0.
要塞都市でのジャバウォック焼失、巨大兵器との交戦。
惑星グロリアでのトーナメント戦と巨大ドラゴンの暴走。
そして、その鎮圧での一連の英雄たちの共闘。
戦闘データは集まった。
無力感も積み上げた。
もうやられるのは沢山だ。
こんな仕打ちをする世界には、真っ赤な復讐を。
ジャンク屋グリムシェイドの調達部隊リーダー、アリス・ピルグリム・ヴェンデッタは、その口元を歪めて嘲笑った。
惑星グロリアでのトーナメント戦と巨大ドラゴンの暴走。
そして、その鎮圧での一連の英雄たちの共闘。
戦闘データは集まった。
無力感も積み上げた。
もうやられるのは沢山だ。
こんな仕打ちをする世界には、真っ赤な復讐を。
ジャンク屋グリムシェイドの調達部隊リーダー、アリス・ピルグリム・ヴェンデッタは、その口元を歪めて嘲笑った。
ーーー
空間転移門(ゲート)が現れた事件『スカイフォール』から数十年が経った時期、エグザマクスの登場が地球での近代戦争を一変させた。
そして2XXX年末。再び出現した空間転移門よりやってきた惑星バイロン人は地球への侵攻を開始。紛争を続けていた地球側の各国も地球連合を結成しこれに対抗。
かくして地球連合軍とバイロン軍とのエグザマクスを主軸とした全面戦争が勃発した。
そして2XXX年末。再び出現した空間転移門よりやってきた惑星バイロン人は地球への侵攻を開始。紛争を続けていた地球側の各国も地球連合を結成しこれに対抗。
かくして地球連合軍とバイロン軍とのエグザマクスを主軸とした全面戦争が勃発した。
EXAMACS(Extended Armament & Module Assemble & Combine System 拡張型武装及びモジュール組立結合システム)。地球連合とバイロンが使用するマシーン、モジュール構造でパーツによる変更により多用途での変更拡充を可能とする。
これらは各地の国家、団体、武装勢力が広く使用するようになった兵器である。
当然、正規軍があれば、非正規軍もあり、その規模や行動も様々。
操縦する兵器である以上、無人化されていなければ、当然操縦席にはなまものが乗る。
アリス・ピルグリム・ヴェンデッタは、そのなまものだった。
名前なきなまものであった頃、アリスはアリスなどという名前ではなく、親を失って家を失って自分を失ってもまだ死にたくなかった。
だから要らない事を忘れたことにして、戦闘用の機械として振る舞った。
あとに残ったのは、戦闘機械であるための技術や知識と、僅かな人間性だけだった。
過ぎ去った悲劇は巻き戻らず、アリスが覚えていることは少ない。
同じようななまものが沢山いて、死んでいった。
顔も声も名前も知らない。
ただただ戦った。戦って死んでいった。
アリスは運が良かった。
アリスには優れた技量があった。
死にたくない想いと、灯火のように残った復讐心が、アリスを生かした。
破壊された機体から助けだされた時に、アリスはなまものから再び人に戻った。
それから、灯火は燃料を得た焚き火のごとく燃え上がった。
アリス・望月という新しい名前には、馴染めなかった。
望月重工の保護施設から治安維持部隊を経て、ジャンク屋グリムシェイドに転がり込み、そこでジャンク屋の調達部隊を半ば勝手に立ち上げた。
全ては力無きゆえに失わないため。
全ては理不尽へ復讐するため。
ジャンク屋の隅に転がされ寂れたアルトの操縦桿を握りしめた。
こうして暴虐無法のジャンク屋は誕生したのだ。
これらは各地の国家、団体、武装勢力が広く使用するようになった兵器である。
当然、正規軍があれば、非正規軍もあり、その規模や行動も様々。
操縦する兵器である以上、無人化されていなければ、当然操縦席にはなまものが乗る。
アリス・ピルグリム・ヴェンデッタは、そのなまものだった。
名前なきなまものであった頃、アリスはアリスなどという名前ではなく、親を失って家を失って自分を失ってもまだ死にたくなかった。
だから要らない事を忘れたことにして、戦闘用の機械として振る舞った。
あとに残ったのは、戦闘機械であるための技術や知識と、僅かな人間性だけだった。
過ぎ去った悲劇は巻き戻らず、アリスが覚えていることは少ない。
同じようななまものが沢山いて、死んでいった。
顔も声も名前も知らない。
ただただ戦った。戦って死んでいった。
アリスは運が良かった。
アリスには優れた技量があった。
死にたくない想いと、灯火のように残った復讐心が、アリスを生かした。
破壊された機体から助けだされた時に、アリスはなまものから再び人に戻った。
それから、灯火は燃料を得た焚き火のごとく燃え上がった。
アリス・望月という新しい名前には、馴染めなかった。
望月重工の保護施設から治安維持部隊を経て、ジャンク屋グリムシェイドに転がり込み、そこでジャンク屋の調達部隊を半ば勝手に立ち上げた。
全ては力無きゆえに失わないため。
全ては理不尽へ復讐するため。
ジャンク屋の隅に転がされ寂れたアルトの操縦桿を握りしめた。
こうして暴虐無法のジャンク屋は誕生したのだ。
ーーー
1.
グリムシェイド社、開発格納庫。
夕暮れの点検歩廊にて。
定時ブリーフィングを終えたあと、アリスは最近の日課となった新機体の観察をしていた。
進捗は順調で、完成はそう遠くなく、いつになくご機嫌。
その横顔は血の気が無いように見えるほど白く、その代わりのように漆黒に染まるショートヘアがざんばらに揺れる。
格納庫をぬける風を受けつつ、新機体をつぶさに観察する瞳は、夕暮れの陽のように紅い。
しばらくすると、ブーツが縞鋼板を叩く音がした。
「クラリス、なんか用か?」
眼前に佇む白い巨獣から目をそらすことなく、アリスはややトーンの低い返事を返す。
歩廊の階段を登りきったのは、クラリス・望月・ハンマーヘッド。
青みがかったプラチナブロンドの少女は、アリスのチームメイトであり、可憐な見た目とは裏腹に苛烈な切込み隊長である。
「アリス、また開発中の機体眺めてるの?」
「私の機体だからな。あとアリスって呼ぶんじゃねぇ」
二人は望月重工の児童保護施設からの馴染みで、これは挨拶みたいなものだった。
いつものやり取りのあと、クラリスはアリスの隣に並ぶ。
二人の前にそびえるは、白い巨獣。
仮称としての呼び名はジャッカル。
その頭部のモチーフそのままが技士たちの中での呼び名となっているその機体は、アリスが社長に直談判して新設を決めさせたものだ。
「流石に威圧感があるわね」
「並の機体の倍はあるからな」
ジャッカルは大型機だった。
隣で整備中のアルトと比べると、そのサイズが規格外であるとわかる。
アリスの様々な要望を、技士たちが喜々として詰め込んだ成果だ。
負けないで勝ち続ける機体を求めて、機能を詰め込んだ。
この機体は、ジャンク屋グリムシェイドの技術と経験を凝縮して練り上げられた、ひとふりの剣なのだ。
それが何かを守る聖剣なのか、それとも破壊の限りを尽くす魔剣なのか、まだ誰も知らない。
クラリスには、そのジャッカルの貌が恐ろしく見えた。
それを駆ることになっているアリスは、クラリスの心中など知りもせず、期待感を膨らませていた。
「毎日見ててよく飽きないわねぇ」
「私は技士でもあるからな。単純に組み上がってくのは見てて面白ぇぞ」
望月重工の保護施設から通算で数年。
アリスとクラリスの関係はそれなりに長いが、クラリスにはまだアリスを理解しきれない。
技士として操縦士として尊敬し憧れもしている。性格も把握しているが、時折垣間見える戦闘狂いの様相には、少しだけ、恐怖を感じる事がある。
ジャッカルを見やるアリスは、そういう目をしている時がある。
どこかに、行ってしまいそうな、そんな目を。
そんな時、二人の足元から声がかかった。
「リーダー、クラリス、食事ですわよー」
下を覗き込むと、桃色がかったプラチナをなびかせるお姫様が、床に長い影を落としていた。
「おーう、今行くー」
アリスが返事をし、クラリスは小さく手を振った。
歩廊から降りると、そのお姫様ービアンカ・マギアマキナは言う。
「タツキも呼ぶように言われてるの。途中で電算室に寄りましょう」
格納庫を出て、3人で社屋の別棟へ。
別棟は居住スペースと書庫、電算室などでできており、集合住宅然としている。
スカートをふわふわ揺らしながら先導するビアンカについていくと、すぐに電算室にたどり着いた。
扉を開けると、冷気にまとわりつかれた薄暗い部屋に、茶髪で眼鏡姿の女性がPCにかじりついてぶつくさ言いつつキーボードを叩いている。
「おーい、飯だぞー、竜貴ー、聞こえてっかー」
極度に寒い部屋にアリスは入らずに、カーディガンの背中に言葉を投げるが、どうやら聞こえていないらしい。
仕方なく、クラリスが部屋に入り、肩を叩いてようやく振り向いた。
「ん?クラリスか?みんな揃ってどうした?」
東雲竜貴(シノノメ・タツキ)。
元整備・電算技士であり、今はグリムシェイド調達部隊兼電算技士。
隊の中では最年長だが、それでも技士たちの年齢の半分は行かないくらい。
そんなうら若い乙女が、寝食も忘れて仕事にかまけていたらしい。
「飯だ、飯。そろそろ切りあげろ」
そう言われて、竜貴は時計を見やり、それから立ち上がって伸びをした。
「随分没頭していたみたいだ。呼びに来てくれて助かるよ」
竜貴が行っていたのは、ジャッカルのためのデータ整備だ。
戦闘データが膨大すぎるのと、アリスの要望に合わせた調整に手こずっているらしい。
「だが、だいぶ掴めてきたよ。リーダーの望む機体完成ももうすぐだな」
「頼むぜ、竜貴。だが、長時間の労働は良くねぇな」
「はは。全くだな。あまり根を詰めないように気を付けよう」
アリス、クラリス、ビアンカ、竜貴、以上4名。
このチームがジャンク屋グリムシェイドの調達部隊であり、戦場で恐れられ嫌われるハイエナであると、誰が見るだろうか。
傍目には女子4人組。
かしましい青春にありそうな雰囲気だが、それは一部に過ぎない。
グリムシェイドの代名詞。
これらの真価は、戦禍の鉄火場にて発揮される。
夕暮れの点検歩廊にて。
定時ブリーフィングを終えたあと、アリスは最近の日課となった新機体の観察をしていた。
進捗は順調で、完成はそう遠くなく、いつになくご機嫌。
その横顔は血の気が無いように見えるほど白く、その代わりのように漆黒に染まるショートヘアがざんばらに揺れる。
格納庫をぬける風を受けつつ、新機体をつぶさに観察する瞳は、夕暮れの陽のように紅い。
しばらくすると、ブーツが縞鋼板を叩く音がした。
「クラリス、なんか用か?」
眼前に佇む白い巨獣から目をそらすことなく、アリスはややトーンの低い返事を返す。
歩廊の階段を登りきったのは、クラリス・望月・ハンマーヘッド。
青みがかったプラチナブロンドの少女は、アリスのチームメイトであり、可憐な見た目とは裏腹に苛烈な切込み隊長である。
「アリス、また開発中の機体眺めてるの?」
「私の機体だからな。あとアリスって呼ぶんじゃねぇ」
二人は望月重工の児童保護施設からの馴染みで、これは挨拶みたいなものだった。
いつものやり取りのあと、クラリスはアリスの隣に並ぶ。
二人の前にそびえるは、白い巨獣。
仮称としての呼び名はジャッカル。
その頭部のモチーフそのままが技士たちの中での呼び名となっているその機体は、アリスが社長に直談判して新設を決めさせたものだ。
「流石に威圧感があるわね」
「並の機体の倍はあるからな」
ジャッカルは大型機だった。
隣で整備中のアルトと比べると、そのサイズが規格外であるとわかる。
アリスの様々な要望を、技士たちが喜々として詰め込んだ成果だ。
負けないで勝ち続ける機体を求めて、機能を詰め込んだ。
この機体は、ジャンク屋グリムシェイドの技術と経験を凝縮して練り上げられた、ひとふりの剣なのだ。
それが何かを守る聖剣なのか、それとも破壊の限りを尽くす魔剣なのか、まだ誰も知らない。
クラリスには、そのジャッカルの貌が恐ろしく見えた。
それを駆ることになっているアリスは、クラリスの心中など知りもせず、期待感を膨らませていた。
「毎日見ててよく飽きないわねぇ」
「私は技士でもあるからな。単純に組み上がってくのは見てて面白ぇぞ」
望月重工の保護施設から通算で数年。
アリスとクラリスの関係はそれなりに長いが、クラリスにはまだアリスを理解しきれない。
技士として操縦士として尊敬し憧れもしている。性格も把握しているが、時折垣間見える戦闘狂いの様相には、少しだけ、恐怖を感じる事がある。
ジャッカルを見やるアリスは、そういう目をしている時がある。
どこかに、行ってしまいそうな、そんな目を。
そんな時、二人の足元から声がかかった。
「リーダー、クラリス、食事ですわよー」
下を覗き込むと、桃色がかったプラチナをなびかせるお姫様が、床に長い影を落としていた。
「おーう、今行くー」
アリスが返事をし、クラリスは小さく手を振った。
歩廊から降りると、そのお姫様ービアンカ・マギアマキナは言う。
「タツキも呼ぶように言われてるの。途中で電算室に寄りましょう」
格納庫を出て、3人で社屋の別棟へ。
別棟は居住スペースと書庫、電算室などでできており、集合住宅然としている。
スカートをふわふわ揺らしながら先導するビアンカについていくと、すぐに電算室にたどり着いた。
扉を開けると、冷気にまとわりつかれた薄暗い部屋に、茶髪で眼鏡姿の女性がPCにかじりついてぶつくさ言いつつキーボードを叩いている。
「おーい、飯だぞー、竜貴ー、聞こえてっかー」
極度に寒い部屋にアリスは入らずに、カーディガンの背中に言葉を投げるが、どうやら聞こえていないらしい。
仕方なく、クラリスが部屋に入り、肩を叩いてようやく振り向いた。
「ん?クラリスか?みんな揃ってどうした?」
東雲竜貴(シノノメ・タツキ)。
元整備・電算技士であり、今はグリムシェイド調達部隊兼電算技士。
隊の中では最年長だが、それでも技士たちの年齢の半分は行かないくらい。
そんなうら若い乙女が、寝食も忘れて仕事にかまけていたらしい。
「飯だ、飯。そろそろ切りあげろ」
そう言われて、竜貴は時計を見やり、それから立ち上がって伸びをした。
「随分没頭していたみたいだ。呼びに来てくれて助かるよ」
竜貴が行っていたのは、ジャッカルのためのデータ整備だ。
戦闘データが膨大すぎるのと、アリスの要望に合わせた調整に手こずっているらしい。
「だが、だいぶ掴めてきたよ。リーダーの望む機体完成ももうすぐだな」
「頼むぜ、竜貴。だが、長時間の労働は良くねぇな」
「はは。全くだな。あまり根を詰めないように気を付けよう」
アリス、クラリス、ビアンカ、竜貴、以上4名。
このチームがジャンク屋グリムシェイドの調達部隊であり、戦場で恐れられ嫌われるハイエナであると、誰が見るだろうか。
傍目には女子4人組。
かしましい青春にありそうな雰囲気だが、それは一部に過ぎない。
グリムシェイドの代名詞。
これらの真価は、戦禍の鉄火場にて発揮される。
ーーー
明くる日。
グリムシェイド社、ブリーフィングルーム。
「皆様、ブリーフィングを始めますので、ご着席くださいませ」
鋼の身体をしなやかに操るAIが、皆に着席を促す。
女性型だが、スキンはアタッチされておらず、まんまアンドロイドなのに、妙に人間臭い。
アリスはそんな事を考えながら席についた。
調達部隊の仕事は不定期である。
それというのも、アリスたちの働きにより、常々倉庫には在庫が溢れ、ピーキーな死蔵兵装が積まれていくからだ。
それでも、望月重工や酔狂な傭兵たちとの取引で在庫がはけるため、その都度仕入れにいく。
今回もそんないつもの調達任務だろう。
テーブルに集まったのは、アリスを含めた調達部隊4人に加え、グリムシェイドの社長であるレオン・グリムシェイド、社長秘書AIのドロシー、技師長デイビッド・グラハムの計7人。
ドロシーの進行により、照明が暗くなり、ホログラムビジョンが展開される。
「今回の調達は、襲撃された連合軍基地での任務となります」
映り込むのは、大地に亀裂の走る荒野と半壊して荒れた連合軍の基地跡。
だだっ広い平地で、地下にもプラントや発電所などの構造物があるようだが、所々崩落しているように見える。
ドロシーによると、かつてバイロンの特殊工作部隊により局所的地殻変動兵器が使用され、基地ごと攻撃を受けた場所とのこと。
ここには連合軍の兵器開発局支部があったそうで、その破壊もしくは奪取を目論んでの攻撃だったのだが、それは迅速な撤退により頓挫し、戦略的な優位性も資源も特に見当たらないこの区画はバイロンも少数のみを残して半ば放置している。
「バイロン側で配備されている部隊は、3小隊エグザマクス計15機で編成されています。随伴する整備士、歩兵を含めて50名程度の敵兵が想定されます」
エグザマクス15機、そのうち隊長機が3機。
戦力としてロイロイ数機も随伴し、主な任務は偵察。
そのため夜襲用の暗色と土地に合わせたサンドカラーのポルタノヴァが主戦力で、通信強化されたシエルノヴァが隊長機の他に配備されているらしい。
隊長機はカスタム機体で、原型は留めているものの、金になりそうな装備をしている。
「今回の調達では、第一目標を隊長機3機の鹵獲、第二目標を連合軍開発データのサルベージとします。敵性機体はなるべく破壊せずに排除してください」
任務開始時刻は日没後。
時間でいうと半日後くらいか。
移動時間を含めると、この後準備をして、軽く打ち合わせする時間くらいはあるな。
ドロシーの情報では、偵察任務から小隊が戻ってくる周期で、その時間であればちょうど全ての機体が集まるらしい。
「任務エリアは平地となりますので、狙撃はせずに強襲し、速やかに戦力排除という方針で進めていただきますが、何か質問はございますか?」
「夜襲で敵機15、了解。敵兵の扱いは?」
「敵兵は、生存者については連合軍引き渡しとします。生死は問いませんが、節度ある行動を心掛けていただければ幸いです」
敵兵は可能な限り殺すな、ね。
さて、機体の鹵獲と人命、どっちが軽いのやら。
技士長デイビッドからは、アリスに対して要望が出る。
「ミス・ピルグリム。技士チームからの要望で、マニピュレータと動力炉が不足気味なので多めに欲しい」
「おう。任せな。標本にして持ち帰ってやるよ」
マニピュレータは肩からもぎとれば綺麗にいくな。
動力炉はコア背中付近だが、頭を飛ばせばなんとかなるだろ。
「他に質問がなければブリーフィングを終了します。調達部隊各員は、輸送時間までに準備を完了し、5番格納庫まで集合してください」
グリムシェイド社、ブリーフィングルーム。
「皆様、ブリーフィングを始めますので、ご着席くださいませ」
鋼の身体をしなやかに操るAIが、皆に着席を促す。
女性型だが、スキンはアタッチされておらず、まんまアンドロイドなのに、妙に人間臭い。
アリスはそんな事を考えながら席についた。
調達部隊の仕事は不定期である。
それというのも、アリスたちの働きにより、常々倉庫には在庫が溢れ、ピーキーな死蔵兵装が積まれていくからだ。
それでも、望月重工や酔狂な傭兵たちとの取引で在庫がはけるため、その都度仕入れにいく。
今回もそんないつもの調達任務だろう。
テーブルに集まったのは、アリスを含めた調達部隊4人に加え、グリムシェイドの社長であるレオン・グリムシェイド、社長秘書AIのドロシー、技師長デイビッド・グラハムの計7人。
ドロシーの進行により、照明が暗くなり、ホログラムビジョンが展開される。
「今回の調達は、襲撃された連合軍基地での任務となります」
映り込むのは、大地に亀裂の走る荒野と半壊して荒れた連合軍の基地跡。
だだっ広い平地で、地下にもプラントや発電所などの構造物があるようだが、所々崩落しているように見える。
ドロシーによると、かつてバイロンの特殊工作部隊により局所的地殻変動兵器が使用され、基地ごと攻撃を受けた場所とのこと。
ここには連合軍の兵器開発局支部があったそうで、その破壊もしくは奪取を目論んでの攻撃だったのだが、それは迅速な撤退により頓挫し、戦略的な優位性も資源も特に見当たらないこの区画はバイロンも少数のみを残して半ば放置している。
「バイロン側で配備されている部隊は、3小隊エグザマクス計15機で編成されています。随伴する整備士、歩兵を含めて50名程度の敵兵が想定されます」
エグザマクス15機、そのうち隊長機が3機。
戦力としてロイロイ数機も随伴し、主な任務は偵察。
そのため夜襲用の暗色と土地に合わせたサンドカラーのポルタノヴァが主戦力で、通信強化されたシエルノヴァが隊長機の他に配備されているらしい。
隊長機はカスタム機体で、原型は留めているものの、金になりそうな装備をしている。
「今回の調達では、第一目標を隊長機3機の鹵獲、第二目標を連合軍開発データのサルベージとします。敵性機体はなるべく破壊せずに排除してください」
任務開始時刻は日没後。
時間でいうと半日後くらいか。
移動時間を含めると、この後準備をして、軽く打ち合わせする時間くらいはあるな。
ドロシーの情報では、偵察任務から小隊が戻ってくる周期で、その時間であればちょうど全ての機体が集まるらしい。
「任務エリアは平地となりますので、狙撃はせずに強襲し、速やかに戦力排除という方針で進めていただきますが、何か質問はございますか?」
「夜襲で敵機15、了解。敵兵の扱いは?」
「敵兵は、生存者については連合軍引き渡しとします。生死は問いませんが、節度ある行動を心掛けていただければ幸いです」
敵兵は可能な限り殺すな、ね。
さて、機体の鹵獲と人命、どっちが軽いのやら。
技士長デイビッドからは、アリスに対して要望が出る。
「ミス・ピルグリム。技士チームからの要望で、マニピュレータと動力炉が不足気味なので多めに欲しい」
「おう。任せな。標本にして持ち帰ってやるよ」
マニピュレータは肩からもぎとれば綺麗にいくな。
動力炉はコア背中付近だが、頭を飛ばせばなんとかなるだろ。
「他に質問がなければブリーフィングを終了します。調達部隊各員は、輸送時間までに準備を完了し、5番格納庫まで集合してください」
ーーー
5番格納庫。
調達任務、出立前。
そこには準備を終えた4機のエグザマクスが物言わず待機していた。
調達部隊、機体番号05、アリス機エンヴィエンプレス。
調達部隊、機体番号02、竜貴機ニーズヘッグ・ルミナス。
調達部隊、機体番号03、クラリス機ファントムハウンド・リベリオン。
調達部隊、機体番号04、ビアンカ機シンダープリンセス・ミヤビ。
機体番号01であるスノウホワイト・ロストハートは、ジャッカルの新設に伴い解体され、今はもう無い。
だが、今回の任務は夜戦のため、いずれにせよ夜戦用であるエンプレスの出番だった。
そして、惑星グロリアでのトーナメント戦・ゲートドラゴン戦以来、久々のまともな戦闘任務である。
アリスがエンプレスの操縦席に乗り込むと、早速通信回路が開いた。
「アリス、遅かったわね」
クラリスか。
任務前だってのにおしゃべりだな。
「スノウホワイトじゃないと、やっぱ落ち着かなくてな」
まぁ、輸送中の暇つぶしにはちょうど良い。
それに、長い事一緒だった操縦席でないのには、やはり多少の違和感がある。
「リーダーも相棒には愛着があるのかい?」
竜貴がからかってくるが。
「お前だって、ジャバウォックが燃えた後は腑抜けてただろ」
機体を失ったあとの竜貴の腑抜け様よりはマシだ。
なんせ、夜な夜な泣き上戸で呑んだくれていたのだ。
「機体に愛着がないなんてある訳ないわ。だって私のお姫様はこんなにも可憐なのですもの。それぞれ拘りがあるでしょう?」
ビアンカはこの中で一番愛着を持っているだろうな。
なんせ、見た目が気に入らないから改修させる暴君っぷりなのだから。
おかげで無印のシンダープリンセスは交戦記録がほとんどゼロのまま改修されちまった。
まぁ、結果的に機体自体は効率化されたけどな。
そんな雑談をしているうちに、輸送時間となった。
調達部隊の日常は、戦場までもつれこんでいく。
調達任務、出立前。
そこには準備を終えた4機のエグザマクスが物言わず待機していた。
調達部隊、機体番号05、アリス機エンヴィエンプレス。
調達部隊、機体番号02、竜貴機ニーズヘッグ・ルミナス。
調達部隊、機体番号03、クラリス機ファントムハウンド・リベリオン。
調達部隊、機体番号04、ビアンカ機シンダープリンセス・ミヤビ。
機体番号01であるスノウホワイト・ロストハートは、ジャッカルの新設に伴い解体され、今はもう無い。
だが、今回の任務は夜戦のため、いずれにせよ夜戦用であるエンプレスの出番だった。
そして、惑星グロリアでのトーナメント戦・ゲートドラゴン戦以来、久々のまともな戦闘任務である。
アリスがエンプレスの操縦席に乗り込むと、早速通信回路が開いた。
「アリス、遅かったわね」
クラリスか。
任務前だってのにおしゃべりだな。
「スノウホワイトじゃないと、やっぱ落ち着かなくてな」
まぁ、輸送中の暇つぶしにはちょうど良い。
それに、長い事一緒だった操縦席でないのには、やはり多少の違和感がある。
「リーダーも相棒には愛着があるのかい?」
竜貴がからかってくるが。
「お前だって、ジャバウォックが燃えた後は腑抜けてただろ」
機体を失ったあとの竜貴の腑抜け様よりはマシだ。
なんせ、夜な夜な泣き上戸で呑んだくれていたのだ。
「機体に愛着がないなんてある訳ないわ。だって私のお姫様はこんなにも可憐なのですもの。それぞれ拘りがあるでしょう?」
ビアンカはこの中で一番愛着を持っているだろうな。
なんせ、見た目が気に入らないから改修させる暴君っぷりなのだから。
おかげで無印のシンダープリンセスは交戦記録がほとんどゼロのまま改修されちまった。
まぁ、結果的に機体自体は効率化されたけどな。
そんな雑談をしているうちに、輸送時間となった。
調達部隊の日常は、戦場までもつれこんでいく。
ーーー
2.
「これより任務区域に入ります。各機順次投下後、行動を開始してくださいませ。ご武運を」
無機質なドロシーの通信を皮切りに、アリスたち調達部隊は輸送ヘリから投下される。
夜の静寂に風切り音が交じるが、ステルスコートを纏った降下が敵に気付かれる可能性は低い。
鋼が大地を砕く音を低く響かせ、4機のエグザマクスが戦地に立ち上がった。
ここから先は少しの間、徒歩移動だ。
機体のスラスターをふかし、通信機に号を出す。
「任務開始だ。お前ら、遅れんなよ」
「「「了解」」」
無機質なドロシーの通信を皮切りに、アリスたち調達部隊は輸送ヘリから投下される。
夜の静寂に風切り音が交じるが、ステルスコートを纏った降下が敵に気付かれる可能性は低い。
鋼が大地を砕く音を低く響かせ、4機のエグザマクスが戦地に立ち上がった。
ここから先は少しの間、徒歩移動だ。
機体のスラスターをふかし、通信機に号を出す。
「任務開始だ。お前ら、遅れんなよ」
「「「了解」」」
ーーー
同時刻。
バイロン軍局地偵察部隊、旧連合軍研究所駐屯地。
その日は連合軍基地付近の定期偵察を終えた小隊が帰還する日だった。
夕闇に紛れて帰還する同胞が5機。
隊長機シエルノヴァ・レイヴンを先頭に、シエルノヴァ電子戦仕様とポルタノヴァ3機の編成が、いつものように無事に戻ってくる。
基地警戒にあたる歩兵の一人は母星から遥か彼方のこの惑星で、同胞の無事な帰還を今回も噛み締めていた。
「偵察任務完了。緊急報告なし。後ほど詳細報告する」
異常のない報告が部隊内通信で流れる。
また一日、無事に生き延びられたようだ。
格納庫に向かっていく5機のエグザマクス。
安堵に気を抜いた、黄昏の逢魔が時。
それは地獄を招き寄せた闇の帷であった。
「っ、敵しーーー」
通信機の焦った声は、全てを伝える前に特大のノイズを残して沈黙した。
そんなものよりも、目の前の光景の方が事実を物語っていた。
漆黒に赤光。
ぬらりと光る刀状のマテリアルブレードが、電子戦仕様機の頭部をバックパックごと切り飛ばしていた。
電子戦仕様機は返す刀でそのまま脚部膝裏を切られ、行動不能。
おまけに肩関節に刃を差し込まれ、刀身を蹴り込むことで両腕ともをもがれた。
鋭利な頭部は同じバイロンであるはずのシエルノヴァに見える。しかし、扱うブレードはマクシオン、マウントの銃火器は連合軍のものにも見える。
この機体は何者なんだ?
歩兵はそんな陳腐な感想しか思い浮かべる事ができなかった。
ここまでほとんど一瞬。
さらに状況は混迷し、強襲に対応しきれなかった一瞬がさらなる惨劇を招いた。
後続で現れたマクシオン武者風の赤黒い機体。
その機体が振るう、シエルノヴァさえ超えるほどの巨大な剣で、隊長機の武装ごと右腕が宙を舞った。
それだけではない。
ポルタノヴァのうち2機は並んでいたために、流星の如く飛来した異形機体のエネルギーブレードによって、頭部を損失した。
残る1機のポルタノヴァも、後方から撃たれたビームによって頭部が破壊され、同時に股関節も穿たれた。
歩兵には何が起こったのか、まるでわからなかった。
認識できたのは最初だけで、あとは赤黒い武者風の機体の巻き起こしたソニックブームで吹き飛ばされてしまったからだ。
その後、隊長機の左腕と両足ももがれ、ポルタノヴァは関節を破壊され、1つ目の小隊が壊滅した。
ここまで5分とかかっていない。
それでも機体に乗り込み、バイロンの残りの小隊の何機かは出撃した。
だが、強襲はほとんど完了したに等しかった。
戦力の逐次投入は、襲撃者にとって格好の的でしかなかった。
なんせ敵の機体が高機動型で速度が圧倒的に速いため、攻撃が全く当たらない。
当たっても装甲に僅かに傷をつけるだけだった。
加えて、攻撃できるほどマークされていない機体には、攻撃後にもれなく後方からのビームが飛んできた。
徹底的な戦力排除だった。
まとまってかかれば勝機は万に一つ程度はあったかもしれないが、烏合の衆と化したバイロン軍では為すすべもない。
結果的に隊長機が最後になるまでの時間は、およそ15分。
敵機4機は健在で、隊長機の前に漆黒の機体が立つ。
「一騎打ちでもしようと言うのか…!舐めやがって!」
比較的若い、才能のある小隊長は、漆黒の機体の誘いに乗った。
どのみち、まとめてかかられては勝ち目がなく、誘いに乗るしかなかった。
隊長機シエルノヴァ・レイヴンは漆黒の機体を前に、ビームライフルを構えた。
漆黒の機体はレーザーライフルとアサルトライフルを構え、レイヴンの先攻を誘う。
「どこまでも虚仮にするか!」
小隊長は若かった。
自分の実力に自信があった。
ビームライフルの引き金を引いた。
銃口がフラッシュするとともに、腰のアサルトアクスを引き抜き、地面を蹴る。
この間合いであれば長めのライフルよりも格闘武器の方が速い。
目くらましのビームをスライドするように回避した漆黒の機体、その胴体をめがけてアサルトアクスを横薙ぎに振るう。
取った!
小隊長は確信したが、それはすぐに間違いだと気付いた。
「なん、だと!ブレードだ、と!」
アサルトアクスは、腰に納められていたマテリアルブレードによって受けられていた。
あれは、マクシオンに見る、カタナ……!
同時に、逆の腰から抜刀されたもうひとふりが、メインカメラに向かって閃くのにも。
その瞬間、メインカメラの映像が切れて、操縦席がブラックアウトした。
抜刀した2刀のうち片方で受け、もう片方で居合抜きをしたのだ。
何という腕前か。何という判断力なのか。
飛びかかられた一瞬でビームを避けつつ獲物を放り投げ、カタナの間合いにて処断した。
闇の中の操縦席で、小隊長は冷や汗とともに事実を反芻した。
直後、衝撃が小隊長を襲い、そしてハッチがちからずくでこじ開けられた。
「よぉ、隊長さん。大人しく投降しな。命までは取らねえぜ」
漆黒の機体から、少女の声で投降勧告がなされた。
約30分。
バイロン軍の偵察小隊は、短時間の強襲によって、ロイロイを含む全てのエグザマクスを失った。
その事実に、小隊長は歯噛みした。
もはや小隊長は、投降する他に無かった。
バイロン軍局地偵察部隊、旧連合軍研究所駐屯地。
その日は連合軍基地付近の定期偵察を終えた小隊が帰還する日だった。
夕闇に紛れて帰還する同胞が5機。
隊長機シエルノヴァ・レイヴンを先頭に、シエルノヴァ電子戦仕様とポルタノヴァ3機の編成が、いつものように無事に戻ってくる。
基地警戒にあたる歩兵の一人は母星から遥か彼方のこの惑星で、同胞の無事な帰還を今回も噛み締めていた。
「偵察任務完了。緊急報告なし。後ほど詳細報告する」
異常のない報告が部隊内通信で流れる。
また一日、無事に生き延びられたようだ。
格納庫に向かっていく5機のエグザマクス。
安堵に気を抜いた、黄昏の逢魔が時。
それは地獄を招き寄せた闇の帷であった。
「っ、敵しーーー」
通信機の焦った声は、全てを伝える前に特大のノイズを残して沈黙した。
そんなものよりも、目の前の光景の方が事実を物語っていた。
漆黒に赤光。
ぬらりと光る刀状のマテリアルブレードが、電子戦仕様機の頭部をバックパックごと切り飛ばしていた。
電子戦仕様機は返す刀でそのまま脚部膝裏を切られ、行動不能。
おまけに肩関節に刃を差し込まれ、刀身を蹴り込むことで両腕ともをもがれた。
鋭利な頭部は同じバイロンであるはずのシエルノヴァに見える。しかし、扱うブレードはマクシオン、マウントの銃火器は連合軍のものにも見える。
この機体は何者なんだ?
歩兵はそんな陳腐な感想しか思い浮かべる事ができなかった。
ここまでほとんど一瞬。
さらに状況は混迷し、強襲に対応しきれなかった一瞬がさらなる惨劇を招いた。
後続で現れたマクシオン武者風の赤黒い機体。
その機体が振るう、シエルノヴァさえ超えるほどの巨大な剣で、隊長機の武装ごと右腕が宙を舞った。
それだけではない。
ポルタノヴァのうち2機は並んでいたために、流星の如く飛来した異形機体のエネルギーブレードによって、頭部を損失した。
残る1機のポルタノヴァも、後方から撃たれたビームによって頭部が破壊され、同時に股関節も穿たれた。
歩兵には何が起こったのか、まるでわからなかった。
認識できたのは最初だけで、あとは赤黒い武者風の機体の巻き起こしたソニックブームで吹き飛ばされてしまったからだ。
その後、隊長機の左腕と両足ももがれ、ポルタノヴァは関節を破壊され、1つ目の小隊が壊滅した。
ここまで5分とかかっていない。
それでも機体に乗り込み、バイロンの残りの小隊の何機かは出撃した。
だが、強襲はほとんど完了したに等しかった。
戦力の逐次投入は、襲撃者にとって格好の的でしかなかった。
なんせ敵の機体が高機動型で速度が圧倒的に速いため、攻撃が全く当たらない。
当たっても装甲に僅かに傷をつけるだけだった。
加えて、攻撃できるほどマークされていない機体には、攻撃後にもれなく後方からのビームが飛んできた。
徹底的な戦力排除だった。
まとまってかかれば勝機は万に一つ程度はあったかもしれないが、烏合の衆と化したバイロン軍では為すすべもない。
結果的に隊長機が最後になるまでの時間は、およそ15分。
敵機4機は健在で、隊長機の前に漆黒の機体が立つ。
「一騎打ちでもしようと言うのか…!舐めやがって!」
比較的若い、才能のある小隊長は、漆黒の機体の誘いに乗った。
どのみち、まとめてかかられては勝ち目がなく、誘いに乗るしかなかった。
隊長機シエルノヴァ・レイヴンは漆黒の機体を前に、ビームライフルを構えた。
漆黒の機体はレーザーライフルとアサルトライフルを構え、レイヴンの先攻を誘う。
「どこまでも虚仮にするか!」
小隊長は若かった。
自分の実力に自信があった。
ビームライフルの引き金を引いた。
銃口がフラッシュするとともに、腰のアサルトアクスを引き抜き、地面を蹴る。
この間合いであれば長めのライフルよりも格闘武器の方が速い。
目くらましのビームをスライドするように回避した漆黒の機体、その胴体をめがけてアサルトアクスを横薙ぎに振るう。
取った!
小隊長は確信したが、それはすぐに間違いだと気付いた。
「なん、だと!ブレードだ、と!」
アサルトアクスは、腰に納められていたマテリアルブレードによって受けられていた。
あれは、マクシオンに見る、カタナ……!
同時に、逆の腰から抜刀されたもうひとふりが、メインカメラに向かって閃くのにも。
その瞬間、メインカメラの映像が切れて、操縦席がブラックアウトした。
抜刀した2刀のうち片方で受け、もう片方で居合抜きをしたのだ。
何という腕前か。何という判断力なのか。
飛びかかられた一瞬でビームを避けつつ獲物を放り投げ、カタナの間合いにて処断した。
闇の中の操縦席で、小隊長は冷や汗とともに事実を反芻した。
直後、衝撃が小隊長を襲い、そしてハッチがちからずくでこじ開けられた。
「よぉ、隊長さん。大人しく投降しな。命までは取らねえぜ」
漆黒の機体から、少女の声で投降勧告がなされた。
約30分。
バイロン軍の偵察小隊は、短時間の強襲によって、ロイロイを含む全てのエグザマクスを失った。
その事実に、小隊長は歯噛みした。
もはや小隊長は、投降する他に無かった。
ーーー
闇が辺りを包む。
制圧後、アリスは竜貴に加えて、ドロシーが制御下においたロイロイに捕虜を任せ、連合軍に捕虜の対処を要請させた。
連合軍の応答によると、付近の基地から隊を送るため、引き渡しは明日の朝になるらしく、調達部隊は一晩の駐留を要請され、それをドロシーが承諾したらしい。
いずれにせよ、グリムシェイドの資材回収も待たねばならないし、施設のデータを調べる必要もあったため、アリスは軽く食事を取ったあと、クラリスを伴って、施設の調査を開始した。
地下施設はそれなりに生きており、バイロン軍も同じようにデータを漁っていた形跡が見られる。
施設内から各端末を引っ張ってきて、即席の解析部屋を作っていたようで、今のアリスたちには好都合だった。
ビアンカと輸送班が積み込みを始めたのか、地上から微かな振動と重低音が聞こえてくる。
こっちも仕事を進めよう。
「クラリス、わかってるとは思うが、任務対象は連合軍の開発データだ」
クラリスに声をかけると、アリスは開発データがないか、そこらの機材を起動し、ハッキングを試し始める。
クラリスもまた同様だ。
「わかってる。ミス・ピルグリム、他にご注文はございますか?」
ドロシーの分離端末のおかげで、こういう怪しい事は割と容易に出来てしまう。
作業を進めつつ、クラリスはおどけてみせる。
クラリスがアリスをアリスと呼ばない時は、おおよそ冗談である。
ついでに、その裏に何か聞きたいことがあるのは、長年の付き合いで知っていた。
「給仕の真似事は似合わねぇぜ?まぁ、そうだな。強いていうなら、少年兵の情報……とか、だな」
今回は、多分アリスの過去の事、だと思う。
「気になる?」
「まあな。前にも少し話したが、過去は忘れてるからな。気にならんと言ったらそれは嘘になる」
アリスは戦争孤児であり、少年兵だった。
無理やりエグザマクスに乗せられ、使役された。
その事実は覚えているのだが、どうにも記憶が曖昧で、両親の事や生まれは思い出せない。
別に不要だ。
アリスはそう思うようにしている。
だが、そうはいっても、気にはなる。
別に記憶が惜しいわけではなく、アリスをそんな状況に陥れた奴がわかればいい、くらいの感覚で。
「いつもより素直じゃない」
「今はお前だけだからな。つい言わなくても良いことまで喋っちまう」
今まで無力感に苛まれてきたんだ。
生き残った罪悪感や、殺人に対する嫌悪もな。
過去は忘れているが、そういう気持ちがあって、それすら砕けたことはわかるのだ。
例えそれらを記憶の片隅に追いやっていたとしても、そうさせた奴がわかるなら、復讐したいと思うだろ?
アリスの言葉を、クラリスがどう捉えたのかまではわからない。
だが、少なくともアリスの言葉に嘘はない。
得てして、正直者にはご褒美があるようだった。
「おっと、ビンゴだぜ。連合軍の兵器データだ」
「こっちも当たりだわ。これは……兵器の実証実験ね」
任務の手土産をまんまと見つけ、二人は携帯端末を通じてそれらのデータの回収にかかった。
しばらく時間がかかりそうだ。
アリスはなんの気無しに他のデータを閲覧する。
ふむ。ここでは兵器開発の他にも色々と手を出していたらしい。
エグザマクスの兵装はもちろん、広域殲滅目的のものや、戦艦、宇宙船、それらに使用する様々な構成要素を総合的に研究している。
その他では、連合軍加盟国の内戦状況やバイロン出現地域の分析、果てはゲート技術やカラーズ、傭兵などの特殊因子となる団体やパイロット情報まで。
それらは穴開きの不完全情報ではあるが、足がかりとしては有益だろう。
そして、アリスは見つけた。
(……こいつは、別の意味で当たりを引いたな)
忘れているのに、見覚えのある顔。
忘れているのに、心がチリチリと燃え上がりそうになる、憎らしい顔。
反連合軍テロリスト、神無冬舞(カンナ トウマ)。
銀髪の、冷酷な目をした男。
少年兵を酷使してまで、内紛を起こしていた男。
こいつの事を、私は覚えている。
アリスの心に、焔が灯る。
そのデータには、テロリスト氏名と所有する機体情報、所属組織、活動場所などが記録されていた。
最近のものは抜け落ちているが、それでも足跡を辿るヒントくらいにはなる。
プライベート端末を取り出し、アリスはクラリスにみえないようにこっそりとデータをダウンロードした。
「ーーーこっちは、データ回収、完了だ。そっち、は?」
「バッチリよ。さっさと戻りましょう」
クラリスからは、椅子から立ち上がったアリスの顔が見えなかった。
見えていたら、きっと異変に気付いていた。
(……これでこの焔を解き放てる。待ってろよ、テロリスト)
燃え盛る獄炎が、その瞳を染めていたのを。
口元が戦慄き、吊り上がっているのを。
嗤う悪魔の如き形相になっているのを。
きっと見逃さなかっただろう。
制圧後、アリスは竜貴に加えて、ドロシーが制御下においたロイロイに捕虜を任せ、連合軍に捕虜の対処を要請させた。
連合軍の応答によると、付近の基地から隊を送るため、引き渡しは明日の朝になるらしく、調達部隊は一晩の駐留を要請され、それをドロシーが承諾したらしい。
いずれにせよ、グリムシェイドの資材回収も待たねばならないし、施設のデータを調べる必要もあったため、アリスは軽く食事を取ったあと、クラリスを伴って、施設の調査を開始した。
地下施設はそれなりに生きており、バイロン軍も同じようにデータを漁っていた形跡が見られる。
施設内から各端末を引っ張ってきて、即席の解析部屋を作っていたようで、今のアリスたちには好都合だった。
ビアンカと輸送班が積み込みを始めたのか、地上から微かな振動と重低音が聞こえてくる。
こっちも仕事を進めよう。
「クラリス、わかってるとは思うが、任務対象は連合軍の開発データだ」
クラリスに声をかけると、アリスは開発データがないか、そこらの機材を起動し、ハッキングを試し始める。
クラリスもまた同様だ。
「わかってる。ミス・ピルグリム、他にご注文はございますか?」
ドロシーの分離端末のおかげで、こういう怪しい事は割と容易に出来てしまう。
作業を進めつつ、クラリスはおどけてみせる。
クラリスがアリスをアリスと呼ばない時は、おおよそ冗談である。
ついでに、その裏に何か聞きたいことがあるのは、長年の付き合いで知っていた。
「給仕の真似事は似合わねぇぜ?まぁ、そうだな。強いていうなら、少年兵の情報……とか、だな」
今回は、多分アリスの過去の事、だと思う。
「気になる?」
「まあな。前にも少し話したが、過去は忘れてるからな。気にならんと言ったらそれは嘘になる」
アリスは戦争孤児であり、少年兵だった。
無理やりエグザマクスに乗せられ、使役された。
その事実は覚えているのだが、どうにも記憶が曖昧で、両親の事や生まれは思い出せない。
別に不要だ。
アリスはそう思うようにしている。
だが、そうはいっても、気にはなる。
別に記憶が惜しいわけではなく、アリスをそんな状況に陥れた奴がわかればいい、くらいの感覚で。
「いつもより素直じゃない」
「今はお前だけだからな。つい言わなくても良いことまで喋っちまう」
今まで無力感に苛まれてきたんだ。
生き残った罪悪感や、殺人に対する嫌悪もな。
過去は忘れているが、そういう気持ちがあって、それすら砕けたことはわかるのだ。
例えそれらを記憶の片隅に追いやっていたとしても、そうさせた奴がわかるなら、復讐したいと思うだろ?
アリスの言葉を、クラリスがどう捉えたのかまではわからない。
だが、少なくともアリスの言葉に嘘はない。
得てして、正直者にはご褒美があるようだった。
「おっと、ビンゴだぜ。連合軍の兵器データだ」
「こっちも当たりだわ。これは……兵器の実証実験ね」
任務の手土産をまんまと見つけ、二人は携帯端末を通じてそれらのデータの回収にかかった。
しばらく時間がかかりそうだ。
アリスはなんの気無しに他のデータを閲覧する。
ふむ。ここでは兵器開発の他にも色々と手を出していたらしい。
エグザマクスの兵装はもちろん、広域殲滅目的のものや、戦艦、宇宙船、それらに使用する様々な構成要素を総合的に研究している。
その他では、連合軍加盟国の内戦状況やバイロン出現地域の分析、果てはゲート技術やカラーズ、傭兵などの特殊因子となる団体やパイロット情報まで。
それらは穴開きの不完全情報ではあるが、足がかりとしては有益だろう。
そして、アリスは見つけた。
(……こいつは、別の意味で当たりを引いたな)
忘れているのに、見覚えのある顔。
忘れているのに、心がチリチリと燃え上がりそうになる、憎らしい顔。
反連合軍テロリスト、神無冬舞(カンナ トウマ)。
銀髪の、冷酷な目をした男。
少年兵を酷使してまで、内紛を起こしていた男。
こいつの事を、私は覚えている。
アリスの心に、焔が灯る。
そのデータには、テロリスト氏名と所有する機体情報、所属組織、活動場所などが記録されていた。
最近のものは抜け落ちているが、それでも足跡を辿るヒントくらいにはなる。
プライベート端末を取り出し、アリスはクラリスにみえないようにこっそりとデータをダウンロードした。
「ーーーこっちは、データ回収、完了だ。そっち、は?」
「バッチリよ。さっさと戻りましょう」
クラリスからは、椅子から立ち上がったアリスの顔が見えなかった。
見えていたら、きっと異変に気付いていた。
(……これでこの焔を解き放てる。待ってろよ、テロリスト)
燃え盛る獄炎が、その瞳を染めていたのを。
口元が戦慄き、吊り上がっているのを。
嗤う悪魔の如き形相になっているのを。
きっと見逃さなかっただろう。
ーーー
3.
数日後。
アリスの期待を一身に受けた機体が完成した。
格納庫に集まるグリムシェイド社の全社員が見守る中、技士長デイビッドと設計補佐の竜貴がアリスの前に立つ。
「この機体の名前は、|月蝕石《ムーンクォーツ》。他者の光を受けてなお霞まぬ、燦然と輝く夜星の名を冠する、リーダー専用機だ」
「スペックはこないだ渡した完成版の通りだ。もちろん隅から隅まで読み込んでるんだろ、ミス・ピルグリム」
巨躯の魔神、月の使者。
スノウホワイトから引き継いだ経験と技術、象徴としてのアサルトライフルとレーザーライフルを携え、空戦機体であるポラリスセイバーの飛行技術を詰め込んだ、空を裂く死神。
その大きさに見合う円弧にたわんだ連接剣は、それ自体にも動力が仕込まれ、まるで蛇のようにうねる。
死神の身の丈を更に超えるバスターレーザーカノンは、並のエグザマクスでは扱えない、母線規模戦艦に搭載されるはずの主砲級。
補完するように小回りのきく魔砲杖とミサイルポッドが備えられ、汎用性の高いライフル2種が引き継がれた、ハイエンドの高機動高火力汎用機。
これがアリスの望んだ、不敗のエース。
「ハハッ!コイツは良い!最っ高じゃねぇか!」
アリスは歓喜していた。
コイツなら負けない。
どんなやつにも引けをとらない。
アリスの内に燃え盛る地獄の焔すら、コイツとなら燃料だ。
アリスは年端も行かない子供がプレゼントを与えられた時のように跳ねて喜んだ。
そして、そのまま搭乗する。
「このまま試運転と洒落こませてもらうぜ?」
操縦席はスノウホワイトに似ている。
操縦桿の握り心地は、生まれたときから一緒だったように馴染む。
右、左、と順に腕やマニピュレータを動かす。
デカイだけじゃなく、繊細な動きをする。
マウントした武器の持ち替えも素早く、静かだ。
足の動きと脚部が連動する。意に反さずスムーズに動く脚部には感動すらおぼえる。
格納庫の外まで歩けば、空は快晴。
飛行試験にゃおあつらえ向け。
スラスターをふかす。
メインフレームのツインブースターに火を入れる。
機体を包む浮遊感が、コイツの速さを予感させる。
無意識に、口がニヤけた。
「お前、最高だ!」
操縦桿を握り込み、連動したブースターが吠えたける。
同時、衝撃的な振動とともに、死神が動き出した。
一気に加速して身体に凄まじい負荷がかかるが、高機動乗りには準備運動ですらない。
加速、加速、加速!
滑走路を走り抜け、バインダーウィングで風を切り、アリスは新しい相棒とともに踏み切り、空へ駆け出した。
機体制御は意のままに。
加速は底を知らず、立体機動はキレッキレにキマる。
これが最高と言わずして、何が最高なのか。
アリスはその後、動力炉が熱を吐き出せなくなる直前までアクロバット飛行をやめなかった。
その後コックピットから降りてきたアリスのお肌は、ツヤッツヤに輝いていたとか。
ともかくこの時点で、ジャンク屋グリムシェイドに最凶の魔神が誕生した。
白く輝く闇の結晶。
その魔神は、乗り手の想いを形にすべく、茨の戦いを引き寄せていく。
アリスの期待を一身に受けた機体が完成した。
格納庫に集まるグリムシェイド社の全社員が見守る中、技士長デイビッドと設計補佐の竜貴がアリスの前に立つ。
「この機体の名前は、|月蝕石《ムーンクォーツ》。他者の光を受けてなお霞まぬ、燦然と輝く夜星の名を冠する、リーダー専用機だ」
「スペックはこないだ渡した完成版の通りだ。もちろん隅から隅まで読み込んでるんだろ、ミス・ピルグリム」
巨躯の魔神、月の使者。
スノウホワイトから引き継いだ経験と技術、象徴としてのアサルトライフルとレーザーライフルを携え、空戦機体であるポラリスセイバーの飛行技術を詰め込んだ、空を裂く死神。
その大きさに見合う円弧にたわんだ連接剣は、それ自体にも動力が仕込まれ、まるで蛇のようにうねる。
死神の身の丈を更に超えるバスターレーザーカノンは、並のエグザマクスでは扱えない、母線規模戦艦に搭載されるはずの主砲級。
補完するように小回りのきく魔砲杖とミサイルポッドが備えられ、汎用性の高いライフル2種が引き継がれた、ハイエンドの高機動高火力汎用機。
これがアリスの望んだ、不敗のエース。
「ハハッ!コイツは良い!最っ高じゃねぇか!」
アリスは歓喜していた。
コイツなら負けない。
どんなやつにも引けをとらない。
アリスの内に燃え盛る地獄の焔すら、コイツとなら燃料だ。
アリスは年端も行かない子供がプレゼントを与えられた時のように跳ねて喜んだ。
そして、そのまま搭乗する。
「このまま試運転と洒落こませてもらうぜ?」
操縦席はスノウホワイトに似ている。
操縦桿の握り心地は、生まれたときから一緒だったように馴染む。
右、左、と順に腕やマニピュレータを動かす。
デカイだけじゃなく、繊細な動きをする。
マウントした武器の持ち替えも素早く、静かだ。
足の動きと脚部が連動する。意に反さずスムーズに動く脚部には感動すらおぼえる。
格納庫の外まで歩けば、空は快晴。
飛行試験にゃおあつらえ向け。
スラスターをふかす。
メインフレームのツインブースターに火を入れる。
機体を包む浮遊感が、コイツの速さを予感させる。
無意識に、口がニヤけた。
「お前、最高だ!」
操縦桿を握り込み、連動したブースターが吠えたける。
同時、衝撃的な振動とともに、死神が動き出した。
一気に加速して身体に凄まじい負荷がかかるが、高機動乗りには準備運動ですらない。
加速、加速、加速!
滑走路を走り抜け、バインダーウィングで風を切り、アリスは新しい相棒とともに踏み切り、空へ駆け出した。
機体制御は意のままに。
加速は底を知らず、立体機動はキレッキレにキマる。
これが最高と言わずして、何が最高なのか。
アリスはその後、動力炉が熱を吐き出せなくなる直前までアクロバット飛行をやめなかった。
その後コックピットから降りてきたアリスのお肌は、ツヤッツヤに輝いていたとか。
ともかくこの時点で、ジャンク屋グリムシェイドに最凶の魔神が誕生した。
白く輝く闇の結晶。
その魔神は、乗り手の想いを形にすべく、茨の戦いを引き寄せていく。
ーーー
さらに数日後。
夕闇が辺りを包み始める頃。
アリスたち調達部隊は、次なる任務に向かっていた。
今回は前回のバイロン軍強襲よりも厳しい内容の任務だが、アリスの強い要望により決行となったものだ。
「よーし、もうすぐ作戦エリアだな。|死神《リーパー》より各機へ。出撃準備はいいな?」
機体が変わり、コードネームを改めたアリスが通信を開く。
今回の任務は、紛争への介入。
バイロン軍とテロリストの戦いに割って入る形となり、目標はテロリストたちが持つとされる巨大兵器の簒奪だ。
初の実戦投入となる|月蝕石《ムーンクォーツ》の操縦席で、アリスはチームに通信を飛ばす。
「|竜《ドラグーン》、ルミナス、いつでも行ける」
「|猟犬《ハウンド》、リベリオン、準備完了。魔剣が疼くわね」
「|姫《ノーブル》、ミヤビ、ちょっとお眠ですわー。始まったら起こしてあそばせ」
三者三様の返事を受け、アリスの意識は戦闘モードへ。
大型機で3機より上空に運ばれるアリスと|月蝕石《ムーンクォーツ》が、初めに投下される。
作戦は簡単だ。
空からの強襲、そして殲滅。
初めにアリスから一撃、その後チームで降下して各個撃破。
使えるパーツは根こそぎいただき、メイン目標である巨大兵器は駆動部を叩く。
フォートブレイクでの交戦経験から、電子機器を機能停止させる電子回路阻害プログラムインジェクタ、通称フリーズバレットもいくらか準備してある。
「いくぜ、相棒!初手からでかいのぶち込んでやろうぜ!」
降下姿勢から身体を起こし、地表に向けてバスターレーザーカノンを構える。
狙いは両軍白兵戦真っ最中の荒野、その全域。
今回のバスターは一味違う。
銃身に一回限りのアタッチメントを取り付けた|拡散仕様だ《・・・・・》。
「ーーー喰らえ、流星群!」
引き金を、思い切り引いた。
その瞬間、銃口から無数に分かたれた光束が、雨のように降り注ぐ。
夕闇が裂ける。
空間を引き裂く光の雨。
超火力兵器ゆえに、それは分かたれてすら通常のビームライフルと同程度の威力を発揮する。
白兵戦をしていたバイロン、テロリスト共に、巻き込まれたものを鉄屑に変える死の雨。
総勢100機以上いた両軍は、その雨によって半分になった。
例外は、バイロンの後方で輸送中だった巨大兵器用のコンテナだけだ。
残った半分の機体については、運が良いとは言えないだろう。
唐突な襲撃に加えて、降下してきたたった4機のエグザマクスに蹂躙されるのだから。
「死神様のお通りだ!首を出しな、雑魚ども!」
バスターレーザーカノンから連接剣と魔砲杖に兵装を持ち替え、アリスは剣を横薙ぎにひとふり。
金属が悲鳴をあげながら、斬撃範囲にいたエグザマクスたちの首を飛ばしていく。
少し遅れて地上に降り立つ調達部隊の機体を見て、バイロン軍とテロリスト、双方の中にその正体に気付く者がいた。
「グリムシェイド……!」
「戦場のハイエナだと!?」
「隊列を組め!個別撃破されるぞ!」
そんな呟きが通信機を通じて伝播していく。
だが、それが広がりきるまで、ジャンク屋は待ってはくれない。
「なんだと!ハイエナ如きにこんな事が!?」
「ヒィ、た、助けーーーガガッ、ザーー」
「数で囲め!蜂の巣にしろ!」
「なんだよ、あれ!本当にエグザマクスなのか?!」
お世辞にも統率されていたとは言い難い混戦だった戦場は、さらなる混沌に堕ちていく。
敵軍の通信が聞こえていたら、アリスは大爆笑して狩りの手をさらに苛烈にしただろう。
「感度良好、戦果は上々。|死神《リーパー》より各機へ、準備運動は順調か?」
「|姫《ノーブル》、順調すぎて眠気がとれませんわー。隊長機を寄越せくださいませー」
「|竜《ドラグーン》、雑兵では準備運動にすらならないよ」
「|猟犬《ハウンド》、撃破数を数えるのが面倒になってきたわ!」
死の舞踊にて敵を切り裂くアリスと|月蝕石《ムーンクォーツ》。
宙を跳ねるようにしてエネルギーブレードを振るう竜貴とニーズヘッグ・ルミナス。
剣機一体の妙技を魅せ、足を腕を綺麗に斬りとばしていくクラリスとファントムハウンド・リベリオン。
桜色のハンドガンを両手に、優雅に頭部を射抜くビアンカとシンダープリンセス・ミヤビ。
たった4人、4機。
正規軍の小隊規模すら下回る集団に、バイロンもテロリストも次々と狩られていく。
鉄の焦げる匂いに、油と血液のむせるような匂いが混じり合う。弾丸が放たれる炸裂音、空気を引き裂く風切り音、衝撃と音の暴力が奏でるオーケストラ。
阿鼻叫喚の地獄絵図にあって、ハイエナどもは活き活きと踊り狂うのだ。
ジャンク屋チームの真髄は、乱戦中の対人戦闘能力と生存能力の高さにある。
これは機体性能とパイロットの技量の両方によって成り立つもので、前にしか進まないで、より多くの敵を倒し、背中に追いつかせないという、半ば机上の空論に近いものだ。
連携などほとんど無くとも、戦場の安全圏を縫うように、または追随を許さない速度で、攻撃で、道を切り拓く。
特に、このような乱戦では、同士討ちをためらった隙に打ち倒すため、本当に手がつけられなくなる。
それが戦場に恐れられるハイエナ。
グリムシェイド調達部隊である。
雑兵では数秒ともたず、温室育ちの指揮官では論外。
小隊規模なら隊長格がきてやっと数分。
おそらくエースでなければ、4人の誰ひとりとして止められない。
この戦闘において、彼女らを止められる者はほとんどいないのだ。
「何ということだ!屑鉄どもが滅茶苦茶にしおって!」
だから、ようやくバイロンの隊長機が前線に来たとき、辺りにはボロボロにやられた機体がそこら中に散らかった状態になっていた。
この時点でバイロン・テロリスト双方の損害はほとんど7割減、しかもジャンク屋を止めなければ壊滅という最悪の構図に、隊長機は立たされていた。
加えて、所属不明機は余裕綽々な様子で健在なのだから、文句の一つもオープン回線で言いたくもなるだろう。
そして、それは結果的に雑兵の余命を長くした。
「アンタがヘッドか?こちらはグリムシェイド調達部隊所属、|死神《リーパー》だ。私に壊される前に言い残すことはあるかい?」
その文句を拾い、挑戦と受け止めたアリスが動きを止め、隊長機と向き合ったからだ。
エネルギーの切れた魔砲杖と対の連接剣はマウントに戻し、馴染みのあるアサルトライフルとレーザーライフルを構える。
巨躯の魔神から見下され、エースはさぞかし威圧感を受けていただろうが、しかしながらそこで怯むほどやわではなかった。
「私はバイロン軍、調停部第42中隊特務分隊長、|百眼《アルゴス》-αである。これ以上の我が軍への狼藉は許可しない。投降すれば命は保証するが、返答やいかに!」
それどころか、アリスの挑戦を真っ向から受ける正直者であった。
骨のある隊長だ。
情も厚く、部下たちからの信頼もある。
だからこそ、心の奥底では、隊長は戦いを望んだ。
アリスはそれに。
夕闇が辺りを包み始める頃。
アリスたち調達部隊は、次なる任務に向かっていた。
今回は前回のバイロン軍強襲よりも厳しい内容の任務だが、アリスの強い要望により決行となったものだ。
「よーし、もうすぐ作戦エリアだな。|死神《リーパー》より各機へ。出撃準備はいいな?」
機体が変わり、コードネームを改めたアリスが通信を開く。
今回の任務は、紛争への介入。
バイロン軍とテロリストの戦いに割って入る形となり、目標はテロリストたちが持つとされる巨大兵器の簒奪だ。
初の実戦投入となる|月蝕石《ムーンクォーツ》の操縦席で、アリスはチームに通信を飛ばす。
「|竜《ドラグーン》、ルミナス、いつでも行ける」
「|猟犬《ハウンド》、リベリオン、準備完了。魔剣が疼くわね」
「|姫《ノーブル》、ミヤビ、ちょっとお眠ですわー。始まったら起こしてあそばせ」
三者三様の返事を受け、アリスの意識は戦闘モードへ。
大型機で3機より上空に運ばれるアリスと|月蝕石《ムーンクォーツ》が、初めに投下される。
作戦は簡単だ。
空からの強襲、そして殲滅。
初めにアリスから一撃、その後チームで降下して各個撃破。
使えるパーツは根こそぎいただき、メイン目標である巨大兵器は駆動部を叩く。
フォートブレイクでの交戦経験から、電子機器を機能停止させる電子回路阻害プログラムインジェクタ、通称フリーズバレットもいくらか準備してある。
「いくぜ、相棒!初手からでかいのぶち込んでやろうぜ!」
降下姿勢から身体を起こし、地表に向けてバスターレーザーカノンを構える。
狙いは両軍白兵戦真っ最中の荒野、その全域。
今回のバスターは一味違う。
銃身に一回限りのアタッチメントを取り付けた|拡散仕様だ《・・・・・》。
「ーーー喰らえ、流星群!」
引き金を、思い切り引いた。
その瞬間、銃口から無数に分かたれた光束が、雨のように降り注ぐ。
夕闇が裂ける。
空間を引き裂く光の雨。
超火力兵器ゆえに、それは分かたれてすら通常のビームライフルと同程度の威力を発揮する。
白兵戦をしていたバイロン、テロリスト共に、巻き込まれたものを鉄屑に変える死の雨。
総勢100機以上いた両軍は、その雨によって半分になった。
例外は、バイロンの後方で輸送中だった巨大兵器用のコンテナだけだ。
残った半分の機体については、運が良いとは言えないだろう。
唐突な襲撃に加えて、降下してきたたった4機のエグザマクスに蹂躙されるのだから。
「死神様のお通りだ!首を出しな、雑魚ども!」
バスターレーザーカノンから連接剣と魔砲杖に兵装を持ち替え、アリスは剣を横薙ぎにひとふり。
金属が悲鳴をあげながら、斬撃範囲にいたエグザマクスたちの首を飛ばしていく。
少し遅れて地上に降り立つ調達部隊の機体を見て、バイロン軍とテロリスト、双方の中にその正体に気付く者がいた。
「グリムシェイド……!」
「戦場のハイエナだと!?」
「隊列を組め!個別撃破されるぞ!」
そんな呟きが通信機を通じて伝播していく。
だが、それが広がりきるまで、ジャンク屋は待ってはくれない。
「なんだと!ハイエナ如きにこんな事が!?」
「ヒィ、た、助けーーーガガッ、ザーー」
「数で囲め!蜂の巣にしろ!」
「なんだよ、あれ!本当にエグザマクスなのか?!」
お世辞にも統率されていたとは言い難い混戦だった戦場は、さらなる混沌に堕ちていく。
敵軍の通信が聞こえていたら、アリスは大爆笑して狩りの手をさらに苛烈にしただろう。
「感度良好、戦果は上々。|死神《リーパー》より各機へ、準備運動は順調か?」
「|姫《ノーブル》、順調すぎて眠気がとれませんわー。隊長機を寄越せくださいませー」
「|竜《ドラグーン》、雑兵では準備運動にすらならないよ」
「|猟犬《ハウンド》、撃破数を数えるのが面倒になってきたわ!」
死の舞踊にて敵を切り裂くアリスと|月蝕石《ムーンクォーツ》。
宙を跳ねるようにしてエネルギーブレードを振るう竜貴とニーズヘッグ・ルミナス。
剣機一体の妙技を魅せ、足を腕を綺麗に斬りとばしていくクラリスとファントムハウンド・リベリオン。
桜色のハンドガンを両手に、優雅に頭部を射抜くビアンカとシンダープリンセス・ミヤビ。
たった4人、4機。
正規軍の小隊規模すら下回る集団に、バイロンもテロリストも次々と狩られていく。
鉄の焦げる匂いに、油と血液のむせるような匂いが混じり合う。弾丸が放たれる炸裂音、空気を引き裂く風切り音、衝撃と音の暴力が奏でるオーケストラ。
阿鼻叫喚の地獄絵図にあって、ハイエナどもは活き活きと踊り狂うのだ。
ジャンク屋チームの真髄は、乱戦中の対人戦闘能力と生存能力の高さにある。
これは機体性能とパイロットの技量の両方によって成り立つもので、前にしか進まないで、より多くの敵を倒し、背中に追いつかせないという、半ば机上の空論に近いものだ。
連携などほとんど無くとも、戦場の安全圏を縫うように、または追随を許さない速度で、攻撃で、道を切り拓く。
特に、このような乱戦では、同士討ちをためらった隙に打ち倒すため、本当に手がつけられなくなる。
それが戦場に恐れられるハイエナ。
グリムシェイド調達部隊である。
雑兵では数秒ともたず、温室育ちの指揮官では論外。
小隊規模なら隊長格がきてやっと数分。
おそらくエースでなければ、4人の誰ひとりとして止められない。
この戦闘において、彼女らを止められる者はほとんどいないのだ。
「何ということだ!屑鉄どもが滅茶苦茶にしおって!」
だから、ようやくバイロンの隊長機が前線に来たとき、辺りにはボロボロにやられた機体がそこら中に散らかった状態になっていた。
この時点でバイロン・テロリスト双方の損害はほとんど7割減、しかもジャンク屋を止めなければ壊滅という最悪の構図に、隊長機は立たされていた。
加えて、所属不明機は余裕綽々な様子で健在なのだから、文句の一つもオープン回線で言いたくもなるだろう。
そして、それは結果的に雑兵の余命を長くした。
「アンタがヘッドか?こちらはグリムシェイド調達部隊所属、|死神《リーパー》だ。私に壊される前に言い残すことはあるかい?」
その文句を拾い、挑戦と受け止めたアリスが動きを止め、隊長機と向き合ったからだ。
エネルギーの切れた魔砲杖と対の連接剣はマウントに戻し、馴染みのあるアサルトライフルとレーザーライフルを構える。
巨躯の魔神から見下され、エースはさぞかし威圧感を受けていただろうが、しかしながらそこで怯むほどやわではなかった。
「私はバイロン軍、調停部第42中隊特務分隊長、|百眼《アルゴス》-αである。これ以上の我が軍への狼藉は許可しない。投降すれば命は保証するが、返答やいかに!」
それどころか、アリスの挑戦を真っ向から受ける正直者であった。
骨のある隊長だ。
情も厚く、部下たちからの信頼もある。
だからこそ、心の奥底では、隊長は戦いを望んだ。
アリスはそれに。
「答えは、もちろんノーだ!」
レーザーライフルの銃口で答えた。
戦闘開始の合図だ。
だが、それまでの戦いとはうってかわって、アリスと隊長機だけが戦う。
シエルノヴァベースの改造機体だが、アリスの高速機動に曲がりなりにもついていくあたりは、流石隊長格。
そんな戦いにバイロンもテロリストも巻き込まれては死ぬだけだと理解しており、ジャンク屋の残りの機体はリーダーの戦いに手を出さない。
それでも戦況は転がっていく。
テロリスト側からも2機の機体が前に出てきたからだ。
「取り込み中のところ悪いが、同胞の仇は討たせてもらう」
「貴様らも連合やバイロンと同じで強欲だそうだな。万死に値するぜ」
紅いラビオットと蒼いラビオット。
それぞれハンマーとメイスを持っており、もう片手には取り回しの良いシールド装備。
各所の装甲も厚い割には駆動音は静かで、なかなかに強そうな機体だった。
「あなたたち、遊びたいみたいね」
「眠気が覚めると、そこは戦場の真っ只中でした」
だから、クラリスとビアンカが進み出た。
竜貴は僅かに出遅れた。
「グリムシェイド調達部隊所属、コードネームを|猟犬《ハウンド》。少しは楽しめそうね」
「同じくグリムシェイド調達部隊所属、コードネームは|姫《ノーブル》でしてよ。道化のように踊ってくださる?」
クラリスとビアンカは名乗りを上げるとそれぞれ得物を紅と蒼に向けた。
「挑発とはいい度胸だ。ジャンク屋にしておくには勿体ないな。儂の事は|紅獣《マスティコア》とでも呼べ、猟犬。格の違いを見せてやる」
「その華奢な機体、俺が元通りの屑鉄にしてやるぜ。この|蒼角《グレンデル》がな!」
テロリスト側2機とグリムシェイド2機の戦いはすぐさま始まる。
「さて、私は余り物になってしまった訳だが……仕方ないな、残った雑兵を平らげておこうか」
最後に残った竜貴は、そこいらで固まっていた雑兵を、無造作に機能停止させていく。
残りはもうほとんどおらず、20機を下回る。
そんな状況では浅はかにも逃げ出す者もいたが、漏れなく竜貴からのバックアタックに沈んだ。
なんとか取り囲もうとした数機は、エネルギーブレードに切り裂かれて倒れた。
この場のほとんどが、陸戦型だらけのバイロンとそれを襲撃した陸戦型のテロリスト集団だったので、高機動かつ飛翔能力のある竜貴からは逃れようがなかったのだ。
雑兵が動かなくなるのに、そんなに時間はかからなかった。
戦闘開始の合図だ。
だが、それまでの戦いとはうってかわって、アリスと隊長機だけが戦う。
シエルノヴァベースの改造機体だが、アリスの高速機動に曲がりなりにもついていくあたりは、流石隊長格。
そんな戦いにバイロンもテロリストも巻き込まれては死ぬだけだと理解しており、ジャンク屋の残りの機体はリーダーの戦いに手を出さない。
それでも戦況は転がっていく。
テロリスト側からも2機の機体が前に出てきたからだ。
「取り込み中のところ悪いが、同胞の仇は討たせてもらう」
「貴様らも連合やバイロンと同じで強欲だそうだな。万死に値するぜ」
紅いラビオットと蒼いラビオット。
それぞれハンマーとメイスを持っており、もう片手には取り回しの良いシールド装備。
各所の装甲も厚い割には駆動音は静かで、なかなかに強そうな機体だった。
「あなたたち、遊びたいみたいね」
「眠気が覚めると、そこは戦場の真っ只中でした」
だから、クラリスとビアンカが進み出た。
竜貴は僅かに出遅れた。
「グリムシェイド調達部隊所属、コードネームを|猟犬《ハウンド》。少しは楽しめそうね」
「同じくグリムシェイド調達部隊所属、コードネームは|姫《ノーブル》でしてよ。道化のように踊ってくださる?」
クラリスとビアンカは名乗りを上げるとそれぞれ得物を紅と蒼に向けた。
「挑発とはいい度胸だ。ジャンク屋にしておくには勿体ないな。儂の事は|紅獣《マスティコア》とでも呼べ、猟犬。格の違いを見せてやる」
「その華奢な機体、俺が元通りの屑鉄にしてやるぜ。この|蒼角《グレンデル》がな!」
テロリスト側2機とグリムシェイド2機の戦いはすぐさま始まる。
「さて、私は余り物になってしまった訳だが……仕方ないな、残った雑兵を平らげておこうか」
最後に残った竜貴は、そこいらで固まっていた雑兵を、無造作に機能停止させていく。
残りはもうほとんどおらず、20機を下回る。
そんな状況では浅はかにも逃げ出す者もいたが、漏れなく竜貴からのバックアタックに沈んだ。
なんとか取り囲もうとした数機は、エネルギーブレードに切り裂かれて倒れた。
この場のほとんどが、陸戦型だらけのバイロンとそれを襲撃した陸戦型のテロリスト集団だったので、高機動かつ飛翔能力のある竜貴からは逃れようがなかったのだ。
雑兵が動かなくなるのに、そんなに時間はかからなかった。
ーーー
「さてさて。片付けは終わったが、リーダーたちのタイマンはどうなったかな?」
竜貴がカメラを向けると、三者ともがまだ戦闘を継続していた。
クラリス。
こちらは魔剣と立ち回りだけで全ての攻撃を見切り、|紅獣《マスティコア》を焦れさせていた。
「戦いはじめてしばらく立つけど、格の違いを見せてくれるのは何時になるのかな?」
マシンガン、アシッドガン、グレネード、マイクロミサイル、ブレード。
|紅獣《マスティコア》の武装は全てを試した後であり、それらの全ては回避され、または装甲板を抜くに至らなかった。
攻撃は魔剣にも機体にもわずかな傷をつけただけで、もはや弾切れしていないのはマシンガンぐらい。
魔剣のみしか携えない剣鬼に、獣の牙はすっかり抜き取られてしまっていたのだ。
その実、クラリスもスラスターのふかしすぎでエネルギー残量は心許ないのだが、|紅獣《マスティコア》には知る由もない。
「……認めよう、貴様は儂より強い。だが、ただでは死なんぞ」
「へぇ。まだ隠し玉を持ってると?」
声色は冷静に、しかし、操縦桿を握る手には緊張感を。
敵機の一挙手一投足をつぶさに観察する。
クラリスに油断はない。
だが、それはよほどのことが無い限りは奇襲が失敗しない武装であった。
「ーーーふん。冥土の土産すら惜しい。喰らえ!」
|紅獣《マスティコア》の胸部が左右に開き、ビームカノンの砲身が吠える。
至近距離でなければ使えず、初見しか成功しないであろう高威力照射。
欠点は一度で機体エネルギーを使い切る事と、向きを変えられない事。
つまり。
「残念だけど、それ、|グリムシェイド社《うちのかいしゃ》の設計流用品なのよ」
|紅獣《マスティコア》は知らず、クラリスは知っていた。
それが決定的だった。
「ここまで、か……」
ビアンカ。
こちらは二丁のビームハンドガンが早々にエネルギー切れしてしまい、肉弾戦の様相を呈していた。
本来遠距離用のシンダープリンセス・ミヤビに装備された近接武器は、スカートにマウントされたショートエッジ2本とヒールブレードだけである。
対して、敵機・|蒼角《グレンデル》は元より近接格闘機であり、厚手のラウンドシールドとシャムシールという剣士スタイルで、申し訳程度に腰に標準仕様のショットガンを下げている。
「もうビームは終いのようだな!あとは壊されるだけか?」
「冗談は顔だけにしてくださる?ダンスなら得意でしてよ?」
「あぁ?顔は関係ないだろうが!」
「あら?声からは醜男にしか聞こえませんことよ?」
「ぶっ殺す!」
軽やかに、踊るようにシャムシールの剣線を潜る。
刃が小さい以上、ビアンカが|蒼角《グレンデル》を落とすには、関節を正確に狙う必要があり、意外と隙の無い戦いをする敵機を警戒して挑発していたのだが、それも中々功を奏してくれない。
(なかなかしぶといですわねぇ)
盾を構えながらの攻撃を避けるのは対したことではない。
そもそもリーチが短いため、下がれば当たらないためだ。
こいつ、どうやって射撃武器持ちのエグザマクスを倒してきたのかしら?
疑問を覚える装備構成だが、いまはどうでもいい事だ。
シャムシールを振るう手を狙うか。
そう考えてビアンカは敢えて敵機に近付いて、攻撃を誘った。
案の定、剣を振り下ろす|蒼角《グレンデル》。
それをぎりぎりで回避し、マニピュレータを斬りつけるとともに、打ち上げた踵を頭部にお見舞いしてやる。
「あら?」
するとどうだろう。
頭は綺麗にすっとび、パイロットは脳震盪。
まさかの一撃ノックダウンにて、呆気ない幕引きとなった。
「ふ、不完全燃焼ですわぁー!」
後でわかったことだが、この|蒼角《グレンデル》は装甲板もりもりのアンチビームコートで身を固め、タワーシールドを構えて突撃する戦法を使う機体だったらしいが、初手のアリスのビームにより長物武器を失っていたらしい。
それでも、ビアンカに勝てる実力ではなかっただろう。
アリス。
バイロンの隊長機はなかなかに粘っていた。
戦闘は終始アリスの攻めしかなく、隊長機は防戦一方だが、アリスが敢えてライフルしか使っていないため、装甲の堅さもあり、なんとか戦えている状態だ。
「おらおらどうした!攻撃がねぇぞ?」
アサルトライフルの連弾が継続した衝撃を与え、レーザーライフルが確実に装甲を削る。
構えたシールドはすでに役に立つか怪しい。
「ぐぅ、強い……!だが、私は、私はぁ!」
シールドをかなぐり捨て、突撃をかます隊長機。
それは華々しい玉砕だったのかもしれない。
だが、それは隊長も予測していた通り、アリスには届かなかった。
「これがお前の限界か。足りねえな!」
反転して背中を向けた|月蝕石《ムーンクォーツ》。
隊長機のメインカメラに写ったのは、その腰部からしなやかに伸びるテールブレードの煌めきだった。
「がフッ!ふぅ、フウぅー!」
オープン回線を開きっぱなしにしていたために、隊長の痛々しい呻きが垂れ流された。コックピット付近を貫いたブレードがパイロットを押し潰したらしい。
しかし、バイロンの隊長にはまだ意識があり、物言えずとも最後の抵抗をした。
「ガガッーーー、コード認証確認、|百眼《アルゴス》からの起動指令により、パターンγによる自律行動を開始します」
回線に流れるノイズ混じりの機械音声の余韻すらなく、バイロン後方のコンテナが爆散、中の粉塵を振り払うように巨影がそびえ立つ。
(死ぬがいい、ジャンク屋ども!バイロンに栄光あれ!)
隊長が事切れる。
土煙が晴れていくとともに、ジャンク屋たちを見下ろす巨大兵器の全貌があらわになる。
「クソがっ!アイツ、兵器起動して死にやがった!面倒くせえ事しやがって!」
アリスが悪態をつき、ダブルライフルを再びマウント、そして背負っていたバスターレーザーカノンのアタッチメントをパージして構える。
「|死神《リーパー》より各員、目標巨大兵器が起動した!気ぃ引き締めろ!」
|月蝕石《ムーンクォーツ》さえ見上げるその巨体。
4足歩行型で履帯のついたゴツい脚部が支えるは、左右に10、バカでかいレーザーカノンを携えた広域殲滅兵器。
開発名称はハイドラ。
神話の蛇竜の名を冠した超大型。
機体長は通常のエグザマクスの5倍はあるだろうか。
よくこのサイズで自立しているものだ。
だが、フォートブレイクでのデカブツの方がもっと厄介だったぜ。
「コイツ相手じゃ真正面からのフリーズバレットの効果は薄い!全ての攻撃は関節狙え!散開して迎え撃つぞ!」
ジャンク屋チームは一直線にハイドラの足元へ。
迎え撃つハイドラは20あるレーザーカノンをチャージし、熱線の雨が降り注ぐ。
戦地が焦げ、物資や機体の残骸が融解していく。
ハイドラのレーザーカノンは、おそらくアリスのバスターレーザーカノンと同等程度の威力。
つまり、戦艦主砲級が20も揃っている。
「なんつー燃費と頭の悪い兵器だ!」
悪態をつきつつ、アリスはバスターレーザーカノンをぶっ放した。
吸い込まれるように脚部の一つを撃ち抜いたレーザーは、確実にハイドラの機動力を削ぐ。
「ナイスショット、|死神《リーパー》!私も続くわよ!」
機動力が落ちたことで足元への対応に穴ができ、そこにクラリスが飛び込んだ。
魔剣ダウン・リベリオンは巨体ですら切り裂く。
残ったエネルギーを一点に集中することで、前脚のもう片方の関節が破壊された。
「失礼あそばせ。フリーズバレットをご馳走しますわね!」
そこに追随したビアンカが、ばすばす音をたてて電子戦弾丸を関節配線に撃ち込んでいく。
フリーズバレットは着弾とともに外殻をパージ、内部から微小な特殊型ロイロイを展開、ウィルスを制御線から侵入させていく。
大型機には効果が出るまでに時間がかかるが、局所的な機能不全を起こすには十分だ。
「|竜《ドラグーン》、|猟犬《ハウンド》と|姫《ノーブル》を回収!私が追撃する!」
この間、足元に消えた2機を追えず、レーザーカノンがアリスと竜貴を追っていたが、竜貴が跳んだことでアリスに全てのレーザーが集中する。
「鬼ごっこと洒落こむぜ!しっかり狙いやがれ、このデカブツがァ!」
スラスターを全開にする。
重力が身体と脳を揺さぶるが、アリスは目を見開いて歯を食いしばる。
根性で重力になど勝てない。
そんなことは百も承知。
意識を飛ばさないギリギリのラインでタップダンス。
機体を縦横無尽に跳ねさせ、バレルロールで熱線とランデブー。
バスターレーザーカノンの放熱がまだ終わらない。
だが、もう一度極太レーザーを脚部に当てれば、奴はもう動けない。
きっちり、決めてやらァ!
その時、上空の月が目に入る。
「青白い、不健康そうな美人じゃねぇか。なぁ。そこで見てろよ、私の復讐を」
不意に溢れた小さな独り言を、通信機は拾えなかった。
登り詰め、加速度はゼロへ。
|月蝕石《ムーンクォーツ》が月から落ちていく。
インメルマンターンと、昔は呼ばれていたらしい航空機の技術を、アリスはエグザマクスで繰り出し、落下に合わせてスラスターをふかす。
「私が!一番強え!誰にも!何にも!私は負けねえ!」
バスターレーザーカノンを構えて、ハイドラを狙い撃つ。
残る脚部を撃ち抜く。
あと一つ。
それをアリスが狙う必要は無い。
エネルギーブレードと魔剣が煌めき、フリーズバレットが撃ち込まれたからだ。
あとは携行したフリーズバレットを、奴の頭に叩き込む。
これで機能停止だ。
上部に撃つのが不能なのか、もはやアリスを狙うレーザーはなく、頭に着地したアリスを止めるものはなかった。
「あばよ、デカブツ。楽しい戦いだったぜ」
月夜の晩、百以上の機体を喰らい尽くした月の使者は、物言わず。
その操者は一つの決意を固めた。
その瞳には、地獄の焔が灯っていた。
竜貴がカメラを向けると、三者ともがまだ戦闘を継続していた。
クラリス。
こちらは魔剣と立ち回りだけで全ての攻撃を見切り、|紅獣《マスティコア》を焦れさせていた。
「戦いはじめてしばらく立つけど、格の違いを見せてくれるのは何時になるのかな?」
マシンガン、アシッドガン、グレネード、マイクロミサイル、ブレード。
|紅獣《マスティコア》の武装は全てを試した後であり、それらの全ては回避され、または装甲板を抜くに至らなかった。
攻撃は魔剣にも機体にもわずかな傷をつけただけで、もはや弾切れしていないのはマシンガンぐらい。
魔剣のみしか携えない剣鬼に、獣の牙はすっかり抜き取られてしまっていたのだ。
その実、クラリスもスラスターのふかしすぎでエネルギー残量は心許ないのだが、|紅獣《マスティコア》には知る由もない。
「……認めよう、貴様は儂より強い。だが、ただでは死なんぞ」
「へぇ。まだ隠し玉を持ってると?」
声色は冷静に、しかし、操縦桿を握る手には緊張感を。
敵機の一挙手一投足をつぶさに観察する。
クラリスに油断はない。
だが、それはよほどのことが無い限りは奇襲が失敗しない武装であった。
「ーーーふん。冥土の土産すら惜しい。喰らえ!」
|紅獣《マスティコア》の胸部が左右に開き、ビームカノンの砲身が吠える。
至近距離でなければ使えず、初見しか成功しないであろう高威力照射。
欠点は一度で機体エネルギーを使い切る事と、向きを変えられない事。
つまり。
「残念だけど、それ、|グリムシェイド社《うちのかいしゃ》の設計流用品なのよ」
|紅獣《マスティコア》は知らず、クラリスは知っていた。
それが決定的だった。
「ここまで、か……」
ビアンカ。
こちらは二丁のビームハンドガンが早々にエネルギー切れしてしまい、肉弾戦の様相を呈していた。
本来遠距離用のシンダープリンセス・ミヤビに装備された近接武器は、スカートにマウントされたショートエッジ2本とヒールブレードだけである。
対して、敵機・|蒼角《グレンデル》は元より近接格闘機であり、厚手のラウンドシールドとシャムシールという剣士スタイルで、申し訳程度に腰に標準仕様のショットガンを下げている。
「もうビームは終いのようだな!あとは壊されるだけか?」
「冗談は顔だけにしてくださる?ダンスなら得意でしてよ?」
「あぁ?顔は関係ないだろうが!」
「あら?声からは醜男にしか聞こえませんことよ?」
「ぶっ殺す!」
軽やかに、踊るようにシャムシールの剣線を潜る。
刃が小さい以上、ビアンカが|蒼角《グレンデル》を落とすには、関節を正確に狙う必要があり、意外と隙の無い戦いをする敵機を警戒して挑発していたのだが、それも中々功を奏してくれない。
(なかなかしぶといですわねぇ)
盾を構えながらの攻撃を避けるのは対したことではない。
そもそもリーチが短いため、下がれば当たらないためだ。
こいつ、どうやって射撃武器持ちのエグザマクスを倒してきたのかしら?
疑問を覚える装備構成だが、いまはどうでもいい事だ。
シャムシールを振るう手を狙うか。
そう考えてビアンカは敢えて敵機に近付いて、攻撃を誘った。
案の定、剣を振り下ろす|蒼角《グレンデル》。
それをぎりぎりで回避し、マニピュレータを斬りつけるとともに、打ち上げた踵を頭部にお見舞いしてやる。
「あら?」
するとどうだろう。
頭は綺麗にすっとび、パイロットは脳震盪。
まさかの一撃ノックダウンにて、呆気ない幕引きとなった。
「ふ、不完全燃焼ですわぁー!」
後でわかったことだが、この|蒼角《グレンデル》は装甲板もりもりのアンチビームコートで身を固め、タワーシールドを構えて突撃する戦法を使う機体だったらしいが、初手のアリスのビームにより長物武器を失っていたらしい。
それでも、ビアンカに勝てる実力ではなかっただろう。
アリス。
バイロンの隊長機はなかなかに粘っていた。
戦闘は終始アリスの攻めしかなく、隊長機は防戦一方だが、アリスが敢えてライフルしか使っていないため、装甲の堅さもあり、なんとか戦えている状態だ。
「おらおらどうした!攻撃がねぇぞ?」
アサルトライフルの連弾が継続した衝撃を与え、レーザーライフルが確実に装甲を削る。
構えたシールドはすでに役に立つか怪しい。
「ぐぅ、強い……!だが、私は、私はぁ!」
シールドをかなぐり捨て、突撃をかます隊長機。
それは華々しい玉砕だったのかもしれない。
だが、それは隊長も予測していた通り、アリスには届かなかった。
「これがお前の限界か。足りねえな!」
反転して背中を向けた|月蝕石《ムーンクォーツ》。
隊長機のメインカメラに写ったのは、その腰部からしなやかに伸びるテールブレードの煌めきだった。
「がフッ!ふぅ、フウぅー!」
オープン回線を開きっぱなしにしていたために、隊長の痛々しい呻きが垂れ流された。コックピット付近を貫いたブレードがパイロットを押し潰したらしい。
しかし、バイロンの隊長にはまだ意識があり、物言えずとも最後の抵抗をした。
「ガガッーーー、コード認証確認、|百眼《アルゴス》からの起動指令により、パターンγによる自律行動を開始します」
回線に流れるノイズ混じりの機械音声の余韻すらなく、バイロン後方のコンテナが爆散、中の粉塵を振り払うように巨影がそびえ立つ。
(死ぬがいい、ジャンク屋ども!バイロンに栄光あれ!)
隊長が事切れる。
土煙が晴れていくとともに、ジャンク屋たちを見下ろす巨大兵器の全貌があらわになる。
「クソがっ!アイツ、兵器起動して死にやがった!面倒くせえ事しやがって!」
アリスが悪態をつき、ダブルライフルを再びマウント、そして背負っていたバスターレーザーカノンのアタッチメントをパージして構える。
「|死神《リーパー》より各員、目標巨大兵器が起動した!気ぃ引き締めろ!」
|月蝕石《ムーンクォーツ》さえ見上げるその巨体。
4足歩行型で履帯のついたゴツい脚部が支えるは、左右に10、バカでかいレーザーカノンを携えた広域殲滅兵器。
開発名称はハイドラ。
神話の蛇竜の名を冠した超大型。
機体長は通常のエグザマクスの5倍はあるだろうか。
よくこのサイズで自立しているものだ。
だが、フォートブレイクでのデカブツの方がもっと厄介だったぜ。
「コイツ相手じゃ真正面からのフリーズバレットの効果は薄い!全ての攻撃は関節狙え!散開して迎え撃つぞ!」
ジャンク屋チームは一直線にハイドラの足元へ。
迎え撃つハイドラは20あるレーザーカノンをチャージし、熱線の雨が降り注ぐ。
戦地が焦げ、物資や機体の残骸が融解していく。
ハイドラのレーザーカノンは、おそらくアリスのバスターレーザーカノンと同等程度の威力。
つまり、戦艦主砲級が20も揃っている。
「なんつー燃費と頭の悪い兵器だ!」
悪態をつきつつ、アリスはバスターレーザーカノンをぶっ放した。
吸い込まれるように脚部の一つを撃ち抜いたレーザーは、確実にハイドラの機動力を削ぐ。
「ナイスショット、|死神《リーパー》!私も続くわよ!」
機動力が落ちたことで足元への対応に穴ができ、そこにクラリスが飛び込んだ。
魔剣ダウン・リベリオンは巨体ですら切り裂く。
残ったエネルギーを一点に集中することで、前脚のもう片方の関節が破壊された。
「失礼あそばせ。フリーズバレットをご馳走しますわね!」
そこに追随したビアンカが、ばすばす音をたてて電子戦弾丸を関節配線に撃ち込んでいく。
フリーズバレットは着弾とともに外殻をパージ、内部から微小な特殊型ロイロイを展開、ウィルスを制御線から侵入させていく。
大型機には効果が出るまでに時間がかかるが、局所的な機能不全を起こすには十分だ。
「|竜《ドラグーン》、|猟犬《ハウンド》と|姫《ノーブル》を回収!私が追撃する!」
この間、足元に消えた2機を追えず、レーザーカノンがアリスと竜貴を追っていたが、竜貴が跳んだことでアリスに全てのレーザーが集中する。
「鬼ごっこと洒落こむぜ!しっかり狙いやがれ、このデカブツがァ!」
スラスターを全開にする。
重力が身体と脳を揺さぶるが、アリスは目を見開いて歯を食いしばる。
根性で重力になど勝てない。
そんなことは百も承知。
意識を飛ばさないギリギリのラインでタップダンス。
機体を縦横無尽に跳ねさせ、バレルロールで熱線とランデブー。
バスターレーザーカノンの放熱がまだ終わらない。
だが、もう一度極太レーザーを脚部に当てれば、奴はもう動けない。
きっちり、決めてやらァ!
その時、上空の月が目に入る。
「青白い、不健康そうな美人じゃねぇか。なぁ。そこで見てろよ、私の復讐を」
不意に溢れた小さな独り言を、通信機は拾えなかった。
登り詰め、加速度はゼロへ。
|月蝕石《ムーンクォーツ》が月から落ちていく。
インメルマンターンと、昔は呼ばれていたらしい航空機の技術を、アリスはエグザマクスで繰り出し、落下に合わせてスラスターをふかす。
「私が!一番強え!誰にも!何にも!私は負けねえ!」
バスターレーザーカノンを構えて、ハイドラを狙い撃つ。
残る脚部を撃ち抜く。
あと一つ。
それをアリスが狙う必要は無い。
エネルギーブレードと魔剣が煌めき、フリーズバレットが撃ち込まれたからだ。
あとは携行したフリーズバレットを、奴の頭に叩き込む。
これで機能停止だ。
上部に撃つのが不能なのか、もはやアリスを狙うレーザーはなく、頭に着地したアリスを止めるものはなかった。
「あばよ、デカブツ。楽しい戦いだったぜ」
月夜の晩、百以上の機体を喰らい尽くした月の使者は、物言わず。
その操者は一つの決意を固めた。
その瞳には、地獄の焔が灯っていた。
ーーー
4.
アリスが地上に再び降りた時。
1機のエグザマクスが地を這っていた。
そのエグザマクスから、通信が開かれる。
「おまえを、ころす、ころさなきゃ、ころさなきゃ、いけない、んだ」
開かれるというよりは、おそらく開きっぱなしになっていただけなのだろう。
蒙昧とした、言葉だけが上辺を滑る、意志のない文字の羅列。
形だけの意味をなそうとして、身体だけが動いているなまもの。
そんな名も知らない誰かは、機体の銃をアリスに向けた。
「これは、テロリストの……。まだ動けたのね」
クラリスが近づき、その武器を弾こうとしたが、それをアリスが制した。
「私を殺したいか?そうすれば満足か?」
アリスはコックピットのハッチを開けた。
夜風がコックピットを僅かに冷やす。
「それがお前の望みか?なら、そうしてみろ」
倒れ伏したままで銃を構える機体の、顔もわからないなまものに向けて、アリスは言う。
その言葉に対して、そのなまものの返答は、引き金を引くことだった。
乾いた銃声。
それと、金属を弾く甲高い音。
アリスが|月蝕石《ムーンクォーツ》の腕を僅かに動かして跳弾した音だ。
「だがな。私はお前に殺されるほど弱くねえ。強くなって出直しやがれ」
1機のエグザマクスが地を這っていた。
そのエグザマクスから、通信が開かれる。
「おまえを、ころす、ころさなきゃ、ころさなきゃ、いけない、んだ」
開かれるというよりは、おそらく開きっぱなしになっていただけなのだろう。
蒙昧とした、言葉だけが上辺を滑る、意志のない文字の羅列。
形だけの意味をなそうとして、身体だけが動いているなまもの。
そんな名も知らない誰かは、機体の銃をアリスに向けた。
「これは、テロリストの……。まだ動けたのね」
クラリスが近づき、その武器を弾こうとしたが、それをアリスが制した。
「私を殺したいか?そうすれば満足か?」
アリスはコックピットのハッチを開けた。
夜風がコックピットを僅かに冷やす。
「それがお前の望みか?なら、そうしてみろ」
倒れ伏したままで銃を構える機体の、顔もわからないなまものに向けて、アリスは言う。
その言葉に対して、そのなまものの返答は、引き金を引くことだった。
乾いた銃声。
それと、金属を弾く甲高い音。
アリスが|月蝕石《ムーンクォーツ》の腕を僅かに動かして跳弾した音だ。
「だがな。私はお前に殺されるほど弱くねえ。強くなって出直しやがれ」
ーーー
とある日。
とある指定された場所。
アリスは|月蝕石《ムーンクォーツ》に乗って待っていた。
指定時間。
ゲートが開かれ、アリスはそれを潜る。
格納庫だが、そこが何処なのかはわからない。
大事なのは、目の前にいる機体、そして人物。
白い、大きな翼を携えた、マクシオンの機体。
その名を、スノウブライド。
そしてその主、4と呼ばれる男。
「よう、盟主殿。加入願は届いたようだな?」
アリスは機体を降りると、口元を吊り上げて告げた。
「コードネーム、ピアレスエース。NUMBERSのNo.1として、参じた。これからよろしく頼むぜ、盟主殿?」
とある指定された場所。
アリスは|月蝕石《ムーンクォーツ》に乗って待っていた。
指定時間。
ゲートが開かれ、アリスはそれを潜る。
格納庫だが、そこが何処なのかはわからない。
大事なのは、目の前にいる機体、そして人物。
白い、大きな翼を携えた、マクシオンの機体。
その名を、スノウブライド。
そしてその主、4と呼ばれる男。
「よう、盟主殿。加入願は届いたようだな?」
アリスは機体を降りると、口元を吊り上げて告げた。
「コードネーム、ピアレスエース。NUMBERSのNo.1として、参じた。これからよろしく頼むぜ、盟主殿?」