それは死だ。
肩から腰にかけて、真魔剛竜剣の刃が綺麗に駆け抜け、レガートを切り裂く。そしてその身体に出来た隙間から、大地を穿つほどの強大な雷が入り込み、レガートの身体を内部から蹂躙する。その焼け焦げた内臓は、何よりもの死の証左。誰にもそのことは否定できない。その筈なのだ。
だけど、あろうことか、そこには厳然たる抗議が行われた。レガートという名の死体が動き出し、
バランの片目を抉ったのだ。視界の半分の喪失。いきなりのことにバランは当初、何が起こったのか理解できなかった。残った目でレガートが動き出しているのを目にしても、それを受け入れることができなかった。自らが誇る必殺の一撃が、確かな形で否定されたのだ。それを容易に認められるほど、バランの自負は小さなものではない。
勿論、それでも幾多の戦闘経験を積んできたバランが見せた驚愕と動揺は、一瞬のものだった。湧き出る感情一つ一つに振り回されていては、ろくに戦闘などできない。故に、その制御にも抜きん出たものがある。しかしさりとて、心を持つバランは、その精神の揺れを完璧に殺すことはできない。そして小波の如く僅かに揺れ動いた心の隙を突いて、レガートはバランの剣を奪い、それを突き刺したのだ。
バランの身体から鮮血が舞い散り、地面を染め上げる。レガートの動作に僅かな遅れもない。
流水のように淀みなく流れ、あるべきところに流れ着く。必然を感じさせるほどの自然な動作で、満身創痍のレガートはそれをやってのけのだ。
レガートの赤黒く焼け爛れた全身の皮膚からは、ジュクジュクとした体液が滴り落ち、炭化した内臓は欠片となって、次々と地面に零れ落ちていく。肉体の死は明らかなことだ。だけど、その程度のことでレガートの精神は、死など甘受できなかった。死に瀕する苦痛。それはナイブズという絶対者へ向けられた忠誠に比べれば、取るに足らない糞なのだ。だから、痛みに意を介している暇などないし、苦しみに息を喘ぐことすらも許されない。
レガートは崇高なる忠誠に基づいて、極めて機械的に作業を行った。単分子サイズの金属糸を一気に全身に張り巡らせ、無事な細胞全てを強制的に励起させる。脳内麻薬を分泌させ痛みを消し、残った筋繊維を無理矢理収縮させ身体を動かし、それでも足りない部分は、糸を代替として成り立たせる。それが可能かというのは問題ではない。やるのだ。やり遂げるのだ。でなければ、レガートの最も尊きナイブズへの忠誠に価値がなくなる。そしてレガートはそんな事実を決して受け入れない。
バランの口腔に、レガートは拳を叩き込んだ。バランの歯は折れ、腕は喉へ突き刺さる。バランの悶絶した様を、雷によって濁った水晶体に映しながら、レガートは真魔剛竜剣を引き抜いた。これより行われるのは処刑。ナイブズを殺すなどと妄言を吐いた輩への絶対なる誅罰である。レガートは全身全霊を込めて、その酷薄なる剣をバランの首に振り下ろした。
それは血だ。
地面が血に染まっていた。レガートは剣を振り下ろす瞬間、不意に目に入ったその事実を前にして僅かに首を傾げた。血の色が赤ではないのだ。月光に照らされいるからだろうか。処刑の作業中だというのに、妙に頭に絡みつく疑問を解決すべく、レガートはその血が流れる場所を辿っていった。地面に滴る血は上から落ち、その上にはバランがいた。そしてレガートがそれを理解した瞬間、目を剥いた。
バランの姿が変貌しているのだ。先程までは人の姿をしていたそれが、今は人とはかけ離れた容貌を呈している。身体は竜の鱗に覆われ、背中に魔族の翼を持つそれは、竜の騎士の最強戦闘形態(マックスバトルフォーム)――竜魔人。そしてその異様の実力を示すかのように、人知を超越したレガートの膂力によって振るわれたオリハルコン製の剣は、バランの首に傷一つ付けることができずに止まっていた。
ぐしゃり、と骨と肉とが潰れる音が聞こえた。剣を持つレガートの腕が、バランによって握りつぶされたのだ。更に間髪入れずに、バランの両腕が振るわれる。スピード、パワー共に人間形態時を超えたそれは、レガートの知覚すらも上回る。瞬く間にレガートの肺は砕かれ、腸はごっそりと削り取られた。そして止めを刺さんと、バランはレガートの頭に目掛けて一撃を放つ。
骨と肉がひしゃげた。レガートがバランの大振りになったパンチに合わせて、カウンターを仕掛けてきたのだ。しかし、ただの拳では竜魔人の竜闘気と鱗を貫くことなどはできやしない。ダメージを負ったのは、逆に攻撃をしたレガートの拳だった。毛ほどの痛みも感じなかったバランだが、飛び回る蝿はうっとおしいものだ。バランはすかさずレガートの両腕を掴み、それをもぎ取った。だけど、その行為は多大なる隙だと言わんばかりに、レガートの足が自らの腕を掴まれると同時に、バランの股間にへと向かった。
骨が砕ける嫌な音が響く。バランを蹴ったレガートの足は折れ、骨が肉を突き破り、外へと飛び出していた。既にその足は使えないことは明らかなことだが、バランはそこに情けなどかけなかった。レガートの腕をもぎ取った両腕を手刀にして、そのまま下に振り下ろす。直後、レガートの両足は血しぶきを上げて、地面に転がった。だけど、それがなんのその、次の瞬間にはレガートはバランの首に噛み付いていた。
この執拗なまでの戦闘行為は、最早狂的なものと言える。ただの人間が相手なら、それで十分に驚愕と恐怖を刻み付けることができただろう。しかし竜魔人となったバランは理性が薄れ、眼前の敵を殺すことのみに専心する殺人機械。バランは冷徹な眼差しのままレガートの首根っこを掴み、それを握りつぶしながら、無理矢理引き離した。そしてレガートの顔を目の前まで持ってくると、バランは竜闘気を込めた拳で思い切り殴り飛ばした。その攻撃には勿論耐えることなどできずに、レガートの顎は一瞬で弾け飛び、だらりと舌を伸ばしながら、後方へと吹っ飛んでいく。
それは戦慄だ。
両腕、両足は既になく、首を潰され、顎も壊されたというのに、レガートは再びバランに襲い掛かってきたのだ。自らの身体を金属糸で木の枝に吊るし、ターザンのように木々の間を飛び回りながら、糸で巧みに操った真魔剛竜剣で斬りつける。レガートの傷は人を殺すには十分なものだ。生きているはずがない。例え生きていたとしても、動けるはずがない。それなのにその攻撃は精緻を極め、速度にも翳りも見られない。そして何よりレガートの目は死を振り払うように爛々と輝き、バランを嬉々とした表情で凝視していた。
心が薄れたバランの中で、何かがざわめく。それと同時にバランの足は、僅かに後ろに下がっていた。殺せる気がしない。勝てる気がしない。どれだけ攻撃しても、どれだけダメージを与えても、闘いが終わる気がしない。レガートの異常な執念。それはバランの奥深く眠った心を呼び起こし、一つの感情を植えつけた。
ギリッ、とバランは奥歯を噛み締めた。後ろに下がる足を止めたのは、バランの矜持だ。竜の騎士が、竜魔人となっても尚、人間相手に勝利を掴めないなど、自ら強さを自負するバランには許せるものではない。そして何より息子ダイへの思いがあった。ここで逃亡を試みれば、その負債はダイが背負うことになるかもしれないのだ。そんなことは決してあってはならない。
レガートがどんな傷を負っても刃向かってくるというのなら、それを成す身体を消し飛ばせばいいこと。バランは依然と無駄な攻撃を重ねてくるレガートに向かって、極大真空呪文(バギクロス)を放った。空間を埋め尽くすほどのカマイタチと暴風がレガートに襲い掛かり、周囲にあった木ごと薙ぎ倒す。これでもうレガートは木を使っての素早い移動はできない。そして案山子となった彼に向かって、バランを両手を上下に組み合わせて、前に掲げた。
それは竜の顎門(あぎと)だ。
バランの両手が竜の頭をかたどっているのだ。それこそバランが竜魔人になった時に放つことができる最強の呪文――竜闘気砲呪文(ドルオーラ)の発動態勢。全ての竜闘気を魔法力で両手に圧縮させて解き放つその威力は絶大。国すら消し飛ばすと言う。そしてバランはその国をも粉砕する呪文を、たった一人の人間に向けて解き放った。
強大な光がレガートを一瞬で飲み込み、島を駆け抜けた。ドルオーラはレガートを消すだけでは飽き足らず、バランの目の前にあった木と大地も塵に変え、その先の海を割り、水平線にまで突き進んでいったのだ。島の一部は抉り取られたかのように穴ができ、この世から消えた。そしてその穴を埋めるかのように、海水が波となって押し寄せる。しばらくその音に耳を傾けて、バランは人間形態に戻り、ようやく大地に腰を下ろすことができた。レガートの気配が完全に消えたことを確認できたのだ。バランそのことに殊更安堵の息を漏らしてみせる。それほどの安心感をバランはレガートのいなくなった今に感じることができたのだ。
とはいえ、バランの先行きは明るいものではなかった。全身の打撲に始まり、片目の損失、歯の欠損、喉の殴打、腹の刺し傷、そしてドルオーラを放った瞬間に飛んできた剣による首の切り傷。どれも命に関わるものではないが、重傷であることに変わりはない。更に連続した呪文の行使による魔法力とドルオーラの代償としての竜闘気の著しい減少。傷、魔法力、竜闘気が回復するまで、戦闘は望めない。
それは死だ。
意識だけが残り、身体が全く言うことを聞かない。そして黒髪の青年――
道下正樹の手は震えながらも、しっかりと鎧の魔槍を振り下ろす。青天の霹靂というのは言い過ぎで、これは単なる自らの迂闊さだ。バランは目の前の光景を見て、自嘲した。這這の体でいたところに、道下が怯えながらも声を掛けてきて、治療の申し出を行ってきたのだ。自分は人間の味方ではない。従って、人間の施しは受けない。当初、バランはそんな風に構えて、道下を眼光だけで射竦めた。しかし腰を抜かしても、道下は必死にバランに食い下がってきたのだ。そのことにバランは、ほんの少しだけほだされる。
バランはかつて息子との闘いで、人間の絆が生む力、人間の心の尊さを、理解した。この男の行為も、きっとその人間の心が生み出したものだろう。その結論に達すると、バランは警戒を緩めてしまった。人間の心に敗北したバランには、その強さを知っている故に、それに抗える術を、どうしても持てなかったのだ。そして治療と称されたワムズの毒は、道下の手によってバランの身体に注入された。
レガートとバランの闘い。人知を超えた強さ。それを目の当たりにした道下に訪れたのは恐怖だった。人では勝てない、人では殺されてしまう。それを絶対的な真理として植えつけられた道下は、それ故に恐怖を克服し、奮起した。
阿部高和という道下にとって掛け替えのない人に死が訪れるというのなら、道下の決意はより固くなっていくのだ。他に誰よりも、他の何よりも。
そしてそれは愛だった。
【レガート・ブルーサマーズ@トライガン・マキシマム 死亡】
【バラン@DRAGON QUEST-ダイの大冒険 死亡】
【一日目 黎明】
【現在地 D-6】
【道下正樹@くそみそテクニック】
【状態】健康
【装備】鎧の魔槍@DRAGON QUEST-ダイの大冒険
【道具】ワムズの毒(注射器×2)@トライガン・マキシマム、ランダム支給品、支給品一式×2
【思考】
基本 阿部高和を最後の一人にさせる
1. 阿部さん……
2. 阿部さん…………
3. うほ
【備考】
※レガートの支給品はドルオーラで消え去りました
※マップのD-6、D-7、D-8の大部分はドルオーラで吹き飛びました
※真魔剛竜剣@DRAGON QUEST-ダイの大冒険はD-6のどこかに吹っ飛びました
【支給品説明】
人類が大墜落する前からノーマンズ・ランドに生息していた「砂蟲(ワムズ)」が作り出した神経毒。この毒に侵されると、意識は残るが行動不能状態に陥る。注射器の形で支給。3本セット。
ロン・ベルク作の槍にして「不滅の武具」。「鎧化(アムド)」の声に反応して装着者を覆う鎧と化す。槍は伸縮させることが出来るので、縮めた状態で左手の盾に装着することによって持ち歩ける。全身のパーツに様々な武器(胸鎧にナイフ、右腕の手甲、両膝の突起、左腕の楯と兼用のブーメラン)が仕込まれている。また、軽装ゆえに鎧の魔剣より防御性で劣る反面、機動性で勝る。電撃系呪文を除き、攻撃呪文が通用しない。
最終更新:2012年09月08日 02:44