186

その手で守ったものは(後編)



最早、そこに広がるのは神話の戦いに他ならない。
圧倒的な光の濁流が灼熱を生み出す。
それは空間すら捻じ曲げ、軋ませるほどの莫大なエネルギーの衝突。

「ォオオォオオオオオオオオ!!!」
「ハアアァァアアアアアァアアアアアアアアアアアアアア!!!」

鳴上が駆るは、あのルシファーにも次ぐ最強の悪魔ベルゼブブ。
その万能属性攻撃メギドラオンは、その実力に相応しい強大な力を有している。
しかし、敵もまたそれに匹敵、いやあるいは凌駕しうるかもしれない強大な力の主。
イリヤの駆るツヴァイフォーム、それが放つ多元重奏飽和砲撃。
これはかの英雄王の宝具、天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)すら退けた正しく最強の砲撃。

(圧しきれない……!)

拮抗は決して長くはなかった。展開は鳴上の劣勢という節目を迎える。
まず鳴上の力が、この場では薄れていたことが要因の一つか。
本来誰かとの絆によって広がるワイルドの力が、エンブリヲの感度50倍に晒された結果、ほぼ誰とも関わらず完全に発揮できなかったことはかなりの痛手だ。
だがイリヤにも、それは言えることだ。残り少ない魔力に加え、元よりあの英霊の投影は剣を模倣することにのみ、特化している。
強引に投影したサファイアは、これまでの投影品に比べあまりにも拙い。当然これを使ったツヴァイフォームは完全な力を引き出せていない。
このツヴァイフォームで、あの天地乖離す開闢の星と打ち合えば、イリヤの敗北は免れない程に弱体化していた。

(ダメージが抜け切らない……このままじゃ!)

勝敗を別ったのはダメージの総量だ。
ペルソナのダメージ総量とイリヤの受けたダメージ総量を見れば、明らかにペルソナで受けたダメージが大きすぎる。
むしろ、スターバーストストリームをモロに受けながらも、立ち上がれている鳴上が異常だと言っても良い。
スタンドと違い痛覚のみで致命傷にはならないものの、土壇場において鳴上にフィードバックされてきたダメージが表面に出てきたのだ。

『イリヤさん可能な限り短期決戦を、このツヴァイフォーム通常の魔術回路だけでなく筋系、血管系、リンパ系、神経系まで擬似的に魔術回路として誤認させています!
 長ければ長くなる程イリヤさんの身体に深刻なダメージが残ってしまうんです!』
「ルビー?」

そして何より。

『イリヤさんには負けました。良いですよ、一緒に世界最大の悪党になろうじゃないですか。
 地獄に行くときは一緒ですよ!』
「……だけど。あんなに酷いこと言ったのに」
『今更。何言ってるんですか、私にも責任がない訳じゃない。もう貴女と私は立派な共犯者です。
 仲直りです、イリヤさん。この先何処までも、お供します!』

使われるだけだったルビーがイリヤに助力し始めてしまったこと。
例えそれが間違った信念だとしても、どうして彼女がイリヤを見捨てられようか。
これまでも、ずっとそうだった。イリヤの決めたことに、ルビーはずっと助力し共に戦ってきた。
ならば、これからもそうであるべきだ。マジカルルビーとしてイリヤの大切なパートナーとして。
もうルビーに迷いはない。それが誤りであっても構わない。
イリヤが望み選んだ道ならば、それを助けるのが自分の役割だ。 

「ごめん、ありがとう、ルビー。
 ―――行くよ!」
『はい!!』

何時だって一人と一本で切り抜けてきた。
ずっとルビーは力を貸してくれた。
一人と一本の力が合わされば、どんな敵だって乗り越えられる。
光の波がより強く輝きだす。最早ベルゼブブは風前の灯、そこには魔王としての威厳など微塵も残っていない。
鳴上の最大の敗因は、皮肉にも彼が信じる絆をまた彼女達が築いてしまったこと。
元より鳴上に勝ち目などなかったのだ。
結束した彼女達の絆に、たった“一人”の鳴上が勝てる訳がない。


「これ、でェ……!!」

魔力の渦が鳴上を包み込んでいく、きっと痛みも感じずに死ぬのだろう。

(俺は……ごめん、千枝……みんな)

―――壊せ。

あの時の声がまた響く。
鳴上を引き摺り下ろそうと、何かが絡み付いてくる。
それは女性のようなフォルムをした幽霊のような存在。
違う。最早それは肉体を得た人間の姿。



『諦めないで』




千枝の、みんなの声が響いた気がした。
後ろに視線が泳ぐ、今にも倒れそうなほど覚束ない足取りで銀が鳴上の元へと歩んできていた。

「銀……逃げろ、君は……」
「千枝なら、きっと逃げないから」
「……!!」

あの時の声が薄れていく。
纏わりついた女の姿が消える。
かわりに不思議な安心感があった。

「私の力なら……」

千枝のペルソナを進化させ、鳴上に呼びかけたあの力。
あれならばきっと。

「だけど、あの声は……」
「大丈夫押さえ込む。私も、みんなと黒を守りたい」
「っ……!」

ドールとは思えない固い決意の表情は鳴上の心に響いた。

「……?」

だが現実はいつだって薄情だ。銀の身体に、はもう足を動かすほどの力も残っていない。
彼女の意志とは裏腹に足は崩れ、全身を地面に打ちつける。
だが痛みはない銀を支えたのは、とても柔らかく温かい人の腕だった。

「私が、銀ちゃんを守るよ」
「……穂乃果」
「ここで逃げたら私、花陽ちゃんにもμ'sの皆に顔向けできないから!
 私も一緒に戦う!!」

花陽も真姫も凜も海未もことりも、皆が皆にの戦いに望んで散っていった。
それを穂乃果だけが、逃げるなんて許されるはずがない。いや穂乃果自身が許せない。
やれることなどたかが知れている。どうせ銀を支えて、庇うぐらいしかできない。
構わない、自分のやれることを、今この瞬間に立ち向かっていかなければ、きっと明日へのゴールには届かない!

「これは……」

力が沸いてくる。
不思議と前にも感じたことのあるような力だった。
その出所は銀。以前、ジュネスでも似たような共鳴をしたことがあったが、あの時とは違う。
憎しみに染まり、破壊しかもたらさない憎悪ではない。これはこの力は絆の力だ。

「……ずっと私は私が怖かった」

自分が自分でなくなるあの感覚。
きっとそれが目覚めれば、誰もが死に絶える最悪の災厄を齎すだろう自分が。
この場でもより強く、銀のなかに語りかけてきたあの娘が。

――抗っても無駄なのに。

違う。今はこの力で誰かを救うことができる。
抑えてみせる。どんな災厄だって―――

「――――ッ!!」

死にかけていたベルゼブブの目に光が戻り始める。
同時にメギドラオンの火力が増大し始めた。

『イリヤさん、相手の力が増してきてます! 
 気を付けてください! このフォームも長くは!!』
「わか、てる……!!」


穂乃果も銀も覚えている。
詳細までは分からないが、穂乃果も自分と同じ友達を失った同類だ。
けれどやはり、彼女も鳴上と同じ正義の人間。イリヤの敵。
そして銀、イリヤの中身を見透かしていた彼女とは恐らく性根の部分でも繋がっているのだろう。
だからこそ、ここで決着を付ける。

「もっと、もっと力を……!!」
『ですが……いえ分かりました。イリヤさん!!』

血が滲む、頬が赤く染まる。
全身がズタズタに壊れていくのが分かる。だけど止まれない、ここで止まれば二人を助けられない。
全力で目の前の壁を越える。越えて、イリヤはその先へ進む。

「マスティマァァアアア!!!」
「クローステール!!!」

「なっ……!?」

全身を捕縛する糸、イリヤを囲い降り注ぐ白翼。
二人の帝具使いが放つ全霊の一撃がイリヤに直撃した。

「……本田?」
「今だよ、鳴上くん!」

所詮、一般人が操る帝具にツヴァイフォームを破るほどの威力などない。
だがその二撃は間違いなく、イリヤの気を逸らし隙を生んだ。

「ああ……任せろ!!」


――お待ちしておりましたお客様。

青い発光に包まれたタロットカードが並ぶ。
鳴上の脳裏に浮かぶ鼻の長い老人と鳴上の動きがシンクロした。
二枚のカードが二人の腕に合わせ、一枚のカードに重なり合う。
瞬間、二体のペルソナが一体のペルソナへと生まれ変わった。

ゾロアスター教に伝わりし大天使。
邪悪を討つ者。

「スラオシャ!!」

ベルゼブブが光に包まれる。鳴上のペルソナが、新たな力を向かえ変化していく。
千枝と同じだ。正史の未来で目覚める筈の力を銀の力で数段すっ飛ばし、鳴上に覚醒を齎したのだ。
瞬間、イリヤの手元に違和感が走る。
鳴上を圧倒していた多元重奏飽和砲撃が反射されていた。

『イリヤさん、あの化け物は光を反射をする力がある。
 真っ向勝負は危険です!』
「ぐ、ゥ―――」

スラオシャから放たれたメギドラオンと、固有スキルである光反射はイリヤの多元重奏飽和砲撃を正面から打ち破る。
絆なんて言えるほど、鳴上にとって未央も穂乃果も銀も卯月も付き合いは長くない。
だが、それでも彼女達は共に戦ってくれた。それだけで鳴上は戦える。


「俺は一人なんかじゃない!!」

遥か天空へと向かい光の柱が迸る。
暗闇を割くように夜空を切り裂き、光は徐々に薄まっていく。
そして上空より女神が堕つる。

否、堕ちているのではない。己が意志で下降しているのだ。
イリヤはルビーを柄として魔力の刃を大剣として形成する。
下降の勢いに乗せ、鳴上をペルソナごと両断するつもりだ。

「ゴホッ……ぁ、ハァ……勝つ、よ……ルビー!!」
『はい、イリヤさん! 勝ちましょう!!』

喉に血が絡む。全身が血で染まっていく。視界は赤く、色を正しく認識できない。
最早、痛みという感覚すら麻痺するような重態。
でも諦めない。まだ戦える。ここで倒れたら、それこそ嘘だ。

「行こうか……イザナギ!!」

己が絶対の信頼を寄せる無二のペルソナを呼び出す。
鳴上に逃げる気はない。
ここで全てを終わらせる。
イリヤに惨劇を始めさせてしまった者として、全てのケリをつける。

「はああああああああああ!!!」
「―――ッ!!」

交差は一瞬、イリヤとイザナギの剣が閃く。
月明かりよりも鋭い。それでいて透き通り、美しい刹那の閃光。
全てを乗せた剣閃が闇夜に輝いた。







改めて考えると主催が願いを叶える保障は本当に何処にもない。

「もしアイツらが願いを叶えてくれなかったらさ、私何の為に人殺してたんだろ」

それこそ救いようがない。だから、御坂はヒースクリフという保険に敢えて乗ったのだから。
とはいえ次に顔を合わせれば殺すつもりだが。

(そういやエドワードが言ってたっけ、首輪を外すのを試すのは許されるとかなんかと)

首輪に関して御坂はここまで何一つ考えてきていない。
だが、そろそろ考察に移るべきだろうか。
殺し合いを否定する気はないが、確かに主催を脅す切り札は欲しい。
一先ずサブプランとして、検討はしておいた方がいいのかもしれない。

(まあ、それを理由に殺しを止めるなんて逃げは……もう私には許されないけど)

そこまで考えた時、ふと空がやけに明るいのに気がついた。
黒とヒースクリフが向かった方向だ。
その上空にあったのは、馬鹿でかい蝿と両翼を生やした銀髪の少女。
少女の方は見たことがある。名前は……美遊という名に反応していたところを見ると、名簿で彼女に近い位置にあった名前。
多分、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンという名だろう。

「あれ、やばいわよね」

遠目だがイリヤの振るう力の強大さは嫌でも分かる。
そしてそれがどんなインチキでリスクを背負っているか、赤く染まり続ける身体が物語っていた。

「止めなさいよ。死にたくないでしょ、馬鹿なんじゃないの」

ふと口走った言葉に自嘲げに御坂は笑った。
誰であろうと死んでくれたほうが、楽に決まっているのに何を心配しているのか。
しばらく見ていて、よく分かった。
きっとどうしようもなく愚かで、馬鹿げた願いを叶える為にその身を削り続けているのだろう。
奪われた日常を取り戻す為に自分以外の全てを敵にして。

「よくやるわよね」

御坂は背を向けた。
あのイリヤとやり合う気はない。どうせ勝手に自滅してくれるだろう。
避けたほうが労力も割かずに済む。
まあ首輪換金で復活するかもしれないが。

「……頑張れ」

一言だけ呟く。
もう何処にも味方は居ないだろう少女に向かって、この瞬間だけ御坂はイリヤにただ一つの声援を送った。
次、対峙すれば容赦も加減もなく殺す敵同士でも。今だけは――









「ァ、ア―――」

先に倒れたのはイリヤだった。
血反吐を吐きながら、着地もできず地べたを転がっていく。
悲鳴すら上がらない。あるのは声にならない呻き声。

「勝った……鳴上くんが勝った!!」

「……ガ、ハッ……」

「―――え?」

未央の目に写ったのは剣ごと両断、その上体を両断され、崩れ落ちるイザナギ。
そして袈裟掛けに血を噴出し力なく倒れていく鳴上の姿。

「そん……な」

絶望に染まった未央の顔、酷くイリヤの脳裏にこびりつく。
でもこれだけの絶望じゃ足りない。もっと多くの屍の先にイリヤが辿り着く場所がある。

「……ゥ、ウゥア、ァ―――!!」

禄に動かない身体で杖を大振りに振り回す。
ここに呼ばれた戦う力を持った者なら、なんてことはないただの光弾。
威力も速度もまるでない。しかし、力を持たぬ弱者からすれば別だ。
イリヤにとっての強敵はもういない。残ったのは戦う術を持たない弱者達。
いける。彼女達を全て抹殺するぐらいなら、そして首輪換金で身体を回復させる。
先に進める。二人を助け出すことができる。

「ひっ……」

漏れ出した悲鳴は、誰の者だったか。少なくとも銀のものではなかった。
既に彼女は声も上げられないほど死に掛けている。
胸に穴を穿たれ、更に切り裂かれた銀は文字通り人形のように力なく倒れ逝く。
固めた決意の贄として、死神の枷は断ち切られた。

(どう、すれば……)

後ずさる未央。もうどう抗えば良いのかも分からない。
花陽が死んだ、鳴上も倒された、銀が殺された。
マスティマで戦う? 逃げる? 無理だ、死にかけの女の子一人に勝てる気がしない。

「い、や……」

「―――イリヤ!」

未央に放たれた魔力の刃は盾によって遮られた。
その盾より飛び出す黒い影を、イリヤは忘れない。
自分が殺すと宣言した男を。
もう、その目には殺意しかない。イリヤを殺さないという選択肢は、既に消え失せている。
それでいい。それでこそ、やっと黒を殺せる。

足をバネにして一気に飛びあがる。
そのまま脳天目掛け、ステッキを振りかざす。

「……ゴフッ!」

血が喉を逆流する。視界がまともに見えない、目の前の全てにモザイクが掛かっているようだ。
右腕に力が入らず、感覚がない。きっと神経がいかれたのだろう。
動くたびに骨が軋む音がする。骨折か罅か、無事な骨の方が少ないくらいだ。
皮が裂け、肉が破裂する。もう色んな痛みが混じって、何が痛いのかも分からない。

黒の包丁がイリヤの胸を捉えた。

「……何?」

だがイリヤはそれを読んでいた。
使い物にならない右腕を盾にする。友切包丁はイリヤの心臓へとは届かない。
友切包丁を持つ手に力を込め、捻り下ろす。骨を砕き、肉を切り裂いてイリヤの右腕は半分以上が切断され、皮一枚で辛うじて残った。
黒はそのまま、イリヤの左腕を友切包丁で薙ぎ払う。

「ッッ!!」

イリヤの左腕の肘から先が消えた。
声帯すら壊れたのだろうか、声にならない悲鳴と引きつった表情が黒の目に焼き付けられる。
宙を舞うステッキ。両腕を失ったイリヤ。
決着は付いた。あとは本当の止めを―――

『イリヤさん!!』
「ガ、ァアアアアァァァアア!!!」

宙を舞うステッキをイリヤはその口で噛み咥える。
少女には似つかわしくない咆哮で、先端を刃化させたステッキは黒の胸を穿たんと向かう。
完全な不意打ちと共に、イリヤの威圧に蹴落とされた黒はたじろいでしまった。

「何をやっている黒君!!」

糾弾が響き、イリヤを一筋の剣閃が貫いた。
強く噛み締められたステッキが、零れ落ちる。見開いた目が下手人を睨みつけ、穿たれた胸から血を流し、ボールのように落ちていく。

『う、あああああああああああ!!!』

まだ終わらない。
ルビーが消えゆく刃を携え、黒の腹部へと突き刺した。

「ぐっ……!!」

だが如何な霊装と言えど使い手のない霊装は無力だ。
腹部のルビーを握り締め、黒は全力の電撃を流し込む。
外装が内部機能が、蹂躙し破壊され尽くされる。
ビクビクと痙攣し力の弱まったルビーを引き抜き、黒はそれを堪らず投げ飛ばした。

『■■■■■■■■■』

言語機能すら、まともに働かない。
黒とヒースクリフからすれば訳の分からない雑音を残しながら、ルビーはその機能を停止させ砕け散った。
イリヤは瞳に涙を溜め、何度も顔面を地面に打ちつけながら立ち上がる。
可愛らしかった顔は見る影もない。美しかった身体のラインは全て崩れさり、赤黒い肉の塊にしか見えない。

「やめろ、イリヤ……」

目の前が真っ暗で、歩いているのか平衡感覚も分からない。
それでもまだ戦える。武器だって、喉笛に噛み付けば殺せる。
まだ……まだ……!!








「削除だと?」

エンブリヲがキーを打ち続ける。
数分前には、モニターに表示されていた死亡者の情報は微塵もない。
消されたのだ。エンブリヲがエンヴィーに構っている間に何者かに。

穂乃果は先ずありえない。これらを弄るほどの知識はない、初春も死んでいる上に仮に生きていたとしても消す理由がない。
ならば他の参加者か。しかし、これもまたありえない。あれだけエンヴィーが大暴れしているなか、学院に近づく参加者が果たしているだろうか。
何より、ディスプレイに触れられた形跡が全くない。つまり外部から消されたのではなく、内部からこのデータは削除されたのだ。
そこから導き出される答えは自ずと決まってくる。

(裏切り者(ユダ)が居るな)

何百年と前に滅ぼした世界に存在した聖書に例え、エンブリヲは一人胸内で呟く。
このデータを消した理由は単純明快、知られたくないデータがそこに存在したから。
これはエンブリヲが推測した、知られても困らない情報だから会場に敢えて残したという考えから、大きく逸れる。
ならば、どうしてそんなものを会場に用意したのか。主催側に殺し合いの破壊を目論む、何者かが居るからに違いない。
より複雑に考えるならば、参加者にこの殺し合いを開き遂行しようとしている者を倒させたいと考えるものが居るのかもしれない。
これは考えれば考えるだけ結論が出ず確信には至らないが、何にせよ反旗を翻そうという者は間違いなく存在している。

もう一度キーを打ち込み、データの復元に望むがやはりモニターは無機質な光をエンブリヲに照らすだけ。
モニターには何も写らない。
入念に消されている。それだけで、このデータの重要性が分かる。
忌々しさと腹正しさが沸き、同時に一つの勝算がエンブリヲには見えてきていた。
まずは裏切り者と接触する。それがエンブリヲにとっての策の一つ。
これだけあからさまな情報を与えるということは、参加者全体で見ても首輪の解析は芳しくないのだろう。
エンブリヲは知る由もないが、実際にタスク、エドワードといった知識及び技術に明るい者達は戦闘などに巻き込まれ、大した考察を行えずにいる。
それに痺れを切らし、この場で最も首輪の解析に明るいであろうエンブリヲに情報を提供したと考えれば矛盾はない。
若干の自身への過大評価も交えながらも、エンブリヲはキーをまだ打ち続ける。

(危険な賭けではあるが)

これはメッセージだ。
エンブリヲが打ち続けたキーはこのパソコン内にメッセージとして残り続ける。
ネットワークとして繋がっている以上、主催側なら誰でも中を垣間見ることが可能だろう。
他にも、裏切り者に気付けるようにお膳立てはしている。
例えばエンブリヲが打ち続けるキーボートの音。これには規則性がある。
軍が扱うモールス信号だ。彼はメッセージを残しつつ、この信号を敢えて盗聴させるよう姿勢を低くし、首輪を近づけて鳴らし続けていた。
都合よく裏切り者にのみ通じればそれで良し、他の主催に筒抜けになったとしても構わない。
主催のなかに混じった裏切り者にエンブリヲが気付いていると、裏切り者本人に伝わればそれで十分。

無論、既に裏切り者が処分されたことも想定しているが、恐らくそれはないとエンブリヲは推測する。
もしもエンブリヲが主催ならば、この消されたデータを見た可能性のある者は確実に処分している。しかし未だエンブリヲは健在だ。
つまりは泳がせたいのではないか。それは裏切り者の正体を見極める為に。
殺し合いに無意味な干渉をして、参加者に妙な疑惑を持たせたくないだけかもしれないが、それでも今のエンブリヲは一人だけ、首輪を爆発させても疑念を持つ者は少ないだろう。
ましてや今までに大多数を敵に回したエンブリヲとなれば、尚更誰かの報復を受けたと考えるものもいるかもしれない。
よって裏切り者は、まだ完全にはばれていない。のうのうと奴は殺し合いの運営に関わっていると考えられる。

(場合によっては私の首も飛ぶかもしれんな。フフ……久しぶりだよ、死ぬかもしれない博打を打つというのは)

ユダはイエスを銀貨30枚で売ったという。これは決して高い値ではない。
むしろ、ユダはイエスの生まれ変わりと神格化を補佐する使いだったという説があるほどだ。
上手く向こうの裏切り者とコンタクトが取れたところで、その裏切り者がこちらの完全な味方とは到底いえない。
どちらに転ぼうと、非常に危険な綱渡りだ。どの方策も必ずリスクが付いて回る。
調律者と名乗ってから、これほどのスリルを味わったことは一度もない。
だからか、妙な高揚感が胸をしめたのは。
一通りのメッセージを入れエンブリヲは僅かに伸びをすると席を立ち、穂乃果の探索へと向かった。

「さて、穂乃果もそろそろ探さねばね」

穂乃果とは何処かでニアミスをしたのは学院内に居ないことから明白だ。
大方、花陽やヒルダ辺りの心配をして飛び出したのだろう。
どうせ少女の足だ、そう遠くまでは行っていない。若干の余裕を持ちながら、エンブリヲは倒壊した学院を後にした。






「イリ、ヤ……?」

イリヤの死因はいたって簡単だ。
ツヴァイフォームの反動。
カレイドステッキの投影などという強引な変身手段を用いたツヴァイフォームは、本来以下のスペックで更に本来以上のリスクをイリヤに課した。
結果としてイリヤはその反動に耐え切れず、全身から血を噴出し、死を迎えただけ。
黒との連戦があろうがなかろうが、彼女は必ず死を迎えていただろう。
砕け散ったステッキの残骸と、奪われ続けた少女の遺体は並んで血の海へと放り出された。

「これ、は……」

そう、黒とヒースクリフが辿りついた時には全てが終わっていたのだ。
無残な姿に変わった花陽と銀、血の海に横たわるイリヤ。

「銀!!」

我に帰り、穂乃果の腕に抱かれた銀へ黒は駆け寄る。
ヒースクリフも続く。治療をしようと視線を向けるが、その容態は芳しいとはいえない。
これほどの傷を負いながら、かなりの無理をしたのだろう。はっきりいえば、手遅れだ。

「……黒」
「銀、しっかりしろ。すぐに治療してやる」

黒もヒースクリフと同じ見解であるはずだ。
声を出すだけで激痛が走り、銀の身体は悲鳴をあげている。
ただ黒認めきれず、言葉はそれに反したものを選んでしまう。
ほぼ外部者のヒースクリフからすれば滑稽にも見える光景だが、敢えて言及はしない。
最期に、二人だけの時間を過ごさせるぐらいの良識はあるつもりだ。

「……良かった。黒とみんなを、傷つけなくて」
「銀!」

光子から語られた蘇芳の言った二年後の未来が脳裏を過ぎる。
イザナミと銀。そして銀と別れてしまった黒。
何があったのか、現在の黒には予測もつかない。だがそれが関係していることは、薄っすらと黒には理解できる。

「……もう一緒に居られない」
「違う。お前は助かる、俺のそばに居てくれ! これ以上、大切なものを失いたくない……!」
「ずっと、一緒に――――」
「銀? 銀!!」

黒の腕の中で銀は目を瞑る。
温もりが抜けてゆく、徐々にその肉体は冷えやがては腐り果て、なくなるのだろう。
死んだのだ。銀はもう二度と動くことも話すこともない。
黒の傍から、永遠に離れていってしまった。

「俺が、もっと早く着いていれば……」

黒の全身から、全ての力が抜けていく。
銀は死ななかったかもしれない。他の連中も助けられたかもしれない。

「無様だね」

耳障りな声だった。
傲慢で他者を見下しきった悪意に満ちた声。

「……エンブリヲ」
「フッ、ゴキブリのなかでは記憶力は良い方らしい」

友切包丁を抜く黒から、穂乃果が両腕を開いてエンブリヲ庇う。
それは黒にとっては、予想外の行為だ。すかさず振るってしまった友切包丁を穂乃果の前で止める。

「何の真似だ」
「いまは同盟中なんです。この人は首輪の解析ができるから」
「ふざけるな。そいつは、戸塚やイリヤを……」
「ふざけて、ません」
「……」

穂乃果の顔を見て黒は友切包丁を下ろした。
少なくとも、エンブリヲに敵対の意志はないのだろう。
穂乃果の様子を見る限りは多少は信用できなくもない。

「彩加もそこの銀という女性も、全く可哀想なものだな」
「なんだと?」
「君はイリヤを死なせ、彩加との約束も禄に果たせず、愛した女すら守れない。
 お笑いだな、最低の男じゃないか」

その口調には明らかな悪意が込められていた。

「貴様……!」
「この際はっきり言おう。
 君は一体、何をしていた。
 この様子を見る限り、悠や穂乃果達が死力を尽くして戦ったのだろう。
 では君は?」

「俺は……」

分かっていた。銀の探索に関し、黒はあまりにも遠回りをしていたことは。
他者へ移った情が原因で、銀を疎かにしていた自覚はあった。情報があまりにも少なく、無意味な捜索を繰り返したことも事実だ。
もっと合理的に動けていればあるいは。

「君が早くイリヤを見つけて、説得すればこんな事にはならなかった。
 愛した女を想い彼女を早く見つけ出せば、今頃は生きて抱き合えたことだろう。
 果たせもしない約束をして彩加をぬか喜びさせ、挙句の果てにイリヤも銀も助けられない」 

「やめろ……」

「そもそもが、結局イリヤを追い込んだのは君だろう?
 その尻拭いも全て悠にやらせるとは、同じ男とは思いたくないね」

「やめろ!!」

戦場で培った戦闘技術も何もない。
ただがむしゃらに動き、黒はエンブリヲの胸倉を掴んだ。

「害虫が私に触れるとは、その思い上がり許しがたいな」

エンブリヲが黒に触れる。
その瞬間、黒の身体を激痛が走り堪らず黒は地べたへと蹲った。

「ぐああああああああ!!」
「痛覚を50倍にした。しばらく反省しているといい」
「エンブリヲさん止めて下さい! 貴方だって人の事言えない!
 アンジュさんが死んだのは、貴方が凜って人を攫ったからかもしれないんですよ!」
「何を言っている穂乃果。
 私とアンジュの愛は、君達の枠には当て嵌まらないよ」

黒を庇うようにしてエンブリヲに突っかかる穂乃果を見て、エンブリヲは心底満足したのだろう。
多少なりとも、これで電撃の恨みは晴れたというもの。実に心地よい。
指を鳴らすと黒の身体から痛みが消し飛んだ。

「……待って、しぶりんを攫ったって言ったの?」
「誤解だ。私は彼女達を保護しようとしたんだが、アンジュとちょっとした誤解から――」
「アンタのせいで、しぶりんは!!」

マスティマを広げた未央がエンブリヲに躍り掛かるが、一瞬で姿を消したエンブリヲは未央の頭をこずく。

「あ、ひィ……!!」
「未央ちゃん!?」
「美しいよ……未央。君は綺麗だ。
 この短期間で、強く美しく賢く成長したんだね。ビューティフォーッ!」

感度50倍が炸裂し未央の全身を快感が駆け巡った。
悔しさを感じながらも、快感に屈しかける未央。身体は全く動いてくれない。
卯月もこんな場面は初めてな為、何をどう対応すべきか分からない。

「悪ふざけはそこまでにして貰おうか」

エンブリヲの首筋に無機質で冷たい感触が走る。
剣の刃が首の皮一枚といったところで止まっていた。
あと一ミリでもめり込めば、その首から大量の血液が飛び出ることだろう。

「君も私と同じく、殺し合いに乗っていないらしい。このまま友好的な関係を築きたいのだが?」
「……良いだろう。
 私も君達と、情報を交換したいと思っていたところだよ」

感度50倍を解き、未央は卯月に介抱されながらよろよろと立ち上がる。
それを見てから、ヒースクリフは倒れた鳴上の容態を確かめた。
傷口は派手に見えて、そう深くはない。適当な応急処置を施し、ヒースクリフは鳴上を担いだ。






――わかった。お前の仲間も、イリヤも『助ける』

――お前に銀は奪わせない。


結局、何もできなかった。
戸塚との約束も守れず、銀を守れなかった。
最悪の結末だ。

エンブリヲの言うことももっともだ。
黒は多くを欲しすぎた。穂乃果のような一般人でもない彼は、多く背負い込むことが如何に無謀であるかよく知っていたはずだ。
それでも彼は、戸塚と約束を交わした。そして気付けば自分を重ねてしまい、イリヤを最後まで救うことも殺すこともできなかった。
この惨劇は全て、自分が招いたものだ。何もかも、決断できなかった自分自身が銀を殺したのだ

「銀を埋葬したい。俺は先に行ってる」

「……良いが、学院の付近では駄目なのかな」

「一人になりたいんだ」

ヒースクリフとエンブリヲの話し合いで一先ずは学院で落ち合うことになった。
倒壊した場所ではあるがまだ生きた教室はあるし、あれだけドンパチをやらかしたこの近辺よりはマシだ。
ベルゼブブとツヴァイフォームの戦いは、あまりにも派手すぎた。しかも夜中である以上、あの閃光を他の参加者が目撃した可能性は高い。
特に御坂もまだ近辺に居るのだ。早めに場所を移したほうがいい。
黒も合流場所は分かっているし、埋葬場所を拘るわけではない。
それでも一人になりたかったのだ。

「イリヤの埋葬も頼む。
 このカードとあのステッキも……イリヤと一緒に、美遊という少女と同じ場所に寝かしてくれ」
「分かった。君も埋葬が済んだら学院に来てくれ。
 エルフ耳のことで話したいこともある」

そう言ってヒースクリフにカードを手渡す。
銀を殺した張本人だが、黒はイリヤの遺体に妙な哀れみさえ沸いていた。
こんな血みどろになるまで、彼女を救えなかった後悔。そして全てが銀の死に結びつく因果。
あの悲惨なイリヤの姿は忘れようにも忘れられない。もっと早く辿り着いていれば、イリヤに殺しの道を促した者より早くイリヤと合流していれば。
全てに間に合わなかった自分が何よりも恨めしい。

そして黒は一人カジノへと向かった。
銀の埋葬場所に適していると思ったわけではない。ただ酒が欲しかった。

「銀、俺は……」

痛んだ腹部を抑え、力なく歩く。
黒の死神の面影はそこにはなく、死人の背中が虚ろに揺れていただけだった。






(さて一応クエスト自体はクリアになるのか)

ヒースクリフが挑んだクイベント内容は銀との接触。それだけだ。
殺せとも守れとも書いていない。揚げ足を取るようだが、文面通りに受け取れば彼のクイベントは達成にはなる。

(いや、私は間に合わなかった。黒くんと同じだな)

少し寄り道をし過ぎた。我ながら、自嘲してしまうものだ。

(……しかし全てが終わったわけではない)

振り返れば妙だ。何故UB001は銀の処遇をヒースクリフに伝えなかったのか。
単にヒースクリフがイベントを達成してから、追々伝える予定だったのか、単に忘れただけか。
深く考えすぎかもしれない。希望的観測も交えていないといえば嘘になる。
しかし、本当はUB001も処遇を決めかねていたのではないか? 

(分からないな。UB001は他の主催の目を盗み独断で動いている。
 可能な限り、連絡は短い回数で済ませたいはずだ。わざわざ指示を分割する理由はない)

懐のデバイスを強く意識する。
幸いなのが、このイベントのクリア判定が実に曖昧だという点だ。
そしてUB001は曲がりなりにもゲームマスターとしては公平な部類に入る。

―――UB001:放送後、闘技場の首輪換金所へ

UB001より送られた一つのメッセージ。
恐らくまだ終わっていない。銀の死は始まりに過ぎないのだ。
これはクイベントの成功か失敗を伝えると同時に、まだ何かがあるという強い直感がヒースクリフの中にはあった。


「ヒースクリフ」
「ッ?」

珍しく、ヒースクリフが驚きを見せる。
外面には出さないが、エンブリヲの話しかけてきたタイミングには気味の悪さを感じた。

「悠を見せてくれ。私は軽症なら、ある程度の治癒ができる。
 未央も耳を治してあげたとこでね」

見れば欠損した未央の耳とガラガラだった声は元通りになっている。
素直に喜ぶ卯月と、複雑な表情を浮かべた未央の姿が印象的だ。
制限の事を考えれば、手足などは欠損部位は無理でも、軽いものなら治せるということか。

(その異能を見逃したのは惜しいな)

ヒースクリフは鳴上をそのまま引渡す。
エンブリヲは鳴上の服のボタンに触れ、丁寧に一つずつ解していく。
鳴上の息遣いを感じながら、細くしなやかでそれでいて力強い胸板に手を翳した。

「……悠」
「エン、ブリヲ……?」
「やっぱり、君は私の元へ帰ってきたね」

恋人に囁くような細い声が鳴上の耳を撫でた。
嫌悪感を感じながらも、癒されてゆく身体に鳴上は抗えない。
万全とは言いがたくもさきよりは幾分楽になる。

「ところで、君のペルソナはイザナギだったか」
「……? 何の――」
「いや良い……君はもう暫く休んでいた方が良いな」

「イザナギ、天地開闢において神世七代の最後にイザナミとともに生まれ、国産み・神産みにおいてイザナミとの間に日本国土を形づくる多数の子を儲けた男神」

「ヒースクリフ?」

「それがどうしたのかなエンブリヲ」

鳴上にしか聞こえない声で囁いた筈だが、何時の間にか背後に立っていたヒースクリフにエンブリヲは動揺を見せる。



「いや、何でもないよ」
「そうか、もしやと思ったのだが。すまない、『仲間』を疑うのは良くないな」
「ああ、そうさ。ヒースクリフ」

胸内でエンブリヲは舌打ちをする。
奴は何かを隠している。そしてイザナギとイザナミについて感付いていることに。
データを削除される寸前、エンブリヲの興味をそそったイザナミ。
あれが果たして、鳴上のイザナギと関係ないと言い切れるのだろうか。

(死んだ銀の身体を調べたかったが、まあいい。
 悠、君が私の元に戻ったのは幸運だったよ。君のペルソナを調べればあるいは)

科学者としての性がエンブリヲの興奮を高めていく。
ああ、実に研究しがいのあるものばかりだ。
ペルソナ、イザナミ、他にもイリヤの中にあった物も知りたい。
イリヤは死んだが、主催連中ならば正体を知っている可能性だってある。

(ヒースクリフ、やはりあの男はきな臭い。
 もしや裏切り者と関係があるのかもしれない)

中々に面白くなってきた。
エンブリヲは誰にも見られないよう静かに笑みを浮かべた。

「なんだ?」

その時、何か女性の影がこちらを見たように思えたのは気のせいだろうか。
エンブリヲの脳裏にイザナミの単語が浮かんでは消えた。





(―――俺は負けたんだ)

イリヤとの戦いで鳴上は死力を尽くした。
勝てると思っていた。これ以上もう誰も傷付かないと。
銀、穂乃果、未央、卯月の力を借りて。花陽の守りたいという意志を受け継いで鳴上は戦った。
なのに、倒れた。イリヤ達の絆に打ち負かされた。負けてはいけない筈の戦いに、鳴上は破れたのだ。
みんなが傷付いた。あの時、鳴上が勝ってさえいれば、これ以上の犠牲はなかった。

「もう、分からないよ」

鳴上の耳に悲痛な少女の声が聞こえた。
誰に話しているわけでもない。ただ、偶々近くに鳴上が居ただけだ。

「どうしてなの……どうしてこんなことしなきゃならないの……! もう、嫌だ……嫌だよぉ……」

殺し合いに呼ばれたμ'sのメンバーは穂乃果一人だけになった。
もう仲間といえる者は誰一人としていない。自分一人だけだ。
あまりにも痛々しい花陽の姿、恋人と永遠に引き裂かれた銀。
そして憎むべき対象の筈なのに、とても可哀想で見ていられなかったイリヤの末路。
ずっとここまで血しか見ていない。血だらけだ。

(すまない……俺がもっと強かったら……)

鳴上はなんて声を掛けていいのか分からなかった。
花陽もタツミもさやかも銀も千枝も。本当はイリヤだって、助けられたはずだった。
一人になってはっきり分かる。自分が如何に弱くて、脆い下らない存在なのか。
鳴上は、ただ無力さに胸を締め付けられ続けた。





【小泉花陽@ラブライブ! 死亡】
【銀@DARKER THAN BLACK 黒の契約者死亡 】









『イリヤさん……最期まで一緒、ですから……』


―――ルビー、サファイア、美遊、クロ……ごめんね、みんな……。




【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 死亡】
【カレイドステッキ・マジカルルビー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ破壊】




【F-6/一日目/真夜中(放送開始)】


【高坂穂乃果@ラブライブ!】
[状態]:疲労(大) 、悲しみ(極大)、卯月に対する憎しみ、嘔吐感
[装備]:デイパック、基本支給品、音ノ木坂学院の制服、トカレフTT-33(3/8)@現実、トカレフTT-33の予備マガジン×3、サイマティックスキャン妨害ヘメット@PSYCHO PASS‐サイコパス‐
[道具]:練習着、花陽の遺体、カマクラ@俺ガイル
[思考・行動]
基本方針:強くなる
0:どうしてこんな……。
1:花陽ちゃん……。
2:マスタングさん、ウェイブさんが気がかり
3:セリュー・ユビキタス、サリア、イリヤに対して―――――

[備考]
※参戦時期は少なくともμ'sが9人揃ってからです。
※ウェイブの知り合いを把握しました。
※セリュー・ユビキタスに対して強い拒絶感を持っています。が、サリアとの対面を通じて何か変わりつつあるかもしれません
※エンブリヲと軽く情報交換しました。
※花陽と情報交換しました。

【エンブリヲ@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞】
[状態]:疲労(小)、服を着た、右腕(再生済み)、局部損傷、電撃のダメージ(小)、参加者への失望
[装備]:FN Five-seveN@ソードアート・オンライン
[道具]:ガイアファンデーション@アカメが斬る!、基本支給品×2 二挺大斧ベルヴァーク@アカメが斬る!、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、クラスカード『ランサー』@Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ、各世界の書籍×5、基本支給品×2 不明支給品0~2 サイドカー@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞
[思考]
基本方針:首輪を解析し力を取り戻した後でアンジュを蘇らせる。
0:主催の裏切り者を見つけ出しコンタクトを取る。
1:舞台を整えてから、改めてアンジュを迎えに行く。
2:広川含む、アンジュ以外の全ての参加者を抹消する。だが力を取り戻すまでは慎重に動く。
3:特にタスク、ブラッドレイ、後藤は殺す。
4:利用できる参加者は全て利用する。特に歌に関する者達と錬金術師とは早期に接触したい。
5:穂乃果を利用する。
6:真姫の首輪を回収した後、北部の研究施設に向かう。
7:ヒースクリフを警戒、情報を引き出したい。
8:学院に向かい情報交換。
[備考]
※出せる分身は二体まで。本体から100m以上離れると消える。本体と思考を共有する。
分身が受けたダメージは本体には影響はないが、殺害されると次に出せるまで半日ほど時間が必要。
※瞬間移動は長距離は不可能、連続で多用しながらの移動は可能。ですが滅茶苦茶疲れます。
※感度50倍の能力はエンブリヲからある程度距離を取ると解除されます。
※DTB、ハガレン、とある、アカメ世界の常識レベルの知識を得ました。
※会場が各々の異世界と繋がる練成陣なのではないかと考えています。
※錬金術を習得しましたが、実用レベルではありません。
※管理システムのパスワードが歌であることに気付きました。
※穂乃果達と軽く情報交換しました。
※ヒステリカが広川達主催者の手元にある可能性を考えています。
※首輪の警告を聞きました。
※モールス信号を首輪に盗聴させました。


【島村卯月@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:正義の心、『首』に対する執着、首に傷、疲労(中)、精神的疲労(大)、セリューに逢いたい思い、穂乃果に対する罪悪感
[装備]:千変万化クローステール@アカメが斬る!、まどかの見滝原の制服、まどかのリボン
[道具]:デイバック、基本支給品×2、不明支給品0~2、金属バット@魔法少女まどか☆マギカ、今まで着ていた服、まどかのリボン(ほむらのもの)
[思考]
基本:誰かを守る正義を胸に秘め、みんなで元の世界へ帰る。
0:セリューとエスデスのことは忘れない。
1:エドワードとの合流。
2:本田未央を守る
3:結局セリューは生きて……?
4:花陽さん……。
[備考]
※参加しているμ'sメンバーの名前を知りました。
※服の下はクローステールによって覆われています。
※クローステールでウェイブ達の会話をある程度盗聴しています
※ほむらから会場の端から端まではワープできることを聞きました。
※高坂勢力関係は考えを改めました
※花陽と情報交換しました。


【本田未央@アイドルマスター シンデレラガールズ】
[状態]:深い悲しみ、吐血、セリューに対する複雑な思い、喉頭外傷及び右耳欠損(治癒済み)
[装備]:
[道具]:デイバック×3、基本支給品、小型ボート、魚の燻製@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース、万里飛翔マスティマ@アカメが斬る!、鹿目まどかの首輪、暁美ほむらの首輪
[思考・行動]
基本方針:生きてみんなと一緒に帰る。
0:生き残る。
1:エドワードとの合流。
2:島村卯月を守る。
3:鳴上くんが無事でよかった
4:かよちん……。
5:エンブリヲからはしぶりんの事を聞きだす。
[備考]
※タスク、ブラッドレイと情報を交換しました。
※ただしブラッドレイからの情報は意図的に伏せられたことが数多くあります。
※狡噛と情報交換しました。
※放送で呼ばれた者たちの死を受け入れました
※アカメ、新一、プロデューサー、ウェイブ達と情報交換しました。
※田村と情報交換をしました。


【鳴上悠@PERSONA4 the Animation】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(大)、胸に切り傷(治療済み)、イリヤに負けた事への後悔
[装備]:なし
[道具]:千枝の首輪
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:俺が負けたから……。
1:さやかとタツミのことが知りたい。
2:未央に渋谷凛のことを伝える。エンブリヲが殺した訳じゃない……?
3:足立さんが真犯人なのか……?
4:エンブリヲを止める。
5:マスタングを見つけ出し、ぶっ飛ばす。
6:里中……。
[備考]
※登場時期は17話後。
※ペルソナの統合を中断したことで、17話までに登場したペルソナが再度使用可能になりました。ただしベルゼブブは一度の使用後6時間使用不可。
※スラオシャを会得しました。一度の使用で6時間使用不可。
回復系、即死系攻撃や攻撃規模の大きいものは制限されています。
※ペルソナチェンジにも多少の消耗があります。
※イザナギに異変が起きています。


【ヒースクリフ(茅場晶彦)@ソードアートオンライン】
[状態]:HP45%、異能に対する高揚感と興味
[装備]:神聖剣十字盾@ソードアートオンライン、ヒースクリフの鎧@ソードアートオンライン、神聖十字剣@ソードアートオンライン
[道具]:基本支給品一式、まどかとほむらの縫い合わされた死体、グリーフシード(有効期限あり)×2@魔法少女まどか☆マギカ、指輪@クロスアンジュ 天使と竜の輪舞、クマお手製眼鏡@PERSONA4 the Animation、キリトの首輪
クラスカード・アーチャー@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ルビーの残骸、イリヤの遺体
[思考]
基本:主催への接触(優勝も視野に入れる)
0:もっと異能を知りたい。見てみたい。
1:学院に向かい情報交換。 その後、闘技場の首輪換金所へ。
2:黒に魏からの伝言『地獄門にて貴様を待つ』を伝える。
3:チャットの件を他の参加者に伝えるかどうか様子を見る。
4:主催者との接触。
5:ロックを解除した可能性のある田村玲子、初春と接触したい。
6:北西の探索を新一達に任せ、自分は南の方から探索を始める。
7:南の花陽やヒルダの方も余裕があれば探す。
8:キリトの首輪も後で調べる。
9:余裕ができ次第ほむらのソウルジェムについて調べる。
10:一応頼まれたので、イリヤを美遊と同じ場所に埋葬する。
[備考]
※参戦時期は1期におけるアインクラッド編終盤のキリトと相討った直後。
※ステータスは死亡直前の物が使用出来るが、不死スキルは失われている。
※キリト同様に生身の肉体は主催の管理下に置かれており、HPが0になると本体も死亡する。
※電脳化(自身の脳への高出力マイクロ波スキャニング)を行う以前に本体が確保されていた為、電脳化はしていない(茅場本人はこの事実に気付いていない)。
※ダメージの回復速度は回復アイテムを使用しない場合は実際の人間と大差変わりない。
※この世界を現実だと認識しました。
※DIOがスタンド使い及び吸血鬼だと知りました。
※平行世界の存在を認識しました。
※アインクラッド周辺には深い霧が立ち込めています。
※チャットの詳細な内容は後続の書き手にお任せします。
※デバイスに追加された機能は現在凍結されています。



【黒@DARKER THAN BLACK 黒の契約者】
[状態]:疲労(中)、右腕に刺し傷、腹部打撲(共に処置済み)、腹部に刺し傷(処置済み)、戸塚とイリヤと銀に対して罪悪感(超極大)、銀を喪ったショック(超極大)、飲酒欲求(超極大)
[装備]:友切包丁(メイトチョッパー)@ソードアート・オンライン、黒のワイヤー@DARKER THAN BLACK 黒の契約者、包丁@現地調達×2、首輪×1(美遊・エーデルフェルト)、傷の付いた仮面@ DARKER THAN BLACK 流星の双子
[道具]:基本支給品、ディパック×1、完二のシャドウが出したローション@PERSONA4 the Animation 、銀の遺体
[思考]
基本:……酒。
0:銀を埋葬する。
1:カジノで酒を探す。
2:酒を飲む。
[備考]
※『超電磁砲』『鋼の錬金術師』『サイコパス』『クロスアンジュ』『アカメが斬る!』の各世界の一般常識レベルの知識を得ました。
※戸塚の知り合いの名前と容姿を聞きました。
※イリヤと情報交換しました。
※クロエとキリト、黒子、穂乃果とは情報交換済みです。
※二年後の知識を得ました。
※参加者の呼ばれた時間が違っていることを認識しました。
※黒がジュネスへ訪れたのは、エンヴィーが去ってから魏志軍が戻ってくるまでの間です。
※足立の捏造も入っていますが、情報交換はしています。


※イリヤの所持品はメギドラオンと多元重奏飽和砲撃の余波で吹き飛び周囲に散らばっています。
クラスカードは使用中だった為、現場に残っていました。


【F-5/一日目/真夜中(放送開始)】

【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、深い悲しみ 、自己嫌悪、人殺しの覚悟
[装備]:コイン@とある科学の超電磁砲×2 、回復結晶@ソードアート・オンライン(3時間使用不可)、能力体結晶@とある科学の超電磁砲
[道具]:基本支給品一式、アヴドゥルの首輪、大量の鉄塊
[思考]
基本:優勝する。でも黒子たちと出会ったら……。
1:ゆっくりとアインクラッドへ向かう。(黒子との遭遇を避けるため)
2:もう、戻れない。戻るわけにはいかない。
3:戦力にならない奴は始末する。 ただし、いまは積極的に無力な者を探しにいくつもりはない。
4:ブラッドレイは殺さない。するとしたら最終局面。
5:殺しに慣れたい。
6:首輪も少し調べてみる
7:イリヤにちょっとした共感。
[備考]
※参戦時期は不明。
※槙島の姿に気付いたかは不明。
※ブラッドレイと休戦を結びました。
※アヴドゥルのディパックは超電磁砲により消滅しました。
※マハジオダインの雷撃を確認しました。

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173:魂の拠り所(前編) 高坂穂乃果 192:足立刑事の自白録-二度殺された少女たち-
小泉花陽 GAME OVER
エンブリヲ 192:足立刑事の自白録-二度殺された少女たち-
GAME OVER
鳴上悠 192:足立刑事の自白録-二度殺された少女たち-
御坂美琴 189:LEVEL5-judgelight-
175:激情の赤い焔 島村卯月 192:足立刑事の自白録-二度殺された少女たち-
本田未央
179:WILD CHALLENGER(前編) ヒースクリフ
181:白交じりて、禍津は目覚める 190:闇に芽吹く黒い花
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン GAME OVER

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最終更新:2016年07月28日 10:23