「『よだかの星』という話をご存知ですか?」
「聞いたことあるような…」
「宮沢賢治です。醜い姿をバカにされ続けた夜鷹は最後、星になるのです。天高く舞い上がって、
そのまま大気圏を突き抜けて燃え盛って、星になります」
「ようは、自殺したってことか」
「私が開発した夜鷹自殺は少し違います。天高く舞い上がった後、流星になります」
「でも、一瞬で終わったら、誰も見ないうちに消えちゃったりして」
「その心配はありません。完璧な演出で、多くの人に目撃されるよう、仕組んであります」
「シミュレーションが未完成です。体験の部分がどうしても作り切れてません…。
要するにぶっつけ本番になりますが、よろしいですか?」
「もう、おじいさんに全て任せたよ」
「ありがとうございます。どのように見えるかだけ、シミュレーションできます」
スクリーンには群青の夜空。その中をまっすぐに昇って行く光の玉が見える。
山の影も超えて、ゆっくりと昇ってゆく。
光の玉が「パッ」と消えた。その刹那、斜め下方へ零れ落ちるように光の筋が走った。
「綺麗だ…」
一郎は恍惚とした表情でその様を見送った。
「皆、呆然と夜空を見上げるでしょう。あなたは光の玉となって昇ってゆきます。最後はひと筋のほうき星になって消える。
一瞬の美しさに全てをかけました」
「東京からは、見えるの?」
「大丈夫です。半径500キロ以内なら十分に見えます。東京の方角へ流れ落ちるよう、設定もできます」
「そっか…。じゃあ、そうしよう。流れ星になるよ」
「ぶっつけ本番なのが心苦しい。計算上は100%成功していますので、ご安心ください」