ……ざ…!」
気絶していた親れみりゃの耳に何か声がする。
『うるさいど~。
おぜいさまのしぇすたをじゃまするなんてふとどきせんばんだど~』
意識が戻り始めた親れみりゃは聞こえる声に不満を抱きながらも眠ろうとする。
「やだ…かえ……おう…!!」
聞こえてくる声はどんどん大きくなる。
何だか聞き覚えがあるがそんな事より親れみりゃは寝たかった。
野性に生きるものにあるまじき行動だ。
『さわがしいんだど~!
さくやはなにをやってるんだど~!!』
居もしない従者に対して不満を持つ。
「まんまぁ~!だずげでー!!」
『う゛!?』
今度の叫びはしっかり聞こえた。
しかもそれは絶対に間違えるはずのない我が子の声だった。
さっきまで完全に忘却の彼方だった可愛い我が子の悲鳴に寝ている場合じゃない
とようやく判断したのだ。
『おちびちゃんいまたすけるど~ッ!!』
親れみりゃはこうして目を覚ました。
「だずげ…!」
親れみりゃが目を覚ましたその先には子れみりゃがいた。
だがそれは凄惨な状態だった。
羽根はボロボロ、帽子は何とかあるのがわかる程度の有様で、皮は剥げて剥き出
しになった左目の眼球が今にもこぼれ落ちそうだ。
そんな状態の中必死で子れみりゃは逃げている。
羽根を失い飛べなくなった身体で必死に跳びはね…いや頃がって逃げている。
「う゛…れみ…は…おぜ…なんだ…ど…」
必死の形相で逃げる子れみりゃは自分の立場が未だに理解できないのだろう。
そんな子れみりゃを追う毛が生え揃った小鳥達。
「ぶぎゃ!…やめ…」
ボロボロの子れみりゃに小鳥がのしかかり啄んでいく。
だが不慣れなせいか暴れ回る子れみりゃを押さえ付けられず子れみりゃは逃げ出
す。
その時爪で引っ掛かれたのか横に長い一本の線のような傷痕が出来ていた。
そこから溢れ出す大量の肉汁。
「やめるんだどーッ!!!」
思わず親れみりゃは叫んだ。
小鳥達に襲い掛かろうとする。
「う゛、う゛う゛ー!?」
しかし微塵も動けない。
どうしても動けない。
親れみりゃが手足を動かそうとしても羽根をパタパタさせようとして何も起こら
ない。
「う゛ー!どうぢでうごがないんだどー!?」
目の前にいるおちびちゃんを助けなくてはいけない。
どうして動かないのかそれがわからない。
だがその要因にようやく親れみりゃは気付いた。
目の前に手足の残骸と衣服の切れ端が転がっているからだ。
それを親れみりゃは理解した。
それは間違いなく自分の身体なのだから。
「うぎゃあああああああああああああああああッ!!!?」
親れみりゃの頭に過去の痛みがフラッシュバックされる。
親れみりゃが意識を失ったのは二回。
一度目は梟に対する恐怖で。
二回目は巣に連れてかれた後、首から下をひきちぎられたからだ。
あまりにも機械的に首から下を分離させられた親れみりゃはその激痛で意識を失
ってしまった。
それから目覚めてさっきまで忘れていただけの話だ。
親れみりゃの胴体を取り除いたのはれみりゃの放屁が厄介だからだ。
今子れみりゃを襲っているのはあの梟の子供達だ。
そしてここは巣の中。
木の中に作られた出入口一つだけの巣では臭い放屁を放たれたら最悪子供達が死
んでしまう。
屁で死ぬなんて笑い話にしもならない。
だから胴体から下をとったのであった。
「や…やじゃ…」
あまりにも残酷な現実に親れみりゃは思考を放棄していた。
親れみりゃは僅かな時間で子供をほぼ全て失い、そして今や自分はただの肉団子
に等しい。
昨日までの幸せな日々が嘘のようだ。
そして、今目の前にいる最後の我が子の命も潰えようとしていた。
「いぎゃああああああああああッ!!?」
れみりゃの目がえぐり出される。
皮は剥げ、もはや子れみりゃは肉の塊に等しかった。
「う゛…う゛…う゛…」
もはやまともに声も出すことも出来ずに子れみりゃは痙攣していた。
目玉は梟のお気に召さなかったのだろう瞼を喰われただけだった。
だがその瞳が真っ直ぐに親れみりゃに向けられていた。
『どうじでだずげでぐれながったの?』
空虚な瞳はそう物語っていた。
それは親れみりゃにとっては筆舌にしがたい恐怖となった。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」
この瞬間親れみりゃの心は折れた。
最後の子供が逃げた報いかのようにじわじわと恐怖を味わいながら死んでいくの
も気付かずありとあらゆるものに親れみりゃは恐怖した。
そしてその心の折れた眼に映るのは梟の丸い双眸…。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!?」
梟の嘴に舌を抜き取られ喋れなくなるまで親れみりゃは叫び続けた。
必死に目の前の現実から逃れようとする為に…。
しかしもう親れみりゃに逃げる事は出来ない。再生の続く限り親れみりゃは梟達
の保存食として生きていくのだ。
そこにもう家族と共に生きる幸せな日々は何処にもない…。
これから先親れみりゃ…いや既に子を亡くしたただのれみりゃが何時死ぬかはわ
からない。
だが確実なのはこれから先れみりゃにとって幸せな未来は何一つ無いという事だった…。
月明かりが森を照らす夜。
梟は木の上にいた。
その下には泣き叫ぶゆっくりれいむとゆっくりまりさの家族。
「たしゅけておきゃあああしゃあああんッ!!」
「やめておちびちゃんをたべないでええええ!!」
「うー♪うー♪」
「やべてね、たべるなられいむにしてね!!」
「どぼぢでぞんなごどいぶのおおおおおおおおおッ!!?」
今日もまた、餌がかかったようだ。
梟は羽根を広げ、獲物へ向かい飛び立ったのだった…。
あとがき
ただ梟無双がしたかった。
結構長くなってしまった上に後半のグダグダ感が否めない。
誰か助けて…。
最終更新:2022年05月21日 22:21