root(後編) ◆Wf0eUCE.vg
■
―――深い宿命を背負って相羽タカヤはテッカマンブレードになった。
相羽タカヤは宇宙研究の第一人者を父に持ち、彼自身もタイタン調査船アルゴス号の乗組員の一人だった。
彼だけではない、アルゴス号には幼いころに火事で死んだ母以外の全ての肉親が乗組員として乗り込んでいた。
その調査の途中、土星の衛星軌道上に彼等はそれを見つけた。見つけてしまった。
人類初の宇宙人との遭遇となるはずだったそれが、悲劇の幕開けだった。
彼だけではない、アルゴス号には幼いころに火事で死んだ母以外の全ての肉親が乗組員として乗り込んでいた。
その調査の途中、土星の衛星軌道上に彼等はそれを見つけた。見つけてしまった。
人類初の宇宙人との遭遇となるはずだったそれが、悲劇の幕開けだった。
見つけたそれは、侵略者ラダムの母艦だった。
あっというまにアルゴス号の乗組員は彼を含め全員ラダムに囚われ素体とされることになる。
彼はそこで全てを失った。
家族も、
未来も、
自分自身も、
全て失ってしまった。
あっというまにアルゴス号の乗組員は彼を含め全員ラダムに囚われ素体とされることになる。
彼はそこで全てを失った。
家族も、
未来も、
自分自身も、
全て失ってしまった。
全てを失った人間は生きていけない。
なにもなければ、例え肉体が生きていても心が死んでしまう。
なにもなければ、例え肉体が生きていても心が死んでしまう。
生きていくには何かが必要だった。
愛でもいい。
理想でもいい。
野心でもいい。
全てを失っても、なにか強い思いが一つでもあれば人間は生きていける。
愛でもいい。
理想でもいい。
野心でもいい。
全てを失っても、なにか強い思いが一つでもあれば人間は生きていける。
生きるために、彼が抱いた感情は憎しみだった。
自分から家族を奪ったラダムが憎い。
幸せな日常を奪ったラダムが憎い。
そうやって、ただひたすらに彼はラダムを恨む事で生きてきた。
憎しみこそ彼の原動力だ。
憎しみは彼を縛る鎖であり。
同時に彼を生かす糧だった。
自分から家族を奪ったラダムが憎い。
幸せな日常を奪ったラダムが憎い。
そうやって、ただひたすらに彼はラダムを恨む事で生きてきた。
憎しみこそ彼の原動力だ。
憎しみは彼を縛る鎖であり。
同時に彼を生かす糧だった。
憎しみがあれば彼は生きていける。
ラダムを憎むこの心さえ忘れなければ彼は生きていけるのだ。
ラダムを憎むこの心さえ忘れなければ彼は生きていけるのだ。
彼を逃がすときに父は言った。
侵略者たるラダムを殺せと。
ラダムは肉親を奪った。
彼もラダムが憎い。
だが、肉親はすべてラダムとなった。
それはつまり、父は彼に肉親を殺せと言ったのだ。
あの瞬間、彼は肉親を自らの手で殺すという宿命に呪われた。
侵略者たるラダムを殺せと。
ラダムは肉親を奪った。
彼もラダムが憎い。
だが、肉親はすべてラダムとなった。
それはつまり、父は彼に肉親を殺せと言ったのだ。
あの瞬間、彼は肉親を自らの手で殺すという宿命に呪われた。
世界のため。
己が復讐のため。
肉親をその手で殺す宿命を背負った宇宙の騎士。
己が復讐のため。
肉親をその手で殺す宿命を背負った宇宙の騎士。
どうしようもない矛盾を孕んだその宿命を呪わなかったことはない。
時の止まってしまったあの家に戻れたならどんなに素晴らしいかと、そう願わなかったことはない。
時の止まってしまったあの家に戻れたならどんなに素晴らしいかと、そう願わなかったことはない。
ラダムは憎い。
だが、取り込まれ自らを襲ってくる肉親達を恨んだ事はない。
何度襲われようとも、何度殺されかけようとも、彼はシンヤを恨んだ事は一度も無い。
彼に取り付いたラダムを恨んでも、誓ってシンヤを恨んだ事は無い。
だが、取り込まれ自らを襲ってくる肉親達を恨んだ事はない。
何度襲われようとも、何度殺されかけようとも、彼はシンヤを恨んだ事は一度も無い。
彼に取り付いたラダムを恨んでも、誓ってシンヤを恨んだ事は無い。
だって、相羽シンヤは相羽タカヤにとって、たった一つの命を分け合った己の半身なのだから。
■
「……言いたい事はそれだけか?」
狂人の言い分を聞き終え、これまで沈黙を保っていた青年が口を開いた。
青年が放つのは殺人鬼の殺意に負けぬ黒い憎悪だ。
青年が放つのは殺人鬼の殺意に負けぬ黒い憎悪だ。
「……そんなに聞きたきゃ何度でも言ってやる。
俺は絶対に死なない。オマエなんかに絶対に殺されない!
オマエは、オレが殺してやる!」
俺は絶対に死なない。オマエなんかに絶対に殺されない!
オマエは、オレが殺してやる!」
告げるDボゥイの手足に力が篭る。
貧血など既に何所かに吹き飛んだ。
今、体中には血液よりも熱く煮えたぎる憎悪が巡っている。
肉親を奪ったラダムが憎いのと同じように。
弟を殺した目の前の男が憎い。
スイッチなんて要らない。
そんなもの入れなくても、憎悪があれば、彼は敵を殺せる。
憎悪は彼の原動力だ。
憎悪があれば、彼は生きていけるんだ。
貧血など既に何所かに吹き飛んだ。
今、体中には血液よりも熱く煮えたぎる憎悪が巡っている。
肉親を奪ったラダムが憎いのと同じように。
弟を殺した目の前の男が憎い。
スイッチなんて要らない。
そんなもの入れなくても、憎悪があれば、彼は敵を殺せる。
憎悪は彼の原動力だ。
憎悪があれば、彼は生きていけるんだ。
「フヘヘヘ。たまんねぇな。もう殺意ゲージMAXって感じだ!
最高だぜ、テメエ等兄弟はよぉ!!」
最高だぜ、テメエ等兄弟はよぉ!!」
自らに向けられた憎悪を前に、ラッドはデイパックからファイティングナイフを取り出し、愛おしげに刃を舐めた。
そして、ナイフよりも鋭く夜闇を切り裂くように白服が駆ける。
一瞬でDボゥイの懐に飛び込んだラッドは、その勢いのまま手にしたナイフを振りぬいた。
だが、Dボゥイは慌てるでもなく、驚くほど冷徹にナイフを避け、そのままラッド目掛けて反撃の蹴りを繰り出した。
ラッドは咄嗟に首を折り曲げるが、避け切れず、Dボゥイの蹴りが頬を裂き、髪の毛を数本掠めとった。
テッカマンにならずともDボゥイの身体能力は常人の比ではない。
直撃していれば、恐らくただでは済まなかっただろう。
それでもまったく怯むでもなく、水場ではしゃぐ子供のようにラッドは楽しげに叫ぶ。
そして、ナイフよりも鋭く夜闇を切り裂くように白服が駆ける。
一瞬でDボゥイの懐に飛び込んだラッドは、その勢いのまま手にしたナイフを振りぬいた。
だが、Dボゥイは慌てるでもなく、驚くほど冷徹にナイフを避け、そのままラッド目掛けて反撃の蹴りを繰り出した。
ラッドは咄嗟に首を折り曲げるが、避け切れず、Dボゥイの蹴りが頬を裂き、髪の毛を数本掠めとった。
テッカマンにならずともDボゥイの身体能力は常人の比ではない。
直撃していれば、恐らくただでは済まなかっただろう。
それでもまったく怯むでもなく、水場ではしゃぐ子供のようにラッドは楽しげに叫ぶ。
「マジかよおいおいマジかよおい、ありえねぇって!」
ラッドが叫びながらDボゥイの頭部目掛けてナイフを振り下ろした。
Dボゥイはそれを今度は避けるでもなく、ナイフを持つ手首を弾き、弾いたその手でそのまま轟と風を切り裏拳を放つ。
防御からの流れるような見事なまでの反撃だったが、ラッドは重心を後方に逸らし、スウェーバックでその裏拳を避けた。
Dボゥイはそれを今度は避けるでもなく、ナイフを持つ手首を弾き、弾いたその手でそのまま轟と風を切り裏拳を放つ。
防御からの流れるような見事なまでの反撃だったが、ラッドは重心を後方に逸らし、スウェーバックでその裏拳を避けた。
「よく、ミュージカルや小説で、戦闘中だってのにやたらと喋りまくる奴っているよな!
それで隙つくって反撃されたりする大馬鹿野郎とか、俺は実際の殺し合いの場所でも何度も見てきた!
はっきり言って、俺もそのタイプだ! だから喋りまくるけど、あんま気にすんな!」
それで隙つくって反撃されたりする大馬鹿野郎とか、俺は実際の殺し合いの場所でも何度も見てきた!
はっきり言って、俺もそのタイプだ! だから喋りまくるけど、あんま気にすんな!」
紙一重の攻防を続けながらも、ラッドの口はまったくと言っていいほど止まらない。
語る内容と裏腹に、戦闘中にこれほど無駄口を叩きながら隙を作る気配はなかった。
それどころか、語れば語るほど彼のテンションは上がってゆく。
そして、上昇するテンションに比例して彼の動きは激しく、狂おしく、その切れを増してゆく。
語る内容と裏腹に、戦闘中にこれほど無駄口を叩きながら隙を作る気配はなかった。
それどころか、語れば語るほど彼のテンションは上がってゆく。
そして、上昇するテンションに比例して彼の動きは激しく、狂おしく、その切れを増してゆく。
「しかし、アンタも弟思いだね。
弟のためにここまで怒れる。いやぁ今時珍しい良い兄貴だアンタは!
けどよ、俺の見た資料によれば、あんた等兄弟はもっと険悪な感じだと思ったけどな」
弟のためにここまで怒れる。いやぁ今時珍しい良い兄貴だアンタは!
けどよ、俺の見た資料によれば、あんた等兄弟はもっと険悪な感じだと思ったけどな」
叫ぶラッドの口から弟の、シンヤの話題が出た事にDボゥイの眼に憎悪の光が再燃する。
その光を確認して、殺人鬼はニヤリと笑みをこぼした。
その光を確認して、殺人鬼はニヤリと笑みをこぼした。
ラッド・ルッソは別に正々堂々戦う正義の味方でも戦闘を楽しむバトルジャンキーでも何でもない。
真正面から相手を殺すことが多いのは、ただそれが一番楽しいから。
強い絶対に死なないと思ってる奴が死ぬ様を最も見やすいから。
ただそれだけの理由だ。
真正面から相手を殺すことが多いのは、ただそれが一番楽しいから。
強い絶対に死なないと思ってる奴が死ぬ様を最も見やすいから。
ただそれだけの理由だ。
ラッド・ルッソの本質は命を奪う殺人鬼だ。
殺すために特に手段は問わないし、相手の付け入れるところには付け入る。
人間の尊厳や命が大事な物だという事は理解しているが、それを踏みにじる事を特になんとも思っていない。
だから土足で踏みにじる。
この兄弟を、その絆ってやつを。
執拗に、粉々になるまで。
殺すために特に手段は問わないし、相手の付け入れるところには付け入る。
人間の尊厳や命が大事な物だという事は理解しているが、それを踏みにじる事を特になんとも思っていない。
だから土足で踏みにじる。
この兄弟を、その絆ってやつを。
執拗に、粉々になるまで。
「アイツもよう、最後には兄さん、兄さんってオマエの事を呼んでたぜ?
互いにいがみ合ってると思いこんでいた兄弟が互いに思いあっていた事を知る。
いいねぇ麗しの兄弟愛。感動の仲直りだ! よかったじゃねぇか。
もっとも、残念ながら片方はもう死んじまったがね!
ああ、そういや、殺したのは俺か。ヒャハハハハ!」
互いにいがみ合ってると思いこんでいた兄弟が互いに思いあっていた事を知る。
いいねぇ麗しの兄弟愛。感動の仲直りだ! よかったじゃねぇか。
もっとも、残念ながら片方はもう死んじまったがね!
ああ、そういや、殺したのは俺か。ヒャハハハハ!」
それは、Dボゥイのみならず、シンヤすらも侮辱するような言葉だった。
一秒でも早く目の前の狂人の口を止めてやる。
息の根ごと、その軽口を止めてやる。
Dボゥイの最後の理性が切れ、思考はすべて赤に染まる。
一秒でも早く目の前の狂人の口を止めてやる。
息の根ごと、その軽口を止めてやる。
Dボゥイの最後の理性が切れ、思考はすべて赤に染まる。
「ウアアアァッァァアアアアア!!」
それは、理性を失った獣の雄叫びだった。
それと共に憎悪と怒りと渾身を込めた一撃が放たれる。
風切り音すら置き去りにする速度で放たれたその右拳は、まともに当たれば頭蓋を砕くどころか、その首を根元から吹き飛ばすだろう。
それと共に憎悪と怒りと渾身を込めた一撃が放たれる。
風切り音すら置き去りにする速度で放たれたその右拳は、まともに当たれば頭蓋を砕くどころか、その首を根元から吹き飛ばすだろう。
「はい、残念」
だが、渾身であるが故にその軌道はこれまでになく読み易い。
身を屈めあっさりとその一撃を躱わしたラッドは、すれ違い様にDボゥイの鳩尾に右膝をめり込ませる。
身を屈めあっさりとその一撃を躱わしたラッドは、すれ違い様にDボゥイの鳩尾に右膝をめり込ませる。
「グハ…………ッ!」
自身の渾身をカウンターで返されたDボゥイは口から反吐を吐いてその場に倒れこんだ。
内臓が幾つか破裂したのか、反吐には血が混じっている。
肺が潰れてしまったように息が出来ない。
全身が酸素を求めてピクピクと痙攣する。
地獄のような痛みと苦しみがDボゥイの体を蹂躙する。
憎しみや意志とは一切関係ないところで、強制的に体が静止する。
だが、もがき苦しむ暇すら与えず、ラッドは倒れこんだDボゥイの上に馬乗りになり、その首元にナイフを宛てがった。
内臓が幾つか破裂したのか、反吐には血が混じっている。
肺が潰れてしまったように息が出来ない。
全身が酸素を求めてピクピクと痙攣する。
地獄のような痛みと苦しみがDボゥイの体を蹂躙する。
憎しみや意志とは一切関係ないところで、強制的に体が静止する。
だが、もがき苦しむ暇すら与えず、ラッドは倒れこんだDボゥイの上に馬乗りになり、その首元にナイフを宛てがった。
「はーい。さよならぁ」
押し付けられてたナイフは正確に頚動脈に触れている。
こうなればテッカマンであろうとなんであろうと関係ない。
ナイフを引けばDボゥイは確実に死ぬ。
だが、ラッドはそのナイフを引かず、Dボゥイの上から飛びのいた。
その直後、ラッドのいた場所を炎の渦が通過する。
こうなればテッカマンであろうとなんであろうと関係ない。
ナイフを引けばDボゥイは確実に死ぬ。
だが、ラッドはそのナイフを引かず、Dボゥイの上から飛びのいた。
その直後、ラッドのいた場所を炎の渦が通過する。
「おいおい、そりゃないぜ。
いいとこで邪魔するだなんてよぅ」
いいとこで邪魔するだなんてよぅ」
そう肩を竦めてぼやくラッドの視線の先には、エレメントを装備した鴇羽舞衣の姿があった。
■
―――媛星を巡る運命の輪に巻き込まれ鴇羽舞衣はHiMEになった。
思えば、彼女の人生は守るための人生だった。
幼いころに母を失い、そしても父を失った。
一人取り残された彼女は病弱な弟を守るためその身をすべて投げ打ってきた。
そして、弟の手術代のため、奨学金を出してくれるという風華の地へ足を踏み入れた。
そこで彼女は運命に巻き込まれる。
媛星を巡るHiMEの戦い。
戦いなど望んではいなかったが、彼女は守るために戦いに身を賭した。
一人取り残された彼女は病弱な弟を守るためその身をすべて投げ打ってきた。
そして、弟の手術代のため、奨学金を出してくれるという風華の地へ足を踏み入れた。
そこで彼女は運命に巻き込まれる。
媛星を巡るHiMEの戦い。
戦いなど望んではいなかったが、彼女は守るために戦いに身を賭した。
それなのに、何よりも守りたかった弟は失われた。
自分を姉のように慕ってくれた少女も、想い人も失われた。
守るために全てを捧げた彼女の人生。
だというのに、何一つ報われない。
自分を姉のように慕ってくれた少女も、想い人も失われた。
守るために全てを捧げた彼女の人生。
だというのに、何一つ報われない。
守るということは、奪わないことに等しい。
奪わないとことは、奪われることに等しい。
つまり、守ることは、奪われることに等しい。
酷い仕組みだ。
致命的なまでに理論が破綻している。
彼女はただ、奪われたくないから守っていただけなのに。
奪わないとことは、奪われることに等しい。
つまり、守ることは、奪われることに等しい。
酷い仕組みだ。
致命的なまでに理論が破綻している。
彼女はただ、奪われたくないから守っていただけなのに。
その仕組みを知ったのはいつだったか?
母が死んだときだったか?
父が死んだときだったか?
HiMEになったときだったか?
楯が詩帆を選んだ時だったか?
弟を失った時だったか?
命を殺した時だったか?
シモンが死んだ時だったか?
それとも、本当は初めから気付いていて、気が付かない振りをしていただけだったか?
父が死んだときだったか?
HiMEになったときだったか?
楯が詩帆を選んだ時だったか?
弟を失った時だったか?
命を殺した時だったか?
シモンが死んだ時だったか?
それとも、本当は初めから気付いていて、気が付かない振りをしていただけだったか?
彼女はこの負の螺旋から抜け出したかった。
だから、彼女は奪う側になろうと決意した。
だと言うのに、結果は散々。
何一つうまく行かない。
空回りばかりで、より惨めになっただけだ。
だから、彼女は奪う側になろうと決意した。
だと言うのに、結果は散々。
何一つうまく行かない。
空回りばかりで、より惨めになっただけだ。
だが、彼女自身は気付いてないが、うまく行かないのも当然だった。
だって、彼女の本質は奪うことじゃないんだから。
■
「なぁ。人の楽しみを邪魔しちゃいけねぇよ。舞衣ちゃん」
「うるさい! 何が楽しみよ! そんなことの何が楽しいって言うのよ!?
大体、なんなのよアンタ。私を殺しにきたんじゃないの!?」
大体、なんなのよアンタ。私を殺しにきたんじゃないの!?」
空中から降りてきたラッドを見た時、舞衣はこの男が自分を殺しに来たのだと思った。
なにせ、殺してしまった男の仲間だ、その仇を討ちにでも来たのかと。
自分はこれから奪ってしまったその報いを受けるのかと、そう思った。
なにせ、殺してしまった男の仲間だ、その仇を討ちにでも来たのかと。
自分はこれから奪ってしまったその報いを受けるのかと、そう思った。
だと言うのに、この男は舞衣をまるっきり無視して、誰も聞いていないDボゥイの過去をベラベラと語りだし。
仕舞いにはDボゥイと殺し合いを始める始末だ。
まったく以って、意味がわからない。
仕舞いにはDボゥイと殺し合いを始める始末だ。
まったく以って、意味がわからない。
「いやまあ、最初はそのつもりだったんだけど、まあもっと面白い玩具を見つけちまったんでね。悪いね舞衣ちゃん。
いや、でもなぁ。よく考えたら一応アンタと引き合わすっていうエミヤとの約束もあるし、舞衣ちゃんここで殺すわけにもなぁ。
いっそ、エミヤがどっかで死んでくれれば約束もなかったことになるんだがなぁ。うーん」
いや、でもなぁ。よく考えたら一応アンタと引き合わすっていうエミヤとの約束もあるし、舞衣ちゃんここで殺すわけにもなぁ。
いっそ、エミヤがどっかで死んでくれれば約束もなかったことになるんだがなぁ。うーん」
律儀なんだがそうじゃないんだがよくわからない呟きをブツブツと漏らしながら、ラッドは頭を捻らせる。
そして、何か思いついたように、ラッドは顔を輝かせた。
そして、何か思いついたように、ラッドは顔を輝かせた。
「よし、決めた。この事はエミヤ達には黙っておこう。そうしよう。名案だこりゃ。
そういう訳だ。舞衣ちゃん、今死んでくれ」
そういう訳だ。舞衣ちゃん、今死んでくれ」
ハッキリ言って、名案でもなんでもない、割ったガラスを隠す悪戯小僧の発想だが。
ただそれだけのことで、ラッドの中で鴇羽舞衣の生死は決定した。
ラッドが押し込めた舞衣への殺意が露になる。
ただそれだけのことで、ラッドの中で鴇羽舞衣の生死は決定した。
ラッドが押し込めた舞衣への殺意が露になる。
そしてその殺意を真正面から受けた舞衣は気付いた。
男は殺意を放っているのではない。
この男には殺意しかないのだ。
まるで、男が殺意そのもののような。
怖い。
深い理由も無く舞衣は単純にそう感じた。
まだ、なにをされた訳でも無い。
力ならば自分が操っていたカグツチの方が遥かに上だろう。
だと言うのに、目の前の男はただひたすらに恐ろしかった。
なにせそうだろう。
彼女は化け物と対峙したことはあっても真正面から殺人鬼と対峙した事はなかったのだから。
男は殺意を放っているのではない。
この男には殺意しかないのだ。
まるで、男が殺意そのもののような。
怖い。
深い理由も無く舞衣は単純にそう感じた。
まだ、なにをされた訳でも無い。
力ならば自分が操っていたカグツチの方が遥かに上だろう。
だと言うのに、目の前の男はただひたすらに恐ろしかった。
なにせそうだろう。
彼女は化け物と対峙したことはあっても真正面から殺人鬼と対峙した事はなかったのだから。
「どうしたよ、舞衣ちゃん?
あの変なの着てた時の威勢はどうしたんだよ?
ほら、言ってみろよ。私は絶対に死なないってよ」
あの変なの着てた時の威勢はどうしたんだよ?
ほら、言ってみろよ。私は絶対に死なないってよ」
怯える女を見て、凶悪に口元を歪ませる殺人鬼。
悲しみでも、怒りでも、狂気でもなく。
その殺人鬼は、自分の意志でどうしようもないほど歪みきっていた。
悲しみでも、怒りでも、狂気でもなく。
その殺人鬼は、自分の意志でどうしようもないほど歪みきっていた。
「まあ、言っても言わなくても、殺してやるがねぇ」
下種な笑みを貼り付かせたまま、ラッドが駆ける。
それに反応して、舞衣は両腕を突き出し炎の玉を打ち出した。
それに反応して、舞衣は両腕を突き出し炎の玉を打ち出した。
目の前に迫る幾つもの赤い炎。
それを前にしてもラッド・ルッソは止まらない。
駆ける速度を緩めるどころかますます早めながら舞衣に迫る。
それを前にしてもラッド・ルッソは止まらない。
駆ける速度を緩めるどころかますます早めながら舞衣に迫る。
「くっ……!」
少しでもその疾走の足を止めようと、舞衣も必死に炎を放つが、まるで当たらない。
舞衣のエレメントは飛行と防御が主体だ。
攻撃はカグヅチ任せだったので、正直得意ではなかった。
炎が放てるがそれだけだ。
素人や知性のない化け物ならともかく、理性を持った殺人鬼には通用しない。
少しでもその疾走の足を止めようと、舞衣も必死に炎を放つが、まるで当たらない。
舞衣のエレメントは飛行と防御が主体だ。
攻撃はカグヅチ任せだったので、正直得意ではなかった。
炎が放てるがそれだけだ。
素人や知性のない化け物ならともかく、理性を持った殺人鬼には通用しない。
何の苦もなく舞衣の懐にもぐりこんだラッドは体重を乗せた右ストレートを放った。
正直、舞衣には目視すら出来ない一撃だったが、咄嗟に腕を突き出したのが幸いした。
エレメントにより生み出された盾が、殺人鬼の一撃から彼女を守ってくれた。
そしてそのまま、殺し切ることのできなかった衝撃のベクトルを逃がすように彼女は上空へと舞い上がる。
正直、舞衣には目視すら出来ない一撃だったが、咄嗟に腕を突き出したのが幸いした。
エレメントにより生み出された盾が、殺人鬼の一撃から彼女を守ってくれた。
そしてそのまま、殺し切ることのできなかった衝撃のベクトルを逃がすように彼女は上空へと舞い上がる。
「痛ってー。やっぱ折れてんなこれ」
そう言いながらラッドは裂けた拳から流れる血をぺロリと舐め取る。
そして、空中で息を整える舞衣を見上げた。
そして、空中で息を整える舞衣を見上げた。
「おいおい、空に逃げるなんてずるいぜ舞衣ちゃん。
これじゃ俺が攻撃できねぇじゃんかよぉ。
まあ、別に、そうなったらなったで、こっちを先に殺すだけだがね」
これじゃ俺が攻撃できねぇじゃんかよぉ。
まあ、別に、そうなったらなったで、こっちを先に殺すだけだがね」
そう言って、ラッドは上空の舞衣から視線を外し、未だ悶絶しているDボゥイにその視線を向けた。
「くっ、させない!」
ラッドを止めるべく、舞衣は上空から炎を放つ。
ラッドを止めるべく、舞衣は上空から炎を放つ。
「おっと、おっ、はっ、とう!」
だが、近距離でも当てられなかった攻撃だ、これだけ離れていて当たるはずがない。
ラッドは器用に炎の雨を躱わしながら、ナイフを片手に鼻歌混じりにDボゥイに近づいてゆく。
だが、近距離でも当てられなかった攻撃だ、これだけ離れていて当たるはずがない。
ラッドは器用に炎の雨を躱わしながら、ナイフを片手に鼻歌混じりにDボゥイに近づいてゆく。
この距離からの炎では埒があかない。
そう判断した舞衣は、直接その凶行を止めるべくラッドに向けて空中を疾走した。
そう判断した舞衣は、直接その凶行を止めるべくラッドに向けて空中を疾走した。
「なんちて」
「え?」
「え?」
そこに向けられたのは巨大なライフルの銃口だった。
銃声と共に、何の躊躇もなく放たれる弾丸。
ラッドに向かって全力で近づいていたため、回避は不可能だった。
咄嗟にエレメントを生み出したがライフルの威力は凄まじく、衝撃に撃墜され地面へと落下する。
そして、背中から叩き付けられ、地面を滑った舞衣の体は偶然にもDボゥイの近くで停止した。
銃声と共に、何の躊躇もなく放たれる弾丸。
ラッドに向かって全力で近づいていたため、回避は不可能だった。
咄嗟にエレメントを生み出したがライフルの威力は凄まじく、衝撃に撃墜され地面へと落下する。
そして、背中から叩き付けられ、地面を滑った舞衣の体は偶然にもDボゥイの近くで停止した。
強力な防御手段を持ち、飛行する的を撃ち落とすのは困難だ。
おまけに弾数も少ないとなればなおさらだ。
そこで、ラッドは遠距離攻撃の方法が無いと見せかけ、人質を使って近づいてきた所を撃ち落とすという作戦に出た。
その結果は見て通り、見事に的中。
空中にいた舞衣は地に伏せ、立っているのはラッドだけ。
おまけに弾数も少ないとなればなおさらだ。
そこで、ラッドは遠距離攻撃の方法が無いと見せかけ、人質を使って近づいてきた所を撃ち落とすという作戦に出た。
その結果は見て通り、見事に的中。
空中にいた舞衣は地に伏せ、立っているのはラッドだけ。
何一つ特別な力を持たない殺人鬼がテッカマンを、HiMEを圧倒している。
それは絶望するには十分な恐るべき光景だった。
それは絶望するには十分な恐るべき光景だった。
そんな絶望と死の満ち溢れる世界の中で殺人鬼は一人、声を上げて笑っていた。
■
―――ラッド・ルッソが殺人鬼になったのに、特に理由はない。
叔父こそ裏世界に生きるマフィアだが、両親自体は一般的と呼べる部類の人間だったし、家庭環境も特にこれといって荒れていた訳ではない。
ついでに言えば、彼には弟分はいるが弟はいない。どうでもいいが。
ついでに言えば、彼には弟分はいるが弟はいない。どうでもいいが。
相羽タカヤの様に、重すぎる宿命を背負ったわけじゃない。
鴇羽舞衣の様に、逃れられぬ運命に巻き込まれたわけじゃない。
ビシャスの様に、燃え上がるような野心があったわけじゃない。
衛宮士郎の様に、歪んでしまうような古傷(トラウマ)があったわけでもない。
鴇羽舞衣の様に、逃れられぬ運命に巻き込まれたわけじゃない。
ビシャスの様に、燃え上がるような野心があったわけじゃない。
衛宮士郎の様に、歪んでしまうような古傷(トラウマ)があったわけでもない。
そういうものとは一切関係なく、ただ、気付いたらこうなってた。
別に何をしたわけじゃない。
ただ少し、ほんの少しだけ考えただけだ。
人の生と死について。
生きる人間と、死ぬ人間の違いについて。
本当に何気なく考えただけだ。
それだけ。
その結果を知るよりも早く、彼はその過程に蝕まれた。
ただ少し、ほんの少しだけ考えただけだ。
人の生と死について。
生きる人間と、死ぬ人間の違いについて。
本当に何気なく考えただけだ。
それだけ。
その結果を知るよりも早く、彼はその過程に蝕まれた。
そして、ラッド・ルッソは殺人鬼に成り果てた。
そこに一切の躊躇も、微塵の後悔もない。
あるのは快楽と、人殺しとしての才能だけだった。
ただただ、どうしようもないほど自分の意志で殺人鬼は生まれ出た。
あるのは快楽と、人殺しとしての才能だけだった。
ただただ、どうしようもないほど自分の意志で殺人鬼は生まれ出た。
人間は。
何の理由もなく。
何の運命もなく。
何の宿命もなく。
見事なまでに粉々に、跡形も無いほど壊れることができる。
何の理由もなく。
何の運命もなく。
何の宿命もなく。
見事なまでに粉々に、跡形も無いほど壊れることができる。
人間は。
何の怒りもなく。
何の絶望もなく。
何の憎しみもなく。
どうしようもないほど歪に、これ以上ないほど捻じ曲がることができる。
何の怒りもなく。
何の絶望もなく。
何の憎しみもなく。
どうしようもないほど歪に、これ以上ないほど捻じ曲がることができる。
そんなものがなくても人間はどこまでも狂うことができる。
どこまでも、どこまでも、自分の意志で。
■
笑う、笑う、殺人鬼が笑う。
狂々と、狂ったように、狂った声を響かせながら。
狂々と、狂ったように、狂った声を響かせながら。
そんな絶望的に狂った世界で、それを打ち消す声で、舞衣は叫んだ。
「カグツチ!」
「あん?」
「あん?」
突然の舞衣の叫びに、ラッドが笑いを止め疑問符を浮かべた。
まず、単語の意味がわからない。
人名ではない。
そんな人間はここにはいない。
ラッドの知る限りでは参加者にもいない。
必殺技か何かかと思って少しワクワクしたが、残念ながら特に何も起こらない。
まず、単語の意味がわからない。
人名ではない。
そんな人間はここにはいない。
ラッドの知る限りでは参加者にもいない。
必殺技か何かかと思って少しワクワクしたが、残念ながら特に何も起こらない。
「お願いだから出てきてよ、カグツチ!」
それでも舞衣は涙ながらにその名を呼びかけ続けた。
それは、全てを焼き尽くす炎の化身の名。
彼女に唯一与えられた奪う力。
鴇羽舞衣が操る、最強のチャイルド、カグツチの名を。
だが、破壊の竜は、彼女の呼びかけには答えない。
なにもおこらない。
ただ少女の声が虚しく響くだけだ。
それは、全てを焼き尽くす炎の化身の名。
彼女に唯一与えられた奪う力。
鴇羽舞衣が操る、最強のチャイルド、カグツチの名を。
だが、破壊の竜は、彼女の呼びかけには答えない。
なにもおこらない。
ただ少女の声が虚しく響くだけだ。
「どうして、どうして出てきてくれないのよ! カグツチ!
お願いよ! もう嫌なの。これ以上失くすのは嫌なのよ!
だから出てきてよ、カグツチ!!」
お願いよ! もう嫌なの。これ以上失くすのは嫌なのよ!
だから出てきてよ、カグツチ!!」
ここにいない何かに涙ながらに懇願する少女。
その奥から、唐突に輝く緑色の光が僅かに放たれた。
それを見てラッドはなんだかよく分からないが、嫌な予感がした。
とてもとても嫌な予感だ。
このまま続ければきっと何かが起きる。
だから、ラッドは何か起きる前に、サックリ、とっとと、即効で舞衣を殺そうと決意した。
その奥から、唐突に輝く緑色の光が僅かに放たれた。
それを見てラッドはなんだかよく分からないが、嫌な予感がした。
とてもとても嫌な予感だ。
このまま続ければきっと何かが起きる。
だから、ラッドは何か起きる前に、サックリ、とっとと、即効で舞衣を殺そうと決意した。
だが、ラッドが動くよりも早く。
舞衣がその輝きを自覚するよりも早く。
舞衣の肩に静止の手がかかった。
舞衣がその輝きを自覚するよりも早く。
舞衣の肩に静止の手がかかった。
「もういい。十分だ。下がってろ、舞衣」
「D、ボゥイ」
舞衣が振り向いた先に立っていたのはラッドの一撃を喰らい、倒れこんでいたはずのDボゥイだった。
「D、ボゥイ」
舞衣が振り向いた先に立っていたのはラッドの一撃を喰らい、倒れこんでいたはずのDボゥイだった。
「お、タフだね。もう立てんのか?
やっぱ凄いなぁ宇宙人」
やっぱ凄いなぁ宇宙人」
そう言って、割と本気で感心するラッドだが、そんな事はない。
最後に残った月の石のかけらを使って無理矢理に立ち上がっただけだ。
呼吸は整ったが、貧血は変わらないし、破裂した内臓は治らない。
正直、立ってるのがやっとだと言っていい。
最後に残った月の石のかけらを使って無理矢理に立ち上がっただけだ。
呼吸は整ったが、貧血は変わらないし、破裂した内臓は治らない。
正直、立ってるのがやっとだと言っていい。
「舞衣。こいつはオレが絶対になんとかする。
だからその間にオマエは逃げろ。その飛行能力があれば逃げ切れるはずだ」
「はぁ!? 何言ってんのアンタ!?」
「いいから行け! オレはアイツを許すわけにはいかない。
ここで必ず決着をつける。だから行け舞衣!」
だからその間にオマエは逃げろ。その飛行能力があれば逃げ切れるはずだ」
「はぁ!? 何言ってんのアンタ!?」
「いいから行け! オレはアイツを許すわけにはいかない。
ここで必ず決着をつける。だから行け舞衣!」
もはや舞衣の言い分にも聞く耳持たないといったDボゥイ。
それを見て舞衣は溜息を漏らし決意した。
それを見て舞衣は溜息を漏らし決意した。
「……わかったわよ。行くわ」
「それでいい」
舞衣の言葉に安堵して、Dボゥイは舞衣に背を向けラッドへと対峙する。
だが。
「それでいい」
舞衣の言葉に安堵して、Dボゥイは舞衣に背を向けラッドへと対峙する。
だが。
「なっ!? 何をする、離せ舞衣!」
「何ってアンタも一緒に逃げるのよ!」
「何ってアンタも一緒に逃げるのよ!」
後から抱きつくようにして、舞衣はDボゥイと共に宙に浮いていた。
Dボゥイは舞衣を振りほどこうともがくが、その拘束を解くことは出来ない。
Dボゥイは舞衣を振りほどこうともがくが、その拘束を解くことは出来ない。
「ほら、私も振り切れないくらいボロボロの体で何ができるっていうのよ!」
「それは……! それも、とにかくオレは!」
「それは……! それも、とにかくオレは!」
そのまま、空中で言い争いを続ける二人。
その様子をしばらく眺めていた殺人鬼は言い争いをする二人を嗜める様に口を開いた。
その様子をしばらく眺めていた殺人鬼は言い争いをする二人を嗜める様に口を開いた。
「はいはいはいはい。痴話喧嘩も結構だけど俺の事も忘れんなよ。寂しいじゃないの。
でさぁ。俺からも提案なんだけど、両方ここで俺にブッ殺されるってのはどうよ?
つか、それしかなくねぇ? ま、他に選択肢が在ってもそうするんだがよ」
でさぁ。俺からも提案なんだけど、両方ここで俺にブッ殺されるってのはどうよ?
つか、それしかなくねぇ? ま、他に選択肢が在ってもそうするんだがよ」
凶悪に笑いながら、ラッドは空中に浮かぶ舞衣とDボゥイに銃口を向ける。
そのラッドの態度に舞衣は口論を止め、Dボゥイを抱えたままラッドに背を向けて全力で空を奔りだした。
そこに、当然のように鳴り響く銃撃音。
もちろん舞衣もそれがくるのは予想してた。
ギリギリのタイミングで飛行する軌道を変え、その弾丸を避ける。
それが、成功した事を確認し、舞衣が安心したのも束の間。
まったく容赦なく、無理矢理に軌道を変え避けた直後を狙い、続けざまに二発目の銃声が鳴り響いた。
更に軌道を変えようとするが、どう考えても避けきれない。
Dボゥイを抱え両腕が塞がっているため、盾も張れない。
当然の結果として弾丸は二人に被弾する。
その衝撃に舞衣達は水飛沫を上げて近くの河に墜落した。
そのラッドの態度に舞衣は口論を止め、Dボゥイを抱えたままラッドに背を向けて全力で空を奔りだした。
そこに、当然のように鳴り響く銃撃音。
もちろん舞衣もそれがくるのは予想してた。
ギリギリのタイミングで飛行する軌道を変え、その弾丸を避ける。
それが、成功した事を確認し、舞衣が安心したのも束の間。
まったく容赦なく、無理矢理に軌道を変え避けた直後を狙い、続けざまに二発目の銃声が鳴り響いた。
更に軌道を変えようとするが、どう考えても避けきれない。
Dボゥイを抱え両腕が塞がっているため、盾も張れない。
当然の結果として弾丸は二人に被弾する。
その衝撃に舞衣達は水飛沫を上げて近くの河に墜落した。
「うーん。死んだかな?」
その結末を見届けラッドは首を捻る。
落下したと言っても下は河だし、見る限りライフルも当たりはしたが直撃ではない。
正直生存率は五分といったところか。
落下したと言っても下は河だし、見る限りライフルも当たりはしたが直撃ではない。
正直生存率は五分といったところか。
「ま、いいや。生きてたらまたブッ殺すってことで」
そう言ってラッドはフラップターに乗り込み夜空へと舞い上がった。
このままフラップターで二人を追いかけてもよかったが、少しばかり寄り道が過ぎた。
そろそろ映画館に戻らなければならない頃合だ。
あまり寄り道が過ぎて、その間に映画館の連中は全滅してました、となれば目も当てられない。
このままフラップターで二人を追いかけてもよかったが、少しばかり寄り道が過ぎた。
そろそろ映画館に戻らなければならない頃合だ。
あまり寄り道が過ぎて、その間に映画館の連中は全滅してました、となれば目も当てられない。
「いやぁ、まぁそれはそれで……」
面白いかもしれない。
などと不吉な予感に口を歪ませながら、殺人鬼は空を行った。
などと不吉な予感に口を歪ませながら、殺人鬼は空を行った。
【C-6・上空/一日目/夜中~真夜中】
【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:疲労(小)、右肋骨2本骨折、両拳に裂傷、右手にヒビ(戦闘には問題なし)
[装備]:超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)
[道具]:支給品一式×2(一食分消費)、ファイティングナイフ、フラップター@天空の城ラピュタ
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
ニードルガン(残弾10/10)@コードギアス 反逆のルルーシュ 、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)
[思考]
基本方針:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
1:とりあえず映画館に帰る。舞衣達に出会った事は黙っておく。
2:清麿の邪魔者=ゲームに乗った参加者を重点的に殺す。
3:足手まといがあまり増えるようなら適度に殺す。
4:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す。
5:覚悟のある人間ばかりなので面白くないから螺旋王もぶっ殺す。
6:舞衣とDボゥイが生きてたらまたぶっ殺す。
※フラップターの操縦ができるようになりました。
※明智たちと友好関係を築きました。その際、ゲーム内で出会った人間の詳細をチェックしています。
※詳細名簿の情報をもとに、危険な能力を持つ人間の顔と名前をおおむね記憶しています。
※テンションが上がり続けると何かに目覚めそうな予感がしています。
【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ!】
[状態]:疲労(小)、右肋骨2本骨折、両拳に裂傷、右手にヒビ(戦闘には問題なし)
[装備]:超電導ライフル@天元突破グレンラガン(超電導ライフル専用弾0/5)
[道具]:支給品一式×2(一食分消費)、ファイティングナイフ、フラップター@天空の城ラピュタ
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
ニードルガン(残弾10/10)@コードギアス 反逆のルルーシュ 、首輪(シンヤ)、首輪(パズー)
[思考]
基本方針:自分は死なないと思っている人間を殺して殺して殺しまくる(螺旋王含む)
1:とりあえず映画館に帰る。舞衣達に出会った事は黙っておく。
2:清麿の邪魔者=ゲームに乗った参加者を重点的に殺す。
3:足手まといがあまり増えるようなら適度に殺す。
4:基本方針に当てはまらない人間も状況によって殺す。
5:覚悟のある人間ばかりなので面白くないから螺旋王もぶっ殺す。
6:舞衣とDボゥイが生きてたらまたぶっ殺す。
※フラップターの操縦ができるようになりました。
※明智たちと友好関係を築きました。その際、ゲーム内で出会った人間の詳細をチェックしています。
※詳細名簿の情報をもとに、危険な能力を持つ人間の顔と名前をおおむね記憶しています。
※テンションが上がり続けると何かに目覚めそうな予感がしています。
■
バシャリという水音と共に、一組の男女が水中から飛び出した。
河から這い上がった女、舞衣は手にした男、Dボゥイをなんとか地面に下ろし荒い息を整えた。
だが、見下ろした先にある自身の手を見て彼女は驚愕した。
その手は河の水ではなく、ベットリと赤い血で濡れていた。
彼女の血ではない。
見れば、その血は意識を失い倒れこむ男の背から流れ出ていた。
だが、見下ろした先にある自身の手を見て彼女は驚愕した。
その手は河の水ではなく、ベットリと赤い血で濡れていた。
彼女の血ではない。
見れば、その血は意識を失い倒れこむ男の背から流れ出ていた。
あの時。
避けきれない弾丸を前にDボゥイは身を挺して舞衣の体を庇ったのだ。
結果、衝撃で河に落下したものの舞衣はほぼ無傷となり。
その代わり、傷を一手に引き受けた男の背中の肉は抉れ、そこから湯水のように赤い血が溢れて止まらない。
避けきれない弾丸を前にDボゥイは身を挺して舞衣の体を庇ったのだ。
結果、衝撃で河に落下したものの舞衣はほぼ無傷となり。
その代わり、傷を一手に引き受けた男の背中の肉は抉れ、そこから湯水のように赤い血が溢れて止まらない。
その傷を見て舞衣は絶望する。
死ぬ。
ただですら血の足りなかった男だ。
このままでは確実に死んでしまう。
なんとかしてこの血を止めなくてはならなかった。
だが、手元には鋏しかない。
どうすればいい。
悩む舞衣だったが、なにかを思い立ち、両腕をDボゥイの傷口に宛てがった。
そしてエレメントより炎を生み出し、その傷口を焼き払った。
付け焼刃もいいところな治療だったがなんとかうまく血は止まったようだ。
これ以上血が流れることはない。
死ぬ。
ただですら血の足りなかった男だ。
このままでは確実に死んでしまう。
なんとかしてこの血を止めなくてはならなかった。
だが、手元には鋏しかない。
どうすればいい。
悩む舞衣だったが、なにかを思い立ち、両腕をDボゥイの傷口に宛てがった。
そしてエレメントより炎を生み出し、その傷口を焼き払った。
付け焼刃もいいところな治療だったがなんとかうまく血は止まったようだ。
これ以上血が流れることはない。
だが、駄目だ。
これ以上血液が失われることは防いだが、失われた血液が戻るわけじゃない。
放っておけば間違いなく死んでしまう。
これ以上血液が失われることは防いだが、失われた血液が戻るわけじゃない。
放っておけば間違いなく死んでしまう。
また奪われるのか。
また失われるのだろうか。
彼女はただ、奪われたくなかっただけなのに。
また失われるのだろうか。
彼女はただ、奪われたくなかっただけなのに。
奪われたくないから守って。
守るから奪えなくて。
奪えないから奪われる。
守るから奪えなくて。
奪えないから奪われる。
そんな連鎖には飽きたんだ。
そんな螺旋には疲れたんだ。
そんな螺旋には疲れたんだ。
奪う側に回ろうとしても、うまく行かず。
足掻いた結果に残ったのは無残なモノだ。
結局この螺旋からは抜け出せず、回りに不幸と死を撒き散らしただけ。
足掻いた結果に残ったのは無残なモノだ。
結局この螺旋からは抜け出せず、回りに不幸と死を撒き散らしただけ。
当然だ。
初めからうまく行くはずがなかった。
初めからうまく行くはずがなかった。
だって、彼女の本質は奪うことじゃない。
彼女の本質は守ることなんだから。
彼女の本質は守ることなんだから。
奪うのは容易い。
失うのはもっと容易い。
けれど守ることは難しい。
その道は遥かに辛くて厳しい。
その道を行けば、色んな物を犠牲にしてしまうかもしれない。
見っともないほど惨めに足掻くことになるかも知れない。
どれだけ頑張っても報われないかもしれない。
けど、それでも、その道を歩んできたのは、守りたいモノがあったからだ。
どんなに辛くて苦しくても、守りたいモノがあったんだ。
失うのはもっと容易い。
けれど守ることは難しい。
その道は遥かに辛くて厳しい。
その道を行けば、色んな物を犠牲にしてしまうかもしれない。
見っともないほど惨めに足掻くことになるかも知れない。
どれだけ頑張っても報われないかもしれない。
けど、それでも、その道を歩んできたのは、守りたいモノがあったからだ。
どんなに辛くて苦しくても、守りたいモノがあったんだ。
彼女は奪いたかった訳じゃない。
彼女はただ、守りたかっただけなんだ。
大切なものを、ただ守りたかっただけなんだ。
そんな単純なことを、何故忘れてしまったんだろう?
大切なことだったはずなのに、人は何故忘れてしまうんだろう?
彼女はただ、守りたかっただけなんだ。
大切なものを、ただ守りたかっただけなんだ。
そんな単純なことを、何故忘れてしまったんだろう?
大切なことだったはずなのに、人は何故忘れてしまうんだろう?
「死なせない。死なせてたまるか」
失って。
失って。
また失って。
それでもまだ、掌の中に砂粒ほどでも守りモノがあるのならば。
見っともなく足が縺れても。
惨めに泥に塗れても。
足掻き続けるんだ。
失って。
また失って。
それでもまだ、掌の中に砂粒ほどでも守りモノがあるのならば。
見っともなく足が縺れても。
惨めに泥に塗れても。
足掻き続けるんだ。
だってそれが、守るということなんだから。
【D-6/河近く/一日目/夜中~真夜中】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 、鋏
[思考]:
1:Dボゥイをなんとしても助ける。
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※静留にHiMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※一時的にエレメントが使えるようになりました。今後、恒常的に使えるようになるかは分かりません。
※螺旋力半覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 、鋏
[思考]:
1:Dボゥイをなんとしても助ける。
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※静留にHiMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※一時的にエレメントが使えるようになりました。今後、恒常的に使えるようになるかは分かりません。
※螺旋力半覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:気絶、貧血(大)、一部内臓損傷、背中に傷(炎による止血済み) 左肩から背中の中心までに裂傷・右肩に刺し傷・背中一面に深い擦り傷(全て傷跡のみ)
[装備]:なし
[道具]:デイバック、支給品一式
[思考]
基本:小早川ゆたかを保護する。
1:???
2:ゆたかと合流する。
3:テッククリスタルをなんとしても手に入れる。
4:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない。
5:ラッドをこの手で殺す。
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています。
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました。
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能です。またその事を認識しています。
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※全身にシーツを包帯代わりに巻いています。
※ラッドに対する深い憎しみが刻まれました。
※螺旋力覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
[状態]:気絶、貧血(大)、一部内臓損傷、背中に傷(炎による止血済み) 左肩から背中の中心までに裂傷・右肩に刺し傷・背中一面に深い擦り傷(全て傷跡のみ)
[装備]:なし
[道具]:デイバック、支給品一式
[思考]
基本:小早川ゆたかを保護する。
1:???
2:ゆたかと合流する。
3:テッククリスタルをなんとしても手に入れる。
4:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない。
5:ラッドをこの手で殺す。
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています。
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました。
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能です。またその事を認識しています。
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※全身にシーツを包帯代わりに巻いています。
※ラッドに対する深い憎しみが刻まれました。
※螺旋力覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
時系列順で読む
Back:root(前編) Next:光るものの全てが黄金とは限らない
投下順で読む
Back:root(前編) Next:光るものの全てが黄金とは限らない
226:root(前編) | ラッド・ルッソ | 231:BACCANO -前哨編- |
226:root(前編) | Dボゥイ | 232:愛と死の予感(前編) |
226:root(前編) | 鴇羽舞衣 | 232:愛と死の予感(前編) |