”ゆっくりゃ飼育用・組み立て式住居『紅魔館』ラージサイズ”
それを店先で見つけた俺は、ある計画を思いつきそれを購入した。
現在、俺の庭に設置されたその『紅魔館』にはゆっくりが住み着き、同じ庭、透明な隔壁で囲われた豚小屋の中ではゆっくりゃを飼っている。
続・豚小屋とぷっでぃーん
俺は厨房に立ち、マスクを付けてそれを煮込んでいる。
”それ”、すなわち隣人から分けてもらった野菜屑だ。これをぷっでぃーんにしてゆっくりゃの餌としている。
もちろん嫌がる。嫌がるが、これのほかには何一つ与えない。
数ヶ月前、俺はゆっくりゃに二つの選択肢を提示した――
俺の庭を電流隔壁で二つに仕切り、一方を粗末な豚小屋、もう一方を立派な住居『紅魔館』とした上で「紅魔館に住まい、野菜を食べて暮らす」「豚小屋に住まい、ぷっでぃーんを食べて暮らす」のいずれかを選べ、と。
まあ、下等な生き物にすぎないこいつがどちらを選ぶかなど、ほとんどわかりきっていたのだが…
ゆっくりゃは今日も、決して手の届くことのない隔壁の向こう側に向かって泣き叫ぶ。
「や゛さ゛い゛ぷ゛て゛ぃ゛ん゛た゛へ゛た゛く゛な゛い゛と゛ぅ゛~!!こ゛ー゛ま゛か゛ん゛の゛あ゛る゛し゛は゛れ゛み゛り゛ゃ゛た゛と゛ぅ゛ぅ゛~!!!た゛へ゛ち゛ゃ゛う゛と゛ぅ゛ー!!!こ゛ー゛ま゛か゛ん゛か゛ら゛て゛て゛か゛な゛い゛と゛た゛へ゛ち゛ゃ゛う゛と゛ぅ゛~!!き゛ゃ゛お゛お゛お゛ぅ゛ー!!」
「たべちゃうだってさ」
「おお、こわいこわい」
「ここはれいむたちのごうじゃすゆっくりぷれいすだよ!!」
「ぶたごやずまいのぶんざいでおこがましいよ!!」
「れ゛み゛り゛ゃ゛の゛お゛う゛ち゛な゛の゛に゛ぃ~!!さ゛く゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!」
食い気を優先した結果がこれだよ!
「ゆっ!ゆっ!」
「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!!」
ゆっくり達の住む組み立て式住居は、本来ゆっくり愛好家のために作られた高級品で、様子を見るかぎり確かに快適そうだ。
「ゆっゆ~!!」
日向ぼっこをするゆっくり。
「ゆっ!ゆっ!」
「ゆゆっ!!」
張り巡らされた通路を思う存分駆けずり回り、他のゆっくりと追いかけっこを楽しむゆっくり。
一方ゆっくりゃの不満は募るばかりだ。
「あ゛ふ゛う゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛~!!!!!!!」
さらに一ヶ月後。
ゆっくりゃの豚声が耐え難いまでにうざったくなってきたので、豚小屋を取り囲んでいる隔壁を防音のものと取り替えた。
紅魔館側のゆっくりぶりがゆっくりゃに伝わらなくなっては意味が無いので、豚小屋にはスピーカーを用意。
「ゆっ!!ゆっ!!」
「ぶたさんのこえがちいさくなったね!!」
「いっそうゆっくりできるね!!」
「またあきもせずなきさけんでるよ!ばかなの?しぬの?」
「ゆっくりしていってね!!ゆっくりしていってね!!」
「う゛は゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!の゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛!!!!!!!!」
ちなみに紅魔館側のゆっくり家族には、庭に本来存在している虫のみならず、市販のゆっくりフードをも供している。
「さあ、たんとお食べ」
「おにいさんありがとう!!」
「ゆっくりしていってね!!」
虫唾の走るその声だが、ゆっくりゃ虐めのパートナーと思えば我慢もできる。
「ほら、豚も食え」
ゆっくりゃにはいつもの野菜屑ぷっでぃん。
「ふ゛っ゛て゛ぃ゛ん゛や゛た゛と゛う゛う゛!!!!れ゛み゛り゛ゃ゛も゛お゛い゛ち゛い゛の゛た゛へ゛た゛い゛と゛ぅ゛ぅ゛~!!!!!」
「ぶたさんはくさいのでじゅうぶんだよ!!」
「れいむたちのおいちいたべものなんかあげられないよ!!」
「そまつなぷっでぃんゆっくりたべてね!!」
最近では、一番小さなゆっくりにも馬鹿にされているゆっくりゃだ。
さらに一ヵ月後。
相変わらず豚小屋暮らしのゆっくりゃとは異なり、ゆっくり達は栄華を極めていた。
庭の紅魔館側から森へと繋がる道には特に障害を設けていないため、四方を隔壁に囲われ自由のないゆっくりゃと違ってゆっくり達は自由に森を散策することができるのだ。この森は俺の私有地であるため、現在はゆっくりにとって危険な生物を排除してある。楽園といって過言ではない環境の下、ゆっくり達は第二世代、第三世代と着実に数を増やしていった。
餌の提供者である俺との関係もそれなりに良好だ。
そんなある日の事だった。紅魔館のゆっくり達がクレームを口にした。
「おにいさん!おうちがせまくなってきたよ!!」
「ゆっくりできないよ!!」
「あのぶたさんにもそろそろあきたから、あのきたないこやをなくしちゃってもいいよ!!」
ゆっくりが俺に訴えかける声はゆっくりゃにも聞こえている。
それを聞いて、ゆっくりゃは突然元気を取り戻した。
「そうだどぅ~☆こんなきちゃないこやは、かり☆すま☆れみ☆りゃさまのおうちにふさわしくないどぅ~!!
とっとととりこわすどぅ~!!」
やれやれ。どうやら豚小屋から出られるつもりでいるらしい。
肉饅の考えることは判らない…
「そうだね、そうしようか」
「れみ☆りゃ☆う~☆」
ゆっくり達が寝静まった夜。
わずかばかりの心の平穏を手に入れたゆっくりゃは、一人踊りを踊るのだった。それは、この地獄のような生活の中の唯一の慰めだった。スピーカーから四六時中垂れ流しにされるゆっくりの鳴き声が鳴り止む夜のわずかの時間だけ、ゆっくりゃはこころゆくまで踊ることができるのだ。
「うっう~☆」
この豚小屋を取り壊すと、あの人間は言った。
これで、長かった不遇から解放される時が来たと、ゆっくりゃは本気で信じていた。
まずは紅魔館を取り戻し、あのたてもののなかにあるすてきな”だんすほーる”で踊りを踊るのだ。それから、あそこに住み着いたゆっくり達を食べつくす。さらに、でざーととして人間に美味しいぷっでぃーんを用意させるのだ。
「おいちい…ぷっでぃんだどぅ~☆」
そんな夢を見て、ゆっくりゃは眠りに就いた。
ビリッ!!!!!!!
「ふ゛く゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!」
隔壁に常に流されている電流の痛みで目が覚めた。わけがわからなかった。
それが痛みをもたらす物と判ってからは、ゆっくりゃはできるだけ隔壁に近づかないようにしていたからだ。
夢うつつの状態で立ち上がる。
ビリッ!!!!!!!
「い゛た゛ぁ゛ぁ゛い゛と゛ぅ゛ぅ゛!!!お゛せ゛う゛さ゛ま゛の゛く゛れ゛い゛と゛な゛つ゛は゛さ゛か゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!!!!!!」
再びもたらされた痛みにのたうち回る。
「ああ、目を覚ましたね」
人間の声。
「と゛う゛し゛て゛ひ゛り゛ひ゛り゛す゛る゛ん゛た゛と゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛~!!」
ビリッ!!!!!!!!
「い゛た゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
俺はゆっくりゃを見下ろしている。
「当然。それに触るからさ」
そう。隔壁には常に電流が流されている。
痛みを感じるならば、それは隔壁に触れているからにほかなるまい。
隔壁は以前同様、伏臥したゆっくりゃを取り囲むように存在している。しかし、その間隔は以前よりずっとゆっくりゃと近い。
「さっきも言ったとおり、紅魔館の敷地を広げることにしたからね。
その分、だいぶ狭くなっちゃったけど、そこでれみりゃはゆっくりしていってね!!」
「こ゛ー゛ま゛か゛ん゛は゛れ゛み゛り゛ゃ゛の゛た゛と゛ぅ゛ぅ゛ー!?こ゛ん゛な゛せ゛ま゛い゛と゛こ゛ろ゛に゛い゛ら゛れ゛な゛い゛と゛ぅ゛ー!!は゛や゛く゛こ゛ー゛ま゛か゛ん゛に゛つ゛れ゛て゛く゛と゛ぅ゛ー!!!!」
「何を言ってるんだい?れみりゃは、ぷっでぃんがたべたいから紅魔館はいらないっていったんだよ。忘れたの?」
「い゛や゛あ゛あ゛あ゛!?ひ゛や゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!!!!」
ゆっくりゃが寝ているうちに、その工事は始まり、終了した。
今まで豚小屋としてゆっくりゃに与えていたスペースのおよそ6割をカット。
これによりゆっくりゃは、唯一の日々の慰めであった踊りを踊ることもかなわなくなった。”のうさつ☆だんす”とやらのみっともない動きでよたよたと歩き回るたびに、手足や翼がいずれかの隔壁に触れてしまうはずだ。ゆっくりゃ自身も、いずれその新たな絶望に気がつくことだろう。
その外側。
「おにいさんありがとう!!!これであたらしい子供達もゆっくりできるよ!!」
ああうざいうざい、得意げな面して子供を見せに来るんじゃない。
「ゆっくりしていってね!!ゆっくりしていってね!!!」
このゆっくりどももいつかはひどい目にあわせてやるが、今のところは、豚に幸せな様を見せ付けていろ。
「た゛し゛て゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!!た゛し゛て゛く゛た゛さ゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ !!!!!」
「ゆっくりしていってね!!」
ゆっくり達にとって広くなった庭に、幸福そうなゆっくりコールがこだまする。
おおそうだ、今度は豚小屋に新しいスピーカーでも増設してやろうかな…
そんなことを考えながら、俺は庭に背を向けた。
最終更新:2022年04月16日 22:36