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ヨルハ部隊による真珠湾降下作戦の個人的記録1

私の名前はアネモネ。アンドロイドレジスタンスのリーダーだ。
この記録は、私が経験した戦闘と……敗北の記録。
自らへの戒めとして、ここに残しておく……


機械生命体が放つ攻撃が鼻先をかすめる。
微かに漂う異臭に、髪が少し焼き焦げたことを知った。
「アネモネ!一旦引け!」
隊長であるローズの声に従い、手近な敵を潰した後に背後に走る。
杜撰な作りの塹壕に飛び込むと、そこにはレジスタンスの仲間達が集っていた。


何度目の戦闘になるんだろう。

いつもの戦場。いつもの消耗戦。
私達レジスタンスは、終わりの見えない戦闘を繰り返していた。

この戦いにはどんな意味があるのか、もう忘れてしまった。
ただ、戦い続けるだけだ。
敵を殲滅するか、こちらが全員死ぬまでは。


「このままじゃジリ貧だよぉ!どうしよう、シオン」
「落ち着いて、リリィ。突破口はあるはず」
「突破口は探すもんじゃねぇ、作るもんだ!」
「待て、ダリア!」
塹壕から飛び出そうとしたダリアの腕を掴み、ローズを振り返る。私達を呼び戻したのには、何か考えがあるに違いない。
そのローズは、目の前に迫る敵の群れとは違う方向に目を眇めていた。


「敵の流れが明らかに変わった。先ほどから、向こうで誰かが戦っている」
「え?でもみんなここにいるよ?」
マーガレットの疑問に全員が顔を見合わせた。
この辺りで機械生命体と戦えるのは、私達レジスタンスだけだ。

隊長のローズ、ガーベラ、リリィ、ソニア、エリカ、マーガレット、シオン、ダリア。
そして私……アネモネ。
もう200年ほど前になる、第八次降下作戦の生き残りのアンドロイド達。


「敵の罠、かも……」
不安げなソニアをシオンが抱きしめる。
そうこうする内に、いつの間にか頭の上を飛び交っていた攻撃がまばらになっていた。

「幸い、こちらは手薄になってきたようだ。このまま引こう」
「なんだよ、アネモネ。戦ってる奴らを見捨てて行くのか?」
「ダリア。君は仲間かどうか判らない奴に命を掛けるのか?仲間を危険に晒して?」
「そんな事言ってねぇだろッ!!」
「2人とも、決めるのはローズよ。隊長の指示に従いましょう」


シオンの言葉に、皆の視線が一斉にローズに集まる。
それを自然に受け止めながら、ローズはほんの少しだけ間を置いて口を開いた。
「ガーベラ。あの方角には、以前仕掛けておいた地雷が残っているな?」
「あ、うん。そういえば、ちょうどよく敵がそっちに流れてるみたい」
「上手くいけば、奴らを一網打尽にできるか……」
ローズは隊長らしい余裕のある笑みを浮かべた。


「全員、塹壕を出て問題の場所に向かう。目的は地雷爆破による敵勢力の一掃だ。アンノウンの確認はその後に回す」

隊長の決断に異を唱えるものはいない。
瞬時に目配せを行い己の役割を確認した私達は、ローズの声を合図に塹壕から一気に飛び出した。

結論として、目指した先にいたのは私達と同じアンドロイドだった。
そこにいた黒衣のアンドロイド達……ヨルハと名乗る彼女達を囮にして、私達は地雷を起爆。敵機械生命体を一掃する事ができた。
しかし……


「やめてくださいっ、私達はあなた達の味方です、新型なんです!」
自分達に向けられた銃口に、黒衣のアンドロイドが焦りの声を上げた。
「どうかなぁ?そんな部隊が送られてくるなんて話、聞いたことがないけど?」

敵味方の判別をつける為に、私はかまをかける。
彼女達はゴーグルをしているせいで表情が読めないが、嘘を言っているとも思えない。
だが、そんな情報を聞いたことがないのも事実だ。


黒衣のアンドロイドは全部で四人。
二号、四号、十六号、二十一号……と番号で呼び合っている。

「私達の作戦は極秘ですから、地上にいるあなた達に情報が伝わらないのも当然かと思います」
二十一号が淡々と言葉を紡ぐ。どうやら、こちらの方が二号よりも落ち着きがあるらしい。


「ふぅーん、極秘ねえ……じゃあ、ここで殺しても何の問題もないってことだ」
彼女の反応を窺いたくて、私はわざと挑発的な言葉を口にし、ナイフを抜いた。

「アネモネ、やめろ」
「でも」
ローズが私を押しとどめる一方で、リリィが反論する。
「そうですよ!最近は機械生命体の進化も激しくて、人型をした機械って可能性も……」
彼女の言葉に、レジスタンスの仲間達は頷いた。

皆、長過ぎる戦いで疑心暗鬼に陥っている。
この敵だらけの地上で生き抜く為には、僅かでも疑いの芽は摘んでおかなければならない。


「上等じゃねぇか!」
こちらの挑発に乗った十六号がナイフを閃かせる。
「おもしれぇ!」
同時に、ダリアが彼女に飛びかかった。もはや戦いは避けられないだろう。
瞬時にそう悟った面々が戦闘態勢をとる中……

「待ってください!」
二号だけが、戦いを止めようとその身を呈した。


「私達は16人の仲間でした。でも降下作戦の途中で多くの仲間を失ってしまった……。司令部からは援軍も届かず孤立無援、私達だけで作戦を遂行しなければいけない。今、必要なのは仲間なんです!」

二号から放たれる、真摯で、熱く、そして悲痛な叫び。
……私はこの声を知っている。


それは絶望的な状況に打ちのめされながらも、まだ希望を抱いている者の声だった。


ヨルハ部隊による真珠湾降下作戦の個人的記録2

ヨルハ達がもたらした情報によると、カアラ山の地下に敵のサーバーがあるらしい。
それを叩けば、長く続いたこの戦いに変化をもたらすことが出来るはずだ。

ただし、作戦を成功させる為には互いの協力が必要となる。
迷った末に、私達レジスタンスの隊長であるローズは新型と共闘する道を選んだ。
そして、その関係は時間と共に変化していく。


「……何をしているんだ、ダリア」
「ハァ、ハァ……この馬鹿に、自分の強さを思い知らせてやったところです……」
「ふざ……けんな……テメェの……圧倒的な、負け……じゃねえか」
互いに荒い息を吐きながら、ダリアと十六号が殴り合っている。
だが、何度か力比べをしたせいですでに力のない拳は、互いの体を掠めることすら難しいようだ。


そんな2人の様子を、仲間は苦笑して眺めている。
ダリアと十六号は事あるごとにぶつかるが、どうやら性格的に似ているらしい。
筋肉バカはすぐに慣れ合って困る。


小競り合いを続けるダリア達を横目にしながら、ローズ達は穏やかに話している。
「私達は互いを名前で呼んでいる、すべて私がつけた名だ」
その説明に、四号が「ああ」と相槌を打った。
「不思議だったんです。コードナンバーじゃないんだ、って」
合点がいったのか、四号はうんうんと大きく頷いている。


それを見て、ローズは柔らかな笑みを浮かべた。
「君達にも名前をつけてみようと思う」
突然、大声で二号が否定する。
「や、やめてください、そんな、もったいないです!」
「えー。二号ってば、なんで?」


「作戦が終わったら……お願いします」

ほんのりと頬を染めて、小さな声と共に二号ははにかんだ。
その返答に含まれたのは、作戦成功への祈り。
果たされる確約のない、泡沫のような希望。

「……いいだろう、それまでにいい名前を考えておこう」
交わした言葉の儚さを承知した上で、ローズは約束する。
気付けば、私以外の仲間はいつの間にかヨルハ達と馴染み始めていた。


「……不用心過ぎる」
思わず零れた呟きは、幸い誰の耳にも届くことはなかったようだ。
ローズの判断に異を唱えるつもりはない。
しかし、私はまだ彼女達を信用することができなかった。


……私達は月に見捨てられた存在だ。
どれだけ叫んで、嘆いて、足掻いても、消えて行った仲間の声は拾われることはなかった。

それなのに……今更送りこまれた新型部隊を、どうして心から信用できる?


「アネモネ?どうしたの?」
1人輪に加わらない私を気遣ったのか、リリィが声を掛ける。
「……なんでも」
ない、と言い終える前に、それは突然に訪れた。

「うっ……あああっ!ああああああああっ!」


苦悶の声がキャンプ地に響く。
その悲痛な叫びは、今しがた話したリリィの口から発せられていた。

「くそっ、汚染だ!」
そのローズの一言で、私達は反射的にリリィに銃口を向ける。
……論理ウィルス。
それに感染したアンドロイドはデータを書き換えられ、機械生命体に乗っ取られる。
シールドを持たぬ私達には、汚染は事実上の死刑宣告だった。


早く解放してやらねばと、震える指がトリガーに掛かる。
しかし弾丸を発射する前に、胸をえぐる言葉が放たれた。

「待って!仲間を見殺しにするんですか?」

言葉の主は二十一号だった。
落ち着いた印象しかなかった彼女が、必死に訴えている。
その叫びは、私達の決意を鈍らせるのに十分だった。


「みんなは家族なんですよね、リリィはそう言っていた!全ての可能性を試す前に、家族を切り捨てるなんて!」
「ならばお前に何ができる?」
「私の力を使ってウィルスを消します!」
「そんな事は不可能だ!」


血を吐くようなローズの叫びは、私達の心情そのままだ。
リリィが信じられない怪力で周囲の仲間を吹き飛ばし始める。
汚染されたアンドロイドはリミッターが外れ、その機体が破壊されるまで周囲のアンドロイドに死と汚染を撒き散らす。
力自慢の十六号とダリアが跳びかかって抑えこもうとするが、逆に叩き潰されてしまう。


今まで、何人の仲間が汚染されただろう。
その度に、この手で撃ち抜いてきた。
欠けていく識別番号に、無いはずの心が悲鳴を上げる。
それに耐えられなくて、名前を付けるようになったのはいつからだったか。


「リプログラムスタート!」
惑うわたしの耳に、二十一号の緊張した声が響いた。
彼女が端末に入力するのに合わせて、リリィが激しく身悶える。
二号と四号がその体を押さえて……

「アネモネ!?」
ローズが驚きに満ちた声で私を呼ぶ。
それを聴いて、私は初めて暴れるリリィの体を二号達と共に押さえていることに気がついた。


二十一号が叫ぶ。
「リリィ!あなたの病気は私が治す!」
二十一号も、二号も、命懸けでリリィを救おうとしてくれている。
ならば私も、彼女達ヨルハに賭けてみたい。信じてみたい。

「データ、インストール!!!」
二十一号の叫びが、レジスタンス達の願いとなってリリィに突き刺さる。


リリィの身体が痙攣する。恐ろしい力で私達を振り払おうとする。
だが、絶対にこの手を離さない。
私は……もう失いたくないんだ。

突然、リリィの身体から力が抜けてゆく。

二十一号が、荒い息で呟いた。
「ウィルスの除去……完了しました」


……リリィは、戻って来た。
レジスタンス達の歓声。
私はリリィを抱きしめると、二十一号を見上げる。

無表情だった彼女が、少し微笑んだ気がした。

いつの間にか、私の中にあった、ヨルハ達との共闘への不安は消えていた。


ヨルハ部隊による真珠湾降下作戦の個人的記録3

「第十四次機械戦争 真珠湾降下作戦」
それが、彼女達ヨルハの担っていた作戦名だ。


……過去、あれだけ激しい銃撃と、途切れることのない爆撃があっただろうか。
破壊目標である、機械生命体のサーバー。その本体が設置されているカアラ山での戦いは、まさに死闘だった。

「援軍を……援軍の派遣を要請します!」
迫りくる敵の大軍を前に、二号が早口でまくし立てる。
しかし、衛星軌道上にある司令部からは否定しか返ってこない。

奴らはいつもそうだ。月と衛星から私達を見下ろしているだけだ。


後戻りも出来ず、もはや進むしかない絶望的な状況の中で、私達は二手に別れることにした。

先行部隊はサーバールームに侵入し、破壊する。
後方防衛部隊は、追撃する機械生命体の足止めが任務。
残るのはリリィ、ダリア、マーガレット、十六号の4人。


「みんなの役に立ちたい」と願ったリリィ。
それを「手伝う」と笑顔で答えたダリアとマーガレット。
そしてそんな彼女達を「援護する」と言ってくれた十六号。

彼女達は、先行部隊の盾だ。その代償は、命。
だが、反対する者はいない。
私達先行部隊も、遅かれ早かれ死ぬのだ。

もう出会う事のない仲間……その想いを背負い、お互いは背を向ける。


ダリア達の防衛によって、私達は山頂にある最終ゲートへ到達する事が出来た。

攻撃目標は、地下数百メートルに格納された機械生命体のサーバー。
それを破壊すれば太平洋全域の機械生命体に壊滅的な打撃を与えられる。

しかし、二十一号がエレベーターの操作端末の前で苦い顔をする。


「先に行っててください」
端末をハッキングしながら、二十一号はエレベーターに仲間を促した。誰かが外部から操作しないと、エレベーターは地下のサーバールームまで行かずに止まってしまうらしい。
「敵が迫っています……いいから早くッ!」
弾かれるように、私はエレベーターから飛び出す


「私が二十一号を援護する!皆は先に行けっ!!」

エレベーターの扉が閉まる。
心配そうなローズ……そして、二号。

それが、私が二号達を見た最後の風景。
大丈夫……私が、ケリをつける。


エレベーターの駆動音が遠のく。
静かなエレベーターホールで、二十一号が荒い息を吐いている。

「……あなたが残ってくれて良かった」

ああ、やはり……と、小さなため息が自分の唇から零れ出る。
私は銃をゆっくりと持ち上げて、二十一号に向ける。

二十一号の目が赤く染まり始めている。
論理ウィルスによる汚染だ。


今まで汚染された仲間を何人も見てきた。
だからこそ、彼女を1人にしておけなかった。

……リリィに投与したワクチンは既に効かないらしい。敵も進化しているらしく、二十一号のパターンを学習して耐性をつけているようだ。

最早、誰も彼女を救うことはできない。


「エレベーターがサーバーに到着したら……」
「……ああ、ちゃんと殺してやるよ」
エレベーターは、階数を刻みながらどんどん降下していく。
それはまるで、二十一号の命のカウントダウンのようだった。

そうして、どれだけの時間が過ぎたのだろう。
待つには長く、惜しむには短い時間。


遠くで大きな爆発音。
エレベーターホール全体がゆっくりと揺れる。

恐らく、リリィ達の最後の足掻きだろう。
自らの融合炉を暴走させたのだ。


仲間の死を伝える音。
その振動に身を委ねながら、二十一号が自身のゴーグルを外す。

「……あなたに会えて良かった」

ホール内の照明を受けた瞳は汚染が進行し、赤く輝いていた。
せめて、彼女の自我があるうちに。

「私もすぐに行く」

その言葉に、二十一号はふっと微笑んで……


エレベーターが最下層に到着すると共に、彼女の頭部を撃ち抜いた。

無造作に転がる二十一号だった物体を見つめながら、震える手で銃を見つめる。

自分のこめかみに銃を向ける。
これで、全部終わる。
この悪夢のような戦いも、無意味な私の存在自体も、終わる。


なのに……引き金にかけた指が動かない。

体の制御に異常は無いのに、呼気が自然と早まり、背中を冷たい汗が流れる。
見開いたままの瞳は渇き、バイタルがおかしな数値を刻む。
足が泥濘んだ地面に埋まっているかのように動かない。

声が聞こえる。


ゆるさない。ゆるさない。ゆるさない。ゆるさない。ゆるさない。ゆるさない。

仲間が犠牲になって、必死になって戦っているのに。
あんなに辛くて、こんなに悲しい想いをしているのに。

一人で楽になろうだなんて、ゆるさない!!!

それは、戦場で生きる者の使命を果たせという呪い。
もう一人の自分の叫びだった。


私は絶叫し、エレベーターホールを飛び出す。
やってやる。

そこまで言うのならやってやる。
機械生命体を殺して、私が殺されて、全部終わりにすれば満足だろうッ!!!
ありったけの武器と弾薬を抱え、戦場に飛び出す。
私はここだ。
私はここだ。
私を、殺せ!
そう叫んだ瞬間、凄まじい爆発が辺り一帯を吹き飛ばした。


……
…………
……焦げ臭い風が頬を撫でる。
地下のサーバールームで起きた爆発により、カアラ山はその山の形を変える程に破壊されていた。敵の機械生命体は、何故か無傷の個体まで動かなくなっている。

焦土と化した地上を眺める。防衛していた、リリィや十六号……サーバーに向かった二号とローズも、恐らく生きてはいまい。
死の恐怖にとり憑かれた私だけが、ただ一人取り残された。


「はは……ははははは!」

止めようもない笑いが、腹の底から湧き起こる。
「なにが……すぐに行く、だ!」
己が発した言葉があまりにも虚しく滑稽で、馬鹿らしくて堪らない。
声帯機能が壊れるかと思うほどに、私はそこで笑い続けた。


……そうして一昼夜も過ぎただろうか。
笑うことにもようやく飽きた私は、ゆっくりと立ち上がった。

私は一人残った臆病者。
だからこそ、共に戦った彼女達の意思を継ぎ、戦い続けなければならない。
自分で死ぬことが出来ないならば、誰かに殺されるその日まで。
泥をすすってでも生き延び、機械生命体を一体でも多く滅ぼそう。
きっとそれこそが、私に科せられた罰なのだ。


壊れかけた身体を引きずりながら、私は西に向かって歩き始めた。