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間違われた男 ◆w9XRhrM3HU
第一放送を聞き終えた
アカメはただ一言、そう呟いた。
名前からして、アカメと近しい誰かが死んでしまったのだろう。雪乃と同じく、それも恐らくは血縁者。
ただ、雪乃と違い。アカメの目は涙ぐんではいたが、悲しみの他に安堵感が混じっているようにも見えた。
血縁があるからといって、決して良好な関係だけではない。
もし、この放送で雪乃の姉の名前が流れていたら、雪乃も同じ顔をしたのかもしれない。
もっともアカメの場合、雪乃の姉妹関係とはまた異なるのだろうが。
「すまない雪乃。足を止めてしまって」
「いえ、それは良いのだけれど……。もう大丈夫なの?」
「心配ない。早く行こう」
死者の名前に線を引いた名簿を仕舞い、二人は図書館へ急いだ。
□
狡噛と入れ替わる形で
プロデューサー、セリム、光子は図書館へと辿り着く。
最初は光子が図書館前の生首に悲鳴を上げていたが、何とか
タスクが宥め落ち着かせることで冷静さを取り戻した。
この事でタスクは近いうちに、生首を処理したほうがいいかもしれないと考え直す。
そして幸い、未央とプロデューサーが知り合いということもあり、五人はすぐに警戒を解いた。
もっとも、プロデューサーが連れていたセリムがブラッドレイの息子であったのにタスクは引っかかったが。
「イェーガーズ、ですか……」
「狡噛さんが言うには、正義感が強すぎる狂人らしいです。あまり関わらない方が良いって言ってましたけど、やっぱりあの生首は放っておく訳にはいかないかもしれない」
「そ、そうですわね……」
「……僕、怖いです」
「プロデューサー……」
正義と称して生首を置く狂人がこの近くに居るなど考えたくもない。
ガクガク震えながら、光子と未央はプロデューサーの後ろにセリムは光子の後ろに隠れる。
そんな、生首の話で空気が重くなった五人に
第一回放送を告げる鐘が鳴った。
「……モモカ」
「そんな……佐天さんが……」
放送の内容は最悪と言っていいだろう。セリムを除いてこの場に居た全員の知り合いの名が呼ばれたのだ。
更に言えばあの後藤の名が呼ばれていない。奈落に落ちても尚、生き延び殺戮を繰り返している。
内心、光子は後藤が生きていることに安堵感を抱いていたが。
「嘘、だよね……プロデューサー……?」
「それは……」
「だって、絶対嘘だよ……。アニメやドラマじゃないんだから人がそんなに死ぬわけ……」
渋谷凜。
未央と同じ346プロのアイドルだった。
放送が正しければ、彼女は死んでしまったのだろう。何処の誰とも知らない者に無残にも殺された。
死ぬ間際の彼女はどんな顔を浮かべていたのか、決して笑顔である筈はない。
恐怖に歪み、死にたくないと何度も叫びながら死んだのかもしれない。
「嫌だ……嫌だよ……そんなの、死ぬなんて……」
考えられない。人が死ぬのも、仲間が殺されるのも。
ここに来て未央は変態に襲われたが、貞操の危機はあっても命の危機はなかった。
それに後で会った人物も鳴上やタスク、あくまで表向きではあるがブラッドレイなど殺し合いに進んで乗る者は殆ど居ない。
だから、自然と誰かがこの事件を解決して、自分達は誰一人欠ける事無く生きて帰れるのだと思ってしまう。
だが、ここに来てから生首に凜の死と立て続けに、これが殺し合いであると現実を突きつけられてしまった。
「本田さん……」
誰も未央に掛ける言葉が見つからない。
タスクは何時でも死を覚悟していた。だから、最悪の場合も想定し受け止められる。
光子もタスクほどではないにしろ覚悟はあったし、佐天の死は悲しいが未央と凜ぐらい交流が深かった訳でもない。
だが、未央はタスクや光子と違い戦いとは無縁の世界で生きてきたのだ。
同じ世界に居るプロデューサーともまた精神面が大きく違う。まだ幼い少女が突然仲間の死を宣告され、動揺するなというのが酷だ。
「とにかく、落ち着こう未央」
「落ち着くって……しぶりんが死んでるのに……」
「う、嘘なのでは……ありませんか? そう、あの放送は貴女のような方を動揺させる為の嘘に決まっていますわ!」
咄嗟に、光子はそう断言した。
「嘘……そうか、嘘だよね……」
「え、ええ……。そもそも、何で私達があんな広川の言う事を信じなければいけないんでしょう? 嘘ですわ嘘」
タスクとプロデューサーは、それが如何に希望的観測、現実逃避か良く分かる。
広川が嘘を流すメリットが大してないのだ。
近しいものの死に動揺し、殺し合いに乗るか錯乱して暴れる者も居ないとは限らないが、それならもっと殺し合わせざるを得ないルールを追加するなりやりようは別に色々ある。
光子も悪気はないのだろう。ただ、錯乱した未央を落ち着かせる為に咄嗟に言ってしまっただけだ。
「……なら、探しにいかないと。早くしぶりんを見つけて……」
嘘も方便というが、光子の言った説は未央を一先ずは落ち着かせたらしい。
しかし、決して事態が好転した訳ではない。早い内に現実を教えなければ、彼女はどこかでそのしっぺ返しを喰らう。
問題はどうやって、その事を教え落ち着かせるかだ。
「光子さん……。あの人、大丈夫なんですか?」
「そ、それは……」
セリムが心配そうに小声で光子へと話しかける。
光子も自分の軽率な発言に後悔していた。結果的には未央は前向きに元気を取り戻したが、それが良くない事ぐらいは光子にも分かる。
放送を挟み、それから五人は次に今までに会った人物との情報を交換しようよした時、仕掛けが新たな来訪者の訪問を告げた。
黒い髪の少女達が仕掛けに警戒しながら、入り口へと向かったタスクを睨む。
タスクは仕掛けを止め、少女達に弁明し少女達を何とか納得させた。
「そうか……確かに図書館は会場の真ん中にあって、人が集まりやすいからな」
「ああ、とにかく中に入ってくれ。奥にも俺と同じ殺し合いに乗っていない人が居る」
「アカメ! 雪ノ下!」
その時、髪を逆立てた少年が息を切らしながら走ってきた。
二人の少女、アカメと雪乃の反応を見るに知り合い同士らしい。
「随分、早いのね泉くん」
「はぁ、はぁ……。ここまで、全速力で来たんだ……」
髪を逆立てた少年、新一はミギーの細胞が体に流れ強靭な身体能力を手に入れている。
先に図書館に向かいながらも、一般人である雪乃のペースに合わせたアカメ達と、一人で全力疾走した新一では追いつくのに時間はそう掛からない。
結果として、大した時差も無く図書館で合流できたのだ。
新一が苦虫を噛むような顔をしたのを見て、雪乃とアカメに嫌な予感が浮かぶ。
一回放送でサリアの名前が呼ばれなかったが、もしやその直後に殺害されたのではないかという可能性。
だが、二人の予感は更に最悪な現実に塗りつぶされることとなる。
「サリアが人を殺した?」
「何をやっているの……あの人は……!」
「サリアが? 最後は一緒に戦ってくれたのにどうして……」
雷神憤怒アドラメレクにより、
巴マミと
園田海未の命を奪ったサリア。
一応は、誤殺なのかもしれない。彼女が狙ったのは
アンジュだ。
更にそれを煽ったのは槙島でもある。だが、それでもサリアの行為が正当化されることはおろか、許されることは決してない。
既にアカメはサリアを友好関係から、葬るべき存在へと切り替えている。次に合間見える時、彼女は何の躊躇いも無くサリアを殺すつもりだ。
そして、新たに合流したタスク達もアドラメレクの力に驚嘆し、警戒していた。
「何の為に……何の為に……比企谷君は死んだの……あんな人の為に……」
決して雪乃はサリアを好意的には見ていない。
むしろ、サリアは雪乃が抱く嫌悪心の塊。けれど、雪乃と同じく八幡に命を救われたことも事実。
それを嘲笑い、不意にされたのだ。
雪乃には、アドラメレクの強大な力の恐れよりもサリアへの怒りだけが募っていく。
「……話は変わりますが、そのアカメさんは外の生首に書かれてたイェーガーズを知っているんですよね?」
サリアの話を打ち切り、プロデューサーはアカメにイェーガーズについて尋ねた。
これにはタスクや新一、表には出さないがセリムも興味があったことだ。
「……何処から話すべきか……。そうだな、先ずはナイトレイドから話そう」
簡潔にではあるが、アカメがナイトレイドに所属する暗殺者の一員である事を明かす。
当然、暗殺者と聞いて反応はあまり良くないが、何故暗殺者として生きているか。帝都が如何に腐っているかを説明し、その反乱軍の一員として自分の身を捧げている事を告げた。
タスクも、反乱という点はアカメと似た境遇だったこともあり、納得はする。セリムもアメストリスと関係ないテロリストであるなら、危害はないだろうと判断。
だが、残るプロデューサー達を初めとした現代日本の住人達は、話が突拍子過ぎて理解するのに精一杯である。
更にアカメはイェーガーズが、その帝都を守護する警察組織であると教え、しかしその実態は国の後ろ盾を得た危険な集団であることを伝える。
その中には、あの光子を襲ったクロメもまた在籍しており、危険であるという事実は更に説得力が高まった。
「よく分かりませんけど、そのイェーガーズは警戒した方が良いのでしょうか?」
「確かに、私を襲ったセーラー服の少女もアカメさんの話を聞く限りでは、そのイェーガーズらしいですし」
セリムが頭に?マークを浮かべながら質問する。
人間関係がかなり複雑だ。殺し合いには乗っていないが、帝都と呼ばれる場所では反乱分子で犯罪者であるナイトレイド。
逆に警察だが、ここでは殺し合いに乗るかもしれないイェーガーズ。
把握するには一苦労する。
「少なくとも、
エスデスは乗る可能性が高い。仮に乗らないスタンスでも戦いを求める危険性は変わらない筈。無力な参加者を保護するとしても帝都の民だけだ。
クロメも……死んだが、乗っている側だったらしいな。白服の男に殺されたのは自業自得だ」
「でも、狡噛さんが言うには、あの生首を置いたのは正義感の強い人だって言っていた。
なら殺し合いには少なくとも表向きは乗らないんじゃないか?」
「イェーガーズにも色々居る。多分、生首を置いたのは
セリュー・ユビキタスだ。
私の仲間から聞いただけだが、異常な正義狂らしい」
「正義狂……狡噛さんの推理と一致するな」
アカメの――より正確には、一時期イェーガーズに居た
タツミの――情報と狡噛の推理を合わせると生首を置いた犯人はほぼ間違いなくセリュー。
エスデスはやるにしても正義などまどろっこしい事は書かず、もっと威圧的で恐怖を煽り挑発的な文を書きそうだ。
そもそも、クロメはそんな事はしない。
「それと、光子。お前の服、
御坂美琴と同じ物だな?」
「 ? 何か? それに御坂さんをご存知ですの?」
「御坂は殺し合いに乗ったみたいだ」
淡々と殺意を含ませながら言うアカメに光子は呆気に取られた。
彼女は誰か別人と勘違いしているのではないだろうか。御坂が乗るなど、天地がひっくり返ってもそんな事は無い。
「上条当麻。一番、最初に殺された少年の知り合いらしい。
多分、彼が関係して乗ったんだろう」
「は? そんな馬鹿なこと……。人違いではありませんの……?」
アカメは首を横に振り、その外見特徴を話した。
それは光子を以ってして、御坂美琴その人だと認めなけれならないほど、特徴も能力の規模も一致している。
断じて、御坂が殺し合いに乗る事はないと強く否定したかったが、一つだけ心当たりが浮かぶ。
光子も詳細を知っているわけではないが、御坂と最も親しい黒子が定期的に類人猿と忌々しく呼んでいた人物。
今思えば、あれは嫉妬だったのではないだろうか。黒子は傍から見ていても、気持ち悪いほどに御坂が好きである。その黒子が嫉妬する人物となれば必然的に男、それも御坂と非常に仲睦まじい男性だ。
もしも、あの殺された上条という少年がその類人猿だとして、あの黒子が嫉妬するほどの愛情を御坂が持っていたのだとすれば……。
(いや、でも……。だからといって、ここには白井さんや初春さんも居ますわ……。いくら何でもそんな)
恋は盲目と言うが、光子には御坂が学友を犠牲にしてまで、殺し合いに乗るとは考えられない。
何か誤解があるのかもしれない。話してみる限り、アカメという少女は物事を極端に捉えやすいと感じた。
様々な事情が重なり、彼女が誤認してる可能性は十分にある。
とにかく今は話し合いその誤解を解くべきだろう。
「奴を葬る為のヒントを探しているんだが。光子、何かあの電撃の弱点を知らないか?」
「ほ、葬るって……。そんな……本当に御坂さんでしたの?
ここには、御坂さんの友人が何人も居ますわ。それなのに殺し合いに乗るなんて……」
「事実だ。御坂は乗ってしまった。誰かに危害が及ぶ前に葬らなければ」
「……貴女が何か極端に捉えて誤解しているんじゃ……」
「いや、本当に御坂って奴に……。少なくとも、電撃を操る茶髪の女の子には襲われたんだ」
ムキになって反論する光子に新一が口を挟んだ。
光子と同じ、現代の価値観を持つ新一や雪乃も御坂が殺し合いに乗ったと証言したのだ。
光子もそれ以上は何も言えない。
それから、プロデューサーが遭遇した後藤、血を飛ばすエルフ耳、
エンブリヲなどの危険人物や狡噛やイリヤ、優しいおじさん
DIOなどの友好人物など、一通りの情報交換を終える。
DIOとイリヤに関してはまたアカメ達の情報と新一の得た情報とで一悶着あったが、新一の情報から一先ずDIOは警戒対象。イリヤは保護すべき対象でもあり、洗脳されている可能性もある警戒対象となった。
その後、互いの探し人を記憶し合い、一向はまたそれぞれの目的の為に図書館を発つつもりでいた。
「私はここでセリューを待つ。狡噛という奴の言ったとおりなら、生首の様子を見にここに戻ってくるかもしれない
罪のない民が犠牲になる前に仕留めたい」
そう言って、アカメは戦いの支度を始める。
同じようにタスクも時間を見て、自分はここを発つ予定だと話した。
ブラッドレイの事も気になるが鳴上の回収に加え、アンジュとの合流も急がないといけない。
そのブラッドレイの息子のセリムを残すのが気掛かりだが、子供であるし、すぐに何かをするということも無いはずだ。
「そっか……。私はプロデューサーと一緒に行くね。短い間だけど、ありがとうタスクくん」
「ああ、未央とプロデューサーさん、エンブリヲには気をつけてくれ」
「うん。鳴上くんの事任せる形になっちゃうけど……。私もアンジュって人に会ったら、タスクくんの事教えておくから。
しぶりんも探してあげないと」
「本田さん、それは……」
前向きに明るい未央だが、タスクやプロデューサーの目からはその明るさが照らし出す影が見え透いている。
そこに不穏な気配を感じながらも二人は見てみぬフリしかできない。
いずれは、現実を教えるべきだが、今はまだ希望に縋っているのも決して悪ではない。
「僕は図書館に残ってます。タスクさんと父が待ち合わせてをしてたみたいだし、もしかしたら遅れてくるかもしれません」
「セリムくん……」
「プロデューサーさんと光子さんは先に行って下さい」
「ですが」
「大丈夫ですよ。父が近くに居るというだけでも安全ですから。それにアカメさんも居ます」
セリムがニッコリと笑う。
確かにセリムの言うとおり、二人もここにずっと留まるわけにはいかない。
プロデューサーは、未央の件や他にも同じ346プロのアイドルを探さねばならないし、光子も御坂の事がある。
「セリム君、そのお父さんの事なんだけd「見つけましたよ。BK201!」
新一の台詞が遮られる。
「あの、時の……」
魏志軍。新一達を襲撃し八幡を殺害した契約者。
新一と雪乃からすれば、もう二度と顔を合わせたくないあの忌まわしい男だ。
仕掛けは鳴っていない。既に腕から血を流しているということは、仕掛けを破壊した後ということだろう。
「貴方方と一緒とは。縁がありますね。確か泉くんでしたか?」
以前の戦いで、名前を呼ばれているのを聞かれたのだろう。
殺人者に一方的に名前を知られているというのは非常に気分が悪い。
「ですが、今は貴方などどうでもいい。私と戦って頂きますよ。BK201」
「BK201?」
「全く、無力な一般人に紛れるのが上手い。確か以前も、ウェイターに化けてあのパーティに潜入していましたね」
魏の印象が違う。
最初に新一と雪乃の前に現れたときは、冷静そのものだった。
だが今、顔は大きく歪み、そこに以前は見られなかった感情が浮かび上がっていた。
喜びと憎しみ。契約者が決して見せないであろう感情を浮き彫りにし魏は血を投げる。
狙う先は仕留め損ねた新一や雪乃、ましてや戦えない者を守ろうと勇み出るアカメ、タスク、光子でもない。
「ぷ、プロデューサー!!」
未央の叫び声と共にプロデューサーの服に血が付着する。
「早く脱げ!」と叫ぶ新一の声に釣られ服を脱ぐ。彼にとって幸いだったのが、比較的すぐに脱ぎやすいブレーザーにのみ血がついたことだ。
放り投げたブレーザーが光り、血の付いた部分が消し飛ぶ。
もし、脱ぐのが遅れていればプロデューサーの体に風穴が空いていたことだろう。
「プロデューサー? 貴方は度々、設定を変えているようだ」
「一体、何の事だか私には……」
「皆さんはお下がりになって! 貴方、私を常盤台中学の
婚后光子と知っての狼藉ですの!」
「知りませんね」
「止めろ光子。素人の脅しじゃ、アイツには効かない」
精一杯凄みを出そうとしてる光子をアカメが止める。
これなら、プロデューサーが凄みを出していた方がよっぽど効果があっただろう。
「くそっ。ミギー、おいミギー!」
『……逃げろシンイチ。それと―――』
「ミギー? ミギー!!」
更に間の悪いことに、ミギーの眠りの時間と魏の襲撃が重なってしまった。
「逃がしませんよ。BK201!!」
「お前の相手は私だ」
戦いの足手纏いにならないよう奥へ避難するプロデューサー達を追う魏にアカメが立ち塞がる。
舌打ちをしながら、腕を振るい血を飛ばす。
アカメは血飛沫の広がる範囲を瞬時に見切り、横へ飛ぶ。そのまま、刀を抜き神速の剣裁きで魏の胸元へ薙ぐ。
僅かに後ろに反り、わざと掠らせながら刀の直撃を避ける。血を付ければアカメの刀を破壊できるからだ。
だが刀は服を切らず擦っただけだった。
(峰打ち?)
峰打ちでも、鉄の塊をアカメの腕力で振るえば、それは十分凶器になる。
魏の能力が血を付けたものを消し飛ばすと聞かされていたアカメは、その対策として斬るのではなく打つ戦い方を選んだ。
最も村雨があれば、その気負いも必要なかったのだが。
「行きますわよ!!」
「……?」
更に『風力使い』を用い、光子は手にした本や本棚を魏へと砲弾の如く浴びせた。
向かってきた五冊と三つの本棚の内、三冊を血を飛ばし迎撃する。
二冊を身を反らし回避。三つの本棚を屈んで避ける。そこへ、分厚い本を掴んだタスクが突っ込んでくる。
牽制に放った血を避けながらタスクが本で殴り掛かった。
腕を立てガードしながらタスクへ血を飛ばすが、割り込んできた遮蔽物が血を遮る。
光子が本棚に触れ『空力使い』で飛ばしたのだ。
「ッ!?」
そのまま遮蔽物が刀で切断され、アカメとタスクが踏み込む。
アカメの首を狙う一撃。当たれば呼吸困難、下手をすれば首の骨が折れる。魏はとっさに首を反らして、首輪に当てて弾く。
弾かれた反動をものともせず、胸への薙ぎ払い。やはりここも首と同じく当たれば暫くは息が吸えなくなる。
後方へと飛びのけ回避。そして、反撃に血を投げる。
アカメが屈んで血を避け、魏の横方からタスクが本を投擲した。
魏の横腹に命中。堪らず横腹を抑え膝を折ったところで、後ろに回っていた新一が後頭部に蹴りをかます。
「チッ」
担いでいたディバックで蹴りの衝撃を和らげる。
殺しきれなかった衝撃で前かがみになる魏に、眼前まで迫ったアカメが刀を振るい上げていた。
血を飛ばし刀を壊すか、アカメを殺す頃には魏の頭がかち割れている。
舌打ちをしながら、クラクラする頭を無視し強引に足をバネに横へ飛んだ。
刀は空を切り、魏が居た場所に小さな亀裂を作り上げた。
(やはり、打撲で攻めてくるか……)
魏の能力を警戒し、可能な限り出血を避けた戦い方をしている。
能力が割れているのはかなりの痛手だ。
(埒が空かない)
魏と黒に匹敵する運動能力、技術を持つアカメとタスク。
技術はないが、動きは人を超えた新一。動きは劣るが強力な能力を持つ光子。
各個撃破ならばまだ容易いが、同時となるとかなりの難敵だ。
考えれば、ここまで多対一の戦いが多かった。八幡殺害時は実質一対一ではあったが、まどか戦に関しては三対一で更に控え二人である。
ついてなさ過ぎる。
何にせよ。勝機を得るには、この四人を分担する他無い。
「―――!」
魏の腕が振り上げられる。
血はアカメでも新一でも光子でもタスクでもなく。図書館の天井に付着していた。
指を鳴らす音と共に、天井の一部が消し飛び崩落する。
動きから血が来ると予測し身構えたアカメ達の頭上から瓦礫が降り注いだ。
「今の内に各個撃破といきましょうか」
瓦礫の雨の中を真っ先に避け、魏の前に立ったアカメへと魏は躍り掛かる。
血が飛ぶ。アカメからすれば見慣れすぎた魏の攻撃方法。最低限の動きでそれをあっさりかわす。
更に、アカメへ放たれる顎下を狙った蹴り。首を上げ、顎が靴先に触れるか否かの紙一重で避ける。
そのまま、蹴りに紛れて投げた血も、髪に数本付着したがアカメ自身には一滴も触れない。
指を鳴らす音と共に、数本髪が飛び散っただけでアカメは全くの無傷。
アカメは生粋の暗殺者だ。たまたま強い異能や身体能力を手に入れた一般人とは訳が違う。
いかな相手でも適応し敵を葬るからこそ、ナイトレイドの切り札として重宝され、尚且つ帝国から指名手配され危険視されているのだ。
その心理は如何なる時を持っても冷静そのもの。葬るべき対象の能力を測り、確実に正確に戦いを運んでいる。
「スピードは私が上のようだな」
「……何?」
ただでさえ感情が高ぶっている魏に向かい、偶然ではあるが忌々しいあの男の台詞を浴びせられた。
怒りがこみ上げ、アカメに対する殺意が高まる。
内から溢れ出す情に従い、魏は強く踏み込みこんだ。
魏の変化を察知したアカメはこれを好機と見て、自らもまた飛び込む。
血を流した右手で裏拳を放つ。アカメは後方へ飛んでから裏拳をよけ血を屈んで避ける。
アカメは屈んだまま足をバネに前進した。魏の懐に潜り込み、刀の切っ先を胸に突きつける。
「ッ……」
「お前、激情に流されすぎだ」
「……ええ、全く。その通りですよ」
「―――!?」
刀が胸を穿つ。迫る死の寸前、魏が浮かべたのは微笑。
魏の左手に嵌められた一つの指輪が怪しく光る。その次の瞬間、魏の右手の血がひとりでに動き出し、無数の刃となってアカメへと撓った。
「あまりに胡散臭かったので、使用は控えたのですが……。こんな事なら先に使っておくべきでしたね」
血の刃に四方を囲まれたアカメは刀で全ての刃を弾き落とした。
だが、それも既に想定済み。血が付着した刀は魏が指を鳴らせば砕け散る。
刀のないアカメでは決め手に掛け、脅威は少ない。
「……水龍憑依ブラックマリン」
パチンと乾いた音が響き渡る。
刀の刀身を纏う鞘が消し飛んだ。
「鞘……」
「触れたことのある液体なら、自在に操ることができる帝具……だったな」
砕かれた鞘から再び銀色の輝きを見せた刀。その刀身には傷一つなく、驚嘆した魏の顔を映し出す。
血の刃に囲まれたあの瞬間、居合いの構えにように刀を鞘に仕舞い。鞘を纏ったまま血を受けたのだ。
そして、鞘から即座に刀を抜けば刀は無傷で済む。
「お前の能力とその帝具を見た瞬間から、お前の奥の手は読めていた」
「まさか……知っていて敢えて……」
「―――葬る!」
もしこの場にアカメさえ居なければ、ブラックマリンの能力でこの場に居た全員を皆殺しにすることも可能だったかもしれない。
だが、魏の計算違いはアカメが帝具の存在を知っていたこと。
しかもよりにもよって、アカメの仲間からその情報がナイトレイドに流れた帝具であったことだ。
「なっ!?」
地鳴りのような響きが図書館を揺らす。
よくよく聞けば、それは聞き慣れた水音だと分かる。
ただし、普段日常で聞くようなものではなく。それは災害などで人に牙を向く濁流の音だ。
ブラックマリンが操れるのは血だけではなく液体。故に触れた事のある物ならば、なんであろうと操る。
床を食い破った濁流がアカメを飲み込む。直撃を避け、完全に飲まれる前に離脱したが、水の勢いに刀を手放してしまう。
「水、どうして……」
ブラックマリンの弱点は、無から液体を生み出せないこと。
無から氷を生み出せる、エスデスのデモンズエキスと違い。その能力を発揮出来る場所が限られている。
だから、魏がブラックマリンの使用を控えたのも。使わなかったのではなく、使えなかったのだと考えていた。
その思い込みがアカメの判断を鈍らせ、地中からの不意打ちへの対応を遅らせてしまった。
「水なら十分にあるでしょう? ……水道を流れる水がね」
アカメの誤算。それは現代の施設を知らなかったことだ。
彼女の住む世界、時代には水道なんてものは存在していなかった。
しかし、この会場は一部を除けば、おおよその技術は現代に準じている。
つまりブラックマリンが、その真価を発揮できない施設は非常に少ない。
先の攻防でアカメが帝具を知っていたというアドバンテージが有利に働いたのであれば、今度はアカメが現代を知らず、魏が現代の住人であったというアドバンテージが有利に働いた。
「くっ」
「アカメ!」
刀を手放したアカメに魏の操る水を凌ぐ術はない。
水がドリルのように高速回転しアカメを狙い打つ。
瓦礫の雨から逃れ咄嗟に飛び出した新一が、比較的大きめな瓦礫を掲げる。
水がは更に回転し圧力を増し、瓦礫の盾を打ち砕く。崩壊した瓦礫から水の槍が流れ込んだ。
「ぐあああああ!!」
新一は横腹を抉られ吹き飛ばされる。
盾が消えたアカメに血が飛んでいく。瓦礫を蹴り上げ血を受けるが、ブラックマリンで加速した血は瓦礫を貫通する。
アカメは疾走し魏の横方に回り込む。血がそれを追尾したのを見計らい、魏へと向かい特攻した。
「血を追い寄せて、私の寸前でよけるつもりですか。浅はかな」
「―――!」
右足の痛覚が刺激される。
バランスを崩しアカメは無様に転がっていく。
見れば、足を水が貫いていた。血が滲み。、水が傷口を染み痛みが増す。
「先ずは貴女から」
「させませんわ!!」
瓦礫が意志を持ったかのように魏に向かってくる。見れば、光子がタスクの肩を借りながらも瓦礫の中から生還していた。
あのまま潰れているのが理想だったが、事はそう上手く運ばない。
魏はアカメに止めを刺す前に瓦礫を水で弾き落とし、視線を光子へと向ける。
そして虫を払うような動作で水を叩きつける。タスクに連れられ、水は光子達に直撃はしなかったが床を砕き、その床の破片が散弾となって二人の体を打ちつけた。
「……!」
「あぁっ」
二人は苦悶の声を上げながら床を転がっていく。
だが、アカメは魏の注意が反れた僅かな時間を見逃さない。刀のある場所まで一気に駆け抜けた。
刀を手に取り、アカメは魏へ向き直る。
迫り来る濁流を正面から切り裂き、一直線に突き進む。
濁流を両断しながら、勢いを衰えさせず走る様は人間業ではない。ましてや、足を負傷した少女の芸当とは目で見ても現実とは信じられない。
もっとも魏は驚嘆しながらも、余裕のある動作で指を鳴らした。
その瞬間、アカメの貫かれた右足が激痛を誘発する。足という支えの異常にアカメは為す術もなく倒れ付した。
それでも、水の攻撃を刀で受け流したのは流石というべきだろう。けれども、力なく吹き飛ばされ床を転がるアカメに次の反撃の手はなかった。
「あっ、うっ」
「お忘れですか? 貴方の足には私の水が浸入していることを」
アカメの右足を水で貫いた時、その足の内部には水が浸入していた。
ブラックマリンの支配下に置かれた水は、アカメの足の内部を掻き乱し痛みを起こしたのだ。
「手間取りましたが、終わりにしましょう」
「こっちでs……だ!!」
魏が視界の端で動く、黒い存在に気を取られた。
その口は大きく三日月に歪み、今にも大声で笑い出しそうなほどの笑みを浮かべている。
アカメを殺す喜びから、そのような笑みを見せたのか。違う、契約者に笑みなどなく殺人は合理的に判断し必要だから行うだけ。
では、その魏を契約者の常軌から逸しさせているのは何か。他ならぬ、黒の死神BK201への屈辱に他ならない。
「やっと、やる気になりましたか。BK201!!」
先に動けないアカメを殺すという判断も、未だ蹲りダメージから回復できない新一、タスク、光子を殺す事すら頭の隅。
今の魏には合理的判断など一つもない。あるのは受けた屈辱を晴らすという一点の感情のみ。
やはり、使い慣れたワイヤーとナイフを没収されているのだろう。
BK201、いや黒が懐から銃を抜く。その時に違和感に気付いた。手付きが慣れていない。
「―――お前は」
考えてみればおかしい。これだけ水をばら撒いてやったのだ。電撃を水に伝わせる戦い方を何故しない。
何故、銃を持つ手が震えている。何より、この間合いで何故、臨戦態勢が取れていない。
互いに疾走し必殺の間合いへと詰め寄った瞬間、黒の右手に銃、そして左手には奇妙な物体があった。
疑問が確信に変わった時、二人はこの場から消え去った。
□
「消えた……?」
痛む体に鞭を打ちながら、タスクはプロデューサーと魏の居た場所を調べる。
図書館にに何かしらのギミックがあった訳でもない。
プロデューサーが消える寸前に持っていた物体によるものだと気付くのに時間は掛からない。
「帝具だ。あれも間違いない」
足を引き摺りながらも、アカメもタスクの元へと歩み寄る。
「俺達はプロデューサーさんに、助けられたのか?」
「ああ。そして、恐らく……」
プロデューサーの手には銃が握られていた。
だが、アカメやタスクからすれば素人であるとはっきり分かるほど持ち方がなっていない。
あれでは飛ばされた先で魏に発砲したところで、当たることは殆どない。
「早く、探しに行かなきゃ」
未央は虚ろな目をしながらフラフラした足取りで出口へと向かっていく。
タスクが未央の腕を掴み。取り押さえる。
「離してよ……プロデューサーを探さなきゃ」
「プロデューサーさんは、もう……」
「分からないよ……。もしかしたら、生きてるかもしれないじゃん!」
未央がタスクを振り払おうと強引に腕を動かす。
タスクは握る手を更に強めた。
力では勝てない未央がタスクから逃げるには一つしかなかった。
足元がお留守なタスクに向かって思い切り足を振り上げる。
足の先にあるのは、男の最大の弱点。
「―――ッ!!!」
声にもならない悲鳴でタスクは股間を抑えながら蹲る。
その間に未央は走り去りってしまう。
見守っていたアカメ達も未央を取り押さえようとするが、怪我の痛みが邪魔をする。
「未央を追わないと……があぁぁ」
この近辺には、セリュー以外にも光子を襲った白服も居る。未央一人でそんな連中と出会ったらなど考えたくもない。
股間の痛みを根性で堪えながら、タスクが内股で未央の後を追う。
「私も、私も行きますわ。タスクさん」
「光子……」
「あの、えーと……殿方の弱点を潰された貴方を一人には出来ませんし……」
「……今は君の力があると心強いよ。ぐぅ……」
二人は図書館に残るアカメ達に別れを告げ、図書館を発つ。だが、ここで計算外だったのは未央の足の速さだ。
少女の足である為、追いつくのはそう難しくないと考えていたが、既に未央の姿はなくタスクたちは未央を見失っている。
アイドルは華やかに見えてかなりの体力を消耗する為、日ごろからそれなりに鍛えてきた。激痛に悶え、出遅れたタスク達を撒くぐらいの体力は付いている。
更に言えば、既に図書館前の通路は、何人もの参加者が行き来し数え切れない足跡がある。これでは未央の足跡を判別できない。
「どっちだ。どっちに行った……?」
タスクが選んだ道は……。
□
「生きてるよ……絶対、生きてるよね……」
渋谷凜が生きていないだろう事も、プロデューサーが死んでしまったかもしれないことも。未央は分かっていた。
それでも。それでも、もしもの事があるかもしれない。
「諦めないから……私……」
未央は走り続ける。ありもしないもしもに縋りながら。
□
結論から言えば黒ではなかった。
電撃も使わず、飛び抜けた体術もない。黒にしては弱すぎる。
目の前で胸に風穴を空けたプロデューサーの死体を見下ろして魏は溜息を吐く。
「仲間を守る為に、自己犠牲ですか……」
プロデューサーの持っていた奇妙な物体。それも魏の持つブラックマリンと同じ帝具であることを魏は察する。
能力は対象を別の場所に飛ばすといったところか。荷物を調べてみたところ説明書の類がない為、断言は出来ないが。
プロデューサーが持っていて、使えそうなものは拳銃程度。後は外れの支給品しかない。
何かに使える可能性も考慮し、一応プロデューサーのバック中の荷物を自分のバックに移す。その際、猫が泣き喚いていたが無視した。
そして空っぽになったバックも同じく自分のバックの中に放り込む。
ブラックマリンの操作に使う水を見つけ次第、空のバックの中に保存しておけば如何な場所でもその能力が使える。
「……あの男の事になると私は」
魏は黒の顔を知らない。この時点で黒とは、仮面を付けた姿でしか対峙していないからだ。
そこに加え、プロデューサーは蘇芳が初めて見た時、黒をごつくした感じと思う程度には黒と似ている。
顔を知らない魏からすれば、背格好だけで間違えるのも無理はない。ただしそれは人間に限る話だ。
それこそ、未熟な契約者である蘇芳とは違い、合理的判断が可能である契約者なら尚更。
けれども、魏はその時、合理的判断が出来なかった。あれが黒であると決めつけ、ブラックマリンがあったとはいえ人数の不利すらものともせず突っ込んでいく。
そもそもあの人数の手練を相手に生還できたのも、水の奇襲によるところが多い。
何処の田舎に住んでいたのか知らないが、アカメが水道の事にも気を回していれば、今頃死んでいたのは魏だったかもしれない。
契約者ではありえない不合理すぎる判断。魏はあの時、例え死ぬとしても、戦わずにはいられなかったのだ。
「少し頭を冷やしますか」
手の中にある人を転移させる帝具を弄ぶ。
今は水の確保とこの帝具の能力の解明を急ぐべきだろう。
使い方が分かれば、ブラックマリン同様有用性は高い。
脳裏にこびり付く黒を振り払うように魏は歩を進めた。
□
(勇気ある逃げない人間というのは本当に乗せやすい)
場所は変わり、再び図書館。
セリムは図書館に残ったアカメ、新一、雪乃の目を盗みとある一枚の影に食わせていた。
それは支給品の説明書。セリムに支給された帝具、次元方陣シャンバラ。能力は人をマークした場所に転移させる帝具だ。
説明書では長距離移動の場合、ランダムに飛ばされるとある。かなりギャンブル要素の高いアイテムといえる。
セリムはわざとそれをプロデューサーの前で落とした。
プロデューサーが魏に狙われていたのは一目で分かる。あの場で一番、捨て駒としては使いやすかった。
雪乃や未央に気付かれないよう、そして偶然を装うのは難しかったが、数十年にわたり国民を騙してきた演技力はここで真価を発揮する。
何の疑いも無く説明書を読み、シャンバラを手にしたプロデューサーの行動は説明するまでも無い。
未央を守るため、セリムや未来ある少年少女を死なせない為、彼は最初で最期の戦いに赴いた。
(あのまま、アカメ達が殺されれば、私が相手をしなくてはなりませんからね)
戦える人材が消えてしまえば、自身を守る為に影の使用するしかない。
だが、あの血は厄介だ。如何に影が優れた硬度を持っていたとしてもあれは容易く消し飛ばす。
それに加え、あの水を相手にするのも面倒だ。
負けるとは思わなかったが、確実に消耗する。何より、正体が露見するのだけは避けなければならない。
(まただ。母の顔が浮かぶ)
人を守ろうとする人の顔。凜がセリムを守り死んだ時も、プロデューサーが一人立ち向かい死んだ時も。事故に合い掛けたセリムを守ろうとした母と似た顔をしていた。
それを見ていくたびに、胸に穴が空いたような虚無感を感じるのは何なのだろうか。
(……関係ありませんね。帰る為に利用できるものは利用するだけです)
セリムは最初、この殺し合いに優勝すればいいと考えていた。
お父様が始めた事ならば従っておくべきだからだ。
だが、様子を見る限りお父様の手口には到底思えなくなってくる。
殺し合いが始まり数時間、何らかの手段でセリムにコンタクトを取ってくるとセリムは予想したのだが、未だに音沙汰は無い。
現に今、トイレに行くといい一人になった。連絡をよこすなら絶好の機会であるのに対し、何も起きない。
今までのお父様の行動を良く見ていたからこそ分かるが、彼は秘密主義が過ぎるということはなかった。
何かしら、ホムンクルス達にも指示を与えるはずである。それが、今回に限って何の指示もない。
明らかにお父様以外のやり方だ。
(参加者を排除したところで、それがお父様の意志でないのなら、計画は大幅に狂う……。
“今”は乗らないが正解でしょうね)
お父様と関係のない殺し合いである以上、下手に人柱を死なせるわけにもいかない。
無論、ホムンクルス達もだ。ならば、何が起きているか見極めるまでは乗らないべきである。
乗らないと決めた以上、保護される側に回ったほうがやりやすい。昼間こそ能力を使えるが、夜中にはまた無力な存在になってしまうのだから、一括して無力を装っていた方が都合が良い。
それに仮に人柱と遭遇したとしてもこちらへ手を下すことは難しくなる。
無力な子供をホムンクルスと言い、信じるものはそうはいない。
かといって、人柱達はホムンクルス傲慢(プライド)の傍に何の関係もない参加者を放置して離れることもしないだろう。
こうして、人柱を縛りつけ、尚且つ監視できる絶好の体制が出来上がるのだ。
(それにラースもタスクの話を聞く限りでは、“表”向きは乗っていないようですからね。彼の邪魔をする訳にもいかない。
一先ず今はラースと合流し、これからの事も検討しますか)
トイレから戻り、プライドの顔からセリムの無垢な表情に戻す。
彼の計画は殆ど完璧だった。自ら手を下さず、襲撃者を撃退し使える駒を温存する。
たった一つ。駒の中にジョーカーが混じっているのを除けば。
泉新一はキング・ブラッドレイが人を殺めたことを知っていた。
本来ならば、皆の居る前でそれを言い出すつもりだったが魏の介入で話が流れた。
『……逃げろシンイチ。それと―――セリムは人間ではない……』
パラサイトは人に紛れた同種を判別できる。その影響でミギーはセリムの正体も看破できたのだろう。
ミギーが最後に残した言葉がブラッドレイへの追求を躊躇させる。
もし、セリムが乗っていたとしたら? ブラッドレイは異様な強さを誇るとサファイアは語っていた。
だとすれば、息子のセリムは? 人ですらないセリムはどれだけの強さを持つのか。
ミギーの居ない新一は、その地雷を踏もうとは今はもう思えない。
(どうする……。逃げないとヤバイ、特に雪ノ下は戦えないんだ。でも……)
「セリム君、怪我は無いかしら?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「あまり無理をするな」
「ありがとうございます。お姉さん達」
既にアカメと雪乃は守るべき対象として、セリムと接している。
幼い容姿は女性と打ち解けるには打ってつけだ。女性の母性を刺激するのかもしれない。
ブラッドレイが来るまで、二人はセリムの保護を止めないだろう。少なくとも父親であるラッドレイと合流するまでは、セリムと別れることはしないはずだ。
最悪、雪乃は殴って気絶させれば、そのまま連れて行くことも出来る。問題なのがアカメだ。ミギーが無い新一ではアカメに勝てない。
簡単に返り討ちにされる。
(しかも、ブラッドレイだけじゃなく。セリューって奴まで来る。……クソっどうすれば)
一人で逃げろ。ミギーならそう言っただろう。
未央の追跡に自分も名乗り上げて、図書館から離れようか本気で考えたぐらいだ。
だが、八幡に助けられた新一は、八幡が守ろうとした雪乃を見捨てることが出来ない。
もしここで逃げて、雪乃を死なせれば八幡は何の為に死んだのか。八幡の死を無意味なものにする訳にはいかない。
(どうすればいい……いっそブラッドレイの事を言って……。でも、それでセリムが俺達を殺そうとしたら……)
ミギーが目覚めるのを待ちながら、新一は沈黙をずっと守っている。
今、真に味方に付けられる者は一人も居ない。
そんな新一を嘲笑うように、雪乃に手当てしてもらった横腹の傷が少し痛み出した。
【プロデューサー@アイドルマスターシンデレラガールズ 死亡】
【D-5/一日目/午前】
【婚后光子@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(特大) 、腕に刺し傷、凜と蘇芳の死のショック(大)
[装備]:扇子@とある科学の超電磁砲
[道具]:ディパック×1 基本支給品×1 不明支給品2~1(確認済み、一つは実体刀剣類)
エカテリーナちゃん@とある科学の超電磁砲
[思考]
基本:学友と合流し脱出する。
1:御坂美琴、
白井黒子、食蜂操折、佐天涙子、
初春飾利との合流。
2:タスクと一緒に未央を探す。
3:何故後藤は四人と言ったのか疑問。
4:後藤を警戒。
5:御坂さんと会ったら……。
[備考]
※参戦時期は超電磁砲S終了以降。
※『空力使い』の制限は、噴射点の最大数の減少に伴なう持ち上げられる最大質量の低下。
※DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、アイドルマスターシンデレラガールズ、鋼の錬金術師の世界観を知りました。
※アカメ、新一、タスク達と情報交換しました。
【タスク@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)
[装備]:スペツナズナイフ×2@現実
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:アンジュの騎士としてエンブリヲを討ち、殺し合いを止める。
0:未央を追いかける。
1:アンジュを探す。
2:エンブリヲを殺し、悠を助ける。
3:生首を置いた犯人及びイェーガーズ関係者を警戒。あまり刺激しないようにする。
4:ブラッドレイとの合流は……。
5:セリムはブラッドレイの息子らしいが……。
[備考]
※未央、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。
【
本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いなんてしたくない。帰りたい。
0:消えたプロデューサーを探す
1:
渋谷凛、
島村卯月、前川みく、プロデューサーとの合流を目指す。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※プロデューサーと凜は生きているかもしれないと考えています。
※アカメ、新一、プロデューサー達と情報交換しました。
【D-5/図書館/一日目/午前】
【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:疲労(小)、足を負傷(治療済み)
[装備]:サラ子の刀@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[道具]:なし
[思考]
基本:悪を斬る。
1:図書館でセリューを待つ。
2:セリムが父親と合流するまでは一緒に居る。
3:タツミとの合流を目指す。
4:悪を斬り弱者を助け仲間を集める。
5:村雨を取り戻したい。
6:血を飛ばす男(魏志軍)と御坂は次こそ必ず葬る。
7:クロメ……
[備考]
※参戦時期は不明。
※御坂美琴が学園都市に属する能力者と知りました。
※ディバックが燃失しました
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
【
雪ノ下雪乃@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。】
[状態]:健康、八幡が死んだショック(若干落ち着いている)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、MAXコーヒー@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている、ランダム品0~1
[思考]
基本方針:殺し合いからの脱出。
1:セリムがお父さんと会うまでは図書館に居る。
2:知り合いと合流
3:比企谷君……
4:イリヤが心配
[備考]
※イリヤと参加者の情報を交換しました。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
【セリム・ブラッドレイ@鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST】
[状態]:健康、虚無感?
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2
[思考]
基本:今は乗らない。
1:無力なふりをする。
2:使えそうな人間は利用。
3:アカメ達と行動しつつ様子を見る。
4:ラース(ブラッドレイ)と合流し今後の検討。
5:凜の仲間に会ったら……。
[備考]
※参戦時期はキンブリーを取り込む以前。
※会場がセントラルにあるのではないかと考えています。
※賢者の石の残量に関わらず、首輪の爆発によって死亡します。
※DARKER THAN BLACK、ラブライブ!、アイドルマスターシンデレラガールズ、とある科学の超電磁砲の世界観を知りました
※殺し合いにお父様が関係していないと考えています
※新一、タスク、アカメ達と情報交換しました。
【泉新一@寄生獣 セイの格率】
[状態]:疲労(中)、横腹負傷(治療済み)ミギーにダメージ(小) ミギー爆睡
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム品0~2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:セリューとブラッドレイが来る前に何とか雪乃やアカメを連れて図書館から離れたい。
2:後藤、血を飛ばす男(魏志軍)、槙島、電撃を操る少女(御坂美琴らしい?)を警戒。
3:セリムを警戒。
[備考]
※参戦時期はアニメ第21話の直後。
※新一、タスク、プロデューサー達と情報交換しました。
【一日目/G-7/午前】
【魏志軍@DARKER THAN BLACK黒の契約者】
[状態]:疲労(大)、背中・腹部に一箇所の打撲(ダメージ:中) 右肩に裂傷(中)、顔に火傷の傷、黒への屈辱、右腕に傷(止血済み) [装備]:DIOのナイフ×8@ジョジョの奇妙な冒険SC、スタングレネード×1@現実、水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品×2(一部欠損)、テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカード@とある科学の超電磁砲、暗視双眼鏡@PSYCO-PASS、アーミーナイフ×1@現実 ライフル@現実 ライフルの弾×6@現実、 空のディバック、次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!パンの詰め合わせ、流星核のペンダント@DARKER THAN BLACK、参加者の何れかの携帯電話(改良型)、カマクラ@やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。、黒妻綿流の拳銃@とある科学の超電磁砲、うんまい棒@魔法少女まどか☆マギカ
[思考]
基本方針:全ての参加者を殺害し、ゲームに優勝する
0:なにか強力な武器・力が欲しい。最悪、他者と組むことも考える。
1:BK201(黒)の捜索。見つかり次第殺害する。
2:奇妙な右手の少年(新一)、先の集団(まどか、承太郎、アヴドゥル)は必ず殺す。
3:合理的な判断を怠らず、消耗の激しい戦闘は極力避ける。
4:水の確保とシャンバラの能力を確認する。
[備考]
※テレスティーナ=木原=ライフラインのIDカードには回数制限があり、最大で使用できる回数は3回です(残り1回)。
※上記のIDカードがキーロックとして効力を発揮するのは、本パートの劇中に登場した“物質転送装置”のような「殺傷能力の無い機器」・「過度な防御性能を持たない機器」の2つに当てはまる機器に限られます。
※暗視双眼鏡は、PSYCO-PASS1期10話で
槙島聖護が使用したものです(魏はこれを暗視機能のないごく一般的な双眼鏡と勘違いしている)。
※スタンドのことを参加者だと思っています
※閃光を放ったのは誰かは知りません。
※シャンバラの説明書が紛失している為、人を転移させる謎の物体という認識です。
※シャンバラは長距離転移が一日に一度で尚且つランダム。短距離だとエネルギー消耗が激しいですが、通常通りに使用できます。
【水龍憑依ブラックマリン@アカメが斬る!】
指輪の帝具。水棲の危険種が水を操作するための器官を素材としている。装着者は触れたことのある液体なら自在に操ることができる。
【次元方陣シャンバラ@アカメが斬る!】
一定範囲の人間を予めマークした地点へと転送する。エネルギー消耗が激しい為乱発は出来ず、短距離は通常通り使用できる。
長距離の場合制限が掛かり、一日に一度が限度で主催が予めマークした場所にランダムで飛ばされる。
最終更新:2016年04月04日 03:42