【抑止力の魔王と姫の騎士】
アリスとエミリオ。
陽炎という規格外を前にした二人は、それぞれの思惑を胸にイマジナリ・ロストに戻り、機体整備の間に談話室に居座る。
アリスは激しい戦闘と、極度の緊張から解放されーもしくは、与えられた異能に適応するようにーしばらくするうちに意識を闇に沈ませていた。
ソファに倒れ込んで静かに寝息を立てる。
その姿には、普段の苛烈さなど微塵も感じない。
むしろ、年相応以上に華奢で青白いまでの肌が目立ち、これが初対面なら印象は真逆になりそうだ。
僕が淹れた紅茶はすっかり冷めてしまっていた。
結局、一口も口をつけなかったな。
「…………ーーーー」
ふと、その口元に目が行く。
アリスの唇が、うっすらと開いている。
触れてはいけない、その紅い果実に、僕はどきりとした。
……僕は何を考えているんだ。
そして、そんな自分に幻滅した。
いくら無防備だからって、それじゃただの変態じゃないか。
それに、あんな状態でも、アリスは違和感があれば飛び起きるだろうし。
「ーーーーーそんな事をしたって、君の心は手に入らない」
いくら触れたところで、今の僕では足りないのだ。
立ち上がり、物置からブランケットを取り出す。
アリスにかけようとしたら、寝返りをうって、シャツの裾がめくれた。
「ーーーー!!」
真っ白な胴、細すぎるくびれ、へそ、その上に隠されたーーー
陽炎という規格外を前にした二人は、それぞれの思惑を胸にイマジナリ・ロストに戻り、機体整備の間に談話室に居座る。
アリスは激しい戦闘と、極度の緊張から解放されーもしくは、与えられた異能に適応するようにーしばらくするうちに意識を闇に沈ませていた。
ソファに倒れ込んで静かに寝息を立てる。
その姿には、普段の苛烈さなど微塵も感じない。
むしろ、年相応以上に華奢で青白いまでの肌が目立ち、これが初対面なら印象は真逆になりそうだ。
僕が淹れた紅茶はすっかり冷めてしまっていた。
結局、一口も口をつけなかったな。
「…………ーーーー」
ふと、その口元に目が行く。
アリスの唇が、うっすらと開いている。
触れてはいけない、その紅い果実に、僕はどきりとした。
……僕は何を考えているんだ。
そして、そんな自分に幻滅した。
いくら無防備だからって、それじゃただの変態じゃないか。
それに、あんな状態でも、アリスは違和感があれば飛び起きるだろうし。
「ーーーーーそんな事をしたって、君の心は手に入らない」
いくら触れたところで、今の僕では足りないのだ。
立ち上がり、物置からブランケットを取り出す。
アリスにかけようとしたら、寝返りをうって、シャツの裾がめくれた。
「ーーーー!!」
真っ白な胴、細すぎるくびれ、へそ、その上に隠されたーーー
「…………エミリオ、てめぇ……、このやろう………」
寝言が、僕の理性を呼び戻す。
そのままブランケットをかける。
「……一応、僕はまだ、君の心の中にいられるみたいだね」
それが、どれくらいの割合なのかは分からない。けれど、まだそれがひと欠片でも残されているのは、素直に嬉しかった。
「せめて夢の中だけでも、君に平穏がありますようにーーー」
おやすみ、アリス。
僕の愛しい人。
そのままブランケットをかける。
「……一応、僕はまだ、君の心の中にいられるみたいだね」
それが、どれくらいの割合なのかは分からない。けれど、まだそれがひと欠片でも残されているのは、素直に嬉しかった。
「せめて夢の中だけでも、君に平穏がありますようにーーー」
おやすみ、アリス。
僕の愛しい人。
*
夢を見ていた。
夢が夢と判る明晰夢、というやつだろうか。
私は、燃え盛る星に独りだった。
火山惑星、というやつだろうか。
この間、バイロン管轄である惑星に連合が仕掛けて、望月重工も参戦したというが、きっとこんな感じだったのかもしれない。
あちこちで戦火を感じる。
コックピットに独り。
正確に言えば、独りと一つのAIか。
「マスター。お目醒めになりましたか?早速ですが、アンノウンか接近中です。交戦準備を」
セレネの無機質な声に、私は現状を知覚する。
操縦桿を、握る。
脊椎直結接続が確立され、セレネと機体に重なる感覚。
しかし、これは。
「何を寝ぼけているのですか、マスター」
セレネに呆れられる。
夢が夢と判る明晰夢、というやつだろうか。
私は、燃え盛る星に独りだった。
火山惑星、というやつだろうか。
この間、バイロン管轄である惑星に連合が仕掛けて、望月重工も参戦したというが、きっとこんな感じだったのかもしれない。
あちこちで戦火を感じる。
コックピットに独り。
正確に言えば、独りと一つのAIか。
「マスター。お目醒めになりましたか?早速ですが、アンノウンか接近中です。交戦準備を」
セレネの無機質な声に、私は現状を知覚する。
操縦桿を、握る。
脊椎直結接続が確立され、セレネと機体に重なる感覚。
しかし、これは。
「何を寝ぼけているのですか、マスター」
セレネに呆れられる。
「貴女は魔王を自称する恐怖の体現者、この鏖魔月蝕石(ムーンクォーツ=マリス)を駆る世界の敵でしょう?しっかりしてください」
そうだった。
私は、魔王だ。
「ったりめぇだ、セレネ。さっさと行くぞ」
迫りくる機体。
それらがどこの所属かは知らん。
だが、機体に乗って戦闘するってことは、この魔王(アリス)様の餌食ってことだ。
「接敵まで3、2、1、ロック」
セレネの合図とともに、マニピュレータが引き金を引く。
火山の硫黄臭い大気を引き裂いて、ビームがひたはしる。
「ーー、!ー!!」
混戦する通信、その波紋を感じる。
異能の力が、それを知覚させるのだ。
小隊規模、数機の編成の指揮官を守って、先鋒が撃ち抜かれた。
指揮官を身を挺して守る、暑苦しい絆。
反吐が出る。
「ハッハー!皆殺しだ!」
魔王らしい言動を。
逃げおおせられると思うな。
魔剣に持ち替え、飛びかかる。
特務仕様機か。
いずれにせよ、魔王の敵ではない。
私は、魔王だ。
「ったりめぇだ、セレネ。さっさと行くぞ」
迫りくる機体。
それらがどこの所属かは知らん。
だが、機体に乗って戦闘するってことは、この魔王(アリス)様の餌食ってことだ。
「接敵まで3、2、1、ロック」
セレネの合図とともに、マニピュレータが引き金を引く。
火山の硫黄臭い大気を引き裂いて、ビームがひたはしる。
「ーー、!ー!!」
混戦する通信、その波紋を感じる。
異能の力が、それを知覚させるのだ。
小隊規模、数機の編成の指揮官を守って、先鋒が撃ち抜かれた。
指揮官を身を挺して守る、暑苦しい絆。
反吐が出る。
「ハッハー!皆殺しだ!」
魔王らしい言動を。
逃げおおせられると思うな。
魔剣に持ち替え、飛びかかる。
特務仕様機か。
いずれにせよ、魔王の敵ではない。
火山の熱を吸い上げた魔剣が、たやすく鋼を切り裂く。
断末魔さえかき消す死神の嘶き。
それは戦場の中にあって、なお色濃く死を振りまくものとして、周囲に伝播する。
手当り次第。
目に映る全て。
それらを狩り尽くすつもりで地をかけ、空を覆う。
そして、アリスは出会う。
それは戦場の中にあって、なお色濃く死を振りまくものとして、周囲に伝播する。
手当り次第。
目に映る全て。
それらを狩り尽くすつもりで地をかけ、空を覆う。
そして、アリスは出会う。
「ーーーーー煉獄月蝕石(ムーンクォーツ・ヘル)」
地獄の悪魔が、鏖魔を迎える。
人の気配を感じない。
破壊の意志を感じない。
こんなものは、ただのお遊びに過ぎない。
その程度の存在ながら、しかし、その姿には意味がある。
「“過去の亡霊”が出しゃばるなよ!」
そう。
この鏖魔に乗る私がここにいるという事実。
それが、対峙する悪魔が過去の残滓であることを示している。
「消し炭にしてやる!セレネ!」
「委細承知。武装展開、いつでもどうぞ」
こちらが翼を広げれば、あちらも負けじと広げる。
だが、煉獄月蝕石がこの鏖魔に勝てる道理などないのだ。
全ての火力、全ての武装、持てる限りの全て。
人の気配を感じない。
破壊の意志を感じない。
こんなものは、ただのお遊びに過ぎない。
その程度の存在ながら、しかし、その姿には意味がある。
「“過去の亡霊”が出しゃばるなよ!」
そう。
この鏖魔に乗る私がここにいるという事実。
それが、対峙する悪魔が過去の残滓であることを示している。
「消し炭にしてやる!セレネ!」
「委細承知。武装展開、いつでもどうぞ」
こちらが翼を広げれば、あちらも負けじと広げる。
だが、煉獄月蝕石がこの鏖魔に勝てる道理などないのだ。
全ての火力、全ての武装、持てる限りの全て。
「その姿は、その過去は、もう捨てたんだ!消えろ!」
過去の幻影を切り捨てる。
撃ち合う火力、骨さえ溶かす白が、埋め尽くしていく。
その最中。
空の虚ろに浮かぶ、もう一つの魔神を幻視した気がした。
撃ち合う火力、骨さえ溶かす白が、埋め尽くしていく。
その最中。
空の虚ろに浮かぶ、もう一つの魔神を幻視した気がした。
*
目を覚ます。
ここは……イマジナリ・ロストの、談話室、か?
どうやら寝てしまっていたらしい。
いつの間にかかけられていたブランケットとともに身体を起こす。
「おはよう、アリス。よく眠っていたみたいだね」
「あぁ?エミリオ、てめぇ……ーーーー」
あれ。
なんだ、私は何を言おうとした?
「アリス。起きがけに紅茶はどうかな?目が覚めるよ?」
「ぁ、あぁ……もらうよ」
額に手を当てる。
何か、夢を見ていた?
それに、何かがおかしい?
わからない。
この違和感は、なんだ?
「はい、どうぞ?」
エミリオから受け取ったカップ。
その液面が、ゆらゆらと揺れる。
思考が纏まらない。
ひどく、頭痛がする。
「私は……」
ここは……イマジナリ・ロストの、談話室、か?
どうやら寝てしまっていたらしい。
いつの間にかかけられていたブランケットとともに身体を起こす。
「おはよう、アリス。よく眠っていたみたいだね」
「あぁ?エミリオ、てめぇ……ーーーー」
あれ。
なんだ、私は何を言おうとした?
「アリス。起きがけに紅茶はどうかな?目が覚めるよ?」
「ぁ、あぁ……もらうよ」
額に手を当てる。
何か、夢を見ていた?
それに、何かがおかしい?
わからない。
この違和感は、なんだ?
「はい、どうぞ?」
エミリオから受け取ったカップ。
その液面が、ゆらゆらと揺れる。
思考が纏まらない。
ひどく、頭痛がする。
「私は……」
「駄目だよ、アリス。そんな所で寝たら、お腹の子に障るよ?」
なんだって?
「ーーーは?」
聞き間違いか?
私が、妊娠?
エミリオをまじまじと見るが、その表情に嘘はない。
ブランケットを剥ぎ取ると、私は妊婦用のゆるい服で、間違いなく、“腹部が膨れて”いた。
血の気が引いていく。
腹の中で、何かが、蠢いている。
「あは。そういえば、もう死んでいるんだっけ?」
エミリオが、エミリオじゃない何かにすり替わって笑う。
あは。あは。あはは。
臓物の中で蠢いていた何かが、ピタリと動くのをやめた。
そして、腐っていく。
その感触は、なんとも形容しがたく、しかし、そうと認知できる確固たるもの。
腐り落ちていく落し仔は、私のはらわたを引きずり、腐食させて。
「なんだ、これは……!」
焼ける。
溶ける。
ぐらぐらと煮立つ釜のよう。
ケタケタと笑う狂気の上澄みが、私を間近に覗きこむ。
「混沌、安寧、選定、真命、呪詛、縁故、それから災禍。何が生まれると思う?何が君にあると思う?それは本当に君の望み?それとも、君じゃないキミかな?」
腹を掻きむしる。
這い回る感触が、全身を総毛立たせる。
あぁ、何かが。
何かが、絶望的に、変化していく。
心が?
それとも身体が?
むしろその両方か?
いや、むしろ別のナニカ?
分からない!
解らない!
ワカラナイ!
これはなんだ!!
これはなんなんだ!!!
「ーーーは?」
聞き間違いか?
私が、妊娠?
エミリオをまじまじと見るが、その表情に嘘はない。
ブランケットを剥ぎ取ると、私は妊婦用のゆるい服で、間違いなく、“腹部が膨れて”いた。
血の気が引いていく。
腹の中で、何かが、蠢いている。
「あは。そういえば、もう死んでいるんだっけ?」
エミリオが、エミリオじゃない何かにすり替わって笑う。
あは。あは。あはは。
臓物の中で蠢いていた何かが、ピタリと動くのをやめた。
そして、腐っていく。
その感触は、なんとも形容しがたく、しかし、そうと認知できる確固たるもの。
腐り落ちていく落し仔は、私のはらわたを引きずり、腐食させて。
「なんだ、これは……!」
焼ける。
溶ける。
ぐらぐらと煮立つ釜のよう。
ケタケタと笑う狂気の上澄みが、私を間近に覗きこむ。
「混沌、安寧、選定、真命、呪詛、縁故、それから災禍。何が生まれると思う?何が君にあると思う?それは本当に君の望み?それとも、君じゃないキミかな?」
腹を掻きむしる。
這い回る感触が、全身を総毛立たせる。
あぁ、何かが。
何かが、絶望的に、変化していく。
心が?
それとも身体が?
むしろその両方か?
いや、むしろ別のナニカ?
分からない!
解らない!
ワカラナイ!
これはなんだ!!
これはなんなんだ!!!
「ーーーーーー胡蝶の夢って知ってるかい?」
唐突な静寂とともに、耳元で囁かれる、甘い甘い声色。
「君は、一体何かな?誰、なのかな?」
それはエミリオの声で、お前は誰だと問いかけた。
「君は、一体何かな?誰、なのかな?」
それはエミリオの声で、お前は誰だと問いかけた。
*
目を覚ます。
ここは……イマジナリ・ロストの、談話室、か?
どうやら寝てしまっていたらしい。
いつの間にかかけられていたブランケットとともに身体を起こす。
「おはよう、アリス。よく眠っていたみたいだね」
ノイズが、走る。
感覚が戻ってくる。
心臓を押さえ、恐る恐る腹を、見る。
「ーーーーー、なにも、いない」
何もいない。
何もいないことに、私は安堵した(?)。
そんな私に、エミリオが近づいてくる。
思わずキッと睨みつけるようになって、エミリオは慌てて謝罪した。
「あっ、僕はまた、君の事を、ぅ……」
拳が飛ぶと予想したのか、エミリオは目を瞑った。
……どうやらコレは現実らしい。
『胡蝶の夢って知ってるかい?』
あぁ、知ってるとも。
望月重工の保護施設での教育は、変なところで役に立った。
……現実か夢かもわからなくなれば、もうそれは。
「ーーー怒らないの?」
エミリオがおずおずと聞いてきたことで、ようやく私は少しだけ落ち着いた。
「特別に許してやる」
そう言った途端に、エミリオはパアと顔を明るくした。
「ーーーお前、その手に持ってるの、まさか紅茶じゃねぇだろうな?」
ひったくるように受け取ると、中身を眺めることなく飲み下す。
熱い。
喉が焼ける。
そして、苦い。
しかめっ面の皺をさらに深くする。
「……それ、コーヒーだけど、紅茶の方が良かったよね?」
多分、エミリオは自分で飲むために淹れたのを持っていただけだ。
「普段絶対にブラックなんて飲まないけど、悪夢でもミタ?」
語尾に不穏な音を聞いた気がしたが、顔を上げても、エミリオはいつもどおりだ。
「エミリオ」
呼びかける。
「なに?」
いつもどおりすぎて、逆に疑いたくなる。
だが、得てして“こういう”やつは、構えているときには来ないのだ。
私はじっとエミリオを睨んでから、フッと息をついた。
「胡蝶の夢って知ってるか?」
その質問と同時、エミリオはソファの脇に正座し、私と近い目線にする。
こいつ、話し込むつもりなの、解ってやがるな。
その態度に、若干の苛つきと心地よさを感じながら、私は言葉を切り出す。
「夢を視た。多分、災禍の異能のせいだ」
もしそうでないのなら、相当に夢見が悪い。
「それは多分正しくて、きっと私の心の底を覗き込んだんだ」
あの、得体のしれない感覚。
それから、質問。
あれは本当に意味のない質問だったか。
意味ありげな言葉を連ねた、私の心の反射なのか。
頭をフル回転させて、エミリオに語ると同時に、自分の中での解釈を進める。
コイツ……人が考え事しながら喋ってんのに、呑気な顔しやがって。
あとでぶん殴ってやる。
「陽炎は私に、異能の種を与えたと言った。焦天の刻印とか言ってたが、種というからには、私の何かを肥料にして成長するもんだと思ってる」
あの夢は、その土壌を確認するためのものだった。
そう解釈すると、なんとなく合っているような気がする。
「僕は異能の種を与えられたわけじゃないから、詳しくは解らないけど……ーーー」
少し考えを纏め、それからエミリオは意見を言う。
「陽炎さんは、嘘はつかない。神様ってそういうものなんだと思う。だから、災禍の異能についても、ミス・ピルグリムがそう確信するって事は、大きく間違ってるって事は無いんじゃないかな」
神は嘘はつかない、か。
確かに、陽炎の言動に嘘はない。
……取説があるわけじゃない。
仮説を立てるにも、足がかりもない。
その補強が、よりにもよってエミリオ(コイツ)かよ。
だけど、何もないよかマシ、か。
前に進むしかねぇんだ。
「ーーー珍しく私と同意見じゃねぇか」
「なんで気に入らなさそうに言うかなぁ?!」
気に入らねぇよ。
お前が嬉しそうなのが、特に気に入らねえ。
エミリオのくせに、調子のんな。
「あー、後な」
この後伝える事が、こいつをさらに調子つかせるのが目に見えてる。
くっ!言いたくねぇ!
だが、直感は間違ってねぇ、多分!
「お前と私、それぞれの改修プラン、思いついたんだわ」
案の定、エミリオの顔は即座にだらけきった。
……クソが。
ここは……イマジナリ・ロストの、談話室、か?
どうやら寝てしまっていたらしい。
いつの間にかかけられていたブランケットとともに身体を起こす。
「おはよう、アリス。よく眠っていたみたいだね」
ノイズが、走る。
感覚が戻ってくる。
心臓を押さえ、恐る恐る腹を、見る。
「ーーーーー、なにも、いない」
何もいない。
何もいないことに、私は安堵した(?)。
そんな私に、エミリオが近づいてくる。
思わずキッと睨みつけるようになって、エミリオは慌てて謝罪した。
「あっ、僕はまた、君の事を、ぅ……」
拳が飛ぶと予想したのか、エミリオは目を瞑った。
……どうやらコレは現実らしい。
『胡蝶の夢って知ってるかい?』
あぁ、知ってるとも。
望月重工の保護施設での教育は、変なところで役に立った。
……現実か夢かもわからなくなれば、もうそれは。
「ーーー怒らないの?」
エミリオがおずおずと聞いてきたことで、ようやく私は少しだけ落ち着いた。
「特別に許してやる」
そう言った途端に、エミリオはパアと顔を明るくした。
「ーーーお前、その手に持ってるの、まさか紅茶じゃねぇだろうな?」
ひったくるように受け取ると、中身を眺めることなく飲み下す。
熱い。
喉が焼ける。
そして、苦い。
しかめっ面の皺をさらに深くする。
「……それ、コーヒーだけど、紅茶の方が良かったよね?」
多分、エミリオは自分で飲むために淹れたのを持っていただけだ。
「普段絶対にブラックなんて飲まないけど、悪夢でもミタ?」
語尾に不穏な音を聞いた気がしたが、顔を上げても、エミリオはいつもどおりだ。
「エミリオ」
呼びかける。
「なに?」
いつもどおりすぎて、逆に疑いたくなる。
だが、得てして“こういう”やつは、構えているときには来ないのだ。
私はじっとエミリオを睨んでから、フッと息をついた。
「胡蝶の夢って知ってるか?」
その質問と同時、エミリオはソファの脇に正座し、私と近い目線にする。
こいつ、話し込むつもりなの、解ってやがるな。
その態度に、若干の苛つきと心地よさを感じながら、私は言葉を切り出す。
「夢を視た。多分、災禍の異能のせいだ」
もしそうでないのなら、相当に夢見が悪い。
「それは多分正しくて、きっと私の心の底を覗き込んだんだ」
あの、得体のしれない感覚。
それから、質問。
あれは本当に意味のない質問だったか。
意味ありげな言葉を連ねた、私の心の反射なのか。
頭をフル回転させて、エミリオに語ると同時に、自分の中での解釈を進める。
コイツ……人が考え事しながら喋ってんのに、呑気な顔しやがって。
あとでぶん殴ってやる。
「陽炎は私に、異能の種を与えたと言った。焦天の刻印とか言ってたが、種というからには、私の何かを肥料にして成長するもんだと思ってる」
あの夢は、その土壌を確認するためのものだった。
そう解釈すると、なんとなく合っているような気がする。
「僕は異能の種を与えられたわけじゃないから、詳しくは解らないけど……ーーー」
少し考えを纏め、それからエミリオは意見を言う。
「陽炎さんは、嘘はつかない。神様ってそういうものなんだと思う。だから、災禍の異能についても、ミス・ピルグリムがそう確信するって事は、大きく間違ってるって事は無いんじゃないかな」
神は嘘はつかない、か。
確かに、陽炎の言動に嘘はない。
……取説があるわけじゃない。
仮説を立てるにも、足がかりもない。
その補強が、よりにもよってエミリオ(コイツ)かよ。
だけど、何もないよかマシ、か。
前に進むしかねぇんだ。
「ーーー珍しく私と同意見じゃねぇか」
「なんで気に入らなさそうに言うかなぁ?!」
気に入らねぇよ。
お前が嬉しそうなのが、特に気に入らねえ。
エミリオのくせに、調子のんな。
「あー、後な」
この後伝える事が、こいつをさらに調子つかせるのが目に見えてる。
くっ!言いたくねぇ!
だが、直感は間違ってねぇ、多分!
「お前と私、それぞれの改修プラン、思いついたんだわ」
案の定、エミリオの顔は即座にだらけきった。
……クソが。
*
その後すぐに書き上げた設計図。
そこには、2つの機体の名前がある。
そこには、2つの機体の名前がある。
“鏖魔月蝕石(ムーンクォーツ=マリス)”
“虚天晶(ネビュリウム)”
“虚天晶(ネビュリウム)”
ともに魔石。
特に、鏖魔は夢で視たそのまま。
月蝕石の、最終極致だと、私らは頷いた。
特に説明の必要はない。
なぜなら、現在の延長線上の発展機だからだ。
それから、虚天晶。
こちらはエミリオの月蝕魔晶石を設計の下敷きとして、一つのカスタム機からオリジナルへと昇華させたものだ。
エミリオの癖や戦闘データを元に開発された、グリムシェイド社3体目の支援AI“フィーリア・ネビュリウム”を備えた機体だ。
この2機は、ある特殊なシステムを背負っている。
『陰陽心火』
陽炎によって刻まれた刻印。
心をユニゾンさせることによって、出力を上げるという異能の刻印。
それを活かすための、シンクロ・メイガス・システム。
簡単に言えば、読み取った生体情報を元に、精神状態が筒抜けになる、こっ恥ずかしいシステムだ。
異能を活かすため、嫌嫌ながら搭載を決めた。
これらは、明確に二人で一つを表している。
白と黒。
同じアヌビスの意匠を持ち、同じ高機動高出力。
そういう設計だった。
特に、鏖魔は夢で視たそのまま。
月蝕石の、最終極致だと、私らは頷いた。
特に説明の必要はない。
なぜなら、現在の延長線上の発展機だからだ。
それから、虚天晶。
こちらはエミリオの月蝕魔晶石を設計の下敷きとして、一つのカスタム機からオリジナルへと昇華させたものだ。
エミリオの癖や戦闘データを元に開発された、グリムシェイド社3体目の支援AI“フィーリア・ネビュリウム”を備えた機体だ。
この2機は、ある特殊なシステムを背負っている。
『陰陽心火』
陽炎によって刻まれた刻印。
心をユニゾンさせることによって、出力を上げるという異能の刻印。
それを活かすための、シンクロ・メイガス・システム。
簡単に言えば、読み取った生体情報を元に、精神状態が筒抜けになる、こっ恥ずかしいシステムだ。
異能を活かすため、嫌嫌ながら搭載を決めた。
これらは、明確に二人で一つを表している。
白と黒。
同じアヌビスの意匠を持ち、同じ高機動高出力。
そういう設計だった。
*
しばらくの時を経た。
目の前のドッグには、真新しい2機の獣が並び立つ。
「完成したな」
「ようやく、だね」
鏖魔と虚。
これらの真の意味を、アリスもエミリオも、まだ知らない。
夢で視たものを忠実に再現しただけだ。
だから、その意味も、異能が行き着く先も、また何も決まっちゃいない。
それは、きっとこれから決めていくことなのだ。
私は、魔王になると、心に秘めたまま。
僕は、アリスと共にあろうと、誓って。
物語は続く。
しかし、この先のページは、未だ白紙のままだーーーーー
目の前のドッグには、真新しい2機の獣が並び立つ。
「完成したな」
「ようやく、だね」
鏖魔と虚。
これらの真の意味を、アリスもエミリオも、まだ知らない。
夢で視たものを忠実に再現しただけだ。
だから、その意味も、異能が行き着く先も、また何も決まっちゃいない。
それは、きっとこれから決めていくことなのだ。
私は、魔王になると、心に秘めたまま。
僕は、アリスと共にあろうと、誓って。
物語は続く。
しかし、この先のページは、未だ白紙のままだーーーーー