Chaosmode -第十一章-自業自得
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「うぅー・・・」
煉はソファーで横たわっている。 「良かったー、ただの貧血で・・・」 「良くはねぇだろ・・・」 「まぁまぁ、ほら、朝御飯食べなさいよ」 「まぁ普通にパンと目玉焼きか・・・」 煉はソファーから起き上がり、座りながらパンを口に入れる。 「朝御飯っていったらあんまり種類ないでしょ・・・。」 「まぁ味も普通ですね」 と味の感想を適当に言いながら、煉はパンをもぐもぐと頬張る。 「そりゃね・・・」 つけているテレビでは朝によくやってるニュース番組がやっている。 「・・・行方不明ねぇ・・・」 煉がテレビを見て呟く。 「・・・?どしたの?」 そんな煉の呟きを聞くと凛音はそう聞く。 「いや、さ、行方不明とは結構違うけどさ、神隠し、ってあるじゃん?」 「うん」 「あれも『混沌空間』が関係してるのかな?って、ふと思っただけ」 「うーん・・・。案外そうなんじゃない?いつから『混沌空間』があるのかは分からないけど・・・」 「へ?『混沌空間』って最初からあったわけじゃねぇの?」 「それが分からないんだよね・・・。私が能力得たのも一ヶ月ちょい前だし・・・」 「それはただ能力を得たのが一ヶ月ちょい前ってだけで、『混沌空間』自体は前からあったんじゃねぇの?」 「うーん・・・。私も情報源はあの人と自分で得た知識だけだし・・・。まぁ気にしなくてもいいんじゃない?」 「まぁ・・・そうかな・・・」 煉はそう言いつつ、どこかに不安を感じていた。 「それより、そろそろ、あんたも着替えた方がいいんじゃないの?」 凛音は煉の服を指差しながら言う。 「あぁ。そうだな」 「じゃんけんぽん!」 「え?へ、あ?」 煉は凛音の放った言葉に反応して、手が勝手にグーの形を作って出してしまう。 「ふふふ、私の勝ちだねっ」 「えっと、話が見えません」 と言いつつ、煉は冷や汗をかく。 「私もあんたの何十倍もじゃんけん勝ってるし、願い聞いてもらってもいいよね?」 笑顔で凛音は言う。どこか黒いものを感じるが。 「えっと・・・、やな予感しかないんだけど・・・」 ははは・・・と軽く笑いながら煉は言う。 「とりゃーっ!」 「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」
* * *
「その対策、仮定多すぎですよ・・・」
はぁ、とNo.22は溜息をつく。 「え?まじか?結構いい策だと思ったんだけどなぁ」 「まぁ、確かに採用できる部分はありますけれども・・・」 「じゃぁこれを基盤で作戦作ってくれよ!」 「めんどくさいです・・・。というより、No.38さんの協力も得なきゃいけませんし・・・」 「えー、そんなこと言わずに作ってくれよー」 「はぁ・・・。仕方ないですね・・・。No.38さんと会話する時は来てくださいよ?」 「おおう、やってくれるのか。出来のいい部下を持って幸せだぜ!」 「部下じゃないですよ・・・」 はぁ、ともう一度No.22はため息をつく。 「何だかこの仕事楽なのか分からなくなってきましたよ・・・」
* * *
「お願いですから着替えさせてください、凛音さん。恥ずすぎます・・・」
「やっぱ似合うね!まぁ今は女の子だしね!」 「うぅ・・・俺のが年上なのに・・・」 煉はそう言いながら涙目でうなだれる。 「じゃぁ今日は一日中それで!」 「ぇぇぇぇええええええええええっぇぇ!?」 凛音の思わぬ発言に煉は叫ぶ。 「ちょっ・・・冗談ですよね?」 「冗談じゃないよ?」 笑顔で凛音は答える。 「うぅ・・・ひでぇ・・・」 「まぁまぁ、ほら自分でも見てみなよー」 そう言って煉を洗面所の鏡まで押していく。 「わわっ、落ち着けって」 鏡の前まで行くと、煉は鏡の中の自分と目が合う。 「ほらー?どう?」 (そういや、この状態の自分を良く見たことはなかったな・・・。うーん、普通に可愛い・・・か?あれ?自画自賛?あーもう何だよこの混沌状況!) 頭をガーッとやっているとそれを見ていた凛音が 「・・・?大丈夫?」 「あ、いや、うん、大丈夫だ」 「にしても、やっぱり似合ってるねー」 そう聞いた煉は凛音をこづく。 「もー、似合ってるんだし怒ることないじゃん。それより昼ご飯とかどうするの?」 「そういや何もねーよ・・・」 と、そこで煉は一つ思ったのか、こう切り出す。 「材料とか買ってくるから着替えさせてく・・・」 「じゃぁ一緒に行こ?」 その言葉に煉の体は硬直した。 「なんか・・・暴走してません?」 「そんなことないよ。ふつー、ふつー。」 凛音は笑っていたが、煉には暴走しているようにしか見えなかった。 「混沌すぎるぜ・・・」
* * *
「煉ー、そんなビクビクしてないで早く行こうよー」
「うぅー・・・。だって恥ずいし、友達とかに見られたりしたらどうすんだよ・・・」 「大丈夫、大丈夫。ばれないって。たぶん。」 「たぶんっておい・・・」 「まぁいいじゃん。早く行こっ」 「ちょ、まっ、引っ張るなっ、しかもちょっと歩くの速くないすかっ」 凛音は煉を塀の陰から袖を掴んで引っ張り出すと走り出す。 (何かハイテンションだな・・・) そう思いながら煉は溜め息をつく。 (でも・・・) 煉は楽しそうな凛音の顔を見て、 (まぁいっか・・・) と思いながら軽く笑みを浮かべる。 「この格好はねぇけど・・・」 煉がぼそっと呟いた。 「ん?どうかしたの?」 「いや、なんでも」
* * *
「さてと、早く済まして帰ろうぜ」
「何か急いでない?」 「そりゃな・・・お前この格好のままで俺がずっといたいと思ってるとでも?」 「うーん、少しくらいは」 「少しもねぇよ!てかマジで知り合いとかに会ったりすると色々とヤバイから早くしようぜ・・・」 「ふふ、はいはい。分かったって」 「本当に分かってんのかよ・・・」 はぁ、ともう一度煉は溜め息をつく。溜め息をつくと寿命が縮まるとか聞くが、この際どうでもいい。 と、スーパーに入った途端、 「あれ?凛音?かな?」 と誰かが凛音を呼んだ声がしたのでビクッと煉は反応する。 「あれ?春?」 「奇遇だねー、こんなところで会うなんてー」 春はそう言うと凛音の元へ来る。 「休校で会えてなかったからねー、まさかこんなとこで会うなんてね」 「そうだねー、ところでその人だれー?」 話を振られるとは思ってもなかった煉は焦る。 「え、えーっと・・・ひれ・・・じゃなくてレン先輩だよ!」 (レンって適当ってか安直だな、おい) 煉はそう思ったが、ツッコむわけにも行かない。 「こ、こんにちは」 結局普通に返すことにした。 「こんにちはー」 春はしばらくじーっと煉を見ると、凛音に近づいてひそひそ話をし始める。 もちろん煉には聞こえていない。 春は少し話をすると、 「じゃぁ、また学校でね!いつになるかはわかんないけど・・・」 と帰っていった。 「休校だもんなー」 そんな春を見て煉は呟いた。 「うん・・・そうだね・・・」 と、凛音が微妙に寂しそうな顔をしたので、煉は慌てて、口を開いた。 「あ、も、もう早く買って帰ろうぜ、マジで他の誰かに見つかったら困るし」 「あ、うん」
* * *
「凛音」
「ど、どしたのいきなり」 煉は夕飯を食べ終わるなり立ち上がって真剣な表情で凛音に話しかけた。 (な、何いきなり!) 「疲れたから早いけど寝る!後片付け頼んだ!」 「あ・・・うん」 「おぉ、じゃぁマジで疲れたんで寝ます。おやすみ」 「うん、おやすみ」 (すんなり承諾してくれたけど何だか微妙に不機嫌そうに見えたのは気のせいか?) 階段を上りつつさっきの凛音の表情を思い出す。 「まーいいか、こんな混沌とした体力じゃ死にます死ぬ死ぬ」 * *
「んぁー良く寝た」
時計を見ると午前八時。 着替えて部屋を出ると、凛音(が使っている部屋)が開いている。 「ん?もう起きてるのか」 そう思って階段を下りるがいない。 その代わりテーブルの上に書置きがあった 『今日は学校あるそうです。(By連絡網)少し起こしたけど起きなかったんで自業自得』 その紙を見て煉はしばらく固まった。 「ってぇぇぇっぇえええ!?」 叫びつつ身を翻して階段を駆け上がる。 「ちっくしょぉぉ!何でこういう時に起きねぇんだよ俺!!」 さっき着たばっかの服を一気に脱ぎ捨て、掛けてあった制服に手を伸ばす。 「てか何だよ少し起こすって!?殴ってでもいいから起こしてほしかった!居候の身だろアイツ!?やっぱ何か怒ってんの!?」 答えが返ってくるはずもなく、一人しかいない家で煉はむなしく叫ぶ。 「あー!混沌すぎる!」 煉はそう叫んで勢い良く玄関を開けて飛び出て行った。 |
Chaosmode -第十二章- 元凶 途中
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『セーフですよね!?』
全力疾走で学校まで辿り着き、チャイムが鳴り始めると同時くらいに教室に入った煉はそう言ったが、教壇に立つ担任に普通に『アウト』と言われ思いきし萎えた。 「走ってくるんじゃなかった……」 走ってきたからやけに息が荒い。でも遅刻。 どうせ遅刻なら歩いてきても変わらねーだろ!というのが煉のどうしようも無い考えだった。 傍目で出席簿にチェックを入れる担任を見つつ、溜め息をついてから席に着く。 (あー、てか朝に体戻ってて良かった。女の体で走ったらたぶん死んでた。いや、たぶんってか絶対死んでた) 「というわけで今日の一時間目は放送による朝会になるから」 担任がそう言うと、よしっ!とか言う声がそこらから机に突っ伏す煉の耳へと聞こえてきた。
* * *
「あー、朝会になんのか、めんどいよーな良かったような」
遅刻したことで短くなったHRが終わり、俺は突っ伏していた机から微妙に顔を上げる。 「お前が遅刻とか珍しいな。欠席は最近あったけど。てか今までに無ぇんじゃねぇのか?遅刻」 左から聞こえてきたいつもの声に反応して視線を移すと案の定、隼が立っていた。 「あー、無ぇかもな。正直いつもすげー早く来てる気がするし」 「確かにな。正直勉強してるわけでも無いし無駄だな。」 「そう言うなよ……」 煉が乾いた笑いを漏らしつつ、そう返すと、隼は何かを思い出したかのように手をポンッと叩くとこう言った。 「そういえば聞きたかったんだけど、昨日連絡網でお前に回したら女の子出たんだけど誰だ?」 「は?」 俺は隼の言ったことをもう一度脳内で反復し、内容を確認する。 「あー……いや……」 俺の脳内で色々言い訳候補が挙がっては消えていく。 生き別れた妹とかいうふざけた答えも上がっていったが―― 「幼馴染だよ。うん」 結局残った唯一まともな考えがそれだった。 「幼馴染ってお前あんな時間に……フラグ立ってんの?」 「いやいやいや無いから。どーしてそーなる」 「いや、だってお前ん家普段お前しかいねーじゃん」 「いや、ただちょっと寄ってきてくれただけでそーいうのはありません」 「馬鹿な……何故あんな時間に」 「あーもうその話はどーでもいーだろーが。」 (危ねぇ……連絡網の一番最後に当たってて良かった。凛音がさらに回してたらどうなっていたか……) 「あー、お前がそこまで言うならこの件はそこまで詮索しねーよ。んで、今回の休校の原因になった地盤沈下?とかなんだったんだろうな?」 「さ、さぁな?そういや今グラウンドどうなってんだ?朝は走ってて見向きもしてないんだが」 「窓から見ろよ。一応綺麗に整備されてるようには見えるけど一部にコーンが立ってたりする状態。おかげで部活動も制限だぜ」 「いいじゃん別に。部活とかめんどいだろ?」 「まぁめんどいと感じる時もあるけど、逆に楽しい時もあるからな。人それぞれだろ」 「……なんかお前がまともなこと言ってるの珍しいな」 「ひでーなおい!」 隼が嘆きの声を上げたところで丁度短い休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴ったのであった。
* * *
『―――今回の地盤沈下は小規模の地殻変動によるものだと推測されています』
(地殻変動じゃねーんだけどなー……) 机にだらーんと腕を伸ばしながら長ったるい放送を聞いていた煉は脳内でそうツッコミを入れた。 (結局あいつ逃がしちゃっぽいんだよなー、つかあの状況で俺どうやって助かったのかうっすらとしか覚えて無いのだけれども) 煉はあの時、明らかに右腕に風穴が空いていたことなどは覚えているが、なぜ現在無傷であるのかは全く分かっていない。というか思い出すと痛々しいのであまり思い出したくも無い。というのもかなりある。 『―――また、今日で試験一週間前なので勉強を怠らないように』 放送がこう流れた途端、クラスのところどころから「初耳だー」などと言った冗談が出てくる。 この小さなざわめきに煉の思考は一気に切り替わった。 (ってやべぇ! 勉強とかしてねぇ!) 放送が終わった後も煉は試験への一抹の不安ばかりが沸き出てくるのであった。 不安ばかり出たところで結局勉強しないのだが。
* * *
「あーやべーよ、流石に今回は勉強しねーとまずいかなー」
一人の帰り道で煉はそう呟く。そんな時だった。 「っ!?」 煉は後ろから何かを感じ取って振り向いた。この感覚は最初に混沌空間に気づいた時と似た感覚。 まるでそこに何かがいたような。 そんな感覚だった。 「……もしかして……」 煉は何かを感じ取った方向へ歩き出す。そしてー―。 「やっぱりか」 数歩歩いた先には案の定混沌空間への入り口があった。 「てか何で俺は毎回毎回入っちまうんだよ。特に何も起きてねーんだから入らなくていいじゃん! 馬鹿か俺!」 「ようこそ、『紅剣使い』」 横から聞こえた声に煉が振り向くと、そこに居たのは二人の男――No.91とNo.22である。 「あ」 「あ」 煉とNo.22は顔を見合わせると同じ反応をした。 そう、二人は一回面識がある。煉が副作用で女体化している時ではあるが。 「どうした? No.22」 「いや……これは非常に興味深い副作用だな、と」 「っ!」 (やっぱ一瞬でばれたか……) 「まさか本当にあなたの言う通り『紅剣使い』だったとは……」 「なんか言ったっけか」 「覚えてないなら別にいいです」 「そうしてくれ、せっかくの計画に狂いが出ちゃったりするかもしれないからな。さて……」 「やりますか」 No.91とNo.22の視線が鋭くなる。 (やっぱ敵……だよなぁ……仕方ねぇか……) 煉は仕方なく臨戦態勢になり、構えた。 「えーっと、あったあった」 No.91が懐から四角い何かを取り出す。 「鉄……?」 「残念、これは鉄じゃない」 そう言いながらNo.91が右手に持ったそれに力を込める。すると一瞬にして膨大な量の煙が発生した。 「っ!?」 煉がそれに即座に反応し、後ろへ後ずさる。 (やべぇ! 毒ガスか何かか!? 少し吸っちまったっ) 「亜鉛だ」 「!?」 |
Chaosmode(カオスモード)-番外編- あの人
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何ら変哲の無い平凡な学校生活。
「じゃぁ凛音ーまた来週ー」 「うん、またねー春ー」 如月凛音(きさらぎりんね)――十四歳。つまり中二。 鳳邦中高に入ってまだ一年弱。 中一ではトップクラスの成績で上がり、綺麗な赤髪で有名だった。 新たなクラスになってもうすぐ一ヶ月――やっと知らないメンバーがいるクラスに慣れはじめるこの時期に、凛音の平凡な学園生活は混沌へと変わっていくのだった。
* * *
いつもの帰り道。春は部活があるので、今日は一人で帰ることになる。
(明日は休日かー何して過ごそうかなー) そんなことを考えていた凛音はふと朝との違いに気づく。 「亀裂・・・?」 道路の亀裂―――というかこのレベルだとひび割れといえるだろう。 「まさかいきなり崩れたり・・・なんて」 そんな物騒なことを考えつつもあまり取り留めもせず歩きだす。 と、その瞬間、謎の感覚に襲われる。 ――え、まさか本当に崩れ―― てはいなかった。 が、凛音はその場でよろめいて転んでしまう。 「ってて、もー何なの」 と、凛音が立ち上がるのもつかの間、前方から男が一人走ってきた。 「!?・・・ちっ」 男は凛音の存在に気づくと、一気に殴り掛かってくる。 「うらあああぁ!」 「!?、きっ、きゃぁぁぁ!」 凛音は本能的に顔を腕で庇うとともに――― 右手を前にだしていた。 いつまで経っても衝撃は来ない。 凛音がゆっくりと目を開けると、目の前には殴り掛かってきた男の方が倒れていた。 何が何やらさっぱりな凛音の元に声が飛んでくる。 「うお、誰だか知らないけどナイスナイス。って、学生!?」 二十歳くらいの長い黒髪を首あたりで縛った背の高い女性だった。 「?」 凛音は疑問符を顔に浮かべている。 何がナイスなのか、何故学生ということを驚いているのか、全く理解ができていなかった。 そんな凛音の状況を把握したのか、女性は倒れた男の近くに座ると、凛音の眼前に手で目隠しをするようにしてこう言う。 「目を閉じてたほうがいい」 「ぇ?は、はい」 凛音はとりあえず目を閉じた。 そして数秒も経たない内に、 「はい、もういいよ」 と女性は言った。 凛音が恐る恐る目を開けると、さっきまで倒れていたはずの男の姿は消えていた。 「あ、あれ?」 男は一体どこに消えたのか。探すように凛音は周りをキョロキョロと見る。 女性はその様子を見ると、立ち上がり凛音にこう言った。 「とりあえず、ここは危険だからこっち来なさい。色々教えてあげるから」 凛音は何が危険なのか、何を教えるのか、全く分からなかったが、とりあえず相槌をうって、女性についていくことにした。
* * *
「――とゆーわけ。分かったかい?お嬢ちゃん」
「あ、はい、大体分かったんですけど、こうやって人の家勝手に入っちゃってもいいんですか・・・?」 「はは、大丈夫だって、いくらこっちの空間から普通の空間に干渉するったって、相当な衝撃じゃないと、干渉できないみたいだし!」 「そうなんですか・・・・」 女性に説明してもらったとはいえ、まだ半信半疑。まだ凛音は混沌空間のことを完全に信じ切ることはできなかった。 「そういえば――さっきの男の人はどうなったんですか?」 「ああ、そっちに突っ込んでった奴?あいつも悪い奴でね、まぁ私があの後送っといた」 「送る・・・って?」 「つまりは普通の世界に戻すってことだね」 「戻せるんですか!?」 「・・・まだその辺について言ってなかったね。こっち側から元の世界に戻る方法は二つ。一つは点々とある出入口を探す、そしてもう一つは――」 「――死ぬこと」 その言葉を聞いた瞬間、凛音に震えが走る。 「じゃ、じゃぁさっきの人は・・・」 「あー、こっちで死んでも、現実じゃ死なない。確かにさっきのに止め刺したのは私だけど」 「へ?」 凛音の顔から恐怖が消えて、再び疑問符が浮かんだ 「この辺が良く分からないんだけど、こっちで死ぬとこの世界の記憶を忘れて、普通の空間に戻されるんだよね」 「は、はあ」 とりあえず理解はしたものの意味が分からなかった。 こんな空間、何故あるのか、造った奴がいるのなら、何のために造ったのか。 「まぁ、そんな考え込んじゃ駄目だよ」 女性は考え込む凛音の頭にぽんっ、と手を置くとそう言った。 「でもこんなとこの仕組み(システム)を利用して、悪いことしようとしてる奴がいるんだから、私は放っておくわけにはいかないんだよ」 女性がそう続けると、しばらくしてから凛音は口を開いた。 「あの・・・」 「ん?」 「ここで死んでも死なないんですよね?」 「そうっぽいよ?」 「じゃぁ―――今ここで私を殺しちゃって下さい!」 凛音は震えながら言った。 女性はしばらくポカンとしていたが、やがて 「・・・くっ・・はははは!」 と笑いはじめた。 「な、なんで笑うんですか!」 「いやいや、あまりにも面白いこと言うからさ。結論から言うと、私はあんたを殺せない」 「・・・なんでですか?」 「例えこの世界で死んでも普通の空間に戻されるっつっても、私に善人を大した理由もなく殺すなんてできないよ」 「・・・でも、私がここに居たところで何にもできないし・・・」 「何言ってんのさ、さっき使ってた手の奴。あれ便利そうじゃない」 「手の奴・・・?」 (そういえばさっき何か脱力感・・・というかそんな感覚になったような・・・) 凛音が自らの手とにらめっこしているのを見て気づいたのか、女性は口を開く。 「もしかして、自分で使ったの分かってないの?」 「は、はい・・・」 「うーん。私は先に能力に気づいたからねー、まぁ人それぞれなのかな?能力気づいてからこっち来ることが多いみたいだけど・・・、まぁ・・」 ―いいか、と言う前に女性が凛音を抱えて回避行動を取った。 「っ!?」 その瞬間窓が割れて何かが飛んでくる。 もちろん伏せた凛音達に命中することはなく、壁にガッと音を立てて消滅した。 「弾・・・丸・・・?」 「とりあえず外に出るよ!」 女性は凛音を抱えたまま、弾丸っぽいものが飛んで来た窓とは逆の窓から飛び出る。 「私の後ろにずっと居て!分かった!?」 「は、はい・・・」 凛音は女性の体に隠れながらも前を見る。 (一、二、三・・・三人!?) 凛音が驚くのとは裏腹に、女性は数が増えているのに気づくと、呆れながら口を開いた。 「数増やせばいいってもんじゃないでしょ君ら・・・」 「黙れ」 真ん中の男が指先から赤いオーラのようなもの・・・つまり『カオス』が小さな弾丸のようになって飛ばされる。 その弾丸は女性の体を貫いた・・・なんてことはなく、女性の前で何かに弾き飛ばされ、消滅した。 「!?」 『カオス』で構成されている弾丸を飛ばした男も、近くで見ていた凛音も驚いた。 「残念。その程度の遠距離攻撃じゃ私に当たらないって」 女性はニッと笑みを浮かべながらそう言い放った。 「あー、怖かったら目ぇつぶってるといいよ」 「い、いえ大丈夫です・・・たぶん」 「よそ見してんじゃねぇぇえええ!」 男は両手の指全て――つまり十個の弾丸を飛ばす。 「これなら無理だろぉぉ!」 が、女性に一発も当たることなく弾き飛ばされる。 「なーにが無理だって?」 もはや真ん中の男だけでなく横の二人すら立ちすくんでいた。 「う、嘘だろ・・・何もしないで全部跳ね返すなんて・・・」 「何もしてないわけないでしょ、君。私の指見なさい」 仕方ないといった顔で女性は言った。 男は指先を凝視すると、やがて驚いた顔で口を開いた。 「鎖・・・だと!?」 男がそう言うと女性は人差し指を回すのを少しずつやめる。 「ピンポンピンポーン、鎖って言ってもジャラジャラ音はしないし、―――」 「―――これもついてるけどねっ!」 そう言うと、女性は『カオス』で構成された鎖を敵に向かって一直線に投げつける。 この後起きた出来事に凛音は思わず目をつぶる。 「っ!」 「ぐ・・・ぁ・・・」 真ん中の男は赤い鎖が胸を貫通している。 そしてそのまま地に平伏すと、この混沌空間から消滅した。 それを見ていた横にいる他の男二人は突然の出来事に息を飲んだ。
* * *
とある裏通りの地下。
そこの一つの部屋である人物の調査報告がなされていた。 いかにも会議室。といったその部屋の席の真ん中に座る、いかにも偉そうな人物が口を開いた。 「あっちに送ったNo.14、No.15、No.16、No.30はまだ帰って来ないのか」 「No.30はともかく他はどうでしょうねぇ、あいつらはただの偵察要員だろ?」 ハハッと軽く笑いつつもいかにも適当そうな男は言った。 「・・・そんなことはない。あわよくば倒してきてもらいたいからな・・・」 「まぁ建前上はそう言うしかないよな」 「No.20、口を慎め・・・」 「すいませんでしたーっと」 No.20が微妙に肩をすくませたところで扉がバンッと音を立てて開いた。 「No.30、ただいま帰りましたっす!」 「・・・もう少し静かに入れ・・・。まぁいい、それより、どうなった?」 「え、あ、はい。えっとNo.14、15、16は消滅しましたっす」 「そうか・・・。それで、奴の能力は分かったのか?」 「大体分かりましたっす。どうやら『カオス』を鎖状にして、えーっと先端になんか鋭利なものがついてるような感じでした」 「ははっ、すっげぇうぜぇ能力だな、それ。チートじゃんチート。死角がねぇっつーかさ」 「No.20、お前は黙っていろ・・・」 「メンバーなのにひでぇ!」 「あ、そういえば」 何かを思い出したようにNo.30は口を開いた。 「どうした・・・?」 「奴の後ろに女の子が一人いたんすよ。能力は使ってなかったんでわかりませんけど」 「女の子・・・?気になるが・・・」 黙れと言われたのにも関わらず、再び口を挟むNo.20をよそに、この会議室で最も位の高い人物―――No.10は少し考えるとこう言った。 「ふむ、とりあえずNo.30、お前は休め。副作用が終わったらまた来てもらう。そしてNo.20」 「ん」 「お前にはNo.30の代わりに偵察に行ってもらう」 「俺にNo.30ほどの偵察スキルはないっすよ」 「別にいい、帰って来なければそれまでだ」 「やっぱ俺だけ扱いひどいな・・・。あ、倒しちゃってもいいんですよね?」 「ああ。お前にできるとは思えないが・・・」 「・・・。まぁいいか、じゃぁ何人か連れてくな」 「あまり無駄死にさせるなよ・・・」 「俺のことは心配してくれないんですか」 「ああ」 そう聞くと、No.20は何ともいえない表情のまま、部屋をでていった。 「・・・何でNo.20さんには厳しいんすか?」 「あいつはああやった時のがやってくれるからな・・・」 「そうなんすか・・・」 「本当に倒してくるかもな、ハハハ」 「じゃぁ僕も休みます、また」 そう言ってNo.30は部屋を出た。
* * *
「この辺・・・・だったよね?」
凛音が足を踏み込むと、風が吹き抜けていくような感覚が襲う。 「ふう・・・。何度来ても空気が違うっていうか、なんていうか・・・」 凛音が混沌空間に来てから一週間 敵の襲来も何度か来ている。大体女性一人で何とかなってしまうわけだが。 ―――裁きの手(エクスキュージョン) 凛音の使える技。手の形に『カオス』が変形するだけだが、シンプルなので使いやすい。 完全に使えるようになったのは2日前。命名は女性が適当にした。そういう名前とかをつけておけば使いやすいらしい。 と、そんなことを考えていた矢先、ドゴォッと、どこかの壁が壊れるような音がして、凛音はビクッと跳ね上がる。 「い、行かないと!」 凛音は音の方向へ向かって走る。 ――そこにいたのは、 「ん、凛音じゃん」 「―ってなんだ・・・お姉さんか・・・」 ふぅ、と凛音は安堵の息をつく。 ――が、 「って、何思い切り壁壊しちゃってるんですか!?」 凛音の視界には壊された塀と、そこに倒れる男――たぶん敵、が女性の能力でできた赤い鎖に捕まっている。 「これだけ壊したら、流石に影響来るかぁ・・・」 女性は敵が消えるのを確認すると、『カオス』を解除する。 「あはは、つい、ね」 「大丈夫かな・・・」 「まぁ大丈夫でしょ、たぶん」 凛音はなんだかんだで女性が軽いノリであることは分かっていた。 「・・・うーん」 「どうかしたんですか?」 「いや、最近一人ずつでしか来ないんだよ・・・。今まで三人、四人って来てたのにいきなり一人ずつだからさ・・・何か裏があるかなって」 「人が足りないとかじゃないんですか?」 「いや・・・それはないよ。だって一人じゃ私に勝てないでしょ!」 バンっと胸を張って女性は言った。 「・・・」 「なにさーその目はー」 「自信過剰ってのもどうかなって」 「はははー、言うようになったねー」 そう言って女性は凛音を軽く小突く。 「さ、適当に巡回しようか」 「はいっ」 凛音がこうやって来ているのには理由がある。 1つは先日の副作用で1日帰らなかったため親と色々ギクシャクとしていること。 そして、女性といるのが楽しいからだ。 が―――そんな数日の平和も混沌と化す。
* * *
凛音と女性が他愛のない話をしていた時――
女性は一瞬にして周りからゾッという視線を感じた。 凛音でも気づいたほどの強い視線だった。 「「!?」」 「いつのまに・・・!?これも能力か・・・!?」 「ご名答ー。まぁ俺の能力ではないけどな」 No.20が陰から出てくるとともに、ゾロゾロと周りの塀や家から敵が出てくる。 (1、2、3・・・15人超はいる・・!) 「くっ・・・」 「なんで俺らが今まで1人ずつ戦わせてたか分かるか?てめーの能力を完全に把握するためだよ!」 No.20が言い終わると同時に地面を蹴り上げると明らかに通常ではおかしい量の砂煙が巻き起こる。 「・・・え!?」 凛音がその光景に声を上げる。と同時に女性が凛音を抱えて倒れこむ。 「ぐっ・・・声を出しちゃ駄目だ・・・。おそらくあっちも見えないから・・・」 小さな声で話す女性の顔には苦痛の表情が垣間見える。 それに気が付いた凛音が女性の体を良く見ると、脇腹にナイフが刺さっている。 「・・・そ、それ・・・」 「大丈夫だから・・・。とりあえず静かに・・・」 周りからカランとナイフが転がるような金属音がいくつもする。 それが止み終わると、女性は痛みに耐えつつ立ち上がり、 女性の能力――『破戒の鎖(サークルエッジ)』を右手で回転させる。 と、共にその回転で砂煙がどんどん消えていく。 が、消えた瞬間その時を待っていたかのように後ろからの攻撃が来る。 「あぶなっ・・!」 凛音が思わず叫んだ。 ――が。 飛ばされたのは向かって来たほうだった。 「!?」 凛音も含め、敵全員が驚き止まる。 「ははっ、両手で使うのは今回初めてだけどね!」 苦痛の表情のままニヤっと女性は笑う。 そして近くにいる女性は凛音に囁いた。 「え?ちょっと待っ・・・」 「じゃぁね・・・」 右手の『破戒の鎖(サークルエッジ)』を凛音に巻きつけると、そのまま飛ばした。 「うわあぁぁぁっ!?」 「!?」 敵はその意味不明としか思えない行動に驚愕している。 「何がしたいんだてめぇ・・・」 No.20が言うと、女性は冷静にこう答えた。 「巻き込みたくないんだよ・・・」 「・・・?」
* * *
――凛音、ありがとう
そんな事をいきなり言われて飛ばされた凛音は何が何だか分からなくなっていた。 「うわあぁぁぁっ!?」 とりあえずこのまま何もしないで地面にぶつかれば即死確定だ。 「『裁きの手(エクスキュージョン)』んん!」 適当な地面に裁きの手が命中すると、適当に衝撃を和らげつつ着地する。 「ふぅ・・・危なかった・・・。って安心してる場合じゃない!」 すぐに飛ばされた方に体を向けると、ダッシュする。 軽く家を越えて50mは飛ばされたので、道のり的には結構な距離があった。 「頼むから・・・まだ居て!」
* * *
「お姉さん!」
バッと塀を一気に曲がったその先に―――
女性は居なかった。
「そん・・・な・・・」
「一緒に居たガキか・・・。あの距離飛ばされて生きてるとは―――」 ――消した方が良さそうだな、と言おうとしたNo.20だったが、言えはしなかった。 そのガキ―――凛音が凄い形相でこちらを睨みつつ『裁きの手(エクスキュージョン)』を首に命中させていたから。 「がっ・・・は・・・な・・せ」 「黙って」 その瞬間グキッという音と共に呻き声が止まる。 その瞬間周りの敵がよどめく。 「うあぁぁぁぁあ!!!」 その自体に発狂したのか何だか知らないが、1人の敵がカオスに纏われた ナイフを投げてくる。 ―が、いともなく凛音はそれを弾き飛ばした。 「なっ・・・」 「・・・もう終わらせるから・・・」
* * *
「――というわけで恐らくほぼ壊滅かと」
「やはりその少女か・・・。なんかコードネームでもつけておくか・・・」 「適当に『裁く少女(エクスキューショナー)』でいいんじゃないすか?No.30の報告だと『裁きの手(エクスキュージョン)』って技を使うみたですし。」 「まぁなんでもいいけどな・・・。奴との戦いが終わったと思ったらすぐこれか・・・人足りるか・・・?」 「しばらくは休戦ってことでいいんじゃないすか?」 「そうするか・・・」
* * *
全てが終わり、周りに誰もいなくなった今、凛音は混沌空間に一人佇んでいた。
「お姉さん・・・」 ―――凛音だっけ?あれだよ、もし私いなくなったら後続はよろしく! 数日前、いつものようなふざけたノリの口調でそんなことを言っていた。 もちろん冗談だと思ったわけだけど。 「うん・・・」 例え本当に冗談だったとしても――私はちゃんとやるよ・・・。
組織内で『裁く少女(エクスキューショナー)』と呼ばれる凛音が後に『紅剣使い』と呼ばれる少年に出会うのはこれから約3週間経った後の話である。
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