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吸血鬼アーカードはいまだかつてないほどの笑みを浮かべた。目の前にあの北斗神拳のトキがいるのだ。あのシュウでさえ、一目置いていたトキが。それが与える感動はアーカードの闘争心を滾らせてやまない。


「ああ、まったく何て素敵な夜だ。こんなにも早く貴様と会えるとはな……北斗神拳のトキよ」

「この俺を天才と死って尚、挑みかかるとはな。おまえのバカさ加減には、ほとほと呆れる」


トキの名前を肯定する答えを聞いて、アーカードはいよいよその顔を愉悦で膨らませた。そしてそれは同時に闘争の開始をも意味する。アーカードは滑らか動作でジャッカルを取り出し、朝の挨拶のように気軽にその引き金を引いた。銃口から吐き出された13mm炸裂徹鋼弾が空気を切り裂き、アミバに迫る。しかしアミバはそれを首を軽く捻るだけでかわし、瞬時にアーカードの懐に詰め寄った。


「今のおれの機嫌が悪い。楽に死ねると思うなよ」


アミバはアーカードを抱き込むようにして、彼の背中を指で突き立てた。深々と突き刺さる指は、傷の深さを証明するものではあるが、それ自体が死に繋がるものでもない。だがアミバは、そこから追撃などはせずに、ゆっくりと後ろに下がり、アーカードの表情を窺った。その闘争とは似つかない様子にアーカードはいぶかしむ。


「何だ、何のつもりだ、トキよ。まさかこれで終わりと言うわけではあるまい?」

「フフフ、戦癰(せんよう)という秘孔を突いた。これでおまえはもう指一本と動かすことはできまい。クククク」


嗜虐的な笑みを浮かべて、アミバはアーカードをなじる。しかし、アーカードはそれに恐怖のおくび一つ出さず、それどころか期待に満ちた瞳でアミバを見つめた。


「ほう、それでどうするのだ?」

「バカめ! こうするのだ!!」


アミバは飛影から受けた屈辱をここで晴らすかのように、拳でアーカードを首を強制的に左右に振らしていった。アーカードの鼻と口からは血が飛び出し、顔の形は歪なものとなっていく。しかし、そこでアミバは僅かに手を緩めることもなく、逆にこれでもかとリズムを上げていった。そしてそれはついに奥義となってアーカードに炸裂する。


「フハハハハハハハハハハッ!! 北斗百裂拳ッ!!」


力と技巧を入念に込めたアミバの拳が、百もの固まりになって、アーカードに襲い掛かった。
奥義の極みとも言われる必殺の秘孔は余すところなく突かれ、それだけでは尚足らないとアミバの拳は暴虐となってアーカードに打ちつけられる。その威力は、まさに最強の拳法の名を語るに相応しいものだ。ありあまるダメージにより、アーカードは堪らず身体中から血を噴き出しながら、後ろに吹っ飛んでいったほどだ。そしてそれを確認すると、ようやくアミバの眉間から皺が消えた。反撃一つ出来ずに打ち倒れたアーカードの無様な姿に、アミバは一つ溜飲を下げたのだ。


「天才に刃向かうから、こうなるのだ。次はもう少しお利口になって、生まれてくるがいい」

「素晴らしい。さすがはトキだ!」


アミバが余裕をもって微笑を浮かべているところに、アーカードはむくりと起き上がって、アミバに心からの賛辞を送った。その有り得ない事態に、アミバは驚愕の色を、その目に映す。


「バ、バカな!? 何故動ける!? いや、その前に何故生きている!!?」

「簡単なことだ。私は吸血鬼。吸血鬼を殺すには、この心臓を狙わなければならない」


シュウと対峙した時のように、アーカードは再び己の弱点を指差す。その告白が事実かどうかは、アミバにとっては定かではない。しかしアミバの返答は、そんなことで煩うことのない実に苛烈なものだった。


「はあッ!!」


アミバは素早く間合いを詰めて、再び攻撃を加えてきたのだ。アミバの掛け声と共に放たれた指突は、アーカードの両肩に突き刺さる。攻撃箇所といい、攻撃方法といい、普通なら、それは恐れるに足らない。子どもの遊戯みたいなものだ。しかし、シュウの記憶を読み取ったアーカードは、その脅威を容易く看破してみせた。


「……秘孔か!?」

「フフフ、そうだ! 激振孔を突いた! この秘孔は心臓の運動を急激に増加させる! 血管すら破るほどにな!」


アミバは死の宣告を嘲笑と共に告げた。相手が何者であろうと構わない。これでアーカードの死は決定した。だが、不思議といつまで経っても、その時はやってこなかった。そのことにアミバは再度の驚きを示す。


「た、確かに秘孔を突いたはず! この天才が、間違えるはずがない!」

「……どうやら吸血鬼に秘孔は利かないようだな。残念だ。その秘孔とやらの威力を味わってみたかったが…………まあ、いい。今度はこちらが攻撃をする番だ!!」


アーカードは目の前で頭を抱えてうろたえるアミバに向けて、手刀を袈裟切りで放った。吸血鬼の力を秘めたそれは、まさしく破壊の化身。その証拠に、手刀がぶつかった大地には深い陥没が出来上がった。だけど、その攻撃をアミバは寸前で後方に跳んで華麗に回避。更にアミバは先程の狼狽をよそに、そこから鮮やかに反撃へと繋げていった。


「鷹爪三角脚!!」


後ろにあった木を蹴り、その反動で飛び蹴りの威力と速度を上乗せする南斗聖拳の技。内部破壊を旨とする北斗神拳が通用しないと見るや否や、アミバは外部破壊を旨とする拳法へと攻撃手段を変えたのだ。瞬時に有効な攻撃方法を選び取れるのは、まさに秀でた才を示すもの。流星の如く煌くアミバの蹴りは、アーカードの身体を文字通り貫いた。


「グハァッッ……!!」


大量の血がアーカードの口からこぼれ出した。心臓を狙った蹴りは、アーカードが攻撃が当たる直前に身体を捻ったせいか僅かに逸れたが、それでも与えたダメージは大きい。致命傷と判断するには十分なものだ。だけど白星を悠々と掲げるアミバに対して、アーカードは血を吐き出しながらも、それを否定する実に嬉しそうな笑みを送ってきた。一体何だ。この状況は瀕死の人間が笑うところではない。アミバの胸中に疑問がひしめく。だけど、アーカードがにこやかに見せた白い歯の意味を理解するのに、そう時間はかからなかった。何故なら次の瞬間、アーカードの大きく振りかぶった右腕が、アミバの顔面を殴りぬけたのだから。


「うわらばっ!」


アーカードの痛烈な反撃により、アミバはのた打ち回りながら地面を転がっていった。それでも北斗神拳の伝承者ケンシロウを亡き者せんとした男アミバである。吸血鬼の力を喰らっても、五体満足でそれをやり過ごした。とはいえ、さすがのアミバもそのことを自画自賛している余裕はなかった。内部破壊ではなく、目で分かる外部破壊でアーカードに決定的な傷を負わせたのだ。それでも尚、生きているなど、天才である自分の知識の内にはない。そう、有り得ないことなのだ。その驚愕はアミバの顔を水を浴びた絵のように歪ませた。


「まさか……本当に吸血鬼だというのか?」


嘘であってほしい。アミバはそう思いながら、アーカードが嘯いた言葉を確認するように恐る恐る訊ねてみた。それに対してアーカードは再生する傷を見せて、笑顔で肯定。そしてアーカードはおもむろに両手を前に掲げて、人差し指と親指で四角形を作ってみせた。


「素晴らしい。さすがはトキだ。さすがは北斗神拳だ。殺すつもりで殴ったのだが、まるで痛痒としていない。やはり貴様はカテゴリーA以上の強さだ。故に拘束制御術式『クロムウェル』――第3号第2号第1号を開放する」

「な、何だ? 何を言っている!?」

「さあ……闘争の始まりだ」


アーカードは目を爛々と輝かせ、口角を吊り上げ、アミバに告げた。それが意味するところは、アーカードの真なる力の解放だ。直後、アーカードの身体から解き放たれたのは、闇に染まった無数の獣と虫。悪寒を生じさせるような醜い使い魔の群れが、瞬く間に空間を覆いつくしてアミバを襲っていく。その常軌を逸した攻撃に、アミバの頭の中は一瞬で恐怖で埋め尽くされた。それやまるでラオウと対峙した時のような感覚。しかし、そこにあるのはラオウとは別種の戦慄。個人ではなく、人間という種に警鐘を鳴らせるような広く濁った絶望感。それに対してアミバの天才としての自負は一瞬たりとも張り合おうとはしなかった。寧ろ、己が誇る才が勧めてきたのは、アーカードから逃亡だ。そして自分に何の疑いも持っていないアミバは恥じ入ることなく、すぐさま踵を返して逃げ出した。


アミバの肉体をもってすれば、何里もの距離を息を乱さずに駆け抜けることができる。だが、今のアミバの呼吸は乱れに乱れ、足も無様にもつれ、拳法家としての威容は微塵も窺えない。
恐いのだ。恐怖がアミバの身体を縛りつけ、修練の成果を貶める。そしてその逃亡の終わりは、残酷な形でアミバに知らされた。アーカードの銃撃がアミバの足を貫き、もぎ取ってしまったのだ。更に地面に転がったアミバに向かって、暗闇に染まった虫と獣が群がり、アミバの血肉を貪っていく。


「ひ、ひぃッ!」


痛みなど感じる暇はなかった。見たこともないおぞましい生き物が自分の上を這いずり回り、自分の身体を食べていっているのだ。その凄惨な光景、その悲惨な感触は、痛み以上に恐怖を喚起させた。食べられる。その事実を前にして、一体誰が理性を保つことができようか。逃げるという考えは、アミバにはもうなかった。そんなことを頭に巡らす余裕すらないのだ。ただアミバは必死に身体を捩じらせて、纏わりつく黒い獣と虫を追い払うだけ。それは泣き喚く子どものように、情けない姿だった。しかし、アーカードはそんなアミバの前に立ち、歓喜を込めて告げる。


「どうした? まだ足が一本ちぎれただけだぞ、かかってこい!! 南斗白鷺拳のシュウは手足をもがれても立ち向かってきたぞ!! さあ、北斗神拳の技を見せてみろ!! 秘孔を突け!! 己の潜在能力を解放しろ!! 奥義を使え!! 南斗聖拳を超える北斗神拳はこんなもじゃないはずだ!! さあ、夜はこれからだ!! お楽しみはこれからだ!! 早く(ハリー)! 早く早く(ハリーハリー)!! 早く早く早く(ハリーハリーハリー)!!」


アミバが見せる醜態を目にしても、アーカードは期待を眼差しを向けて止まなかった。トキはシュウすらも認めるほどの傑物なのだ。最強の拳法を身に付け、愛によって人に医術を施す天才。そのトキが化物を前にして、これしきで終わるはずもない。この程度で屈服するはずもない。アーカードの中には一つの確信として、それがあった。だから、アミバから発せられた言葉にアーカードは誰よりも失望を感じてしまった。


「よっ、よ、寄るな!! ばッ…ば、ばッ、化物め!!」 

「……そうか、貴様もそうなのか。小僧……出来損ないのくだらない生きものめ」


アーカードは強く歯軋りをした。これは絶大なる裏切りだ。トキこそ、人間として化物である自分を殺してくれると、アーカードは心の底から信じていたのだ。それなのに肝心のトキは恐怖に縛られ、逃げようとしている。目の前に化物がいるのなら、命を惜しむのではなく、逆に命を賭してそれを倒すべきなのだ。シュウのように、あの男たちのように……。だが、今ここにいるのは、怯えて震えるだけの負け犬。そんな奴など、闘う価値も、殺してやる価値もない。


「糞だ! 貴様はまるで糞だ! 犬の糞になってしまえ!」


その言葉と同時にアーカードが生み出した闇は一斉にアミバに襲い掛かった。


「う、あい、う、うお、うあおお、ああ、あああ、ゴギャ、おごッ、げア…ッ」


黒犬獣(バスカヴィル)が、アミバの肉を喰らう横でアーカードは溜息を吐いた。トキとの闘争は、この場で最も望んでいたものの一つだ。シュウの記憶より見られたトキの強さ、志、どれをとっても非の打ち所はなかったはず。しかし、実際にアーカードが見せられたのは、単なる茶番でしかない。そのことにアーカードは、ひどく落胆を感じずにはいられなかった。


「……興が削がれてしまったな」


アーカードはジャッカルの残弾を確認して、地図を広げた。向かうべきは、弾薬庫。冷めたパーティーを今一度盛り上げるには、それなりの準備が必要だ。他にもまだメインディッシュは残っているさなかで、閉会はない。させてはならない。こんなクソがデザートで終わりなど、悪ふざけもいい所だ。まだまだ皿を漁る時間はある。夜はこれからなのだ。



【アミバ@北斗の拳 死亡】



【一日目 黎明】
【現在地 C-4】
【アーカード@ヘルシング】
【状態】健康、落胆
【装備】ジャッカル@ヘルシング(残弾 1/6)
【道具】ミカエルの眼の再生薬×3@トライガン・マキシマム、武器支給品×3、ランダム支給品×2、支給品一式×4
【思考】
 基本 インテグラの命令がくるまで全力で闘争を楽しむ
 1. 弾薬を手に入れる
 2. 次の敵を探す
 3. インテグラを……
【備考】
※北斗の拳の世界観を知りましたが、どうでもいいと思っています
※シュウの知識(北斗の兄弟、南斗六聖拳のこと)を得ました。
※今はインテグラより闘争の方に心が傾いています
※アミバをトキだと思っています



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05:All I Wanna Do Is BANG BANG BANG BANG! アーカード :[[]]
31:Don't Cry アミバ Game Over



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最終更新:2012年02月27日 02:22