痛みに苦しみ、瞼(まぶた)を閉じるだけだった瞳を、ようやく開けることを出来たのは、病院に着いてしばらく経っての頃だった。女性と見まごう綺麗な顔をした蔵馬さんという人が、丁寧に僕の怪我を治療してくれたのだ。勿論、それによって僕の怪我が完治したということはない。僕の両肩の肉は依然と弾け飛んだままだし、両腕の筋肉も不恰好に肥大化したままだ。それでも何もすることができなかったほどの痛みは和らぎ、こうして会話もできる余裕が持てるようになった。
「それで蔵馬さん、その女の子は大丈夫なんですか?」
僕はベッドで安らかに寝息を立てている
八神はやてちゃんに目を配りながら、蔵馬さんに訊ねた。
「取り敢えずは、というところかな。筋肉の膨張や神経の直接的な乱れは、外科的な手術をしなければ治らないだろうけれど、命に別状はない。肉体にもたらされる痛みも、鎮痛剤と鎮静剤で何とかなるし、普通に動く分には問題ないよ。といてっも、あまり無理はできないけれどね」
「そっか……良かったぁ」
蔵馬さんの台詞に僕は思わず安堵の息を零した。卑劣なトキの悪行による最悪の結果を免れることができたのだ。その喜びに思わず自分の肩の痛みも忘れる。だけどその一方で、チクリと罪悪感が胸を刺した。僕があの時、トキを何とかしていれば、この八神はやてという女の子は酷い目に合わずに済んだのだ。そのことを考えると、どうしても自分が許せなくなる。
「夏目……気に病むことはありません。トキを止められなかったのは、私も同じです。いえ、トキのことを良く知っている分、私の非の方の大きいでしょう。それにもしかたらトキがあのように成り果ててしまったのも、私が原因なのかもしれないのです。ですから、トキのことは私が何とかします、この命に懸けても。そして夏目……あなたの今の役目は十分に身体を休め、怪我の回復を図ることです。決して駄々をこねて、私たちを困らせることではありませんよ。さあ、ゆっくり横におなりなさい」
「い、いえ、そんなことはありません、
ユリアさん! 僕がしっかりしていれば……」
身を乗り出した僕の抗議の声は、そこで潰えてしまった。微笑を携えて諌めてくるユリアさんに、僕はあろうことか見惚れてしまったのだ。こんな時に、という忸怩たる思いはある。だけど、それを無視して見つめてしまいたくなるほど、ユリアさんは綺麗なのだ。
大和撫子という言葉を、そのまま体現したというのだろうか。顔立ちは一種厳格といって程に整っているけれど、そこにある面差しは至って柔らかく、見ているとひどく安心する。ユリアさんには、学校や街で見かける女性のように、化粧や染髪といった飾り気は、どこにもない。は素肌を晒したままだし、髪の色もオシャレと無縁の黒一色だ。でもだからといって、美しさが損なわれることはない。寧ろ、そこには磨きぬかれた宝石のように輝きと気品に満ち満ちている。学校の西村がユリアさんを見たら、一体どんな反応をするのだろうか。そんな想像をしていたら、どうやら顔に出てしまっていたらしい。
「夏目、何がおかしいのです? 人の顔を見て笑うものではありませんよ」
やんわりとユリアさんに怒られてしまった。クソ、西村め!
「あ、いえ、すみません。でも別にユリアさんを笑ったわけではありません」
「まあ……では、何がおかしかったのです?」
「えと、それはですね……」
友達がユリアさんの美しさに舞い上がっているところを想像していました。そんなことを言えたら楽なのだろうけれど、殺し合いの中でそんなことをしていましたでは、やっぱり愚か者の証明でしかない。果たして、そんなバカと一緒にいたいと思うだろうか。こんな極限の状況なら、答えは自ずと知れるものだ。別に自分への評価など、どうでもいいけれど、それによって相手に不安を与えてしまっては、幾ら何でも申し訳ない。僕は何かいい弁明はないかと思案したけれど、言葉は当てもなく、その場を彷徨ってしまった。と、そこに蔵馬さんの笑いが、助け舟のように漏れてくるのが聞こえてきた。
「まあ、蔵馬まで!」
「ユリアさん、あまり夏目君をいじめるのは、かわいそうですよ」
「あら、誰がいじめるというのです、蔵馬?」
「それは笑顔は浮かべて、夏目君が困っているのを見てた人ですよ、ユリアさん」
「そういうことなら、私をいじめているのは、蔵馬と夏目でしょう? あまりふざけていると、怒りますよ?」
段々とユリアさんの目元が座り始めてきたので、僕と蔵馬さんは素直に謝ることにした。そしてそれを契機に、蔵馬さんは真面目な表情で、ユリアさんに質問をしていく。
「ユリアさん、トキが使う北斗神拳は人体の内部に作用する拳法ということですよね?」
「ええ、先程説明したと思いますが、それが何か?」
「その北斗神拳は……例えば人の魂にも何らかの影響を与えることが可能なのですか?」
「魂?」
「はい、この女の子の魂は蝕まれています。分かりやすく言うのなら、呪われているということですかね。彼女の魂に何らかの力が作用して、彼女の身体の自由が奪われているというのが現状です」
「呪い……ですか? 蔵馬の言っていることは、正直分かりかねますが、北斗神拳は秘孔を突いて、人体の筋肉、神経、血流を操るものです。それ以外の何か、例えば蔵馬の言うような魂に影響は出ないはずです」
「そうですか…………」
蔵馬さんはそう言って顎に手をやり、静かに八神はやてちゃんと見つめた。おそらく呪いについて、何か考えを巡らしているのだろう。そして僕はそんな蔵馬さんに声を掛けることができない自分を何よりも恨めしく、また恥ずかしく思った。
呪い。
僕にとって、それは決して無縁なものではなく、どちらかと言えば近しいものだ。過去に僕が妖怪に呪われ、辛酸を舐めさせられたことは、決して一度や二度では済むものではない。そういった意味では、呪いに関してエキスパートと言えるだろう。だけど、僕の口からは言葉を蔵馬さんたちに投げかけることができなかった。
恐かったのだ。妖怪が見える。妖怪と話せる。妖怪を触れられる。呪いについて話そうとすれば、必然とそれらについても説明しなければならないだろう。そしてそのことが他人に知れてしまった時の反応を、僕は嫌というほど知り尽くしている。僕は蔵馬さんやユリアさんから、そういった振る舞いをされるのが、ひどく嫌だったのだ。
勿論、田沼や多軌のように、僕に拒絶など示さないということもありうるだろう。いや、蔵馬さんとユリアさんは優しい人たちだ。寧ろ、僕の不安や危惧の念など、爽やかな風のように吹き飛ばしてくれるに違いない。でも、徒(いたずら)に妖怪のことを話せば、拒絶は生まなくとも、不審を抱かせてしまうのは確かなことだ。僕にとって当たり前の世界であっても、他人から見れば、そこにあるのはやはり荒唐無稽の世界。その隔たりを無視して、自分の「常識」を押し付ければ、生まれるのはわだかまりばかりだ。
それに僕には負い目があった。それはとてつもなく重く、厄介な、不幸の種。それが余計に壁となって、僕と蔵馬さん達との距離を引き離してくれた。
友人帳。
数多の妖怪の名を記した冊子であり、それを持つ者はそこに名が書かれている妖怪を自由に従えることができる。ひょんなことから、僕はそれを持つに至り、僕は多くの妖怪と関わりをもつことになった。だけど、友人帳は利点を持つだけの優れた代物ではない。
妖怪を支配することができるというのは、妖怪からしても魅力的なものなのだ。実際に友人帳を持つことになってから、僕は野心を持つ悪い妖怪に狙われることになった。結果的に自分は無事ではいるものの、僕はそれによって命を脅かされたり、周りの皆に迷惑をかけたりしている。
そして今回引き起こされたバーンによる殺し合い。それももしたしたら僕が原因なのかもしれないのだ。だとしたら、僕は何と皆に詫びればいいのだろう。もう既に人の命は失われている状況だ。到底、謝罪の言葉だけ済むのものではない。生まれ出る怨嗟は、声となり、刃となり、容赦なく僕に突き刺さるだろう。
僕はそれが恐かったのだ。
ただ恐かったのだ。
「……夏目?」
蔵馬さんとユリアさんの声が、僕の耳に同時に響いた。目を向けてみると、こちらに心を配るような優しい眼差しがあった。どうやら僕のつまらない気持ちは、無様にも顔に出ていたらしい。
「心配いりません。大丈夫ですよ」
と、僕は笑顔を作って答えた。そして僕は静かにその言葉を心の中で反芻させた。
大丈夫。
そう、大丈夫にしなければならない。僕のせいで、こんな事態に多くの人を巻き込んでしまったのだ。それは現段階では単なる可能性の問題だけど、僕にはそれを否定するだけの御大層な自信はない。だからこそ、僕は皆を無事に元の世界に帰す義務があるのだ。それが僕のせめてもの贖罪。
ユリアさんは、か弱い女性で、八神はやてちゃんに至っては、年端もいかない小さな女の子だ。そして蔵馬さんも僕のようにか細い身体でしかない。勿論、僕も弱い人間だ。だけど、僕には妖モノを見て、多少なりとも抗える力がある。皆を守るためには、僕は一体どうしたらいいのだろうか。いや、何としても守らなければならない。
そのためにも、僕は力を! 力を手に入れる!
【一日目 早朝】
【現在地 C-3 病院】
【ユリア@北斗の拳】
【状態】顔がヒリヒリ
【装備】なし
【道具】武器支給品、ランダム支給品、支給品一式
【思考】
基本 殺し合いを止める
1. トキの凶行を止める
2.
ケンシロウに会いたい
【備考】
※
アミバをトキだと思っています
【蔵馬@幽遊白書】
【状態】健康
【装備】ローズウィップ@幽遊白書
【道具】ランダム支給品、支給品一式
【思考】
基本 とりあえずは情報を集め、現状を把握したい
1. 動けない人がいるし、病院で拠点作りかな?
2. 浦飯、桑原、幻海を探す
【備考】
※アミバをトキだと思っています
※北斗神拳についての知識を得ました
【
夏目貴志@夏目友人帳】
【状態】両腕の筋肉増大、両肩がボンッ
【装備】なし
【道具】なし
【思考】
基本 皆を元の世界に返す
1. 力が欲しい
【備考】
※アミバをトキだと思っています
※バトルロワイアルは自分のせいで開かれたと思っています
【八神はやて@魔法少女リリカルなのは A's】
【状態】睡眠、下半身麻痺??
【装備】闇の書@魔法少女リリカルなのは A's、アバンの書@DRAGON QUEST-ダイの大冒険
【道具】支給品一式
【思考】
基本 なるようにしか、なれへんやろ
1. すやすや……
【備考】
※DRAGON QUEST-ダイの大冒険における一般的な呪文と契約を行いました
※アミバをトキだと思っています
最終更新:2013年06月06日 23:55