Chaosmode(カオスモード)-第九章-破壊の針(Break needle)
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「裁きの鉄槌(オブジェクション)!」
そんな声が聞こえたと思うと煉は擬似重力から解放されていた。 「凛・・・音」 立ち上がった煉の視界の先にいたのはもちろん凛音だった。 「何一人で突っ走ってんのよっ!もう!」 凛音の息はあがっていた。恐らく走ってきたのだろう。 「す・・・すまん・・・」 「とりあえず、話は後っ!奴らはまだ生きてる!」 と凛音は煉に注意する。 「ちっ、やっぱり来やがったか・・・」 「まぁ予想はしてましたけどね、『裁く少女(エクスキューショナー)』が来るのは・・・」 巻き上がる砂煙の中からNo.38とNo.65は怪我一つ無く現れた。 「凛音はあの重力ヤローを頼む!俺はもう一人の方をやる!」 煉がそう言うと凛音はコクンと頷き、No.65の方へ向かっていった。 No.38はゆっくりと近づいてくる。 そして、針は飛んできた。 横に跳び、煉はそれを回避する。 と、間もなく地面が隆起する。 (・・・だからあの破壊力はどっから来るんだっ!?) 煉がそう考えているとNo.38は口を開いた。 「どうやら私の能力が良く分かってないようですねぇ?」 「!」 No.38は立ち止まり、話始める。 「私のこの能力は『破壊の針(ブレイクニードル)』と言いましてね、ただ単に『カオス』を圧縮した針なんですよ。」 「・・・」 (じゃぁどこからあの破壊力が・・・) という煉の考えを見通すかのようにNo.38は言った。 「この針自体が破壊力を持っているわけではないのです、大きな岩があったとしましょう。頑丈な。もしそれに小さな罅が入っていたとして、そこに大きな力を加えたとしたらどうなります?」 「・・・!」 「お分かりのようですね、そう、砕ける。それを応用したようなものです。ですが生物にはそんな罅のようなものはない。だから当たっても砕けることはないので心配なさらずに」 と言い終わると、No.38は針を出して飛ばしてきた。 それを煉は横に跳んで回避したが・・・。 「・・・!ぐぁぁぁっ!!」 もう一本飛んできた針が右肩あたりに刺さってしまった。 煉の右肩から来るのは激痛。痛み以外の神経が遮断されているかのような痛み。 「ああ、そういえば言い忘れてましたね。両手から出せるっていうことを」 やがて『破壊の針』が消滅すると、血がポタポタと流れ落ちる。 「ぐっ・・・く・・・」 煉は右肩を抑え、ゆっくりと起き上がる。 「ふむ、次は左肩でも狙ってみましょうか」 そう言うと、No.38は針を飛ばした。
* * *
凛音はNo.65と対峙していた。
もちろん、距離を取って。 「今回は前回みたいな逆転劇は起きないわよ」 「ハッ、何を言ってやがる、逆転も何もお前の負けなんだよ」 と言い終わると、No.65は凛音の方へ突撃してくる。 もちろん、凛音はそれに合わせて後ろに下がった、のだが。 「え・・・!?はぐっ・・・!」 No.65の拳が凛音の腹にめり込む。 そのまま凛音は吹き飛ばされた。 「な・・・何で・・・!?」 「お前、前言ってたっけなぁ?八メートルの距離を取って戦っていると。確かに俺の『混沌重力』の標準範囲は半径7m前後だ。だけどよぉ?力を弱めればその分・・・範囲は伸びるんだよ、つまりお前にぎりぎり気づかれるかくらいの力で『カオス』を放っていたっつーわけだ。そんな状況でいつもと同じスピードで動けるはずはねぇよな?」 「・・・!、でも、耐久力は劣るはずっ!裁きの手!」 凛音は立ち上がり、真上に『裁きの手(エクスキュージョン)』を放つ。 「おいおい、その状態で戦う気かよ、無理あるんじゃねーのっ」 No.65は突撃してくる。 「流石にこのまま戦う気なんて毛頭ないわよ・・・!」 凛音はもう片方の手を真上に上げ、『カオス』を両手に集中させる。 「・・・?」 その行動を疑問に思ったNo.65は立ち止まる。 「まさか、さっきの・・・」 「裁きの鉄槌(オブジェクション)!!」 『裁きの鉄槌(オブジェクション)』はただ『裁きの手』の応用であって、両手をグーにした形を合わせて振り下ろすだけの簡単な技なのだが、それでも威力増大のために『カオス』を通常よりも多く使用する。 その為、『裁きの鉄槌(オブジェクション)』を二発も放った凛音の体力は限界に近づいてきていた。 「はぁ・・・はぁ・・・」 『裁きの鉄槌』の爆心地、つまり当たった場所には人影が一つ。 「ぐっ・・・危ねぇ危ねぇ・・・モロに喰らってたらヤバかったな・・・」 No.65は生きていた。 「なっ・・・何で・・・」 「なに、空中にあった『カオス』を全部俺の真上に集中させただけのこと。結構ダメージを喰らったが、即死は免れた・・・。あんな技二回も使えば、お前もしばらく動けないだろうしなぁ!」 No.65は十メートルない距離を走ってくる。
* * *
煉は左肩に向けて飛ばされた『破壊の針』を『混沌剣』で弾き飛ばした。
それを見たNo.38は驚き、こう言った。 「ほう、弾きますか、流石ですね」 「当たり・・・前だっ!」 右肩から来る激痛は少なからず『カオス』の操作に影響を与える。 そのためか、煉の左手から出る『混沌剣』の形状はたまにぐにゃっと曲がったりもしている。 「ぐぅっ・・・!」 しかし、煉の右肩の痛みは当初に比べ、治まりつつあった。 (無茶苦茶痛ぇ・・・!けど、なんとか動ける!) 早めに決着を着けようと、No.38に突撃しようとした時だった。 後ろ側での衝撃音。もちろん凛音の方である。 「もう一度言いますが、余所見をしている暇なんてありませんよ」 「しまっ・・・!」 二本の『破壊の針』が煉を狙う。 煉は右に転がり、二本の針を避けるが、間もなく地面が破壊され、その衝撃が煉を襲う。 「ぐっ!!」 その動きが止まった瞬間、もう二本の『破壊の針』は迫っていた。 鮮血が空を舞う。 「ぐっ・・・ぁぁぁぁぁああ!」 咄嗟に腕で庇った為、刺さったのは両腕に一本ずつ。またもや両腕から激痛が走る。 「ふふふふ、そろそろ終わりにしましょうか・・・。『破壊の槍』・・・」 No.38が手の先から出したのは針。しかしそれはもはや針といえる大きさではない。 一メートルちょっとの、まさに槍と言えよう。 「さぁっ!消えてもらいましょうか!」 No.38は『破壊の槍』を持つと、十分に狙いを定め、煉めがけて投擲した。
* * *
ドスッ、と鈍い音。
しかしその音の発生源はNo.65の腹だった。 「なっ・・・ぐぁっ!?」 しかし吹っ飛ぶということはなく、No.65はよろめく。 「はぁ・・・はぁ・・・ふふ、残念だったわね・・・。壊された『カオス』がそんな早く直るわけはないと知ってたからね・・・」 凛音はNo.65が突撃してくるのと同時、No.65の腹目掛けて跳び蹴りをかましたのだ。 「こ・・・のっ!ざっけんなぁぁぁぁあ!」 とNo.65は『混沌重力』を使って凛音を抑えようとしたが、その時だった。 凛音に襟首を掴まれて、そのまま凛音とともに自らの『混沌重力』に引き込まれてしまった。咄嗟に『混沌重力』を解除しようとするがうまく行かない。 その理由は凛音の右手だった。凛音の右手は頚動脈を的確に抑え、男の意識を少なからず遠のかせていたのだ。 「ぐぁ・・・!?」 「これで終わらせる・・・!裁きの手!!」 「や・・・やめ・・・」 グキッという鈍い音がすると、凛音は『混沌重力』から開放された。 No.65は『カオス』のような赤いオーラに覆われると、そのまま消滅する。 「はぁ・・・はぁ・・・」 こっちの戦いは終わったが、凛音に安堵の息をついている暇などなかった。 「煉・・・!」
* * *
「!」
No.38は煉の取った行動に驚いた。 煉は『破壊の槍』が当たる前に右手で受け止めたのだ。 もちろんそんなことをして無傷であるはずがない。 煉の右手は血で赤く染まり、赤黒い穴が空いている。 しかし、煉は無言だった。 やがて、煉は地に平伏す。 「ふ、ははははっ、最初受け止めた時はどうするかと思いましたがそのまま死んでしまうとは!」 「煉!」 凛音が走ってやって来る。 「『裁く少女』がやってきたということは、No.65はしくじりましたか・・・」 凛音は倒れた煉を見て愕然とする。 「ひ・・・煉・・・」 「残念でしたね、そちらは勝ったようですけど、こちらはどうやら負けのようですよ?まぁ、まもなくここから消えるでしょうね」 混沌空間で死んでも現実世界に戻されるとはいえ、凛音が見た煉は壮絶なものだった。 自らの血だまりに平伏し、右手には風穴。とても元に戻るとは思えなかった。 「そん・・・な・・・」 「とはいえ、私にもうあなたを倒すだけの気力もありませんし、今回はここで撤退させていただきますよ」 と言って、No.38が背を向けた時だった。 煉の体は『カオス』に覆われる。 「煉っ!」 凛音が叫ぶが、煉から返答はない。 No.38はその叫び声で少し振り向く。 「どうやら、お別れの時間のようですねぇ」 と、微笑しながら言うが、しばらくして異変に気づく。 ―何故なかなか消えない!? No.38の顔に焦りの色が見えはじめる。 凛音から見ても、それは奇妙な事だった。 消えないのだから、それは嬉しいことなのだが、この奇妙な状況に喜べない。 「!?」 凛音はここである事に気づく。 煉の右手の風穴が塞ぎかけていることに。 No.38も遅れてその事に気づく。 「どうなってる・・・!?」 と、そこで『カオス』を纏ったまま、煉はゆっくりと立ち上がりはじめた。 「待・・・て・・・」
* * *
煉は自らの体に起きていることなど理解できなかった。
一時は意識が遠のくほどの痛みで動くことができなかったが、いつのまにか右手からの痛みが退いてきている。 こうなったら、立ち上がるしかなかった。 「待・・・て・・・」 煉はゆっくりと立ち上がる。 「煉っ!」 「あの状況から・・・!」 と、次の瞬間、煉はNo.38の前まで移動していた。 「!」 煉の拳がNo.38の腹にのめり込む。 No.38の視界がぐるりと回転し、吹き飛ばされる。 「混沌剣」 「ぐっ・・・」 No.38の視界には赤い剣を持ち、近づいてくる煉。 煉はゆっくりと『混沌剣』を構える。 「終わりだ」 赤い剣が振り下ろされた。 |
Chaosmode(カオスモード)-第十章-限界(Over limit)
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赤い剣がNo.38に突き刺さることは――なかった。
バタッと煉は倒れる。 「ひ、煉っ!!」 少し遠くで見ていた凛音は倒れた煉を見て、急いで駆け付ける。 No.38は助かったとばかり、全力で逃げ出す。 凛音はそれを見ていたが、煉のこともあり、追うことはできなかった。 煉は気絶していた。 しかし、血の気がなく、危険だと判断した凛音は急いで家へ運ぼうとした。が、入って来た時の出入口から出ると、大変な事になっていた。 時刻はすでに六時。しかし教室には誰もいない。代わりにグラウンドに大量の警察がいた。 「・・・どうやって運ぼう・・・」 大変な騒ぎだ。生徒は全員強制下校させられたに違いない。 結局、家までたどり着いたのは九時。 教室で警察が立ち去るまで待ち、自らよりも大きい煉を運ぶのにはかなりの時間を労した。
* * *
昼の一時。
そんな時間に煉は自らのベッドの上で目を覚ました。 時計を見てやべっ学校と一瞬思うが、自らの置かれた状況を把握することの方が先だった。 軽く血のついた制服。傷一つない体(女状態)、布団の上でうつ伏している凛音(ミニバージョン)。 「どうなってる!?」 そこで昨日の戦いのことを思い出す。 結局どうなったのか。煉には記憶にない。 凛音を起こさないように布団から出て、リビングへ向かう。 と、そこで留守電が来ていることに気づく。 「休校・・・か・・・」 留守電には休校の知らせが来ていた。 「とりあえず・・・凛音起こすか・・・」
* * *
「・・・」
煉はふと思う。 「・・・うつ伏せになってるけどまさか死んじゃいないよな・・・?」 指でそーっと凛音を仰向けにする。 「・・・うーむ、起こしてよいものか」 煉が見た凛音は、もう疲れて動けません。という顔をしていて、すーすー寝息を立てて眠っていた。 「・・・だけど起こすしかねぇか・・・」 そう決心すると、煉は凛音の頬を人差し指で軽く突っつく。 「はぅ・・・む・・・」 ゆっくりと凛音は目を開ける。 「・・・起きたか」 「・・・煉・・・?」 「それ以外に誰が・・・」 と煉は呆れた顔で言う。 「・・・かった」 「ん?」 「良かったぁぁ!」 凛音は突如泣き出した。 「ちょ・・・おいっ!何で泣いてんだっ!?」 予想もしてなかった出来事に煉は慌てる。 「だってっ、家帰ってきても顔真っ青だったしっ、死んじゃうかとっ」 「勝手に殺すな」 「うぅ、でも良かったぁ・・・」 「でさ、聞きたいことがあるんだが」 「何?」 「結局、俺は勝ったのか?」 「・・・!」 「どうなんだ?」 凛音はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。 「あいつは・・・逃げたよ・・・」 「そうか・・・。まぁいいよ、こうやってお前と話できてるし」 「ちょっ、何言ってんのよっ」 「いや、さ、もし俺があっちで死んでたらさ、お前との繋がりも何もなくなっちまってたわけじゃん。だとするとまたお前を一人にしちまうのかなーって」 と煉が言うと、 「また・・・って知ってたの?」 「そりゃな」 そう煉が答えると、凛音はしばらく黙っていた。 「あの人はさ、本当最初から私にいろいろとしてくれてね、いきなり混沌空間に入っちゃった私に混沌空間の説明をしてくれたりさ、私を守ってくれたりしてたんだよね」 煉は黙って話を聞いている。 「『カオス』が使えるようになってからも、制御の仕方から何まで全部教えてくれたんだ。さすがにこんな風になっちゃった時はびっくりしたけど」 「最期も五人の能力者から私を逃がすために精一杯頑張ってくれてさ」 そう言う凛音の顔は悲しげだった。 「凛音・・・、何かごめんな」 「いいよ、こっちが勝手に話し始めたんだし」 しばらく、沈黙が続いた。 ザーッと雨が降り続いている。 「んじゃっ、そろそろ飯作るかっ」 沈黙をかき消すように、煉は立ち上がりながら言った。 「あ、うん。でもさ・・・」 「ん?」 「まず先にその血まみれの制服を着替えた方がいいと思うよ」 と凛音が言うと、煉は自らの服装をもう一度見直して、 「そういや、こんな混沌状況だったな・・・」 と言って、がくっとうなだれた。 「じゃぁ、俺着替えてくっから、先にリビング行っててくれ」 「分かったーって言いたいところだけど、この体じゃ階段降りれないんだよね・・・」 ハハハ、と凛音が軽く笑いながらそう言う。 「そういや、そうだったな・・・。じゃ、着替えたら下連れてくから待ってろ」 そう言って、煉は着替えを取ると、一階へ降りていった。
* * *
裏通りの地下。
そこにはNo.で識別される能力者達が潜んでいる。 地下への扉を開けると、まずパソコンが数台並んでいる。 はたから見れば、普通にある会社と何ら変わらないだろう。 と、奥へ続く廊下から、オールバックで黒髪の人物が現れる。 「ふへー、まじ副作用長かったわー。常に過呼吸状態の副作用とかまじで何だよ・・・。ん、誰だよ、パソコン点けっぱなしなのは・・・」 男は独り言を言いながら、パソコンの画面を覗く。 「お、No.38の報告書か。あいつが仕事行くとかめずらしーな、この報告書軽くレアもんだよ」 「あまりあの人は好きな性格じゃないですけどね」 と、オールバック男の横にいる青髪の人物は言う。 「って!No.22、いつからいやがったっ!?」 「ははは、ついさっき部屋から出たとこですよ、それよりその報告書、内容面白そうですね」 「ああ、『裁く少女』と新しい『紅剣使い』?とか言うのと戦ったらしいぜ」 「No.65さん、やられちゃったんですね」 「えぇっ、まじかよっ!・・・、本当だ、あいつとは話合ってたのになー」 「それより気になるのはここですよ、ここ」 そう言って、No.22はパソコンの画面を指差す。 「傷の驚異的速度による回復って奴か・・・。てかこいつの能力強すぎね?」 「うーむ、そうですけど、No.91さんの能力も結構厄介じゃないです?」 「あれは金属ねぇと何もできねぇもん、何もしない分にはこっちのが強いだろうよ、てかお前の能力もお前で厄介じゃねぇかよ」 「うーむ、そうですかね。まぁ次の標的はこいつらですか?」 「そーしたいけどなー、『裁く少女』とは俺戦いたくねーんだよなー、この報告書見た限りだと、常に一緒にいるっぽいじゃん」 「厄介ですね・・・。というより、この校舎のこと、結構ニュースになってるっぽいですよ?ほとぼりが冷めるまで待たないと、この組織だってばれちゃいますよ?」 「そーなのか、じゃーまた今度にしようぜ。その前にNo.38からも話聞きたいしな」 「僕はあの人苦手なのでNo.91さん一人でお願いします」 「おいっ!そこは一緒に来いよっ!」 「その時の気分次第です」 そう言うと、扉を開けて、外へ出て行ってしまった。 「・・・。行っちまったよ・・・てか俺も腹減ったし、何か食いに行くか・・・」 そう呟くと、パソコンの電源を消し、No.91も出て行った・・・。
* * *
「何か何も作る気しねぇから買い弁でいいかな?」
「別に私はそれでいいけど・・・食べやすいのにしてね?」 「あー、サンドイッチとかでいいよな?」 そう言って、煉は玄関に向かう。 「あ・・・、ちょっと待って・・・」 「ん?」 「あのさ・・・できればなんだけどさ・・・」 「うむ?」 「できれば・・・連れてってほしい・・・なんて・・・」 「は?」 煉はキョトンとした顔をしている。 「いや・・・だからさ、一人でいるのあれだし・・・」 「うん、まぁ、とりあえず、言いたいことは大体分かったけど、無理」 「がーんっ!」 「がーん、っておい、すぐそこのコンビニ行くだけだし、すぐ帰ってくるから心配すんな」 「うん・・・」 ガチャッと玄関のドアを開けて、煉は外に出る。 「お、雨止んでるな」 さっきまで降っていた雨は止み、雲の間から太陽が覗いていた。 「そろそろ梅雨の季節かー」 独り言を言いながら、道路を歩き始める。 「しっかし、凛音は小さいときだと、あれだなー、何か無茶苦茶怖がりになってる気がする・・・」 「お、煉じゃん」 話かけてきたのは友達の新城。 「お、おう、新城」 慌てて声を低くする。 「すっげぇよな、グラウンドで謎の地盤沈下で休校だぜ。こんなことあるんだな」 「あ、あぁ。確かにすげぇよな」 その事件に関わっているので、煉はぎこちなく返事をする。 「ま、おかげで休みだし、俺はちょい遊んでくるからまたなっ!煉!」 そう言って、新城は走っていった。 「さて、買いに行かないとな」
* * *
「あー、まじあの店のパスタ不味いなっ!頼まなきゃ良かった!」
No.91が掴むガードレールがミシッと音を立ててひしゃげていく。 「だからパスタはやめといた方がいいって言ったんですよ、というより、むしゃくしゃするからって通常世界でガードレールひしゃげさせるのやめてください」 「だってよー、無茶苦茶ぱさぱさしてるんだぜっ!しかも副作用のせいで元々むしゃくしゃしてたしよっ」 「そうやって使ってるから副作用が来るんですよ・・・。それとパスタがぱさぱさしてるのは言いました」 「そういやそうだったっ!」 慌ててNo.91はガードレールから手を離す。 「馬鹿ですか・・・」 No.22はため息をつく。 「ん、赤髪・・・まさか・・・」 No.91が遠くの人物を見て呟く。 「No.91さん、あれは『紅剣使い』じゃないですよ、ボーイッシュで貧乳の女の子ですよ」 「お前良く分かるな・・・」 No.91はそんなNo.22を見て呆れる。 「ん!」 「どうした?No.22」 「転んだようです。助けに行きましょう」 「助けるまででもないだろ・・・っておい!待てよ!」 No.22は早歩きで向かっていった。 「ってて・・」 雨が降った後なので服が少し汚れてしまった。 「大丈夫ですか?」 と、煉はいきなり声をかけられる。 「あ、はい・・・」 ってかいつの間にっ!と思ったが、煉は特に気にしないことにした。 「どうぞ」 そう言って、No.22は煉の落とした袋を渡す。 「あ、ありがとうございます」 と言って会釈をすると、眩しいくらいの笑顔を向けてくる。 (正直、困る) 「それでは」 そう言って、No.22はその場を立ち去る。 (今時、あんな親切な奴いるんだなー) と思いつつ、煉も帰ることにした。 「ったく、わざわざ転んだくらいで助けに行くことねーだろうによ」 No.91は戻ってきたNo.22に呆れつつ言う。 「やはり、間近で見るとなかなか可愛いですよ」 「聞いてねぇな、おい。とりあえずそろそろ戻ろうぜ」 「ん、そうですね。そろそろ戻りますか」 No.91とNo.22はまた例の地下へと続く裏通りへと向かう・・・。
* * *
「ただいまー」
「遅いよー・・・、この体だと何もできないし・・・」 「す、すまん。ちょい選ぶので戸惑って・・・」 「まぁ、いいけどさ・・・。って?何で少し汚れてんの?」 「あ、あぁ。ちょい転んじゃって・・・」 ははは、と軽く笑いながら煉は答える。 「ちゃんと着替えなさいよー」 「ああ。さっき着替えたばっかだけど」 そう言って、煉は二階へ向かう。
* * *
「んじゃー食べるかー」
「いただきまーす」 そう言って凛音は煉からもらったサンドイッチの切れ端を食べ始める。 「・・・ってか、その体、なんだかんだで無茶苦茶食べにくいってか、多すぎになるよな」 「んー・・・。そうなんだけど、量的には少ないっていうか・・・、でも私的には多いっていうか・・・」 「まぁ、不便だよなぁ」 「食べたいものも自由に食べれないしねー。まぁ、以前よりはマシかなー、家ん中にいれるし・・・」 「えぇっ、前は屋内じゃねーのかよっ」 煉は驚く。 「場所によるけどねー、人に見つからないようなとこでひっそりといたり、バッグ用意しといて、その中入ったり・・・」 「前もバッグ入ってたんじゃねーか、なんで今は怖いんだよ」 と煉が言うと、凛音は少し涙目になってこう答える。 「あの時は生きるのに精一杯だったし・・・、そんなこと考えにもなかったから・・・」 「・・・なんかすまん」 「いやっ、別にいいってっ」 「しっかし、今日暇だなー、この後何するよ?」 「この体だと勉強もゲームもできないしね・・・。テレビとか観るくらいしかないけど・・・」 「うーむ、確かにな。てかまじ暇だわ」 「あ、そういえばあんたに聞きたいことがあったんだけどいい?」 「ああ、なんだ?」 煉はサンドイッチを頬張りながらも答える。 「昨日さ、何で、あそこに混沌空間への入り口があるって分かったの?」 凛音は真面目な顔で聞く。 「!!」 煉は口の中のものをごくっ、と飲み込むと、話し始めた。 「・・・いや・・・、分かったってわけじゃ・・・ないのかな?あの窓の外見るたび、何か引き込まれるっていうか、何か違和感を感じてさ、うん、まぁそんだけだよ」 「へぇー・・・。ていうかそれ凄く便利じゃない、混沌空間の入り口分かるし」 「そういや初めて来た時も同じような感覚になった覚えが・・・」 「そういうことは早く言いなさいよ・・・」 凛音はため息をつく。 「でもさ、一つ思ったんだけど」 煉は凛音に聞き返す。 「ん?」 「同じように入り口感知できる奴、絶対敵側にもいるだろ」 「!!」 「いや、だってよー、あっちから攻撃してくるわけだろ?ということはまず混沌空間に入らなきゃならねぇじゃん。ってことはあっちにも感知できる奴がいねーとそんなことできねーだろ?」 そう聞くと、凛音は虚を突かれたような顔で 「何でそんな単純なことに気がつかなかったんだろ・・・。毎回毎回あっちの攻撃来てから、周辺を探してたから・・・」 「めんどいな、おい」 煉が呆れる。 「だってそうでもしないと見つからないし・・・。または以前の場所を覚えておくとかね。こっちの方はいきなり消えちゃうこともあるからね・・・」 「何か大変だったんだな・・・」 「まぁ、これからはあんたのおかげで楽になるわねっ」 「んー、まぁどうでもいいけど」 煉はそう言いながらサンドイッチの最後の一欠けを口に入れる。
* * *
「ははははっ、まじこの動画おもしれーっ」
「No.91さん、遊んでないで早く報告書書いちゃいましょうよ」 No.22は呆れた顔でNo.91を見る。 「おぉう、忘れてたぜ」 「それが仕事でしょう・・・忘れないでくださいよ」 「あ、No.91さん、金属の発注とかします?」 「あー、どうだろ、俺今回どれくらい使ったか分かるか?」 「鉄が800g、亜鉛が600g、ニッケルが500gってとこですね」 「あー、在庫の鉄なくなって来てるから数kgほど頼んどいてくれ」 「・・・自分で頼んでくださいよ・・・。まぁすることないから頼んでおきますが・・・」 「しっかし、この仕事楽だよなー。能力使って破壊してるだけで給料もらえるとかさー、マジ最高じゃん」 「まぁNo.65さんみたいになると、一気に無職ですけどね」 「うーむ、まぁな。とりあえず負けなきゃいいんだよ」 「しっかし、この組織も組織で謎ですよね・・・。一体何のためにこんなことをしているのか・・・」 うーむ、とNo.22は考え込む。 「ハハハッ、世界征服でも企んでんじゃねーの?」 と、笑いながらNo.91は言う。 「それはないでしょう・・・。そんなことするんだったら、こんなにひっそり陰でやるより、一気に叩き潰せば、すぐにできるでしょうし」 「ま、特に気にしなくていいだろっ。俺らは上の命令に従って、仕事してりゃいいんだよ」 「まぁそうですね」 「よし、できたぜ」 No.91は軽く伸びをする。 「どれどれ?」 No.22がNo.91の前のパソコンの画面を覗く。 「・・・文法がところどころおかしいですよ・・・」 「あれ?そうか?んじゃNo.22直しといてくれよ、へへっ」 No.91は笑いながら席を立ち、廊下の奥へと消えていく。 「ちょっ、自分で直してくださいよ・・・もう・・・」 そう言いつつもNo.22は報告書のところどころを直していく。 「ん?」 No.22はスタートバーにもう一つワードが起動しているのに気づく。 「これは、No.38さんの・・・あの人もなんだかんだである程度はちゃんと仕事してるんですね・・・」 「ある程度とは何だよー、No.22」 No.91が缶コーヒーを片手で持ち、後ろから話かけてきた。 「・・・No.91さん、部屋行ったんじゃないんですか・・・」 「これ買いに行っただけだよ。それよりよ、俺『紅剣使い』への対策思いついたんだよ」 ニッと笑いながらNo.91は言う。 「まぁ、とりあえず、その対策とやらを聞いてみるとしますかね」
* * *
夜の七時。夕飯も食べ終えた煉と凛音はソファーに座り、テレビでよくあるようなバラエティー番組を観ている。
「あー、そういや昨日帰ってきた模擬試験。お前のおかげで追試免れたわ。サンキューな」 「へー、良かったじゃない。まぁ追試あっても今日休校になっちゃったんだから、結局なかったんじゃないの?」 「・・・勉強しなきゃ良かった・・・」 「勉強はしなさいよ・・・」 凛音は呆れた顔で煉に言う。 沈黙が訪れる。するのはテレビの音だけ。 (話すことも特別ないな・・・。この沈黙何か嫌だ) と、煉は思う。 また、凛音は凛音で、 (うー、話すこと全然ないよ・・・何かきまずい・・・) と思っていた。 「・・・」 「・・・」 沈黙が続く。 しばらくすると、凛音があることに気づく。 煉の呼吸が規則的になっていることに。 「寝てるよ・・・」 呆れた顔で煉を見る。 「しっかし・・・、こうやって寝顔見てると本当女の子にしか見えないな・・・」 テレビがつけっぱなしなのに気づいた凛音はソファーに放ってあったリモコンの電源ボタンに全体重をかけて消す。 プツンッと音とともに、部屋に静寂が訪れる。 「・・・」 凛音はソファーの背もたれ部分によじ登り、煉の顔を覗き込む。 「んん・・・」 「!」 一瞬煉が起きたかと思い、ビクッとする凛音だったが、煉がやはり寝ていることを確認すると、ホッとする。 「・・・、やばい・・・、これ可愛いかも・・・」 凛音はそう呟いた。
* * *
「・・・」
煉が起きて時計を見ると、午後十一時。 テレビは消えているので、凛音が消したのだろうと思っていると、ふと気がつく。 「ありゃ?凛音どこ行った?」 寝ぼけ目でキョロキョロ周りを見渡す。 と、すぐ顔の右側にある、ソファーの背もたれの上で寝ていた。 「・・・何でこいつこんなとこで寝てるんだ・・・。てかこいつの体もまだ戻ってないのか・・・?」 少し呆れた顔で凛音を見る。 「・・・いや、こんなとこで戻ってた方が困ってたな・・・」 煉はとりあえず立ち上がり、洗面所に向かう。 歯を磨きつつ、考え事にふける。 (シャワー浴びよっかな・・・いや、でもこの体じゃ色々と混沌すぎて無理だ・・・) 「ま、明日には戻ってるだろうし、朝入るかな」 そう呟きながら洗面所の電気を消すと、リビングに戻る。 と、そこでソファーの方に目をやると、凛音が背もたれの部分から今にも落ちようとしていた。 「!」 煉は間一髪のところで凛音を受け止める。 「危ねー、危ねー。ベッドに連れていってやるか・・・」 居間の電気を消すと、階段を上がり、部屋に向かう。 そしてベッドの前に来る直前。 凛音の体が『カオス』によって鈍く光る。 「ちょ、おい、まさか・・・」 案の定、凛音の体は元に戻り、煉はそれを抱き抱えるような状態になってしまった。 が、女状態で筋力低下中の煉にそれを支えるだけの力などなく、ベッドに倒れ込む。 「ってて・・・」 煉が視界を元に戻すと凛音がこっちを見ていた。 しばらくして、状況を理解したのか、顔を赤くしてぷるぷる震え出す。 それを見た煉は青ざめて、 「ちっ、違っ、うぁぁぁあああっ」 凛音の蹴りがこめかみあたりにクリーンヒットした。 煉はそのまま吹っ飛び、床に倒れ込む。 しかし、そのまま立ち上がらないのを見て、凛音はハッと我に返る。 「しまった・・・!つい全力で・・・」 凛音が煉の傍にかけよって見ると、煉は普通に気絶していた。 「だよ・・・ね。ははは・・・」 このまま床に寝かせておくわけにも行かず、凛音は煉を部屋まで運ぶことにする。 「よいしょっと。・・・!」 煉の体を持ち上げたところで、凛音はあることに気づいた。 「格段に前より軽い・・・。大丈夫なのかな・・・」 凛音は心配したが、煉の寝顔(というか気絶してる)を見ていると、そんな気もなくなってきてしまった。 「ま、いいかな、なんて」 はは、と笑いながらも凛音は煉を部屋に運び、ベッドに寝かせる。 「おやすみー」 凛音はそう言って、電気を消した。
* * *
「・・・ん」
煉は起きた。とりあえず時計を見る。午前七時。目覚ましをつけてないといえど、習慣づいてしまった寝起きの時間は休みの日だとしても仕方が無い。 煉はとりあえず、状況を整理する。 「えーっと・・・凛音運んでたら凛音が戻って・・・うん。蹴られた痛みが地味に残ってる。頭に」 煉は左こめかみのあたりを触りながら呟く。 「って・・・ん?」 ぇぇぇええええぇぇ!、という誰かさんの絶叫音で凛音は起きた。 凛音は布団から出ると、扉を開ける。 「んん・・・こんな朝からどしたの?」 目をこすりながらも凛音は尋ねる。 「お、おぅ、凛音。いや実はさ・・・」 凛音の声に反応して煉が凛音の方を向く。 「・・・なるほどね」 煉の顔を見ると、凛音は察した。 「いや・・・何で戻ってないの?俺の体」 若干涙目で煉は凛音に聞く。 「何でって・・・理由は一つしかないじゃない」 「えぇぇ・・・」 「『カオス』の使いすぎ」 「やっぱそうなのか・・・。少しは意識したけれども・・・」 煉はがっくりとうなだれる。 「まぁ・・・、今回のあんたは結構極限まで使ってた・・・っていうか限界超えてたじゃない?たぶん前回より遥かに時間長いと思うよ?」 「えぇー・・・、そんなに使った覚えは・・・」 「使った覚えは?」 と凛音が言うと、煉はうっ、っとなり、 「ないことはないです・・・。はい」 「もう・・・。結局ぶっ倒れるまで使ってたじゃない・・・。あいつがもし逃げずに攻撃してたらどうなっていたか・・・」 「凛音・・・」 「いや、別に心配してたわけ・・・でもあるけど・・・」 そんな凛音の呟きを遮るかのように、 「じゃんけんぽん、っと」 「へっ!?ぇ、あっ」 人間、案外いきなり「じゃんけんぽん」などと言われると、反射で何か出してしまうものだ。 「ぃよしっ!初めて勝った!」 煉は大きくガッツポーズをとる。 「ぇ、ちょ、いきなり何!?」 パーを出して負けた凛音は唖然としている。 煉は凛音の肩をがしっ、と掴むと、こう言った。 「とゆーわけで今日の朝飯はお前が作ってください」 そう言われた凛音は未だに何がどうなってるのか分かっていない。 「へ?え?どういうこと?」 「いや、前言ってたじゃん。じゃんけんで勝ったら何か聞くって」 「・・・調子に乗って言ったような気がするかも」 「とゆーわけでお願い・・・しま・・・す」 と言いながら煉は床に崩れ落ちるように倒れこんだ。 「煉―!?」 |