”ゆっくりゃ飼育用・組み立て式住居『紅魔館』ラージサイズ”
 それを見た時、瞬時にある計画が閃いた。
 だから、かなり高価なそれを俺は躊躇せずに買って家路に就いた。

 家にはゆっくりゃが捕獲してある。つい最近森で捕獲したのだ。
 俺が家に帰ってみるとそいつは、悪戯できないように物を取り去った広い物置の中で、小憎たらしい寝顔に笑みを浮かべながら眠っていた。好都合だ。俺はゆっくりゃを起こさぬよう、仕込みに取り掛かる。



豚小屋とぷっでぃーん



「おい、起きろ」
 俺はゆっくりゃを足で蹴り転がす。
「うー?れみ☆りゃ☆うー☆ぷっでぃーん!ぷっでぃーんもっでぎでぇ~♪」
 捕獲してから一度も食べさせたことなどないのに、こいつはぷっでぃーんとやらを所望する。全く頭の弱い生き物だ。
「寝転がってないで起きろ」
 もう一度蹴りを入れる。たちまちゆっくりゃは泣き顔になった。
「う゛~!れ゛み゛り゛ゃ゛はこ゛ーま゛か゛ん゛の゛お゛せ゛う゛さ゛ま゛た゛と゛ぅ゛ぅ゛ー!!ぷって゛ぃ゛ーん゛た゛へ゛た゛い゛と゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ー!!」
 例のゆっくり定型句だ。耳にするたびそれは本能的な苛立ちを呼び覚ますが、今日はいくらでも聴いてやるつもりだった。
「と・っ・と・と・起・き・ろ」
 下膨れのあごを蹴り上げる。
「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
 どむっ、という気色悪い音を立て、ゆっくりゃは転がりながら壁にぶつかり、ようやくの事で立ち上がった。
「おお、立てたな偉い偉い」
 心にもない言葉を投げかける。肉饅頭の脳味噌しか持たないゆっくりゃはあっという間に泣き止む。
「そんな偉いれみりゃに、今日はプレゼントがあるんだよ」
「ぷれぜんと?おぜうさまはぷっでぃんがたべたいんだどぅ~☆」
「ぷっでぃーんもあるよ」
 俺はゆっくりゃを伴って庭へ出る。そこには先ほど組み立てた『紅魔館』ラージサイズが、立派なたたずまいを見せている。
 あくまで家畜の住まいなりには、ということだが。
「すっごいどぅ~!!かり☆すまのれみりゃにふさわしいおやしきだどぅ~!!」
 駆け出そうとするゆっくりゃを手で制する。
「こらこら、待ちなさい」
「う~♪」
 もちろん待つはずもなく、足も砕けよとばかりにローキックを見舞ってやった。

「さて」
 両足は早くも再生しつつある。本当気持ち悪いなこの生き物。
「プレゼントは二つのうちから一つを選んで貰います」
「い゛た゛ぁ゛い゛と゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ー!」
「一つは、そこの立派な(お前には立派すぎる)お城。もう一つは、ぷっでぃん」
 ぷっでぃんの言葉に反応したのか泣き止む。
「ぷっでぃん♪たべたいどぅ~♪」
「ぷっでぃんは、その中にある」
 俺は庭の反対側を指差した。雑草も伸び放題となっている、暗くてじめじめした場所だ。
 そこには、見るからに粗末な豚小屋に皿に載ったぷっでぃんがあった。
「ただし!」
 ぷっでぃんに飛んで行こうとするゆっくりゃの翼を引っつかみ、地面に叩きつける。
「うぉ゛ぉ゛う゛……うぉ゛ぉ゛う゛……」
「どちらか一つしか選べません。
 ぷっでぃんを食べたいのなら、その豚小屋に住んでもらうことになる。お城が欲しければ、ぷっでぃんは諦めて今までどおりお野菜を食べてもらう。
 さあ、どっち!?」
「どっちもだどぅ~♪こーまかんはもともとれみりゃのものだどぅ~♪」
 腹に蹴りを一発。
「俺の言ってることがわかるかな?」
「わ゛か゛り゛ま゛し゛た゛あ゛あ゛あ゛!!!い゛た゛い゛の゛も゛う゛や゛め゛て゛え゛え゛!!!」
 殺気と、更なる暴力の気配を感じたのか、ゆっくりゃはとうとうプライドの一部を放棄した。
「じゃあ、どっちか選べるかな」
「う゛~…」
 ゆっくりゃはよたよたと、豚小屋の方へと近づいていく。
「おやおや、そっちでいいんだね。
 お城は、要らないんだね」
 俺の言葉を聞こえない振りで、ゆっくりゃはぷっでぃんを口に含む。
 どうせゆっくりらしい浅知恵で、ぷっでぃんを食べたあと紅魔館を手に入れればいいと思っているに違いない。
 そうは行かないってことを、これから嫌ってほど思い知ることになるのだが。

「まじゅい!!」
 そう言って、ゆっくりゃは口に含んだぷっでぃんを吐き出した。
「おやさいのあじがするどぅ~!!こんなのぽいっ!だどぅ~!!ちゃんとしたぷっでぃーんをよこさないと、たべちゃうどぅ~!!」
 もはや半狂乱となって抗議するゆっくりゃ。おお、こわいこわい(笑)
「食べ物を粗末にしちゃいけないよ。お兄さんが丹精込めてれみりゃのために作った特製☆ぷっでぃーんなんだからね。
 もっとも、明日もあさっても食べられるんだからどうってことないのかもしれないけど」
「う゛や゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ!!!!み゛き゛ょ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!さ゛く゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ!!!」 
 じたばたと見苦しく地べたを転がりまわる。その仕草、やはり豚小屋にふさわしい存在だったようだ。

 ひとしきり暴れたあと、泣き疲れたゆっくりゃは紅魔館を思い出したのか、そちらへと歩み寄った。
 俺はその有様を、にやにやと見守る。
「う~♪う~♪」
 ごちん。
 壁――ゆっくりゃが野菜ぷっでぃんを食べている間に起動した、紅魔館の周囲を覆う透明の隔壁に頭をぶつけて、後ろへと転がる。
「う~?」
 ごちん。転がる。何で二度もするんだ。
「う゛ぅ゛~!!は゛や゛く゛あ゛け゛な゛い゛と゛さ゛く゛や゛に゛い゛い゛つ゛け゛る゛と゛お゛ぅ゛ーっ!!!」
「開かないよ」
 俺はごく当たり前の事を告げる。
「だってれみりゃは豚小屋を選んだだろ?ちゃんと念を押したじゃないか」
「こ゛ー゛ま゛か゛ん゛は゛れ゛み゛り゛ゃ゛の゛た゛と゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ーっ゛!!!!」
「違うね」
 ゆっくりゃが張り付いている隔壁に、リモコン操作で電流を流す。
「い゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「れみりゃは、これから、ずっと、その豚小屋で暮らすんだよ」
 噛んで含めるように言い聞かす。さらにリモコンを操作し、ゆっくりゃのいる豚小屋周辺を覆う隔壁も作動させる。
「約束どおり、毎日特製ぷっでぃん食べさせてあげるからね」
「ま゛し゛ゅ゛い゛の゛や゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」
 そのようにして、我が家のゆっくりゃは、毎日毎日お城を眺めて暮らすことになったのだった。


 一週間後。
「ゆっ!ゆっ!」
 泣き叫ぶゆっくりゃの口に、野菜色のぷっでぃんをホースで無理矢理流し込んでいると、お城の側にゆっくりの一団が現れた。
 豚小屋と紅魔館の間は完全に隔てられているが、紅魔館から敷地の外へと広がる空き地には隔壁を設けていないのだ。
 もちろん、このような野生のゆっくりを引き込むためにだ。

「ここはあっとうてきにゆっくりできそうだぜ」
「れいむとまりさのごーじゃすゆっくりぷれいすだね!!」
「ゆっきゅり!!ゆっきゅり!!」
 親まりさ、親れいむと子ゆっくり数匹からなる家族は、その分不相応な家にさも当然のごとく住み着く。
「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!」
 俺はゆっくりゃを捨て置くと、ゆっくりに話しかける。
「こらこらそこはお兄さんのものだから勝手にすみついちゃ駄目だよ(棒読み)」
 実は大歓迎なわけだが。
「なにいってるの!!ここはれいむのものだよ!!」
「まりさのものだぜ!!」
 ここまではテンプレどおり。いわゆる前フリというやつだ。さて、自称おぜうさまは…
「こ゛ーま゛か゛ん゛は゛れ゛み゛り゛ゃ゛の゛だどお゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!!」
 青汁まみれのれみりゃ。泣き叫び、ゆっくり達の跳ね回る紅魔館へと突進する。
 べちん。びりびりびりびり、どてん。
「い゛た゛い゛と゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!」
 が当然、電流に阻まれる。
 もっともゆっくり達には十分な脅威と映ったらしく、子ゆっくりの中には痙攣して死ぬものもいる。
「う~?う~♪」
 調子に乗りかけるゆっくりゃの頭を手近な木の枝でぶっ刺し(青汁まみれで汚いので)、ゆっくり達に説明する。
「君達、このれみりゃはたいへんなお馬鹿だから怖がらなくていいよ。
 ほら、馬鹿だからきれいなお城じゃなくてこの汚らしい豚小屋に住んでるんだ。しかも、ここから出られないんだよ」
 自分達の安全を知り、ゆっくり達のゆっくりゃを見る目が変わった。
「ゆっくりゃはばかなの?おしろよりぶたごやのほうがいいなんて、なにもしらないおろかものだね!!」
「こっちはすっごくゆっくりできるのにね!!」
「ゆっくりしていってね!!ゆっくりしていってね!!」
「う゛ほ゛お゛お゛お゛ん゛ん゛ん゛!!!こ゛お゛ま゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!さ゛く゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!ゆ゛う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!!!れ゛み゛り゛ゃ゛の゛お゛お゛゛お゛う゛う゛う゛!!!!!!!!」
「うるさいよ!ゆっくりできないからゆっくりだまってね!」
「ゆっくりできなくてばかはかわいそうだね!!」
「う゛う゛う゛!!!!!」

 この肉饅頭はきっと極上の味わいになるだろう。
 ごーじゃすゆっくりぷれいすを味わうゆっくりたちは大層ゆっくりしてしまうだろうが、そこからどん底に突き落としてやるのもまた一興。どんな手法を用いるべきか、今から楽しみだ。

「こ゛う゛ま゛か゛ん゛は゛れ゛み゛り゛ゃ゛の゛ぉ゛ぉ゛ぉ!!!さ゛く゛や゛、さ゛く゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!!」
「ゆっくりしていってね!!ゆっくりしていってね!!」
「お゛ま゛え゛ら゛た゛へ゛ち゛ゃ゛う゛と゛お゛お゛お゛!!!!!!!!!き゛ゃ゛お゛お゛お゛お゛う゛う゛!!!!!!!」
「やれるもんならゆっくりやってみてね!!」
「おお、みじめみじめ」
「ゆっきゅりしていってね!!ゆっきゅりしていってね!!」
「ゆっくりしていってね!!ゆっくりしていってね!!」

 束の間のゆっくりを謳歌する群れと、豚小屋に繋がれたゆっくりゃ。天国と地獄とに分かたれた庭。
「それじゃあ皆、ゆっくりしていってね!!」
 その場所から俺は踵を返した。
 ゆっくりゃに食べさせる、次のぷっでぃーんを作りに行くために。





タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2022年04月16日 22:36